4月29日(木) 2010 J2リーグ戦 第9節
鳥栖 1 - 1 熊本 (13:03/ベアスタ/8,697人)
得点者:48' 井畑翔太郎(熊本)、90'+3 豊田陽平(鳥栖)


Q:これまで8試合の会見でも、これほど気持ちをこらえながらも話されているのは初めてだと思うのですが、今の気持ちというか、心の内を教えていただければと思います。
「(再び沈黙)正直、ゲームが終わったという印象がなくて、まだ余韻が残っていますし、選手たちの残像が残っていて、彼らと一緒にやれて、非常に良かったなと、今感じています」

Q:それは悔しさや選手たちの逞しさ、いろんな思いが混在している感じでしょうか?
「J2の9節という位置づけですが、僕は選手たちを見るにあたって勝敗はともかく、彼らの強さを再認識できたので、これから鍛えて行けばもっともっといいチームになると思います。いい選手たちになっていくということを証明してくれた、そして私自身もそう感じたゲームでした」
(「J’sゴール」試合後のインタビューから)

当日、RKK夕方のニュースで放映されたそうなのですが、あいにく見損なった試合後の高木監督インタビュー。しかし、J‘sゴールのこれを読むだけでも、いつもの監督とは違う感情の起伏が感じ取れました。

ゴールデンウィーク中の連戦に突入。鳥栖戦をこういう結果で終え、中二日でやってくる次の札幌戦に向け、すでに選手・監督、多くのファンも気持ちを切り替えているところ。もちろんわれわれだって、今はそういう気分なんですが、やはりこのブログの努めとして、このゲーム、振り返っておかなければなりません。一人少なくなった相手に対して同点に追いつくことがやっとだった鳥栖も相当悔しいでしょうが、勝ち試合を引き分けにしてしまった熊本にとっては心底、悔やまれる試合となりました。

スタジアムに着くなりはっきりと確認できたのは、真っ赤に染まった熊本ゴール裏。それに加えてメインはもちろん、バックスタンドにまで赤のサポーターがはみ出しているのはアウェーゲームでは初めての光景。この時点で5位と7位の対決。勝ち点差は1。この試合の結果次第では順位が入れ替わるという状況で迎えた、熊本としては今季初めての九州ダービーでした。

鳥栖 (先発フォーメーション)
9豊田 22池田
9山瀬25早坂
8衛藤6藤田
10キム・ミヌ15丹羽
2木谷20ヨ・ソンヘ
 1赤星 

前節、福岡に対して虎の子の1点を守り切り、“走り勝った”ともいえる鳥栖。今日も開始早々から出てきます。中盤で奪うとFW池田がスルーパスでDFの裏をとる。矢野と接触して倒れますがファールは取られませんでした。一方の熊本は井畑がエリアに進入。DFと争って出たボールを松橋がワントラップしてボレー。惜しくも枠を外れます。

熊本は主に右サイドから攻撃を作る。左SBの要注意人物キム・ミヌが上がったあとに出来るスペースが狙い目でした。中盤での球際も、なんだかいつもより強く激しく行っているような。この点は柏戦の“経験値”が活きているように感じました。ただ、21分に左サイドを破られ、追いかけた原田のボディコンタクトがイエローを招きます。開始から厳しく相手の攻撃の芽を潰していた原田だけに、「今日は用心が必要だぞ」と思ったのはわれわれだけではなかったでしょう。

鳥栖は前線の豊田に合わせてきますが、それは当然、織り込み済み。矢野と福王が自由にさせません。鳥栖は前半のうちに山瀬を引っ込め、磯崎を入れることでキムを一列上げてきます。警戒すべき布陣になりましたが、市村が攻守の切り替えよくディフェンスしていました。

手口の探り合いのような展開。互いにシュートまで行かせない。前半アディショナルタイム、鳥栖のFK。ファーに飛んだ木谷のヘッドがゴールネットを揺らしますが、井畑へのファールがあったとして得点は認められず。沸き返る鳥栖ファンを一瞬にして沈めます。スコアレスドローで前半終了。アウェーでのゲームプランからはまずまずの折り返しでした。

そして後半。開始早々からセカンドボールや、イージーなボールが熊本に収まり始めます。48分、右サイドから松橋がクロスを入れると、井畑がトラップ一発、反転し、GK赤星のタイミングを外して泥臭く押し込む。鳥栖側とすれば唖然としか言いようのない、後半開始まもない熊本の先制点に、アウェーとはいえ遠慮無く立ち上がってガッツポーズを取りました。

こうなれば鳥栖も反撃に出るしかない。池田に代えて萬代を入れ“高さ”を増やします。ところが前掛かりになったところで熊本のカウンターのチャンスも増える。更に宇留野に代えて西を入れると、西と松橋のパス交換から攻め込む。DFのクリアを拾うのも熊本。次々に2列目、3列目からも上がってきて分厚い攻撃を見せ始めました。

そんな、追加点の臭いがプンプンしている時間帯でした。鳥栖のロングボールを跳ね返し繋ごうとしたボールが豊田の足元にこぼれてカウンターになりかける。慌てて身体を入れた原田が豊田を倒してしまい再びイエローが示される。そして次に示されたのは赤いカードでした。

一人少なくなり、この1点を守り抜くことに急遽プランの変更を余儀なくされた熊本。西森に代えて渡辺を入れ、守りを固めます。鳥栖の右からのグラウンダーなクロス。キムがダイレクトで正確に合わせた強いシュートは僅かに右に外れてくれて事なきを得ます。右コーナーからのCK。クリアボールを拾われて入れられるがなんとか蹴り出す。今度は左からクロスが上がり萬代に飛び込まれますが、枠を反れてくれます。

一方的な守勢。鳥栖の波状攻撃に対し、身体を張って跳ね返す。キムはといえば今度は右サイドにシフトして、嫌なクロスを上げてくる。萬代のヘッドは南がキャッチする。ハイボールはパンチングで掃き出す。時計を見る。残りはあと10分。「守り切れ!」。さらに鳥栖は磯崎に代えて長谷川を入れ、より攻撃的に。熊本のゴール前での攻防。人数をかけて襲いかかる。雨嵐といったような状態。しかしゴールを割れない。クロスを跳ね返す。エリア内に入られてもボールにしっかり足を出す。最後は南が反応する。

スタジアムではロスタイムに入ったことは分かりましたが、それが何分と表示されたのか、確認できませんでした。とにかくあともう残り少し。絶対にこのまま逃げ切れる。いや、逃げ切らなければいけない、と誰もが祈るように声援を送っていたその時。南が遅延行為でイエローを貰った直後だったでしょうか、終盤、サイドから何度も繰り返されていた鳥栖・藤田のロングスロー。ニアの豊田がDF福王を背負うようにしながら頭を右に振ると、ボールは南の手を逃れてゴールに入ってしまいます。その瞬間は現地ではよくわかりませんでしたが、とにかくゴールネットが揺れた。鳥栖サポーター全員が立ち上がり、ピッチもよく見えない。主審が得点を示す手を挙げているのだけはしっかりと確認できました。

しかしそれでもまだ試合は終わらない。スタジアムの試合時間計測時計は、45分のところで止まったまま。それから何分が経過したのか。隣の現在時計はもう3時近くになっている。井畑もとうとう足を攣ってしまって倒れている。鳥栖サポーターの激しいブーイング。ピッチ外に出される。セットプレーに2人も足りない状態の熊本。押せ押せの鳥栖。南が豊田との交錯で蹴られながらも、こぼれ球を拾ったキムのシュートもセーブ。南はこの豊田のラフプレーに対して激しく怒っている。これに対しても鳥栖サポーターのブーイング。豊田も傷んで運ばれる。それでもホイッスルは鳴らない。ドロップボールで再開。鳥栖が熊本側に返球したロングボールに走り込む萬代。この行為に猛烈に怒る高木監督。逆転弾が奪えない鳥栖のストレス。見えない“時間”と戦っているかのような熊本。その両者をなだめるように、ようやくようやく長い笛が吹かれました。

最後は騒然といった雰囲気に包まれたスタジアム。いずれにとっても後味の悪いものとなりました。冒頭のインタビューはそれから間もないタイミングだったのかも知れません。高木監督はこの時、涙で目を潤ませていたそうです。就任からこのかた、数多くのメディアでの語り口、あるいは実際に間近で接したときの印象からも、常に冷静でクールなのかと思っていましたが、実際の内面はとても熱い男なのでしょう。

そして、このときの感情は恐らくは自分自身に向けられていたのではないかと思います。後半のあの場面、西に代えて下げるべきは原田ではなかったのか、最後に切ったカードは山内が正解だったのか、井畑に代えて藤田だったのではないか、などと。今となっては全て結果論でしかないものの、試合終了後、まだ激戦の余韻が残るスタジアムで、高木監督はきっと自問していたはずです。真っ赤に染まったゴール裏。それでも精一杯の拍手で選手の奮闘を讃えるサポーターを目にし、自責の念にも囚われたのではないでしょうか。冒頭の記者会見、おそらくはそんな思いが、熱いものになってこみ上げてきたのでは、と。選手時代はアジアの大砲と呼ばれ、指導者としては横浜、東京を率いた長崎出身の高木監督。それが今“熊本”の気持になって泣いている。

そして加えて、「ただ、自分自身が非常に熱くなってしまって、鳥栖のサポーターの皆さんやレフリーに不愉快な思いをさせてしまったという点に関しては反省しています。申し訳ありませんでした」(「J’sゴール」試合後のインタビューから)。こんなことも言ってくれる監督。誰のせいでもなく、きちんと自分で引き受ける姿勢。それだけの覚悟をもって仕事に臨んでいるということでしょう。

今日の熊日朝刊、植山記者は「不可解な判定」「相手の反則まがいのプレー」と言ったある意味これまでなかったような表現も使いながら、熱い記事を書いてくれています。新聞紙面であっても、そう言わずにいられない気持ち。これもまた本気で戦っていくんだという意思表示と受け取りました

そんな熊本対鳥栖戦。鳥栖にとっては、この対戦、ホームではまだ勝ちがないという因縁もあるようです。九州ダービー。今年はバトル・オブ・九州と呼ぶそうですが、ファンならずとも、チームに関わるすべての者とって、それだけ懸命にさせる何かを、この対戦(カード)が持っているのは確かです。

さあ、もう日曜日は札幌戦。切り替え、切り替え。水前寺を赤でいっぱいにして、選手たちを精一杯後押ししましょう。

4月24日(土) 2010 J2リーグ戦 第8節
熊本 1 - 3 柏 (13:03/水前寺/5,156人)
得点者:26' 近藤直也(柏)、30' オウンゴ-ル(柏)、61' フランサ(柏)、70' 松橋章太(熊本)

「試合前から有利も不利もない。スコアは常に0-0から。誰に対しても平等だ。」そう言ったのは漫画「ジャイアントキリング」の主人公・達海監督でした。首位と3位の上位対決、勝てば勝ち点で並ぶシチュエーションとはいえ、いまだリーグ戦負け無しの柏。これに土を付けることは、われわれにとってはまさしく“ジャイアントキリング”に違いありませんでしたが、その実力差はやはり大きかった。古巣の対決に闘志を燃やす守護神・南の幾度ものスーパーセーブがなければ、3失点では終わらなかったかも知れない。そんなゲームでもありました。

前節、横浜戦の勝利後、ゴール裏で「柏に絶対勝つ!」と宣言した南の想い。今節のピッチ練習に登場した瞬間の柏サポーターからの大きなブーイング(それも彼への“愛”だと感じられましたが)。それを押し返すような、わがホームのサポーターからの声援と拍手の渦。「俺たちの南」という団幕。そんな騒然とした雰囲気の水前寺競技場。そんなことがメンタル面にも影響したのか、今日の熊本イレブンには、どこかいつもとは違う微妙な硬さのようなものが見受けられました。

藤田が今季初先発で入る。高木監督の意図のひとつは「強豪と対戦するうえで、ベテランの力が必要」というものでしたが、同時にそれは、中盤のプレスの厳しい相手に対して、ガチンコでさばいて、繋いでいこうという戦術をとったことも意味していました。この相手に対して、今の自分達がどこまでやれるのか。現在の実力を測るうえで格好の相手でした。

柏 (先発フォーメーション)
8澤 19工藤
14大津11レアンドロ
7大谷28栗澤
22橋本13小林
3近藤6パク・ドンヒョク
 21菅野 

序盤は熊本にも勢いがありました。開始早々、市村のクロス。惜しくもボールは中央の松橋の頭を越えていく。西森と西が、両サイドから起点を作る。しかし中央の枚数が足りずにフィニッシュには至りません。対して、細かいところを崩してくる柏はやはり強くて巧い。大津や工藤は中央で受けても、そのままターンする力がある。なによりそれに澤とレアンドロを加えた柏の前線は、フォーメーションなど無意味のごとく流動的に動きまわる。いや、連動して次々に飛び出してくる様は、組織的かつ創造的だと言えました。

藤田が試合後、「前半は、少し面食らった。尻込みしてしまう面もあった」と述べているように、柏の球際の強さもあって、次第に下がって行ってしまう熊本。これまでの対戦相手とはちょっと違う質の高いゲーム運びに、チーム全体が順応出来ていないような様子。くさびのボールへのチェックが甘い。球際に一歩遅れる。柏はボールを渡さない。ゲームを支配し始めました。

工藤から大津。中央を崩して大津が反転。強烈なシュートは南がクリア。南の気迫が勝ります。熊本も右サイドのスペースに松橋を走らせる。CBパクを交わそうとしますが、その突破は阻止される。パクのバックパスは交錯したGK菅野を越えてあわやオウンゴールかと思われましたが右に反れていきます。返す刀でレアンドロが小林を走らせる。西森が追いついて蹴りだす。そんな切り替えの早い展開のなかでした。柏としては4本目のCK。レアンドロの右足から放たれたボールは、低くて早い。福王が付ききれないところに近藤が中央からドンピシャのヘッドで遂に均衡が破れます。

勢いに乗った柏は畳み掛ける。ボランチのところで奪って右からクロス。ファーサイドの大津のヘッド。これは南がまたしても防ぎます。大津も苦笑い。しかし、続くCK。中央でパクの頭が捕らえる。南が横っ飛びでクリア。今度は右から工藤がボレー。これに大津が詰めて(公式記録は吉井のオウンゴール)追加点とします。

いずれもセットプレーからの失点とはいえ、その前段で押され続けていることは事実でした。熊本得意のサイド攻撃は、前後に挟まれて奪われる。あるいはバックパスを選択させられる。柏の準備が十分できている。それがまた焦りを生んでいく悪循環。西の果敢なドリブルも、二人がプレスバックしてくる。セカンドボールも拾われる。全く持って打つ手なしなのか。前半シュート数0対8が、試合内容を物語っていました。

「点を取っていかないと勝てない。チャレンジしていこう」。指揮官のハーフタイムの公式なコメントはあたり前で静かに聞こえますが、ロッカールームでは相当の激が飛んだのではないでしょうか。更に高木監督は、後半に向けてシステム変更を企てます。そこまで柏の小林に押し込まれ防戦一方だった左SBの筑城を下げて、渡辺をCBに入れた3バック。初めて見る布陣でしたが、これによってサイドを制しようという意図でした。柏は大津が傷んだのもあって、フランサを投入。生で観たかったフランサではありましたが、こんな状況で遭遇するとは。入ったフランサは明らかに大津の役割とは全く違う。自由気ままといった風情で、ジョギングよろしくあちこちに顔を出しては、ボールに絡む。

ところが一変したこの柏の前線の“運動量”が、熊本には奏功します。左から吉井が運び、中央松橋が右にはたくと上がってきた市村がフリー。しかしシュートはバーを越える。惜しい。今度は原田、松橋と繋いで市村がクロスを上げる。これはパクがクリアに逃げる。フランサに入るボールを藤田がカットする。ボックス型の柏の中盤の更に外にシフトした市村、西森のSHを、松橋、藤田がうまく使っていきます。

しかしフランサはやはりフランサ。異次元の人でした。澤から工藤、橋本と繋いだところに、それまで重そうに走っていたフランサ。エリアに入るなり躊躇せずシュート。アウトに掛けたボールは南を横転させサイドネットに突き刺さります。「相手のGKは、いいキーパーだと知っていたからね。」旧友との駆け引きを制したその言葉には、南へのレスペクトも滲んでいました。

「やはり柏は強い」。この決戦を見届けようと駆けつけたたくさんの熊本ファンから、ため息にも似た声が発せられます。“流れ”は熊本にあるのに点を奪えないのは、決定機の数の問題なのか、それともその精度なのか。

しかし熊本は3点ビハンドのなかでも誰も下を向いてはいませんでした。バイタルでボールを回して松橋が強烈なミドルを放つ。さすがの菅野がこれを弾くと、宇留野が詰めましたが惜しくもオフサイド。しかし、アタッキングサードで人数を掛けてパスを回せるようになっている。柏をサイドに散らすことで中盤にもスペースが出来てきた。そして70分、宇留野、藤田、吉井、市村と何度も何人も繋いで、最後は右に居た松橋へ渡す。DFを交わすと強引にシュート。遂に名手・菅野の守るゴールマウスをこじ開けた。起点の福王から計8本のパスが繋がり、柏にとっては今季初めての“流れ”のなかからの失点。堅い柏の守りを熊本がようやくこじ開けました。

すぐ後、柏にペナルティ・アーク付近でFKを与えてしまう。危険な距離。レアンドロの振り幅は小さいが強烈なシュートは、間一髪南が防ぐ。
まだ2点のビハインドはありましたが、熊本はさらに“走り続け”ます。今日の残り15分を託されたのは井畑。藤田は熊本に来て初めてボランチに入る。その藤田からまた市村を走らせるスルーパス。今日の藤田はこの位置が落ち着きどころだったのかと思わせます。井畑、エリア内でシュートも菅野の好反応に阻まれる。レアンドロとフランサの中央突破はがっちりブロック。両者とも運動量が落ちない。最後の最後まで攻守の切り替えの早いゲーム展開。熊本のCK。こぼれ球を再び入れる。DFがこぼしたところを井畑が詰めて押し込む。「決まったか!?」。思わず皆が立ち上がりましたが、ボールはゴールの枠を反れていきました。

終了のホイッスルを聞いて、勝者の柏側に笑顔がなかったのは、不満の残る内容だったのか、それとも勝ってあたり前だったのか。後半のシュート数は7対5で熊本が勝りました。もちろん熊本にも笑顔はありませんでしたが、守護神・南の表情には、負けた悔しさというよりどこかさっぱりしたものが見えなくもありませんでした。それは誰よりもこの一戦に特別の思いを持って臨んだ男だけが知る心境なのか。何度も何度も、南が一人で跳ね返した。それでも12年間在籍した古巣は強かった。若手も逞しく成長していた。

「いつもよりもモチベーションも高かったし、試合自体は楽しんでやれたけど、負けた事は悔しいし、相手が柏ということで余計その気持ちは強い。その中でもやれた事、やれなかった事がハッキリしたと思うし、切り替えて連敗しないようにしたい」。南の気持ちはすでに次節に向かっていました。「俺たちの南」。風にはためくゴール裏の団幕は、熊本ファンの今の心情を語っているように思われます。

月並みな表現になりますが、この柏との一戦は、冒頭にも書いたように今の自分たちの実力を測るうえで格好の物差しになりました。さらにその物差しはことのほか質が高く、多くの課題をたくさんのデータとともにわれわれのチームにもたらしてくれたように感じます。貴重な経験値とともに。堅守を標榜しようとしている熊本において、強豪にはこうやって破られること。堅守を自認するチームをこじ開けることの難しさ。後半で見せたシステムの切り替え。流れを引き戻したゲームプラン、等等…。監督が言う「まだまだ強くなる過程」のなかで、敗戦とは言え、その収穫の大きさは素人目にもわかります。

これからゴールデンウィークの連戦に入っていくチーム。鳥栖、札幌、福岡と注意すべき難敵が続きます。しかし相手にとって不足なし。この踏ん張りどころをどう戦い抜くのか。集中力が問われるのは、チームばかりではなく、われわれファンも同じことだと。

水前寺からの帰り道。ごった返す赤いサポーターの群れのなかにあって、皆の表情がどこかしら明るく見えたのは、強豪相手に一矢報いた安堵感か、このメモリアルとも言えるゲームを見届けた満足感ではないのかと。南はもちろん、池谷GM、清川HC、森川C、熊谷氏など熊本に根付いた太く、厚い柏人脈。ほとんどゼロの状態から作り上げたチームが、ようやく本家の柏と対戦できるところまで来たというのは、熊本にとってひとつの節目でしょう。スカパーの山崎アナによれば、池谷GMが熊本に請われて赴任する際に、柏のクラブ幹部から「そこ(熊本)に“サッカー”はあるのか?」と問われたのだと言います。もしかしたら、その時、GMは答えに窮したかもしれません。しかし、5年余りが経った今日なら、きっと、黄色のサポーターを取り囲むようにぎっしりと詰まった赤いスタジアムを指差しながら、胸を張って答えてくれたことでしょう。「もちろん。ここはサッカーがある街です」と。

4月18日(日) 2010 J2リーグ戦 第7節
横浜FC 1 - 2 熊本 (16:03/ニッパ球/3,553人)
得点者:56' 西弘則(熊本)、64' 西田剛(横浜FC)、68' オウンゴ-ル(熊本)


「連敗は絶対したくない」。チーム全員の気持ちがこの一点に集中して、敵地で貴重な貴重な勝ち点3を手に入れました。後々、熊本の今シーズンを振り返ることがあるとすれば、大きな流れを手放さなかったという点で、重要な意味を持つゲームだったと言えるかもしれません。

横浜FCは開幕から3連勝(すべて完封)のあと3連敗中とやや失速ぎみで現在9位。前節千葉戦では、前掛かりになっていたところを千葉の鋭いカウンター攻撃に切り裂かれた、といった感じで、前節の先発メンバーを5人も入れ替えて臨んできました。しかし、それでも熱血漢・岸野監督は攻撃的スタイルを変えないだろうと見ていました。

対する熊本は前節、甲府相手に初黒星を喫したものの、内容は決して悲観するものではなかった。ただ連敗して負のスパイラルにだけは陥りたくない。予想したとおり、高木監督はほとんどスタメンをいじってきませんでした。

横浜FC (先発フォーメーション)
37サーレス 9大黒
36寺田28武岡
8小野10シルビーニョ
6高地33柳沢
4戸川15キム・ユジン
 1大久保 

キックオフ直後の熊本ボール、福王からのロングフィードに松橋が走り込む。敵CBのクリアミスを“かっさらって”間髪を置かずシュート。しかしボールはポスト左に。悔しがる松橋。見慣れた黄色のシューズを今日は心機一転、紫色に履き替えて。“期するもの”を感じさせます。

横浜はサーレスがくさびになってシルビーニョから大黒を走らせる形。それに右の武岡や左SBの高地が参加して攻撃の厚みを増す。中盤でもらった大黒が大きくサイドチェンジ。武岡が右サイドゴールライン際からクロス。ファーに走り込んできた大黒がボレーで叩きつけ、いやなバウンド。幸いゴール右に反れて事なきを得ます。やはり大黒の動きの“質と量”は群を抜いている。横浜のほとんどのボールは大黒に合わせてくる。また神出鬼没なプレーは、ある意味狡猾で、矢野、福王が一時も目が離せない。熊本は西が左サイドで持つとバイタルエリアを横断するようにドリブルで中に入っていく。ただこの“仕掛け”に呼応して動き出す選手が欲しい。西はラストパスも出せる選手だから…。

サーレスから今度は左にスウィッチした武岡に。武岡が市村を交わしてシュート。これはクリア。その後のCK。長身のキムのヘッドは頭ひとつ抜けてボールを捉えますが、DFが下からしっかり身体を寄せて、上半身を振りきらせない。ボールは枠外へ。

膠着ぎみの前半終盤。横浜もボール支配はしているものの、攻撃に変化がなくパスコースが手詰まりの状態。中盤で奪った熊本。松橋のミドルシュートはGKがキャッチ。「先制点を取れば勝てる」。戦前そう語っていた岸野監督でしたが、どこかしら試合運びに慎重さも感じられました。スタッツが示すとおり激しい綱引き合いのような互角の内容の前半。しかしこのままで終わるはずもなく、後半試合は大きく動き始めます。

開始早々、一気に出てきたのは横浜。寺田が右に流れてクロスを上げる。左からは高地がアーリーでクロスを入れる。「サイドの高い位置を取ること」というハーフタイムの岸野監督の指示を忠実に実行してきました。しかし、ゴール前の空中戦には守護神・南が立ちはだかります。50分の横浜FKにキムの頭がかすりましたが、これも南が反応よくクリア。大黒得意のCBから消える動きで、クロスに対して必ず競い勝つものの、またしてもボールは南の手中に収まります。

凌いではいるものの、自陣に釘付けにされる一方的な展開に、「怖いな…」と感じていた頃でした。井畑が中盤で頑張って奪う。転がったボールにすかさず飛び出したのは松橋。その俊足を活かして右サイドを駆け上がる。前掛かりの横浜はDF2人が反転するも追いつけない。左から追走してきた西にクロス。飛び出してきたGKを西が交わすと、DF2人の間のスペースにねじ込むように蹴り入れました。先制点は熊本。「ダイレクトで撃とうか迷った」という西の切り返しの判断も正解でしたが、その前の松橋の早めのクロスの判断も褒めるべきでしょう。一瞬でも躊躇していたら詰められていた。あっという間の守から攻への切り替えでした。

先制されても2点目を取られない様にすることが、横浜の課題でした。岸野監督はサーレスに代えて西田、小野の代わりに片山と一気に二枚替えを敢行。これが絵に描いたように奏功します。片山が左からアーリークロス。ファーの西田がトップスピードで走りながらこれを収めて、筑城を交わすと左足で蹴り込む。さすがの南も至近距離から撃たれてはたまらない。片山、西田、互いにファーストタッチのプレーではなかったでしょうか。

横浜イレブンは、この同点弾で勢いづくゴール裏に向かって“ゆりかごダンス”。それは数日前に子供が生まれたばかりのシルビーニョに送られたものでした。しかし、この喜びのパフォーマンスの数分後に、当の本人にとって、悔やんでも悔やみきれない魔の瞬間が襲います。

右サイド奥で得たFK。左足の原田が構える。「直接ゴールを狙ってくると思っていた」と語った横浜のGK大久保は、壁を2枚しか立てませんでした。原田の左足から放たれたボールは、ニアサイドに速く低く巻いていく。飛び込もうとする井畑が目に入ったのかもしれません、慌ててシルビーニョがゴールラインにクリアしようと頭を出す。しかし、ほんの一瞬、タイミングが遅れたのか、鋭く曲がったその軌道を跳ね返すことができず、かすったようにキーパーとニアポストの間に吸い込まれます。何が起こったかもわからないような一瞬の出来事でしたが、ボールはゴールネットを揺らしている。間違いなく熊本の追加点でした。

そのプレーの前の段階から、藤田が用意されていました。井畑に代わって入るとすぐ絶妙のスルーパスで市村の上がりを誘います。

不可解な判定が起こったのはそのあと。横浜のFKのチャンス。キックの前からキムと矢野とのスペースの取り合いに主審の注意が入る。以前も書いたように、今年から手の使い方に厳しくなっていて、今日のこの審判も非常にナーバスになっているのが分かります。横浜のキックの瞬間に、もう笛が吹かれます。主審が指さす先はペナルティ・マーク。「PK?嘘!」何が起こったのか、誰にも分からない。明らかにキムと競っていたのは矢野。接触シーンのない(ようにわれわれには見えた)市村にイエローが示されます。

キッカーに立ったのは大黒。絶体絶命、いや万事休す、といった心境でした。あとは守護神・南に祈るばかり。しかし、大黒がゴールの上を狙ったキックは、大きくバーを越えていった。不運の中の幸運。サッカーの神様が、ちょっと意地悪しながらも、今日の熊本の勝利への執着心を試しているようでした。

さあ、残り時間も15分を切ってきます。熊本は西森に代えて宇留野。吉井に代えて渡辺で逃げ切りを図る。しかし今日はいつもと違って、藤田のところでボールが収まるといったものとは言い難い展開。一方的な横浜の攻撃。「集中を切らすな!」「大黒を離すな!」。そう画面の向こうに叫んでいる。アディショナルタイムは4分。そのときテレビの右スピーカーから確かに聞こえてきました。「アレ・アレ・アレ・熊本」。熊本のゴール裏からのチャントが、確かに力強く聞こえます。ホームの横浜側とは圧倒的に数的に不利なはずだけれど。聞こえます。跳ね返せ。跳ね返せ。もう跳ね返すだけでいい。終了の笛には歓喜の声がかぶさっていたのではないでしょうか。

「内容は置いておいても、結果として競り勝てたのは今後選手達の財産になっていくし、チームの財産になってくれるようなゲームをしたと思っている」。高木監督は試合後そう言って、同時に選手のメンタル面の成長を賞賛しました。藤田を入れても試合のペースを握り返せなかったことは課題ですが、それについては「どちらも1点勝負ということで時間を掛けるのではなく長いボールを入れていくようになってしまった」結果だと評しました。いつものような熊本の長短・緩急織り交ぜた攻撃に持ち込めないほどに、勝利に飢えた横浜FCの猛攻は凄まじいものだったと言うことでしょう。それをなんとか凌ぎ切った。それも“強さ”。ある意味これも“残り15分”の強さと言えるのではないでしょうか。

今節の結果で再び3位に浮上。多くのメディアや当の横浜サポーターすらも、この高木・熊本の好調を06年の横浜FCになぞらえます。もちろん、当時の様子を良く知らないわれわれにしてみれば、そう言われても全然、実感がないし、まだまだ序盤戦、試練はこれから幾たびも待ちかまえているだろうし、監督自身が「ギリギリで勝っているだけ」と言うのも実感通りだしと。浮かれるような気持ちが全くないのがちょっと意外なくらいですが…。そんな周囲の雑音をよそに、監督はまだまだ強くなる過程だとも言っています。試合後のコメントでも「次の段階では相手のプレッシャーをうまくかわすことが出来るようなチームになるといいなと思いますし、やっていきたいと思います」などと、非常に具体的なイメージを口にしています。われわれとしては、今は、ただただそれを見守っていくことでしょう(こんなにワクワクすることも他にないですが)。

さて、次節、水前寺。いよいよ首位の柏を迎えます。楽しみです。黄色のサポーターがどれほどやってくるのだろうかとか。レアンドロや大津を止められるのだろうかとか。あの堅い守りをこじ開けられるのかとか。そして、わが監督の「首位の柏とやる時にビビる選手はいないと思うし、ビビる監督もいない」というコメントにも痺れています。懐古趣味的な自己満足は封印したつもりですが、やはりチーム創設以来の縁浅からぬ柏との初めての対戦…。そんな特別な感慨も含めての今週末のホームゲーム。とにかく待ち遠しい。そんな心境です。

4月11日(日) 2010 J2リーグ戦 第6節
熊本 0 - 1 甲府 (13:03/熊本/6,350人)
得点者:29' 養父雄仁(甲府)


90分間を振り返ってみると、本当にあの一瞬だけ。後半の熊本の猛攻を考えると、どっちに勝利が転んでもおかしくはなかった。負け惜しみでもなんでもなく、きっぱりそう言い切れる惜敗でした。

シーズン前にはわれわれも昇格戦線の一画と予想していたあの甲府が、開幕ダッシュに失敗して苦しんでいる。甲府の試合はこれまで、福岡との開幕戦、前節の鳥栖との試合をテレビ観戦したんですが、林健太郎なき後の中盤がなんとも落ち着かなくて、強力な前線3トップと堅いDFラインとの3列のラインが、なんだかちぐはぐでかみ合っていない。そんな印象を受けていました。調子が出ないうちに叩いておきたい。川崎からレンタル中の養父はテクニックもあってやっかいな選手だけど、前節鳥栖戦では焦れた甲府側が後半途中でマラニョンとの交代で引っ込めてしまった。あとは前線への単調なロングボール頼みの展開で自滅。わが熊本も、前半をうまくしのいでいけば、十分にそんな展開に持ち込める。そうなれば必ず相手はミスを犯す。戦術面でも、プレー面でも。素人ながら、そんなイメージを持っていました。

甲府 (先発フォーメーション)
 15パウリーニョ 
11マラニョン9大西
10藤田8養父
 2秋本 
13内山6吉田
4山本5ダニエル
 1荻 

この季節、一週間一週間暖かくなる。曇りのち雨の週間天気予報を吹き飛ばし、雲の合間からもう初夏のような強い陽が差し、気温はグングン上がっていきました。

試合は開始序盤からがっぷり四つ。甲府の藤田がロングシュートでゴールマウスを狙う。西森がDF裏に浮き球を出すと、松橋がヘッドで西に繋ぎますがDFがクリア。今度は甲府がカウンター攻撃。左から切れ込んでのマラニョンのシュートは枠を越える。熊本はGK南からの低いキックをDFが反らしたところに井畑が頭で落とし、松橋が走り込んでGKを交わしますが、シュートは右にそれていきました。

そして何の前触れも予兆もなく前半29分、甲府のスローインから左でマラニョンが一人粘って一度は下げる。今度は右から作り直して右サイド奥、フリーの大西に渡ったと思った瞬間ダイレクトに入れた。人数は足りていたものの、バイタルエリアを大きくしてしまった熊本は、Pエリア中央に入ってきた養父をフリーにしてしまう。ダイレクトでしっかりとボレーで合わせた養父のシュートは勢いよくゴールネットに突き刺さりました。

6千人のファンのどよめきにも似たため息。「あれを決められたら仕方ない・・・」という声。「まだまだこれから」という声。

しかしなんとか前半のうちに追いつきたい熊本だったのですが、その後は選手間の距離に難があるのかセカンドボールが一向に拾えない。パスが寸断される。井畑にはがっちりダニエルが密着していて潰される。先制点を上げた甲府は自信を取り戻したようにバランスを配慮して守る。堅い。これで養父も今日は後半交代で下がることもなくなっただろう。今日の甲府に果たして付け入る隙を見つけられるのだろうか。前半終了時点ではそう思ったものでした。

今思えば、さすがの甲府も、好調と噂される熊本を、きっちりスカウティングしてきたということなのでしょう。いつもならこういった強豪チームに見られるような“油断”が感じられませんでした。わが熊本は好調さ故にスタメンも固定ぎみ、前線の井畑のところで収めて、という戦術も読まれていました。だからこそ今日は後半早めに藤田を投入して、いわば“戦術変更”した。更には右サイド西森を左SBにスウィッチして、そこにまだ“知られていない”平木を置いたのだろうと思いました。

そして交代の意図通り、誰が見てもわかるくらい、藤田が入ったあとの熊本は一変します。ワンタッチパスが増え、中盤での縦への推進力が増す。ゴール前をワン・ツーで崩していく。ちょっと甲府が慌て出す。もう一度、前線に起点を作りたい甲府は、パウリーニョを下げてキム・シンヨン。なんとも嫌な相手が入ります。

藤田が散らすボール。左サイドを松橋がえぐってクロスを上げますがファーに抜ける。ポゼッションは圧倒的に熊本。長短交えて攻撃できることをファンに示す。しかし、甲府は最終ラインで必死に跳ね返す。

70分には決定的場面。藤田が溜めて松橋が中央突破。追いかけるDF二人に挟まれながらもシュートを放ちますが、GK荻にクリアされてしまいました。遠い。今日のゴールは実に遠い。前節の敗戦後、あえて厳しい言葉でチームを鼓舞したGKの荻が、今日は砦のようにゴールマウスに立ちはだかる。こんなに甲府の守備の時間が長いのは、甲府を自陣に貼り付け守らせたのは、熊本にとっても初めてではなかったでしょうか。

ただ、攻守の切り替えの早さは、甲府に一日の長があったのは確かでした。予想外の陽気に疲れが増したのか、熊本は徐々に戻りが遅くなってきているのがわかります。Jリーグ・デビューになった平木でしたが、出場機会がなく試合勘が鈍っていたのか、あるいは彼のプレースタイルなのか、走り込んでほしいスペースに走りこまない。ドリブルで仕掛けない。捌き屋、テクニシャンであることは彷彿とさせましたが、パサーばかりが並んで、ゴールへの迫力を感じさせるフィニッシャーがいない状況にも見えました。

残り15分。渡辺を原田に代えて投入。甲府陣内でのプレーが続く。西森の左からのクロスはファー市村が折り返しますが繋がらない。アディショナルタイム。矢野も上がる。諦めない熊本。残り1分を切っても“何か”起こりそうな期待を感じさせるのが今年の熊本。しかし、前節を思わせるような福王のロングシュートが残念ながらゴールポストの上を通過すると、試合の終わりを告げる主審の長い笛が吹かれました。

守りきった甲府。“あの”甲府がいわばなりふり構わぬ、といった感じで1点を守り抜くことに専念しました。それほどとにかく“結果”が欲しかった。それほど追いつめられていたのかも知れません。不調だった甲府でしたが、今日は前節のような“ミス”は皆無でした。これで熊本が何かきっかけを提供してしまったようにも思われます。

そしてわが熊本。課題は少しフォーカスされてきました。アタッキングサードでのプレー、それもフィニッシュの前のプレー。クロスの精度とか、パスのアイデア、呼応する動き等々…。高木監督が言うように、攻撃の熟成には時間がかかることは確かです。しかし、今日、藤田が長い時間を与えられ、昨年ファンを大いに湧かせたような“パス回しで崩す”熊本のスタイルが今も健在だということも証明してくれました。熊本には硬軟、長短の武器があることを確かめられたのは何よりの収穫でした。

試合終了後、イレブンへの拍手もそこそこに家路を急ぎました。今日の結果に対して、満たされないものが沸々と湧き上がってくるからでした。本当に悔しい。

これまでは“相性が悪い”と言われ、われわれもそう意識するほど、チカラの差を見せつけられ、大量失点に膝を着かされてきた甲府。そんな相手にワンチャンスだけの最少失点。相手を自陣に釘付けにし、シュート数も上回り…と。しかし、さすがのポジティブ・シンキングなわれわれも、この結果をもって“あの”甲府に善戦した、いい試合だったと言う気にはもうなれません。いや、なんだかこれまで以上に悔しい。負けて悔しいのは当たり前。この負けが悔しくなければならない。熊本3年目のJリーグ。何だかサッカーの原点に返ったような気持ちになってきます。おそらく監督、選手と共に、今一心でその悔しさを共有しているのだと。第二クール、絶対にこの借りは返すぞと。

4月3日(土) 2010 J2リーグ戦 第5節
草津 1 - 2 熊本 (13:04/正田スタ/5,372人)
得点者:18' 氏原良二(草津)、43' 矢野大輔(熊本)、51' 福王忠世(熊本)


開幕から4連敗中の草津。しかし、いや、だからこそ油断できない相手だと選手もファンも理解していました。「前半に先制し、相手に『今日も駄目か』と思わせたい」(2日付・熊日)と戦前言っていたのは筑城。プレイヤーでなければわからない、連敗中の選手心理をよく表しているコメント。ところが、その草津に先制点を許してしまった熊本。ただ、前半のうちに同点に追いついたことが、十分にそれと同等のダメージを相手に与えたことは間違いありませんでした。草津イレブンは明らかに前節千葉戦の記憶をよみがえり、動揺したのではないかと。J2・100試合出場の矢野の記念すべきCKからの同点弾は、それほどの“価値”がありました。

正田醤油スタジアムのピッチ状態の悪さは、われわれですらイメージにあるくらいですから、選手はもちろん、J2をよく知る高木監督も十分頭にあったでしょう。そして、今日はそのうえに関東平野に吹き荒れた春の強風が、試合を難しいものにしました。熊本は二日前に加入発表があったばかりのブラジル人FWターレスを早速ベンチに、怪我で戦列を離れた宇留野に代わって好調の西森を先発に起用しました。

草津 (先発フォーメーション)
11氏原 27杉本
9高田10広山
2戸田30松下
15御厨7佐田
24梅井4田中
 21常澤 

序盤から熊本がラインを高く上げて敵陣に迫ります。左SBの筑城も果敢に攻撃に参加。開幕から連続出場の筑城ですが、移籍した熊本で大いに“活きて”いる。もはや欠かせない選手になりつつあります。ゲームは蹴りあい、中盤での激しい奪い合い。潰し合い。草津の中盤には松下、戸田、広山と巧者が揃い、ちょっとしたミスがピンチにつながりかねない。細心の注意が必要でした。

前半18分、ちょっと風が強くなってきた頃だったかも知れません。GK南からのキックが押し戻されたようにハーフウェイライン近くに落ちてくるのを、草津の選手がヘッドで跳ね返す。それを市村が後ろに反らしたところに高田が走りこみます。ゴールラインぎりぎりから上げられたクロスに、氏原が飛び込みどんぴしゃのヘッドで草津が先制点を挙げる。「オフサイドではないのか?」。唖然とする熊本イレブン。指揮官も抗議したようですが、心のどこかではすでに切り替えているような。選手ももう走り出している。「サッカーでは“事故”のような失点1は必ずつきもの」という高木イズムが選手にも浸透しているようでした。

先制した草津、この時点で「前半をこのままで終わりたい」という気持ちが強くなったのは無理もないでしょう。草津のDFラインが徐々に下がり始めました。バイタルエリアが広くなった分、熊本の攻め込むスペースと時間が増える。右サイドから運びあがって吉井が中央に入れる。井畑がDF二人に挟まれながらもトラップ一発、左足で押し込む。これは草津GKのファインプレーで阻まれます。井畑は前節のヘッドもそうですが、いわゆるセンターFWらしい動き、そしてある意味泥臭いシュートが撃てている。実に惜しいシーンでした。早く2点目を取らせたい。

スカパー解説の戸塚氏の言うとおり、GKのファインプレーで“流れ”を取り戻すことが往々にしてあるのですが、前半も最後の時間まで諦めないのが今年の熊本。草津側からすれば、いわゆる“クローズ”の時間帯。43分、ゴールキックを前線で競り、収めた井畑。筑城に返したボールは左・タッチライン際の原田に折り返し、ダイレクトで西へ。受けた西は向き直り、相手DF3人に対峙すると、果敢に仕掛けてエリアに入っていく。敵4人目のDFがなんとかクリア。これで得たCKを蹴るのは西森。ゴールに向かって弧を描くボールは、さらにドライブが掛かったように中央で落ちてくる。目測を誤ったGKの前に入り込んだのが矢野。少し頭を低くして身体ごと飛込み、冒頭に書いたように前半のうちに熊本が追いつきます。

サイドが替わった後半、風は益々勢いを増し、向かい風の草津はGKのキックがハーフウェイラインを越えないほどになります。追加点は51分、中盤付近で熊本が回していたボール。最後列の福王が前目に出ていた敵GKの位置を見越して放り込む。あわてて下がりジャンプするキーパー。しかしうまく風に乗ったそのロングシュートは、その伸ばした手をあざ笑うかのように、ゴールマウスに吸い込まれました。

後半勝負をかけなければならない草津にとって、あまりにも早い時間帯で痛恨の逆転弾。勝ちたい、今日こそ勝たなければならない草津。早めのカードで動かざるを得ない状況に。広山を下げてラフィーニャを投入。確かにこのラフィーニャの強引さと変則的なリズムに惑わされる感じで、熊本のピンチが増えていく。なんだかバタバタした感じ。一連の草津の攻撃から最後は佐田がミドル。このシュートは枠を反れる。

草津は更に足の速い山田を投入。山田が左サイドを抜いていく。しかし、今日の熊本ベンチ、まだ動かない。79分、草津の左CK。GK南のパンチングがエリア内に高く上がったところに191センチのDF梅井の頭が合う。「やられた!」と思いましたが、ボールはゴール左に反れていき事なきを得ました。

それでも、熊本ベンチは動かない。リードしているこの状況で、変にバランスを崩したくないのか。まだまだ熊本の守備ブロックは実効性を失っていませんでしたし、運動量もあまり落ちていません。確かに攻守の切り替えの早さは、熊本が圧倒的に草津を上回っている。強風と荒れたピッチが、もう一点をとりにいくことも想定させたのかもしれません。80分、松橋のスローインは上がってきた筑城に「撃て!」と言わんばかりの慎重で優しいボール。ダイレクトで捕らえたシュートはドライブが掛かり枠を捕らえていましたが、これはGKにクリアされました。

熊本が山田のサイドを押し返すために山内を入れたのは、後半も38分を回ったところでした。さすがに昨年ハットトリックを決めたこの男の名前は嫌なイメージで草津に知れ渡っているのか。さらに井畑に代えて渡辺を入れたのはもはやアディショナルタイムが迫った頃。時間を使うとともに、前線で落ち着かせる。本来守備的なこの渡辺が、再三この時間帯、前目で使われているのは、彼の経験値を買ってのことか。

そうなると最後の“クローザー”は藤田というのがこれまでの定石だったのですが、アディショナルタイム、投入されたのは何と山下でした。それはパワープレーで前線に上がった草津のタワー・梅井にマンマークで対応させるため。なるほど納得の選手交代でした。その山下のファーストタッチ。ルーズボールを梅井と競り合い、フィジカルで押さえ込んで、ボールをキープ。「役割を果たしましたね」と解説・戸塚氏。このクローズの時間帯のワンプレーの価値を知っているのでしょう。ある意味、この投入で流れが変わったのか、後は前線でのキープ、パス回しで、試合はそのまま終了。逆転で今季初の連勝という結果を得たイレブンの顔には、達成感が溢れていました。

市村、松橋、井畑、西、ときて今日の得点者は矢野と福王という二人のCB。総得点数自体がまだ少ないこともありますが、チーム内の各人が試合毎に1点ずつ取っているという状況も珍しい。誰かに依存しているのではなく、まさしく“チーム”で点を取っているということでしょう。

この試合はクローザー藤田の出番はありませんでした。しかし、これではっきりしたことは、高木監督は、もちろん事前の試合プランは持ちつつも、その状況、変化を見極め臨機応変に7人のベンチ要員を使い分けていく、ということ。そのことは「ゲーム前に選手に伝えていたやり方とは大きく違う内容になりました」という試合後のコメントからもうかがい知れます。そしてそれは、いつか池谷GMが高木評として言っていた「与えられた現状のなかでの対応力がある」ということにも通じるような気がします。 

「次節からは上位が予想されるチームとの対戦となるが」とJ’sGOALのインタビュアーに問われていわく「相手に関してはあまり考えていない。次は甲府戦だなというくらいで、明日はテストマッチもありますし、1つ1つやっていくだけです」という姿勢。変に気負っているのはわれわれファンの方だけなのかも知れない。解説の戸塚氏がいみじくも言っていた「昨年は“いい”サッカーを目指していた“せい”か、失点も多かった」という熊本評が妙に心に残ります。では、高木監督が目指すサッカーとは何なのか…。逆説的な言い方ですが、きっとこの現実主義者の監督の“目指す”サッカーは常に変わる。今は“昇格を目指すサッカー”、次には“昇格後も戦えるサッカー”ではないのかと…。

この試合の後、浦和と湘南の中継を見ていました。いつもながら赤く染まった埼玉スタジアムです。昨年まで同じピッチで戦っていた湘南。つい先々週は中村俊輔の横浜と対戦していた湘南。J2最後の対戦ではその湘南に勝利した熊本です。しかし、まだまだ、われわれには、熊本がそのピッチに立つことのリアリティーが正直なところありません。ところがわれらが指揮官には、何のことはなく自分の“ミッション”として、ごく当たり前のように現実的な想定をしているのではないかと。われらが指揮官にとって、J2の現時点というのは、結果ではなくプロセス。この人の目線のそう遠くない先には、「J1でやっていく」ということがあり、「そのためには何をすべきか」「どんなチーム作りをすべきか」ということしかないのではと。対戦チームに対しても上位だ、下位だと先入観を持つような雑念とは違う場所にいるような。それほどこのリーグ戦の戦いだけに集中しているのではないかと。あくまで空想ではありますが、そんなことを思わせた試合でした。