4月29日(水) 2009 J2リーグ戦 第11節
東京V 2 - 4 熊本 (16:03/味スタ/4,540人)
得点者:29' 大黒将志(東京V)、31' 柴崎晃誠(東京V)、38' 藤田俊哉(熊本)、50' 木島良輔(熊本)、53' 中山悟志(熊本)、65' 福王忠世(熊本)


テストマッチやプレシーズンマッチはともかく、このチームと公式戦でいよいよ戦えることになりました。1993年、Jリーグ元年を知る人にとっては忘れられない。長年の宿敵・横浜マリノスとの開幕戦。派手なパフォーマンス。ブラジル帰りのカズを始めオールスターズとも言うべきタレント達。日本のクラブサッカーの歴史を牽引してきた読売クラブ。今や経営面では苦境に立たされていると言われていますが、熊本としては“名門”クラブとの初顔合わせに違いありませんでした。

東京V (先発フォーメーション)
27林 9大黒
15滝澤10レアンドロ
5河村8柴崎
23藤田18永里
32高橋14富澤
 1土肥 
舞台は味の素スタジアム。名前負け以前に、呑まれなければいいが…。しかし、そんなわれわれの心配は全くの杞憂だったようです。戦前、「今日は点が入りそうな気がする」と語っていたという藤田。それを現実のものとしたこのJ2リーグ初得点は、メモリアルゴールなどという浮ついたものではなく、本当に試合の流れを決定的に左右する貴重なゴールになりました。もちろん、今日の4つのゴール全てが、流れのなかでの重要な得点に違いないとしても、逆転の口火を切った藤田のゴール。この1点の重みは明らかに違っていたと言わざるを得ません。

過酷な日程のこのゴールデンウィーク中の連戦。われわれの頭の中にも、このゲームのスタメン、どこかで藤田は休ませるだろうという先入観がありました。だから、戦前の熊日の予想フォーメーションにも驚くことはなかった。しかし予想に反して、今日のピッチにも藤田の姿がありました。その腕には河端に代わりキャプテンマークまで巻かれていて…。

われわれも彼の実力は認めつつも、この年齢、このキャリア。昨シーズン、名古屋でのリーグ戦出場はわずか8試合。藤田移籍のニュースを聞いたときに、驚きや期待と同時に、正直なところ、抱えている身体的故障もあるだろうし、積年の疲労もあるだろうし、全戦出場は無理ではないか、という思いがあったのは事実です。しかし今シーズンはすでに開幕から全試合スタメン。ほとんど完全なフル先発出場、期待され、現場指揮官としての役割も果たし、それに応えるコンディションを維持している。これだけのパフォーマンスを発揮してくれるとは思っていませんでした。われわれの思いを(いい意味で)完全に裏切る、想像をはるかに超えるものを見せてくれていると思います。

いやそれは、「与えられている」もの、チームから求めているものだけではないのかも知れない。彼自身がコンディションに注意を払い、自らが貧欲に出場を求めていることの結果ではないかと…。それにしても、その湧き上がるようなモチベーションは、何なのかと…。

試合は序盤から熊本がペースを掴みます。先発で中盤に入った吉井から中山へのスルーパス。中山がシュート。これはベテランGK土肥がクリア。「連戦の中でキーマンになる男」と名指しされた吉井。そして山本、石井、藤田の4人で構成するダイヤモンド型の中盤は、決して石井のワンボランチではなく、あるときは3ボランチであり、攻撃に転じたときはサイドに高く張る4-1-3-2に変化します。山本、吉井の汗かきコンビによる攻守に柔軟なフォーメーション。われわれが密かに待ち望んだ形でもあります。サイドで吉井の執拗なプレッシャーを受けてイライラが募るレアンドロ。攻勢の熊本。

しかし29分、一瞬の隙。右サイドからのパスに大黒がDF裏に抜け出しダイレクトシュート。均衡を破ります。ボディバランスに優れる大黒ならではのシュート。さすがに元日本代表と思わせるプレーでした。さらに続く31分には、ソンジンを背にしてPA内でキープ。走り込んできた柴崎に追加点を許します。ソンジンと福王のCBが、大黒ひとりに翻弄されている。

ポゼッションはわが方にあるのに、立て続けの失点。前節・仙台戦の悪夢を思い起こさせる展開に不安がよぎりました。しかし、それを打ち破ったのが藤田のゴール。38分、ゴール前での軽快なパス回しから右サイド市村がPAに入れる。DFのマークからうまくフリーで中に入っていた藤田が、ヘッドでゴールに突き刺す。待ちに待った熊本での初ゴール。しかもそれは「2点ビハインドぐらいで下を向くな。俺たちは勝てるんだ!」というメッセージ。チームキャプテンから発せられた“反撃ののろし”のように見えました。

前半終了間際の危ない場面を凌いでハーフタイム。藤田は一番に元気よく控え室に走っていく。ゴールを得たからこその“気合”なのか。いや「後半の修正点が見えたぞ」という、現場指揮官ならではの責任感に感じられました。おそらく控え室では、監督の指示を補足し、選手を叱咤していたのではないのか…。

後半は、試合後のインタビューで「失点はミスから。ボールを回し続ければ相手は足が止まる」と北野監督が語ったとおりの展開になりました。前節で憂いた3人目、4人目の攻撃参加が、今日の熊本にはありました。5分、DFライン左ギリギリに出たパスを木島がドリブルで切り返しペナルティアーク付近からミドルシュートで同点にする。点を決めながらも自身が一番驚いた表情の木島。しかし、この人一倍シャイな男の心のなかには、他人(ひと)にはわからないこの対戦への特別の想いがあったはずでした。戦力外通告のあと、ヴェルディユースやベレーザに練習の場を求めたこともあった。そのどこにもぶつけ様のない苦しかった頃の思い、そしてお世話になったという思いが、この“一蹴”に結集していました。試合後のインタビューで「どことやるよりも、ここに点を取れたことが嬉しい。」と語った言葉が、全ての思いを言い表していました。

動揺が隠せないヴェルディ。ミスが目立ち始め、思うように持ち上がれない。続く8分には、中盤で熊本が奪うと素早くカウンター。藤田から出されたボール、右サイドを駆け上がった山本がファーサイド奥深くに上げたクロス、中山がスライディングしながら厳しい角度のボールを左足に当ててゴールに押し込み逆転弾とします。流れは完全に熊本。

21分には、再びゴール前でボールを回すと、PA内に木島が縦に入る。クロスを放つと、上がっていた福王がダイレクトボレー。自身Jリーグ初ゴールとなる貴重な駄目押し点を決めました。ケガに泣いて今日が今シーズン初出場、初先発の福王。セットプレーのあとも、執拗に前線に残り、相手DFとガチンコで決めたボレー。何かが乗り移ったような気迫のプレー。胸のエンブレムを何度もこぶしで叩きながら、沸きあがる関東サポの待つゴール裏に駆け寄ります。4得点。FW二人、MF,DFの4人がそれぞれ記録した4点。誰が出ても、同じようにやれる。どこからでも点がとれる。コンパクトな全員の運動量で勝ち取ったいかにも熊本らしいものだと思います。

ヴェルディは、林に代えてベテラン船越を投入。さすがにこの男の高さのあるポストプレーには福王とソンジンが手を焼きます。立て続けに決定的に危ない場面。しかし、最後は怪我から復帰したGK稲田のスーパーセーブで守り抜く。今日は、サッカーの神様は熊本に味方しているのでは…。残り15分を切り、殊勲の藤田を下げて小森田、吉井には宮崎、木島には西森と、交代のカードをフルに使いきり、耐える時間を凌ぎきって、実に貴重な勝ち点3を手に入れたのでした。

それにしても、今日は前半での1点奪取、藤田の初得点に尽きました。この1点がチームを鼓舞した意味は計り知れないでしょう。ファンとしても待ちに待った藤田の初ゴールが、こんな重要な得点になったことが何よりも嬉しい。そして、熊本のゴールの記録、あるいはJリーグの得点記録のなかで、「藤田俊哉(ロアッソ熊本)」と刻まれることが何よりも誇らしい。この男と今、われわれ熊本は共にあることが誇らしいのです。

37歳、競技生活の終盤を迎えていることは事実でしょう。しかし、あくまで現役にこだわり、縁もゆかりもない、遠い熊本の地を選んだ(選んでくれた)。しかし、われわれは、藤田がいるから強くなった、良くなった。あるいは藤田がいなければどうなっていたか、というような、藤田礼賛をするつもりはありません。

昨年9月のリーマンショック、そしてその後の世界恐慌とも言える状況。多くのプロスポーツでスポンサードが深刻な影響を受ける中、Jリーグでも昨シーズンオフには、これまでに例のない規模で、多くのベテラン選手が放出されました。もちろんある意味で世代交代の節目のような時期とも言えますが、そんななかで藤田俊哉という、日本サッカー界の“宝”ともいうべきプレーヤーが名古屋を去ることになった。

「自分が名古屋を去る事になった時に、一番に、『このチームに必要だ』と言ってもらえた。『ロアッソ熊本のために力を貸してくれ、思い切りサッカーをしてくれ』と、まあ、この思いが全てです。細かい事はいろいろありますけど、大きなひとつと言ったら、『君が必要だ』と強く言ってもらえた。ここに僕は感動して、ここでプレーすると決めました」(J‘sGOAL)。移籍会見でのコメントがすべてでしょう。彼自身も指摘しているように、練習場などこれほどに乏しい環境に身を置いたことはかつてなかったでしょう。しかし51試合というレギュレーションも含めて、彼はチャレンジした。

今の藤田の心境、思い。もちろん、本人に聞いてみないとわかりません。しかし、彼の試合中の表情やコメントを見る限りでの印象ですが、われわれは、ここに至って、彼自身、もうひとつの黄金時代を迎えているのではないか、などと勝手な想像をしています。トッププレーヤーとしての全盛期とはまたひとつ違う意味で。

彼は今、プレーヤーとしてチームの勝利に貢献することはもちろん、あらゆる場面を通じて自らの経験を伝え、また自らの取り組む姿勢を範として示し、若いプレーヤーの成長を促し、チームの成長に力を尽くしている。何よりチームに自信をもたらした。J2のどのチームと対戦しても、少なくともわれわれファンのレベルでは全く気後れすることがなくなったなあというのが率直な実感ではないでしょうか。

また、もうひとつ、おそらく彼はこれからの日本サッカー界で、プレーヤーとしてのこれまでのキャリアとはまた違った重要な役割を担っていく人物だとも思っています。彼自身も、J2のこの環境に身を置くことで、かけがえのない経験を積んでいるのではないかと。日本サッカーの末端であると同時にベースを形作っている部分。J1のビッグクラブでは決して感じられない何かを、彼なりに吸収しているのではないかと。

さてさて、しかし、今日の結果に沸き立ち、すぐに基本的なことを忘れてしまいがちなわれわれファンに対して、やっぱり藤田は、藤田らしい落ち着いたコメントで明日からの戦いに気持ちを切り替えさせてくれています。

「最初に2点をとられると、ほとんどのゲームは終わるのが普通。失点にはいろいろな原因があるけれど、あまりにもフリーにしすぎない、集中力を切らさずマークにつく、などまだまだ問題は多い。ゲームを支配していたからといって勝てるというものではないということは、一番良く知っている。ここからが課題だと思います」(J‘sGOAL)

それはまるで、次節、今季新加入の岡山との初対戦に対する謙虚な心構えを伝えているようにも聞こえて。ファンとしても気を引き締めて応援しようと思わせるのでした。

4月26日(日) 2009 J2リーグ戦 第10節
熊本 0 - 3 仙台 (16:03/熊本/5,223人)
得点者:42' 梁勇基(仙台)、46' 梁勇基(仙台)、86' マルセロソアレス(仙台)


しかし、勝ち誇った敵将は口が滑らかになるもんですね。先日の湘南・反町監督の“うそぶき方”にも苦笑しましたが、今節後の手倉森氏も。熊本のシステムへの対応を問われていわく「昨日、ホテルに入った時に、熊日新聞に、今日のシステムが書いてありました(笑)」(J‘sゴール)って・・・。3トップで来るか2トップかの対策において、多少の比重配分の助けにはなったかも知れませんが、今時、ネットも含めてどこでも見当たる予想フォーメーション。そんなものが実際のスカウティングに上回るはずもないと思います。

ただ今日の熊本。相手のいいところを潰しあうのが“戦い”なのだとしたら、ここ2節、連続ゴールを決めているFW平瀬に矢野が徹底したマンマークで着いたものの、一番の要注意人物に“仕事”をさせてしまいましたね。

仙台 (先発フォーメーション)
13中島 14平瀬
10梁11関口
31斉藤8永井
27朴25菅井
3渡辺6エリゼウ
 16林 
梁勇基。ロペスや萬代を欠いてどうなることやらと思われた昨季の仙台を支え、入れ替え戦まで進めさせた立役者。この男の攻撃センスとキック能力を甘くみていたわけでもないでしょうに・・・。前半スコアレスかと思われた42分。矢野が与えたゴール前20メートル程度からのFK。たった一人でボールの前に立つと、ゴール右隅に撃ち込みました。その少し前、34分のバーを越えたFKが“練習”として活かされたのだとしても、右足と分かっている相手がひとり。左にそうそう決めきれるわけはなく、吉田が一歩も動けないというのはいただけない。“読み”以前に壁の作り方も含めての問題ではないでしょうか。また、後半巻き返すぞ、という立ち上がりの時間帯にも、今度は河端のファウルからほぼ同じ状況で失点。FKを与えたこの直前のプレー。 DFの“気合”はわかりますがが、二つの場面、いずれもチェックが遅れている。梁に許していい距離ではありませんでした。

セットプレーで2点のビハインド。しかし前半はポゼッションを保てていたので、とにかく何度でもチャレンジして、我慢して続けていけば必ず点は取れる。そうファンは信じて応援しました。ある意味開き直ったように・・・。ところが、アタッキングサードでどうしてもブレーキが掛かったように攻撃が止まってしまう。仙台のディフェンシブサードへの素早い戻り。すぐに守備バランスを整えブロックする。さらに“読み”のいいチェック。ここぞというところでは恐ろしく速く、そして強く行く。組織的な守備のお手本を見るようでした。さらに攻撃に転じたらアタッキングサードでのギアチェンジ。3人目、4人目の動き出し、両SBも加えた縦への突破でバイタルエリアを脅かします。見るからにオートマチィズム。無謀に走り回るだけではない、ある意味それは“省エネ”サッカー。先日の湘南を彷彿とさせました。熊本が個々のアイデアが“繋がらず”、「他人(ひと)を活かして自分も活きる」というプレーがないのと全く対照的でした。

刻々と過ぎていく時間。選手交代も、リスクを賭けた前掛かりな攻撃も仙台の堅い守備網をこじ開けることは出来ませんでした。運動量による疲労というより、今日は「めげる」ことでも体力は奪われるということを知りました。終了間際には、ルーズボールを緩慢に追いかけていた原田に追いついた梁が、途中交代のソアレスの駄目押し点をアシスト。終了のホイッスルが吹かれたあとも、遠く足を運んだ仙台サポーターの“梁コール”がいつまでも続きました。

敗戦にもかかわらず北野監督の顔には何故かしら笑みがありました。試合後の会見でも「こういう時もあるかなと思います。」とサバサバとしたコメントを残しています。『選手が何かを学ぶなら、勝ったときより負けたとき、敗北から学ぶことが本当に大きい。ここ何試合かいい試合をしていたが、負けから学ぶことがある。』かつてオシムがそう語ったのと同じ心境だったのかも知れません。

ゲーム自体は見たとおりのものでした。しかし、仙台の堅い守備網のなかでも、短かい時間帯だったけれど、幾度も熊本のペースで決定機を作ることができていた。あとは決めるだけという瞬間もあった。まさに決めればいいし、決まらなければこうなる。前半15分までの熊本のいいリズムが、その後、仙台に押され続け、思うようにならない時間帯でファウルが目立ち、FK2発という飛び道具に沈んでしまいました。客観的に言っても、Jで一試合に、同じ選手が2本もFKを決めることはあまり記憶にありません。

しかし、そうさせたのも自分たち。思うようにならないとき、FKを2本も決められてどうしようもないときでも、自分たちの戦いをしなければ課題も、修正も(そして成長も)ないわけです。大敗、完敗というよりも、試合になる前に自ら試合を壊してしまったような、そんなゲームだったように感じています。「失点しても自分たちのやるべきサッカーを続けなければならない。気持ちを切り替えて東京V戦に向けて最善を尽くしたい」と言う藤田のコメント(27日・熊日朝刊)を聞いて、われわれもすぐにやってくる次の戦いにアタマを切り替えようと思います。もう明日の朝刊には、次節の予想フォーメーションが載る。そんな日程なのですから。

以前のエントリーで、「51試合のリーグ戦の真の厳しさは、試合数が多いということよりも実は試合間隔が短いということ」だと書きました。九州ダービーから始まり、九州ダービーで終わった3連戦を1勝1敗1引分で終えたロアッソ。ここ1週間は一息つきますが、今週末のホーム仙台戦から15日間で5試合を消化する年間で最も過酷な日程に突入します。まさしく3日に1試合のペース。

ゴールデンウィークを挟んだ連戦。昨年は広島に惜敗、甲府にホームで金星、次のアウェー横浜で大敗、続く福岡戦で逆転大勝利したものの、ライバル岐阜には逆転負けを喫した。非常に浮き沈みの激しい結果。ミッドウィークのゲームという初めてのJ2日程。一戦一戦に無我夢中だったとはいえ、コンディションの波はわれわれから見ても明らかで、その後も長く尾を引きましたね。今年は、すでにここまでのところで昨年以上の日程、さらにコンディションが心配されます。ここをどう“しのぐ”のか、昨年の経験値がどう活かされるのか。心配でもあり、注目されるところです。

素人考えですが、このリーグのミッドウィークを挟んだ連戦を、チームはひとつのユニットとして構えているのではないかと思うのです。中二日、三日の連戦のなかで、何らか課題や修正点が見えても、そうそう克服できないだろうし、先の3連戦を見ても、怪我の宇留野、復帰の稲田を除けば、スタメン、ベンチ含めて、ほとんどいじらなかった。そして、ほぼ1週間空いたこの日程の間に、休息を含めて、次のベストメンバー、ベストユニットを見極め、臨んでくるのではないかと…。そんな仮説を巡らせながら、月曜日、福岡とのもうひとつの戦い、九州チャレンジャーズリーグ第2戦を見に、大津まで行ってきました。

今年から新たな取り組みとして始まった同リーグ。昨年までのJサテライトリーグと違って、新たにJ準加盟の長崎、北九州を入れた九州内の5チームだけで構成(J1大分はサテライトリーグ参戦の義務あり)。九州だからこそ可能な取り組みではと…。わが“ロッソ”もJFL時代、リーグ戦の最中も近場の福岡、鳥栖と頻繁に練習試合を組んでもらい、控え選手の実戦の場を確保しましたが、それが今は、こうやってリーグと各チームの共通理解によって組織的な取り組みが実現しました。ファンの楽しみも増えましたが、チーム強化面(それは経費面でも)においても大きな進歩。あのころこんなリーグが実現していたら、もっと楽しかったでしょうね。

さて、昨年までのJサテライトリーグと位置づけが異なるという意味では当然なのでしょうが、強風の吹く大津球技場の両チームのベンチには、北野監督と篠田監督の姿が。福岡の先発には岡本がいて、アレックスがいて、中払が入っている。一方の熊本にも、前日のリーグ戦に出場した小森田、山内、宮崎が入っている。GKには90分間通して吉田を起用しているのも、監督の何らかの意図を感じます。単に出場機会に恵まれない選手を試しているだけではない何か。公式戦と“直接”あるいは“紙一重”に繋がっている起用法というのか。2軍というよりまさしく1.5軍。いや人によっては1.25軍というべきか。

さて、気になる選手たちの様子ですが、DFの要・福王は準備万端でした。左SBに入っていましたが、その持ち前のキャプテンシーも随所に見せ、「いつでも行ける」という感じです。吉井もこの選手層のなかでは、ひとつ抜けていましたね。中盤の底を努めた山口も受けて前を向ける落ち着いたプレーぶり。もうひとりは西森。前半は精細を欠き、監督からハッパを掛けられていましたが、後半はシュートも決めて、いい動きをしていました。

そして、初めて目にした吉川ウイリアム。もっと強引にドリブルで突っかけていくスタイルかと思っていましたが、バイタルエリアで持つと、視野広くパスを出せる選手でした。素早く左の西森に回し、西森のシュートをGKが弾くところに詰めて、強烈なシュートを至近距離から撃ち込んでいました。そのなかで、うまく表現できませんが、なにかフワフワっとしたボールの持ち方。これが独特のドリブルの初期動作(アイドリング)なのかと思わせました。噂どおりの面白い選手。もっと見たかったのですが、残念ながら途中傷んで引っ込んでしまいました。高校選抜遠征から帰った大迫は、可もなく不可もなくといったところか。もう少し実戦練習が必要なのかも知れません。

さてさて、冒頭の仮説からすると、次の連戦のユニットがどうなるのか興味深いところです。果たしてこの日のメンバーのなかから、誰かが新しく入ってくるのか、それとも入ってこないのか…。しかし以前にも書いたように、北野監督の描く戦術は“ひとつ”であり、それに見合ったコンディションでベストのメンバー、布陣を敷いてくる。本当の答えは試合の中で見えるのだろうと思われます。

4月19日(日) 2009 J2リーグ戦 第9節
鳥栖 0 - 1 熊本 (13:03/ベアスタ/6,527人)
得点者:44' オウンゴ-ル(熊本)


今季初めての鳥栖との対戦。九州ダービー第2戦ということで、熊本からも大勢の赤いサポーターが駆け付け、アウェーのゴール裏を染め、中継画面からもはっきりと分かるくらいの圧倒的なコールを響かせます。われわれはこの日、ダービーという“意地”よりも更に強く、この試合での“勝敗”にこだわる気持ちが上回っていました。同じ2勝2分4敗で並んだ11位と12位。今日の勝敗がはっきりと互いの順位を分かつのはもちろんなのですが、ここ2戦、内容は伴っているものの勝ち点3という“果実”をもぎ取っていないなか、熊本としてはなんとかこの一戦で勝利して、中位戦線に喰らいついていきたい。最下位・横浜とは1試合以上の差があるものの、その上とはまだわずか勝ち点3の差しかない。負ければその下位の混戦にも呑み込まれかねない状況。加えて、前節書いた「掴みかけているようで確信までには至っていない今期の熊本の新しいサッカーの“強さ”」。それをなんとか早く実感したいというファンの気持ちそのものでした。

一方の鳥栖にも人一倍この試合に掛けるものがあったはずです。東京Vとの前節、開始早々の相手選手の一発退場によって、ほぼ90分間数的優位で戦ったにもかかわらず、2失点のうえ完封負けを喫した。その不甲斐なさを挽回する。この一戦に向けたその“余分な”モチベーションに、熊本は手こずることになりました。

鳥栖は昨年の草津(大宮からのレンタル)の好調を支えた島田が左サイドハーフ、C大阪から移籍した柳沢が右サイドバックに入る4-4-2の布陣。どちらも警戒すべきクロスキッカーでした。対する熊本は前節と同じ先発陣での4-3-3。

鳥栖 (先発フォーメーション)
25池田 7廣瀬
10島田13日高
23島嵜14高橋
3磯崎2柳沢
5飯尾20渡邉
 21室 
互いに主導権を奪おうと激しくぶつかり合う序盤。なかなかボールは落ち着こうとしません。しかし、15分、20分頃から次第に鳥栖の激しいプレッシャーに軍配が上がってくる。高いポジションでアグレッシブにプレスを掛けてくるのが鳥栖本来の持ち味ですが、それに今日は“より以上”のモチベーションの高さを感じる。押し込まれ感のある時間帯。少し熊本としても集中力を欠いたプレーが目立ちます。

サイドの攻防にはやや鳥栖に分がある。ボランチを含めて厳しくチェックし、奪うやボールを前に推進していく。それは熊本の市村、原田を厳しくスカウティングしている故のことと映りました。そんななかで、熊本にもPAわずか外、右側からのFKのチャンス。どちらも原田の左足の射程距離。一度目はバーを越えましたが、押さえの利いた二本目のシュートは枠を捉え、GK室の肝を冷やします。そろそろ決まりそうな予感もしてきます。

先制点は熊本(結果的にはこれが決勝点でしたが)。PA右の最深部に入り込んだ藤田から木島にバックパス。最終ラインを押し下げ、誰もチェックに行けないところから木島が放ったシュートはゴール前の敵DFのオウンゴールを招くことになります。

そう、この日、振り返ってみれば、熊本の好機は数えるほどでしたが、勝敗を分けた大きな要因はこのPAへの侵入の度合いにありました。GKも出て行けない微妙な“場所”。自らシュートも選択できれば、追従する見方へのパスも選択できる。受けてのフィニッシャーは、ゴールはもちろんGKもDFも視野に入れて振りぬくことができる。最もゴールの可能性のある“場所”なのでした。後半も度々、この“場所”を藤田が侵します。ワン・ツーで市村を使う。市村の放った強烈なシュート。これは防いだGK室がみごとでしたが…。

後半の鳥栖、この日の強い日差しのなかで、足を止めるのは相手に違いないと信じて最後まで走り止むことはありませんでした。度重なるCK。試合後のスタッツを見ても、このCKの数は、どれだけ鳥栖が攻め込んでいたかを物語っています。しかし、熊本は後半開始早々から相次ぐ交代のカードを切り、そして集中力を持続させることで凌ぎ切りました。藤田に代わって宮崎が入った後半33分からは、ついにフィールドの11人中6人が熊本出身という布陣で、ファンを喜ばせます。一方で鳥栖は、サイドから確かに起点を作るものの、そこからの単調なクロスの放り込みに終始した。雨あられように放たれたクロスボール(CKも含めて)。しかし、今日の鳥栖にはその角度をゴール枠へ向ける場面はおろか、熊本の選手を制して足元に落とせる高さもなく、クロスボールは最後までも収まりどころを見出せないままでした。

「監督がやろうとしているサッカーとは違うかもしれないんですけど」(河端)
「僕の中ではロアッソらしくない戦い方だったんですけど」(原田)
「ウチにとってはいいゲームじゃなかったと思いますけど」(木島)

試合後の選手のコメントは異口同音に、“けど”が先行するものの、結果を得た喜びに満ち溢れています。それは、確かに相手を凌駕するポゼッションを示した圧勝ではなかったかも知れません。しかし、そこにあったのは先制したあと凌ぎきるというチームの総合的な“技量”。それは、質とともに時間という“量”を得た昨年からの経験値にほかならないと思うのです。今年目指している本来の熊本のサッカーを十分に発揮したとは言えなかったかも知れない“けど”、選手たちが言うほどじゃあない。お互いに読みと運動量で数的な優位を作って、プレッシャーをかけて主導権を取ろうというチーム同士。そのせめぎ合いのなかで、やろうとしていることをやり続けたこと。押される局面でもセンターラインでの早い潰しを忠実に実行し、相手を外に外に追いやったこと。そして結果を得ることができたこと。

今日は“勝敗”にこだわっていた。元来、1-0という試合内容が大好きなわれわれだからではありませんが、そこには、相手の良いところを丹念に消していく作業があったことを見過ごすわけには行きません。本来PAに深く侵入する素早いパス回しは鳥栖の本領だった(昨シーズンの鳥栖は…)。その鳥栖にして、サイドからの淡白なクロス一辺倒に終始させたチーム全体に共有された守備意識。PA内に人数をかけさせないように、相手ボランチほかを押し込んでいたのも事実だったと言えます。

痺れる試合を制しました。そしてきわめて戦術的な試合運びだったなと。凌ぎきる重要な時間帯で、本来チームを落ち着かせる立役者・藤田を下げて“逃げ切る”ことができたのも、熊本にとっての今日の重要な経験値でした。終了のホイッスルが鳴った瞬間、ベンチを飛び出し、ハイタッチで喜びを表していた藤田自身がそう感じていたのではないでしょうか。まさに勝ち点を確実に積み上げていくサッカー。

「今日はここ2、3試合の中ではいちばんバタバタしたと思うけど、こうした試合をゼロで抑えて勝ちきるっていうのは、リーグ戦の中で何試合か続いてくると力になると思います。」(藤田:試合後のインタビュー)

もちろん課題もありました。FWのポジションで先発した西、後半45分の時間を与えられた山内。いずれも大きな期待を背負った出番でしたが、持ち味を生かすことができませんでした。おそらく彼らは、今日の試合のすべてのシーンを何度も反すうしながら眠れない夜を過ごしているでしょう。これもまた経験値。しかし、与えられるチャンスはそれほど多くはないのも事実です。頑張れ。

今日の勝利。51試合のなかでの1試合ではありますが、何か今季が終わったとき振り返ると、きっと重要な意味を持つ、“節目”の勝利であるように感じた試合。9節が終わって10位。まだまだ順位を云々する時期ではもちろんありませんが、なんとかこの中位(7~12位)をキープしていこうというモチベーションも、今季大事な要素になるのかと思っています。

4月15日(水) 2009 J2リーグ戦 第8節
熊本 0 - 2 湘南 (19:03/熊本/3,382人)
得点者:29' 坂本紘司(湘南)、89' 原竜太(湘南)


他のスポーツに例えることを許してもらえるなら、新進気鋭の若いボクサーがベテラン相手に果敢に挑み、序盤で一度はダウンを奪われたものの、その後はスピード溢れるフットワーク良く、手数も上回り、何度もコーナーに追い込みつつも、ベテランボクサーのガードはなかなか堅く、有効打を奪えないまま終了のゴングを聞いた。そんな感じでしょうか。

湘南は、ここまで7戦6勝で2位につけている。FW石原の抜けた後釜には田原がいて、名手・加藤のあとには反町サッカーの申し子・寺川がいる。いずれも前任者とはタイプは異なれ、才能溢れるあなどれない選手。相変わらずジャーンの守備は堅そうだし、アジエルは危険人物。昨年の対戦経験からしても、相当の覚悟を持って戦わなければいけない相手に間違いありませんでした。ただ、一方で札幌、福岡と続いたこの2戦で、繋いで崩すポゼッション・サッカーを貫き、目指す形が見えてきた熊本にとって、今の到達点を試すには恰好の相手でもありました。

湘南 (先発フォーメーション)
 34田原 
11阿部10アジエル
8坂本7寺川
 2田村 
4山口5臼井
19村松3ジャーン
 32野澤 
怪我でリタイアした宇留野に代えて西を先発に起用。中山、木島との3トップを構成。4-3-3の中盤には藤田、石井がいる。この厳しい日程のなかでも、両者がっぷり四つ、楽しみなメンバー構成になりました。

しかしやはり連戦を考慮してか、明らかに湘南は「省エネ」サッカーに徹してきた感じがしました。あるいは、木島、西のドリブル突破、市村、原田の上がりをスカウティングしていたのかも知れません。強引ともいえた縦への推進力は昨年ほどなく、中盤も比較的自由にさせてくれました。ただ、アジエルや田原にボールが出ると一気にスピードアップ。やはり怖い。

熊本にしても、ボールは回せてはいるものの、リスクを犯してまでは行かない。両者、攻守の切り替えがスピーディでしたが、なんかいつもとは違うな、という印象も持ちました。そんななかでの前半での失点でしたが、チャンスも作れていたので、熊本にも慌てる素振りは見られませんでした。

先制点を奪った湘南は後半、「省エネ」をより徹底してきましたね。しっかりリトリートしてブロックを作り、あわよくば奪って追加点。カウンターが失敗に終わっても自陣への戻りが早いこと早いこと。すばやく守備陣形を整えるため、熊本が綺麗なパス回しでビルドアップしてもそれは中盤まで。残り4分の1に至って急にブレーキをかけさせられるシーンが何度も繰り返されます。それでも、幾度も訪れたCK、FKのチャンス。原田というキッカーを得て果敢にゴールを狙う、こぼれ球からのセカンドアタック。ミドルレンジからのシュート、ドリブルで突っかける、必死に揺さぶりを掛け続けます。

刻々と過ぎていく時計の針。ホームのファンの「まずは同点」という思いが、「せめて同点に」という願いに変わっていきます。その想いをも打ち砕いたのは、交代出場で入った原の終了間際の追加点。ここまで何本もの決定的シュートを防いでいたGK吉田の手をすりぬけると、ポストに当たり無情にもゴールにこぼれ込む。湘南イレブンと少数のアウェーサポの、再びの歓喜を見せつけられることになってしまいました。

「ウチみたいなスタイルでやっていたら、ああなるパターンのゲームでした。」(北野監督・試合後のインタビュー)

「パスサッカーにありがちな負け方」(石井選手・試合後のインタビュー)

二人が同じような表現をする一方で、敵将・反町監督は、異様なまでに熊本の力を褒め称えていました。それは勝者の余裕か、あるいは敗者に対するリップサービスか・・・。

確かに言えるのは、湘南はやはり今年も強いということ。いや昨年より強いかも知れない。それは、そんな反町新監督のコメントに隠された“したたかさ”と、更にその裏に隠されている“戦術眼”も含めて。視点の先には当然J1がありながら、当面の51試合の“個別のケース”に合わせた戦い方に徹している。昨季は昇格の最終戦線直前に土をつけたわが熊本でしたが、今季、残りの2試合、この強豪チームになんとかひと泡吹かせたい。ファンにとっても、そういう“新たな決意”を抱かせた戦いでした。

そしてもうひとつ、湘南の「省エネ」サッカーを見るにつけ、51試合を戦うということの意味がまた重く感じられました。福岡戦から中二日での今日の試合。そして宇留野の突発的ともいえるケガ。スピードと運動量を求められる今季の戦術。ベテラン選手でなくても消耗は激しいはずです。まだまだシーズン序盤のこの時期ですが、勝ち負けとは別に、われわれが感じていたのは“51試合を通して結果を出すため”の総合的な選手起用の重要性でした。藤田はもちろんですが、今の熊本の戦術を支えているキープレーヤーのひとりは石井。そのワンボランチ。とにかく彼らのコンディションを心配していましたが、まずそのうちのひとりの宇留野が傷んでしまいました。いずれも昨シーズンまで、これほどフルに出場機会はなかったはず。それも遠からずの要因だと思います。

「このサッカーを続けていく事が大切で、どんな相手にもこういうサッカーをして立ち向かうっていうスタイルを見せる事が大事だと思います。慌てちゃいけないってことです。」チームにとってもファンにとっても藤田のこの言葉は何よりの指針だし、エネルギーになるのも事実です。掴みかけているようで確信までには至っていない今期の熊本の新しいサッカーの“強さ”。見ていても一試合ごとに成長している手応えが実感できます。だからこそ現場指揮官・藤田も休むことなく出場を続けている。それを支えているのは高いモチベーションに違いありません。熊本に自分が呼ばれた意味、という…。

しかしながら51試合の日程です。

ターン・オーバーシステム。そんな、ないものねだりを言うつもりは毛頭ありませんし、また、メンバーを落として戦うという意味で誤解されても困ります。しかし例えば、後半16分、1点ビハインドの状況で藤田に代わって小森田が投入された。われわれは、ここから以降の試合運びに特に注目しましたが、チームとしての戦術面でも、あるいはパフォーマンスも全く落ちることなく、いやむしろ、終盤、以前ならここは放り込むだろうという場面でも頑ななまでに後方から繋ぎ、回し、崩そうとチャレンジを続けた。原田が“後方の司令塔”とも言うべき役割を果たしていたことも見落とせませんが、いつ熊本にゴールが生まれてもおかしくない状況でした。続けてきていることが、チームに、選手それぞれに浸透してきているなと確信しました。

思うにベストメンバーとは、51試合のリーグ戦を睨んで、51試合を通じて選手のコンディション、パフォーマンスを最大にするチョイスではないかと。福岡戦はダービーマッチ、湘南戦は良い流れのなかでのホームゲーム。メンバーをいじることに躊躇するのもわかります。しかし、51試合のリーグ戦の真の厳しさは、試合数が多いということよりも実は試合間隔が短いということだと。この試合間隔は初めて経験するもの。自らのチームの選手層、そのなかでのベストパフォーマンスの選択眼とスケジュールとの見極め。厳しい、苦しい“判断”だと思いますが、それが北野監督に課せられた大きな仕事であり、もうひとつのチームとしての戦いなのだと思います。

4月12日(日) 2009 J2リーグ戦 第7節
福岡 1 - 1 熊本 (13:03/レベスタ/11,603人)
得点者:33' 城後寿(福岡)、67' 中山悟志(熊本)


快勝した札幌戦から1週間。自分でも不思議なくらいの沸々とした気持ち。もちろん不安感でもなければワクワク感でもない、あまり経験したことのない高揚感とでも言うのでしょうか。今日のこの一戦、どうしてもスタジアムで観なければいけない。現地で観なければいけない。気持ちは行動を起こさせていました。相手は”ダービー”としての意識が薄いかもしれない。しかし、我々の側にはダービー以上にどうしようもない”因縁”が生まれてしまっていた。「九州のチームには絶対負けたくない」という北野監督の言葉も、戦前の木島や河端のコメントも、やはり”彼”を意識している。意識せざるを得ない。そう、今や福岡の”エース”となった高橋のことを・・・。

昨年の5月の連休中の試合。横浜に打ちのめされた試合の3日後、今度は高橋のハットトリックで福岡を唖然とさせた。紛れもない熊本のエース。JFLの熊本にやってきて、我々をJに連れてきてくれた貢献者。その彼が今、ネイビーブルーのユニフォームに袖を通し博多の森に立っている。それは彼が自ら選んだ道…。選手紹介のアナウンスに反応して熊本ゴール裏からは盛大なブーイング。しかし、それは決して憎しみや敵意からではない。彼にもそう伝わったと思います。

熊本は前節と同じ中盤ダイヤモンドの4-4-2。前節までのバランスの良さを継続させようという狙いが見えます。宮崎と山本がサイドに張るこの陣形。内に位置しながら外にプレスをかけるより、外にから内にしぼるほうがプレスは効く。逆にサイドに張っているから相手からのプレスは受け難い。タッチラインを背にしているから180度を考慮すればいい。中に位置していると360度。だから中よりも疲労は軽減される。だから攻守の切り替えがスムーズに行く。もちろんそれは守備の鉄人としての石井の存在と、中盤のバランサー藤田の運動量があってこそのことですが…。

この季節にしてはうだるような暑さのなかで試合開始のホイッスル。圧倒的な運動量とポゼッションを志向する今季の熊本。今シーズン初めてのコンディションのもと「ひょっとしたら後半、相手より先に足が止まるかも知れない。」ゴール裏を赤く染めた熊本ファンの多くがそんな不安を感じたのではないでしょうか。

福岡 (先発フォーメーション)
19大久保 18高橋
26岡本10城後
8鈴木6ウェリントン
17中島3山形
13柳楽4田中
 22吉田 
立ち上がり15分までは高いDFラインから熊本が激しく押し込む。しかしその後は福岡ペース。大きなサイドチェンジを多用し、ピッチの横幅一杯を使い2列目、3列目が上がってくる。大久保に制空権を奪われ、サイドに侵入を許してしまう。縦パス一発でDFラインを破られる。福岡お得意のシンプルな攻撃パターン。このあたり、何か約束ごと(監督からの指示)でもあったのか、明らかに受身に回る熊本。33分、中央で大久保が反らしたところに右サイドから城後が走り込んでダイレクト。ドライブが掛かったような豪快なシュートが熊本ゴールに突き刺さりました。

しかし、熊本も40分以降はセットプレーで波状攻撃。原田の左足から怒涛の攻撃で同点を狙いますが、福岡のGK吉田の好セーブに阻まれてしまいます。前半終了前に宇留野が痛んでしまったのは、予想外の展開だったでしょう。熊本は早々と中山のカードを切らざるを得ない状況に。

後半2分、右からのアーリークロスにやや遠目から高橋がフリーでヘッド。しかしこれはゴール右に反れます。この試合で高橋がシュートを放ったのは、この1本ではなかったでしょうか。それほど今日は完璧に“敵のエース”を押さえ込みました。

後半、疲れを見せたのは明らかに福岡でした。あれほど起点を作っていた鈴木、城後、岡本がボールに触れなくなる。ポゼッションは次第に熊本に。徐々に前線に絡む枚数が増えてくる。エリアに入った宮崎が倒されるがPKの判定なし。中山から右の木島に入るが、なんとか福岡のDFが入る。CKから中山のシュートはわずかに右に反れる。藤田の厳しいパスがCBの柳楽を翻弄する。セットプレーでは原田が左足から良質なボールを供給する。跳ね返されても次のボールを拾って組み立てる。サイドを崩し、エリアに進入し、シュートを撃つのは一方的に熊本。わがチーム。しかし、ゴールが割れない。敵のGK吉田。今日は神懸っている。

嫌な動きをしていた岡本がベンチに引っ込んでくれ、交代で入ったベテランの久永がサイドから起点を作りだそうとしていたときでした。熊本が反撃。左サイドから崩して木島がクロスを入れる。それに飛び込んだ中山を捕まえ切れなかった柳楽が後ろから倒してPK奪取。キッカーは中山。GKの動きを冷静に判断した中山が自分で決める。熊本ゴール裏は総立ち。青空のなかに大旗が舞い、赤いタオルが打ち振られました。

その後も押せ押せの熊本。31分に入った西が、ファーストタッチで中央付近からゴール前までに及ぶ鮮やかなドリブル突破からシュート。熊本の惜しい場面が何度も続く。辛うじてゴールライン上でクリアする福岡DF。藤田の冷静なうえに大声での指示。相手の苦しい時間帯で更に軽快にボールを繋ぎ、回す熊本。運動量はまったく落ちない。もはや福岡はプレスに行く余力もない。この時間帯、まさに“絵に描いたような”逆転の流れを確信して飛び跳ね、声を枯らしたゴール裏でしたが、残念ながら終了のホイッスルが鳴り響きました。もう少し時間があれば、以前のJのように延長、Vゴール方式などというものであれば勝てていたなどと、タラレバにもならないような空想をしてしまう、悔しい勝ち点1でした。

今季初の九州ダービー。互いの意地、因縁が激しくぶつかったスリリングな好ゲーム。結果はドロー、福岡はこの試合を勝利しJ1昇格戦線に割って入りたかったが、そうはならなかった。熊本としては、前節のリズムをそのままに、今季目指している攻撃的なパスサッカーで3連勝の福岡に対して結果を出したかったが、今一歩及ばなかった。もちろん、その強さ、巧さを人一倍理解している相手のエース高橋を封じるというミッションは果たせたものの…。

試合後の監督、選手コメントからは、福岡の足が止まることや相手の攻撃のスカウティングなど、非常に冷静なゲーム運びだったことが伺えます。われわれが考える以上に急速にチームは成長しているなと。それだけに出すべき結果はしっかりと出さないといけないなとも思います。まあ、選手たちのコメントからもそのあたりの意識もはっきり感じられますが。

高橋との因縁を強く意識して始まった今日のダービーマッチでしたが、途中からその高橋対応も戦術の一要素に過ぎないような気持ちに変化していました。因縁をいい方向のエネルギーに変えて福岡に立ち向かった熊本。戦術的には完全に勝ちに行っていた。今日の試合で、結果的には彼にも「熊本のサッカーは変わった」と印象づけたのではないでしょうか。自分がいたときのサッカーとは違っていると…。それと同時に福岡に、「今年の熊本は手強いぞ」と強烈に印象づけたに違いありません。高橋がいない熊本に…。
いよいよ因縁が増した福岡との次の戦いが、また待ち遠しくなってきました。

4月5日(日) 2009 J2リーグ戦 第6節
熊本 4 - 0 札幌 (13:03/熊本/4,653人)
得点者:13' 木島良輔(熊本)、27' 山本翔平(熊本)、35' オウンゴ-ル(熊本)、62' 中山悟志(熊本)


札幌 (先発フォーメーション)
 11宮澤 
 10クライトン 
22西7藤田
20上里14ダニルソン
6西嶋18芳賀
2吉弘15趙
 16荒谷 
前日の花の雨もあがり、キックオフの時間には日も差し始めたKKウィング。そのピッチの上には原田拓の姿がありました。金髪は黒くなり、左SBという見慣れないポジションに位置していましたが、まぎれもなくそれはあの原田拓でした。開始早々のFKのチャンス。左足で狙うのは原田、右足なら宮崎大志郎。忘れもしない2000年の高校選手権、大津高の3年生と2年生。当時、各学年にいた“ファンタジスタ”と呼ばれるプレーヤーでした。それがこうして、ホームのJリーグチームの一員として同時に見られる日がくるとは…。原田の左足から放たれたボールは、球足の長い、美しい弧を描いてゴール右角へ。わずかに枠をそれましたが、故郷・熊本への“挨拶がわり”のシュート。そして、1年生だった矢野とのDFラインに戻っていく…。こんなシーンだけで、往年の大津高ファンは酒が飲めますね。

一昨日に加入が発表されたばかりでの今日の先発出場でした。後半途中からはちょっと息があがっているようにも見え、コンディション的にはまだまだのような印象を受けましたが、その能力の高さは十分に見せてくれました。なにより上体を起こした美しい立ち姿が、視野の広さを裏付けています。サイドを駆け上がったり、敵陣奥深くまで切り裂くといったプレーではなく、左サイドからのアーリークロスや大きなサイドチェンジ、あるいは前線へのロングパス、流れに変化をつけるちょっとしたプレーぶりなどなど。それは、長くボランチをやっていたから。しかしこの特性、今期のロアッソの戦術面では、左SBに置いておいても面白い、攻守の新たな“起点”になる選手だと感じさせました。一昨年の小森田、昨年の木島。ロアッソは、練習生から這い上がってきた選手が、そのシーズン活躍するジンクスがあります。やってくれそうな予感、期待が高まります。

4-4-2の中盤ダイヤモンド。といっても、この日の藤田は高く張ることによって、見ようによっては4-3-3のようでした。「守備から入った」と北野監督は振り返りましたが、とにかくルーズボールを自身に納め、角度を付けて運んでいくことに今日の熊本は長けていた。前節でわれわれも課題としたアタッキングサードの攻撃においては、藤田を中心にワンタッチパスが冴え渡る。ポゼッションのなかでの緩急、スピードアップということですね。一発でラインを切り裂く。2トップを追い越して宮崎、山本がPA内に入ってくる。前半13分に、市村からのクロス。宇留野が引き付けた相手DFの裏でフリーになった木島が、落ち着いて右足に持ち替え、ゴール右角に押し込みました。

今季初の先制。続く27分にも、左サイドを突破した宇留野が中央木島に丁寧に繋ぎ、最後は長い距離を右に走りこんでいた山本に。嬉しいJ初ゴールとしました。その後も運動量、集散の速さで勝る熊本は、前線からの、あるいは集団での囲い込みで、相手選手を自由にさせない。プレスでコースを限定された相手のロングボールは落下地点で面白いように支配できていました。札幌の選手たちにイライラが広がっていくのがわかる。北野監督が事前のスカウティングで語っていたそのままのイメージのようでした。35分には、そのプレスが相手のオウンゴールを誘います。

札幌は、バイタルエリアで熊本の選手を捕まえきれない。そこには、藤田の運動量とアイデア溢れるプレーがありました。陣形がコンパクトだから、藤田が果敢に動き回ってもムダに疲れない。これが、開幕前のTMで観た新しい熊本のサッカーだったのです。そしてとうとう、相手選手にも自身のチームメイトにもナーバスになっていた司令塔・クライトンが藤田への危険なファウルで一発退場。ゲームメーカーを失った札幌は、ゲームプランを一から書き換える必要に迫られました。

さて、こういった数的優位の状況では、バランスよくゾーンを埋めてしまえばいい反面、不利な側が“シンプルな攻撃”に徹することに手を焼くということが往々にして起こります。初めて体験する3点先取、しかも数的優位での後半45分のマネジメント。15分までは、熊本にとって相手の猛攻を凌ぐ時間帯でした。しかし、藤田に代わって入った中山が、後半17分、宇留野からのクロスをヘッドで押し込む。中山の今季初ゴールは、まだまだ攻めていくぞというチーム全体の意思表示でもありました。

続いて宇留野と交代した西が、本来の攻撃的ポジションを得て、持ち味のドリブルで相手DFを混乱させ、スタジアム全体を沸かせました。次々にCKを獲得し、終盤、走り疲れたチームを大いに助けます。インタビューで「宇留野選手に学ぶことが多い」と語っていた西。その彼が、宇留野の抜けた右サイドで、自分の持ち味を十二分に発揮しました。最後は前線のプレスが甘くなり、同時にDFラインも綻ぶ場面もありましたが、三枚目のカードは原田に代えて山下でした。これも決して守備固めではなく、3バックにして中盤を厚くして、もう一度ポゼッションを確保しようという戦術だったのでしょう。それにしても終了間際、ショートコーナーからのボールに反応した山下のヘッドは本物の“強さ”を感じさせました。終盤での西と山下というオプションは、かなりの武器に違いありません。

終了のホイッスルに、安堵して膝をつくGK稲田の姿が印象的でした。初先発でチーム今季初完封を手にした。流れを相手に奪われない、要所での飛び出し、ファインセーブが光りました。古巣相手に期するものがあったであろう河端も、ポジショニングよくハイボールやくさびのパスを処理していました。果敢に上がった市村しかり。落ち着いてカバーに回った矢野しかり…。これまで守備に追われていた石井も押し上げてシュートを見せてくれました。

相手は開幕以来、なかなか波に乗れないでいるとはいえ、J1を戦ってきた札幌。その札幌相手に、完封しかも大量得点勝利を納めました。ひとことで言えば、相手より運動量が上回っていた。積極性というメンタル。玉際の強さ、しぶとさ。更に言えば、的確なスカウティングによる布陣の上に、選手たちの最高のパフォーマンス。それぞれのコンディションもかなり整ってきたような。そして90分という時間のマネジメント力がありました。

闘う気持ちと冷静なマネジメント。「成長している」。試合後のインタビューで北野監督は、その実感を素直に語りました。白星としてはまだ2つ目ではありますが、ホームのファンの前で見せた快勝。第1クール、これから続く上位陣との連戦を前にして、幸先のいい、自信の持てる勝利だったといえるのではないでしょうか。