11月29日(日) 2009 J2リーグ戦 第50節
熊本 2 - 0 富山 (13:04/熊本/16,585人)
得点者:55' 小森田友明(熊本)、89' 山口武士(熊本)


こんなことが本当に起きるのですね。月並みな表現ですが劇的。思い切り振り抜いた右足。ボールはクロスバーに当たってゴールに吸い込まれる。瞬間、「うそ!」と叫ぶと同時に立ち上がり、「ウォー」と何やら声をあげ、そして胸の奥からこみ上げてくるものを抑えるのが精一杯でした。

とうとうこの日がきてしまった。それが戦前の気持ちでした。山口武士の引退。彼のプロフィールについては、昨年の4月に「遅れてきた黄金世代」と題したエントリーで書いているし、ここで改めてくどくどと述べる必要もないかと思います。“帰ってきた熊本のプリンス”。なにより思い出すのは、04年暮れに行われたロッソ熊本初のセレクション。当時JFLソニー仙台でプレーしていた山口が、63人の参加者に混じり、厳しい選抜の目にさらされているのを見て、「本当に帰ってくる決心があるんだ」と実感しました。明けて05年1月、鶴屋サテライトスタジオで行われた入団選手発表。その場に立った彼に向けて、一人のロートルファンから「お前に懸かってるぞ!」という期待と激励の声援が飛んだ。そんな日のことを思い出してしまいます。

Jに戻りたい。そんな彼の思いは、「熊本にJリーグチームを」というわれわれの夢と繋がり、地域リーグから這い上がる険しい道を共に歩んできました。将来を嘱望されたにも関わらず相次ぐ怪我に泣いた山口は、故郷での新たな挑戦でもやはり“ガラスのプリンス”を払拭できませんでした。前日、奇しくも古巣の鹿島は、同期入団の小笠原や本山、中田が、ガンバ大阪とリーグ優勝を争う大一番に臨んでいました。怪我さえなければ、間違いなくあのピッチに立っていたであろう男。その彼が今日、熊本でユニフォームを脱ぎました。熊本にJリーグチームを作るという大仕事を終えて…。

富山 (先発フォーメーション)
11永冨 15石田
17木本7朝日
5長山25野嶋
26中田19西野
3堤6濱野
 1中川 

試合は序盤こそ少し熊本のペースがあったものの、富山のしっかりと閉じられたバイタルを攻めあぐね、奪われては持ち味のオートマティズム溢れる攻撃にさらされる。再三のピンチ。同じく今日が引退試合となったGK小林が、1対1に飛び出すも交わされる危ないシーンもあり、1万6千人のホームのファンにため息をつかせます。「今日は危ない…。」と。

サイドが変わった後半もペースは富山にあったのですが、10分、右から市村のシュートを富山DFがクリアミス。それが小森田の前にこぼれたところをゴールに押し込む。副審のフラッグが上がっていてオフサイドかと思われましたが、主審の再確認で得点が認められます。しかし、先制はしたものの決して安心できない雰囲気が試合を支配していました。富山の激しいプレスに熊本の組み立ては寸断され、思い通りにボールが運べない。縦横無尽な“走り”にゴールを脅かされる。スタンドに幾度も悲鳴がこだまする。ここ一番の富山の決定機を止める小林。「この一点を守りきるのが、今日が最後の俺の仕事だ」と言わんばかり。まさしく守護神の働きを見せます。

後半も35分をまわったところ。先制点の小森田を下げて山口が入る。今期限りで契約満了を告げられた小森田が、山口と抱き合うように交代する。「お疲れさま」と互いの労をねぎらうように。“熊本スピリッツ”の両雄が交錯した瞬間。この熊本が生んだ二人のファンタジスタを共有していた至福のシーズンがもうすぐ終わりを告げます。

実は、山口の引退が公式に発表された後、市内のいきつけのスポーツ整体院で彼の姿を見かけました。それは東京V戦への移動日でもあり、「今回も帯同していないんだ・・」と理解しました。やはり、もう身体はボロボロなのかも知れない。古傷が痛むのかも知れない。でも、残されたあと2試合、その僅かな出場機会をうかがって、そのために入念に(おそらくいつものように)準備をしているのだなと。プロとしての最後までの気概と姿勢を垣間見た思いでした。

試合終盤の激しい展開、なかなかボールに触れない時間帯が続いて、いよいよロスタイム。エリア手前中央で西から丁寧な横パス。それを思い切りよく振り抜いた。何の迷いもなく。12年間のすべてをこのボールに託すように…。サッカーの神様が、小林の背後に立ち、そして今度は山口に舞い降りた・・・。選手皆が押し倒すようにもみくちゃにして祝福する。このドラマに立ち会えた幸運なファン。スタンドは総立ち。不覚にも涙が・・・。武士! 出来すぎだぞ、こんなラストシーン。

冬の曇り空。暮れなずむKKウィング。最終節甲府戦を前に、ホーム最終戦として恒例の引退選手を送るセレモニーが行われました。そこには先週発表されたばかりの、しかし今日もスタメンや途中出場を果たした契約満了の選手たちの姿もありました。この季節の常とはいえ、この寂しさは言いようのない辛いものがあります。特に今回は、“ロッソ”発足からの選手、J昇格に力を尽くしてくれた選手、今年もスタメンを張ってくれた選手の名前が並んでいます。TVで「矛盾していると言われるかもしれないが、世代交代の為に、依存度の高いベテランを中心に契約満了した」と述べていたという池谷GM。それは全て「4年後のJ1昇格」を見据えてのこと・・・。

旧サカくまの頃、リンク集には選手のブログ集はあえて作ってきませんでした。薄情と言われるかも知れませんが、選手はいつか“居なくなる”存在だと思っていたからです。しかし、熊本の名の下に戦った選手のことは、いつまでも忘れない。それを信条としたいと思っています。だから、“青”から“赤”に引き継がれたあのときも、掲示板は大いに荒れましたが、われわれは「青の選手を忘れない」という写真を掲げることで、精一杯のリスペクトを表現したつもりでした。

新生ロッソのセレクションに多くの青の戦士が参加しましたがひとりも採用されず、それはわれわれにとってもショックでしたが、それほどまでに厳しい世界なのだということを再認識した出来事でもありました。そして今回は、あのときセレクションされた“ロッソ”生え抜きの選手、あるいはJ昇格に力を発揮した選手の名前が並んでいます。

チームは次の段階に進もうとしている。そういうことなのでしょう。それは、あの青から赤への転換と同じくらいの変革なのかも知れない。選手獲得市場がいよいよスタートして、まずは「契約満了」というカードを切る。同時に新卒の選手の獲得が徐々に発表される。今はまだ、その時期でしかありません。チーム間の移籍交渉は、弱小チームにとっては後々の順番。契約満了者にめぼしい選手はいないのかという血眼のスカウティング。僅かのタイミングが明暗を分ける交渉。まさに人脈で成り立つネットワーク市場。

実は試合前日、東京出張の帰りの飛行機が富山チームと一緒になりました。羽田の待ち合いで、チームスタッフらしい人(多分副島HCだと思います)が一心不乱に“選手名鑑”に見入っていました。それは熊本戦へのスカウティングでもなく。右手に握られていたのは三色ボールペン。開いているページは、あるJ1チームのページでした。

移籍“市場”はオープンし、すでに戦いは始まっているという実感。この“勝負”のなかで、いかに戦えるのかわが熊本。今ここがまさにクラブの腕の見せ所です。次のチーム編成について明確なメッセージを出した熊本。発表や報道という結果で知るしかないわれわれにとっては、ちょっとした情報、噂にやきもきし、あるいは疑心暗鬼に陥りがちですが、これは同時にわれわれファンの“胆力”が試されているのかも知れません。特にこのリーグ戦終盤は、長年、一緒に戦った選手たちがチームを去っていく時期。引退、契約満了、更新なし。寂しい、本当に寂しい。なぜ? という気持ちもごく自然に湧いてきます。ファンとしたら当たり前ですね。だから今は、その事実をしっかりと受け止め、気持ちを落ち着かせたいと思っているところです。去っていく選手たちに感謝と敬意を。そしてまたチームの歴史が積み重ねられていく・・・。

チーム初の3連勝を達成し、第3クールに限っていえば、五分以上の成績を収めています。51試合。気の遠くなるような長いリーグ戦も来週は最終節。しかし、相手は昇格には勝つしかない甲府。ギリギリの真剣勝負マッチ。おそらく完全アウェー。鳥肌の立つような状況設定です。もちろん熊本も順位をひとつ、ふたつと上げるチャンスでもあります。このチームとしての最後の戦い、このシーズンの到達点をしっかりと見届けたいと思います。

11月21日(土) 2009 J2リーグ戦 第49節
東京V 0 - 2 熊本 (17:03/味スタ/4,736人)
得点者:16' 吉井孝輔(熊本)、43' 小森田友明(熊本)


日テレから経営権を譲り受けた新会社「東京ヴェルディホールディングス」が、リーグから課せられた、“存続条件”である“スポンサー料5億4千万”を確保し、理事会が来期もJ2に参戦できることを承認したのは、この試合のたった4日前でした。この“締切日”=“裁定の日”の直後の対戦相手がうちとわかっていたので、承認されて胸をなでおろしたのが正直なところです。名門ヴェルディの灯が消えなかったこと、関係者の努力にこころから拍手を送ります。

その直後には多くの契約満了選手と、今期途中から指揮を取ることになった松田監督の退任も発表されて。また、この試合には大黒やレアンドロの姿もなく…。腕組みしながら見守る崔暢亮会長の姿が画面に映し出されるのを見ると、すでに新生ヴェルディの歩みが始まっていることを実感させられました。

熊本も北野監督の退任が発表されてから初めての試合。ひょっとしたら、各選手も契約交渉が始まっているかも知れません。しかし、画面越しに見る彼らの表情には動揺など微塵も感じられず。北野監督の表情もしかり。「残り3試合をしっかり勝つ」。その一点。そして先発フォーメーションもいつもどおりのものと言えました。

東京V (先発フォーメーション)
13井上 7河野
16飯尾18永里
28弦巻8柴崎
3廣井2福田
14富澤17土屋
 1土肥 

戦前のインタビューで藤田は「ヴェルディというパスサッカーチームに、堂々とパスサッカーで戦いたい」と言っていたそうです。試合は、そんな両者が互いの持ち味を前面に出した展開になりました。高い位置から果敢にボール奪取を試みるヴェルディに若干の優位を感じさせる序盤でしたが、10分、最終ラインで西が落として吉井のミドル。熊本の得点の形を思わせる“伏線”のようなプレーがありました。先制点は16分、熊本のポゼッションから藤田がDFを背にしてキープするも倒されて奪われる。しかしこのDFのクリアを拾った吉井が豪快に振り抜く。横っ飛びのGK土肥も届かない角度で、ヴェルディゴールに突き刺さりました。

ヴェルディは、短いパス回しの熊本のボールを、高いところでインターセプトする狙いのようでしたが、これもまた、ある意味で想定内の熊本、うまくかわしながら、“こんな時間帯だ”とばかりに割り切って凌ぎ、長短を混ぜて、なかなか思うようにいかせない。奪っても、熊本の戻りが早く攻めきれないヴェルディ。右の永里が何度もエリアを脅かしますが、しっかり人数をかけて守り、ポジションを間違えない熊本に遮られ、決定機にはなりませんでした。

そして前半も終了間際、左サイドでもらった西がカットインでエリア内に突っかける。切れ味の鋭さに、ヴェルディDF福田も倒すしかありません。主審も躊躇せずPKの判定。これを小森田がゴール右角にきっちりと決め、土肥を再びピッチ上に横たわらせました。この日の西。サイドから、正面から、挑むようなドリブル突破を見せていました。まさにこのPK奪取の伏線のように。

2点のビハインドを覆すために、後半早々ヴェルディはFW平本、すぐあとにはDFを下げMF藤田を入れ前掛かりにしてきました。しかし熊本がペースを握らせない。ヴェルディの攻撃をうまく潰し、セカンドを拾ってはポゼッションに持ち込む。石井の故障・離脱以来続いている吉井と原田のダブルボランチの完成度は試合ごとに増し、パスを出してはスペースに動き出す。攻守の役割分担が阿吽の呼吸。パスサッカーの本家とも言えるヴェルディ相手に、自信を持って“回し”“つなぐ”熊本。往時を知るロートルファンからすれば夢のようです。

2点リードの熊本は、ここしばらくの戦いぶりそのままに、まったく予定どおりに小森田を下げて中山、松岡に代えて宮崎。ヴェルディは注目の高校生・高木で最後のカードを切ってくる。新生ヴェルディにとって、河野や高木といった日本代表をも伺うユース育ちのタレントたちが今後の重要な資産。いえ、そういう伝統的な下部組織の育成システムこそが、今後もこのクラブの大きな資産だと言えるでしょう。

しかし反面、そんな“若い”ヴェルディには、今日の2点のビハインドを払拭するテコのような力がなかった。ちょうど第1クールの対戦で、反撃の狼煙を上げた熊本の藤田のような精神的支柱の存在に欠きました(せめて服部でもピッチにいれば…)。うまくいかない、それどころか目の前で小気味よくパスが回る熊本のポゼッション。イライラも相当なものがあったはずです。カメラが追いきれず、経緯はよくわかりませんでしたが、CKからの一連のイザコザで平本が矢野を突き飛ばし一発レッドで退場。矢野に対してもイエローが出され、今後の残り2試合を棒に振るという非常に残念な結果になりました。

今シーズンの3回の対戦で、それぞれ違った顔を見せた感のある東京ヴェルディ。それは今期、まさに再建問題の只中にあったことも多分に影響しているのかも知れません。一方、ここにきての熊本の好調さは、いつかのエントリーで書いた“変数”が、ちょうどうまいように“最大値”を描いている感じがしています。周りを見回せば、破綻とも言えるような大分の財政。縮小を余儀なくされている福岡の来期事業計画。ただでさえ儲かるビジネスとは程遠い日本のプロサッカー。この不況下において、クラブが歩む道は、とてつもなく厳しい。そして他人事でなく、われわれも同じ場所を歩いていることに違いはないわけで…。
今まさに契約交渉の真っ最中(多分…)、場外にいるわれわれは報道に振り回されがちになりますが、どんなことがあっても信じて支えていくしかないだろうと。味スタのゴール裏。画面に映るわがホームチームのサポーターたちの“ロアッソレッド”の美しさが目に染みるようで。決意を改めるような気持ちで見入っていました。


昨日、北野監督が来期契約を更新されないことがクラブから発表されました。リーグ終盤とはいえ、ある意味で電撃的です。鳥栖・岸野監督のケースと同様に監督自身の今後の転進に配慮したタイミングということなのかも知れませんが、「クラブ側は『熊本をJに上げた功労者』としてユースチームの監督として残留を打診」(12付・熊日)しているようで、その去就は今のところ見えていません。ともかくはっきりしているのは北野監督が今期限りでその任を終えるということです。

ロッソ発足時、招聘された池谷監督(現総監督・GM)とともにヘッドコーチに就任した北野誠氏。日立製作所(現柏)時代の池谷氏の同僚選手であり、引退後は京都のジュニア育成部門を長く手がけていました。1年目の九州リーグ、2年目、3年目のJFL、そしてJ2昇格の昨年とヘッドコーチとして池谷体制を支え、S級取得と同時にJ2年目の熊本の監督を任されました。当初から「プレーしている選手も、観ている人も楽しいサッカー」を標榜し、J一年目で直面した課題に対して、ボールも人も動く攻撃的サッカー、アタッキング・サードを崩して行くダイナミックなパスサッカーを目指しました。

シーズン序盤は、単にボールポゼッションに固執した、攻撃のアイデアに乏しい試合内容が続き、また「1点取られたら2点取り返すサッカー」というほど偏重したその攻撃性の裏返しとして、どうしようもない守備崩壊の試合が続きました。しかしシーズン終盤にきて、攻守のバランスも安定し始め、辛勝ながらも「熊本は面白いサッカーをする」という評価が定着し始めていたところでした。

「成績面で今季掲げた目標(10位以内)を達成していない。県民運動としてピッチ外の活動についても、考え方の違いがあった」(池谷GMコメント・12日熊日朝刊)

どんなにいいサッカーをしたとしても、当初クラブが掲げた10位以内という順位目標(ミッション)に到達できなかったことに対し、プロとして責任はとらなければいけないのだろうし、だからこそ選手起用を含め、試合に関する全権を委ねられているのが監督という職業なのでしょう。スタンドから見守るしかないわれわれには推し量ることもできない、色々な事情がこうさせたのだと思われますが…。また「県民運動としてピッチ外の活動についても、考え方の違いがあった」という部分も気になるところです。

昨日のテレビ報道のなかでは「J1昇格を目指すという目標と合わせて総合的に判断した」(というニュアンスだったと思います)というGMコメントもあったようです。ただ、現実的なものを見回せば、熊本の今の体制、状況のままでの“J1”というのはとても考えられないということも認めざるを得ません。しかしそれでも、そういった状況を打破すべく、ここにきて、再度、「県民運動」の巻き直し、官民からの人材補強で体制強化が進んでいるという動きも耳にしています。こういったもう一度大きな流れを作っていこうというなかで、チーム、フロント一体となって進んでいくべきところで、“考え方に違いがあった”のは決して小さな問題ではなかったのではとも推察します。

「サッカー批評」の44号の中で、日本の元祖GMと評された岐阜の今西社長兼GMがこう言っていました。「J1とJ2、JFLでは求められる監督のタイプは違う。(中略)トップリーグ(J1)では戦術や戦略に長けた人物、J2などはそれよりも教育者の人格を持った人材が向いている」と。先日機会があって、その話を池谷GMにしたら、「そういうこともあるかも知れませんね」と笑いながら頷いていたのを思い出しました。

どういうタイプが選ばれるのか分かりませんが、新たな熊本の指導者に対して、もうすでに交渉が始まっているのでしょうか。ただ、監督が変わってもこれまで積み上げてきたものの“継続性”だけは重要視してほしいものです。毎年のように変わる指導者(とその方針)に迷走させられるようなチームにだけはなりたくない。そう思います。だいぶ以前、池谷前監督の采配への批判が集まった時期。われわれは監督解任論争以前に、クラブにとっては監督を評価・裁定するGMという存在が先決なのだと、そもそもの建前論を述べたことがあります。そして今回は、そのGMがクラブの現状と将来を見据えて出した“総合的な”結論だと信じます。熊本というクラブが生まれて初めて、GMと監督とそしてファンとの間に敷いた“緊張感”のようなものを実感しました。

われわれは、今季、北野監督が掲げた“戦術面”でのビジョンは決して間違ってはいないと思っていますし、今回の退任で今期の熊本の戦い自体が否定されるものでは決してないと思います。サッカークラブにとって、経営ビジョンや(今の熊本なら)J1昇格を目指すためのプランを示すのは社長という立場だし、その昇格プランへのプロセスをチーム強化という(監督人事も含めた)仕事で示していくのがGMという立場なのだとしたら、今期の北野サッカーが決して“熊本サッカー”の完成形ではなく、これからも積み重ねていくものこそが、“熊本サッカー”と呼べるものになるのではないでしょうか。それはある意味誤解を恐れずに言えば、誰が監督になるにせよ“継続”されて“積み重ね”られていくもの。ひょっとしたら、終わりのない、ずっと追い求めていくべきものなのかも知れないと思うのです。これからのクラブのビジョンと、それに呼応するファンがともに行う息の長い大切な積み重ねの作業。例えれば、ガウディの遺志を継いですでに100年以上も建設の続く「サグラダ・ファミリア」のように。「あそこのあのレンガは私が積んだものだ」ということなのかと…。

縁あって、何もない熊本のチームに集い、共に戦った北野監督。狭き門であるS級資格を取得し、1年ではあったがJ2熊本の監督として腕を奮った日々。監督としても、ヘッドコーチとしても、熊本のサッカーの飛躍のために本当に力を尽くしていただいたことに、改めて感謝のことばを贈ります。あと3試合。これまでの5年間に思いを巡らせながら精一杯の応援をしたいと思います。

11月8日(日) 2009 J2リーグ戦 第48節
栃木 0 - 2 熊本 (12:33/栃木グ/3,180人)
得点者:44' 藤田俊哉(熊本)、79' 小森田友明(熊本)


いつものように試合後、J‘sゴールの監督インタビューを覗いたら、敵将・松田監督のコメントに驚かされました。「今の時点では何が敗因なのかちょっと整理できていない。」終了直後とはいえ知将で鳴らした彼らしからぬ言葉。何か言いたいことが喉に詰まっているのかとも邪推してしまいますが、現状の悪循環に対して「1番の薬は年度が変わることなのかもしれない。」とまで言ってしまって・・・。チーム作り(選手補強)に加われなかった今期への恨めしさなのか。それにしてもスカパーのアナが言ったとおり、戦前熊本を“ダイヤモンド型”と想定して練習していたのだとしたら、スカウティングはどうなっているのでしょう。チームスタッフ全体の脆弱さを憂えているのかも知れません。

6月以来の栃木戦。3回目の対戦には、前線にチェ・クンシクとレオナルドという新たな顔がいて、左サイドには河原を置いてきた栃木。「熊本には勝ちたい」「勝てる」という気持ちがあったのでしょう、序盤からゴリゴリと押し込んできました。

栃木 (先発フォーメーション)
30チェ・クンシク 28レオナルド
20河原18向
13米山15鴨志田
6入江2岡田
5落合32宮本
 1柴崎 

熊本は木島と小森田の2トップにしてボックス型の中盤にシフトされていましたが、藤田が単純に左で張っているはずもなく、いつものように流動的に動き回る。栃木には適当にフリーにさせてもらいながら、原田、吉井のボランチを助け、西や松岡の上がりを促します。15分頃から栃木のプレーが少しずつラフになってくる。パスミス。コンビネーションの乱れ。最初に苛立ち始めたのはチェ。そしてそれがレオナルドに伝播すると、最後は河原までイライラし始めたのがわかりました。

栃木のアグレッシブな試合への入りと、その後のバタバタした展開に、試合自体が落ち着かず、熊本もなかなか好機が作れないままでした。それでも、栃木の攻勢は予想していたことのように受け止め、いなし、あえてリスクを冒さず、機を見たカウンターを仕掛ける熊本。試合を“運んでいる”なという感覚が。逆に栃木には“うまくいかない感”が広がってきます。それでもボランチに入ったベテラン米山が孤軍奮闘。ゴール前30メートルのところから無回転FK。あるいは右サイドから回してフィニッシュ。と熊本ゴールを脅かします。そんな感じの前半ロスタイム、右サイド宇留野からのクロスを中央の小森田がシュートできず、そのこぼれ玉をエリア内右で拾った藤田がDF宮本を切り返しで交わして左足で流し込みました。絶好の時間帯で先制。

後半早々、MF向に代えてFW若林を入れてきた栃木。3トップか、あるいはレオナルドを一列下げたようにも見えました。二度、三度、レオナルドがドリブルで右サイドを破ってくる。市村の代役として右SBは初めて努める松岡の負担が増える。鋭いクロスを上げられますが、その精度と栃木の“上がり”の薄さに助けられました。ここで松岡が宮崎と交代。その直後、カウンター気味のロングパスが木島に渡る。振り向けば2対1。そのままドリブルで突っかける。わずかにエリアの外でしたが、木島が宮本に倒され、宮本に一発レッドカードが示されます。守りの中心を失った栃木。一人少なくなった栃木はそれでも点を取りに行かなければいけない逆境に、要の米山をCBに下げました。

この相手の焦りと混乱を見逃さなかった熊本。右CKを宮崎が蹴ると、ボールは米山の頭上を越えて、飛び込んできた3人(いや待ち構えていた4人と言えるかも知れません)の赤いユニフォームのかたまりのもとへ。一番ファーの小森田の頭がそれを捕らえると、栃木のゴールネットに突き刺しました。栃木がゴール前をゾーンで守ることをスカウティングしていた熊本ですが、それにしても・・・。退場した宮本のゾーンが修正されていなかったのかどうか、CKの守備としてはあまりにも手薄で不備なシフトでした。

さらに熊本は木島を下げて山内を投入。これまた予定通りとも言える“攻撃的な”逃げ切り策。栃木はチェと鴨志田を下げて石舘、伊藤で追いすがる。しかし栃木の波状攻撃からのミドル弾にも、吉井が飛び出しチェックする。今日は守備に専念していた感のある原田がソンジンと交代。時間を使う。ロスタイム3分を消化し終了のホイッスル。「してやったり」の満面の笑みの熊本イレブン。崩れ落ちるようにピッチに大の字になる栃木選手。その瞬間、90分間猛烈な声量で歌い続けた栃木のゴール裏が、異様なほど静まり返りました。時おり響く栃木サポーターの怒りの声。関東サポの勝利のチャントだけが遠くから、やけにくっきりと聞こえてきます。

「システムは、機織り(はたおり)に似ている。」と言ったのは誰だったでしょうか。4-4-2や3-5-2など色々なシステムがあるにせよ、それは結局、フィールド上に縦の糸と横の糸を紡ぐことなのだと。そして機織り機がそうであるように、最も重要なのは「縦の糸」なのだと。流動的な熊本のシステム、追い越す動きもあることを考えると、ちょっと複雑で分かり難さがありますが、要は縦の選手同士の関係なのかと。今日の熊本は選手間の距離が良かった。いつかも書いたように、小森田と藤田、吉井と原田とCB、その縦の距離間がいいときの熊本は強い。そんな感じがします。コンパクトということでしょうか。今日の実況アナがゲーム中、藤田、木島、宇留野、藤田、吉井・・・の位置関係が刻々とシフトするのをいちいち伝えてくれていました。テレビ画面では捕らえきれない流動性ですね。

一方、栃木はチェやレオナルドが加わって、縦の推進力は確かに力強くなりました。しかし、その2人だけの推進力頼みでは、点に結びつかないのかと。それは縦に伸びきってしまった糸なのかも知れません。

「ちょっと遅かったですけど・・・。」試合後のインタビューにハニカミながら答えた小森田の今期初ゴール。今日は試合展開のなかでフルタイムを任されました。今期の北野監督の構想でFWにコンバートされた小森田。われわれがシーズン前、期待半分であまり根拠も無く書いた“小森田ゼロトップ”が、意外や意外、実際に姿を現して・・・。それでも結果が伴ったとは言えなかった今シーズンの状況に、われわれもちょっと居心地の悪さに似たものを感じていました。それでも、形は変わったものの北野監督はここにきて“意地”のように使い続けている。

実は、北野監督が小森田に求めたものは、ゼロトップというより、本来のFWの仕事ではなかったのかと思ったりもします。ゼロトップという働きは、シーズン途中、藤田が表現したプレーがわれわれのイメージには近かった。一方、小森田が託されたものは、あくまで前線でのターゲットマンであり、彼のテクニックによる“タメ”ではなかったのかと。しかし、タフなディフェンダーに身体をぶつけられながら前線で勝負するには、いくらチーム1、2を争う体躯とはいえ、あまりにも厳しすぎた。そこはやはりFWの“DNA”を持ったプレーヤーの戦場なのではないだろうかとわれわれは思ったのです。反面、2列目、3列目が追い越す動きで得点するというチームコンセプトからは、小森田の無得点にもあまり不満は感じていませんでした。それよりも何故こうまで“無理”をさせ続けるのか、という思いが強かった。彼自身が自分の役割について誤解、混乱をしてしまうのではないかと・・・。

「ここからが自分の開幕です。」と語った小森田。われわれ外野席からは推し量れない苦悩を乗り越えたような表情にも見えました。

10月31日(土) 2009 J2リーグ戦 第44節
愛媛 1 - 1 熊本 (14:04/ニンスタ/2,372人)
得点者:34' 木島良輔(熊本)、60' 大山俊輔(愛媛)


延期になっていた第44節・愛媛戦。ニンジニアスタジアムの芝は、テレビ画面を通しても美しさが伝わってきました。しかし試合後のインタビューで北野監督が「ピッチがやわらかく、ドリブルがやりにくいということはアップから選手が話していた」「ピッチのやわらかさもあって選手に筋肉系のダメージが多かった」と話しているように、そして藤田や木島が試合中、不意に足をとられるシーンがあったように、実はジワリジワリと選手の体力を奪っていくやっかいな芝だったようです。

望月監督が解任されバルバリッチ体制になった愛媛。直前には福田健二の入団が発表されるなど、すでに来期を見据えた動きも始まっているようですが…。さて、この試合には点取り屋の内村を累積警告で欠き、ジョジマールも怪我のせいなのか不在。しかし前線にはドド、DFにはチアゴという新顔が揃っていました。そういう意味では、前回対戦時とは全く別のチーム。あのベンチにGK2人、MF1人しかいなかった8月の試合から、多分、多くのことが変わっているのでしょう。対する熊本は、藤田がベンチスタート。小森田と木島の2トップ。いつもの西森の位置には宮崎が入っていました。

愛媛 (先発フォーメーション)
 11田中 
22横谷33ドド
24永井16赤井
 34渡邊 
14三上13関根
2柴小屋4チアゴ
 21山本 

序盤から市村と西の連携で愛媛の左サイドを崩す。次々にCKを奪う。守っては今や不動となった福王と矢野の両CBがきっちりと跳ね返す。吉井、原田の両ボランチのバランスを保ったポジショニングもそれを手伝っている。そして、愛媛のプレスを“剥がす”ようなワンタッチのパス回し。目の前が空くとみるやドリブルで仕掛ける西。あるいはくさびくさびの連続で崩してクロスを上げる。ポゼッションを維持しながら攻め続けます。

対する3トップの愛媛ですが、どうにも守勢に回り押し込めない。時おりドドがカウンターを仕掛けるぐらいか。そんな時間帯、中盤でのインターセプトからボールを貰った木島が、ハーフウェイラインより後方からドリブル。スピードに乗り、独特のステップで愛媛のファーストディフェンダーを交わすとその勢いのままミドルシュート。愛媛の最終ラインは揃っていたものの、そのボールは柴小屋の背中をすり抜け、GK山本が伸ばす手の脇でバウンドするとゴール左角に吸い込まれていきました。撃った本人もちょっと意外だった感じの先制点。左腕に巻いたキャプテンマークを示して喜びを表現しました。

ところがこの後、試合の展開を大きく左右するアクシデントが。前半も終了間際、市村が相手へのバックチャージでこの日2枚目のイエロー。本人にすればインターセプトに「行ける!」という“感覚”がそうさせるのかも知れませんが、警告を取られても仕方のないプレー。ちょうど累積をくらった福岡戦のときと全く同じようなプレーだけに、猛省を促したいですね。

後半折り返しを10人で戦うことになった熊本は右SBに宮崎を下げ、木島の1トップに。しかし、それでも十分に凌ぎきれると感じさせる流れが、(前半を見る限りにおいては)あったのですが。ただ、この数的劣勢の時間が水戸戦と比べるとあまりに長すぎた。厚別の札幌戦と比べると気温が高すぎました。そこに冒頭、書いたような今日のピッチ状態。選手の体力は想像以上に奪われていったようです。

早々に小森田に代えて藤田を投入するのは、戦前のプランどおりの交替カードだったのでしょうか…。ひとり少なくなった今日も、水戸戦と同じように前で時間を作れる働きを期待されました。愛媛は永井に代えて大山。「嫌な選手が入ってきた」。その予感は的中しました。60分、サイドチェンジを駆使したボール回しから左サイドの田中に振る。田中はマイナスぎみに中央に入ってきた大山に戻す。チェックに行く吉井が間に合わないと躊躇する。その一瞬のタイミングを見計らってミドルを撃った大山。DFラインの間を縫ってゴール右角に突き刺さります。まるで木島へのお返しのようなシュートで愛媛が同点に追いつきます。

同点。数的不利ではあるけれど熊本は点を取りにいくべきであり、実際に取りに行ったわけですが…。吉井の絶好のミドルシュートはGKにセーブされる。愛媛は逆に嵩にかかって攻め立てる。左サイドが次々に襲われ、関根が粘って上げたクロス、田中に代わって入った内田のヘッドはわずかに左に反れる。赤井のシュートを木下がこぼしたところに詰められますが、これはオフサイド。肝を冷やします。

後半25分。松岡が足を攣ってしまい宇留野と交替。西がSBに下がります。直後に木島もダウン。山内を入れて藤田をトップに上げる。こうして“プランにない”アクシデントの交替カードを切っていくしかない熊本。実況のアナウンサーは熊本の布陣を苦肉の策と憂えてくれますが、彼には宮崎も西もSBが勤まるという情報がない。それにしても、思えばシーズン序盤はとても90分間持たなかった原田や西。その二人が最後までピッチで走れるようになっていたからこそよかったものの…。おそらく原田や宮崎もかなり痛んでいるのが、画面からも伝わってくる。しかし、もう交替のカードは残っていませんでした。

その後も攻め立てられはしますが、愛媛にも決定的な“策”はありませんでした。バルバリッチがベンチで怒るように、繋がりはなく、アイデアは乏しく。まだまだ彼の目指すスタイルにはほど遠いのか。画面越しにはよくわからなかったのですが、折角の大山が“作る”シーンがその後はあまり感じられなかったのは、熊本がしっかりチェックしたせいなのかも知れません。両者追加点なく終了のホイッスル。両チームの選手が天を仰ぐ。原田と宮崎は、ピッチ上に崩れ落ち身体を休めます。

前節・湘南戦でも書いたように、熊本の選手が途中で足を攣ってしまうのはもはやチームの“仕様”と言わざるを得ません。残念なことですが、幾人かの選手が90分は持たないだろうというのはベンチも織り込み済みのことなのでしょう。90分のなかで、どの選手が持ちそうになくて、そこでどの選手を投入するかは、流動的にせよ“プラン”としてあるのかもしれません。小森田を後半引っ込めて藤田を入れるのは当初のプランどおり。木島、松岡、西、宮崎のうち誰かが傷んだ時は宇留野を入れてシフトチャンジという選択だったのでしょう。そして次の(そして最後の)交替カードは山内。ということだったかと。ところが、今日はもうひとつ“退場”というアクシデントがそれに加わった。それに、選手の“痛み”も予想よりは早く、そして深かったのではなかったのかと…。全く予期しない緊急な状況が加わるのがサッカー。そこが盤面での“ゲーム”とは違う。生身の人間が行う仕業ならではのことなのですが…。

先発11人、ベンチ5人、交替カード3枚というレギュレーションのなかで、ユーティリティ性のある選手をどう配置していくかが、このリーグの肝であり、うちは薄い選手層のなかでも何とかうまくこなしているのだと思います。これについては昨年からの財産が寄与している部分も大きい。しかしながら、今日の事態はかなり危うかったなというのが実感。「勝てた試合」「勝ち点2を失った」と評価する人も多いのですが、われわれは薄氷を踏む引分だったというのが正直なところです。湘南戦では「型にはまった」と言えた攻撃的交替カード。今日は“事が起こってからの交替”に終始せざるを得なかったように思えます。この退場劇や故障が、もしCBやボランチで起こっていたならと思うと。そのときのベンチワークはどうなっていたのかと。

勝つための事前プランと危機管理。いつも“強気”と見せるベンチのプランが、決して勝利を約束するものではないのではないかと。結果オーライと危機管理は、実は表裏一体、“裏返し”なのではないかと。危機管理の目配りが徹底しているからこそ結果が伴うのだと。チーム初の3連勝のチャンスはまた逃してしまいましたが、相手との対戦ということ以前に、チーム全体が一人芝居、一人相撲を演じたような残念な試合。まだまだ道は遠いなぁ。そう思いました。