12月3日(土) 2011 J2リーグ戦 第38節
鳥栖 2 - 2 熊本 (12:33/ベアスタ/22,532人)
得点者:19' 大迫希(熊本)、56' 早坂良太(鳥栖)、70' 矢野大輔(熊本)、76' 木谷公亮(鳥栖)

Jリーグ最終節。そしてJFLも最終盤、地域決勝大会も。今シーズンも日本中のピッチの上で、それぞれのファンの思い出に残るゲームが繰り広げられました。しかし、今日のこの鳥栖スタジアム。2万人を超えるサッカーを愛する人たちが集い、つくりあげた、これほど感動的な空間は他になかったのではないかと思います。

1999年のJ2創設時所属10チームから最後のJ1昇格。幾度ものクラブ存亡の危機を繋ぎとめ、乗り越えてのこの日。それはもう小説よりもはるかに奇なる激動のドラマ。

すべては結果論かもしれませんが。絶望的な現実にも、挫けず、諦めず、絶対に諦めず、耐えて、耐えて、夢をつないだ、すべての鳥栖のファン、関係者の方々に、敬意と祝福と共感と。そして最後までチームを切り捨てなかったJリーグへの感謝も忘れずに。

大好きなサッカーが、勝ち負けだけでなく、歴史や、地域や、人生や、そんなものもひっくるめた深い感動をもたらしてくれることを、また今日も勉強させてもらいました。

さて試合はというと…。
「今日はサッカーにならなかったというか、お互いに気合いが入っていて、ガチャガチャやっている感じだった」(武富)、「やっている僕たちも楽しくて、見ている人も楽しんでもらえたと思うし、気持ちのこもった試合ができたと思う」(大迫)と振り返るように、お互いが気合の赴くままに激しくぶつかり合ったメモリアルゲーム。

高木監督も「とにかく勝つため」「この雰囲気の中で戦うには少し変えて、危機感を選手たちに持たせるというのが狙い」「とにかく勝つ事が全ての3-4-3だった」と語るように、絶対に勝ちたいという執念をこめた布陣で臨んだ。

鳥 栖
 9豊田 
 22池田 
10金25早坂
6岡本14藤田
3磯崎15丹羽
2木谷20呂
 1赤星 
後半15分 丹羽 竜平 → 田中 輝和
後半27分 早坂 良太 → 國吉 貴博
後半36分 池田 圭 → 岡田 翔平


熊 本
 9長沢 
13大迫14武富
7片山15市村
8原田5エジミウソン
16矢野24筑城
 28菅沼 
 18南 
後半24分 武富 孝介 → 齊藤 和樹
後半34分 大迫 希 → ファビオ
後半41分 エジミウソン → 吉井 孝輔


「J1を決めた鳥栖と対戦しての、プレーの質の差などについては?」との問いに対しては「その質問に対しては、僕は答える事はありません。我々は全力を尽くして頑張って、その結果がドローだったので、特に言う事はありません」とかわしたが、見ているわれわれがはっきりと感じる差。昇格する大先輩・鳥栖が教えてくれたのは、すべてにわたっての、“少しづつの”差。結果としての大きな差。とても引き分けたなどと胸を張れるような内容では決してなかった。今日の舞台設定を織り込んで、相当なメンタルで準備して臨んで、最初から飛ばしに飛ばして。そして先制、追加点を奪っても、“持続”できないという課題はいかんともしがたく、追いつかれるのは時間の問題とも言えました。まぎれもなく今のチームのキーマンといえる大迫や武富が疲れを見せたときに、それに代えて活性化できるタレントがいない。逃げ切ることはなんとか出来ても、追いつきひっくり返すような展開はまだまだ。今シーズン、そんな試合が少なかったことが、そんなわがチームの今を物語っているように思います。

試合が終わって、昇格を喜ぶスタジアムの鳥栖サポーターが映し出されても、前節書いたような「自分たちのことのようにもらい泣きしてしまう」という気持ちには何故かなれませんでした。実質的には前節で昇格を決めていたということ。最後の試合を勝利で飾れなかったこと。そんな鳥栖側にある、少しばかりのモヤモヤ感が伝染したのかも知れない。ところが意外にもそんな気分を一転させたのは熊本のゴール裏に掲げられたシンプルな3枚の白い横断幕に書かれた言葉でした。

サガン鳥栖を愛する全ての人へ
堅忍不抜の努力に敬意を表します
追いつき追い越すまでJ1にいてね❤

不意打ちでした。こみあげてくるものを、自分たちのサポーターから貰うとは思っていませんでした。鳥栖のゴール裏もスタンディングオベーションでこのメッセージを受け止め、多くの人が涙を流していました。

相手をリスペクトする気持ちは当然ですが、彼らの経てきた苦難の歳月への“思いやり”が全て込められた言葉。彼我の“差”を受け止めて、それでもともに戦えたことを感謝するような…。

この夜、Twitter上ではこの横断幕を掲げた赤いゴール裏の写真が、感動の“つぶやき”とともに何度も何度もRTされ、とうとう「ロアッソサポ」というワードが、ホットワードに上がりました。

Jリーグの根っこのところにある本当の素晴らしさ。それをこうやって示してくれたうちのサポーターが誇らしくもあり。今年はあの東日本大震災に見舞われた年でもあっただけに。温かい余韻にしみじみと浸りながら、2011シーズン最終戦をやっと終えることができました。

7月2日(土) 2011 J2リーグ戦 第19節
熊本 0 - 0 鳥栖 (19:04/熊本/6,795人)

同じ引き分けと言っても、痛恨の引き分けと、いい内容のドローとふたつあると思うのですが、今日の試合は大いに拍手を送っていいものだったと思いました。確かに90分間ゴールレスのゲームに、ストレスを感じたファンも多かったかも知れません。しかし、高木監督が試合後、「本来のサッカーの面白い部分というのが見えたんじゃないか」と言う意味も伝わったし、敵将・尹晶煥監督が「どちらもディフェンシブに戦っていた」と言うのも、けして消極的な戦い方をしたという意味ではなく、リーグ1位、2位という被シュート数の少なさを争うチーム同士が、互いの攻撃の芽を潰すことに全力を注入した結果だったと思います。

「3連戦をチーム全体の総力で戦いたい」(スカパー)と述べていた高木監督は、エジミウソンの疲労を考慮してか、その位置に原田、左SBには筑城を配してきました。そして出場停止で長沢を欠く試合であること。これがこの試合のひとつのポイントでもありましたが、その代わりとしてトップの位置に、前節初ゴールを決めたことで気をよくしているだろうファビオ。その相方にはルーキーの斎藤を初先発させました。しかし、幾分の攻撃力の低下は否めなかったのではないか。いや、前線の守備力という意味でも大きな損失だったかも知れません。それだけ彼の存在が、今シーズン、層が厚くなってきた今の熊本の中でも、戦術的に替えのきかないプレーヤーのひとりになっているんだと感じました。

熊 本
27ファビオ17斎藤
 14武富 
7片山23根占
 8原田 
24筑城15市村
6福王16矢野
 18南 

鳥 栖
 9豊田 
 18野田 
10金民友25早坂
15丹羽8永田
3磯崎4田中
20呂2木谷
 21室 

前半20分過ぎまでは熊本の時間帯でした。右サイドの市村を使って起点を作れていたし、セカンドボールをよく拾って波状攻撃を仕掛けました。しかし「伝統的にハードワークができるチーム」(高木監督)と評されるとおり、鳥栖のアグレッシブな球際、攻撃への切り替えのスピードに、徐々に押され始めます。相手の両FWは動きにキレがありましたね。連戦のなかでもコンディションのいい二人をチョイスしたのかもしれない。岐阜に快勝した前節は野田、池田のコンビ、愛媛に敗れた前々節は豊田、池田のコンビでした。このあたりの柔軟な先発起用も見逃せない尹晶煥の戦略でした。

ポゼッションはあったが、しっかり守られていた。さらに後半は一方的だったと言えるかも知れません。熊本は1本のシュートも打たせてもらえませんでした。まとめてしまえば、前半は野田に、後半は豊田に、見事に攻略されていた。相手が10人になるまでは、やられている試合でしたが、「我々は救われた部分もありました」(高木監督)ということも含めて負けなかった。

後半34分、鳥栖・磯崎が2枚目のイエローで退場。この退場劇からの試合の流れ、勝ちにいくのか守るのか。あと1枚の残っていた交代カードの切り方。このあたりが試合の一番の見所ではなかったでしょうか。後半40分。鳥栖の攻勢にさらされ続け、このまま守りきっての引き分けも御の字かと思われた時間帯でした。ここで熊本は温存していたエジミウソンを入れる。これにスカパー解説の池ノ上さんは「しぶい!」とひと言唸りました。人数の少ない相手に対して前掛かりになりそうなチームを締める役割なのだと。もちろんチャンスがあれば行く、という余地は残しながら…。

まったくの想像だろうし、事実その後、そんな展開で終わりましたが、われわれの眼にはそのときのエジミウソンというカードは攻撃の狼煙(のろし)に見えてしまいました。鳥栖とは中断期間中の練習試合で数度対戦して、いいところなくやられている。しかし確かその頃の試合にエジミウソンはまだ間に合っていなかったのではなかったでしょうか…。今や熊本の軸として君臨するエジミウソン。本来この試合、鳥栖を破るためにはエジミウソンを当然使いたかったはず。エジミウソンの熊本で勝負したかったはずだと。

しかしこの連戦で疲労による“もしも”の故障があることも怖い。それはシーズンを通してのリスク管理だったのでしょう。エジミウソンの温存は、そんな苦渋の選択だったのではと。そして、ここでエジミウソンを敢えて入れるということ。そのタイミングがきたということ。それは高木監督の実は深い判断だったろうと…。

われわれシロウトもこの時点で、スコアレスで相手は引いてくるということで、松橋よりも大迫。あとDFを1枚、攻撃的なカードに変えたい。という感じでシミュレーションしていたのですが。更にここ数試合をみると、熊本の場合、そこにボランチの枚数、最終ラインの枚数まで「変数」として絡んでくるので、筑城→エジミウソンというのはなかなか面白い判断だなと。全くもって推測の域を出ませんが、ここはとてもサッカーらしい(サッカー観戦の醍醐味ともいえる)楽しみ方をさせてもらいました。

連戦下のコンディションが選手起用や戦術面にもはっきりと影響しているのがわかったこの試合。もちろん相手もおなじ条件、しかも“ハードワーク”を根幹に据える者同士の戦い。こんな連戦の最後に当たるのは、お互いに嫌な相手だったのではないかと思うし、ある意味“もったいない”感じもするバトル・オブ・九州のタイミングでした。しかも体力の消耗戦のようで、実は神経戦とも言えたこの日のゲーム。まるで睨み合い、鍔競り合いのような。“気”を抜いた瞬間にやられる、集中力の持続が問われる。われわれはここに冒頭の「本来のサッカーの面白い部分というのが見えたんじゃないか」という監督の言葉の意味を感じとった次第です。

試合後の様子は、鳥栖の肩の落とし方のほうが大きかったように見えました。“流れ”からしたら、そう思えたのも当然かも知れない。後半多くの決定機を得たにも関わらず、枠を外し続けた鳥栖のエース豊田に対して、ゴール裏からは「ここで気落ちするな」「やれる。やれる」と鼓舞する声がした。そこには「勝てた試合を落とした」という空気が前提としてありました。しかし、鳥栖のGK室は「勝つこともできたかもしれないし、負けていたかもしれない」とコメントした。後ろで守っていた選手には、また違った認識があった。そこがまたサッカーの(サッカーらしい)面白いところでもあります。

南、原田ほか、選手コメントはすでに次の試合に向いている。そして指揮官においては、「現状の中で選手たちをレベルアップさせていくための要因には、この3連戦はなったかもしれないと思います」と言っている。多くのことを得た3連戦。その結果が2勝1分というのは、願ってもないほどほどの成果なのかも知れない。しかし、上をみればやはりなかなか負けなくなった上位陣。昇格ラインの3位東京との勝ち点差が(1ゲーム以上の)4に開きました。これからどれだけ食いついていけるか、離れても諦めない戦いができるか。次節はアウェイでの首位・千葉戦。昇格への本当の厳しい戦いがいよいよ始まります。

10月31日(日) 2010 J2リーグ戦 第32節
熊本 2 - 0 鳥栖 (13:03/水前寺/5,398人)
得点者:71' 宇留野純(熊本)、82' 片山奨典(熊本)

「負けるべくして負けたということだと思います」。試合後の鳥栖・松本監督のコメント。われわれも尊敬してやまない名将が完敗を認めた試合。だから、というわけではないし、異論もあるかも知れませんが、この試合、われわれは今シーズンのここまでのなかでベストのゲームだったと言い切りたいと思っています。それは、守備の構築を第一義に置いた今年の高木ロアッソの、ある意味、完成型を見たような思いがするからです。いうなればゾーンディフェンス。全員が連動してコンパクトな陣形のままボールに対して移動する。90分間、一瞬も途切れることのなかった戦術的な意図の共有、ポジション、運動量…。そして得られた2つのゴールも、その前の守備段階のプレーから生まれたチャンスだった。そんなふうに思えるからでもあります。

曇り空から晴れ間に転じた水前寺競技場。出足が悪かったスタンドも、キックオフ直前には老若男女の赤い姿で埋まっていきました。一方のスカイブルーのレプリカは、ゴール裏から少しはみ出している。この隣町のように一番近いチームとの“バトルオブ九州”という名の戦い。第1クールでは長い長いロスタイムの一瞬に追いつかれた。あの敗戦にも似た苦い、悔しい気持ちをしっかりと覚えています。

松橋を累積警告で欠く熊本は、カレンとファビオの2トップ。そしてボランチには久々に原田が先発。SHの片山との共存はありえないのかと徳島戦のエントリーで書きましたが、われわれの思いもかなって、レフティ同士の競演になりました。

熊本 (先発フォーメーション)
27ファビオ 32カレン
33片山11宇留野
8原田22吉井
19堤24筑城
6福王2ソンジン
 18南 

鳥栖 (先発フォーメーション)
 9豊田 
 7山瀬 
24柳澤25早坂
30黒木14朴
3磯崎11田中
5飯尾2木谷
 21室 

開始早々、キック&ラッシュの熊本。ファビオとカレンが押し込んでいく。前節・柏戦の守備的な戦いのストレスから解き放たれたようなアグレッシブな動きに映りましたが、しかし全体のバランスは崩さない。前線から積極的にプレスを掛けるのにも、2列目、3列目が連動している。両SBを高く上げるのではなく、DFライン自体を押し上げてコンパクトに保ちました。そんななかでファビオの守備。GKへのバックパスを追い込んだファビオ。GKのキックに体当たり。はね返ったボールがあわやとバーをかすめ、鳥栖のゴールに吸い込まれそうになる。場内を沸かせます。

鳥栖は豊田をポストに使う。豊田が受けに下がると、空いたスペースに山瀬あるいは早坂が入ってくる。これには、先刻承知のように福王とソンジンがうまく受け渡し、フリーにさせない。13分、今日のCKのキッカーは原田。グラウンダーでマイナスに出すと、中央から片山がミドルで狙う。惜しくも枠を外れますが、「今日の役割はフィニッシャーだ」とばかりに、片山の積極性を感じさせる最初のシュートでした。

鳥栖の中央突破は決して通させない。早坂が右から切れ込んでPアーク付近からシュートを放つも南がセーブ。豊田のミドルレンジからのシュートにも南。前節の柏戦に比べればこの程度。といった感じなのか南。しかし、“打たせるな!”とでも言っているのか、DF陣に向かって激しい言葉でコーチング。山瀬が左サイドをドリブルで上がり、勢いのままシュート。低い弾道でしたがわずかに枠の上。

熊本は右サイドで詰まったところ、吉井から出されたパスに原田が思い切りよくシュートを放つも枠外。今度はカウンター、原田が前線に送る。宇留野が見事な胸トラップでDFに競り勝ちPエリアに侵入。すばやく撃ちましたがわずかにバーの上を越えていきました。

両者、攻守の切り替えの早い展開。確かに互角の戦いにも見え、どちらにもチャンスがありましたが、ただ一点、熊本のDFの裏は一切使われていない。一方の鳥栖はDFラインの押し上げがきかず中盤との間にスペースが生まれてきている。それが後半の展開への“分水嶺”とも言えたのではないでしょうか。

鳥栖は急造ボランチコンビの連携に難があったのかも知れません。この日、初先発の強化指定選手・黒木は大津高3年時、選手権出場を吉田率いるルーテルに阻まれた世代。そんな後輩とマッチアップした原田が、後ろから削ってイエローを貰う一幕も。しかし、徐々に徐々に、熊本の圧力、出足の速さに、半歩、一歩と遅れをとるようになってきたのは鳥栖の方でした。

後半、宇留野と片山が、鳥栖のバイタルエリアを脅かし始める。特に片山は、左サイドを捨てたかのように思い切り中に絞っている。“何で片山がここにいるの?”というくらい。対峙している鳥栖の右SB田中は、同じように今季途中まで横浜FCでプレーした元同僚。敵としての再会。熟知した相手に対する巧妙な心理的駆け引きもあったのでしょうか。対峙する相手を失ったとき田中が困惑するのを狙ったのか。あるいはリスクを承知で、右サイドに数的優位を作れという指示だったのか。あるいは両SHが実に流動的だった柏の攻撃に触発されたのか。大きなサイドチェンジを宇留野が落としたボール、貰った片山が右サイドから切れ込んで思い切って中央で撃つ。これはわずかにバーの上。それにしても積極的。躍動感すら感じられる。

カレンに代えて西。ファビオのちょっと下に入る。ファビオが落とすボールに西を飛び込ませる、そんな戦術変更かと思われた選手交代の直後でした。鳥栖の丁度バイタルエリアに落とされたボール。勇気を持って一歩早く頭から飛んだ吉井に、アフターぎみに足から入った朴がファールをとられます。運・不運。しかし吉井の球際の闘志が呼び込んだチャンス。Pアーク付近から少し右の位置でのFK。片山と一度ずらして原田が蹴ったボールは、壁に当たってGK側にこぼれる。西が蹴りこむ。GKがはじく。今度は宇留野。これも当たり損ないのキック。逆にこれにはGKも反応できず。宇留野の1週遅れのバースディゴールで、熊本が先制しました。

鳥栖はもうリスクを犯して前に出てくるしかない。山瀬に代えてキム・ホナム。豊田に代えて萬代。しかし一向に熊本の守備を崩せない。決して引いて守っているわけではない、熊本の“システム”を。

そして熊本の追加点。まさしく連動した守備から反転しての得点。ファビオのチェイスに慌てたGKが左サイドへパス。サイドの選手がキープミスしたところを筑城が見逃さず、奪ってすぐに中央片山へ。片山は朴を交わすとゴールを向いて迷わず左足を振り抜いた。今日、ここまで何度も狙い続けたミドル。ゴール左上角に突き刺さった片山の熊本移籍後初ゴールは、実は自身J2初ゴールだったらしい。しかしそれは紛れもなく、チームの勝利を確信させる大きな大きな追加点でした。歓喜に包まれたスタンド。赤いタオルマフラーがぐるぐると回される。チームのみんなにもみくちゃにされる片山。放出されるような形で横浜をあとにした。熊本に、今季一番最後に加入した選手が、もうしっかり溶け込んでいる。欠くべかざる選手になっている。とても嬉しいシーンでした。

さて、そう言えば…、今日はいつもより攻撃参加を控えた感のある筑城と堤。しかし、しっかりとした対人への強さを見せて完封に貢献しました。原田が中盤で落ち着かせたり、ときに急がせたりとタクトを振る。その分、吉井も役割がシンプルになり、敵の攻撃の芽を次々に潰し持ち味を十分に発揮しました。

あの“走る”鳥栖を走らせず、裏のスペースを使わせるどころかPエリアには(裏を取られては)誰一人も入れていないのではないでしょうか。まさしく「システム的守備からの勝利」を見たような気がします。ハーフタイムを挟んで連続した90分間のなかで、守る局面、攻める局面に区切りはなく連続している。2つの得点は決して偶然ではなく必然。攻めとったというより、守った結果、“もたらされた”得点だったと見えました。「我慢し続けたことがよかったと思う」。ヒーローインタビューの宇留野のコメントも、そのあたりのことを言っているように思えました。でも、それは実はこの試合だけのことではなく、これまでの長いシーズン、ひとつの戦術を追い求め、ブレずに戦ってきたことから自然に出てきた言葉かも、などというのはわれわれだけの深読みでしょうか…。

手応えを感じている。試合後の高木監督の笑みにはそう感じるものがありました。「向こうのビルドアップの特徴を伝えて、そこをうまく把握しながら選手達は理解したのかなと思います」。試合後のそのコメントに、この試合へのスカウティングと戦術の全てが込められていました。一方、松本監督は、冒頭の完敗の発言とともに、その原因に選手たちのパスミスを挙げ、嘆いてみせました。しかし、それは決して原因ではなく、熊本の敷いた見事なゾーンプレスにはまってしまった結果だったということを、名将は百も承知なのだと思います。

この勝利で7位を死守したわが熊本。次節は休みとなりますが、8位との勝ち点差を5に広げたため順位の変動を心配せずゆっくり休めそうです。われわれの思うこのベストゲームの余韻も、たっぷり2週間楽しめる。何度もビデオで確かめたいと思います。

4月29日(木) 2010 J2リーグ戦 第9節
鳥栖 1 - 1 熊本 (13:03/ベアスタ/8,697人)
得点者:48' 井畑翔太郎(熊本)、90'+3 豊田陽平(鳥栖)


Q:これまで8試合の会見でも、これほど気持ちをこらえながらも話されているのは初めてだと思うのですが、今の気持ちというか、心の内を教えていただければと思います。
「(再び沈黙)正直、ゲームが終わったという印象がなくて、まだ余韻が残っていますし、選手たちの残像が残っていて、彼らと一緒にやれて、非常に良かったなと、今感じています」

Q:それは悔しさや選手たちの逞しさ、いろんな思いが混在している感じでしょうか?
「J2の9節という位置づけですが、僕は選手たちを見るにあたって勝敗はともかく、彼らの強さを再認識できたので、これから鍛えて行けばもっともっといいチームになると思います。いい選手たちになっていくということを証明してくれた、そして私自身もそう感じたゲームでした」
(「J’sゴール」試合後のインタビューから)

当日、RKK夕方のニュースで放映されたそうなのですが、あいにく見損なった試合後の高木監督インタビュー。しかし、J‘sゴールのこれを読むだけでも、いつもの監督とは違う感情の起伏が感じ取れました。

ゴールデンウィーク中の連戦に突入。鳥栖戦をこういう結果で終え、中二日でやってくる次の札幌戦に向け、すでに選手・監督、多くのファンも気持ちを切り替えているところ。もちろんわれわれだって、今はそういう気分なんですが、やはりこのブログの努めとして、このゲーム、振り返っておかなければなりません。一人少なくなった相手に対して同点に追いつくことがやっとだった鳥栖も相当悔しいでしょうが、勝ち試合を引き分けにしてしまった熊本にとっては心底、悔やまれる試合となりました。

スタジアムに着くなりはっきりと確認できたのは、真っ赤に染まった熊本ゴール裏。それに加えてメインはもちろん、バックスタンドにまで赤のサポーターがはみ出しているのはアウェーゲームでは初めての光景。この時点で5位と7位の対決。勝ち点差は1。この試合の結果次第では順位が入れ替わるという状況で迎えた、熊本としては今季初めての九州ダービーでした。

鳥栖 (先発フォーメーション)
9豊田 22池田
9山瀬25早坂
8衛藤6藤田
10キム・ミヌ15丹羽
2木谷20ヨ・ソンヘ
 1赤星 

前節、福岡に対して虎の子の1点を守り切り、“走り勝った”ともいえる鳥栖。今日も開始早々から出てきます。中盤で奪うとFW池田がスルーパスでDFの裏をとる。矢野と接触して倒れますがファールは取られませんでした。一方の熊本は井畑がエリアに進入。DFと争って出たボールを松橋がワントラップしてボレー。惜しくも枠を外れます。

熊本は主に右サイドから攻撃を作る。左SBの要注意人物キム・ミヌが上がったあとに出来るスペースが狙い目でした。中盤での球際も、なんだかいつもより強く激しく行っているような。この点は柏戦の“経験値”が活きているように感じました。ただ、21分に左サイドを破られ、追いかけた原田のボディコンタクトがイエローを招きます。開始から厳しく相手の攻撃の芽を潰していた原田だけに、「今日は用心が必要だぞ」と思ったのはわれわれだけではなかったでしょう。

鳥栖は前線の豊田に合わせてきますが、それは当然、織り込み済み。矢野と福王が自由にさせません。鳥栖は前半のうちに山瀬を引っ込め、磯崎を入れることでキムを一列上げてきます。警戒すべき布陣になりましたが、市村が攻守の切り替えよくディフェンスしていました。

手口の探り合いのような展開。互いにシュートまで行かせない。前半アディショナルタイム、鳥栖のFK。ファーに飛んだ木谷のヘッドがゴールネットを揺らしますが、井畑へのファールがあったとして得点は認められず。沸き返る鳥栖ファンを一瞬にして沈めます。スコアレスドローで前半終了。アウェーでのゲームプランからはまずまずの折り返しでした。

そして後半。開始早々からセカンドボールや、イージーなボールが熊本に収まり始めます。48分、右サイドから松橋がクロスを入れると、井畑がトラップ一発、反転し、GK赤星のタイミングを外して泥臭く押し込む。鳥栖側とすれば唖然としか言いようのない、後半開始まもない熊本の先制点に、アウェーとはいえ遠慮無く立ち上がってガッツポーズを取りました。

こうなれば鳥栖も反撃に出るしかない。池田に代えて萬代を入れ“高さ”を増やします。ところが前掛かりになったところで熊本のカウンターのチャンスも増える。更に宇留野に代えて西を入れると、西と松橋のパス交換から攻め込む。DFのクリアを拾うのも熊本。次々に2列目、3列目からも上がってきて分厚い攻撃を見せ始めました。

そんな、追加点の臭いがプンプンしている時間帯でした。鳥栖のロングボールを跳ね返し繋ごうとしたボールが豊田の足元にこぼれてカウンターになりかける。慌てて身体を入れた原田が豊田を倒してしまい再びイエローが示される。そして次に示されたのは赤いカードでした。

一人少なくなり、この1点を守り抜くことに急遽プランの変更を余儀なくされた熊本。西森に代えて渡辺を入れ、守りを固めます。鳥栖の右からのグラウンダーなクロス。キムがダイレクトで正確に合わせた強いシュートは僅かに右に外れてくれて事なきを得ます。右コーナーからのCK。クリアボールを拾われて入れられるがなんとか蹴り出す。今度は左からクロスが上がり萬代に飛び込まれますが、枠を反れてくれます。

一方的な守勢。鳥栖の波状攻撃に対し、身体を張って跳ね返す。キムはといえば今度は右サイドにシフトして、嫌なクロスを上げてくる。萬代のヘッドは南がキャッチする。ハイボールはパンチングで掃き出す。時計を見る。残りはあと10分。「守り切れ!」。さらに鳥栖は磯崎に代えて長谷川を入れ、より攻撃的に。熊本のゴール前での攻防。人数をかけて襲いかかる。雨嵐といったような状態。しかしゴールを割れない。クロスを跳ね返す。エリア内に入られてもボールにしっかり足を出す。最後は南が反応する。

スタジアムではロスタイムに入ったことは分かりましたが、それが何分と表示されたのか、確認できませんでした。とにかくあともう残り少し。絶対にこのまま逃げ切れる。いや、逃げ切らなければいけない、と誰もが祈るように声援を送っていたその時。南が遅延行為でイエローを貰った直後だったでしょうか、終盤、サイドから何度も繰り返されていた鳥栖・藤田のロングスロー。ニアの豊田がDF福王を背負うようにしながら頭を右に振ると、ボールは南の手を逃れてゴールに入ってしまいます。その瞬間は現地ではよくわかりませんでしたが、とにかくゴールネットが揺れた。鳥栖サポーター全員が立ち上がり、ピッチもよく見えない。主審が得点を示す手を挙げているのだけはしっかりと確認できました。

しかしそれでもまだ試合は終わらない。スタジアムの試合時間計測時計は、45分のところで止まったまま。それから何分が経過したのか。隣の現在時計はもう3時近くになっている。井畑もとうとう足を攣ってしまって倒れている。鳥栖サポーターの激しいブーイング。ピッチ外に出される。セットプレーに2人も足りない状態の熊本。押せ押せの鳥栖。南が豊田との交錯で蹴られながらも、こぼれ球を拾ったキムのシュートもセーブ。南はこの豊田のラフプレーに対して激しく怒っている。これに対しても鳥栖サポーターのブーイング。豊田も傷んで運ばれる。それでもホイッスルは鳴らない。ドロップボールで再開。鳥栖が熊本側に返球したロングボールに走り込む萬代。この行為に猛烈に怒る高木監督。逆転弾が奪えない鳥栖のストレス。見えない“時間”と戦っているかのような熊本。その両者をなだめるように、ようやくようやく長い笛が吹かれました。

最後は騒然といった雰囲気に包まれたスタジアム。いずれにとっても後味の悪いものとなりました。冒頭のインタビューはそれから間もないタイミングだったのかも知れません。高木監督はこの時、涙で目を潤ませていたそうです。就任からこのかた、数多くのメディアでの語り口、あるいは実際に間近で接したときの印象からも、常に冷静でクールなのかと思っていましたが、実際の内面はとても熱い男なのでしょう。

そして、このときの感情は恐らくは自分自身に向けられていたのではないかと思います。後半のあの場面、西に代えて下げるべきは原田ではなかったのか、最後に切ったカードは山内が正解だったのか、井畑に代えて藤田だったのではないか、などと。今となっては全て結果論でしかないものの、試合終了後、まだ激戦の余韻が残るスタジアムで、高木監督はきっと自問していたはずです。真っ赤に染まったゴール裏。それでも精一杯の拍手で選手の奮闘を讃えるサポーターを目にし、自責の念にも囚われたのではないでしょうか。冒頭の記者会見、おそらくはそんな思いが、熱いものになってこみ上げてきたのでは、と。選手時代はアジアの大砲と呼ばれ、指導者としては横浜、東京を率いた長崎出身の高木監督。それが今“熊本”の気持になって泣いている。

そして加えて、「ただ、自分自身が非常に熱くなってしまって、鳥栖のサポーターの皆さんやレフリーに不愉快な思いをさせてしまったという点に関しては反省しています。申し訳ありませんでした」(「J’sゴール」試合後のインタビューから)。こんなことも言ってくれる監督。誰のせいでもなく、きちんと自分で引き受ける姿勢。それだけの覚悟をもって仕事に臨んでいるということでしょう。

今日の熊日朝刊、植山記者は「不可解な判定」「相手の反則まがいのプレー」と言ったある意味これまでなかったような表現も使いながら、熱い記事を書いてくれています。新聞紙面であっても、そう言わずにいられない気持ち。これもまた本気で戦っていくんだという意思表示と受け取りました

そんな熊本対鳥栖戦。鳥栖にとっては、この対戦、ホームではまだ勝ちがないという因縁もあるようです。九州ダービー。今年はバトル・オブ・九州と呼ぶそうですが、ファンならずとも、チームに関わるすべての者とって、それだけ懸命にさせる何かを、この対戦(カード)が持っているのは確かです。

さあ、もう日曜日は札幌戦。切り替え、切り替え。水前寺を赤でいっぱいにして、選手たちを精一杯後押ししましょう。

9月12日(土) 2009 J2リーグ戦 第39節
熊本 2 - 1 鳥栖 (16:04/熊本/8,671人)
得点者:29' 西弘則(熊本)、62' 高橋義希(鳥栖)、84' 山内祐一(熊本)


ふーっ…。痺れました。久しぶりに“痺れる”という表現がピッタリする試合内容でした。この試合、どうしても勝ちたかった。何故だかわかりませんが、どうしても勝利という「結果」が欲しくてたまりませんでした。それは前節、悪夢の5連敗を断ち切って草津に大勝したあと、選手の誰もが「次こそが大事」と同じように口を揃えたこともあるかも知れません。悪循環を断ち切ってひとつ“ステップアップ”したチームを確かめたい。そうでないとあれだけ追い詰められた意味がないじゃないか…。そんなことを思っていたのかもしれません。もうちょっと感情的に言えば、鳥栖との前回対戦(第2クール初戦)での敗戦が、あまりにもふがいなかったという思いや、前節・福岡戦での勝利後の岸野監督のあまりな“はしゃぎ”ぶりが見るに耐えなかった。あんなものをホームで見せられたらたまらない。そんな気持ちもあったのかも知れません…。

戦いの前の嵐。KKウィングは、久しぶりの豪雨に包まれました。天気予報では夕方まで雨。しかし、動員のかかったダービーマッチに詰め掛けた多くのファンの願いが通じたのか、試合が始まると同時に晴れ間が差してきました。鳥栖からも多くのサガン・ブルーのサポーターがメイン、バックのアウェー側を占拠。第三クールのこの時点でJ1昇格を狙える位置につけているチーム。当然のサポートでした。試合前からヒートアップする応援合戦。まだまだダービーと呼ぶのはおこがましいのかも知れませんが、隣町同士だから実現するこの雰囲気。これだけ応援でも競いあうと、今日はじめて訪れた人たちはもちろん、J‘sゴールの投票で来訪してくれた藤本泉嬢、表敬訪問のチェアマンにもきっとわれわれのこの興奮が伝わったはずです。

鳥栖は前節の福岡戦、後半からトジン、ホベルトを投入して一気に流れを変え、1点のビハインドをひっくり返しました。今節はその二人が最初からスタメンに入っている。前半から飛ばして先制点を奪う構え。熊本は前節しっかりと守り切った矢野とソンジンを守備の中央に置き、左サイドには原田が復帰。さすがの連続出場で疲労が蓄積しているだろう石井の側には吉井が位置して2ボランチに。2トップは前節と同様、山内、藤田ですが、これも藤田が自在に動いて、山内、西森、西という若い個性を引き出していこうという考えだったのでしょう。

鳥栖 (先発フォーメーション)
35ハーフナー 11トジン
10島田6高地
28ホベルト14高橋
13日高2柳沢
5飯尾4内間
 21室 

今日の勝因を問うなら、誰もが熊本の「守備がよかった」と答えるでしょう。北野監督は試合後のインタビューで「攻めているときも守備を考えろ」(J‘sゴール)と指示したと言っていますが、そんな単純なことだけではなかったはずです。もちろん、戦術を記者に詳細に明かす監督など滅多にいませんけれどね。基本的な鳥栖の狙いはハーフナー・マイクの高さに当てて、こぼれたところをトジンや両サイド、あるいはボランチが拾っていくこと。これに対しては、主に矢野がマイクと競って自由にさせませんでした。バイタルエリアには、ゴールを狙う猛獣のごとく鳥栖の前線4人が常に侵入していましたが、熊本は中盤4人とDF4人との2ブロックでしっかり挟みこんで、仮に最終ラインにボールが入っても、矢野もしくはマイクが落としたところを拾うのは熊本。危険なエリアでは決して鳥栖にボールを譲りませんでした。

要注意人物・ホベルトを嫌ってか、奪ってからは意識的に長いボールを前線に供給。これによって鳥栖の最終ラインと中盤が間延びします。ホベルトが孤立ぎみのところに、吉井、石井やサイドの西、西森のチェックが容赦なく入る。前回対戦で果敢なプレスにあい、自滅していった熊本でしたが、今日はそのお株を奪うハードワークを演じました。更に前節から続いていたのは「インターセプト」の意識。鳥栖の攻撃の繋がりを断つと、一気に反転攻勢に出ます。

前半29分、ソンジンからの低い弾道のロングパスに西森がトラップ一発、右サイドを破ると、素早く中に入れる。信じて走り込んで来た西がDF2人と競いながら撃ったシュートはみごとにゴールに流れ込みました。先制。奮い立つスタンド。振り回される旗、そしてマフラー。決めた西と山内、アシストの西森ががっちりと抱き合う。3人の小柄なスピード・スター。いずれも熊本の生え抜きの選手たちでした。

ボールの狙いどころを一列下がったあたりに置き、激しくチェックする熊本。圧倒的な高さのある相手FWに対して最終ラインは下げられない。異常にコンパクトな陣形で赤いユニフォームが白のユニフォームを激しく囲いボールを狙い続けていました。ボールを奪えば前を向いたプレーヤーはまず前線へのパスを選択していましたね。全く高さの武器はない熊本の前線ですが、これを執拗に繰り返していました。たとえ後方からでも、前線はそれぞれに動き出し、受け方を工夫していました。ロングボールではなく“パス”としての確率を狙うような。それは出し手も同じく。先制の場面も、GK小林からのボールを受け振り向いたソンジン、瞬間、迷うことなく西森を狙っていました。相手DFラインはきちんと揃っていましたが、西森の受ける動きが勝った。以前「水戸との差」というエントリーで書いた「ゴールからの逆算」というプレーが感じられた瞬間でした。

鳥栖はDF内間を早々に諦めベテラン山田を投入。これで前節の後半流れを変えた布陣そのままになりました。展開は前節と同じ1点ビハインドであったものの、後半開始からも思うように運べない。攻守にバランスを保つ熊本相手に、どうにも出しどころ、崩しどころがなく、状況を打開できない鳥栖。前節、後半の局面を打開したトジン、ホベルトは既に45分間、ピッチ上で消耗していました。

それでも執拗に攻め続ける鳥栖は55分、菊岡を入れることによって、いよいよ“圧”をかけてきました。いきなり右サイドを破りエリア内のマイクへ。このシュートは枠を反れる。スタジアム中に安堵のため息。しかし連続してサイドから起点を作られ始める。62分、右サイドでソンジンがトジンに入れ替わられ、最終ラインを破られる。放たれたシュートは運良くポストに当たりましたが、跳ね返りのボールは中央に走り込んでいた高橋の足下に。これを押し込まれ同点とされました。

完全に鳥栖の時間帯に。このまま鳥栖を勢いづかせてしまうのか。これまで何度も目の当たりにした流れ。どうしようもない不安がよぎりました。しかし、直後、ベンチはその習い性になった“負けそうになる”消極的な気持ちを打ち消すように交代カードを切ってきます。西森に代わって木島。疲れの見える原田には福王。追加点を狙って前がかりになった鳥栖。薄くなっているCBのところで、木島が何度も体ごとぶつけ合うシーンに、観客からここぞとばかりに声援が飛びます。追加点を! 頼むぞ!

接触プレーでの故障で中断。集中力を欠きがちな時間帯です。それにしても今日の主審は、ことのほかファールを取らない。試合を中断させず実質のプレー時間を長くしようというリーグ方針を体現しようとしているのか。よくも悪くも、これもチェアマン御前試合の影響だったのかも知れません。

84分、藤田に代わって入っていた山本からのロング“パス”を受けた木島。これもトラップ一発で左サイド奥のスペースへ抜け出します。追走しぴったりと寄せるDF山田。エンドライン際、互いにユニフォームをつかみ合いながら、体ごと押し合う、息を呑むような男と男のせめぎ合い。一瞬、山田の動きのスキをつくように奪い抜けるとCB飯尾の股間を抜いて中央に詰めてきた山内に早いパス。これを山内がきっちり押し込んで決勝点。もう、スタンドは総立ち。怒号のように鳴り響く歓声。そして沈黙する鳥栖側。ピッチ上の鳥栖イレブンの落胆もはっきり伝わってくる決定的な1点でした。

試合後に表彰されたMVPは木島。満を持して投入したベンチワークに応える文句ない活躍でした。それにも増して嬉しいのは、先発で起用されているFW山内が結果を残し続けていること。西もしかり。さらには西森にはすばらしいアシストがついた。反面、藤田ひとりが目立つようなサッカーではなくなってきているような。藤田が黒子に徹して、ようやく今季の熊本のチーム全体としての力が成熟してきているような。GKの小林が守備陣に対して大声で指示をする。失点したあとの場面でも、「行け!」とばかりに矢野の背中を押す。言葉が通じないソンジンに矢野は「身振り手振りで指示」(13日:熊日)する。藤田の大きなゼスチャーはもちろんだけれど、ボールを持った選手に対して、全員のサポートが効いている。皆の声が出ているのが、スタンドにいてもはっきりとわかります。

動員のかかったゲーム。残念ながら入場者数の記録は更新できませんでしたが、痺れるような好ゲームをホームで見せられた今日の観客は、確実にリピーターになったことでしょう。九州ダービー。鳥栖との最終戦。ちょうど昨年、2万人のファンが見つめるベアスタでの戦いで、やはり昇格を伺っていた鳥栖に2-1で勝利して、躓かせたあの試合をどうしても思い起こさせます。そして熊本はあれから怒涛の8試合負けなしを演じたということも…。

リーグ成績では、ようやく2度目の2連勝。実に2ヶ月半ぶりのホーム勝利。KKウィングに至っては4月“ホーム初勝利”とうたった札幌戦以来でした。その間、負けても負けても、皆が通い続けたKKウィング。それはわれわれの唯一のホームチームだからあたり前なのですが。今日またこんな舞台で、記憶に残る“痺れる”名勝負を演じてくれる。また一歩、前に進んだ。そう確信させてくれる価値ある勝利でした。