8月20日(日)
【J2第29節】(BMWス)
湘南 0-0(前半0-0)熊本
<警告>
[湘]山根視来(62分)、アンドレ・バイア(78分)
[熊]上里一将(65分)
観衆:8,027人
主審:山岡良介


スコアレスドロー。でも見ごたえのあるゲームでした。

翌日の新聞で結果だけ知ったという人から、よく「負けたね」「引き分けたね」とだけ言われるのですが、内容が良かったのか悪かったのか、完敗もあれば惜敗もあるのに、説明してもあまり興味を持たれない。この試合は、相手が首位・湘南だということもあったのでしょう。熊日は「ロアッソ 首位に互角」と見出しに取ってくれました(笑)。終了間際には決勝弾の好機もあった、またしても惜しい引き分けでした。

熊本は出場停止明けの村上をCBの真ん中に戻した他は、前節と同じ布陣。対する湘南は、3バックと見せかけて、開始から4バックを敷いてきた。どうもここのところ色々なチームがこの手を使ってきますね(笑)。

20170820湘南

熊本は当初混乱もあったものの、シャドーの上里を一列下げ、八久保を安との2トップにして4バックに当てた。「3-5-2に戻したなか中盤3人の中でうまく対応できた」(公式サイト)と、池谷監督の“修正”が素早く図られます。残念ながら上里シャドーの”真価”がこの試合でも評価できませんでした。

一時は一方的な湘南の攻勢でしたが、前半途中からは熊本もボールを動かせるようになってきました。ただ、40分頃の湘南・表原の至近距離からのシュートは“万事休す”と顔を覆った。しかし、この日も当たっていたGK畑のセーブで事なきを得ました。

「相手に押し込まれていてもカウンターの準備を!」(公式サイト)というハーフタイムの指揮官の指示には、当然もっと細かいポジショニングなどの修正指示が伴っていたでしょう。DFラインでの跳ね返しのボールが中盤によく収まり、そこからボールも人も動いて、繋いで上がるシーンが増えてきました。

しかしリーグ最少失点を誇る湘南の守備も堅い。八久保に代わって入った嶋田が、右サイドをえぐった黒木のクロスにニアに飛び込みましたが、湘南DFにクリアされる。

運動量が落ちてきた湘南に畳みかけようと、熊本は田中を投入。さらには巻を入れて前線からのプレスを高める。

アディッショナルタイムは4分。左サイドからDF裏に出たパスに田中が飛び出すとGKと1対1。しかし田中のシュートは湘南GK・秋元の好セーブに合ってしまう。タイミングをずらしきれませんでした。

思えば、前節・岐阜戦と似たような展開になりました。相手の攻撃を凌いで凌いで、足が止まり始めたところを仕留めようという狙い。「プラン通りのゲーム展開になったし、欲を言えば最後のシーンで点が取れれば、自分達が描いたゲーム展開になった」(公式サイト)と指揮官も言う。

前節は大木監督に褒められた熊本の組織的守備でしたが、今節も試合後に握手を求めに来た曺(チョウ)監督が、「守備が・・・」と、日立の先輩・池谷監督に話しかけた声をDAZNが拾っていました。残念ながらそのあとの言葉が聞こえなかったのですが、間違いなく褒めていたのだろうと。

監督交代からまず着手した守備の再構築は、形になった。あとは得点力というところでしょうか。

また讃岐が勝利して、勝ち点2差に迫ってきました。

5月13日(土)
【J2第13節】(えがおS)
熊本 0-1(前半0-0)湘南
<得点者>
[湘]ジネイ(90分+1)
<警告>
[熊]林祥太(35分)、植田龍仁朗(56分)、村上巧(67分)、イム・ジンウ(90分)、安柄俊(90分+4)
[湘]奈良輪雄太(84分)
観衆:4,579人
主審:清水勇人


「最終的にはレフェリーが判断するところなので」「取り消せるものでもないと思います」(熊本蹴球通信)。試合後の記者会見で敗戦の将・清川監督がそう言っているように、日頃われわれもレフェリーの判断に異議を唱えることは詮無いことと捉えています。

しかし、それにしてもこの日の主審は、90分間を通して首をかしげたくなるジャッジが多かった印象。それが最後のあの場面の笛で決定的になりました。

Jリーグの公式戦では、必ずレフェリーアセッサーという立場の人が立ち合います。試合前に大型ビジョンでも紹介されますね。その試合のジャッジの評価、指導をする人ですが、今季からは「マッチコミッショナーの立ち会いの下」「両クラブからは社長ら代表者が席に着」き、「試合終了後に審判側と両チームの代表者が一緒になって判定を検証」することになっているようです(朝日新聞)。

「アセッサーがその場で誤審を認めるケースも想定されている」そうですが、この日の検証会議はどうだったのでしょうね。とにかくわれわれが言えることは、審判技術が向上することを願ってやまないということです。

20170513湘南

前節の群馬戦を評して「戦えていなかった」と漏らしていた清川監督でしたが、この日のイレブンにはハードワークが戻っていました。特に初めて2トップで先発となったブラジル人コンビ、グスタボとモルベッキ両方にボールが収まり、湘南を立ち上がりから押し込みます。

連続したCK。園田がニアにうまく抜け出してフリックしましたが枠の左にそれる。22分には黒木のクロスにグスタボがGKと交錯してボールがゴールインしますが、これはファール。

ヒヤリとさせられる場面も2度ほどあったものの、熊本の厳しいプレスが2位湘南の連携ミスを誘う。ハーフタイムのコンコースでは、「こりゃ湘南の選手たちは激しく叱咤されてるぞ」という熊本ファンの声も聞こえました。

そのとおり。「後半はリスクを冒して、勇気を持ってやりたい」とDAZNのインタビューに答える曺監督の声も、興奮気味に感じる。岡本選手と山根選手の位置を入れ替え(恥ずかしながらスタジアムでは全く気づきませんでしたが)、そして全体の“ギア”を上げてきました。

縦に速くなってきた湘南にポゼッションを奪われる。しかしそんな中でも、この日は嶋田がキレキレの動きでボール奪取から敵陣を襲う場面もあり、スタンドを沸かせます。

61分にはモルベッキに代えて、怪我が癒えた安を投入。熊本が先にカード切る積極性。湘南も前線の下田に代えて野田。

しかしこの後、熊本は上里が痛んで上村と交代。その上村。79分には左からえぐった安のマイナスクロスに詰めましたが、うまくミートせず。この試合最大の好機を逸します。

終了間際、植田に代えてイムを投入したときは、もう引き分け狙いのサインだと思いましたが、植田が足を攣っていたのだとは後から知ることになります。Jリーグデビューとなったイムは無難に仕事をこなしていました。

もうアディッショナルタイムに入ろうかとする90分でした。バイタルで湘南がヘッドでペナルティーエリア、DFの裏に押し込むと、そこに走り込もうとした菊地。クリアしようとしたイムの足は、ボールを捉えていたと思えるのですが、主審がすかさず笛を吹いてイエローカードを示します。「これは厳しい」と解説の小林氏も言う。主審のポジショニングも相当後ろからでした。

ジネイにPKを決められて終了の笛。熊本は2試合連続、終了間際に、連敗をストップする勝ち点1を手のひらからこぼれ落ちるように失いました。

ただ、「戦えていなかった」前節と違って、本来の熊本らしいハードワークを表現できたこの試合は、後半こそ湘南の猛攻に足が止まりかけたものの、なんとか引き分けに持ち込みたかった。結果が全てであるからこそ、自信を取り戻させたかったし、そのきっかけになりそうな試合でした。

前節、「変えるべきところは変え、守るべきとこころは守れるか」と書きました。イムにはもちろん、全ての選手たちには、下を向く必要はないと伝えたい。試合後挨拶に来た選手たちには、大きな拍手を送りました。「次につながる試合をしてくれた」(DAZN)と指揮官が言うように、これを継続していけば必ず道は開かれる。そう思える試合でした。

7月20日(日) 2014 J2リーグ戦 第22節
湘南 2 - 1 熊本 (19:04/BMWス/7,519人)
得点者:48' ウェリントン(湘南)、65' 菊池大介(湘南)、78' 仲間隼斗(熊本)


まずもって、前回のエントリーに多大な(過大な)拍手をいただいて申しわけありません(汗)。いただいたコメントに感謝を申し上げるだけのつもりが、何やら拍手を要求するような内容になってしまって…。反省しております。皆さまからの激励の“お中元”ととらえて、今後も頑張って参ります。

さて、リーグ後半、最初の試合となった湘南戦。「前期、先制しながら負けて、そこからどうやってこの試合をモノにするか考えていました」というように、小野監督は多分、ずーっとそのことばかりを考えて、考えて、考え抜いての今日のゲームだったのでしょう。そして、それは選手のプレーぶりからも十分に伝わってきました。

この日、チーム唯一の得点者・仲間隼斗が、「前期も前半はうちのほうがよくて後半ピタッと足が止まってしまった印象があるが、今日は前後半とも戦えていたし、セットプレーでもったいない部分はあったが、下を向く内容ではないと思います」と言う。それは見ているわれわれにも共通したこのゲームの印象でした。

小野監督の考え抜いた戦術。陣形は岐阜戦から試している4-3-3。DFラインは前週の天皇杯・山形戦で試みた橋本、園田のセンターバックに、大迫、片山の4枚。養父、上村、黒木を中盤に。斉藤、中山、澤田のスリートップ。

基本の4-2-3-1をさらにコンパクトにし、勇気を持ってラインを高く保ち、果敢にプレッシャーをかけて奪いに行くという姿勢を鮮明にした布陣。それにスカパー解説が「前がかり」と表現するように、陣形うんぬんよりも、そもそも“攻める”(それは同時に守ることとも同義語なのですが)戦いをしようという意思と陣形を生かすために走りきるという前提が共有されていました。

20140720湘南

湘南のGK秋元が、「相手の前線の3枚がハイプレッシャーだったので前半ちょっとばたついた場面もあった」と認めるように、今日の前半は、アウェーにもかかわらず、前回対戦よりさらにアグレッシブ。熊本のシュート数6に対して、湘南のそれをわずか1に抑え込む。「湘南は、いつもより前に運べていない」と解説者が言う。

「球際のところとプレスではめるところは狙い通りできましたし、ウェリントンは多少強いなと思いましたが、ほかのところは僕らの狙いとするところはうまくできたかなと思います」と言うのは養父雄仁。湘南にサッカーをさせていませんでした。

それでも、ここ数試合に共通するように、相手を抑え込んでいて、しかし、自らのチャンスを決めきれない前半がスコアレスのまま終わります。

問題は、前回対戦時のように、後半ガクッと運動量が落ちてしまうのかどうか。小野監督はハーフタイムに、「気持ちの入ったいい試合、後半も続けよう!」「セカンドボールをしっかり拾おう!」「全体でプレスをもっと激しく行こう!」と、前半の戦いをそのままに、さらに激しくいこうと選手を送り出します。

ピンチのあとにチャンスありと言いますが、ここのところの熊本はそれとは逆。チャンスをものに出来ず、そのあと必ず失点している。

後半開始わずか3分。FKからウェリントンに頭で合わせられて失点。さらに後半20分にはCKからの“練習通り”のパスワークで菊池に決められ0-2。と、書いてみればここ数試合を思い起こさせるような失点経過。首位・湘南の底力を感じさせ、3点目、4点目…ということにもつながっていきそうにも思われたのですが…。

ただ、熊本の運動量が落ちて崩された失点ではなかったのが、この試合のポイントでしょう。(逆に言えば、流れが悪くてもセットプレーで加点できるところが湘南の強さでもありますが…)

熊本は、後半11分 、上村から仲間。25分には黒木に代えて巻。と交代カードを切る。ある程度バランスを欠いても、さらに闘うぞ、攻めるぞという意思表示。

それに対して、湘南・曹監督が 「…今日熊本さんのああいうかたちの戦い方は我々も予想したんですが、そこの1対1の競り合いや球際の戦いなどで勝てなかった場面がとくに2-0になったあとに多く、僕の交代のメッセージも悪かったかなと思っています」と振り返る。それはFW岡田を下げてDF島村を入れた交代カードを指していることは明白で、2-0とリードした後の消極的な戦い方を反省している。

熊本は、先制された後も、2点目を取られてからも、決して気落ちした様子が見られない。それどころか、そのプレーの激しさはさらに増していき、とても首位チームに0-2で“やられている”感じではなかった。

後半33分。中山のピンポイントのフィードをPエリア内で巻が絶妙に落とす。そこに飛び込んできたのは仲間でした。一矢報います。その後も何度も巻がターゲットとしての本領を発揮しました。ようやく巻の“使い方”がフィットしてきた。

スカパーの実況、解説が何度も「熊本は闘ってますねえ」と繰り返していたのは、そのファイティングスピリットを称賛しているからだけではなく、やっぱりこのボールを挟んだ激しい攻防ということがサッカーの本質のひとつであって、間違いなく見ていて面白い、引き込まれる、ということを言いたかったのでは、などと思いながら聞いていました。

もらったフリーキックの数は湘南28、熊本25。合計53は、この日のJ2のゲームのなかでは最も(断トツに)多い。熊本のファウルが多いのは意識していましたが、熊本に煽られたのか、湘南も同じくらいに多かった。しかし、見ていて、熊本のファウルは、明らかに相手との距離の問題。そこは解説者も正当に“評価”していましたね。

相手との距離を完全に詰めて、お互いにちょっと動けば足が、手が引っかかる間合い。いや、もっと言えば体で抑え込むくらいの。そこにはかわされるリスクもあるし、自分もケガをする怖さもあるだろう…。そこが球際。そこが勝負の瀬戸際。

4失点を喫した京都戦の後、FW斉藤和樹が「ボールに寄せきれなかった。あと50センチの勝負。」と表現していたその間合いが、実は自分たちのチーム戦術の根幹だった。そのことをチーム全体が体得したような。

「積極攻守 ロアッソ惜敗」「選手に自信 立て直し手応え」。試合後、明日の熊日はどんな感じの見出しなんだろうと想像していましたが、確かに言い得てはいるが、何とも長いものでした。5連敗は5連敗であり、まだ結果が出ているわけではない。しかし、リーグ後半の初戦、湘南とのこのゲーム、勝ち点を得ることはできなかったけれど、相手が湘南だったからこそ、多分、自信と同時に“確信”に近いものを得たような気がします。


5月11日(日) 2014 J2リーグ戦 第13節
熊本 1 - 3 湘南 (16:03/うまスタ/6,517人)
得点者:16' 澤田崇(熊本)、47' 菊池大介(湘南)、67' 大槻周平(湘南)、68' ウェリントン(湘南)


20140511湘南

連戦の最後にきたのは、今期、いまだに無敗、12連勝中の湘南戦でした。リーグ戦もちょうど3分の1あたりを終えるところ。まるで1学期を終えたあたりでの行われる実力テストのような。その課題は、「我々は真っ向勝負で、その攻守の切り替えを上回りたい、球際や運動量で上回りたい」ということでした。(J’s Goal試合後の小野監督コメントから)

この試合の前半と後半。ハーフタイムを境に、見た目も、結果も、くっきりと形勢が分かれてしまったのは間違いないですね。そんなゲームのなかで選手たちは、監督はどんな気持ちで臨んでいたのか? 敗戦には違いないけれど、惨敗ではないが、完敗だったのか? どんな負けだったのか? テストでいうなら、どの問題が解けなかったのか? その“答え合わせ”は今後のシーズンを戦っていくうえで貴重な材料になりそうな気がします。

戦えた前半。熊本は湘南から先制点を奪い折り返した初めてのチームでした。湘南の連勝を止められるかも知れない。そう期待して迎えた後半でした。しかし原田と園田が、その“境目”にあったものを次のように証言する。

「前半にかなり皆でハードワークして、残り10分ぐらいはゴール前にへばりついて耐えたんですけど、90分終わった後みたいな感じで、向こうより力を使ってたなと思います」(原田拓)

「早い時間帯に追いつかれてしまったことでメンタル的にも効いたかなと思います…。相手の気迫というか、1点与えたことによって相手が息を吹き返して、それを上から被せられたような感じでした。」(園田拓也)

“90分終わった後みたい”とか“上から被せられたような”とか、実にリアルな表現。フィジカル面もメンタル面でも湘南の強い圧力が感じられます。

そして、ぽっかりと空いたというべきか、ふわっとしたというべきか、そんな時間帯に立て続けに2点を献上してしまいました。

小野監督は、そのあたりを記者から問われて、こう振り返りました。
「…セカンドボールを拾うスピードが、前半と比べて落ちたかと言ったらほんのちょっとだと思うんですけど、その1歩が若干落ちた時間帯でセカンドボールを拾われた。」
「…それが連続して何本か放り込まれ、ラインを下げられてセカンドボールにちょっと遅れる。その50cm、1mというのが、やや苦しい時間帯が出てきたと思います。」

もちろん、監督が会見ですべてを語るわけではないと思うし、ではなぜそうなったのか? というところは、まさに戦術的なものでしょう。「勝点を取れなかったのは本当に私の力不足で…」というのは、多分、具体的に悔いの残る局面が思い浮かんでいるのかもしれない。今日のゲームでは、これまでは見られなかったような、終始、厳しい表情でピッチを見つめていたのが印象的でした。

まあ、結果論でしかありませんが、その50センチ、1メートルの遅れ、行けなくなった部分がゲーム全体を大きく変えてしまいました。

勝ちきれてはいなかったものの、久々の敗戦です。

但し、「2-1にできるチャンスもあったので、そこは悔いが残ってます」と澤田が言うように、タラ・レバではなく、得点経過次第でゲームはどちらにも転んでいく。押し込まれながらも、決定機は作れていた。

「後半の最後の方でも、相手の(攻撃に)出てくる人数を見ればすごいなと感じましたし、自分たちもああいう風になっていきたいという気持ちがあります」というのは原田。
「今日の試合の後半に湘南がやっていたように、ボールを回して相手を振れるようになれば、前の選手ももう少し楽になると思います」と園田も言う。

選手自身がすでに修正点を意識しているように、多分、チーム全体としてこのゲームから貴重なデータを得ただろうし、数多くの改善点がリストアップされているに違いないと。

「…何か足りない要素をというより、ここまでやってきた方向性の中でもっとさらに磨きをかけていこうと、そういう試合じゃなかったかなと思います」

小野監督にとっては当然、“受け入れがたい敗戦”だろうが、こうやってゲームの結果、評価自体を明確に位置づけ直すことで、チームは見事に前に向いて、また進み始めたような気がします。おそらくは選手たちも、次の練習の課題をそれぞれに思い描いてスタジアムを後にしたのではないでしょうか。

10月1日(月) 2012 J2リーグ戦 第36節
湘南 1 - 2 熊本 (19:04/BMWス/3,986人)
得点者:43' 齊藤和樹(熊本)、75' 岩上祐三(湘南)、90'+4 北嶋秀朗(熊本)


「言葉がうまく見つからないが、これもサッカーだ」。敗戦の将・曹貴裁監督は、試合後そう言いましたが、勝者側のわれわれもまた同じ台詞が浮かびました。始終押し込んでいたのは湘南。熊本のシュート数はわずかに3本。それでも最後の最後に勝利の女神が微笑んだのは熊本側でした。

湘南にしてみれば、アウェーで2連敗し、ここまで1敗しか喫していない“絶対の”ホームに帰っての試合でした。しかし台風がその燃える状況に水を差したと言うべきか。

大型の台風17号は、湘南ホームBMWスタジアムの試合を丸一日順延するという決断をさせました。それは、昇格戦線真っただ中で、未消化試合を残したくない湘南にとっても、また、遠いアウェーの地に出直したくない熊本にとっても、最良の判断だったのでしょう。ただ、スタジアムで観戦を予定していたファンにとっては辛かった。この勝利は、そんな緊急な変更のなかでも、仕事をやり繰りしたり、宿泊を延長したりしてゴール裏に参集した赤いサポーターたちへの今シーズン一番のご褒美でした。それまで関東では勝利どころか、1ゴールすら見せられていなかっただけに、このドラマチックな幕切れ。テレビの前のわれわれでも“手の舞い足の踏む所を知らず“状態。現地ではどれほどのものだったのか…。感動が際立ちました。

湘南20120930

「うちは前に出て行く力があるので、全員が守備の意識を持てばその攻撃力が活きてくる。引くのではなく、守備の意識を高めて連動することが大事」。
戦前、湘南の基本戦術をそう語っていた曹監督。確かにいいところで奪って、一瞬の切り替えと、スピードとパワーで90分間押しまくる。そんなサッカー。よく練習しているんだなあと感じさせるような序盤でした。

ただ、ほとんどシュートのチャンスさえなかった熊本でしたが、逆に湘南にも決定的なチャンスは作らせない。

これには、それまで序盤から飛ばしてゲームの流れを作っていた高橋を負傷で欠くという熊本側の事情。そして前述したように、昇格争いのなかで岡山、岐阜に連敗してホームに帰ってきたという湘南側の事情が、ゲームプランやモチベーションと相まって、微妙に交錯していたようにも思えます。

湘南のスタイル、怖さは、監督の言葉にもあるように「連動」。確かに後半の失点前後の後から後から追い越してくる攻めには、なかなか対応が難しいものがありました。

ところが前半、象徴的に映ったのは高山。持てば、そのスピードを生かして自分で持ち上がり、フィニッシュまで行ってしまう。それはそれで迫力があるのですが、言ってみればとても単調で、守る側は対応しやすかったのではないか。キリノも同じ。自分が受ける、自分が突破する存在感はさすがで、アクセントになってはいましたが、逆に連動の足かせになっていたようにも見えた。「個」が自然と滲みでて、「連動」を邪魔しているような展開。これも2連敗のメンタルの見えない影響だったのでしょうか。

熊本の2得点は、いずれも湘南イレブンの膝をガックリと折るような、絶妙の時間帯でした。

前半も終了間際、廣井がヘッドで大きく跳ね返したハイボールを、前線でDFと競った齊藤が強引に自分のものにして、次にカバーに入ったDFにも競り勝ってゴールネットを揺らす。CFらしい仕事。こんなにも強く、うまい選手だったか。前節のエントリーで“替えたくない、替えられない選手”になってきたと表現しましたが、「課題としているルーズボールから、そして50-50のボールからマイボールにする形ができたと思うので、今後ずっと忘れないでやってほしい」という高木監督の評価と、「泥臭い」という褒め言葉を貰ったみごとな先制ゴールでした。

対する湘南の決断も早かった。ハーフタイムには2枚替えで島村と坂本が入ってくる。18分には消えていた菊池に代えて宮崎。そうした組織的な修正、圧倒的なパワーで押し込み始めると、熊本は自陣にくぎ付けにされてしまう。CKの流れからPKを与え同点。その後も、湘南の猛攻を凌ぐのに精いっぱいの状態でした。

客観的情勢から言っても、交代で退くキャプテン藤本の手のしぐさからみても、これは引き分け狙いかと思わせました。「アウェイで湘南相手にドローも悪くはないので、選手にはそれを頭に入れてプレーするように声を掛けた」。藤本も自身のブログでそう明かしている。

さて、ベンチの思いはどうだったのでしょうか…。

「ボールを持てる選手なので、できるだけはたかずに自分でボールを持って行ってくれと。ボールを保持したなかで時間をつくることをやってほしい」と言って送り出した五領。市村には「とにかく前が空いたら仕掛ける、細かいパスよりもフィニッシュで終わったり前にどんどん出ていこう」と伝えた。その二人と、“替えられない”選手・齊藤を下げてまでも残した北嶋が、最後の最後に歓喜をもたらします。

アディッショナルタイム4分も消化しそうな時、相手GKからDFに向けて転がされたボール。これを見逃さなかった五領。果敢にチェイスして奪うと、市村に素早く渡す。市村は指揮官の指示どおりに仕掛けDF1枚をまた抜きで置き去りにすると、思い切りよくミドルを放つ。ボールはDFに当たり角度を変えるもののバーに嫌われる。その跳ね返りに準備していたのは北嶋。そのヘディングシュートが無人のゴールに突き刺さる。呆然と立ち尽くす湘南の選手たち。

あの場面、残っている五領が視野にありながら目の前のDFにボールを渡した相手GKのミスか、それとも、やや緩慢な判断で五領に奪われた相手DFのミスか。イメージは違うのかも知れませんが、これも指揮官が言った「どこかしら薄いところを突いていける可能性」と同じことなのかも知れない。

市村のシュートがバーに嫌われて逆サイドにこぼれた瞬間は、今までの熊本だと、ここには誰もいないのが普通の景色でしたが、そこにはあの男が待ち構えていました。オフサイドポジションからよく戻っていたし、こぼれる位置によく留まっていたし。

「こぼれてこいと願っていました」と言う北嶋。それも含めてゴールへの嗅覚と表現していいのかも知れません。

しかしこの男は、それ以上に、「相手のリズムのときにボールを大事に扱う空気が足りない。それでは苦しい時間が苦しいままになってしまうので、“相手のプレスの矢印をそぐようなパスやポジション取り”などができるようになっていかないといけない」と、イメージしやすい言葉使いでチーム課題まで整理してくれています。齊藤の開眼も、北嶋が加入して以降のような気がする。怪我だけはしてくれるな。この救世主に対して今、切にそう願います。

初めて敵地で踊られる「カモン・ロッソ」の勝利のダンスを、勝利監督インタビューの画面越しに微笑ましく眺めながら、この白星は偶然や幸運でもなんでもないと思いました。好調の要因はと記者に問われて、「諦めずに最後まで頑張ってくれたことが逆転に繋がったと思う」と答えた高木監督。それは心細い敵地で、負けても負けても次の試合に向かった、諦めず声を枯らし続けた(関東を中心にした)アウェーサポーターに対する言葉のようにも。凌いで凌いで、最後まで諦めていなかったのは、決して選手たちだけではなかっただろうと思いました。