6月28日(日) 2009 J2リーグ戦 第24節
熊本 5 - 2 岐阜 (13:04/水前寺/2,787人)
得点者:24' 福王忠世(熊本)、29' 西川優大(岐阜)、44' 福王忠世(熊本)、51' 中山悟志(熊本)、70' 田中秀人(岐阜)、73' 宇留野純(熊本)、74' 山内祐一(熊本)


何とも言いようのない嬉しさで、まだ陽も高いのにビールはもちろん“しろ”まで進んでしまいました。FC岐阜に撃ち勝ち、この日、福岡が負けたため、順位も13位まで上がりました。

7度目になる同期対決。これまで岐阜の3勝3分。熊本にとってはどうにも勝てなかった相手。舞台は水前寺競技場。天気予報はいい意味で裏切られたものの、雨が降りそうで降りきらない、ものすごい蒸し暑さになりました。木島を出場停止で欠く熊本は、中山の相棒に山内を置いた2トップ。それに藤田、宇留野、西、石井というダイヤモンドの中盤。熊日の予想フォーメーションを見たとき、何と攻撃的かと思いました。対する岐阜は前節、上位の徳島を3-0で下し勢いもある。いつにも増して用心しなければいけない相手でした。

開始前、いつものようにスタンドの端にポツンと座っていると、山内選手のお父さんが隣に。「先発ですね」と水を向けると「頑張っているみたいです」と。「点とって欲しいですね」と言うと、「そう言われるとものすごいプレッシャーです」と。その落ち着かない様子が、プロのひとつの試合にかかる重みや思いを示しているようで、こちらの気持ちも引き締まるものがありました。

岐阜 (先発フォーメーション)
18佐藤 16西川
11高木20染谷
7菅23橋本
6秋田19冨成
4田中3菊池
 1野田 
さて試合は立ち上がりから完全に岐阜のペース。押し込む相手に、5度のCKのピンチ。佐藤、西川という大学新卒2トップの高さは脅威でした。何とか流れを引きよせようと、CKからこぼれたボールを石井が大きく前線へフィード。これを受けた山内。ドリブルから思い切りよくロングシュート。しかし、岐阜も直後、前目に陣取るボランチの菅からスルーパスが西川へ。目を覆うような一対一の場面も、木下が素晴らしい集中を見せてセーブ。

15分を過ぎると徐々に熊本もポゼッションをとり始め、西が右サイドへ飛び出しクロス。これはDFに阻まれる。先制点は24分、右CKをファーサイドに入ってきた福王が右足で押し込みました。GKが飛び出すこともできない、美しく巻いて落ちる原田のキックでした。これまでの対戦からも、また今日の攻守の入れ替わりの激しさからも、これで終わるような試合でないことは誰もが感じていたでしょう。28分、菅がドリブルでエリア左奥まで持ち込み、深く切り返すマイナスのパス。飛び込んだ西川に決められます。

あっと言う間に試合は振り出しに。ここで岐阜の勢いのまま勝ち越し点を奪われるのか、それとも同点で凌ぎきれるのか。どちらかと言えばそれが熊本ファンの“見方”だったのではないかと。しかし今日の展開のすさまじさは実はここからでした。前半終了間際、CKから福王が完全にフリー。今度はヘッドで突き刺す。西のエリア内での仕掛けで得た三度のCK。スススッと後方から侵入してきた福王を、岐阜は捕まえ切れませんでした。なんとなんと、前半のうちに勝ち越しの2点目。それもセットプレーからの福王の連続得点というめったに無い展開になります。

今期初先発の山内、前半はまだまだしっくりフィットしていない様子でしたが、シュートへの意識の高さはビシビシ伝わってきました。藤田が拍手を送って称える場面も。そして今日はなんと言っても原田のうまさが光りました。足元軟らかくボールを落ち着かせ、後方から的確なパスを供給する。前節負傷し4針縫ったという瞼の上の絆創膏も痛々しい。しかし果敢に空中戦にも挑みます。加えて宇留野の運動量とキープ力。相手DFが手を焼いているのがわかりました。

後半も早々の6分、藤田からのパスに中山が裏を取る動き出し。DFと競りながら体半分抜け出して左足。ゴール右すみに押し込み3点目とします。ピッチ看板を二つ飛び越え、ゴール裏のスタンドに駆け上がって喜びを爆発させる中山。これまでにはないパフォーマンスに、先週の復帰戦で深々とスタンドに頭を下げた彼の姿を思い出し、この試合に賭ける彼の思いに感じ入りました。

試合は3-1。2点のアドバンテージ。しかし、まだ時間はたっぷりと残っています。これでも決して、安心できないのが岐阜との戦いだと誰もが知っていました。まさにその直後、右サイドから西川の絶妙のクロス。後は“決めるだけ”の佐藤がシュートミスしてくれる。熊本はスローインから山内が粘ってDFを振り切りGKと1対1。しかし浮かせたシュートは惜しくも枠の右に外れます。悔しがる山内。互いにカウンターの打ち合い。一瞬も目が離せない。

西が自陣でボールを受け敵のゴール前まで一気にドリブルで抜いていく。もうファウルでしか止められない岐阜。緩いキープと見せて、いきなりトップスピードに持っていく西のドリブル。それはまるで“やまなみ”のワインディングをマニュアル・シフトで自在に走り抜けるコンパクトなスポーツカーのような。

岐阜はたまらずFW佐藤に代えて嶋田を投入。染谷を左サイドに置き換えて、西川をトップに、嶋田、染谷をシャドー的に配置します。この2シャドーの速さに混乱する熊本。左サイドを駆け上がった染谷が見切りよく早めのクロス。これが攻めあがっていたDF田中の頭にピタリ。あり得ないようなピンポイント。1点差に追いすがります。「3-1になってゲームを終わらせないといけない状況で、相手に息を吹き替えさせるような失点をした」と福王が反省する展開でした。

襲ってくる“追いすがる力”の恐怖。これを振り払ったのはすぐその後の宇留野の追加点でした。同じ1点ではあるにせよ、今日の試合の最大のポイントはこの4点目ではなかったかと思います。石井からのフィードが山内へ。小さな体を相手DFの間にこじ入れて倒れ込みながら西へ。西からのパスは小森田がDFをブロックし、裏でフリーの宇留野に。難しい角度からGKの位置を見極めた見事なシュート。実に彼自身、第2節横浜戦以来のゴールでした。胸のエンブレムを叩き、ゴール裏を鼓舞する宇留野。一気にヒートアップするスタジアム。そして続けざま。ゴールキックから敵DFに競り勝った山内がGKも交わして駄目押し5点目。このゴールがファンに勝利を確信させてくれました。

この3シーズン、同じような境遇で戦い、一度も勝てなかった岐阜への初勝利。それもこれまで経験したことのないような撃ち合いを制した。そして岐阜は今日も岐阜だった。あれだけ突き放したつもりでも決して下を向かない。5-2となってからも次のひとつのゴールへひたむきにプレーしていた。染谷も嶋田も。敵ながらその姿勢にはかすかな感動すら覚えた。そんな岐阜に勝った。だから嬉しい。

終わってみればシュート数は熊本の15に対し岐阜の14。その他のスタッツもほぼ互角。それが結果的にこの点差に終わったことを、多くの人は決定力という言葉で片付けようとすると思います。確かに当たり続けているGK木下のファインセーブも随所にあったし、岐阜の完全なシュートミスも何度かあったように思います。しかし、岐阜が全くついていけなかった細かいパス回しによる崩し、相手の攻勢に対してはいなすようなボールポゼッションの妙。緩急。要するに試合運びに関して、今日の熊本は岐阜に勝っていた。それはスタッツにも現れない、あるいは5-2の結果でも見えない、まさしく“内容”というものでした。それはスタジアムに足を運んだ人だけが感じ取ることが出来たのではないかと。

福王、中山、宇留野、山内。得点者は4人。しかし今日の勝利は、誰かの活躍で得たものではなく、明らかにチームとして得た勝利。それでも振り返ってみると選手一人ひとりのプレーが鮮明に浮かんでくる。それぞれの特徴を強烈に意識し、アピールしながらチームとして連動していく。一歩づつ。イメージする理想の姿に近づいていく。収穫も自信も、課題も反省も。ひたむきに一歩づつ。そんな過程を目にしている喜びを感じて、また杯が進む。このまま連勝街道に入ってほしい。そうならないかなあと。それが全てのファンの願いだと思います。
6月24日(水) 2009 J2リーグ戦 第23節
草津 1 - 1 熊本 (19:31/正田スタ/2,741人)
得点者:40' 後藤涼(草津)、69' 木島良輔(熊本)


ホームの開幕戦で苦杯をなめさせられた相手、草津。パス&ポゼッションというコンセプトを持つチーム同士の戦いと戦前のマスコミは書きたてましたが、熊本にとっては前節、長いトンネルから抜け出し、今季初めての連勝を目論む一戦でした。熊本の遠征メンバーは、控えを含めて前節と全く同じメンバー。先発フォーメーションも同じ。対する草津は、今期10ゴールとチーム一の得点を稼ぎ出しているFWの都倉を怪我で欠き、田と後藤の2トップになりました。

草津 (先発フォーメーション)
19後藤 9高田
14熊林10廣山
6櫻田30松下
2寺田7佐田
4田中15喜多
 22北 
前半、パス&ポゼッションは完全に草津にありました。開幕戦でも苦労した草津の前線からの激しいプレスは、この試合も健在でした。熊本は自陣に押し込まれ、相手からすれば高い位置で奪われ、攻め込まれます。前節デビュー戦を完封勝利で飾ったGK木下が実に忙しい。草津のスルーパスにDFが裏を取られますが、木下の果敢な飛び出しで救われます。30分を回り熊本も攻勢を仕掛けようとしますが、いかんせんチームの重心は守りにかかったまま、サイドからのクロスに誰もいないというシーンが度々。このまま前半はスコアレスのままで、というのが熊本のゲームプランとして明らかでした。

しかし40分、市村が攻め上がったスペースを後藤にうまく使われる。カウンターぎみに後藤につなぐと、DF二人が振り切られてシュートを決められます。二人目のディフェンスに駆け戻ったのは、なんと上がっていた市村でしたが交わされました。プランが崩れた前半での1点ビハインド。連敗が続いていたころ何度も見慣れた展開でした。しかし、不思議に今日のイレブンに気落ちした雰囲気は感じられません。それは、前節得た“自信”だったのかもしれません。

後半のどこかで木島を投入するプランだということは誰の目にも明らかでしたが、今節は井畑との二枚代えというカードの切り方が“絶妙”だったと思います。2トップのユニットを丸々いっぺんに交代させる。このチームではおそらく初めてのことでは。それはどちらか一方のパフォーマンスが落ちているから代えるという“消極的”な方策ではなく、なにかこう「反撃に転じるんだ」という北野監督の明確な意思を感じました。「2点目を取りに行かなければ勝てない」と感じていた佐野監督と草津イレブンにとっては、攻撃の要である熊林と高田を両方アクシデントで引っ込めざるを得なかったのは、大きな誤算だったでしょう。その交代を見届けたところでの熊本の二枚代えでした。

草津も代わって入った小池がそのスピードに任せて積極的にロングシュートを放つ。熊本はカウンターから木島を走らせ、草津のDFを翻弄する。すかさずGKとの1対1の決定機。しかし、振りぬいた左足のシュートは枠を反れてしまいます。それぞれがそれぞれの持ち味を発揮する熱い展開に。

同点弾はすぐそのあと、井畑がヘッドで(と言うより体を張って)前線に落としたボールに木島が飛び込み、再びGKと対面。今度は右のアウトできっちりと押し込みました。白紙に戻った試合展開。残り時間は20分。勝ち切りたい気持ちは両者とも同じ。熊本は崩れかけた草津DFの裏へ裏へと執拗にボールを配給。全員が木島を信じての動き出し。山本に代えて大迫。草津は櫻田を下げて佐藤。両者カードを使い切る。小池の強烈なミドルに木下が片手一本のクリア。

試合終了後。どの同点劇でも一緒ですが、追いつかれた側のホーム・スタジアムの重苦しい雰囲気がTV画面を通して伝わってきました。もちろん熊本の選手たちも、目論んでいた連勝という結果をつかめなかったことに、まだ課題をかみ締めている表情でしたが、どちらかというと達成感も感じられました。何かひとつ階段を上がったような・・・。

ポゼッションを志向する草津は、同時にプレッシングと運動量が常に激しい。同じようなチームに水戸も上げられると思います。そしてどうもなんとなくわれわれは苦手意識が強い。しかし、いつかも書いた気がしますが、これらのチームに“勝ち切れる”ことこそ、順位上昇の条件のようなものだと思うのです。

さて、繰り返しになりますが、サブメンバーまで前節と同じ布陣で臨んだこの試合。嫌な時間帯に失点してのハーフタイム。得点経過こそ違えある意味で前節と似たような前半の流れ。しかし、うまくいかない、思うようにならない時間帯の長さにもひたすら耐えた。2点目を失わない集中力を見せた。交代を引っ張りに引っ張った前節。逆に今日は早く同点機を作りたい気持ちを抑えて(相手のアクシデントもありましたが)相手の交代カードを見極めて、ズバッとFW二枚代えで大きく流れを作った。連敗中の自滅とも見えたような流れの悪さ、試合運びからすると、戦術・試合運びとベンチワークが連動しているのが見える試合でした。結果論に過ぎないと言ってしまえばそうかもしれませんが、やはりしっかりしたチームの意図が見えるようになったと。形として見えるものではありませんが確かな成長の手ごたえを感じた試合でした。

6月21日(日) 2009 J2リーグ戦 第22節
熊本 2 - 0 栃木 (13:03/水前寺/2,834人)
得点者:49' 西弘則(熊本)、54' 石井俊也(熊本)


10試合も勝利から遠ざかっているわが熊本。今にも雨が降りそうな厚い雲。どんよりとした空。やや風はあるものの湿度も気温も相当に高い水前寺。迎える栃木は、前節2万人を動員したホームで鳥栖に0-5の大敗。チームとしても相当なショックがあったと思われます。なんとかこの試合の勝利で名誉を挽回したいと望んでいるのでは。さらに15位、16位の順位逆転もかかった直接対決でした。

熊本の前線には中山がようやく怪我から復帰。宇留野との2トップの下には藤田、山本、西、石井がダイヤモンドで中盤を構成。市村、原田の両SBも復帰しました。そしてゴールマウスを守るのはガンバからの期限付移籍の木下。19歳最後の日。記念すべきJリーグ・デビューとなりました。

栃木 (先発フォーメーション)
11石舘 14稲葉
20河原10高安
13本橋15鴨志田
4井上2岡田
3大久保19赤井
 21武田 
試合前のアップを終え引き上げてくる選手のなかで、ひとり中山が深々とメインのファンに頭を下げました。それは怪我で長期離脱したことを詫びているようで。思えば、この長いトンネルも中山の離脱あたりから始まったような。こちらの胸も熱くなります。その中山。この試合で得点こそ決められなかったものの、よく働いた。そう思います。開始早々には宇留野のクロスをヘディングシュート。その後も前線でアグレッシブに動き回り、栃木のDFラインを戸惑わせ、“起点”になる働きをしました。さすがに後半は疲れが見えましたが、今日の北野監督、まるで先日の鳥栖のハーフナーマイクのように限界まで走りぬくということをこのエースに課していたようにも見えました。

見た目には前半は五分五分。いいときのロアッソからすれば決して軽快な試合運びとは言えず、欲求不満の残る展開でした。19分、藤田のインターセプトからドリブルで持ち込みスルーパスも、中山が感じず、藤田が珍しく怒ります。これまでどちらかというと淡々とクールにプレーしていたように見えましたが、今日は時に厳しく感情を露にする場面が多かった。彼のなかでもこの試合に期するものがあると同時に、何かが変化してきているのかも知れません。その藤田、今日は2トップの守備も徹底していたため、負担が少なそうにも見え、最後までエネルギッシュに動き回りました。

後半、宇留野が左サイドに展開するようになったのは、ハーフタイムの指示だったのでしょうか。これが早速、実を結びます。4分、藤田の浮かせたパスに飛び出した宇留野、ピシッとコントロールして落ち着いて中に折り返す。これに走りこんだ西が蹴りこんで先制。難しい角度で右足のアウトにかけたシュート。みごとでした。続く9分には、CKからの流れのなかで山本がゴール前のソンジンに。ソンジンが競って中央に折り返したボールに、今度は石井が飛び込んでループぎみのヘディング。追加点としました。

前半、勝機はあると思ったであろう栃木は、このあっという間の2点ビハインドに戸惑います。松田イズムを体現する栗原や、TDKでも活躍した松田、最後は入江と次々とカードを切ってきました。一方の熊本・北野監督。今日はいっこうに選手を交代させる気配がない。相手との接触で右膝を痛めた様子の中山。すでに肩で息をしていましたが、それでも戻らせる。蒸し暑さと疲労のなかで全員の集中力。ようやく西に代えて大迫、中山に代えて木島を投入したのは実に35分を回ってから。ほんとうに今日は、辛抱強く引っ張り続けた。

確かに欲を言えば、今日のように前を向ける相手のプレスの緩さや、攻撃の組み立ての拙さからすれば、さらに追加点が欲しかったというのも思わないではありませんでした。しかし、2点を先取して以降、チームはさらにバランス重視へと変化していきました。それは、見ようによっては“受けている”ような。しかし“内容は良かったのだが”敗戦で終わっていた第1クールからすれば、この勝利という結果、しかも完封という結果こそ今、一番チームにとっても必要なものだったと言えるでしょう。その一番欲しいものを獲りにいくために我慢して、落ちついて試合を“運んだ”。

中山が帰ってきた。宇留野もフル出場でキレも戻ってきた。西は絶好調。GK陣の競争は激化している。吉井の練習参加という情報もある。終始、福王の大声のコーチングが響き渡り、さぁ、これから上昇気流に。とりあえず今節は、そんな期待をいだかせた試合結果。そしてもう3日後には、次の試合開始のホイッスルが鳴ります。

6月14日(日) 2009 J2リーグ戦 第21節
甲府 4 - 1 熊本 (16:03/小瀬/11,595人)
得点者:5' 金信泳(甲府)、31' 金信泳(甲府)、53' 木島良輔(熊本)、83' 山本英臣(甲府)、89' 國吉貴博(甲府)


湘南戦のあと、「いいときのイメージが常に“目標値”になり、その戦える時間量を増やしていくことが、今年積み上げるべき財産」だと書きました。これまでJ1昇格戦線を争うチームに対して善戦しているといえる熊本。そして迎えた甲府との第2戦。前回対戦時も書いたとおり「熊本が目指すパスサッカーの“本家”甲府への挑戦」。しかし、今日はその目標値に近づいた時間帯は目に見えないほど非常に短く、本家を脅かすまでには到底至りませんでした。まさに完敗。その差は歴然でした。

熊本は左SBの原田を累積警告で欠くばかりか、市村が練習中の怪我で離脱。さすがに開幕からの連続出場で疲労が貯まっていたのでしょうか。その代わりに福王、矢野をそれぞれのサイドに入れ、中央はソンジン、河端で埋めてきました。その代わりベンチには控えのDFはなし。前線はここ2試合続く、藤田を最前線に上げたいわゆるゼロトップ。

試合は、開始早々から甲府の圧倒的な攻勢。熊本はファーストディフェンスが甘く、いきなり最終ラインでの防戦に終始する状態に追い込まれます。前回対戦時、あれほど押さえ込んでいたマラニョンですが、今日のチェックは甘く、次々に裏をとられ、1対1のスピード勝負に持ち込まれます。一方、甲府はファーストディフェンダーがしっかりとボールをチェックして、アタッキング・サードまで入り込ませない。熊本は中盤で奪われる。足元へのパスを確実に狙われていました。狙われているのにその対処ができなかった。そこが今の実力なのかも知れませんが…。

前半5分、右サイドから迫るマラニョンに難なく振り切られる河端。エリア奥まで入り込まれグランダーのセンタリング。ボールは下がる福王の目の前を通って、ファーサイドから入りこんできたキム・シンヨンにぴったりと合わされます。期待していた対戦にして、早々の緩慢なディフェンス。なんともファンをがっかりさせる失点シーンでした。2失点目もキム。河端と矢野が二人ついても振り切られる。目を覆うばかりの惨状でした。

確かに熊本は、この強豪・甲府に対しても試合を通してDFラインを高くあげ、オフサイドも数多く奪った。しかし、明らかにゼロトップの攻撃を意識した中盤の配置に対して、甲府の二層になった守備網ががっちりと熊本の中盤の飛び出しを許さず、逆にワンボランチ石井の負担だけが目立ちました。甲府のパスサッカーのうまさに目を奪われがちですが、実はその本当の強さは堅い守備に裏打ちされているということがはっきりとわかった試合でした。

このままでは試合は終わってしまう…。流れを変えるべく、前半のうちに木島を投入(河端アウト)する意味は理解できました。福王をCBにスライドさせ西を右SBに下げる。それにより攻勢を引き寄せた熊本。後半早々に山本がエリア内で倒されPKを得ると、木島がきっちりとゴールに押し込みます。以前にも書いたとおり2-1という点差は、サッカーにとって非常に微妙な“心理的点差”。しかも熊本が徐々にリズムを掴み始めていました。しかし、この重要な時間帯に、わざわざ熊本はこちらからカードを先に切ってしまいます。宮崎に代えて井畑を前線に投入。確かに井畑の前線の運動量に期待したのかも知れませんが、良かったリズムは一気に萎んでしまったように感じました。さらに立て続けに3枚目のカード。右SBを西に代えて松岡。遠征直前に急遽帯同が決定されたらしい松岡。確かに練習試合でも徹底して右SBが試されていて、市村不在のこのときのプランとして準備されていた変更だったのでしょう。しかし、これもまた絶妙の交代とは言い難いものでした。

熊本がカードを使い果たした後、甲府はマラニョンを下げ吉田を入れると早いリスタートからPKを奪取。キッカーには熊本にPKを与えたDF山本を指名する“演出”までして、心理的にも突き放しを図ります。終了間際にはキムに代えて國吉。なんとこの伏兵にもロスタイムに駄目押し点を決められる結果となりました。文字通り、全て後出しじゃんけんに負けてしまったような展開。

何故、いい時間帯を持読させるための“我慢”ができなかったのか。まるで戦前に予め描いていた交代プランを、戦況を省みずに先手先手で打っていったような、あるいはそれがベンチワークの混乱にも感じられて、どうも腑に落ちないのです。また、先発フォーメーションを見ても、いいときの布陣を何故続けないのか。確かに層の薄さや、相手に対するスカウティングの結果があるのだとしても…。何が評価されるのか、何を求められているのか。選手の側も分からなくなってしまうのでは。何か采配にも迷いが生じているのではないだろうか。試合後のコメントを見ていてもそれが心配されます。

勝てない。結果がなかなかついてこないこの連戦に、ひょっとしたら眠れない日が続いているかも知れない新人監督。しかし、ここは頑張るしかない。踏ん張るしかない。もう一度、原点に立ち返り、落ち着いて現状を整理する作業を行うべきだと思うのです。今、熊本が目指している戦術は、他チーム関係者や多くのJ2観戦者からも高い評価を得ているのだから…。

「サッカーが一人で全て解決するなんて考える方がどうかしている」。今節の出来は本人自身も悪かったはずだけれど、今日もまた藤田は名言を吐いてくれている。一言で言ってしまえばそれが経験というものなのでしょうが、かつて甲府が作った25連敗という記録を思えば、今のこの歴然とした力の差も、経験の道の途中なのだと納得するのは難しいことではありません。この結果を受け入れて、切り替えて次に向かう。われわれの選択肢はそれしか残されていない。満員のスタンドでホームゲームを演出する甲府のサポーターたちを画面で見ながら、そう思いました。

6月7日(日) 2009 J2リーグ戦 第20節
熊本 1 - 1 横浜FC (13:03/水前寺/4,519人)
得点者:16' 宮崎大志郎(熊本)、68' 難波宏明(横浜FC)


横浜FC (先発フォーメーション)
18西田 9池元
13片山11三浦カズ
29チョン・ヨンデ5八角
6吉田14田中
2早川7吉本
 21大久保 
いや本当に暑かったですね。またもや熱射病っぽくなってしまいました。横浜FCを迎えた水前寺。前日の熊日の予想スタメンを見ておもわず笑ってしまいました。藤田がワントップに入るのは前節と同様なのですが、その後ろに宇留野、山本、宮崎、西という4人の選手が横一列に並んでいる。さらには中盤の底の石井の下には、4バックが控えている。まるで二人の“先生”が生徒たちを引率するような格好に見えて…。今や誰もがそう呼んでいる藤田のゼロトップは、4人それぞれが前の選手を追い越して、エリアに入っていく形ですが、こうもはっきりと一列に並んでいる図で書かれると、まるでアメフトのショットガン・フォーメーションを思わせます。そしてそのとおり、今日も西、山本、宮崎とどんどん飛び出して、QBならぬ司令塔の藤田からの精度の高いパスを受ける姿が見られたのですが…。

最下位に沈む横浜はカズが90分間ピッチに立ちました。試合前、アップが終わりベンチに引き上げるところで、藤田とカズのエールの交換。またまたロートル・ファンを喜ばせます。41歳のカズは今日がJ2でも100試合達成。37歳の藤田も、彼の前ではまだまだひよっ子なのでしょうか。

今日の試合、一言で言ってしまえば、前半押されていた熊本のほうが先制点を決め、後半みごとに修正したものの横浜に同点弾をくらうという展開。横浜の最終ラインは恐ろしいほど高く、全体は非常にコンパクト。そのなかで中盤が熊本のバイタルエリアを脅かす。そこは先週の鳥栖に習ったところもあったかも知れませんが、今日は山本のところでも二人、三人で潰しにかかります。高いところで奪っては、それ行けとばかりに速くシンプルに攻撃に繋げる。いかんせんフィニッシュの精度が悪くて助けられましたが。熊本は、試合後に北野監督が言っていたように「味方同士の距離が短すぎた」。敵の高いDFラインに蓋をされるように並んでしまっていました。

藤田は意図してサイドに張り、ボールを引き出そうとしていました。またはロングパスに競って、前線で潰れ役になることで、サイドに通過するハイボールに走りこむように“生徒たち”に求めていました。16分、藤田からダイレクトで右サイドを駆け上がる(追い越す)山本へ。山本のクロスはエリアに入りこんだ宮崎に。宮崎が思い切りよく蹴りこんだシュートはGKの手をはじいてゴールに刺さります。今日も先制点。幸先のよさに飛び跳ねるスタジアム。しかしその後は防戦一方。西田や池元、片山に次々にゴールを脅かされます。正直、もうちょっと精度が高ければ3点ぐらいは失っていたかという決定機に肝を冷やして前半を終えました。

ハーフタイムに練られる後半の修正プラン。しかし選手交代となれば通常、それは後半10分か15分、再び相手の出方を見てからカードを切ることが多い。けれど熊本は、後半開始早々から宇留野に代えて井畑を投入してきました。それほど熊本の前半は悪すぎた。宇留野のパフォーマンスがいまひとつというようにも見えましたが、他の選手と役割がかぶりすぎたためと言えなくもないでしょう。要するに“詰まっていた”状態。井畑と西を2トップに、藤田を2列目に下げ、中盤はダイヤモンドにして選手間の距離を広げたように見えました。これに井畑らしいハイボールへの競争力、前線での執拗なディフェンスが相まって、中盤でも互角にボールが奪えるようになった熊本。西が右サイドに走り中の井畑にクロス。そのあとすぐも藤田から左の宮崎にスルーパス。しかし、どちらも撃てずに終わってしまいます。

横浜は状況を打破するために難波を入れます。さっそく片山とのコンビネーションで脅かしはじめます。熊本も中央で受けた井畑が思い切りよくミドルシュート。これはバーに嫌われスタンドからため息が漏れました。同点弾は一瞬の隙でした。左サイドからのクロスに対して中央のチョ・ソンジンの前に入って難波がヘッド。難波らしい高い打点の、らしいプレー。ソンジンのマークが甘くなった瞬間を見逃しませんでした。

その後はお互いカードの切りあいで追加点を狙う激しい時間帯になりました。熊本が西に代えて木島を入れると、横浜は西田に代えて御給。横浜がサイドに須藤を入れると、熊本は期待の高卒ルーキー大迫をデビューさせました。

水前寺の芝が長く、パススピードが上がらなかったせいもあったのでしょうが、浮き玉、ロングボールでのカウンターの応酬。この気候条件にしては攻守に切り替えの激しい、厳しい試合展開。ピッチとの距離が近い分、明らかに選手の息が上がってくるのが感じられます。ロスタイム、終了の笛ギリギリまで得点のチャンスが互いに訪れる。それはまるで最後のゴングがなるまで互いにパンチを繰り出して戦っているボクサーのようであり。まさしく死闘でした。

互いに欲しくて欲しくてたまらなかった勝ち点3。今日のサッカーの女神は白ネコに姿を変え、両チームを隔てた塀のうえから戦況を伺っていました。互いに一生懸命呼び寄せようとしましたが、どちらの側にもそれは舞い降りず、そ知らぬ顔で塀のうえをそのまま通り過ぎて行ってしまいました。それはもちろん互いにまだ何かが足りないから。熊本で言えば今日は、完全に崩されたわけでないだけに、あの一瞬の守りの隙だけが悔やまれますが、しかしそれを埋めるための集中力というメンタルや、そのメンタルを維持するためのフィジカルが、まだまだ求められるのでしょう。もちろんそれは全員の選手に。

一方で前節、今節と、色々なオプションが試されたという見方もできるでしょう。そのなかで、もちろん選手個々のコンディションなどの条件はともないますが、目指すコンセプトのためにはどうしたらいいのかということも随分とくっきり見えてきたような気がしてなりません。西は前線での役割、動きにすっかり自信を得たようだし、今日がデビュー戦になった大迫も、もっと長い時間見てみたいし。逆に課題が突きつけられた部分もあったように思います。こうやって新しいメンバーが入り、それぞれが“チャレンジ”してチームの姿、パフォーマンスが徐々に形を変えていく。勝ち点3が遠のいているようで、実は勝利の白ネコも未練がましく振り返って見ている。そんな感じではないでしょうか。また次が楽しみだ。そう思わせる試合が続いていると思います。


6月3日(水) 2009 J2リーグ戦 第19節
湘南 3 - 3 熊本 (19:03/平塚/3,797人)
得点者:15' 西弘則(熊本)、18' 西弘則(熊本)、38' 寺川能人(湘南)、44' チョソンジン(熊本)、62' アジエル(湘南)、89' ジャーン(湘南)


湘南 (先発フォーメーション)
 34田原 
22中村10アジエル
8坂本7寺川
 2田村 
4山口5臼井
19村松3ジャーン
 32野澤 
仕事から急いで帰って、スカパーをつけて先発フォーメーションにびっくり。なんと藤田のワントップ。5月は勝利なしで目下3連敗という状況にあって、前日の熊日の予想とも違う布陣。北野監督も遂に“迷走”を始めたのかという危惧が走りましたが、しかし、考えてみればこれはこれまでこだわり続けてきた熊本版ゼロトップに違いなく、今日はベンチスタートの小森田へのいい“お手本”になるかもしれません。高橋という点取り屋がいなくなった熊本が、今年目指そうというスタイルそのものでした。

北野監督の狙いは「湘南の田村くんを動かして、あのスペースを西や宇留野が集中して前半から狙っていこうと」(J’sゴール)いうことにありました。トップの藤田は、もちろんハイボールを競えるわけではありませんが、前線で厳しくプレスをかけ続けます。その運動量も相まって、高い位置で奪っては湘南のバイタルエリアを早いパス回しで混乱させます。4分には西が奪って積極的にシュートを撃つ。6試合ぶりの先発に気合が入っている西。同時に彼独特の“落ち着き”も感じられました。湘南は明らかにそんな熊本の出足に翻弄されている。奪っても崩しの段階でのパスミスが連発します。

15分、カウンターぎみに藤田から右の西に通る。DFともつれながら西が素早く振りぬいたシュートは左ポストに当たりゴールに吸い込まれました。ルーキー西の待望の初得点で先制!続く18分には宇留野の右からのクロスを藤田が後ろに落として、走り込んできた西が追加点!「俊哉さんがキープしてくれるので、追い越していこうという狙いでした。俊哉さんに入ればパスが出てくるので、信じて走りました」(J’sゴール)と試合後の西。完全な崩し。まさにゼロトップのお手本のような藤田のプレーに、大のおじさんが、子どものようにぴょんぴょん飛び跳ねてしまいました。

試合を通して今日の主審の笛はみごとでしたが、それ以上にテレビ中継を楽しませてくれたのは解説の三浦俊也、プレイヤー解説の名波浩という豪華なコンビでした。バイタルエリアの狭いところで崩しを狙ってパスを通す熊本をして、「名波さんがいたころの磐田のようですね」と三浦。正直なところ何でこのチームが16位なの?といいたげな。時間が経つほど、両人の熊本評価が高まっていきます。われわれは藤田の古い盟友のピッチ解説の中身の濃さに心地よく耳を傾けながらも、「どうだい名波。こんなに自由に、思いっきりサッカーが出来る藤田のことがうらやましくないかい」と。ピッチ上の競演という、ロートル臭い夢まで描いてしまいそうになりました。

もちろんこんな早い時間の2点で試合が決まってしまうはずがないこともわかっていました。今日も熊本の“心臓”石井が守りの読みよく効いていましたが、38分、アジエルからのパスを田原が落として、拾った寺川がDFをかわしてゴール。寺川らしいけれんみの無いみごとなゴールでした。2-1という、サッカーでは一番難しい点差になって、テレビの前でしばし腕を組んでしまいました。その思いを払拭したのは前半も終了間際のCK。三浦も認める原田の質のいいボールを、チョ・ソンジンが点であわせて追加点。逃げ切りの重要な1点でした。

しかしさすがに湘南。首位という位置は伊達ではありません。後半、中村に代えてトゥットを前線に投入。熊本のDFのマークを拡散させる意図でしょう。熊本は10分、宇留野に代えて木島。藤田を右に配置し、木島をワントップに。しかし、ちょっと今日の木島にはボールが繋がらなかった。さすがに連戦の疲れもあるのでしょうか。17分、ひとり気を吐いていたアジエルが、一瞬にしてDF裏にスルーパス。反応した田原のエリアへの突進に、たまらずGK吉田が倒してしまいます。デジャヴーのようなシーンでした。アジエルがPKを決めて1点差に迫る。それでも映し出されるベンチの敵将・反町監督の表情は晴れないものでした。

戦評の多くがここからの熊本の選手の運動量低下を指摘していますが、それ以上に、熊本のイレブンの意思統一が図れなかったこともあるかと思います。名波も解説していたように、時間にして残り30分近く。守るのか攻めるのかという二者択一にしては非常に微妙な時間が残され、熊本は選手間の距離が間延びしていきます。石井が相手と接触して傷む。宮崎が足を攣り西森と交代。逃げ切るための戦術変更が必要な時間帯。ロスタイム突入間際、チョのファウル。FKからゴール前で湘南はパワープレー。混戦のなかで必死に掃きだそうとする熊本。しかしボールは不運にもジャーンの足元に。瞬間振りぬいたシュートが熊本から勝ち点2を奪いました。

引き分けという結果。悔しくないわけはありません。しかし熊本にとっては収穫の多い、財産として残る試合ではなかったでしょうか。形になった西の追い越す動き。初のCKからの得点。的確なスカウティングで田原、アジエル、田村はともかく、もうひとり嫌な相手だった坂本という攻撃のキーマンには全くといっていいほど仕事をさせませんでした。確かに湘南は本物の強豪でした。あの流れ、あの時間帯からしぶとく同点まで追いすがる強さは印象深いものでしたが、反省点が多かったのも湘南のほうではなかったのでしょうか。

ベストパフォーマンスと評価した第一クール大阪戦の前半。今日もまた前半はベストと言っていいものでしたが、昨シーズン、広島や山形に対してどれだけ戦えるか(食い下がれるか)が課題だと思っていたように、今シ-ズンは次にJ1に上がるであろう大阪や湘南相手にどれだけ自分たちの目指す戦い方が出来たかというところが一番のポイントではないかとわれわれは思っています。現時点では90分間、そしてシーズンを通してそれができるわけではありません(もちろんそれができたらJ1ですから)。そのいいときのイメージが常に“目標値”になり、その戦える時間量を増やしていくことが、今年積み上げるべき財産なのではないでしょうか。

前節のエントリーを書いたあと、“ハードワーク”という言葉をしばらく使っていないことに気づきました。ピッチ上で何が勝負を決めるのか、前節の鳥栖が思い出させてくれました。北野監督は「1オンスも体力を残すな」と原点回帰を指示した(4日付・熊日)。それに従ってハードワークした選手たち。昨年積み上げた財産を知っているものからすれば、試合後、反町監督の「後半で足がつってボールを外に出してくれと言ってるようではチームとしてはよくないですよね。」という皮肉なコメントも、単なる“強者の負け惜しみ”にしか聞こえてこないのでした。