わが“ロアッソ”。このW杯中断中、1週間のオフをとったあと、先週から練習を開始していますね。選手たちのブログから察するに、厳しい2部練習の日々を送っているようで。それも午前中の練習はフィジカル中心のメニューらしく、徹底的に身体を“いじめて”いる様子が伝わってきます。更に来週予定されている島原のミニキャンプは、高木監督のコメントによれば、マンネリ化しがちな選手たちの気持ちを“変える”という意図もあるようです。

今季のこれまでのわがチームの成績。シーズン前の走りこみの効果もあるのでしょうが、シーズンインしてからのこういった日々の練習のマネジメントの成果も高いのだろうと思ったりします。ゴールデンウィークの連戦後には、必ずチーム全体のコンディションを落としていたこれまでの2年間と比べると、試合数、試合間隔の違いはあるにせよ、日々の練習の質の高さと量のフィジカル面のマネジメント。そしてメンタル面のケア、それら多面的な要素に対しての準備と対応がしっかりなされているのだろうと。ファンにとって、リーグ戦再開が待ち遠しいのはいうまでもありません。

さて、昨早朝は日本中のサッカーファンが、何度も大きなガッツポーズで拳を突き上げただろうと思います。本田のすごみのある無回転FKの先制点は、一気に眠気を吹き飛ばしてくれましたが、なにより前線で身体を張ってキープするキレキレのプレーは、目を見張るものがありました。最高のパフォーマンスを発揮してくれましたね。

代表はこの大会、試合を追うごとにコンディションが上がっているように見えます。もちろんコンディションにはフィジカルとメンタルの両面があると思うのですが、あの試合ではフィジカルとともに、メンタル面でも相当な高さが感じられましたね。「引き分けでも決勝T進出」という状況で試合を迎えるのは、試合への入り方としては、かえって難しいことだったのではないでしょうか。岡田監督も選手達も、もちろん勝つことしか頭になかったわけですが、デンマークを全く恐れることなく攻め続けた。

岡田監督はかつて母校での講演で「村の祭り酒」という逸話を挙げて、チームのメンタル(集団心理)マネジメントの難しさを説明しています。
「収穫を祈念して、夏祭りをする村があった。祭りでは、お酒が入った大きなたるを、みんなでパーンと割って始める風習があった。ところがある年、貧乏でお酒が買えなくて、みんな集まって『どうしよう、これじゃ祭りは開けねえなあ』と悩んでいた。するとある人が、『みんなが家からちょっとずつお酒を持ってきて、たるに入れたらどうだ?』と提案した。『それはいいアイデアだ』ということで、みんなが持ち寄ってたるがいっぱいになった。『これで夏祭りを迎えられる。良かった』ということで当日にパーンとみんなで割って『乾杯』と言って飲んだら、水だったという話です。みんな、『俺1人ぐらい水を入れても分かんないだろう』と思っていたんです。」

この試合。NHKの実況アナウンサーは、デンマークに1点返されたあとの時間帯、引き分けでも決勝Tに行けるということを、何度も繰り返し言っていました。しかしピッチに立つ選手たちには誰一人も、一瞬もその気持ちはよぎらなかったのではないでしょうか。だからこそ守りきれたし、だからこそ3点目があったのではないでしょうか。

一方、デンマークは序盤こそトマソンを使って日本ゴールを脅かしましたが、早々に日本に修正されると手が打てなくなりました。岡田監督が4-3-3と指示しているシーンが画面に映りましたが、あれはピッチ上から遠藤が「何かやりにくいので、変更していいか?」という問いに対しての応答だったそうですね。ピッチ上のベテランならではの状況判断。このチームは、ベンチやスタッフも含めて今、全体が充実しピークを迎えようとしているように思えます。

デンマークは、“舐めて”いたのではないかとも思います。日本という相手にも、そしてこのW杯という大会にも。日本に対するスカウティングがどの程度だったのかは知る由もありませんが、高地練習をしていなかったという報道をみると、そう思わざるを得ないのです。この大会には舐めていい国などどこにもいないし、大会自体を舐めてはいけない。しっかり準備して最高のコンディション(フィジカルもメンタルも)を整えたものだけが勝利をつかめる大会。それを日本は4度目の出場経験でようやく活かしているのだと思います。経験を活かすということ自体も言うは易く…なんですが。

さあ、決勝トーナメントです。予選Rのこの3試合、日本の先発は固定されていましたが、次のパラグアイ戦はどうするのでしょう。日韓W杯で決勝Tに進んだ迎えたトルコ戦。トルシェ監督は先発を大きくいじってきました。あの当時は色んな評価、批判が飛び交ったことを思い出しますが、今思えば、いじらざるを得ない“コンディション”だったのではないかとも思い直しています。

列強国たちは当然、決勝T進出を見越した時間軸で、チームコンディションの波を考えてきているでしょう。しかし、日本も傍から見れば(マスコミを通じて伝わってくる感触では)、予選3試合のコアメンバーでコンディションが落ちていそうな選手は見受けられない。また一方でファンの心理としては、中村憲剛や内田の活躍するシーンを見てみたいとも思う。中村俊輔のコンディションはどの程度まで来ているのか。

決勝Tを目前にした今、バックアップ陣も含めたチーム全体の総合的なコンディションは、ホームだった日韓大会と比べれば、今回のそれが上回っていることは明らかのように思われます。パラグアイ戦まで中4日のスケジュール。スタッフはパラグアイを必死にスカウティングしているでしょう。恐らくは不眠不休で、あらゆる情報網を駆使して。そして選手たちはコンディションをしっかり管理し、ファンは次の試合に思いをはせ、喧々諤々の予想を展開しています。

われわれの大好きなオシムは、この試合を賞賛したあとにもきっちりと苦言を呈していましたね。それは決して皮肉屋の目線ではなく、チーム戦術を乱すもの、乱すプレーに向けられているものでした。ビデオを観なおしてしっかりこの試合の分析を行っておくべきだ、とも。いつの試合だったでしょうか、わが高木監督が「勝った試合のあとは、悪いところを忘れがちになるが、しっかり修正しなければならない」という意味のことを言っていましたが、まさにあの試合後のコメントを思い出して、ニヤッとしてしまいました。

スカパーでは、解説の関塚さんの話しぶりが静かながらも的確で、ブブゼラの音に邪魔されることなく心地よく耳から入ってきました。同じS級を持っていても、方や民放で叫ぶばかりの誰かさんとは格段の差を感じてしまいます。ついでに言えば、民放はともかくNHKも含めて、今大会の実況の“質”は断然スカパーに軍配を上げたいと思います。更に、今日の熊日では「あれだけ勇気を持ってプレーすれば、日本のサッカーもW杯で通用するんだというのを見せてくれた」と言い、「目標設定も指導者として大事なことで、選手がここで安心することはないだろう」と結んでいる関塚氏。深い戦術眼だけでなく、しっかりした心理マネージャーの資質も持ち合わせているのでしょう。多くの選手から慕われている事実からもそのことが伺い知れます。

たくさんの指導者たちの解説に触れることもできるこの大会。色々な試合を観て、解説に耳を傾けるなかで、わが高木監督もまた、他でもない“スカパー”に呼ばれたひとりであります。こうやって実際に比較して聞いてみたとき、わが監督が呼ばれた訳、その意味。それは”相当に”評価された上でのことなのだと…。そんな勝手な解釈をしながら、われわれはちょっと得意な気分になったりしています。

ロアッソ(ロッソ)と同じくらい永年にわたって“中村俊輔”をウォッチングしているわれわれの一人は、この初戦の直前まで、「中村俊輔が外れるわけがない。このチームは俊輔と遠藤のチーム。岡田監督にそんなことはできない」と確信めいた発言をしていました。まあこの予想は見事に外れてしまったのですが…。

中村俊輔で思い出すのは、前回ドイツ大会でのコンディショ二ングの“歴史的な”失敗です。これは彼個人だけでなくチームとしても明らかにミスがあったことで、当時の大きな反省材料のひとつだったと記憶しています。さて今大会、事前の“練習試合”での連敗をマスコミは大きく取り上げ、岡田監督の戦術批判、進退論まで飛び出す始末。前回大会の直前の練習試合でドイツに引き分け、自分たちが“強い”のでは、と見誤った経験はどこに…と。

どこにチームとしてのピークを、あるいはコンディションの上昇カーブをもってくるのか、偶然の要素も含めて言うなら、“ピークがくるのか”。W杯という大舞台に向かうにあたって、この段階で最も重要なのは、スカウティングとこのコンディショニングではないかと。そういう意味からは、練習試合、テレビ中継される国際親善試合なので誤解しがちですが、あくまで練習試合です。サッカーは90分を通した戦いと良くいわれますが、W杯は長丁場のJ2リーグ戦とも違う。わずか中四日の予選3試合、決勝トーナメントに残れば…という、長いようで短い、短いようで長い、非常にデリケートな時間軸での戦いでもあります。もちろん、そういったピークよりかなり手前のコンディションでも勝ち点をものにできる実力、選手層を持ったチームだけが、決勝トーナメントに進み、さらに勝ち進んでいくんでしょうが…。

中村俊輔の今季開幕後のJリーグ移籍。相変わらず“ファンタジスタ”ではありましたが、そのコンディションはここ数年のパフォーマンスからは、残念ながら最悪というくらいの状態ではなかったかと。欧州での厳しい経験で“水も運ぶ”選手に生まれ変わっていたプレースタイルのその片鱗も見えず…。さて現時点ではどんな状態なのか。心配でもあり、最大の関心事でもあります。逆に言えば、上昇カーブさえ描いていれば、予選リーグのどのあたりかでピークがくれば…。それは、水準を超えた者しか通用しないゲームで、それもおそらく90分で一回巡ってくるかどうか、のチャンスをものにするという戦いのための準備。まさに四年間の集大成の一瞬なのでしょう。

そういう意味でいえば、直前のスイスキャンプでの気温に関して、チーム関係者に「思ったよりも寒い」といわしめた事実。大会の地の南アフリカの環境を想定していたのではなかったのか。そのコンディション作りに関してドイツの反省は活かされていないのか。戦術うんぬんを語るはるか以前に、そういった面に関してのわが国のサッカー・ジャーナリズムの分析の甘さには、非常に不満が残りました。

さて、そのおおかたのメディアは直前の練習試合で試された本田圭佑のワントップを予想し、岡田監督も実際そのとおりの布陣を引いてきました。そして結果的にその本田のゴールが決勝点になって、日本は日韓大会以来のW杯での勝利を手にしました。左足に持ち替えた松井からの右クロス。その瞬間、中央の大久保に何故カメルーンのDFが2人も3人も引き寄せられているのか?と思いましたが、直前に中央から消えた本田が見事な動きでファーに入り直していたからでした。
その後、もちろん追加点は狙っていたものの、最後は必死に掻き出すだけの防戦一方。この先制点死守の日本代表の戦い、虎の子の1点を守るATも含めた緊張の時間感覚に、仲間内でもネット上でも、わがホームチーム・ロアッソのこれまでの試合になぞらえる人が多くいました。翻ってこの本田起用の核心も、「そのときコンディションのいい選手を使う」という意味では、わが指揮官・高木監督の考え方と全く同じ。いや、どの監督もそうであろうし、システムに選手を合わせるのではなく、コンディションのいい選手に合わせてシステムを組むという考え方も同様だと思います。

現地で取材しているサッカージャーナリストの宇都宮徹壱氏は、そのコラムで、本田のワントップに関して「ペナルティーエリア付近で効果的な仕事をする選手ではあるが、ポストプレーが得意なわけでも、裏に抜けるスピードに長けているわけでもない。むしろこの布陣は『ゼロトップ』と見るべきであろう」と書いていますが、まるでこれはわがチームにおける藤田俊哉の使われ方とも言えます。

イビチャ・オシム氏は試合後のインタビューで、「本田の今日の役割は非常にデリケートな難しいものだった」として高い評価を与えています。「本田の位置やポジションによって、どんなボールが必要なのかをチーム全体に示した。それを堅実に実行したということだ」と加え、彼の働きを「港における水先案内人のような役割」と表現しました。

「本田が得点を挙げたから褒めているわけではない。彼がチームの中で機能したということだ。」「カメルーンは個人プレーのメンタリティーにとらわれていたと思う。個人的に良いプレーをしようと個人プレーをし、それが結果として悪い展開を繰り返すことになった。サッカーは団体競技だからコレクティブ(組織的)なプレーが必要だが、カメルーンの場合は個人だった。」「もし明日の一面がすべて本田ということになれば、日本の未来は危ない。ヒーローは1人ではなく全員だ。」

実は、12日徳島戦のエントリーの最後の部分で、われわれは全員の頑張りだと言いながらも、劇的な決勝点の興奮からか、藤田個人のプレーをそれこそ手放しの“一面トップ級で”高く評価していました。ところが一方では「徳島のタレント性溢れるサッカーを(こんな言い方があるのかどうか“名前でやった”ようなサッカー)、熊本の組織力(皆が黒子に徹したようなサッカー)が封じた」と書いてみたりと、どうもうまく表現できなかったと反省をしていたところでした。そこでこのオシムのコメントです。本田を藤田に、カメルーンを徳島あるいはエトーに置き換えてみれば…。オシムらしい選手のメンタルの基本的な部分に踏み込んだ深い分析でしたね。

さて、わが日本代表は初戦を白星で飾り、決勝トーナメント進出に大きな希望を抱かせました。あんなに前評判(主にマスコミの酷評からきていますが)の悪かった今代表チームでしたが、ようやくいつものW杯らしく日本中の注目が集まり始めた感じ。第2戦のオランダ相手にも同じ布陣でいくのか。われわれのもうひとつの興味、中村俊輔の出番は訪れるのかどうか…。今日は、本田圭佑を藤田になぞらえてみましたが、本来名古屋時代の“師弟関係”とも言える二人の間柄。もしかしたら藤田にとっては心外な例えなのかも知れません。それは、われらが藤田の持つ、比べるべくもない“経験値”。今大会でも、アルゼンチンのベロンや、ドイツのクローゼが、試合の流れを読み、チームのなかで重要でしかも決定的な仕事をすることでそれを示しています。

さて、日本代表チーム。そのこれからの試合。サッカーの神様に選ばれた、本当に幸運な者しか立つことを許されない夢幻のピッチ。重く、熱く、鳥肌の立つような濃密な時間が流れる試合。オランダ、デンマーク…。サッカージャーナリスト湯浅健二氏がしばしば使うところの表現“肉を切らせて骨を断つ戦い”。そんな時、他の誰でもない、俊輔を、稲本を必要とするときが必ず来るのではないか。そして彼らは自らが歩んできたこれまでのすべてを懸けて、われわれの“代表”としてきっとこたえてくれる。そう確信しています。

初戦後のコメント、オシム氏はこうも言っています。「舞い上がるなということ。まず、頭を冷やして冷静になれと。そして、今日の試合を振り返って分析してほしい。良い部分と同時に悪い部分もしっかりと分析して、良い部分は次の試合で繰り返せるように」。まるでいつものわれわれのリーグ戦にも通用する指摘。いえ、しごく当たり前のことを言っているのですが、やはりこの人が言葉にすると、実に素直に、染み入るように心に響いてくるから不思議です。

試合解説や関連番組での、わが高木監督や藤田選手の出演も楽しみながら。各国を代表する名プレーヤーの活躍を注視しながら、このサッカーの祭典、至福の期間を堪能していきたいと思います。

6月12日(土) 2010 J2リーグ戦 第17節
熊本 2 - 1 徳島 (13:04/水前寺/3,357人)
得点者:32' オウンゴ-ル(熊本)、48' 島田裕介(徳島)、90'+1 藤田俊哉(熊本)

前日(11日)に開幕したW杯南アフリカ大会。切り替えの早い南アフリカとメキシコの戦いを堪能したのも束の間、今日はホームチームのW杯中断前の最後の公式戦。サッカーファンにとっては至福の1ヵ月ではあるものの、逆にホームチームの勇姿はしばらく見納めになるという複雑な気持ち。何だか“観戦モード”の切り替えに戸惑うような今週末の試合日程。しかしわれわれにとっては重要な意味を持つゲーム。相手は、昨シーズンの3戦ともに全く勝てなかった、というよりほぼ完敗の印象だけが残っている徳島。今、7位、8位という直近上下に位置する同士の対戦ということもあり、身を引き締めて臨んだ戦いでした。

スタジアムグルメゾーン(屋台村ですね)では、関東サポリーダーの“ときやん”と遭遇して必勝を誓う。いつもどおり熱い男。今年はこれで何度目の帰省なのでしょうか。スタンドでは風戸さんにレプリカユニのナンバーを指差され、「○○選手のファンだったのですね」と知られてしまう。今日はピッチレポーターもお休みらしい。いつもの席に座り込み、選手入場にタオルマフラーを掲げて、さぁキックオフ。水前寺で指定席にしていたこのシートも今日でしばらくはさようならです。

梅雨入りが宣言された熊本。しかしスタジアムの空は、この試合の行方をしっかり見届けようとしているかのように、まだまだ降り出さない。けれども風は雨雲を呼んでいるかのように強く吹きぬけ、また、ピッチ上はその水分をたっぷり含んだ風で湿度がとても高そうに感じられる。この変な天気、選手たちにとっては大変なコンディションだったでしょう。

熊本の布陣。累積警告の市村の代わりに西森が入り、ボランチ吉井の相方に渡辺。さらに左サイドに平木が初先発。対する徳島は、2トップの一角に平繁がいて、右SHに柿谷、左に島田。さらにベンチには噂の津田やら、羽地、徳重、輪湖などそうそうたるメンバーが名を連ねていて、それだけでも“名前負け”しそうな…、いや身構える陣容。高木監督は戦前、徳島の攻撃の起点となる柿谷、島田、濱田を名指しで警戒していました。そして前節の反省から「戦える選手を選ぶ」とスタメンの変更を予言していました。スカウティングに定評のある美濃部監督の裏をかく必要があったし、そのためのメンバー変更という意味も多少はあったのかも知れません。

徳島 (先発フォーメーション)
19平繁 31佐藤
10島田13柿谷
8倉貫14濱田
4三田25平島
2三木20ペ・スンジン
 23日野 

試合は全体を通して言えばいわゆる“神経戦”、集中力が途切れた方が負けという展開になりました。序盤は互いに相手を探りあうような構えでしたが、熊本にはいつも以上に「先制点を取りにいく」という意志のようなものが感じられます。右サイドラインからPAの井畑にロングスロー。ペ・スンジンがクリアしたボールを松橋が躊躇なくダイレクトボレー。惜しくも枠を外れます。対して徳島は、柿谷がワンタッチでDFラインを切り裂く。佐藤のシュートは南がなんとかクリアしますが、ヒヤリとさせられました。

互いに守備のバランスを崩さない。中盤でボールを奪い合ういくらか膠着した時間帯が続きました。渡辺が右サイドにスルーパス。西森がえぐって上げたクロスはスンジンがクリア。CKを得ます。時間は32分。左CKの西森の右足から放たれたボールは大きく弧を描くとニアの密集を越え、さらにGK日野が伸ばした手もわずかに越える。ファーサイドにいた佐藤がヘッドでの処理を誤りボールはゴールに吸い込まれました。読みきれないこの日の風の影響もあったのか、幸運なオウンゴール。久しぶりに熊本が先制しました。

しかし、徳島。少しも慌てる様子はありませんでした。柿谷の右サイドでのドリブルでDFラインを下げると平繁へパス。このシュートは平繁がふかしてくれます。さらにカウンターから柿谷、濱田と繋いでPA左の平繁へ。このシュートは福王がカバーします。とにかく今日の熊本、フィニッシャーの平繁をきっちりマークして決定的な仕事はさせないようにしている。

前半のシュート数は熊本の3に対して徳島の4。しかし後半は少し一方的になってきます。徳島はこのままでも十分に行けるという判断だったのだろうと想像します。これだけやれていれば、いつか点は取れると…。柿谷が斜めに入ってくるシーンが増える。アウトでポスト役の平繁にパス。ここで福王が倒してしまいます。ゴール前中央でのFK。キッカーは左足のテクニシャン島田。狙ったゴール右角にきっちりと蹴りこむ技術。名手・南の手もわずかに及びませんでした。同点。

ここからじわりじわりと徳島がペースを掴み始めます。柿谷が相変わらずしぼって中でプレーしている。最後のところでなんとか通させない熊本の守備。西森も慣れないポジションながらしっかり守っています。

疲れの見える井畑に代えて、藤田を早めに投入。前線にタメを作って押し上げたい熊本でしたが、なかなか連携がうまくいきません。試合後、高木監督が「攻撃陣のアイデア不足」を嘆いた時間帯でした。徳島は平繁に代えて徳重。こちらもわれわれにとっては天敵のような嫌な名前。徳島のCK。真ん中を開けてしまっていてヒヤリとします。惜しかったのは70分のFK。西森のキックにPA左に入り込んだ松橋が無理な体勢ながらダイレクトボレー。ゴール右に飛んだシュートは、弾道の途中にGKのクリアの手が伸びました。

島田に代えて津田。熊本は宇留野に代えて西。互いにカードの切り合い。西がドリブルで仕掛けるが潰される。85分、柿谷から津田へのスルーパス。津田がPAで切り返すと南と1対1。絶対絶命のピンチ。われらが守護神はここを守り抜いてくれました。

今日の熊本の“スゥィッチャー”は最後に投入されたファビオでした。1ヵ月の怪我からようやく復帰。水前寺の赤いファンたち皆の脳裏には、愛媛戦で見せたあの決勝ゴールが鮮明に刻まれています。このヒーローの復帰を誰よりも待ち望んでいたかのように大きな歓声と手拍子が後押し。190センチの体躯が中盤から前線を駆け回る。長い脚を伸ばして玉際に挑む。今回の徳島のスカウティング情報にはなかったのか、慌てているのがわかる。起点が前線に移っていきます。

ファビオの代わりに退くのは当初、平木の予定でしたが、その直前に傷んでしまった渡辺との交代になりました。これは結果的に(今後のチームにとって)幸いしたのではないでしょうか。初スタメンの平木にとって90分間走り抜くことになった。試合後の監督コメントで明らかにされたように、足を攣るまで走りぬいた。「本人の殻を破るというか、彼は今まで“中心”としたプレーヤーでやっていたので、その辺で今日は中心ではなくて汗かき役になるというのができたのが、彼の成長と進歩じゃないか」(高木監督談)。

ファビオ、平木、そして左サイドからは筑城が攻撃に参加してくる。アタッキングサードを次々に脅かすことで混乱した徳島からファールを得る。右サイドから平木のキック、左からは西森。もう時間はアディショナルタイムに入ったころだったでしょうか、西森のFKのクリアを右サイドで繋いで、平木がゴール前に入れると、そのクリアがやや小さく藤田の前にこぼれる。迷うことなく左足を振りぬいた藤田。しっかりミートされたグラウンダーのシュートが、ゴール左角に突き刺さりました。

怒涛のように湧き上がる歓声。客席から立ち上がりガッツポーズ。目の前のベンチに、藤田も駆け寄る。祝福しようと“追いすがる”チームメイトを、フェイントよろしく交わしながら。満面の笑みのなかにも、(彼にとっては)当然のプレーだ、と言わんばかりの勝負師の厳しい表情を隠しながら。

守りきったAT3分間。主審の吹く長い長い笛。再び立ち上がりガッツポーズを重ね、スタジアムを回る選手達にいつもより力を込めた拍手を送っていました。スタンドの誰も彼もに、自然と笑みがこぼれる。指揮官が言うように、決して内容は褒められたものではなかったものの、W杯での一ヵ月にも及ぶ中断期に入る前、このホームチームの勝利は、何ものにも代えがたい“一か月分の喜び”をわれわれにもたらしてくれました。

徳島にとっては、(おそらく)90分間を通して負ける不安は微塵もなかったでしょう。われわれにしても、島田や柿谷が持つたびに、津田や徳重にボールが渡るたびに、肝を冷やし、思わず体を硬直させていました。まずは辛抱強く、全員が集中力を途切れさせず守り抜いたことが勝因でしょう。神城文化の森サンクスマッチ恒例の選手表彰で選ばれた福王、西森、決勝点の藤田、この3人の活躍に全く異論はありませんが、この試合に関して言えば、これは選手全員の頑張りを代表して貰ったものだと思いました。個人対組織。スカパー解説の池ノ上さんが言うように、この試合の総括、あるいはキーワードを語るとすればポイントはそこにあったでしょう。徳島のタレント性溢れるサッカーを(こんな言い方があるのかどうか“名前でやった”ようなサッカー)、熊本の組織力(皆が黒子に徹したようなサッカー)が封じたのだと。

若い駿馬たちの活躍のうえに、最後は“いぶし銀”のベテラン藤田がきっちりとフィニッシュ役を果たし勝ち点3を奪いとってくれました。あの時間帯であそこにいて、そして何も迷うことなく振りぬく判断、それが狭いコースを縫うようにゴールマウスを捉える技術。そこまでの全員の頑張りに魂を込め、勝利へ導く決勝点という価値ある“仕事”。ゲームの帳尻を締める役割。それはまるでわがチームにおける、W杯日本代表第3キーパー川口のような存在感か。いやいや、それどころか藤田こそが、今の日本代表のあの川口の役割を実際に努めてもよかったのかも知れない。それもチームの“まとめ役”にとどまらず、ピッチを駆けめぐるプレーヤーとしても…。なんて言っていると、熊本ファンの身びいきと笑われてしまうかもしれません。しかし、そんな妄想さえも描きたくなるような心躍る結末。これで一気にW杯“本格”モードに突入できそうですね。