8月30日(日) 2009 J2リーグ戦 第36節
熊本 0 - 2 C大阪 (19:03/熊本/5,755人)
得点者:4' カイオ(C大阪)、69' 香川真司(C大阪)


昼間はまだ焼け付くような厳しい陽射しが残るとはいえ、夕暮れのKKウィング、スタジアムを吹き渡る風には、はっきりと秋の気配が感じられました。今季最後となるC大阪との戦い。首位、大阪ですが、さすがに今回は中心選手のマルチネスが不在とあって、勝機が見出せるかもしれない。しかし、熊本もこのところの得点源だった宇留野を怪我で欠き前線は非常事態。前日の熊日の予想スタメン通りに山内を中心に置いて、右に西、左に西森という3トップは、高さという面だけ見ても迫力不足は否めませんでしたが、反面、なかなか結果がでない苦しい状況を打開していくのは、こんな若い伏兵たちではなかろうか。などという淡い期待もありました。

C大阪 (先発フォーメーション)
 9カイオ 
8香川7乾
19石神13平島
11船山6濱田
2羽田5前田
 3チアゴ 
 21キム 

しかし、前半は全くいいところなし。開始4分、大阪の前線へのロングフィード。キック時点ではカイオはオフサイドポジションと思われましたが、香川とうまく交差して熊本の両CBを交わす。香川が裏に落としたボールはしっかりとカイオに治まり、そのまま豪快にシュート。早々に先制されます。その後も完全に大阪のペース。ただこの後は、決定機をことごとく外してくれる。二度、三度。こうやってチャンスを潰しているうちに、だんだんと相手にペースが移っていくものなのですが、しかし、今日の熊本はそれを手繰り寄せられない。逆に、自らのミスで決定機を献上してしまう。高さの代わりに機動力があるはずの3枚の前線。大阪の3バックの裏やサイドのスペースを突きたいのですが、供給されるべきパスが出てこない。

大阪の方が前線からのプレスが厳しい。ハードワークしている。背後からも激しく詰めよってファール覚悟でチェックする。しかし何度も何度も決定機を作りながらも決めきれないのが今の大阪の苦しさなのか。12本のシュートに肝を冷して終わった前半。0-1で折り返せたことが、まるで0-0で凌ぎきったような大仕事に感じたほどでした。

後半からの藤田の投入は予想されていました。前半を凌いで後半勝負というゲームプランだったのは確かでしょう。西森に代えて前での起点を作る。しかし、代えるべきは西森だったのか?ちょっと首を傾げてしまいました。さらに河端に代えて矢野。確かに今日の河端はゲームにフィットしていませんでした。迷わず早めに手を打ったこと自体は、今までになかった動きとして評価できますが、そもそもこんな交代は当初のプランにはなかったことでしょう。ここで貴重な交代カードを浪費してしまいました。

後半10分までは両者押し合い。それから次第に熊本にもチャンスが訪れはじめます。数度のCKで、点の匂いのする組み立ても見られますが、熊本も決めきれず。69分、大阪は前線でインターセプトすると平島がPAを破る。これを福王が対処しますが、うまく体を預けられてPKの判定。ここまで最後の最後に身体を張って凌いでいただけに残念な判定。香川にきっちりと決められて2点差になりました。

前節を終えて池谷総監督・GMは、こうコメントしていました。「これまで選手たちの戦い方を見ていると、攻撃8割、守備2割の意識だったような気がする。これからは守備を8割意識するように北野監督を通じて指示している。攻撃を行かすための守備。昨季と同じ“積極的な守備からの攻撃”に取り組みたい」。第三クール、今シーズンの戦いを“結果”として残すための締めくくりのテーマが掲げられたということでしょう。

そういう意味では、今節のC大阪との戦いは、いい試金石だったと思います。大阪の決定力不足に助けられた面もありますが、よく守った。守備の意識は最後まで途切れなかったと思います。矢野も福王も、要所でくさびのボールをカットし反撃の起点をつくっていました。最後のところで深く身体が入っていた。CKを含めたセットプレーへの対応も注視していましたが、以前よりマンマークがきっちり着けていたかなと。これまでがっかりさせられた“ポカ”といえるような失敗はなかったといえるでしょう。しかしチーム全体を見渡せば“積極的な守備”にはほど遠かった。逆にそれを実行していたのは相手側だったと・・・。

そしてミスが多すぎました。ポジションをずらしてボールを運んでいくことが出来なかった。足元足元へのパスを完全に狙われていたにもかかわらず、そこが修正できなかった。逆に、お手本を見るような大阪。その根底には“無理のない”ハードワークがありました。

この試合は完全に力負け。それも個々の力、チームの力、選手層の差、ベンチワーク全てを通した現在の総合的な力の差だろうと思います。これまでの北野監督には、戦前に描いたゲームプランに固執するあまり、臨機応変な対応に欠けるような印象を持っていました。今日は後半勝負のゲームプランに藤田、木島がベンチスタート。これは確かに現状の選手層のなかでひとつの策だったと思います。そしておそらく前線の3枚目は大迫を投入したかったはず。しかし、河端を諦め矢野にカードを使った。もちろんこの早目の決断には拍手を送るべきでしょう。とは言え、初めて見せた“臨機応変さ”が、先発DFを1枚代えするというだけの、言うなれば“消極策”だったことが皮肉のようで・・・。これもまた選手層と言ってしまえばそれまでですが。

夏休み最後の試合、総選挙もあった慌しい日曜日、それでも6000人近い観客が詰めかけたことは大きな救いでした。これだけ負けが込んで、いい材料も見えない、客観的に見ても“きわめて厳しい”状態のなかでのこの観客数。これは正直なところすごいことだと思います。そして、そのメンタリティーにも少し変化を感じます。前半の一方的な劣勢にも関わらず、ハーフタイムには冷静に語り合っているファンの姿。野次は飛ばしながらも、最後まで席を立たなかった人たち。それは2点差をひっくり返す可能性、一矢報いる場面。それが叶わなくても、しっかりとしたハードワーク、戦う姿勢さえ見せてくれれば、敗戦であっても拍手を送るファンが確実に増えているということではないでしょうか。そう思うと、「決定的な2点目を失い『試合が終わってしまった』」(31日付・熊日)という指揮官のコメントは、たとえ言葉の綾だとしてもちょっと残念でした。以前にも書きましたが、新任監督はその重責に眠れず、連敗で食事も喉に通らない日々が続いているのかもしれません。しかし、けっして自分ひとりで戦っているのではない。そう思ってもらいたいなと。何もないところから縁あって出会い、九州リーグから這い上がってきた戦友じゃないですか。あの頃を思えば、何も焦ることはない。われわれはそう思っています。

8月23日(日) 2009 J2リーグ戦 第35節
岡山 2 - 1 熊本 (19:03/岡山/8,677人)
得点者:22' 西野晃平(岡山)、24' 宇留野純(熊本)、28' 西野晃平(岡山)


敗戦の週は、ヤケ酒の飲みすぎ(一方は甘い物の大食い)でスタートし、モヤモヤした気持ちのまま一週間が過ぎてしまう。これが都合3週間も続いてしまうと辛いものです。「ホームチームの勝ち負けに一喜一憂する」ことこそがサッカー文化なのですが、“憂”だけがひたすら続いています。

試合翌日の熊日、後半については比較的評価が高かったようですが、スカパーの中継を観ている限りではそんな感じがしなかったので、やや違和感がありました。やはり画面を通して得られる限られた情報と、現地で間近に感じる“空気感”を含めた情報との差なのか。こちらはテレビ観戦で多くのことは語れないのかも知れません。それにしても、特に新規参入チームのホーム中継には、不満を感じることが多い。もっとカメラワークを磨いてほしいなと…。スタジアムのカメラ位置(高さ)自体の問題もあるのでしょうが、味スタの東京Vの中継など、フィールド全体が俯瞰できてよくわかる。スウィッチングもいいし。福岡レベスタ、甲府・小瀬などの中継もいいですね。ホームゲームはスタジアムで観ますから特にRKKさんに対して不満は感じていませんでしたが、やはりJ1未経験の地方局の中継には、その差を感じざるを得ません。中継技術も切磋琢磨してほしいですね。さて八つ当たりはこれぐらいにして、岡山との3度目の対戦。結果が結果だっただけに、いつものように時系列で試合経過を追いかけるのはやめて、ポイントだけ書いてみたいと思います。

岡山 (先発フォーメーション)
 19西野 
 8保坂 
14小林48青木
11喜山36竹田
50野田4澤口
6野本31大島
 1李 

勝ちたい、そして勝てそうな試合だったことには間違いありませんでしたね。岡山は要注意人物の喜山をボランチに。西野をワントップに敷いた4-2-3-1。第1クール対戦時も、昨年の熊本と擬似対戦するようだと書きましたが、ますますあの頃と似ている感じがして…。対するわが軍は、西が故障したのか、前日の熊日の予想フォーメーションでも久しぶりに小森田の先発が予想されていて。それは宇留野との2トップでしたが、蓋を開けてみるとワントップの位置に小森田。ちょっと残念な気がしました。

試合後、北野監督が明かしていますが、「前半は長いボールで、ラインの高い岡山のディフェンスを下げるような動きをしようと」した熊本。しかし、われわれには前節戦った水戸のように、ボールを保持したら一番シンプルにゴールに近づく“選択肢”として早めに前線に送っているようにも見えました。水戸と戦って得た、相手の良さ、そして自らが“されて”嫌だったことを相手に試しているのかなと…。ちょうど昨年の今頃、甲府にされて嫌だったと言って4-2-3-1の布陣に変更して行ったように。そして、得点となった藤田から宇留野への素早いリスタートは徳島にされて“嫌だったこと”。この試合、再三狙っていたプレーでした。ただ、残念なことに、前線への早いフイードで水戸のように競れる選手、収められる選手が今の熊本にはいない。小森田はやはりちょっとタイプが違うと思うのです。それはFWの持っているDNAというものなのでしょうか。

西野晃平に2得点されて試合を決められました。2005年に日本文理大から鳴り物入りで大分に入団した選手。同時期、同大学から“ロッソ”は河野を取りました。昨年は水戸、今年は岡山にレンタルされている西野。本領を発揮させてしまいましたが、いずれもバイタルでシュートコースを空けてしまったDFと、久々に出場したGK稲田との連携にも微妙なズレを感じました。

第3クールの第1戦。岡山とはこれで1勝1敗1分け、五分の結果で今季を終えます。長い長いこのリーグ戦も、早いもので最終クールを迎えている。そして、それはすでに来期が視野に入ってくる時期に差し掛かっているということですね。J2年目の熊本の“成果”と“課題”をしっかりと確認し、来期へ繋げる作業の重要なクール。昨年のように“財産は残せるのか”。それを確認する重要な“季節”がやってきていると思います。

松岡選手のブログによると、試合後岡山で新幹線を待つ間、藤田選手から色々“教えられた”らしい。それはおそらく「今に甘んじず、上を目指せ」ということなのだろうと思います。熊本に来たときから、藤田は口を酸っぱくして周りに言っているようです。熊本の若手選手のそこに物足りなさ、不満を感じているのは明らかです。例えば、再三引き合いに出して恐縮ですが水戸というチーム。ご存知のように熊本と同等レベルの“小さい”予算規模、わずか8000万の強化費といわれながら、現在のチーム力を培った。それはひとつに、関東圏にあるチームという“地の利”は否めません。しかし、同時に水戸というチームで自らの力を磨き、注目を集め、選手個人としてさらにその上を目指そうという高いモチベーションがある。それは水戸というチームへのシンパシーとは異質のものなのかも知れませんが、激しい競争意識でチームは支えられている。浦和の闘莉王に限らず、そういう“モデル”をこの10年で生み出しているところに強さの秘密があるように思えます。

そういったモチベーション。今の熊本はどうなのか。スタメンで出ている選手個々のプレーの質がどうのこうのと言う前に、控え選手、居残り選手を含めたチーム全体、クラブ全体としての“心理マネジメントのあり方”そのものに問題があるような気がしてなりません。岡山戦後の移動。熊本への帰宅が27時だったという藤田はしかし、「とにかく悔しくて、移動の新幹線もバスでも、全く眠気は起きないまま今に至ってます」と言う。この想いを、チームメイトの何人が共有していたのか。この想いが、熊本に残っていた選手たちに伝わっているのかどうか…。今日の熊日朝刊「ロアッソ記者席」を読んでも、巷間漏れ聞く話によっても(こんなときに限ってよくない噂が流れてきます)、どうもチームがバラバラなような印象を受けます。チームが一体になっているのか、そうでないのかということがそのまま結果に現れているようで。それもまたチームの総合力と言っていいのでしょうが…。
さて、こんなときわれわれファンは何が出来るのだろうか。そう自問する毎日ですが、そんななかで日経の名コラム、吉田誠一さんの「フットボールの熱源」から。ちょっと前の文章ですが引用させていただきます。考えさせられる(救われる部分もありの)一文です。

「プロサッカークラブは観客に何を売っていると思いますか」。三月末、Jリーグのゼネラルマネジャー(GM)講座で講師を務めたリバプール大学のローガン・テイラー博士(サッカー産業グループ)は受講者にそう尋ねたという。
 「夢を売っている」「感動を売っている」「熱狂を売っている」。普通はそう答えるだろう。テイラー氏によれば、違うのだという。「プロサッカークラブは苦痛を売っているんですよ」
 支持するチームが先制されれば、サポーターは心を痛める。負ければ、なおのこと。リードしていても、「追いつかれるのではないだろうか」とひやひやする。勝ったとしても、「次は鹿島戦かよ」と心配になり、「こんなことで1部に残留できるのだろうか」と思い悩む。いつになっても心は休まらず、苦しみは続く。たとえ優勝したとしても、新シーズンに入れば「今季は大丈夫だろうか」と新たな苦悩が始まるはずだ。
 もちろん観客は勝利の歓喜を求めてお金を出しているのだが、実際はほとんど苦痛ばかりをつかまされている。それがわかっていても、またスタジアムを訪れる。
 テイラー氏の講義を聞いたある受講者は、大事なことに思い至ったという。「苦痛を感じてくれるのは、そこに愛があるからですよね。クラブのために苦悩してくれる人。サポーターという言葉は、そう定義づけることができるのではないでしょうか」。確かに、歌手や音楽家や俳優や画家を支持するのとは、心理的なつながり方が決定的に異なる。
 「クラブ関係者は、苦しみを抱えている人々と日々向き合っているということを意識しなくてはならない」とテイラー氏は訴えたという。その点をおろそかにしてしまうと、愛はときに破局を迎える。(2008年4月16日 日本経済新聞)


2009.08.18 水戸との差。
8月16日(日) 2009 J2リーグ戦 第34節
熊本 1 - 3 水戸 (19:03/熊本/4,485人)
得点者:9' 荒田智之(水戸)、45' 森村昂太(水戸)、55' 宇留野純(熊本)、62' 高崎寛之(水戸))


一時期、物議をかもした水戸・木山監督の「ポゼッションという言葉自体が、サッカーの世界で“死語”だと思う」(第12節のサガン鳥栖戦後)という言葉。なるほど今節の対戦を終えて、その言葉の真意がよくわかったような気がしました。

スポーツナビの佐藤拓也氏は自身のコラムで次のように解説してくれています。
「木山監督は中盤でボールを回すことを決して否定しているわけではない。ただ、日本のサッカーは、つなぐことに満足してボールを前に運べないことが多く、ゴールに対する意識が希薄になってしまう。だが言うまでもなく、サッカーはゴールを奪うスポーツ。そのためにも『もっとボールを前に進めるべき』というのが、監督の考えなのである。実際、水戸のサッカーには、木山監督の考えが色濃く反映されている。シンプルに前線にボールを入れてから攻撃を展開。単調になることも多いが、縦パスを重視し、執拗(しつよう)にゴールに迫る攻撃は、相手DFにとって厄介なことこの上ない。(後略)」

なにはともあれ、「ポゼッション」と「カウンター」の2極対立軸で語られがちな昨今のサッカーに関して、明らかに疑問を呈したかったのではないでしょうか。確かに水戸のサッカーは単純に語られがちなカウンターサッカーではない。ボールを奪ったら、とにかく縦に縦に、全員が一斉にゴールに向かって動く。その姿は、かつてのオシムが率いた千葉に近いものを感じると言ったら言い過ぎでしょうか。そして第1クールでC大阪に敗れたときクルピ監督に言われた「勝敗を分けたのは『ゴールに向かう目的意識と、決定機での集中力の差』だった」というコメントも同時に思い出してしまう。やはりサッカーはゴールを奪うスポーツなのだと痛感します。

水戸 (先発フォーメーション)
11高崎 9荒田
23遠藤8菊岡
19森村16下田
2小澤3保崎
32大和田20中村
 1本間 

熊本は今期初めて河端、石井、福王の3バックを敷いてきました。おそらく荒田、高崎の強力な水戸の2トップに対してマン・ツー・マンでひとりを余らせたかったのだと思います。しかし、いつもなら身長差をものともしない河端が、今日はハイボールに競り負ける場面が多い。開始9分に、GKからのロングキックを高崎がジャンプ一番、DFライン裏に反らすと、信じて飛び出していた荒田にぴったりと合う。トラップからダイレクトにシュート。見事なコンビネーションを見せ付けられました。

1失点には動じない。強豪・水戸相手に織り込み済み。と、内心うそぶいてみたものの、これまで4度の対戦で勝ち星がなかった相手。今日はスカウティングよろしくいつもの布陣をいじって臨んだだけに、幸先の悪さにがっくり気落ちしてしまったのもファンの確かな心理だったでしょう。いつもより一列前の原田と市村の攻撃参加に期待する。しかし、逆にボランチに下がった山本と吉井がなかなか前線に顔を出せず、自慢のパス回しが見られない。いつもなら相手守備ラインを混乱させられるポジションの流動性もなく、逆に相手に高くラインを上げられて、自陣に押し込まれる時間帯が長く続きます。胸踊ったのは前半終了まぎわのゴール前FK。原田の左足から放たれたボールはしかし、驚異的な跳躍力のGK本間の手をかすめてポストに当たり、枠外に弾き飛ばされてしまいます。まさしく水戸の守護神。その失点の少なさは、この男の活躍にも起因していました。

それにしても残念だったのは、後半開始早々1分も経たない時間帯での失点。全く最初のプレーではなかったかと。左サイドで森村に持たれると、中に切り込まれ撃たれる。意表を突かれたのか、完全に守備範囲だったにもかかわらず目の前のバウンド処理に躊躇したのか、目測を誤ったのか、木下は手を伸ばすもののボールはゴールに吸い込まれてしまいました。「もはや“お約束”と言える失点」(17日付・夕刊)と熊日の後藤記者にも酷評されるように、後半の反撃に期待するファンの気持ちを一気に萎えさせてしまうものでした。

ようやく反撃の狼煙が上がったのは10分、宇留野がバイタルエリアでボールを持つと、DFを引き連れながらひとりで粘って中央まで切れ込む。放ったシュートはゴール左角へ。名手・本間を大の字にさせた痛快な瞬間でした。1点差。まだ分からない。しかし、その狼煙もわずか7分後には踏み消されてしまいます。熊本の好機をうまく潰すと、すぐさま反転攻勢の水戸。熊本の左サイドを崩し、狙いすまして上げたクロスに、今度は2トップの一角・高崎が真ん中からしっかりとヘッドで叩きつけました。マーカーがあっさりとかわされ、まったく着いていけず体を当てることすらできていない…。

これまでも“オートマティズム”に優れたチームを数々見てきました。JFL時代のYKKしかり、佐川しかり。草津もある意味そうであり、最近は岐阜にも感じます。水戸もまたそういった印象のひとつのチームだったのですが、今節の戦いで少し考えが変わりました。これは単に“オートマティズム”という表現では済まされないのだなと。言うなればゴールまでの逆算。極端に言えばGKも可能ならゴールを狙う。それが無理なら一番ゴールに近いFWを狙う。それが駄目ならその一列下…。若い世代が基本として教え込まれるプレー選択の優先順位そのものを実践しているわけです。それは決してカウンターではない。チーム全員がただひたすらゴールを目指しているから、どう動き出せばいいのかわかっているのでしょう。木山監督、信念に基づくなかなか面白いサッカーを目指し、2年目で開花させようとしている。願わくばわがチームの対戦相手としては見たくなかったなと…。

3失点は前節と同じ数字なのですが、今日のこの3失点は全く今の水戸との実力どおりの“差”だなと思いました。熊本としてはシステムを変えて、相手の良さを消そうと試みましたが、その思い通りにはなりませんでした。逆に「いつもと違うことをしては勝てない」と試合後、石井に言われる結果に。木山監督と筑波で同級生だった藤田も、S級ライセンス講習で同期だった北野監督も、この完敗は忸怩たる思いが募るものとなったことでしょう。ビデオで試合を見直してみると、やはり決定的な場面での“ミス”と言わざるを得ないところからの失点。そしていつもと違うシステムでも、それでも作り出せている決定機。石井に指摘されるまでもなく、今の熊本にオプションとして多様な戦術を求めることが得策とは思えない。いや、今やろうとしていること自体が、多様性の集大成のような戦い方なんだし。これを続けて、磨いていくしかないのではと…。

折りしもこれが第2クール最終戦。振り返ってみれば第1クール4勝9敗4分に対し、第2クールは5勝9敗3分とほとんど変わらないと言っていい戦績でした。得点こそ1Cが16点に対し2Cは28点と驚異的な伸びを見せましたが、反面失点も24から36に増加。奇しくも得失点差は-8と変わらない結果となりました。得点力を手にいれた分だけ、守備力が失われたのか。データだけで単純に言うことではありませんが、ここ何試合も続く“3失点”を見る限りは、「点を入れても勝てない」と嘆かざるを得ないでしょう。第3クールに向けて「もう一度応援してください」(熊日・夕刊)と言う北野監督。そのためには、守備をもう一度見直す必要があるのは誰の目から見ても明らかでしょう。先ずはこの水戸の分析から。おそらくは今日の水戸の戦いが通用するのもこの試合限り。他チームは当然、徹底した分析をかけてくるでしょう。

われわれの計り知れない色々な事情があるのかも知れません。しかし、「ないものねだりはしない」と誓った今、とにかくホームスタジアムに足を運ぶだけです。水戸の背中には10年の重みがあるわけですから。藤田も自身のブログで述べています。「クラブとしての規模は熊本とそんなに変わらないか、もしかしたらそれよりも少し小さい。(中略)今後の具体的でわかりやすい目標として行こうと思います!」

スタジアムを後にしながら、脳裏では「HIKARI」のサビのメロディーがリピートしている。「ただ、がむしゃらに。負けても諦めずに。僕らは歩いていく。」ちょっと、今の心境にぴったり過ぎるその歌詞に胸が締め付けられます。

8月10日(月) 2009 J2リーグ戦 第33節
熊本 0 - 3 徳島 (19:03/熊本/5,195人)
得点者:29' 徳重隆明(徳島)、50' 登尾顕徳(徳島)、52' 柿谷曜一朗(徳島)


第1クール、完敗時のエントリーでは徳島の激しいプレスとアグレッシブさ、そして美濃部監督のスカウティング力について言及しました。同じように0-3完封で破れた今回、さらにそれらに加えて徳島には狡猾さが加わっていた。姑息ではなく狡猾。今期の好調さ。勝ち方を覚えた徳島。もはや昨年見せたような試合中の自信のなさは微塵も感じられなくなりました。

美濃部監督の熊本に対する研究と対策は先発フォーメーションに表れていました。ここ最近使っていた3バックではなく4バックに。サイドのスペースを埋めるとともに、中盤に下がるときの藤田には、2ボランチが対応するゼロトップ対策。4人のFWのうち柿谷をトップ下に配置して全体では4-2-3-1のようなシステムに。しかし、これは臨機応変に4-2-4、4-4-2などに流動化していました。

徳島 (先発フォーメーション)
 18羽地 
 13柿谷 
14石田7徳重
8倉貫16青山
3藤田20ペ・スンジン
5登尾3三木
 21上野 

前半、「入り方は悪くなかった」と宇留野が言うように、ポゼッションでは熊本が圧倒。徳島はコンパクトに引いて、ショートカウンターを狙う。ただ、ポゼッションは上回るものの、一向にスピードアップすることができない熊本。しっかり作った徳島の守備ブロックを破れない。単純なクロスは跳ね返される。セカンドを拾って二波、三波の攻撃を仕掛けますが、最後のところで呼吸が合わない。外から長めのシュートも試みますが、シュート自体が流れに乗れないまま打っているのか、まったくヒットせず。結局、サイドへ誘導され、そこでしっかり対応されて好機につながりません。むしろ徳島側に何かこう「してやったり」といった余裕を持たせてしまうような序盤でした。

さて、1失点目の起因になったソンジンのファウル。バックスタンドのわれわれから見たら、確実にボールに行っていた綺麗なカットに見えたのですが、主審の観た位置からは違って見えたのでしょうね。リスタートは、主審が停止を指示していなければファウルを受けた側が「素早いリスタート」をしてもOK。しかし今回のようにカードを提示している場合は、笛を吹くまでのプレーを止めるというのが普通。あのコントロールは大いに疑問が残ります。

ただ色々と論議はあるとは思いますが、全ては主審の裁量の範疇ということも事実です。これはもう、審判の判断の世界。そもそも審判が間違いないジャッジをするとかいうこと自体が幻想ではないかと。考えようによっては審判も敵チームとはいかないまでも、“ゲーム”のプレーヤーのひとりとして、どう動くか、どう判断するか、大きな“変数”だと思わなければいけないのでしょう。審判への過度な期待がイライラやフラストレーションにつながってしまいます。レスペクトはしながらも、その役割や限界についても“クール”に認識すべきなのでしょう。いま一度、冷静なアタマに戻って、この試合の意味、反省が必要だと思います。何もかも審判やジャッジのせいにしてしまえば重要なことまでも見逃してしまうのではないでしょうか。

リスタートからの失点に騒然とするスタジアム。折りしも猛烈な雨が降り出しました。ただ、ここ最近の攻撃力からすれば、先制されても何のことはないと思えたし、この試合も、とにかく2点目をとられるなよ、とだけ思って見ていました。追加点か同点か。この展開で最も重要な時間帯は後半開始早々に違いありませんでした。前半の悪い流れを断ち切れとばかりに、アップテンポなチャントでゴール裏が後押しする。しかし、5分、度重なるCKから2失点目を喫すると、気落ちしたのか立て続けに3点目も献上。本当に熊本の悪癖となってしまったような崩れ方。再び素早いリスタートに警戒を怠っていました。

ここで気になったのは相手CK時の守備。ゾーンディフェンスとマンツーマンの併用なのかも知れませんが、ソンジンがぽっかりと空いたニアのスペースにひとりぽつんと立っている。わがチームに高さがないための戦術変更なのか。早くて低いボールに対しても、足元にも技術のあるソンジンだったらということなのでしょうか。とにかく初めて見る光景でした。ただ、相対する選手同士の高さがミスマッチを犯しやすいのもゾーンディフェンスの欠点。“チーム一の高さ”を相手(ひと)に着けずにゾーンを任せるのか。このところ続いているCKからの失点に対するひとつの実験なのかも知れませんが、徳島のCKは飛び上がるソンジンの遥か頭上を越えていくばかりだっただけに、なんだかもったいない思いだけが募りました。

3失点後は、ますますパスが回らなくなりました。縦に通らない。こんなときはドリブラーが突っかけるのがアクセントになるんですが。例えば西、今日もみごとにバイタルエリアをかき乱して相手を混乱させる場面を数度演出しましたが、突っかけてこぼれたところに誰かが後ろからフォローしてはじめてそのドリブルの意味がある。あれだけスペースのないところに、単騎で仕掛けて行って止められてではこちらのリズムにはなりにくい。西もおそらくそのあたりが気になって、行くべきところが行けていないということもあったのかもしれません。そこがC大阪や昨年の広島のような連動性のあるドリブル攻撃とは違う点で、その意味でも木島の穴は大きい。その欠場の自己責任は重いと感じました。ただ、これも選手層。熊本の今のチームの総合力なのです。

前節と同様、松岡、井畑、宮崎を投入。前節2点を守りきった同じ時間、今日は3点のビハインドを追いかける。しかし圧倒的に有利な状況になった徳島の守備の意識はますます高まり、狡猾に時間を使うと、ピッチ上の熊本の選手のイライラだけがスタンドにいるわれわれにも伝播しました。

第三者からも「面白い」と言われている熊本の攻撃的なパスサッカー。しかし、ここ数試合のなかで初めて機能しなかったと言えるでしょう。この反省と、分析はとても重要だと思われます。イライラで言えば、その伏線は機能しなかった前半の攻撃にあったわけで、ここでの対応力・応用力がこの試合結果の最も重要なポイントなのではないでしょうか。徳島は前半、意識的にそういった熊本をイラつかせるような戦いを仕掛けてきたのではないかとも言えます。

またもや「崩された失点ではない」という表現も成り立つのかも知れません。しかし、それは「面白いサッカー」を目指すためにどこかで曖昧にしてきた組織守備へのつけのような気もします。徳島に今日、対策されたことは、今後ほかのチームにも同様にされる可能性があることを意味しています。「熊本の守備はもろい」(柿谷:試合後のコメント)ということも共通認識されている。今日は徳島が皮肉にも攻守両面に渡って「守備」を教えてくれたのだと思います。今期の徳島。実に厄介なチームです。われわれ熊本に対しても、綿密なスカウティングで戦術変更までして対応してくる。ただ、これを破っていかなければ上は見えてこない。今更ながら本当に厳しいリーグです。

最後にソンジン。3失点いずれにも絡んでしまった感がありますが、今再びそのコンディションとメンタル面が心配で仕方ありません。試合前「DFではソンジンが一番疲れている。フレッシュな選手の起用はあり得る」と名前を挙げていたにもかかわらず、結果的には先発、フル出場させた北野監督。単なる情報戦だったとも思えず。終了間際には足を引きずり、ボールさえ蹴れないような状態にも見えた。このコンディションでも試合展開から引っ張らざるを得なかったのか。ピッチでは「ソンジン!ソンジン!」とチームメイトの怒鳴り声だけが響く。困惑したようなソンジンの表情。この高校を出たばかりの日本語もままならぬ若者が、熊本のセンターバックという重責を背負っているのです。
厳しいけれど、頑張れ。ソンジン。われわれにはそれしか言えません。でもそのスタンドから聞こえる「ソンジン!」コールは、彼の闘志を掻き立てるのに少しは役立つのかも知れません。

8月5日(水) 2009 J2リーグ戦 第32節
愛媛 0 - 2 熊本 (19:35/高知陸/3,533人)
得点者:5' 吉井孝輔(熊本)、30' 吉井孝輔(熊本)


2-0で愛媛を下し連敗から脱しましたが、まさに辛勝という内容でしたね。14位熊本と15位愛媛との戦いは、先週熊本でも行われたa-nationが愛媛に移動しているため、お隣の高知での開催。愛媛はここまで9試合勝ちなし3連敗中で、前節の四国ダービーは0-6の大敗。しかも主力の2人が出場停止、9人が怪我とあって、なんとベンチにはGK2人、MF1人という状況。JFL“青の時代”の頃、愛媛FCそのままの県代表で国体に参戦、決勝までの超連戦をこなし疲労困憊、ボロボロというような、まるで今日のようなチーム状態のなかで対戦したことがあったのを思い出します。旧サカくま掲示板を読み返してみましたがレギュラーは3人だけ、FWのひとりはユース(16歳)の選手まで出場し、結果は4-0というような...さて、今日の試合、対する熊本にとっても、4連敗中のうえ、直前に木島の出場停止処分が発表されて…。なにかと試合前から雑音の多い、やり難い試合には間違いなかったでしょう。

愛媛 (先発フォーメーション)
11田中 8内村
7千島17大山
24永井22横谷
27青野16赤井
23吉川2柴小屋
 21山本 

満身創痍の愛媛は、赤井と青野というMFを両SB、横谷をボランチに置く苦肉の策。しかし前線には田中や内村、サイドには大山など要注意人物も居る。開始早々から、このスクランブル事態に、逆にチームとしてひとつにまとまって、不思議な一体感で向かってくるのがわかりました。ただし、藤田を前線に置く熊本の布陣は今日も流動的に動き回り、愛媛守備陣を混乱させる。5分、山本が右サイドで粘って上げたクロスに、後方からPAに入り込んでいた吉井がアクロバティックなダイレクトボレー。目が覚めるような一撃で、今日も早々に先制点を上げました。

ただ、先制点のあとの“油断”や“隙”は今日も健在で、10分過ぎからは連続して内村にラインを突破されるシーンが続く。そこをなんとか福王と木下が、前節の汚名挽回とばかりに身体を張って死守します。30分、右サイド高い位置で宇留野がボールをキープすると、吉井に「飛び込め」というように手で合図しながら入れたクロス。ニアサイド、DFの前に一瞬早く吉井が頭を出すと、ボールはゴールに吸い込まれました。

吉井の連続ゴール。急造の愛媛ディフェンスの宇留野へのチェックが緩慢だったとはいえ、まさに2列目、3列目が飛び出して点を取るという熊本の、それも藤田ゼロトップの攻撃の成果でした。前節あたりから山本の献身的な運動量も戻ってきた感がありますが、怪我で離脱していたこの吉井が90分にわたり走れるようになったことで、攻撃にも厚みが増していることは確実です。

しかし守備には相変わらず課題が残ります。後半は特に問題でした。高いラインの裏を突かれる場面、中盤でのイージーなパスミスからショートカウンターに持っていかれる場面。もう後ろには木下しかいない。極端に数的不利なわけでもない。足りているのに破られる。なぜ? 確かに相手は必死。この状況に開き直り、チームもサポも一丸。これが愛媛ホームではなく高知開催でよかったなとさえ思いました。厳しい状況下、ゲームへのとてつもない集中力が彼らの顔つきから十分伝わってきました。

熊本は後半途中、藤田に代えて松岡を入れると4-4-2にして中盤を厚くしますが、なかなか愛媛の勢いを止められない。大山がバイタルエリアでタメて放ったスルーパスに内村がDF裏を取る。内村のシュートはゴール左に反れる。今日は、木下が当たっていたから救われたところも大きい。再び内村の突破。逆走する福王の必死の“意地”だけが勝って事なきを得る。熊本の我慢の時間帯が長い。アディッショナル・タイムの最後の最後にも田中に突破されるが、シュートは枠を外れる。ようやく安堵のホイッスルが鳴り響く。

色々なことがあって成長していくのだとは思いますが、今日、愛媛はまた“チーム”として大きな経験をしたんだろうなあと感じました。これで10試合勝ちなしにもかかわらず、試合後も鳴り止まないサポーターたちの「愛媛コール」をブラウン管越しに聞きながら、ついこちらの心も動かされました。そして熊本。交代カードを切れども切れども、局面は動かない。リザーブ層の薄さは誰もいない愛媛のベンチと変わらないんじゃないか、などと皮肉っぽく嘆いてみたくさえなりそうです。

ある程度引いていた愛媛陣内の狭いスペースで短いパスをポンポンとつないで、意図的に崩していくプロセスは、確かに見ていて面白い。ゴール前で二の矢、三の矢と仕掛ける波状攻撃も板についてきた感があります。連敗を止めてやっとひと息というところなんですが、一方で守備も含めたバランスの不安定さは一向に解消される兆しが見えないのがなんとも残念。まさしく辛勝だったと表現する所以です。もちろん、休みのないリーグの連戦のなかで、他にもたくさんの“変数”があるなか、課題克服をしていく難しさも十分理解はしています。簡単な試合は一つもない。当たり前ですがしばらくはこういった薄氷を踏むような戦いが続くことになるのかも知れません。そこはわれわれにも覚悟が必要なのかも知れない。それがホームチームを応援することなんだよと、愛媛のJ昇格でひとつ増えたJFL昇格枠に滑り込んだ因縁を持つわれわれに、またひとつ教えてくれたような気がします。

8月1日(土) 2009 J2リーグ戦 第31節
仙台 3 - 2 熊本 (19:04/ユアスタ/13,785人)
得点者:3' 吉井孝輔(熊本)、20' サーレス(仙台)、27' エリゼウ(仙台)、45' 平瀬智行(仙台)、65' 市村篤司(熊本)


夜のアウェーゲームは、テレビの前でビールから白岳しろに進んで、ほろ酔い加減で観戦するのが恒なのですが、このゲーム、もしどちらにも加担しないサッカーファンだったとすれば、攻守の切り替えの早い、得点シーンもふんだんにあるとても面白い試合として堪能したことでしょう。サッカーの楽しみとしてこれは大きな要素だし、熊本は実に面白いゲームをするという評価はたしかなものになりつつあるようです。しかしながら、われわれにはホームチームがあり、われわれは敗れてしまった。残念なことに、その現実を受け止めなければなりませんでした。

仙台 (先発フォーメーション)
19サーレス 14平瀬
10リャン11関口
7千葉8永井
5一柳25菅井
3渡辺8エリゼウ
 16林 

3連敗中に10失点。14位に沈んでしまったロアッソ。対する仙台には、知らない間に去年甲府にいたサーレスが加入していて、平瀬との2トップを構えます。スカウティング不足の仙台には“奇策”に映ったのかも知れませんが、木島が出場できない熊本の前線は、右に西、左に宇留野、中央に藤田を置いて、久しぶりのゼロトップというべき布陣。これが奏功しました。2列目の山本、吉井を加えた5人が、仙台のバイタルエリアを流動的に動き回るために、マークが着ききれない。石井から前の4人のボックスと藤田の関係が融通無碍で躍動するシステム。エリゼウ、渡辺の両CBの前には本来対峙するはずのFWがいない。かといって藤田を追いかけて上がることも許されないため、結果的にこの二人が余ってしまうことになってしまいます。逆に中盤では熊本が局地的な数的優位を作り出し、2列目、3列目が次々に飛び出していきます。3分、そんな仙台の混乱状態を見逃さず、右サイドから山本がクロスを入れる。相手DFを引き出した藤田の背後からゴール前に入ってきた吉井がヘッドで突き刺し、熊本が早い時間で先制しました。

中盤での激しい攻防。今日は山本と吉井の運動量が半端でない。原田もライン際のボールを粘り強く拾って、相手にリズムを渡さない。単にポゼッションだけでなく、サイドを広く使った展開、緩急をつけたズバッと縦への展開は、仙台を大いに慌てさせました。

しかし20分、ロングボールの処理。福王がサーレスに詰められて大きくバックパスをするとボールはゴール方向へ。目の前でバウンドしたボールの対処に慌てた木下の視野には、平瀬、そしてサーレスも詰めよる姿が映る。中途半端なクリアはサーレスへの絶好のラストパスになってしまいます。ほんの一瞬のプレー選択のミスから失点。同点にされてしまいます。熊本も気落ちせず攻め立てますが、最後のコンビネーションが少しだけズレて、惜しい場面が続く。対する仙台はカウンター主体ですが、逆襲からの奪ったCKやFKのチャンスでリャンのキックは実に脅威。そう思っていると27分、右CKからのリャンの低く速いボールがピンポイントでエリゼウの頭を捕らえて逆転に成功。エリゼウにとっては、直線的に自分のところに向かって来る簡単なボールでした。

流動的な熊本の攻撃に苦しみながらも、仙台がジワリジワリと地力を発揮してくる。そんな印象の前半でした。しかし、今日の熊本の出来が後半も続くなら、時間次第で追いつくことも可能だろう、そうも思いました。ところが、その思いが後半開始早々打ち砕かれます。再びリャンのCKから。速い良質のボール。ちゅうちょした木下は触ることもできず。まさにそこを狙っていたファーサイドの平瀬が頭でどんぴしゃり突き刺しました。

ややもすると多くの戦評は(これまでのわれわれも含めて)、「流れのなかでの失点ではない」「崩されての失点ではない」といった表現で、そのセットプレーからの失点を“結果”から差し引こうとします。しかし、この大事な時間帯での失点こそ試合全体の“流れ”のなかでの失点であり、セットプレーとはいえ“崩された”ことに何ら違いはないと思うのです。CKという必ず一定の回数で起こりうる場面への対処。それも3回の場面で2回決められてしまった。重い重い1点であり、その重い1点を奪い合うのがサッカーというゲームなわけですから…。特に今回、仙台は最後まで自分達の時間帯を作れなかったなかで、コストパフォーマンスよろしく2点のビハインドを作られたことは非常に痛かった。逆にわれわれはセットプレーを活かせなかった。

低い気温も手伝って、熊本の運動量も今日はなかなか落ちませんでした。65分には、熊本の前線5人の流動的な攻撃に、両SBが加わります。左から原田のクロス。中には3人。“きちんと”こぼれたところを、エリアの外から市村がミドルシュート。グラウンダーの球筋は、ゴール左サイドネットを揺らします。なんとも美しい全員攻撃。美しい市村のシュートで1点差に迫る。残り時間は25分。行ける。十分に追いつける感じが漂います。しかし、このあたりでさすがに熊本も足が止まり始める。仙台は平瀬を斉藤に代え、中盤を厚くしてくる。宇留野に代えて山内。原田に代えて矢野。山本に代えて宮崎。全ての手を打つ熊本ベンチ。精一杯の前懸かりで攻め続ける熊本。当然、仙台のカウンターに晒されます。代わって入った中原に何度もチャンスが訪れますが、全くフィニッシュの精度に欠け、助けられました。

アディッショナル・タイム3分の間も、両者互いにピンチとチャンス。ホイッスルが鳴った瞬間、熊本選手のみならず仙台の選手もうなだれていたことが、この試合の“内容”を物語っていました。
「いい気になることはできない。今日の内容では喜ばない方がいい。本当に、今日の苦しさは、もう一度進むためにはいい厳しさのあるゲームをさせてもらったと感じた」。試合後の敵将・手倉森監督のコメントにも、仙台側の“気持ち”が現れていました。しかし同時に、この試合で「必要なのは勝点3だった」とも言い放った。「どんなにいいサッカーをしても、僕らはプロなので勝たないといけないし、その辺で本当に申し訳ないと思っている。」敗者の北野監督のコメントは、全くの“対称形”を描いています。

Jで2シーズン目を迎えた今年、これまでわれわれは「たら」「れば」という言葉を出来るだけ使わないように努めてきました。それは、現実のサッカーの世界を生き抜いていくためには意味のない言葉だし、敗戦の言い訳にして現実を受け止めることを妨げるだけのものでしかないと思ったからです。われわれは(われわれのチームは)、本気で日本のトップリーグ(J1)を目指していることが少しですが実感できるようになってきたからでもあります。そして、更に、今日は“あの××”という表現もなるべく使うまいと心しました。確かに今日は“あの仙台に”主導権を渡さなかったし、先日は“あのC大阪相手に”75分まで互角に戦った。しかし、チームもそう表現されることから、そろそろ卒業してもよくないか…と。それが、「内容はよかったのだが…」ということとイコールになっているようで。そこから次に進まなければいけないような気がして。

8月に入ったとは思えないような涼しい気候の影響もあったのかも知れませんが、今日は“自分達のサッカー”を90分近く行えたことは確かです。これが徐々に徐々に増えていき、そして結果が伴ってくれればいいのですが。「今日は最後まで狙いに行って、守備も最後まで体を張ったので。これを忘れないことだね、それだけだと思う」。今日も顔色ひとつ変えずに鉄人ぶりを発揮した石井。歴戦のつわもののその言葉は、とても重く、ずっしりと響いてきます。