11月12日(土)
【J2第41節】(うまスタ)
熊本 1-0(前半1-0)岐阜
<得点者>
[熊]清武功暉(35分)
<退場>
[岐]田代雅也(90分+4)
<警告>
[熊]村上巧(74分)
[岐]田代雅也2(53分、90分+4)
観衆:6,306人
主審:上村篤史


勝ちました。勝って自力でのリーグ残留を決めました。ようやくホッとしましたね。

「ダッカイ?ですか?」。試合前のコンコースで、久しぶりにお会いした元AC熊本社長の前田さんの「ようやくここまで来た」という感慨の後に発せられた言葉に、すぐにはその意味する漢字が当てられませんでした。

「そうです。リーグ脱会。このうまスタが支援物資の補給基地になっていて、それがいつまで続くかわからなかった。開放されても損壊の状況もわからず、スタジアムとして使えるかどうかわからない。いくらなんでもホームゲームを全て県外で行うということは不可能。だからあのとき、一部では自主的なリーグ脱会という案も出ました」という。「改めて正規な審査を経てリーグに復帰できないかという案」・・・。

今となっては非現実的な案とも思えますが、そこまでの切羽詰った考えがでてくるほどだったのだと、当時の混乱状況を想像させます。それほど先が見えなかったし、スタジアムだけでなく選手たちも多くが被災していた。手倉森氏がいつか言ったとおり「熊本だけが・・・」という状況でした。改めて、”熊本に居る”ことを選択し、柏や神戸をホームとして借りることでリーグ戦に復帰し、変則とも言えるスタンド開放でうまスタを使いながら、そしてスキップした試合を過密日程でこなしてきた、このシーズンがどれだけきつく厳しいものだったかに思いを馳せ、同じように「ようやくここまで来た」のだと感慨に耽りました。

だからこそ、勝って自力で残留を決めたい。こんなシーズンだったからこそ、みんなで笑ってホーム最終戦を終えたい。

奇しくも対戦相手はリーグ入会同期の岐阜。2連勝で降格圏内順位は脱したものの、まだ勝ち点40。ここで勝ち点を上積みして残留を確実なものにしたいという思いは同じでした。

互いにシステムは4-4-2。守備ではしっかりブロックを敷く。先に失点を許したくない。試合の序盤は”堅く”入りました。

20161112岐阜

危なかったのは16分。この日右SBで怪我から復帰した園田の頭でのバックパスをレオミネイロが奪うと、植田を交わしてエリア侵入。前に出たGK佐藤までも交わすとシュート。しかし、植田が戻ってスライディング。身体に当てて間一髪で防ぎます。

その後も岐阜に攻勢を許しますが、早く先制点が欲しい焦りからか、拙攻で助かっている。

すると35分。GKからのキックを清武と競った磐瀬が痛んで倒れましたがインプレー。左から作ってテヨンが右サイドを上がってきた園田に通すと、園田がグラウンダーで折り返す。ニアに走り込んだ清武が、左足でゴール左隅に流し込む。アタッキングサードでの、流れるようなパス回しから、熊本らしいゴールが生まれます。

ただ、レオミネイロを擁する岐阜に1点差では心もとない。前線には熊本にとっては特に嫌な名前、あの難波もいる。51分、その難波が右サイド阿部からのクロスを頭で合わせるが、これは枠の上に外れてくれます。

熊本も左からのFK。平繁のヘディングはわずかに枠の上。続いてはカウンターからのロングボールに清武が追いつきシュートを放ちますが、GKに遮られます。追加点がなかなか取れない。

風間や高地を入れることで勢いを増す岐阜の攻撃。守勢一方になった熊本は、平繁に代えて巻を投入。前線からの守備で、陣形を押し上げようと試みます。更には上原を入れてシステムを4-1-4-1に。

それでもバイタルを使われる熊本。清武も下がってディフェンス。マイボールになると駆け上がる。相当疲れているはず。とにかく凌いでいる。

告げられたアディッショナルタイムは4分。岐阜が最後に切ったカードは長身の瀧谷。その瀧谷、田代が落としたボールにゴール前競りながら長い足を伸ばすとGK佐藤の頭を越えた。わずかにバーを超えてゴールネットに転がる。スタンド中でホッとしたため息がもれる。

手拍子で選手たちを鼓舞するスタジアム。最後に入った嶋田が右サイドからカットインして放ったシュートはGKがキープ。しかし大いに沸く。いつもより長く長く感じる4分。早く終われ、早く。

主審の両手がまっすぐ上に向かれ、長い笛が吹かれた瞬間、スタジアム中がはじけるように立ち上がり、歓喜の声を上げ、マフラーを回しました。

選手たちは笑顔でガッツポーズ。勝利を喜び合う。互いを称えあう。ここまで長かった。とうとうリーグ戦の残り2試合のこの日までかかってしまったが、”残留”という大仕事を自分たちの手で成し遂げてくれた。

開幕から好調にスタートした。一時は単独首位に立ったときも。ただ、あの日起こった震災が状況を一変させた。リーグ戦に復帰しても連敗が続いた。それも大量失点での敗戦。勝ちたい、勝って熊本のみんなに笑顔を届けたい。そんな気持ちと、コンディション不良から動かない体との葛藤のなかで、巻が涙を流しながらコメントした試合もある。

スキップした試合の消化分ではわずか勝ち点1しかとれなかった。甘くはなかった。それほど過密日程は体力を奪ったし、練習試合もままならない状況は選手の底上げを妨げ、チーム力をも奪った。

それでも選手たちは戦い続けた。

ホーム最終戦恒例のセレモニーで、池谷社長は、「選手たちは泣き言も言わず、歯をくいしばって走りぬいてくれた。(当初の目標には程遠いが)残留はすごく価値があることだと思う」と述べて、そして後ろを向いてスタッフ、選手たちに「ありがとう」と頭を下げました。”歯をくいしばって”。それは常套句のように使われがちですが、われわれの選手たちにとっては、実に本当の状況ではなかったかと・・・。

清川監督は試合後、「震災でシーズン序盤はサッカーができない状況に置かれた中で、再開してからは結果も含めて辛い時期を選手全員が乗り越えてくれた」(熊本蹴球通信)と選手たちを称えました。

巻は「皆で1つのボールを追いかけて、皆でゴールを守って、本当にチーム一丸になった勝利だったと思います」(同)と言う。

この日、バックスタンドにはこれまで寄せられた他のチームからの寄せ書きや横断幕がたくさん掲げられていました。サッカーファミリーは、それだけでなく、多くの支援物資や義捐金を贈ってくれた。けれど、勝負事では決して手を抜かず、真っ向勝負で向かってきてくれました。日程やコンディション不足など言い訳にはできなかった。

ひとり熊本だけが取り残された状況で、苛烈とも言えるスケジュール、辛い連敗の時期も乗り越えて、ようやくようやくこの”残留”という結果をもたらした選手たちが、誇らしい。

そして、この残留を勝ち取った今だから、ひとこと言わせてもらえるならば、この熊本の残留を見届けて、内心一番ホッとしているのはJリーグ自身ではないでしょうか。冒頭のような脱会でもなく、また熊本だけのこんな罰ゲームのような過酷な措置でもない、リーグ方針にもっと違った選択肢はなかったのか。決して選手層の厚くない地方の小クラブがどんな状態になるのか、サッカーを知るものであればおよそ想像できたはず。この災害列島で全国リーグを仕組んでいくJリーグであれば、今回のケースは大いに反省、研究の対象になるのではないでしょうか。ことはJリーグの理念にも関わるものと考えます。

暮れかかるうまスタ。最後に手を振りながらスタジアムを一周する選手たちに拍手を送りながら、聞こえてくるのは、試合前選手たちを鼓舞する歌の原曲でもある、水前寺清子さんが歌う「HIKARI」。

「ただがむしゃらに。負けても諦めずに」。最初聴いたときは”負けても”なんてなんて縁起の悪い”応援歌”なんだと思いました(笑)が、震災を経験していまだ復興の途中にあるからでしょうか、リーグ戦を振り返り、この”残留”という結果を受けてまさに心に沁みる。そんな歌詞だと思いました。


【J2第20節】(長良川)
岐阜 2-3(前半0-1)熊本
<得点者>
[岐]田代雅也(68分)、瀧谷亮(90分+3)
[熊]高柳一誠(43分)、藏川洋平(88分)、キム・テヨン(90分+5)
<警告>
[岐]岡根直哉(58分)
[熊]高柳一誠(23分)
観衆:4,507人


劇的な幕切れでしたね。まさにラストワンプレー。
「直前に審判が『残り15秒』と言っていたので、『最後だから』と思い切りよく蹴った」(熊日)とキム・テヨンは言う。「ゴール直前でうまく落ちてくれた」(同)ボールを、GK高木は一歩も動けず見送るしかない。そして同時に終了の笛。まるでバスケットで言うところの”ブザー・ビーター”のような結末でした。

接戦でした。熊本が先制すると同点にされ、勝ち越し点を挙げると追いつかれ…。

震災後、延期された試合が組み込まれ、これから5連戦の過密日程になる初戦でした。そのスケジュールを考慮したのか、熊本は前線に平繁ではなくアンデルソンを入れ、右SBを藏川にしてきた。

対する岐阜は勝ち点24で10位に位置する。得点力もあるが失点も多い。ラモス監督が率いるせいもあるのか、乗せると怖いが、非常に波があるような。南米っぽさを感じるチーム。警戒すべきは前節2得点で横浜を下した、前線のレオミネイロの個人技。

20160626岐阜

試合は開始から激しい主導権争い。ボールサイドに人数を掛ける岐阜に対して、サイドを広く使っていきたい熊本。画面越しにも両チームのタマ際のぶつかり合いの音が聞こえてきます。

11分。清武が岡本に預けると猛然とダッシュ。岡本からの後ろからのパスをPA内でスライディングで浮かせたシュート。飛び出してきたキーパーを越えて…、ボールはわずかに枠の上。これが熊本のファーストシュート。

対する岐阜のファーストシュートは、藏川が右サイド奥で磐瀬に入れ替わられマイナスパス。それをレオミネイロが一蹴するもサイドネット。

23分。中央での岐阜のFK。風間がGKとDFの間に送る。GK佐藤が迷ったのか、抜けてきたボールをなんとか足でクリア。続く29分には熊本のテンポのいいパス回しをカットした岐阜のカウンター。レオミネイロに渡るとジグザグドリブル。PA前からのシュートは、ポストに当たり助けられる。

熊本のアタッキングサードでのパス回しも岐阜の厚い壁に遮られ、逆に岐阜に押し込まれると、選手間が間延びする。スカパー解説者の森山氏が、そんな熊本の劣勢をグチグチと指摘し始めた時間帯でした。

43分。藏川のアーリークロスをアンデルソンがポストで落とす。拾った高柳と難しい体勢からのワンツー。DFの裏に抜け出した高柳の足元に渡ると、落ち着いてGKの逆を突いてゴール左隅に流し込む。高柳の移籍後初ゴールで、熊本がいい時間帯に先制します。

1点ビハインドの岐阜は後半から難波に代えて瀧谷を投入。苦手の難波を下げてくれて、少々ホッとする。

後半の入りは少々岐阜に持っていかれましたが、15分過ぎたころには持ち直して熊本の時間帯。しかし、CKの場面で園田がフリーにも係わらず連続でふかし、好機を逸すると、勝利の女神がそっぽを向いた。68分、リスタートから岐阜の水野がアーリークロス。ファーで阿部が粘って、同サイドにいた田代が角度のないところから撃つ。GK佐藤が動けずゴールに転がる。同点。

勢いづいた岐阜の時間帯。リオミネイロが持つと止められない。ここからベンチワークが忙しくなる。熊本は嶋田に代えて中山を投入。岐阜が風間に代えて田中パウロ淳一を入れると、熊本は岡本を下げて薗田を投入。今日のこの交代は、守り切るためではなく、藏川、片山を一列上げて追加点を狙うため。

その交代カードが奏功します。88分、右サイド中山からのサイドチェンジぎみのクロス。ゴール左45度でワントラップした藏川がシュート。ゴールに突き刺します。しかし、この場面、なぜ藏川がこのポジションにいたのか?そして、熊本はこの終了間際のいい時間帯に勝ち越し。これで完全に勝ったと思ったのです。多分、誰もが。

示されたアディッショナルタイムは4分。妥当と思える時間でした。しかし岐阜のFKが続く。キッカーは曲者の高地。最初のキックはファーでGK佐藤が抑える。しかし続く2本目のキックは佐藤が飛び出してパンチング。それが丁度ファーサイドの選手に納まると折り返す。中央でマイナスに切り返されると、PA外から走り込んだ瀧谷にシュートされてゴールネットが揺れる。土壇場での再同点弾。がっくりとピッチに倒れこむ熊本の選手たち。

実質、画面に表示された時間は4分を過ぎていました。もう駄目だなと思ってしまいました。岐阜もよく粘った。すごいな。引き分けかと。

しかし、それからが冒頭のシーン。自陣ハーフウェイライン付近からのリスタート。岐阜のDF岡根が撥ね返したところをテヨンが拾って思い切って撃つ。それは無回転だったのでしょうか。右ゴール上隅に突き刺さる。GK高木は一歩も動けず。ボールの軌道を目で見送った後の唖然とした表情。膝から崩れ落ちる。

決勝点を決めたテヨンは、大の字に寝そべったあと、仲間に手荒い祝福を受けると、今度はピッチに顔を埋めて突っ伏した。喜びを最大限表現しました。

思えば。アディッショナルタイムで追いつかれたことは過去幾度かあったように思いますが、終了間際に勝ち越し点を上げて逃げ切ったことは過去にあったでしょうか。覚えがありません。こんな劇的な勝利は、できれば熊本で多くのファンの前で見たかった気もします。

それにしても先発にしたアンデルソンが高柳のシュートのアシストになり、同じく藏川が、交代カードの中山のアシストからゴールを決めるなど、清川采配がみごと的中。“後ろ”の選手が追い越して点を取る。今の熊本。誰が出ても、同じチームコンセプトが描けるということなのか。これはこれから続く連戦のなかで、大きな強みに感じます。

熊本はこの勝利で、他チームより5試合未消化ながら、暫定順位を11位にしました。

震災後4連敗。その後は3勝1分。そして今節「5連戦の最初を勝てたことは大事」。この日のヒーロー、キム・テヨンはそう言います。各年代の韓国代表を経験。Jの5チーム、そして中国、韓国を渡り歩き、熊本には練習生からの契約。途中加入の直後に地震に見舞われたわけで…。苦労人。それにしても、あの状況下で審判の日本語をよく聴き取り、ラストワンプレーを選択したんだなあと。こんなプロフェッショナルがチームにいることを改めて心強く思います。難敵待ち構える連戦に向かうエネルギーが一段と高まってきましたね。

【J2第28節】(長良川)
岐阜 0-1(前半0-0)熊本
<得点者>
[熊]清武功暉(58分)
<警告>
[岐]岡根直哉(57分)
[熊]清武功暉(25分)
観衆:7,272人
主審:飯田淳平
副審:宮島一代、堀越雅弘


暫定ながら最下位に沈む岐阜は、夏のウィンドーである意味なりふり構わぬ選手補強を敢行。この試合でも、CBに渡邉、2列目に風間と砂川を先発させてきました。難波に高地の名前を聞いただけでもかなり嫌な印象なのに、さらに砂川まで。どうしてもあの札幌ドームでの直接FKが思い出されて…。ちょっと身震いしてしまいそうな試合前でした。

前回対戦時は互いが20位、21位の降格圏内で、「勝ち点6を賭けた」ゲームに、逆転負けを喫し、二度目の最下位に打ちひしがれた相手。「どんな相手でもチャンスを作ってくる危険なチーム」(7日付・熊日)と、小野監督も警戒心100%。特に前回の3連勝のチャンス、ヴェルディ戦では、「少し緩みが出たのか、落として」しまった。「かなり今週のトレーニングというのはピリピリとした状態のなかで、敢えてやるように」したのだという(ロアッソ熊本公式サイト)。

20150808岐阜

岐阜は開始早々、右サイドのスローインをゴールラインぎりぎりにいた砂川がダイレクトではたくと、中央に難波が入ってきてスライディングシュート。これはDFが体を寄せてゴールの枠外。しかしヒヤリとさせられます。

対する熊本は、岐阜の攻撃をインターセプトした嶋田が左サイド(岐阜の右サイド)のスペースに齊藤を走らせるパス。齊藤がCBに競り勝ちクロスを入れますが、これはGK。岐阜のSBが上がって、「空け渡してくれる」スペースを使うという指揮官の意図が見えます。

11分には、相変わらずの素早いリスタートからダイレクトパスで繋いでPA内まで侵入すると、左の齊藤が収めてシュート。これは惜しくもGK正面。

CKこそ、砂川や高地といったキッカーから繰りだされるボールに、嫌な感じがしましたが、流れの中で難波が裏をとるようなシーンはなく。今日も早めに嶋田と清武がポジションをスィッチし、組織的に守る熊本が、”勝ちたい”気持ち一心の岐阜の圧力を凌ぎながら、チャンスもきちんと作ったといった印象で前半を折り返しました。

前回対戦のときも、試合が動いたのは後半でしたが、同じように開始早々から岐阜は猛攻を仕掛けます。風間がスピードに乗ったドリブルでアタッキングサードを脅かす。スローインからボックス内で振り向きざまシュートはダニエルがキープ。益山に渡してミドルは枠の上。ハンジンの股を抜いたパンチのあるシュートはダニエルがクリアします。

それを凌いだ熊本。反撃のなかでロングフィードにDF・岡根と競った清武が倒されてFKを得ると、Pアークちょっと左からのそのFKを清武が自分で蹴る。「毎日練習している」(スカパー)というFK。前半にも同じような角度を練習していた清武。ボールは、岐阜が作った壁を綺麗に越えて、GKの伸ばした手に触れるものの、ゴールネットに突き刺さりました。移籍後はもちろん、意外なことに鳥栖時代も含めてJリーグ公式戦初ゴール。熊本が値千金の先制。

その後も熊本は惜しい場面が続く。直後にはダニエルからのキックを齊藤が落とし、高柳が拾ってシュート。そのクリアを嶋田が再び拾ってのシュートが、ゴールネットを揺らしますが、惜しくもその前にファールの判定。

69分には高い位置で奪って、齊藤がドリブルで突っかける。ボックス内で3人に囲まれますが、こぼれ球を強引に打つ。しかしボールはゴール左外。すぐ後も、途中交代で入った巻が、右からのクロスにGKがかぶったところをファーから頭で打ち抜きますがこれも枠の左。74分には、右サイド奥に送られたボールに齊藤が追いついてグラウンダーのクロス。そのクリアを養父が拾ってのシュートはGKがキープ。しかし、なかなか追加点を奪えない。

逆にアタッキングサードまで侵入させても、最後のところの執拗な守備で、岐阜に苦し紛れのミドルシュートしか打たせていなかった熊本の堅い守備でしたが、試合も残り10分になってくると、足が重くなってきます。ただ、ここでもダニエルが「ラインを上げたいところで上げれなくて、押し込まれている状況になっていたので、そこを無理やり押し上げるよりは、下げた中で何ができるかというのを真っ先に発信してあげるということが一番良い仕事」(公式)という判断で、「弾くところはしっかり弾く、キャッチして、すこしでも時間を使えるように頭を使ってやれるようにというのは意識して」守り切る。

高地が、途中交代で入ってまだスタミナのある清本を斜めに走らせたところに絶妙のスルーパスを通すが、シュートは左に反れて事なきを得る。今度は左サイドから3人を抜いてPAに侵入した高地がシュート。これはダニエルの正面。

PA左の角あたりで得たFKが、この試合岐阜にとって一番の見せ場だったでしょう。キッカーはもちろん高地。ふわりと上げたクロスはしかし、密集するエリア内でいち早くダニエルの片手がパンチング。ファーにこぼれたボールを岐阜の選手が拾ってシュートはミートせず反対側にこぼれる。

告げられたアディッショナルタイムは4分。岐阜のCKが続く。渡邉も上げたパワープレイ。熊本のクリアに次ぐクリアを再三岐阜が拾って入れ直す。巻がゴール前で手を叩いて鼓舞する。クリアして、田中が走って、黒木が走って。岐阜が自陣から送ったロングボールをダニエルががっちりキープした瞬間、終了のホイッスルが吹かれました。

「幾つかのチャンスをしっかり決めるところを決めないと、勝とうとする思いの強い相手、しかも強力な攻撃をもった相手には、あのような反撃を許してしまうという、そこは次に向けた反省だ」。試合後、指揮官はそう口にしました。確かに前回対戦を思い返せば、先制に成功したのも束の間、2点返されての逆転負け。

しかし、あの頃と違い、今日の1点は返される気が不思議としなかった。解説の森山氏も再三言っていたように、熊本は実にうまく守っていた。もちろんその中心には、前述したようなダニエルの存在があるものの、あの対戦時点からコツコツ”積み上げて”きた細かなルールや約束事。それを手を抜かず90分間忠実にやり通すというベースのようなもの。多分そこの違いがはっきりと勝敗を分けた試合だったように思えるのです。対する岐阜はいわば”新チーム“。互いの連携すらまだまだうまく行っていないように感じたのとは対照的でした。

熊本は初の3連勝。この勝利で勝ち点を35まで積み上げ、順位も12位まで上がりました。暫定最下位岐阜との差を12まで広げたと同時に、プレーオフ圏内6位の金沢までの差が7に縮まりました。なんとか中位グループに入れた、そしてようやく6位の背中が見えてきたといったところでしょうか。

そしてこの勝利は、熊本にとってJリーグ参入以来100勝目という節目になりました。J入りして8年目の100勝。これが早いのか遅いのか。もちろんわれわれ熊本にとっては通過点でしかありませんが。

しかし振り返れば2008年のホーム開幕戦。高橋泰の逆転2ゴールで群馬に初勝利を飾ったあの日からひとつづつ積み重ねたもの。歓喜と絶望。泣き笑い。ときには怒り、連敗のスタンドで情けなさに呆然と立ち尽くした日も。今期にしても叱咤激励の一曲のチャントをゴール裏が延々と歌い続けたゲームもありました。昨日のことのようです。昨年はチーム存続の危機に立たされたことも。

そんな現在進行形の8年の歴史。積み上げてきた勝利が、ようやく100という数字になった。色々なドラマがあったし、これからもずっとそれを見届けていきたい。かけがえのないわれわれのホームチーム。

遠い岐阜の夜空に響く、カモンロッソ!を画面越しに眺めながら、少しだけそんな感傷に浸ってしまいました。

【J2第14節】(水前寺)
熊本 1-2(前半0-0)岐阜
<得点者>
[熊]齊藤和樹(46分)
[岐]岡根直哉(48分)、難波宏明(81分)
<警告>
[熊]養父雄仁(75分)、中山雄登(79分)
[岐]ヘニキ(23分)、阿部正紀(78分)
観衆:4,164人
主審:塚田智宏
副審:佐藤貴之、鈴木規志


20150517岐阜

「今日は勝点6をかけたゲームだと話して入った」。同点弾を決めた岐阜の岡根もそう言っていたように、同勝ち点差で下位に沈む20位の熊本、21位の岐阜両者にとって、互いに勝たなければいけない、負けてはいけない試合でした。

炎天下の水前寺でのデーゲーム。前半の45分を終え、日陰を求めてスタグル広場に出ると、「まるでバレーボールの試合のよう」という女性の感想が聞こえてきました。時には砂埃も舞うような芝の禿げた「不良」のピッチ。互いにの頭上をボールが行ったり来たり飛び交う。荒れた地面でのプレーリスクを避け、陣地を押し上げようとロングボールを蹴り合う様は、ラグビーのパント合戦のようにも思えました。

そして一方で、先に失点したくないという、ある意味両者の現在置かれている状況、この試合の位置づけ、その“硬さ”を感じたスコアレスの前半。

ところが後半に入ると一気に試合が動きます。

開始から1分もたたない岐阜のFK。ゴール前で跳ね返す熊本。そのボールがまだ自陣に残っていた斎藤に収まる。斎藤は単騎、右サイドから持ち上がると、黒木がサポートしてDFをけん制する。Pエリアの前でブロックに入ったDF2人の間をすり抜けた齊藤。3人目が視野に入ると左に持ち替えて交わしシュート。うまい!ニアにぶち込みます。

2試合連続で魅せたエースのテクニック。そして思い切りのよさで先制に成功。

しかし、このあとが…。ある意味この試合のこの後の展開、結果をも決定づけたのは、喜びもつかの間といえる、2分後の同点弾ではなかったでしょうか。

岐阜に与えたFK。左足の名手・高地からファーに放たれたボールにGK原も出ることができず、岡根のヘディングが決まる。何度も見たおぼえのあるようなシーン。

まぁ、すぐに追いつかれたものの、この時点ではまだ熊本にも攻勢があり、点の臭いもしていたのですが、岐阜が宮沢を下げてロドリゴを投入、高地がボランチにまわったあたりから形勢が変わってきました。徐々に岐阜の時間帯に。

残り時間も10分となったところでした。岐阜のキーパーから左へ展開。野垣内からロドリゴに渡りシュート。ブロックしたボールが高く上がり、そしてそれをバウンドさせてしまう。ここがミスでした。エリア内にいた難波がオーバーヘッドで打つ。それを中山が両手でブロック(したような形)。全くもってバレーボールでした。

難波がPKをきっちりと枠内に収めて岐阜が逆転。ヘニキを退け高木和道の高さで守備固め。熊本は先に投入した平繁、そして岡本、常盤と攻撃的カードを切りますが、同点に追いつくこともできず終了のホイッスルを聞きました。

大分が水戸に引き分けていたので、熊本はこの時点で再び最下位に転落。「勝ち点6の価値」の言葉どおり、岐阜は18位まで順位を上げました。ちょうどリーグが3分の1終わってのこの順位は、混戦模様の勝ち点差とはいえわれわれをかなり不安にさせます。


「1失点目は僕がちょっと下がるのが遅れて、僕のところでやられたので申し訳なかった。1点取った直後だったので、ああいうところは守らなきゃいけない。その後もチャンスもあったし、あれは決めなきゃいけないボール」。

巻はそう切り出しながら、「そういう責任はちゃんと、誰がどうしたっていう部分はハッキリさせなきゃいけない」「そこからどれだけ反骨心をもってやれるか、そういうのがプロとして大事な部分で、ポジティブに、切り替えながらやるべきかなと」「どこかで必ず、このミスは取り返したいと思います」と結びました。

勝利者インタビュー。ラモス監督の異例とも思える発言がありました。

「この場を借りて言わせていただきたいのは、岐阜のサポーターだけじゃなくて、全国のサポーターの皆さんに。勝つときは12番目の選手になるんだけど、負ける時には選手と監督だけが悪いという気持ちはやめて下さい。今、私達とロアッソ熊本とかいろんなチームが苦しんでいて戦っているんです。声援を送ってあげて下さい。一緒に苦しんでいって、這い上がりましょう。岐阜のサポーターだけじゃなくて、サッカーを愛しているサポーターの皆さんにお願いします。」

ホームチームを(その苦しい状況を)応援するひとりとして、ちょっと素直に心に沁みたコメントでした。

9月23日(火) 2014 J2リーグ戦 第33節
岐阜 2 - 3 熊本 (13:04/長良川/7,328人)
得点者:13' 阿部正紀(岐阜)、21' 遠藤純輝(岐阜)、77' 澤田崇(熊本)、86' 巻誠一郎(熊本)、90'+2 園田拓也(熊本)


勝った。勝ちました。大逆転勝利です。

ただ、この驚くべき結果にしばし酔いしれるとしても、これはベストゲームうんぬんとは違う、現時点でチームの今シーズンを集約したようなゲーム。色んな要素がぎっしり詰まっていて、ひとつひとつの噛みしめる価値のある、そんな試合でした。

試合後の会見、記者にもそんな雰囲気が伝わったのか“この勝利の意味は何でしょうか?”との質問が。小野監督は「苦しくなったときにチームが一つになれるか。これはプレシーズンの時から取り組んできた。1失点しては意気消沈した苦い思い出を繰り返した。今日、強い気持ちで戦えたのは、これらの日々の成果だと思っている」と、胸を張って(多分)答えています。

20140923岐阜

さて、データ的には、平均タックル数26で1位の熊本と25で2位の岐阜。同じくファウル数17で1位の熊本と15で3位の岐阜。その数字が示すように、激しい球際のせめぎあい、ぶつかり合いでゲームが始まりました。序盤、熊本が押し込み、チャンスを作りますが決めきれず、岐阜も負けずサイドにスピードのある若手を走らせ押し返します。

「これは私のミスで、遠いラインで何が起こっているかわからず判断が遅れた。それは私のミス。」(小野監督)

前半3分、熊本の左サイドを駆け上がる岐阜・比嘉を、橋本が倒し早々とカードを貰ってしまいます。このFKは凌ぎましたが、同じく前半12分、またも熊本の左サイドで岐阜・森が仕掛けると、今度は仲間が振り切られまいと止めてファウル。そしてこのFKを高地がゴール前の阿部に合わせ先制を許します。

さらに、前半21分、前がかりで岐阜ゴール前に攻め込んだ熊本、奪われたボールは、またも岐阜・比嘉にわたり、熊本の左サイドでカウンター。中央を駆け上がった岐阜・遠藤にわたり、あっさりと追加点を決められてしまいます。

まさに「2失点食らった」(小野監督)という感じの、まったく同じパターンで破られた痛恨の場面でした。

まだ試合は序盤。しかし、この季節にしてはやや暑い26.8度。中二日のコンディションで2点のビハインド。かなり苦しい状況に追い込まれたことは間違いありませんでした。さらに、そんな熊本、前半43分にはアンデルソンが足を痛めて×印が出る。澤田の交代投入を余儀なくされます。うーん厳しい…。

前半のシュート数は岐阜9本に対し熊本はわずか1本。いかにうまくいっていなかったがわかります。前半途中までは、片山や園田は今日はベンチかな?と思うくらい、サイドを封じ込められていました。

ただ、不思議なことに今日も2点差。前節、前々節とは逆の立場ですが、2点リードした側の気持ちがよくわかるだけに、まったく戦意は衰えず、まだまだ戦える。そんなイメージは共有されていたように思います。

小野監督のハーフタイムの指示も「次の1点で大きく状況が変わる。相手を苦しめよう」と。そして「 勝てる試合だ!後半は走るぞ!」と檄を飛ばしました。中二日で苦しい状況のなか、精一杯、選手のモチベーションを掻き立て、“まず1点”という具体的な目標を授けます。

後半も、やられはしないけれど、うまく繋がらず、なかなかシュートまでいかない。思うようにいかない。時間だけが過ぎていく。しかし、そんなストレスが溜まるような時間帯も、選手はひとつひとつのプレーを大事に戦っていたような印象があります。無理して繋がず、きちんと切るプレー。ファウルを取られても、されても、レフェリーの判定に対して実にクールでした。焦らない、めげない。全員の集中した”ポーカーフェイス”が印象に残ります。そう、サッカーは90分を闘うゲームでした。

熊本の戦術はと言えば、まったくブレはなく。剥がされても、いなされてもひたすらプレッシャーに行く。奪えばゴールへの最短プレー。失点後の長い我慢の時間帯を凌いで押し返し始める。一方で岐阜の足が徐々に止まっていくのがわかります。

しかし、今日の澤田。そのキレ方は尋常ではありませんでした。アンデルソンの足は心配ですが、120%の結果論で言えば、この交代が逆転の伏線だったかもしれません。

後半7分、中央の中山からの浮き球のスルーパスに反応して裏に抜け、ゴール前右に走り込んだ斉藤にふわりと浮かせて合わせたシーン。後半11分、中央で浮いたルーズボールをおさめ。単独で相手DF3人に囲まれながら強引に前に持ち込みシュート。さらに、後半17分にはエリア付近右サイドからのスローイン、ゴールマウス右に深く切れ込んで受けたシーン。熊本の押し返しも、ついにスイッチが入った。そんなシーンが続きました。

そして後半32分、岐阜陣内で相手DFが頭でのバックパス。浮き球でコントロールしにくい。狙っていた澤田がこれを逃すはずもなく、一瞬早くスタート。スピードで上回ってかっさらうとGK川口をかわし落ち着いて流し込む。さあ、いけるぞ。反撃の狼煙でした。

直後の後半33分。またも澤田。岐阜陣内の右サイド。スローインからのボールをおさめるとドリブルで中に切れ込む。相手DFを股抜きで交わして中央でフリーの岡本にラストパス。熊本の攻撃はいよいよトップギアに入ります。

これに対して後半35分。岐阜3枚目の交代カードはDF森→FWナザリト。1点差に迫られて残り10分。この場面、追加点を奪い、突き放す。“とにかく弱気になるな”というラモス監督のメッセージでした。

まだまだ1点ビハインド。熊本の攻勢はさらに続きます。後半も残りわずかの41分。相手ゴールキックをおさめた橋本が中央を駆け上がる。降りてきた斉藤に預け、一旦、右サイドの澤田に展開。澤田はフォローにあがってきた園田へ。起点ができる。園田は中を見て、斉藤とクロスしてスペースに受けに出た岡本へ。そのとき澤田は園田の外側をまわりこんで、ゴールライン方向へフリーラン。岡本はマークするDFをかわすと迷わず右サイドのスペースに。DFを振り切って受けた澤田はゴールライン方向、ゴールマウス真横まで深く深く切れ込むドリブル。もう充分なタメ。中央で相手DFの背後からギリギリまでタイミングを計って飛び込んだ巻に、会心の折り返し。体を投げ出してキーパーより一瞬先に触った巻の勝ち。頭ではないが実に巻らしい同点弾!

思わず、テレビの前ですが、家中を走り回ってしまいます(笑)。現場はどうだったのでしょう。これはもう勝ちに行くしかない。スカパー解説の森山泰行氏も「この逆境から勝ちにつなげれば、チーム力が伸びるチャンス」とコメント。

そして、ついに後半アディショナルタイム5分が告げられると、後方、中山からの連続したフィードを前線で巻が競り勝つ。リターンを斉藤がダイビングで競り勝ち、トップ下の位置にいた岡本がおさめる。岡本の前方には相手DF3枚に対し、澤田、巻の2枚が裏をねらう重心で構える。いったんドリブルで前に運ぶ岡本。そのとき、岡本にはどんな視野が開けていたのでしょうか。

中央で構える澤田、いったん右方向へ動き出し相手DFを巻くように、逆にくるっと方向を変えて左へ。自分へのスルーパスを通すスペースを作る動きでしたが、一瞬、右側で余っていた相手DFサントスは澤田に引っ張られたのかバランスが左に傾く。岡本はその澤田の動きでできたエリア右のスペースを見逃さず慎重なグラウンダーのボールを置くように流し込む。そこにトップスピードで走りこんだのはSBの園田。一瞬の迷いもなく、エリアのわずか外側からニアサイドにダイレクトでしっかりとミートした。横っ飛びのGK川口が伸ばした手はわずかに届かずネットに突き刺さりました。ついに逆転。なんということでしょう…。

試合後の敵将・ラモス監督は「2-0は一番危険」「2-0が一番怖い」と、二度にわたって言及しました。しかし、それを嫌というほど味わっているのはこちらも同じ。横浜FC戦で悔しい思いをし、栃木戦でも肝を冷やしました。しかし、この日は、逆の立場で”それを”相手に示しました。

フ~っ。まだまだ興奮は冷めません。こんなゲームですから熊本の好プレーを挙げればきりがないくらいです。何度も何度も繰り返し録画を再生して見てしまいます。しかし。90分を戦うのがゲームなら、42試合を戦うのがリーグ戦。たとえば今日の熊本、前がかりになるのは仕方ないとしても、解説者も指摘したようにいかにも軽いボール扱いから奪われピンチを招くシーンも目立ちました。勝てば、そんなことも忘れてしまいがちですが…。

「勝点3はどんな形であれ3であることに変わりない。でも負けたら0。常に新しい試合に向けて、全力でプレーしないといけない。シーズンを通してあきらめないで最後まで戦えるように、フレッシュな気持ちで臨みたいと思います」。(巻誠一郎)

この言葉でもって、今日のお祭りはいったん記憶のなかに仕舞い込み、次の戦いに備えることにします。