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5月19日(日)
【第9節】(えがおS)
熊本 3-2(前半1-2)鳥取

<得点者>
[熊]小笠原佳祐(18分)、黒木晃平(57分)、北村知也(90分+2)
[鳥]フェルナンジーニョ(31分)、西山雄介(35分)
<警告>
[熊]中山雄登(90分+1)
[鳥]池ヶ谷颯斗(3分)、福村貴幸(15分)
観衆:3,384人
主審:植松健太朗


いやぁ。最高の結末でした。こんな試合展開こそ多くのファンに観てもらいたかったのですが、あいにく日曜のナイトゲームとあって、入場者数が少なかったのが残念です。

鳥取との対戦は実に6年ぶり。ということは、鳥取はあの年以来、6年もJ3で苦戦しているということ。身が引き締まります。

「熊本さんは力のあるチーム。そこの波に乗せないように、逃げるのではなく向かって、“刺して”いけるよう頑張りたい」。敵将・高木監督はそう試合前に言っていた(DAZN)。不敵な面構えでした。

名前は変わらねど、互いに指揮官もメンバーも大きく変わっている。鳥取で知っている名前はフェルナンジーニョぐらいか。布陣は3-4-1-2。一方、熊本は今節、先発FWを北村から原に代えてきた。

20190519鳥取


立ち上がりいきなり、鳥取のバックパスにプレスした原が、混戦からボールを奪取して抜け出しエリア内に侵入。股抜きシュートを狙ったが、GK市川がブロック。

その後も連続でCKを取り続ける。熊本が押している。その3度目の左CKのチャンス。キッカーは高瀬。鈴木がニアに複数のDFを引き付けると、小笠原がうまくプルアウェイして自分をフリーにしたところに、どんぴしゃのボール。頭で叩きつけ、早い時間に先制します。小笠原はプロ初ゴール。

しかし、その後は受け身に立ったのか、鳥取にセカンドボールを拾われ出し、波状攻撃を受ける。31分、PA前でファールを犯すと、FKにはフェルナンジーニョ。その右足から放たれたボールは壁を越え、鋭い弧を描いてゴールの左上隅に突き刺さる。これは山本でも届かない。

更にすぐあと35分の鳥取の右CK。これも蹴るのはフェルナンジーニョ。ゾーンで守る熊本に対して、前に出られないスピードと角度のボールを送ると、中央の西山が難なく頭で決めました。

あっと言う間に逆転される。いずれもセットプレーからの、相手を褒めるしかないような失点とはいえども、先制点後のゲームマネジメントが問われます。

しかし、がっくりと気落ちしないのがここのところの熊本の良さ。それは得点する自信があるから。前半のアディショナルタイムには左サイドからのループを受けたニアの佐野が、素早く速いボールを中に入れる。ファーから原が反応したものの、伸ばした足には薄く当たって、枠の右に反れる。大いに惜しい。

前半終了の笛が吹かれても、ロッカールームまで待たず、すぐにベンチ前でコーチの示す戦略ボードを見入り、指示を仰ぐ。その意気やよし。

鳥取に手こずっているのは、山本の元同僚のGK市川の好セーブもありましたが、WBを含めた鳥取の帰陣の早さがありました。すぐに5バックにすると、これまでの相手のようには、なかなか食いついてくれない。しかし、実はそこにも空いたスペースは現れる・・・。

57分、降りてきた佐野に左から繋ぐと、佐野は絞り気味に上がってきた右の黒木に。黒木は躊躇せず右足一閃。これがキャノン砲のようにゴールネットに突き刺さる。黒木久々のミドルシュートで同点に追いつく!

「相手の中央に入っていける分析があったので、狙っていた」とは黒木の弁(20日付・熊日)。確かにその前の時間にも、黒木がそこのスペースに顔を出していた。

佐野から北村。原に代えて怪我から復帰した三島。今季はベンチワークも先手を打つのが目立つ。

次第に攻守切り替えの早い、オープンな展開になってくる。お湿り程度の雨で、気温もまだまだ高くなく、両者の足も止まらない。鳥取も何も諦めてはいない。

しかし、拮抗した展開、同点のまま残り時間は少なくなってくる。「ああ、そういえば鳥取は“引き分け力”と呼ばれていた」と思い出す。同点に追いついたのはこちらの方でしたが・・・。

終了間際の90分頃。鳥取の右からのクロスに中央でシュートは、エリア内で懸命のブロック。混戦の中での再びのシュートも、黒木が体を投げ出して防いだ。この最大の危機を脱すると。

もうアディショナルタイムに入っていました。岡本が、途中出場の右の中原にはたくと、猛然とゴール前に。ニアサイドには北村も走りこんだ。中原のクロスを複数のDF、GKと競る岡本。ボールが北村の前にこぼれてくる。それを予測していたかのように北村が落ち着いて押し込む。逆転ゴールがゴールに吸い込まれます。

もう、年甲斐もなく大きくガッツポーズして飛び上がりました。

終盤にビッグチャンスのあった鳥取でした。「それを決めきれなかった我々と、そのあと決めきれた熊本さん」。敵将・高木監督は淡々とインタビューに答える(DAZN)。相当の悔しさを押し殺すように。“刺せなかった”。

こういう試合を“勝ち切る”のは、非常に大きい。讃岐と北九州が引き分けて勝ち点18。熊本はその差を1に縮め、4位に上がった。

しかし指揮官は、「昨年は10試合の時点で6位でした。去年のことを振り返ると、スタートダッシュできたと思います。でも最後にはJ3降格しました。日々の積み重ねがいかに重要かということを学んだので、今4位でも、J3はラスト5試合くらいでも大きく変わるかもしれないので。上との勝点を引き離されないように、とにかく我々は、負けも引き分けも許されない、というくらいの思いで選手たちはやっています」と言った(熊本蹴球通信)。油断はない。

監督が言うように一戦一戦、目の前の試合を勝利していかなければいけないのに違いはない。その戦いを応援するのみ。次節首位北九州との戦い。久しぶりにアウェーに足を伸ばしてこようかと思います。
8月4日(日) 2013 J2リーグ戦 第27節
鳥取 0 - 0 熊本 (18:34/とりスタ/3,890人)


後半42分、3枚目の交代カードは黒木でした。これを現状のチーム戦術、池谷スタイルと呼ぶのかどうかは別にして、われわれを唸らせた。そのリアリズム(現実主義)を、改めて思い知らされた気がなぜかしたのです。

下位チームが勝ち点を積んだ今節。確かに勝ち点3を持ちかえれば、それは言うことないかもしれないのですが、ほんとうに近視眼的な結果論で言えば、勝ち点0なら、順位をふたつ下げて18位。降格圏・群馬との勝ち点差が“4”に縮まっていたわけで…。

試合後、「ボール支配率から見れば、勝ち点2を落としたとも言える試合」と、池谷監督代行がふり返るのは、これはもう明らかな評論、結果論であって、勝ち点1を手にしているからこそのコメントだろうと思うのです。

とにかく勝ち点を積んでいく戦い。

20130804鳥取

北嶋を故障で、齊藤を累積で欠く前線を、仲間と堀米の2トップ、トップ下に藤本というシステムに変えてきた熊本。3バックのセンターには橋本という布陣でした。

前半はお互いに守り合い。ある程度までは行くけれど、完全には崩しきれない。サイドで詰まる。これは集中して、守ろう、先制されない、という両チームの強い意志が前面に出たゲーム運び。鳥取もなによりこの順位の近い熊本を叩いて、下位戦線から這い上がろうという狙いの試合。昨年、降格圏内を最後まで彷徨った。その轍は踏まないとばかり。

だからと言って消極的な凡戦ではない。鳥取のプレスの甘さも手伝ってか、熊本はほぼツータッチでボールがよく回る。藤本がいつものように動き回って、収めては前を向く。前半16分には、片山のゴールラインぎりぎりからのマイナスクロスのこぼれ球を藤本が打つ。GK小針の手を抜けたもののDFドゥドゥに防がれる。ハンドではなかったか?その後のドゥドゥの顔面の痛がりようが、逆に不審に思えてなりませんでした。

35分以降あたりの時間帯に、ちょっと足が止まった感の熊本。鳥取のサイドチェンジにファーストディフェンダーが行けていない。やられてみると、サイドチェンジは実に嫌な組み立て。ピンチといえばこのあたりでした。

しかし、修正も確かなものがありました。後半、さすがにスペースができはじめたなと思っても、すぐにコンパクトに戻る修正が働く(両チームともに)。最後まで片山が単騎で攻め上がる場面がなかった。バランスを崩すリスクを冒してまで攻め上がらなかった。

ボール支配率というより、こちらの決定機と相手の決定機が同じくらいの戦いか。両GKも見せ場を作りました。

それにしても、縦に強いパスが通って、収まって、受け手が振り返ると、“サッカーらしく”なるし、ゲームの質が高くなって面白くなるものだ、と実感しました。このシステムで、あの位置での橋本の起用。ただ単に、当たりが強いだけでない。そしてあの縦の選択は、確かにこれまでの熊本にはなかったものでした。

組み立てのなかで、同サイドでのワンツーとサイドチェンジと。縦にズバッと行くところは行く。このぐらい色んな手を見せると、このところ封印気味のロングボールも、また活きてくるのではないでしょうか。

そこで、改めて不思議な気がするのが、なぜロングボールが使われなくなったのか?

昨日の試合でも、途中ファビオが出ても蹴らない。何かこう、主義主張のようにも…。蹴るのは決定的なカウンター狙いの時だけ。

思えば、夏場の消耗を懸念してのことかも知れないと。高木監督時代に一度、いつかのエントリーに書いたことがあります。ロングボールでのキック&ラッシュ、セカンドボールの奪い合いは、選手に相当の体力を要求する。熊本が夏場に失速するのも、その戦術のせいではないかと。

そういえば、ここのところ練習時間も、日中を避けて朝方や夕方に組まれているような。熊本のうだるような暑さのなかで、無用の消耗を避けるように。マネジメント面でもそういう配慮がされているのでしょうか。これも経験値。そして、この大事な局面だけに。

まだまだ、しばらくは勝ち点1を積み上げ、3を狙うゲームが続く。ゲーム運びもそうですが、JFLの時のような、「負けられない試合」「負けない戦術」なのかも知れない。それは監督というより、経営者の戦術にも見えますね。

3月3日(日) 2013 J2リーグ戦 第1節
熊本 1 - 2 鳥取 (15:05/うまスタ/11,116人)
得点者:58' 藤本主税(熊本)、65' 久保裕一(鳥取)、88' 奥山泰裕(鳥取)

負けました。しかも逆転負け。首を長くして待ったシーズン。早く観たくて仕方なかった新監督の采配、新たなメンバーでのサッカーだっただけに、結果は結果とはいえ、気持ちはドーンと沈みます。

KKウィング改め「うまスタ(うまかな・よかなスタジアム)」。ロアッソのホーム名称にぴったりのスタジアムに、午前中から待ちきれないファンが並び始め、最終的には11,000人を超える入場者数になりました。S席も含めてメインからゴール裏までホーム側はぎっしり感とともに埋まった感じ。今回の“動員”方式は、一般500円で全席自由という企画もあって、無料チケットだけでの動員とは一味違うスタジアムの景色。子供たちは100円。同僚の子供(小学生)は、日頃は親に連れて行ってもらうのが、自分の小遣いで行ける金額ということで、友達同士で話し合って、自分たちで出かける計画を立てていたとか。微笑ましくてちょっと嬉しいエピソードでした。

20130303鳥取

試合自体は攻撃的に熊本が支配していたように見えるが、勝負という点での決定的なところは互角。あるいは鳥取に分があったように思います。

熊本の様子も練習試合で受けた感覚とは違っていました。それは開幕戦特有の“硬さ”からくるものか、あるいは鳥取のハイプレッシャーがそうさせたのか。数10センチ単位で起こるパスミス。あるいは足元へのパスを狙われている。選手たちのコメントやいくつかのメディアも指摘しているように、選手間の距離がなんだか遠かった。奪ってからの反転のスピードも、鳥取にうまく守られてブレーキが掛かる。運動量で鳥取の方が勝っていました。

ただ、新たな吉田サッカーを垣間見た面もあります。それは前線に人をかける。攻め込んだときの人数は、得点の期待を持たせてくれる集まり具合。藤本主税の先制点も、シュート自体はアクロバティックで偶然っぽく見えるものですが、(セットプレーからの流れとはいえ)人数をかけた部厚いゴール前の戦術の結果として正当に受け入れたい。そう思います。

得点自体のインパクトもあって、久々のスタジアムの歓声は鳥肌が立つくらい。ピッチ上の選手たちはそれ以上のものだったでしょう。この先制点から7分後までは、本当に至福の時間でした。

やはり課題は大きく背負うDFライン裏のスペースでした。ただ、これも言えることは、練習試合で見たあの新しい守備スタイル、組織で高めの位置で奪い取るというシーンが全くと言っていいほど見られませんでした。こんな感じではない。こんなはずじゃない。そういうわれわれの気持ちは、選手たちの方がよっぽど持っていたでしょう。

鳥取は当然、スカウティング通りに熊本の守備の裏をつく。ただでさえ課題という守備の裏側を。

待望の先制点。多分これまでなら、ブロックを作ってスペースを消して守りきっていた。おそらく。でも、そんな練習はしてないよ、とでもいうような攻撃的な姿勢のままの熊本。しかし、鳥取の圧に押されるようにボランチがバランスを崩すと、中盤を自由にされ始める。

どれだけチームの力を発揮できたかと問われて「60%くらい」と答えた吉田監督(熊日朝刊)。吉田新監督の求める戦術は、基本オーソドックスとは言え、そのうえに非常に高度なものを重ねていくという気がします。そうそう簡単に完成するわけはないとは思っていましたが…。

攻撃的。確かに、ボールが止まることがない、パスの出し先を探すような場面はほとんどない。90分間追いかけまわすだけのチェイシングサッカーではないが、それでも相当な運動量。前半も35分過ぎから、ガクンとペースが落ちた感もありました。

黒木も評判どおりの働きだったし、養父はチームの心臓。しかし、とはいえ、先制点を奪った後、あるいは同点に追い付かれた状況で、あえて一回中盤を締めなおす意味で、どちらかを原田に交代させてもよかったのではないか。素人の縁台将棋と笑われてしまうでしょうけれど、先制の後は、ずっと交代カードに考えを巡らせていました。

ゲームとしては、レベルの高いものだったということは認めるべきでしょう。選手も闘っていた。何かをしようとしてうまくいかなかった。それに不満はない。結果は伴わなかったけれど、今シーズンの監督の意図、チームの可能性は感じられました。シーズンは長い。課題に取り組み、ひとつひとつしっかりとした戦いをしなければ最終的な結果は出ない。

また今年もサッカーがわれわれの日常に戻ってきた。今日はとりあえず、それだけを肴にビールでも飲もうかと思います。

10月28日(日) 2012 J2リーグ戦 第40節
鳥取 0 - 1 熊本 (16:03/とりスタ/3,120人)
得点者:51' 藏川洋平(熊本)


J’s GOALの鳥取側の記者もプレビュー記事で、熊本は「現実的に考えれば、モチベーションが難しい状況ではある」と書きました。われわれも、その点では同意。それ(モチベーション)をどうキープして戦えるのかというところが、この試合の一番の注目点でした。

思えば、これまでのシーズンでは、相当に早い段階で昇格圏は絞られてしまっていたわけで。リーグ終盤のこの時期まで、プレーオフ圏と言う名のモチベーションが保たれるこのシステムは、それなりに効果的だったとも言えるでしょう。

自力ということではなく、あくまでも他力の、計算上の可能性ではありましたが、昇格プレーオフ圏への望みが断たれた前節・横浜戦の敗戦。終戦というべきか。支えていたものが無くなった、あるいは、ポッキリと折れてしまった、そんな状態なのか。身も蓋もない言い方をするならば“消化試合”ともいえる。

「残り3つで9ポイントを取る、それがわれわれの最低限度の目標になりました」と高木監督が言う。それは目標とも言えないような目標。それで選手たちのモチベーションが保てるのだろうか。

そこに、この試合に勝てば残留決定という、これ以上ないギリギリの状況で、それでも自力で自らの命運を決められるという鳥取が相手。しかも相手のホーム。少しでも気後れすれば、あっと言う間に持っていかれそうな予感は試合前から感じていました。

鳥取20121028

しかし、そんなわれわれの不安を吹き飛ばすような序盤。中盤を制圧し、セカンドを支配し、主導権を握る熊本。片山、藏川。両SBが高く上がって攻撃に参加する。右藏川からのクロスに大迫がニアでそらすもゴールの左に抜ける。惜しい。藤本からのパスを市村が前で落として、養父のシュートはDFに阻まれる。

ただ、慌てていた鳥取もポジションの修正を図ると、徐々にペースを掴み始める。中央の住田に通されるとDFがクリアしたボールは左にいた小井手の足元に。このシュートはバーに当たって事なきを得ますが、その後も鶴見から小井手が落として住田の決定的なシュート。これは守護神・南の手中に収まりました。

値千金の先制点、そしてこの試合の決勝点は後半6分。熊本のポゼッションから、原田が縦にループで入れる。そこには左から機を見計らった藏川がするすると入り込んでいた。自分の後ろからくるそのパスをダイレクトで振り切る。シュートはネットを突き刺しました。

後半、右SBから右SHの市村とポジションチェンジしていた藏川。指揮官の「もう少し流動的な動きのなかで(サイドだけではなく)中央でボールを受けて相手の懐に入る」という意図によるものでしたが、いずれにせよゴールに近づいた藏川が、その期待どおりに結果を残したのですから指揮官の采配はみごとに奏功しました。

それにしても藏川。確かに原田のパスもピンポイントでしたが、斜めに走り込んだとはいえ、ほとんど真後ろからのボールを、ダイレクトボレー。これまでの藏川のフィニッシュの“実績”を思い浮かべたとき、悪いんですが、あのシュートは正直とても想像できるものではありませんでした(笑)。「1年に1度しかゴールしないと柏の時から言われている(笑)」と南もブログで書いていますが、その一度しかないゴールも、いつもスーパーなゴールなのだと言います。

先制した試合は負けがない熊本。後はしっかりとブロックを敷き、明らかに守備を固めながら、カウンターの一発狙いへ戦術を転換。スカパー!実況の解説者が何度も口にしたように、打てばDFに当たって入ることだってあるというシュートも、鳥取の打たない“パス”に救われる場面が何度も。そして、GK南の安定したセービングにゴールを割られることはありませんでした。

町田との対戦のとき、降格戦線を彷徨う町田のことを”手負いの獅子”と表現しました。この鳥取は、それにも増して「この試合に勝てば自力で残留が決まる」という状況において、荒ぶるような猛獣のようでした。しかも、この試合時間の前に、最下位・町田が岐阜に勝利し、勝ち点差4に迫っていた状況ならなおさら。

その”猛獣”の攻撃をうまくかわしながら、急所を一突きした。その後も荒れ狂う相手をいなしていなして、我慢して。90分戦って、ようやく力尽きたのを見届けた。矛と盾をうまく使い分けた。”我慢のゲーム”。全くそんな試合。

勝ち点というのは、こうやって積み上げるんだというリーグ戦サッカー。モチベーションがどうのこうのと心配する以前に、「大人になったなぁ」としごく感動を覚える内容でした。

「今までのロアッソは負けた試合の後、あっさり連敗してしまったり、良くても点がとれず引き分け止まりだったりするゲームが多かったけれど」と、南はブログで続ける。

「今日は最初からいい入りが出来て内容でも相手を上回れたと思うし、最後押し込まれた場面でもバタバタする事なくみんなが体を張ってしっかりと逃げ切れたのはチームが成長している証だと思う」と。

「前節昇格の可能性がなくなり、相手は残留争い真っ只中のチームでともすればモチベーションで圧倒されかねない試合でしたが」とは南も認めるところ。鳥取側にとっては、熊本には何のモチベーションもないだろう、あるいはモチベーションでは優るだろうと明らかに予想していたのでしょう。スカパー!試合後のヒーローインタビューで、その点を問われた藏川は、「厳しい試合になるのは予想していた」と前置きしながら、「”プロとして”1試合1試合に結果を求めるのは当然」だとキッパリと応えました。

リーグ戦も残り2試合。次節はアウェイ・甲府戦。これまた、昇格という最大の目標を達成してしまったチーム。終盤において、さらに“難しい”ゲームになるだろうことは必至。どう戦うのか。それを見届ける。まだまだ今季の楽しみは終わっていません。


3月11日(日) 2012 J2リーグ戦 第2節
熊本 2 - 1 鳥取 (16:04/熊本/5,817人)
得点者:10' 小井手翔太(鳥取)、46' 武富孝介(熊本)、52' 藤本主税(熊本)


「花冷え」というには厳しすぎる寒風に足が遠のいたのか、J加盟以来のホーム開幕戦としては最低の入場者数に、少々落胆しました。直前(金曜日)の社長交代劇の影響と関係がないとも言えないのかも知れない。微妙なファンの心理。何がきっかけになるかわからない熊本人の気質。

経営的には待ったなしの状況。ややタイミングを逸した感じですが、それでも他にも多くのクラブが似たり寄ったりの財政のなか、いち早く財務状況を開示し、さらには代表者が責任をとる形で辞意を表明したことは、「公的資金が投入されている」会社としてのケジメなのだろうし、県民クラブとしてのコンプライアンスに他ならなかったのでしょう。後任の池谷氏の経営手腕を不安視する声もありますが、実業団時代の選手兼大企業ビジネスマンの感覚をあなどるなかれという気がします。それよりこういったケジメ、責任の取り方が、この先慣例となってしまうのだろうか、という危惧のほうが少しします。

熊 本
 9チェ クンシク 
14武富11藤本
7片山26田中
8原田10養父
4廣井5矢野
 6福王 
 18南 
ハーフタイム 田中 俊一 → 大迫 希
後半25分 廣井 友信 → 高橋 祐太郎
後半31分 チェ クンシク → 白谷 建人


鳥 取
29福井 8美尾
17鶴見7小井手
22森10実信
3加藤2尾崎
4戸川6柳楽
 48小針 
後半19分 鶴見 聡貴 → ケニー クニンガム
後半26分 尾崎 瑛一郎 → 奥山 泰裕
後半35分 小井手 翔太 → 岡野 雅行

鳥取の吉澤監督が「ある程度予想していた」というとおり、熊本は前節・福岡戦の途中から試した3バックを、スタートから敷いてきました。そしてこれもまた福岡と同様、鳥取も前からの速く厳しいプレスで全開の勢いでゲームに入ってきた。熊本はそれに押されるように、立ち上がり、ああいった形で引いてしまった。あそこまで自陣ゴール近くでプレーされると、非常にリスクが高まる。さらには激しい向かい風が、ボールごと自陣に押しとどまることを手伝ってしまいました。

開始早々ともいえる10分での失点。大きなサイドチェンジが右サイドの小井手に渡ると、がら空きのスペースからクロスを入れられる。エリア内で福井が戻すところに再び走り込んで来た小井手。豪快にゴールを割られます。3バックの弱点を崩すお手本のようなカウンター。その後も執拗にサイドを攻められました。

しかし、これまた前節福岡戦と同様に、前半30分前後から徐々にペースを奪い返していく。武富からのパスを奪うように田中がPAのなかに猛スピードで入っていく。エンドラインぎりぎりからクロス。田中らしいケレン味のないプレー。チームのエンジンが温まってきた感じ。スカパー解説の池ノ上氏も「あとは崩すときのシフトチェンジだけ」だと。

ハーフタイムを挟んで確実に修正してきた熊本。高木監督の指示もやはり「相手の陣地でプレーすることを心がけ、シュートをもっと打っていこう」というもの。昨シーズンとは違う今シーズンの戦いができているかどうか。ここが一番大事なところ。後半から田中に代えて鳥取キラーとも言える大迫を投入しました。

象徴的なのは、武富が2試合連続で得点できていることではないでしょうか。後半も開始早々、ハーフウェイラインからのリスタートを左側からつなぐと、養父がスルーパス。クンシクがこれをスルーするところに走りこんでいたのは武富。角度のないところを打ち抜いて同点にします。「タケ(武富)には俺が持ったら走れというのは言っていた」(J’s goal)と言うのは養父。一方の武富も「養父さんが前を向いた時に前に走っていれば、そこしかないっていうところにボールが出てくる」と呼応している。狭いところを通す、そして3人目の動きという意味でも、これまでの熊本にはなかった得点シーン。

逆転弾も武富から。相手CBのまごつく処理を狙った守備。クンシクに出たボールを、走りこんできた藤本に優しくロブで渡す。藤本主税はトラップ一発で、DFから遠い左足にぴたりと収めると、GKの動きを落ちついて見極め、ゴールに流し込みました。この一連のプレーが、しかも一瞬のスピードのなかで行われたのです。

歓喜のスタジアム。殊勲の藤本が、思い切りよくゴール裏の看板を越えてチームメイトを手招きする。“お約束”の阿波踊りの周りに、ほとんど全ての選手がピッチ看板を越えて集まって喜びを分かち合っている。こんなシーンも、しばらく熊本にありませんでした。

その後の残された長い時間に、熊本にも幾度かピンチが訪れたことを思えば、ダメ押しの3点目を取れなかったことに不満は残ります。ただ、65分頃に見せた波状攻撃。スローインからサイドでパス交換。養父のクロスに大迫。こぼれ玉に武富。さらに拾って養父。片山に返して藤本が入ってきてシュート。などなど・・・。アタッキングサードで人数をかけ、次々にエリアに人が入って切り崩すパスワークに、まったく鳥取が翻弄されている時間帯がありました。

このゲームでの武富、クンシク、藤本そして養父、前3人とパサーのこの4人の関係性が今シーズンの戦いをはかるひとつのバロメーターであり、とても興味深い点でした。

また、ファビオとクンシクのチョイスについて高木監督は「根植(クンシク)の方が点を取るためにシュートを打たなくてはいけない中で、足を振れる」「ファビオの場合はシュートシーンでもなかなか振れない。点を取れるポジションに入れるか入れないか、そして入った時にシュートを打てるか打てないか、それが大きな差」と語っています。ファビオについてのこの指摘は昨シーズンからあったもの。チームとしてのその課題に早速、ひとつのオプションを試しているということでしょうか。クンシクは、怪我で出遅れた分、まだまだ身体は重そうでしたが、フィジカルの強さを感じさせました。そして絶妙のアシストに見られるように、足元の柔らかさ、判断の早さも。

今シーズンの戦いということで言えば、今節、スタートから3バックに変更した狙いと、手応えを問われて「それなりに良かったんじゃないかなと思います。短い時間で準備した割には、選手たちがよく理解してやってくれた」とさらりと受け答え、「変更した理由は言えません(笑)」とはぐらかしている。高木監督からファンに対して出されたクイズのようなものでしょうか。

奇しくも東日本大震災の1周年の日と重なったこの日。膨大な数の犠牲者、いまだ避難生活を送っている多くの人々のことに思いをはせて、日本中の人々が祈りを捧げました。センターサークルでたたずむ選手たちとともに黙祷を捧げながら、この日、ホーム開幕を迎えられた自らの“平穏”に感謝するしかありませんでした。毎週の一喜一憂を与えてくれる、このサッカーのある暮らしへの感謝を。「養父のスルーパスを観に来るだけでも楽しい」「主税の阿波踊りをまた観たい」そう思える今季を。もっともっと多くの人に知ってもらいたい。そう思いました。