数分前に、敵エンドライン近くまでの長い距離を、ルーズボールを追いかけ懸命に走りチャンスを創出、サポーターから拍手喝采を浴びた男が、ロスタイムのその時、足が止まり、エンドラインを割るボールを見送りました。
「まずいな・・・。」という不安は的中。スローインから前線まで運ばれたボールは、ループシュートとなり、慌てて後ずさりするGK小林の頭上を越えて同点弾となってしまいます。その瞬間、5500人のホームサポーターは、こらえていた89分間の憤懣のはけ口を見失って、ただただ大きなため息を吐くばかりでした。

小森田と吉井のダブルボランチによるキックオフという珍しいシーンに象徴されるように、前半から前がかりで行ったロッソ。開始早々1分もないうちに、左サイドを駆け上がった関から、逆サイドのスペースに走りこんでいた熊谷にパスが通りシュート。みごとな先制点を奪います。
「アップを含めて気持ちを入れていこうと話し合っていた。それが先制につながった。(熊谷:22日付熊日より)」というように、立ち上がり、入り方が悪いといわれるこれまでの試合運びに対して、ひとつのチャレンジ、もう一段上の段階に行こうというチームの意志が感じられました。
その後も早いパス回しからソニー仙台のゴールを脅かすロッソ。早くも顔の汗をひたすら拭うばかりのソニーのセンターバックの姿に、ナイトゲームとはいえ、熊本の夏の蒸し暑さをホームの利にして戦えると確信したのですが・・・。
それまで、いわゆる人もボールも動く状態だったロッソでしたが、30分過ぎのソニーのCKの頃からか、逆に足が止まりはじめ、パスは足元中心になってしまいます。確かに90分間の流れのなかで、ギアダウンする時間帯も必要だとは思ったのですが、敵のフィニッシュの精度のなさに慢心が生まれたのか、その後シフトアップすることはかないませんでした。

特記したいのは、関の”持ちすぎ”感。あるいは判断の遅れ。もちろん彼の特徴は、キレキレのドリブルではあるのですが、今の彼に敵数人に囲まれて抜き去る力はないし、それが必要な場面とも思えないのです。
「人を活かして自分も活きる」というパス回しこそ必要であって、それがあってこそ、要所でのドリブルが活きるのですが・・・。同じことは北川にも言えるような気がします。今日も高橋が、トラップやワンタッチパスの瞬間に、敵の一人ないしは二人を置き去りにし、数的優位な状態を作り、次のスペースでボールを受けることを意識しているのに対し、北川はどうしても足元もしくは頭、胸でまずトラップ、キープすることを好みます。瞬間囲まれ敵に奪われるというケースが多い。プレースタイルの違いと言えばそれまでですが、この北川の特徴をつかんでしまうとDFは守りやすい。チーム全体での”有機的な動き”という点では、どうしてもブレーキになってしまいます。だから同時に”活かされない”。”持たない”高橋と”持つ”北川というべきか・・・。

「選手はよくファイトしていた。(池谷監督:同日付熊日より)」というコメントは、その後のベンチワークの後悔の裏返しではないのでしょうか。熊谷に代えて松岡投入というのは、最初からシナリオにあったのでしょうが、今日の関の出来は予想外だったはず。中盤での活性化は達成せず、バランスだけを崩す結果に見えました。小森田をあそこまで引っ張らざるを得なかったのは何故なのか・・・。控えのメンバー選択にミスがあったのでしょうか。
33分、DFが抜かれてソニーのシュートがあわやポストに当たって事なきを得ると、この試合は1点で逃げ切ることが重要になってきました。しかしいつもなら40分頃から徹底したボールキープで逃げ切りを鮮明に打ち出すロッソが、この日は守るのか攻めるのか中途半端。この時のベンチの指示もどうだったのでしょう。

もはや足が止まるというより、ボールウォッチャーという状態。そして冒頭のロスタイムの瞬間が訪れます。残り時間1分の失点。
「相手のシュートコースは絞っていたのに、なんで前に出てくるんだ!」というのが怒れる上村の主張だったのでしょう。ループシュートでやられるというのは完全にGKのミスですから・・・。しかし小林は、もしかしたら最終ラインは振り切られるかも知れないという一瞬の不安にかられた・・・。ほんの一瞬の信頼関係の微妙なズレ。しかし、そこまで守備陣に負担を掛けさせた攻撃陣にも責任はある。いやベンチワークも含めて、チーム全員の失点といわざるを得ません。

勝てる相手に引き分けられたのか、負けそうな試合を拾ったのか、とりあえず勝ち点1。これから夏場に向けての失速を心配する声もありますが、この時期だからこそ、冒頭触れたような試合運びへのチャレンジに対しては拍手を送りたい。そして、この引き分け劇をテストケースとして、更に高みを目指してほしいものです。