5月29日(土) 2010 J2リーグ戦 第15節
熊本 0 - 0 大分 (15:34/水前寺/6,067人)


PKのシーンはともかく、冷静に客観的にみてもチャンスの数がピンチの数を相当に上回っていた。引き分けでなく勝ちたかった、勝てた試合だったと正直思います。大分との初対戦。できればJ1の舞台で迎えたかったし、まさか6位対11位の対戦になるとは思ってもみませんでした。

前節・栃木戦の敗戦後、「(6失点した)福岡戦の敗戦よりも内容的には苦しい、厳しいゲームだった」「(戦術的なものの以前に)ファイトする選手がいない」などという、高木監督しては珍しい、選手への厳しいコメントをしていました。前節のエントリーではわれわれもかなり厳しい論調を張りました。しかし一方で、リーグも中盤に差し掛かるこの時期、どうしてもメンタルの緩みや疲れが出てくる時期。この指揮官の言葉は、これを敏感に感じ取った指揮官の心理マネジメントではないかという思いもしていました。熊本にとってはこの大分戦、“緩む”などありえないシチュエーション。そういったメンタル面の嫌な流れをはっきりと断ち切る意味でも幸運な巡り合わせと言えました。

水前寺競技場に着くなり青のレプリカユニの姿が目に飛び込んできました。スタジアムの約3分の1に区画は制限されているものの、時間を追うごとに、そのスペースが更なる青で埋まっていく。相変わらず“熊本時間”なホームファンは、試合開始ギリギリになるまで到着しない。「ホームジャック」は宣言されていたものの、それをはっきり認識したのはゴール裏がコールし始めたときでした。それはものすごい声量。まるで地鳴りがするような…。圧倒される。これがJ1仕込みなのかと…。
そういえば旦那は赤の15番のレプリカユニを着て、奥さんはエジミウソンの青のレプリカという、わが社の新婚夫婦は、一体今日はどこに座ったのだろう。そんなことも妙に気になる九州ダービー。久しぶりにソワソワしていました。

キム・ボギョンはW杯代表招集のために不在の大分。住田や松原など若手が初スタメン。熊本の松橋、宇留野の2トップは今季初のコンビだったでしょうか? 右サイドには4試合ぶり山内を入れてきました。会場につくなり席を探してキョロキョロと周りを見回していると、山内選手のお父さんと目が合って、これまた緊張感が顔に出ていて…。

大分 (先発フォーメーション)
11チェ・ジョンハン 18住田
22内田34梅田
32宮沢24カン・ソンホ
25小林27松原
21刀根36菊地
 1下川 

結果的にこの日の熊本のシステムは機能したと言えるでしょう。これまで試合の入りから序盤は、ロングボールで相手を押し下げる熊本でしたが、今日はDFラインから繋いで押し上げる。南も徹底してベースラインからの組み立てを選択します。宇留野が若干、誰か他の選手とかぶる場面はあったものの、作ったスペースに山内が飛び出す動きで大分を慌てさせる。DFラインぎりぎりで裏を突く、ボールを引き出す動きが見られる。やはり、松橋、宇留野、山内のスピードスターを3人並べた前線は、相手に一瞬も気を抜く時間を与えない。大分はスペースを与えまいとする警戒感のためか、対人的な出足に一瞬の遅れが。前半26分、この山内、市村とのコンビネーションワンツーからエリアに侵入しようとした市村が倒される。ビデオで見ても完全に足がDFに引っかけられたようにも見えましたが、ジャッジは逆に市村のシミュレーションを取りました。これで、市村は次節、累積で出場停止に。

大分の戦術は、早めに前線に入れてくること。サイドの起点に人を集めて、そこからは熊本の虚を付くようなトリッキーなプレーでの打開、あるいはカウンターに終始します。一瞬、ボランチとDFがお見合いしたところを宮沢が奪ってシュートされますが、南がパンチングで防ぎます。高い集中力を感じさせるプレー。今日も頼むぞ守護神。

再三、右サイドを切り裂く山内。くさびで受けるとみせかけてスルー。一発で裏を取る。確実にプレーの引き出しを増やし、成長を感じさせます。たまらず手を出す大分ディフェンダー。勢いよく転げる山内に、これまたシミュレーションか?!と苦笑いしましたが、今度こそがPKの判定でした。真っ先にボールを置きに行ったのは松橋。古巣相手の“恩返し”ゴールを期しましたが、松橋の蹴ったボールは、横っ飛びのGK下川が“残り足”になんとか当てて防ぐ。前半終了間際の絶好の時間帯。45分間を支配した報酬がスルリと手からこぼれ落ちてしまいました。

後半、小林に代えて村山を入れた大分は、少しアグレッシブに押してきます。住田が裏を狙う。サイドからクロスを入れる。いずれも福王がきっちり対処。大分にポゼッションを奪われることなく、熊本が流れを引き戻し、ボールを回してスペースを狙う。たまらず大分は住田に代えて高松。元日本代表FWをようやく引っ張り出しました。

熊本も筑城に代えて西。もうおなじみになった西森をSBに下げる布陣に変更。いきなり西がファーストタッチで仕掛ける。大分は松原、梅田で挟みこむがたまらず倒してしまいます。ゴール左45度で得たFK。西森のキック。こぼれ球を山内が撃ちます、得点の匂いを感じさせる軌道でしたがボールはポスト左に抜けてしまいます。さらに原田が右サイド奥のスペースに市村を走らせる。切り返して市村がクロス。こぼれ球を吉井がシュート。しかし枠を捉えられません。

残り15分を切って、お約束の1点勝負。熊本は宇留野に代えて井畑。がんばりどころの時間帯。ところが大分もここは同じ考え。それまでボランチも最終ラインに吸収されるように引いて守っていたのが、最終ラインから中盤も押し上げて、俄然前線に人数を掛けてきます。

お互い譲らず。残り5分になったところで松橋に代えて藤田。大分・梅田のクロスにファーから内田が飛び込む。危ない!アディショナルタイムは3分。大分はチェ・ジョンハンに代えて前田。その前田がバイタルから強烈なミドル。バーを直撃して難を逃れます。熊本は藤田が魅せる。ワンタッチパスでチャンスを作る。西もドリブルで仕掛ける。それを藤田がフォローする…。

最後の笛が鳴るまで、いや鳴り終わるまで諦めず攻める、守り抜く。J1での死闘を経験しているからこその大分の戦いぶりでした。そしてそれに全く引けを取らない(いや、もうそんな言い方は選手たちに失礼ですね)熊本の戦い。むしろ勝利の女神は若干こちらに微笑みかけたのに…ツレないなあという思い。
大分との初対決。初めて体験する赤と青に塗り分けられた“戦いの場”としてのスタジアム。スコアレスドローながら、いいゲームを見せてもらったなあと。試合終了を告げるホイッスルを聞いて、われわれも思わず“ナイスゲーム”と叫んでいました。それはきっと、ワンプレー、ワンプレーに場内が呼応して作られる独特の雰囲気。(キーパーやDFラインでのボール保持に関しての、いちいちのブーイングには多少辟易したものの)選手の一挙一動に対して声を絞り出す大分サポーターの一体感。あの“ビッグアイ”での風景が思い浮かぶ。負けじとばかりに声を枯らす赤のサポーターたち。ダービーなんて煽らなくても感じられる、これがサッカーの醍醐味。ホームチームを応援する喜び。それを教えてくれる。

勝ちたかったなぁ…。だからこそ、そういう思いが募りました。できれば大挙してやってきた大分サポーターを沈黙させたかった。件の新婚さんに、「夫婦仲的には引き分けでとりあえず良かったんじゃない?」と尋ねたら、「今の大分、熊本に引き分けで“御の字”と妻に言われました」とのこと。それを聞いて、なんだか悔しさが更に募りました。


5月22日(土) 2010 J2リーグ戦 第14節
熊本 0 - 2 栃木 (13:03/水前寺/2,803人)
得点者:50' 崔根植(栃木)、66' リカルドロボ(栃木)

本当に久しぶりの感覚ですが、一瞬、昨年のサッカーがフラッシュバックする場面が何度かありましたねぇ。相手も確かに9戦負け無しと好調だったとはいえ、覆いかぶされるような巧みな試合運び。高木監督が試合後言うように「練習するしかない」。われわれのチームを見ていて、つくづくそう思いました。

栃木 (先発フォーメーション)
18チェ・クンシク 9リカルド・ロボ
16杉本10高木
7佐藤23米山
6入江19赤井
3大久保30ヨ・ヒョジン
 1柴崎 

序盤はロングボールから切り込んで相手を慌てさせ、ポゼッションを奪ってからは原田からの大きなサイドチェンジに市村がクロスを入れ松橋を飛び込ませる。続くショートコーナーから藤田、宇留野とつなぎ福王が詰める。点にこそならなかったものの、何度かゴールを脅かしている熊本の前半の印象はそう悪くなかったのですが、じっくり振り返ってみると前半終了間際あたりから、集中力を切らしたミスが出始めていましたね。

戦前からサイドの攻防が鍵だと思っていたのですが、熊本は市村、西森の両SBを高く上げて攻撃的に仕掛けることで相手サイドを押さえ込みにかかります。相手の要注意人物・高木は右サイドに位置していて、西森に何度もベンチから指示が入りますが、うまく対処しているように見えました。しかし、全体的なこのバランス変化や“負担”が、高木監督に「普段の車から新しい車に乗り換えて、その“欲”のようなものが足を止める原因になったのかも知れない」(23日付・熊日)。と言わせたのではないでしょうか。

徐々に、徐々に、ボールは回せているものの、縦に入れるタイミングを逸していく熊本。対する栃木は自陣のアタッキングサードに入る時点でチェックを怠らない。熊本は、そこを突破して侵入するも、勝負せず、味方の上がりを待つために、早い栃木の戻りに潰されてしまう。スコアレスドローで終わった前半は、決して今日の熊本のゲームプランではなかったはずです。

「後半の頭が勝負。」ハーフタイムでそう鼓舞した松田監督の言葉を栃木イレブンが形にします。ボールへの出足が格段に上がってくる。高木が今度は左サイドに移動している。50分、中盤から繋いでチェにくさびのボールが入ったと思った瞬間、福王を交わして反転したチェ。左足を豪快に振りぬいたシュートがゴールネットに突き刺さりました。奪われた先制点。堅守を持ち味とする両チームにとって、この先制点の意味するものはとても大きい。ただ、時間はまだ十分ある。下を向くにはまだ早い。負けるわけにはいかない。ファンの気持ちはピッチの選手にも伝わっていたはずです。

しかし栃木は中盤でしっかり蓋をしてきます。降り出しそうで降らないこの日の天気。湿度の高いピッチ上で、必ずや米山、佐藤の両ボランチ、あるいは前線の両FWの足が止まる時間帯が来るものと見ていたのですが…。いや逆に、栃木の堅守を支えているのは、彼らの果敢なまでの運動量。特に佐藤のそれには目を見張りました。あの攻撃的プレーヤーの佐藤に、ここまで守備をさせている松田監督。昨年までは左SHで使われることが多かった印象ですが、高木を獲得することによって、ゲームを読めるボランチをもう一人獲得していました。

今日の藤田は米山あるいは佐藤に完全に封じられて、いつものようなワンタッチで打開するパスが出せない。高木監督は藤田を下げて、井畑をターゲットマンにすることを選択します。その井畑が右サイドでDF二人と競ってCKをとる。しかしファーに飛んだボールはクリアされる。

サイド奥までは運ぶが、それからどうも手間をかけすぎる熊本。十分に栃木のDFラインが整う時間を与えてしまっている。逆に熊本の戻りが遅くなってきたかなと思っていた時間帯でした。バイタルエリアでチェ、高木、ロボとショートパスで繋いで最後はロボが中央突破。華麗な切り崩しで追加点を決めます。

2点のビハインドを堅守の栃木から挽回する力は、今日の熊本にはありませんでした。宇留野に代えて平木。最後は渡辺を入れて3バックと攻勢を試みますが、指揮官が「相手と戦っている選手が、正直、僕の中では1人もいなかったのが残念です」と言ったように、守備に林立する栃木ゴール前でただボールを回すだけ。フィニッシャーどころか、“仕掛け”も譲り合うような消極的な攻撃に終始。終了間際に原田のボレーシュート、続くCKから井畑のヘッドと惜しいシーンはあったもののゴールマウスを割ることはできませんでした。

「今日の試合は対戦相手の栃木に負けたのではなく、自分ら自身に負けた試合だったように強く感じます」。宇留野が自身のブログで吐露している言葉が、選手全体のメンタルを表しているような気がします。そこにはしかし、これまでの対戦成績からする栃木への油断がなかったのか、久しぶりにプレッシングサッカーという言葉を思い出させるような栃木の球際の強さ早さに腰が引けなかったのか。自らミスを繰り返してリズムを崩した要因はなんだったのか。選手たちは何にあれほどいらついていたのか。誰と戦っていたのでしょうか…。

栃木の両FWがきっちり仕事を果たしました。それは個人技のようにも写る。しかしその得点は、一番ゴールに近い選手(FW)に、全員が気持ちを込めて繋いだものでした。代わって入った廣瀬にしても林にしても、前線からのチェイシングが役割であることを理解していました。栃木の守備は誰ひとりさぼることない組織性からできている。最後まで走り抜くことからできている。そこから攻撃が生まれていると確かに教えてくれました。

高木監督はこの結果をとらえ、「福岡戦の敗戦よりも内容的には苦しい」と言います。たとえばわれわれも、福岡戦の大敗は、選択していない入試科目の試験結果のように、いわばあっさり捨て去ることのできる内容でした。しかし、今日の試合は、大事な科目の基本問題を“ケアレスミス”で落としたときのように、無念さだけが重くのしかかってくる。対戦相手という意味ではなく、試合内容がその違いを感じさせるのです。

果たしてこの思いを払拭できるのか。指揮官は「幸いなことに時間がある」と言っていますが、この1週間での課題修正力がまた問われます。どう整理するのか、どう修正するのか。再びとても大事な節目を迎えたというのが実感です。

さて、次節は大分を迎えてのバトルオブ九州。大分も波のあるチームで、最近は調子を落としているようですが、J1仕込みの底力と火か付いたら手に負えない爆発力を秘めているような印象です。同時に、「熊本は大分の支部」と豪語して“水前寺ホームジャック”を高らかに宣言している大分サポーターが、大挙してやってくることも予想されています。スタンドで後押しするわれわれもまた真価が試される重要な試合になりそうです。水前寺をありったけの赤で染めて、“武者返し”といきたいところですね。

5月15日(土) 2010 J2リーグ戦 第13節
水戸 0 - 1 熊本 (13:04/Ksスタ/2,341人)
得点者:79' 松橋章太(熊本)


スタメンにもベンチにも、前節の“ニューヒーロー”の姿はありませんでした。どうも先週の練習中に足を痛めたらしい。どの程度の故障なのかは不明ですが、J初先発、決勝ゴールに両手の人指し指をかざして感謝したファビオに、フットボールの神様は、まだまだ試練を与え給うたのか。いきつけのスポーツ整体院でそのことを話題にすると、「骨太だと俊敏性が失われるが、細いと痛めてしまう。サッカー選手にはサラブレッドの細くしなやかな筋肉だけではなく、農耕馬のような太くて強靭な筋肉も必要なんです」と院長。「FもMも、熊本に来たばかりのころは細かったですよ」。時どき選手達の面倒も診ている院長はそう話してくれました。

さて、水戸とのこの一戦。われわれには、ちょっと心配していた“ジンクス”みたいなものがありました。J昇格以来の過去2シーズンを振り返ると、ゴールデンウィークのあの過密日程が終わった途端、それから8試合、9試合と勝てないというのがこれまでの“ジンクス”だったからです。おそらくはフィジカル面で、根深いダメージを残してしまっていたのだろうこの過密日程。この試合は、そういったシーズンの流れという意味で、今年はどうなのか、というところにも関心を持っていました。

先発のワントップには松橋が復帰。「福岡戦で個人的にチームに迷惑をかけた」(試合後のインタビュー)と自認する彼にとっては、間違いなく「なんとか結果を」出さなければいけなかった試合。しかし、値千金の1点をもぎ取り、熊本に連勝を呼び込みました。トップ下には藤田が2試合連続で先発。彼もまた筑波大の同級生・木山監督との対戦に静かな闘志を燃やしていたに違いありません。

確かに、スカパー解説の菅野さんも指摘するように、両チームともに重たい印象でした。不思議なことに前節休みだった水戸にしてもそうでした。公式の記録では気温15.8度。おそらく現地はひんやり(あるいは寒いほど)していたのでは。それが選手達、特に熊本側にいい影響があったのではないかとも思いました。

水戸 (先発フォーメーション)
39片山 11遠藤
19森村10大橋
16下田8村田
22森2藤川
32大和田4作田
 1本間 

序盤は水戸の攻勢。いくぶん風上という影響もあったかも知れませんが、ポゼッションを保持して形づくる。このチームで一番の要注意人物は大橋。かつてマリノスでは、中村俊輔の後継者とも目されていた逸材。その大橋をサイドに置き、臨機応変で中央エリアに。その動きを菅野さんもかつて率いた湘南のアジエルに例える。ここはひとつの抑えどころでした。今年の水戸は、ここから前線の吉原に預けるのがひとつの形。しかし、今日、吉原の代わりに先発した片山、遠藤にはまだなかなか収まらない。

20分頃からは熊本にもポゼッションの時間帯が訪れます。西の左サイドの崩しから中で繋いで右にこぼれたボールを松橋がボレーシュート。強烈でしたがGK本間がクリア。水戸の中盤がゆるくなる。こぼれ球を熊本が拾う。福王が右サイド奥のスペースにロングボールを送ると、市村が走りこんでダイレクトで中に入れる。ニアで宇留野がスルーして藤田がシュート。枠の左に反れるボールに西が詰めますが届かず。

松橋が個人技で切り返すも中央で潰される。こぼれたボールを吉井が渾身のミドル。これはバーに嫌われる。実に惜しい場面が続く。形は作れている熊本。藤田が自由自在なポジショニングで中盤を崩している。守っては組織された守備。前から行く場面、行かない場面。明確に指示が出ているかのような統一感。軽いプレーがない 確実なプレー、思い切ったプレーが目に付く。安定感と表現していいかもしれない。先制点まであと少し。スコアレスでは物足りない。そんな内容の前半でした。

後半の水戸。打開策は、まずボランチの下田に代えて西岡を入れることでした。2人のボランチが共に1枚ずつイエローを貰ってしまい厳しく行けなくなったことで中盤を支配されている。との認識からでした。熊本は藤田のヒールパスを受けた原田がDF裏にスルーパス。西がスッと抜け出してシュート。しかし、今一歩、踏み込みが足りなかったのか、枠を反れる。対する水戸は、中盤で奪って大橋がスルーパス。右サイドから裏をとった遠藤がすばやくシュート。これはポストに当たって事なきを得ました。

ここからベンチワークの勝負も。宇留野に代えて井畑。水戸は遠藤を諦め吉原を入れてくる。互いに譲らないこう着状態に似た時間帯が続きます。

均衡が破れたのは79分。筑城に代わって西森が入ってすぐ。“残り15分のスウィッチ”がチーム全体に入ったのか。南からのゴールキックを井畑が競り勝って松橋へ、そのポストプレーから藤田にボールが収まり中に入っていく。DFの注意が藤田に引き寄せられる。2人、3人。十分引き寄せたところで、体制を崩しながらも再び松橋に出す。それがラストパス。松橋はここぞとばかりにダイレクトで振り抜く。ボールはGK本間の手をすり抜け、ネットに突き刺さりました。

水戸は森村に代えて小池を入れますが時すでに遅し。熊本は殊勲の藤田を渡辺に代えて逃げ切りの体制。ベンチに退く藤田が一瞬、相手ベンチをちらっと見たような気がしました。同級生の木山が監督として率いる水戸。同級生の藤田がピッチで指揮する熊本。今日は藤田に守られ、藤田に入れられたようなもの。アディショナルタイム、審判の判定に珍しく苛立つような身振りを見せた木山監督。何を思っていたのでしょう。

終わってみれば互いのシュート数は前半9-2、後半10-7。戦前、シュート数に関して「これまでの一試合平均10本を15本に上げたい」と語っていた高木監督。今日は確かにかなり早いタイミングで、撃っていた。まさに、シュートコースが空いていて撃てる状況であれば、第一選択肢として撃っていた。現時点でわが熊本、攻撃面に課題があることはわかっているわけですが、まあ、一番手っ取り早いと言ってはなんですが、攻撃の組み立てとか言う前に、とにかくシュートを撃つことを徹底させるという“わかりやすい”指示を出したと理解していいのかも知れません。あれもこれも多くの課題を与えない。まずシンプルに考えることを。

守備に関して言えば、今日の試合、セットプレー以外は安心して見ていられましたね。おそらく、一度もカウンターを食らっていないのではないか。“食らう”というような、守備の枚数不足の状態は作らせなかった。前節・愛媛戦で見られたような、危険なエリアでのボール回しのミスもきちんと修正されていました。

対して、水戸というチーム。明らかにこれまで対戦した水戸とは違っていました。選手の入れ替わりの激しさは確かにある。あの荒田もいない。しかし一体いままでの水戸はどこへ行ったのか。去年の戦術はどうなったのか。攻撃面では高さの脅威が無くなって…。木山監督はどうしたいと思っているのか。素人分析で失礼な話しとは思いますが、今シーズンの意図が全く見えない。そんな印象を持ちました。

1-0の勝利。虎の子の1点を守りうまくクロージングしたゲームマネジメント。それはしたたかな勝負強さという表現もできますが、やはり辛勝という見方もあるでしょう。高木監督は試合後、「1対0で勝つというのは大変難しい。たとえばレフェリーのジャッジや風や環境で変わってしまう。1点は覚悟するゲームなので、無失点で抑えるということはいいことですし、守備の安定も非常に評価できる」と述べてチームの堅守を称えましたが、しかし、やはり2点目が遠い。2点目の匂いがしないのも実感です。ギリギリで勝っている、という状況はまだまだ変わってはいません。もちろん、このカテゴリーで“余裕を持って勝つ”ようなことは望むべくもないのですが…。

「まだまだ課題ばかりでした!チャンスをもっと作りたいし、少ないチャンスでも決めたいし、余裕をもてるゲーム展開も作り出したいし…」。藤田が自身のブログで述べているこの言葉が、今のチーム状況をうまく表現しているのかも知れません。けれど一方で、松橋の言う「前節のファビオの活躍はスタンドから見ていて刺激になった」「今日は危機感を持ってプレーができた」という“危機意識”。選手たちのなかにあるそういった絶え間ない“競争意識”がチーム進化のエネルギーでもあります。心理マネージャーとしての監督。大敗、主軸2枚の出場停止という危機を見事にマネジメントしましたね。

リーグ戦も序盤から中盤に差し掛かるところ。混戦の中位同士。上位に喰らいつく戦い。J’sゴールのレポーターはプレビューで、「J2の『台風の目』を懸けての対戦」と位置づけていました。とりあえずそのポジションは熊本のほうがキープした、というところですが…。「台風の目」。ちょっと心地よい響きですね。

5月8日(土) 2010 J2リーグ戦 第12節
熊本 1 - 0 愛媛 (13:03/水前寺/3,036人)


前エントリーで期待を込めて先発予想したファビオ。高木監督の起用に応える活躍で、閉塞感のあった今のわがチームの状況を一気に打開してくれました。

ゴールデンウィークの過密日程の最終日ともいえるホーム愛媛戦。順位など気にしていない間に、5位から10位までのチームが勝ち点15、16の間にひしめくという混戦になっていました。愛媛との勝ち点差はわずかに1。負ければ順位が入れ替わるという状況での対戦。そして今シーズンスタートからここまで失点5と堅守を誇るチーム。その愛媛から点を奪えるのかということと、何より大敗した前節の心理的ダメージを払拭できるのかが注目される試合でした。

今週のサッカーダイジェストに、タイミングよく掲載されていた愛媛FCのクラブ特集のタイトルは「バルバリッチ革命でオレンジの逆襲が始まる!」というもの。昨年9月に就任したバルバリッチ監督、その戦術の基本を「ボールをつないでキープする、つまりポゼッションすることは、私の思い描くスタイルのなかで最も重要な部分」と述べています。そして、サカダイが分析した愛媛の戦術キーワードは、4バックと中盤の連携で空いたスペースを埋めること、そして福田健二を軸にした攻守における前線の連動性、というものでした。福田をいかにして止められるか。それもまたこの試合のポイントでした。

愛媛 (先発フォーメーション)
23杉浦 24福田
16赤井17大山
4渡邊19越智
28高杉13関根
22小原5アライール
 21山本 

ある意味、似たようなコンセプト。守備から入るチーム同士の戦いは、手堅いジャブの応酬で互いの様子を探るような序盤になりました。愛媛は右サイドの大山を起点に、そこからFW福田に入れてくるホットライン。あるいはその後ろの関根が大山を追い越して攻撃に絡む。筑城の代わりに左SBに入った西森と、その前の西の「マークのズレが生じて(高木監督)」同サイドは防戦一方になります。さらに南からのパスを矢野が原田に預けようとしたところでミス。中央で奪われて杉浦に撃たれますが、これは枠を大きく越えてくれました。最終ラインにも、どこか堅さが残る…。

熊本の期待はファビオ。右サイドで市村とのパス交換からミドルで思いっきり放つ。これは枠を捕らえきれませんでしたが、それにしてもファビオが前線で身体を張るプレー、特有の足の長さもあってボールの収めどころが広く、なんとも柔らかいタッチと予測の難しい動きのアイデア。奪われない。巡ってきた先発の重みを100%理解しているのか、とにかくボールに触る、追いかける。愛媛の守備の要アライールに対しても、決して引けをとらない攻防を繰り広げます。20分過ぎから徐々に熊本がボールを支配し始めるのですが、ただ、回せてはいるもののフィニッシュまで至らない。どこかでスピードアップなり仕掛けなりのアクセントが必要でした。

逆に愛媛はチェックゾーンを前目にすることで流れを挽回する。熊本左サイドからのアーリークロスに福田が飛び込みソンジン、南と交錯。こぼれたところに赤井が詰めますがボールは枠の外にこぼれます。さらに中盤で奪って再び福田にスルーパス。これはオフサイド。今度は名手・藤田のパスミスを大山が奪って同じように福田にパス。福田の強烈なシュートを間一髪、南がクリア。これは決定的なピンチでした。前半終了間際にも、ロングボールに走った福田をソンジンがファールで止めてしまう。嫌な時間帯での嫌な位置からのFKでしたが、キックは壁に当たり、こぼれ球の大山のシュートも枠を反れてくれました。

どちらも先取点を取りたい。お互いに疲労感の漂うチーム状態。相手に先に取られれば、それを跳ね返すエネルギーは心許ない。そんな互いの気持ちがヒシヒシと伝わってくるような前半。シュート数4対4。その他のスタッツを確認するまでもなく全くの五分五分の内容と言えました。

「愛媛はバイタルを早く閉めてくる。その前に攻められるかどうかがポイント」というのが戦前の高木監督のスカウティングでした。後半、右サイドから市村が上がる。渡辺も加わり右サイドで作る。宇留野がクロスを上げる。GKクリア。右CKから中央の矢野のヘッド。当たりが薄くて左に反れる。

愛媛の福田はソンジンの執拗なまでのチェックに“我慢”の表情。ソンジンも福田の運動量に“我慢”するといったマッチアップが続きます。54分頃の愛媛のCK.ニアに飛んだボールに小原のヘッド。南の好反応で先制チャンスを阻止。ビッグプレーでした。対して熊本は左から攻め上がった西森のクロス。ファーから西がニアに入れる。ファビオが反転してシュートしますがクリアされます。

ここで愛媛が大山を下げて持留を投入。これまで攻撃の起点となって、悩ましい選手だっただけに何故?と訝るより、ホッとする気持ちのほうが上回りました。まさに決勝点は、その機を逃さなかったような時間帯でした。ハーフウェイライン付近でもらった宇留野が、ドリブルで持ち込み、アーリークロス。「ルックアップした時にファビオが見えた。五分のボールなら勝ってくれると思って入れた」という宇留野。それに応えてファーサイドに走りこんだファビオ。付いていたDFの死角に入ると距離を離す。宇留野のクロスはDFの頭を越えてファビオの頭にドンピシャ。ゴールネットに突き刺さりました。

ファビオ・エンリケ・ペナ。自らのストロングポイントをスピードとドリブル突破と語る19歳。与えられたチャンス。そして自らの努力と幸運で呼び寄せたチャンス。両手の人差し指を天に向けて、神への感謝を表しました。愛媛が「バイタルを閉める」間を与えなかった宇留野の“天性”の機転。彼の今日の目を見張るような運動量に対しても、終盤大迫と交代する際は、満場から大きな拍手が送られました。

さすがにその後の時間帯は、愛媛の攻勢に晒されました。福田を下げて札幌から移籍した石井が登場。熊本は中央で得たFK。原田のキックは惜しくもポストを叩き、追加点ならず。その原田の疲れも計って、吉井を投入。残り15分を守りきりにかかる。渡辺が痛むものの、なんとかフィールドに戻る。今度はファビオが痛んで担架で運ばれる。交代で入る井畑に担架の上からハイタッチ。「任せた」「よくやった」と。

諦めるわけにはいかない愛媛は攻勢一方ですが、どうしてもフィニッシュの精度に欠ける。しかし、さすがにこの時間帯、熊本のボールへの“集散”も少し遅い。もはや前節・福岡戦のイメージはないものの、誰もが鳥栖戦の同点劇を思い出してしまう。ロスタイム。嫌な時間帯。早く終われと皆が願う。全力で走り続け、駆け回る藤田。危険なロングフィードを絶つべく、何度も何度も相手の足許に飛び込みパスをカットする。観衆からも感嘆のどよめき。先発しながら、今日もクローザーの役割を果たしている。カウンターから井畑が右にはたく。宇留野と代わって入った大迫へ。大迫がPアーク付近からシュート。しかし枠は外れる…。そして、やっと聞こえた長い長い笛。公式には気温26度ということでしたが、それ以上の体感温度、強い日差し。連戦の最後の試合、高木監督が戦前言っていたように、そのコンディションだけでなく内容そのものも、まさに「我慢くらべ」のような試合になりました。

前節のスタメンから6枚を入れ替えてきた熊本。出場停止の松橋、福王のほかにも、連戦の疲労を考慮し「動けて戦える選手を選んだ」(高木監督)結果でした。奇しくも19歳の2人のプレーヤーが、チームを救うことになりました。それはもちろん先発初出場で決勝点のファビオ。そして福田を徹底的に押さえたソンジン。(大迫が最後に決めていれば3人だったのですが…)。

前エントリーで「“大事な節目”」と書いた今節。これまでかなり固定されたメンバーで戦ってきた感のあるチームが、今日、新たなスタメン、戦力が機能したことで、チーム内の競争もいっそう激しくなるでしょう。今後は、また違ったチームの姿が見えてくるかもしれませんね。ソンジンとファビオの起用理由を問われて、監督は「とにかくトレーニングしかないので、そこからの判断です」と語っています。それはチャンスの扉が誰にも開かれているということを示しているわけで…。

失点後の愛媛の猛攻も、結局は、ある程度、引いている熊本に対して、変化に乏しいクロスの放り込みを繰り返してくれました。対処できる攻撃だったということでしょう。敵将バルバリッチ監督が敗因のひとつとして「ゴール前の攻撃性、“血の気”というのか、あるいは俊敏性、爆発力、そういったものが不足している」と語っていますが、実は、前節・栃木戦の後でも全く同じコメントをしている。繰り返し強調しています。

今節を迎える前に、わが指揮官はミーティングで、前節・福岡戦の映像を90分間まるまる全員で見る機会を与えたといいます。普通はいくつかのシーンに編集して時間を短くするのかもしれませんが、あの試合をキックオフから試合終了までまるまる2時間近く。中2日の貴重な時間のなかでそれに費やした。敗戦の結果を受け入れ、、そしてその原因と徹底して向き合った。

ああいった大敗のあとで、われわれが一番心配したのはこれまでの自分達に“疑心暗鬼”になることでした。「失敗した後は、なにがなんだかわからなくなる」と言ってもいいような気持ち…。しかし、何故“失敗”したのか、それはこういう原因があるからだと、きちんと理性的に振り返って“分析”することで、「なにがなんだかわからない」という気持ちは消える。失敗の原因を、細部に渡ってもう他には何もないというくらい分析・整理する作業は、次のためにはとても重要で。それは、大敗のゲームの当事者を“さらし者”のようにして、敗者の精神論に訴えるような暴力的手法とは全く違うのだと。「前節の映像を皆でまるまる見て、1人1人ができることをしっかりやろうと思えたことが大きかったと思う」。そう宇留野も語っています。監督の手法に感心した次第でした。

多くの重要な意味があって連敗が出来ない大切な試合でした。ファンの信託。選手の自信。これまで積み重ねてきたもの…。もしここで、不甲斐ない結果となれば、その積み重ねてきたものがそれこそ白紙に戻ってしまうような張り詰めた状況。今日の“我慢くらべ”の勝負、正直なところ、われわれは勝った嬉しさというより、大切なものが守られた、失わなくて済んだ安堵感のほうが大きかった。そんな気持ちでした。でも一番ホッとしたのはなにより高木監督自身ではなかったのでしょうか。

2010.05.06 福岡戦。大敗
5月5日(水) 2010 J2リーグ戦 第11節
福岡 6 - 1 熊本 (14:04/レベスタ/8,850人)
得点者:30' 岡本英也(福岡)、39' 中町公祐(福岡)、48' 中町公祐(福岡)、61' 市村篤司(熊本)、62' 永里源気(福岡)、77' 大久保哲哉(福岡)、90'+3 永里源気(福岡)


これほどの大敗に、あまり細かい状況を描写しても仕方ないですね。完敗といえる内容でした。この連休中に引き分けに終わった前の2連戦。ギリギリ踏ん張っていた緊張の糸が「ぷつん」と音をたてて切れたかのように大量失点を喫してしまいました。

福岡 (先発フォーメーション)
 14岡本 
 19大久保 
14永里7久藤
22末吉15中町
17中島20宮路
5田中6丹羽
 1神山 

4連敗中の福岡はスタメンをいじってきました。右サイドに曲者の久藤。トップは高橋ではなく岡本。しかし休養十分な福岡は、檻から放たれ“勝ち”に飢えた猛獣のように開始から襲い掛かってきました。熊本は低いギアのペースで、序盤はこれをいなしていこうといった感じ。いなすなかで先制点をうまく取って、時間を支配してしまおう。というプランだったのでしょう。しかし、見た目以上にこの連戦のスケジュールが身体と心に疲労を与えていたようです。猛獣の勢いに圧倒されてしまいました。

熊本のローギアがなかなかシフトアップしない。DFラインが押し上げられないのか、選手間の距離が開きすぎているように感じます。パスが寸断されるし中盤で一向にボールが持てない。あるいは福岡があえて中盤を省略してきているともとれました。前半の2失点は、いずれも似たような形から。一気にロングボールを放り込み(あるいは頭で繋いで)熊本のDFラインの裏に飛び込んだ。1点目は岡本。2点目はボランチの中町。ダイレクトでボレーシュート。この勢いに南も呑まれました。

公式のシュート数では福岡8に対して熊本0。なすすべもなく前半を終えた熊本は、井畑を諦め藤田を投入します。前半での2点ビハインドを追いかけるのは、今季初めての展開でした。ボールに絡めていなかった原田も次第に前線に顔を出し攻撃に参加できるようになります。しかし、左サイドを攻められた熊本。一旦下げさせるも宮路からのクロスに中町。ヘッドで決められ3点目を失います。厳しい展開。

それでも懸命に“流れ”をたぐり寄せようとする熊本。中盤のインターセプトから山内がワンタッチで裏に出すと松橋がGKと1対1に。しかしシュートはクリアされます。61分、右サイドをえぐった市村のクロスはシュート性になってゴールに向かう。GK神山がパンチングで逃れようとするが跳ね返りがゴールマウスに吸い込まれました。しかし直後、ハーフウェイラインから永里にスピードに乗ったドリブルで突破されると、そのまま撃たれてゴールイン。このところ不調に陥っていた永里の復活の決定打。熊本の反撃の狼煙に一瞬にして水をかけられてしまいました。

なんとか引き寄せようとしたロープが、また思い切り伸びきってしまったような印象。この試合の事実上の決勝点はこの永里の4点目ではなかったでしょうか。それから福岡は大山、鈴木と余裕を持って次々にカードを切る。力尽きた感のある熊本は、もはや予測の動きはなく、ただただ反応の動きだけに終始している。さらに消耗する体力。もはや長い長いロスタイムを戦っているような有様。5点目も6点目も、ディフェンスは全く付いていけませんでした。

日本ではサッカーの運動量を「持久力」だけに考えがちだと、元日本代表のフィジカルコーチだった里内猛氏が言っています。日本人はどうしても海外に比べて「最後のパワーやスピード」が劣るのだと。それは例えばロングキックやヘディング、強烈なシュートなど一瞬に必要なパワー。そして相手よりもわすかでも早くボールに触るためのスピード。それを彼はエクスプロシブ(爆発的)なパワーと称して、必要性を説き、トレーニングを施しているのだそうです。われわれのチームの目指す“最後の15分”に必要なのもこのパワーだろうし、今日の試合では90分を通して、この力が相手より劣っていたということでしょう。

福岡というチームをこれまで客観的に見てきたとき、ひとり一人の能力は高く、乗せると恐ろしいチームだと思っていました。が、一方で90分間のなかでの波が激しく、メンタルが持続しないという印象も…。しかし、今回は熊本自身が自滅することで、福岡に90分間“切れる”ことなく“持続”させてしまいましたね。特に昨年は手薄といってもよかったボランチのポジションに、中町、末吉という有能なルーキーの補強が実にみごとに効いています。熊本への勝利で、調子の上がらなかったあの甲府を勢いづかせてしまいましたが、この試合でまた福岡にも同じことをしてしまったのではないかと心配です。

厳しい日程のなかで、身体がいつもどおり動かなかったのは見ていてわかりました。前節札幌戦の後、「(次の試合まで)48時間で何ができるかということなんですけど、まずコンディションを整える事が優先順位としては一番だと思います」と語っていた高木監督。見た目以上に厳しいものだったのかもしれません。もちろん福岡とのコンディションの違いも明らかでした。しかし、それだけを敗因にしてしまうのはいかがなものかとも思います。戦っている選手達には決してそんな気持ちはなかったとは思いますが、われわれファンもそれを言い訳にはしたくないと思うのです。世の中には公平でないことは数多くあって、もっと理不尽なことだっていくらでもある。主審のジャッジだって、クラブの環境だって、なにひとつ思いのままに操れるものない。われわれの仕事だって、人生だってそうじゃないですか。そんなことと一緒に向き合っているからこそ共に戦える。

名手・南が1試合で6度もゴールネットを揺らされることが、かつてあったのでしょうか。しかし、負け惜しみだと承知のうえで言うなら、ここまでの大敗も潔く受け止め、もう一度、一から出直すいい機会にしたいものです。ひとつ言えることはこの敗戦で失ったのは、勝ち点3だけ。大敗の原因にこれまでの自分達を“疑う”ことだけはやめてほしい。ぶれる理由も、必要もない。今年の高木サッカーをやり抜き通してほしい。それより、好調にスタートしたシーズン序盤の“ステージ”がこの敗戦で幕を引かれ、新たな段階に入ろうとしている。“大事な節目”。そんな気持ちでもいいじゃないですか。われわれもそんなふうに新たなモチベーションをかきたてていきたいと思います。

次節は松橋、福王が出場停止。藤田とソンジンでその穴を埋めるのか。あるいはこの2試合でゲームに馴染んだ感のあるファビオが先発か。新たな伏兵は現れるのか。しかも日程には余裕などなく、また中2日。そのなかで切り替えができるのかどうか。熊本のチーム力が問われ、試されています。

5月2日(日) 2010 J2リーグ戦 第10節
熊本 0 - 0 札幌 (13:04/水前寺/6,806人)


3日前に鳥栖スタジアムでもお会いしたクラブ前社長の前田さんと、続々と繋がる入場者の列を見ながら、「こりゃあ、柏戦よりも入りそうですね」と話していました。「水前寺も専用球技場にすればいいのにね」とおっしゃる前田さん。お互い先日の真っ赤に染まった鳥栖スタを見たすぐあとだけに、商業施設の併設にすればいいだの、駐車場はなくてもいいだの、大いに“夢”を語りあいました。KKウィングを作った人は、まだまだ夢を追いかけるいつまでも熱い人でした。そして、とうとう今日の水前寺競技場のスタンドは立錐の余地もないほどの埋まり具合になりましたが、それでも発表された入場者数は7千人弱。いったい収容人員の一万五千人というのはどんな状態なんでしょうか。

中2日のスケジュールで迎えた今日のホームゲーム。相手は連敗もあって現在15位に低迷する札幌。そしてストーブリーグの最中、熊本のラブコールを振り切って中山雅史が選んだ札幌でした。熊本は前節の退場で原田拓が欠場。代わりの位置には渡辺匠が入ったものの、左のプレースキッカーは不在という陣容になりました。キャプテンマークを腕に巻くのは吉井。今日は全くもってこの吉井の奮闘の日になりました。そして指揮官・高木監督の試合前の札幌のスカウティングは「攻撃はカウンター。後半疲れる。後半の後半が勝負どころ」というもの。しかし、意外なまでの札幌の頑張りが監督のプランを果たせないものにしました。

札幌 (先発フォーメーション)
 19キリノ 
20上里11近藤
10宮澤7藤田
 18芳賀 
23岩沼6西嶋
4石川3藤山
 21高原 

札幌のボールでキックオフ。渡辺が守備で頑張り、その効果で吉井が攻撃に絡める。札幌はやはり上里が起点になる。FWのキリノには矢野、福王がぴったりマークに付き、近藤は筑城のチェックゾーンに居ました。芳賀がワンボランチぎみでボールを叩く。宮澤、上里のポジションは高い。札幌が前線のキリノに当ててくるボールに対しては細心のケア。きっちり詰めて落ちたセカンドボールも落ち着いて掃き出す熊本。近藤の右サイドからの突破をゴールラインにクリアすると、続くCKはGK南がパンチングで逃れます。

33分、松橋が右から中央の宇留野に入れる。宇留野がダイレクトでDFの裏を突くと、そこになんと吉井が上がっている。ダイレクトでシュート。決まったかと思った角度でしたが、ボールはゴールの左を抜けていきます。続く40分も左サイドを破った西森が、ヒールで筑城に繋ぐ。筑城のクロスはファーの市村へ。折り返しを吉井が中央でミドル。これはバーを越えていく。44分にも右からの市村のクロス。松橋のヘッドはオーバー。ポゼッションは完全に熊本にあり、惜しい場面が続きます。前半アディッショナルタイム。なんとなく“もう終わらせよう”としていた時間帯。札幌のスローインから近藤のシュート性のクロスにファーから撃たれ、そのクリアを再び近藤に押し込まれそうになりますが、南がきっちりキープして事なきを得ました。

「しっかり守備から入って」という点では似たようなコンセプトのチーム。しかし、攻撃に転じたとき掛ける人数では熊本の方に分があり、熊本の方が“作れて”いる。後半もこのままならまだまだ決定機はあるだろうという期待感で前半を終えました。

後半開始早々、手に入れたFKのチャンスはPアークのすぐ手前。ボールの傍では西森、宇留野がゴールに背を向け、吉井がキックに立つ。トリックプレーは西森と宇留野がボールの位置をずらして西森が撃つ。これはGKがクリアするものの、左足キッカー原田不在のなか、敵をなんとか翻弄しようとする工夫が見られました。

しかし、札幌の前への推進力も強まってきます。3-5-2にスウィッチしたのか、中盤のプレスも厚く、そのためか熊本は攻撃に転じたときの繋ぎも雑になってくる。徐々にカウンター頼みになってくる熊本。そんななかでも決定機。筑城から中の吉井へ。吉井が思い切って撃ったミドルをGKが弾く。こぼれを拾った宇留野が角度のない左からシュート。そのボールは詰めた松橋の足には届かずゴールの枠を反れていきました。

対する札幌は中央Pアーク前で得たFKを上里が蹴る。壁に当たるものの、こぼれたところに近藤が詰める。あわやと思われましたが、ボールはゴールラインを割ってくれました。今度は中盤で吉井が上里からインターセプトしてカウンター。右の宇留野に渡して早めのクロス。井畑のヘッドはオーバー。切り替えの早い展開。しかし流れは決して悪くない。高木監督はそこにアクセントとしてまず西を入れることを選択します。筑城を下げて西森をSBに。左サイドを攻撃的に保つこと。そして今日唯一のプレースキッカーを引っ込めたくないという事情もありました。

札幌はキリノに代えて中山。その直後、吉井が高い位置で奪って松橋へつなぐ。松橋はDFをかわしてキーパーと1対1の決定機。コースを消されたのか、シュートはGKの手のうちに。ロングキックに中山が詰めますが南がキープ。札幌は岩沼に代えて砂川を繰り出す。宮澤に代えてはルーテル出身の岡本。嫌なカードを次々に切ってくることで、流れを引き寄せにかかります。岡本が左からエリアに侵入。更に左から上がってきた砂川にもどす。砂川のクロスはファーの中山の頭へ。ヘッドはサイドネット。「危ない!」。

残り15分。熊本が切ったカードは宇留野に代えて藤田。そして井畑を下げてファビオを投入。しかし、なんとも息を吹き返したような札幌の動き。札幌の流れでもないが、どうしてもこちらに引き戻せない。この日の陽気に、必ず足が止まるはずと思っていた相手でしたが、要所の交代カードが士気を高めるように引っ張り、連敗脱出の強いモチベーションも手伝ってなかなか運動量が落ちない。前半のうちから汗を拭いていた近藤も、相当疲れているはずなのに走り抜く。高木監督にとっては誤算。信じられないような札幌の奮闘でした。

膠着状態のまま後半もアディッショナルタイムに突入。3分の間にも“決勝点”のチャンスは必ずあると信じました。右位置で得たFK。これがラストプレー。西森のキックがファーに飛んでファビオに届きましたが、落としたところをDFに蹴りだされ、終了のホイッスルを聞きました。

無念の表情は両者にありました。連敗を止めたものの勝ち点3は得られなかった札幌も無念。ホームのファンの後押しを得ながら勝てなかった熊本も無念。流れを引き戻すように次々に繰り出した石崎監督の交代カードも敵ながら感心するほど嫌らしかったし、呼応するように“走り抜いた”札幌の選手たちにも脱帽です。

何度もあった決定機に決めきれなかったことは悔やまれるばかりです。しかし、決定力不足と嘆くより、さらにプレーの精度を上げて、決定機の数を増やしていくことだと思います。基本的なプランに沿ってゲームは進められたし、それでもゴールを割れなかった。まあ今日はそんな日だったのだと思うしかありません。何より原田不在の中盤において、吉井が守備から攻撃に転じる一人舞台のような大活躍。チームとしても、上里、キリノ、近藤という札幌のキーマンを最後のところでしっかり押さえ、課題のセットプレーも対応できていた。相手の決定機は中山のヘッドぐらいだったでしょうか。南が飛ぶシーンはほとんどなかった。まずはこの組織的な守備がその意図通りに構築できていることを証明したのは、勝ち点1以上の収穫だと思います。

多くのメディアは、この日のゴン中山とわがチームの藤田の対決にスポットを当てるのかも知れませんが、今日の試合を手に汗握って見入っていたわれわれに、そんな“感傷的な余裕”は全くありませんでした。事実、中山が交代で入ったこともよく分からなかったほどです。どんなスーパースターも、チームの勝利の前にはなんの意味もありませんでした。

ゴンこと中山雅史が、4試合連続ハットトリックの世界記録を達成したのは98年。その第3試合目は、ここ水前寺競技場での対アビスパ戦でした。そのときのボール供給者の一人には藤田もいた。その12年後、敵味方に分かれて合間見えた二人のサッカー選手。送られた多くの拍手。そう。きっと水前寺のサッカーの神様が、そんなゴンと藤田に“勝ち負け”を付けたくなかったのだと。さすが熊本のサッカーの聖地“水前寺”の神様。今日はそう思っておくことにしましょう。