8月4日(日) 2013 J2リーグ戦 第27節
鳥取 0 - 0 熊本 (18:34/とりスタ/3,890人)


後半42分、3枚目の交代カードは黒木でした。これを現状のチーム戦術、池谷スタイルと呼ぶのかどうかは別にして、われわれを唸らせた。そのリアリズム(現実主義)を、改めて思い知らされた気がなぜかしたのです。

下位チームが勝ち点を積んだ今節。確かに勝ち点3を持ちかえれば、それは言うことないかもしれないのですが、ほんとうに近視眼的な結果論で言えば、勝ち点0なら、順位をふたつ下げて18位。降格圏・群馬との勝ち点差が“4”に縮まっていたわけで…。

試合後、「ボール支配率から見れば、勝ち点2を落としたとも言える試合」と、池谷監督代行がふり返るのは、これはもう明らかな評論、結果論であって、勝ち点1を手にしているからこそのコメントだろうと思うのです。

とにかく勝ち点を積んでいく戦い。

20130804鳥取

北嶋を故障で、齊藤を累積で欠く前線を、仲間と堀米の2トップ、トップ下に藤本というシステムに変えてきた熊本。3バックのセンターには橋本という布陣でした。

前半はお互いに守り合い。ある程度までは行くけれど、完全には崩しきれない。サイドで詰まる。これは集中して、守ろう、先制されない、という両チームの強い意志が前面に出たゲーム運び。鳥取もなによりこの順位の近い熊本を叩いて、下位戦線から這い上がろうという狙いの試合。昨年、降格圏内を最後まで彷徨った。その轍は踏まないとばかり。

だからと言って消極的な凡戦ではない。鳥取のプレスの甘さも手伝ってか、熊本はほぼツータッチでボールがよく回る。藤本がいつものように動き回って、収めては前を向く。前半16分には、片山のゴールラインぎりぎりからのマイナスクロスのこぼれ球を藤本が打つ。GK小針の手を抜けたもののDFドゥドゥに防がれる。ハンドではなかったか?その後のドゥドゥの顔面の痛がりようが、逆に不審に思えてなりませんでした。

35分以降あたりの時間帯に、ちょっと足が止まった感の熊本。鳥取のサイドチェンジにファーストディフェンダーが行けていない。やられてみると、サイドチェンジは実に嫌な組み立て。ピンチといえばこのあたりでした。

しかし、修正も確かなものがありました。後半、さすがにスペースができはじめたなと思っても、すぐにコンパクトに戻る修正が働く(両チームともに)。最後まで片山が単騎で攻め上がる場面がなかった。バランスを崩すリスクを冒してまで攻め上がらなかった。

ボール支配率というより、こちらの決定機と相手の決定機が同じくらいの戦いか。両GKも見せ場を作りました。

それにしても、縦に強いパスが通って、収まって、受け手が振り返ると、“サッカーらしく”なるし、ゲームの質が高くなって面白くなるものだ、と実感しました。このシステムで、あの位置での橋本の起用。ただ単に、当たりが強いだけでない。そしてあの縦の選択は、確かにこれまでの熊本にはなかったものでした。

組み立てのなかで、同サイドでのワンツーとサイドチェンジと。縦にズバッと行くところは行く。このぐらい色んな手を見せると、このところ封印気味のロングボールも、また活きてくるのではないでしょうか。

そこで、改めて不思議な気がするのが、なぜロングボールが使われなくなったのか?

昨日の試合でも、途中ファビオが出ても蹴らない。何かこう、主義主張のようにも…。蹴るのは決定的なカウンター狙いの時だけ。

思えば、夏場の消耗を懸念してのことかも知れないと。高木監督時代に一度、いつかのエントリーに書いたことがあります。ロングボールでのキック&ラッシュ、セカンドボールの奪い合いは、選手に相当の体力を要求する。熊本が夏場に失速するのも、その戦術のせいではないかと。

そういえば、ここのところ練習時間も、日中を避けて朝方や夕方に組まれているような。熊本のうだるような暑さのなかで、無用の消耗を避けるように。マネジメント面でもそういう配慮がされているのでしょうか。これも経験値。そして、この大事な局面だけに。

まだまだ、しばらくは勝ち点1を積み上げ、3を狙うゲームが続く。ゲーム運びもそうですが、JFLの時のような、「負けられない試合」「負けない戦術」なのかも知れない。それは監督というより、経営者の戦術にも見えますね。

3月3日(日) 2013 J2リーグ戦 第1節
熊本 1 - 2 鳥取 (15:05/うまスタ/11,116人)
得点者:58' 藤本主税(熊本)、65' 久保裕一(鳥取)、88' 奥山泰裕(鳥取)

負けました。しかも逆転負け。首を長くして待ったシーズン。早く観たくて仕方なかった新監督の采配、新たなメンバーでのサッカーだっただけに、結果は結果とはいえ、気持ちはドーンと沈みます。

KKウィング改め「うまスタ(うまかな・よかなスタジアム)」。ロアッソのホーム名称にぴったりのスタジアムに、午前中から待ちきれないファンが並び始め、最終的には11,000人を超える入場者数になりました。S席も含めてメインからゴール裏までホーム側はぎっしり感とともに埋まった感じ。今回の“動員”方式は、一般500円で全席自由という企画もあって、無料チケットだけでの動員とは一味違うスタジアムの景色。子供たちは100円。同僚の子供(小学生)は、日頃は親に連れて行ってもらうのが、自分の小遣いで行ける金額ということで、友達同士で話し合って、自分たちで出かける計画を立てていたとか。微笑ましくてちょっと嬉しいエピソードでした。

20130303鳥取

試合自体は攻撃的に熊本が支配していたように見えるが、勝負という点での決定的なところは互角。あるいは鳥取に分があったように思います。

熊本の様子も練習試合で受けた感覚とは違っていました。それは開幕戦特有の“硬さ”からくるものか、あるいは鳥取のハイプレッシャーがそうさせたのか。数10センチ単位で起こるパスミス。あるいは足元へのパスを狙われている。選手たちのコメントやいくつかのメディアも指摘しているように、選手間の距離がなんだか遠かった。奪ってからの反転のスピードも、鳥取にうまく守られてブレーキが掛かる。運動量で鳥取の方が勝っていました。

ただ、新たな吉田サッカーを垣間見た面もあります。それは前線に人をかける。攻め込んだときの人数は、得点の期待を持たせてくれる集まり具合。藤本主税の先制点も、シュート自体はアクロバティックで偶然っぽく見えるものですが、(セットプレーからの流れとはいえ)人数をかけた部厚いゴール前の戦術の結果として正当に受け入れたい。そう思います。

得点自体のインパクトもあって、久々のスタジアムの歓声は鳥肌が立つくらい。ピッチ上の選手たちはそれ以上のものだったでしょう。この先制点から7分後までは、本当に至福の時間でした。

やはり課題は大きく背負うDFライン裏のスペースでした。ただ、これも言えることは、練習試合で見たあの新しい守備スタイル、組織で高めの位置で奪い取るというシーンが全くと言っていいほど見られませんでした。こんな感じではない。こんなはずじゃない。そういうわれわれの気持ちは、選手たちの方がよっぽど持っていたでしょう。

鳥取は当然、スカウティング通りに熊本の守備の裏をつく。ただでさえ課題という守備の裏側を。

待望の先制点。多分これまでなら、ブロックを作ってスペースを消して守りきっていた。おそらく。でも、そんな練習はしてないよ、とでもいうような攻撃的な姿勢のままの熊本。しかし、鳥取の圧に押されるようにボランチがバランスを崩すと、中盤を自由にされ始める。

どれだけチームの力を発揮できたかと問われて「60%くらい」と答えた吉田監督(熊日朝刊)。吉田新監督の求める戦術は、基本オーソドックスとは言え、そのうえに非常に高度なものを重ねていくという気がします。そうそう簡単に完成するわけはないとは思っていましたが…。

攻撃的。確かに、ボールが止まることがない、パスの出し先を探すような場面はほとんどない。90分間追いかけまわすだけのチェイシングサッカーではないが、それでも相当な運動量。前半も35分過ぎから、ガクンとペースが落ちた感もありました。

黒木も評判どおりの働きだったし、養父はチームの心臓。しかし、とはいえ、先制点を奪った後、あるいは同点に追い付かれた状況で、あえて一回中盤を締めなおす意味で、どちらかを原田に交代させてもよかったのではないか。素人の縁台将棋と笑われてしまうでしょうけれど、先制の後は、ずっと交代カードに考えを巡らせていました。

ゲームとしては、レベルの高いものだったということは認めるべきでしょう。選手も闘っていた。何かをしようとしてうまくいかなかった。それに不満はない。結果は伴わなかったけれど、今シーズンの監督の意図、チームの可能性は感じられました。シーズンは長い。課題に取り組み、ひとつひとつしっかりとした戦いをしなければ最終的な結果は出ない。

また今年もサッカーがわれわれの日常に戻ってきた。今日はとりあえず、それだけを肴にビールでも飲もうかと思います。

10月28日(日) 2012 J2リーグ戦 第40節
鳥取 0 - 1 熊本 (16:03/とりスタ/3,120人)
得点者:51' 藏川洋平(熊本)


J’s GOALの鳥取側の記者もプレビュー記事で、熊本は「現実的に考えれば、モチベーションが難しい状況ではある」と書きました。われわれも、その点では同意。それ(モチベーション)をどうキープして戦えるのかというところが、この試合の一番の注目点でした。

思えば、これまでのシーズンでは、相当に早い段階で昇格圏は絞られてしまっていたわけで。リーグ終盤のこの時期まで、プレーオフ圏と言う名のモチベーションが保たれるこのシステムは、それなりに効果的だったとも言えるでしょう。

自力ということではなく、あくまでも他力の、計算上の可能性ではありましたが、昇格プレーオフ圏への望みが断たれた前節・横浜戦の敗戦。終戦というべきか。支えていたものが無くなった、あるいは、ポッキリと折れてしまった、そんな状態なのか。身も蓋もない言い方をするならば“消化試合”ともいえる。

「残り3つで9ポイントを取る、それがわれわれの最低限度の目標になりました」と高木監督が言う。それは目標とも言えないような目標。それで選手たちのモチベーションが保てるのだろうか。

そこに、この試合に勝てば残留決定という、これ以上ないギリギリの状況で、それでも自力で自らの命運を決められるという鳥取が相手。しかも相手のホーム。少しでも気後れすれば、あっと言う間に持っていかれそうな予感は試合前から感じていました。

鳥取20121028

しかし、そんなわれわれの不安を吹き飛ばすような序盤。中盤を制圧し、セカンドを支配し、主導権を握る熊本。片山、藏川。両SBが高く上がって攻撃に参加する。右藏川からのクロスに大迫がニアでそらすもゴールの左に抜ける。惜しい。藤本からのパスを市村が前で落として、養父のシュートはDFに阻まれる。

ただ、慌てていた鳥取もポジションの修正を図ると、徐々にペースを掴み始める。中央の住田に通されるとDFがクリアしたボールは左にいた小井手の足元に。このシュートはバーに当たって事なきを得ますが、その後も鶴見から小井手が落として住田の決定的なシュート。これは守護神・南の手中に収まりました。

値千金の先制点、そしてこの試合の決勝点は後半6分。熊本のポゼッションから、原田が縦にループで入れる。そこには左から機を見計らった藏川がするすると入り込んでいた。自分の後ろからくるそのパスをダイレクトで振り切る。シュートはネットを突き刺しました。

後半、右SBから右SHの市村とポジションチェンジしていた藏川。指揮官の「もう少し流動的な動きのなかで(サイドだけではなく)中央でボールを受けて相手の懐に入る」という意図によるものでしたが、いずれにせよゴールに近づいた藏川が、その期待どおりに結果を残したのですから指揮官の采配はみごとに奏功しました。

それにしても藏川。確かに原田のパスもピンポイントでしたが、斜めに走り込んだとはいえ、ほとんど真後ろからのボールを、ダイレクトボレー。これまでの藏川のフィニッシュの“実績”を思い浮かべたとき、悪いんですが、あのシュートは正直とても想像できるものではありませんでした(笑)。「1年に1度しかゴールしないと柏の時から言われている(笑)」と南もブログで書いていますが、その一度しかないゴールも、いつもスーパーなゴールなのだと言います。

先制した試合は負けがない熊本。後はしっかりとブロックを敷き、明らかに守備を固めながら、カウンターの一発狙いへ戦術を転換。スカパー!実況の解説者が何度も口にしたように、打てばDFに当たって入ることだってあるというシュートも、鳥取の打たない“パス”に救われる場面が何度も。そして、GK南の安定したセービングにゴールを割られることはありませんでした。

町田との対戦のとき、降格戦線を彷徨う町田のことを”手負いの獅子”と表現しました。この鳥取は、それにも増して「この試合に勝てば自力で残留が決まる」という状況において、荒ぶるような猛獣のようでした。しかも、この試合時間の前に、最下位・町田が岐阜に勝利し、勝ち点差4に迫っていた状況ならなおさら。

その”猛獣”の攻撃をうまくかわしながら、急所を一突きした。その後も荒れ狂う相手をいなしていなして、我慢して。90分戦って、ようやく力尽きたのを見届けた。矛と盾をうまく使い分けた。”我慢のゲーム”。全くそんな試合。

勝ち点というのは、こうやって積み上げるんだというリーグ戦サッカー。モチベーションがどうのこうのと心配する以前に、「大人になったなぁ」としごく感動を覚える内容でした。

「今までのロアッソは負けた試合の後、あっさり連敗してしまったり、良くても点がとれず引き分け止まりだったりするゲームが多かったけれど」と、南はブログで続ける。

「今日は最初からいい入りが出来て内容でも相手を上回れたと思うし、最後押し込まれた場面でもバタバタする事なくみんなが体を張ってしっかりと逃げ切れたのはチームが成長している証だと思う」と。

「前節昇格の可能性がなくなり、相手は残留争い真っ只中のチームでともすればモチベーションで圧倒されかねない試合でしたが」とは南も認めるところ。鳥取側にとっては、熊本には何のモチベーションもないだろう、あるいはモチベーションでは優るだろうと明らかに予想していたのでしょう。スカパー!試合後のヒーローインタビューで、その点を問われた藏川は、「厳しい試合になるのは予想していた」と前置きしながら、「”プロとして”1試合1試合に結果を求めるのは当然」だとキッパリと応えました。

リーグ戦も残り2試合。次節はアウェイ・甲府戦。これまた、昇格という最大の目標を達成してしまったチーム。終盤において、さらに“難しい”ゲームになるだろうことは必至。どう戦うのか。それを見届ける。まだまだ今季の楽しみは終わっていません。


3月11日(日) 2012 J2リーグ戦 第2節
熊本 2 - 1 鳥取 (16:04/熊本/5,817人)
得点者:10' 小井手翔太(鳥取)、46' 武富孝介(熊本)、52' 藤本主税(熊本)


「花冷え」というには厳しすぎる寒風に足が遠のいたのか、J加盟以来のホーム開幕戦としては最低の入場者数に、少々落胆しました。直前(金曜日)の社長交代劇の影響と関係がないとも言えないのかも知れない。微妙なファンの心理。何がきっかけになるかわからない熊本人の気質。

経営的には待ったなしの状況。ややタイミングを逸した感じですが、それでも他にも多くのクラブが似たり寄ったりの財政のなか、いち早く財務状況を開示し、さらには代表者が責任をとる形で辞意を表明したことは、「公的資金が投入されている」会社としてのケジメなのだろうし、県民クラブとしてのコンプライアンスに他ならなかったのでしょう。後任の池谷氏の経営手腕を不安視する声もありますが、実業団時代の選手兼大企業ビジネスマンの感覚をあなどるなかれという気がします。それよりこういったケジメ、責任の取り方が、この先慣例となってしまうのだろうか、という危惧のほうが少しします。

熊 本
 9チェ クンシク 
14武富11藤本
7片山26田中
8原田10養父
4廣井5矢野
 6福王 
 18南 
ハーフタイム 田中 俊一 → 大迫 希
後半25分 廣井 友信 → 高橋 祐太郎
後半31分 チェ クンシク → 白谷 建人


鳥 取
29福井 8美尾
17鶴見7小井手
22森10実信
3加藤2尾崎
4戸川6柳楽
 48小針 
後半19分 鶴見 聡貴 → ケニー クニンガム
後半26分 尾崎 瑛一郎 → 奥山 泰裕
後半35分 小井手 翔太 → 岡野 雅行

鳥取の吉澤監督が「ある程度予想していた」というとおり、熊本は前節・福岡戦の途中から試した3バックを、スタートから敷いてきました。そしてこれもまた福岡と同様、鳥取も前からの速く厳しいプレスで全開の勢いでゲームに入ってきた。熊本はそれに押されるように、立ち上がり、ああいった形で引いてしまった。あそこまで自陣ゴール近くでプレーされると、非常にリスクが高まる。さらには激しい向かい風が、ボールごと自陣に押しとどまることを手伝ってしまいました。

開始早々ともいえる10分での失点。大きなサイドチェンジが右サイドの小井手に渡ると、がら空きのスペースからクロスを入れられる。エリア内で福井が戻すところに再び走り込んで来た小井手。豪快にゴールを割られます。3バックの弱点を崩すお手本のようなカウンター。その後も執拗にサイドを攻められました。

しかし、これまた前節福岡戦と同様に、前半30分前後から徐々にペースを奪い返していく。武富からのパスを奪うように田中がPAのなかに猛スピードで入っていく。エンドラインぎりぎりからクロス。田中らしいケレン味のないプレー。チームのエンジンが温まってきた感じ。スカパー解説の池ノ上氏も「あとは崩すときのシフトチェンジだけ」だと。

ハーフタイムを挟んで確実に修正してきた熊本。高木監督の指示もやはり「相手の陣地でプレーすることを心がけ、シュートをもっと打っていこう」というもの。昨シーズンとは違う今シーズンの戦いができているかどうか。ここが一番大事なところ。後半から田中に代えて鳥取キラーとも言える大迫を投入しました。

象徴的なのは、武富が2試合連続で得点できていることではないでしょうか。後半も開始早々、ハーフウェイラインからのリスタートを左側からつなぐと、養父がスルーパス。クンシクがこれをスルーするところに走りこんでいたのは武富。角度のないところを打ち抜いて同点にします。「タケ(武富)には俺が持ったら走れというのは言っていた」(J’s goal)と言うのは養父。一方の武富も「養父さんが前を向いた時に前に走っていれば、そこしかないっていうところにボールが出てくる」と呼応している。狭いところを通す、そして3人目の動きという意味でも、これまでの熊本にはなかった得点シーン。

逆転弾も武富から。相手CBのまごつく処理を狙った守備。クンシクに出たボールを、走りこんできた藤本に優しくロブで渡す。藤本主税はトラップ一発で、DFから遠い左足にぴたりと収めると、GKの動きを落ちついて見極め、ゴールに流し込みました。この一連のプレーが、しかも一瞬のスピードのなかで行われたのです。

歓喜のスタジアム。殊勲の藤本が、思い切りよくゴール裏の看板を越えてチームメイトを手招きする。“お約束”の阿波踊りの周りに、ほとんど全ての選手がピッチ看板を越えて集まって喜びを分かち合っている。こんなシーンも、しばらく熊本にありませんでした。

その後の残された長い時間に、熊本にも幾度かピンチが訪れたことを思えば、ダメ押しの3点目を取れなかったことに不満は残ります。ただ、65分頃に見せた波状攻撃。スローインからサイドでパス交換。養父のクロスに大迫。こぼれ玉に武富。さらに拾って養父。片山に返して藤本が入ってきてシュート。などなど・・・。アタッキングサードで人数をかけ、次々にエリアに人が入って切り崩すパスワークに、まったく鳥取が翻弄されている時間帯がありました。

このゲームでの武富、クンシク、藤本そして養父、前3人とパサーのこの4人の関係性が今シーズンの戦いをはかるひとつのバロメーターであり、とても興味深い点でした。

また、ファビオとクンシクのチョイスについて高木監督は「根植(クンシク)の方が点を取るためにシュートを打たなくてはいけない中で、足を振れる」「ファビオの場合はシュートシーンでもなかなか振れない。点を取れるポジションに入れるか入れないか、そして入った時にシュートを打てるか打てないか、それが大きな差」と語っています。ファビオについてのこの指摘は昨シーズンからあったもの。チームとしてのその課題に早速、ひとつのオプションを試しているということでしょうか。クンシクは、怪我で出遅れた分、まだまだ身体は重そうでしたが、フィジカルの強さを感じさせました。そして絶妙のアシストに見られるように、足元の柔らかさ、判断の早さも。

今シーズンの戦いということで言えば、今節、スタートから3バックに変更した狙いと、手応えを問われて「それなりに良かったんじゃないかなと思います。短い時間で準備した割には、選手たちがよく理解してやってくれた」とさらりと受け答え、「変更した理由は言えません(笑)」とはぐらかしている。高木監督からファンに対して出されたクイズのようなものでしょうか。

奇しくも東日本大震災の1周年の日と重なったこの日。膨大な数の犠牲者、いまだ避難生活を送っている多くの人々のことに思いをはせて、日本中の人々が祈りを捧げました。センターサークルでたたずむ選手たちとともに黙祷を捧げながら、この日、ホーム開幕を迎えられた自らの“平穏”に感謝するしかありませんでした。毎週の一喜一憂を与えてくれる、このサッカーのある暮らしへの感謝を。「養父のスルーパスを観に来るだけでも楽しい」「主税の阿波踊りをまた観たい」そう思える今季を。もっともっと多くの人に知ってもらいたい。そう思いました。

10月26日(水) 2011 J2リーグ戦 第7節
鳥取 0 - 1 熊本 (19:03/とりスタ/1,994人)
得点者:53' 大迫希(熊本)

相手FWハメドがすべてだったのかも知れないなと思った試合でした。2週間前の天皇杯2回戦、0-3の敗戦時、1得点2アシストしたこのコートジボワール人を止められなかった。菅沼が語るように「ハメドにやられないように、個人的にも強く(当たりに)いった。前半はやらせなかったと思う」というところが今日の熊本の最終ラインの意図であり、そこに集中していました。

最近5試合(天皇杯含めて)3勝1敗1分と、決して悪くない状態の鳥取。連戦という両チーム共通のテーマのもと、土曜日にホームで札幌に勝ち、そのまま中3日でホームゲームに臨む鳥取。対する熊本は日曜日のホームから中2日でアウェー戦。このあたりのコンディションはなかなかデリケートに影響してくるのかと思いました。10月も下旬のナイトゲーム。寒冷前線の影響もあって気温は14度。グラウンドコートを着て入場した熊本のイレブンでしたが、試合開始後すぐに汗が吹き出している様子が画面からもわかる。これも、それが疲れからなのか、それともそれほど開始から走っているということなのか。

鳥 取
 9ハメド 
7小井手10実信
6服部13美尾
 28三浦 
3加藤2尾崎
23水本4戸川
 48小針 
前半12分 加藤 秀典 → 鈴木 伸貴
後半18分 小井手 翔太 → キム ソンミン
後半37分 鈴木 伸貴 → 奥山 泰裕


熊 本
 27ファビオ 
14武富13大迫
25西森22吉井
8原田
24筑城2チョ ソンジン
4廣井28菅沼
18南
後半13分 武富 孝介 → 片山 奨典
後半27分 吉井 孝輔 → 根占 真伍
後半37分 ファビオ → ソン イニョン


前半。スカパー!の解説者が「ガイナーレの攻めで、熊本は両SBが上がれない」「前節は両SBが高い位置から攻撃の起点になっていたのに」と、1試合だけのにわか勉強で指摘していましたが、われわれから見ると天皇杯の敗戦のイメージから、ハメドにまずサイドのスペースを与えないように慎重に入っているだけだと映りました。そしてボールを持ち、侵入してこようとするハメドに対しては、必ず二人で対応して左(左利き)を切る。実にしっかり対応していました。

前回のリーグ戦。KKウィングで対戦したときは、そのレポートに彼のことを鳥取の「ゲームメーカー」と書きました。パスも出せて、自分で点も決める。こういうタイプの外国人は、他のチームでもよく見ますが、いかんせん“チームの状況=彼のパフォーマンス”になってしまうきらいがある。自由が与えられる反面、“戦術はハメド”と揶揄されるような。調子に乗せたら怖い。しかし的確に押さえ込んだらチーム全体が動かない。前回ホーム対戦時はそれに成功し、アウェーの天皇杯では失敗した。そして今回はそのリベンジでした。

リベンジという意味では、もうひとつありました。南のブログで明かされた、試合前のミーティングでの高木監督の言葉。今日は絶対勝たなければいけない理由があると。天皇杯時に得点を決めたあと、ハメドが熊本のゴール裏を挑発し侮辱した行為を思い出させ、「自分達のせいでサポーターまで馬鹿にされたんだっ。俺は絶対に許せない。だから今日はサポーターのためにも絶対にリベンジしなきゃいけないんだっ!!」と。南でなくてもこのセリフに「燃えないはずはない」。ハメドはすでに前の試合で、熊本の選手たちに“火”を着ける理由を与えていたのでした。

南が書きます。「今日は“どうしても勝つんだ”って気持ちが後ろから見ていてもみんな溢れているように見えてホント心強かった」「みんな疲労もピークだったと思うけど、今日が4試合の中で1番動けてたと思う」と。戦術だけでなく、そこにメンタルも加わった。だから90分間、あそこまで前線からプレスを掛け続けられたのだと思います。

エジミウソン、長沢が傷んでいるなかで、前節、先発から外した原田、吉井、大迫をスタメンに。市村をベンチに置いて筑城、ソンジンでスタート。後は選手の状態を見ながら、武富、ファビオ、吉井を下げていく。吉井、根占が復帰したことが、熊本の“総力戦”にとっては、やはり大きい。そのなかでも、ワントップを任されたファビオの献身的な追い込みは目を見張るものでした。

後半8分。先制点かつ決勝点になった大迫のシュートの場面。熊本は鳥取が作る2列のブロックを右サイドから崩して攻める。鳥取のクリア。それを高い最終ラインで押し返すと、ボールをトラップしたのは右サイドの大迫。自身のトラップボールがワンバウンドしたところを、すかさず思い切って打つ。ゴールからはまだ30メートルもあった距離からでしたが、ドライブがかかったシュートは、若干前目に出ていたGK小針の伸ばした手をあざ笑うかのように、ゴールに吸い込まれていきました。

「ゴールキーパーのポジションを見ていて打ったと、彼の口から聞くことができるのなら、非常に成長したと思う」という高木監督に対して、「完全には見えていないですけど(笑)、前に出ているという感覚は、いつも持っているので。自分としては、自分が持っている力が出たシュートだったのかな、と思います」とインタビューに答えた大迫。それでいい。ちょっと前まで90分間フルに走れなかったこの生え抜きの“逸材”は、今年一番の成長を見せ、今やチームに欠かせない存在になっている。

スカパー解説者は、熊本は後半、特に先制してから、見違えるくらいに運動量、前線からのプレスが厳しく、守備がはまっていた。と分析していました。「点をとってから元気になった」と。しかし決してそうではない。鳥取サイドの言葉を借りても、「今日はなかなかパスの出しどころがなかった。相手の守備、こちらのパスの受け方、両方に原因があった。裏へのパスも相手が対応していました。うまく守備ではめられているシーンが多くて、そのときにどうするか。後半になったら、もう少し回せるかと思ったけど、相手もペースが落ちませんでした」(戸川健太)。

「前半、相手の前からのプレッシャーは予想していました。それを裏返そうと、前節、(前々節の)岡山戦と同じ意識で入ったつもりです。ただ、結果的に攻撃が単発になり、むやみにスピードが上がり過ぎた。(中略)スピードが上がり過ぎて、うまく活用できなかった。そこが体力的にも、あとあとに響く結果になってしまったと思います。後半、相手は体力面で、90分間を通してアグレッシブに継続してきた。それが、自分たちがボールをうまく動かせなかったことと比例して、ゲームをうまく運べなかった要因だった」(松田岳夫監督)と。

前半は両者拮抗していたものが、後半、鳥取の運動量が急激に落ちたことで、熊本が“見違えるように”活性化したように見えた、ということではなかろうかと。つまり熊本は90分間、一貫してパフォーマンスは変わっていない。実はそれがこの試合の熊本の一番評価されるべきところだと思うのです。

この連戦の4試合目というのに、選手全体のきわめて高い集中力、連動性と豊富な運動量。そのあたりを、まるで軽く煙に巻くように「われわれの方が少しコンディションが良かったのかな」と答えた高木監督でした。

さらに「(先制した後に)2点目を取りにいくということは、ハーフタイムに選手たちからも声が出ていましたし、僕自身も望んでいたことです。そのあたりをもう少し貪欲にいかなければいけないかなと思っています」と指揮官は言うものの、その後も途絶えることがなかった前線から連動したディフェンスは、貪欲に2点目を狙ったというよりも、むしろ相手の攻撃の目をつむための“守備的な”ものと思えました。ファーストディフェンダーから、二人目、三人目と、解説者が丁寧に分析してくれたほど、実にお手本のような組織的守備を見た思いがしました。熊本の2列のブロックを崩せない鳥取は、ハメドがどんどん中盤まで降りてくるという状況に陥る。それは前回勝利したゲームの再現でした。

アディショナルタイム3分を、コーナーでキープして時間を使う熊本。終了のホイッスルが鳴るときに、焦れてそのコーナー付近までボールを奪いにきていたハメドの、苦しげにゆがんだ表情がそこにありました。

先制してからもあれだけ前線からいって、しかもコンパクトにしようとしてラインを高く保てば、必然的に裏をとられるリスクは高まる。しかし、そういった相手のプレーの意図や精度を奪うくらいに、前線から追い込んでいたといことでもあると思います。結局、90分間運動量が落ちないで守備が機能し続けた熊本。何度も繰り返しになりますが、今日はそれしか言えません。

サッカーは所詮、生身の人間のやるゲーム。ひとりひとりの、またチーム全体のコンディションがいかに直接的に影響してくるかがわかるゲームでもあり、またメンタルがそれをどう補うのかということも考えさせられたゲームでした。「次の試合までにできるだけ良い状態にして、連戦の最後を勝利で終えるように頑張っていきたい」という当たり前のような指揮官のコメントですが、これはまったくの本音でしょう。

次節は、ファビオとソンジンが累積で欠場。武富も痛めているという情報があり心配されます。エジミウソンと長沢の故障は癒えるのか。相手は昇格圏を争う札幌。連戦の最終戦にして、本当の“総力”が試される戦いになりそうです。札幌厚別アウェー戦。38試合のなかの1試合とはいえ、この状況においては、色々なことが試されるとても重要な山場のように思えてきました。