8月28日(土) 2010 J2リーグ戦 第24節
栃木 1 - 2 熊本 (18:03/栃木グ/3,504人)
得点者:32' リカルドロボ(栃木)、48' ファビオ(熊本)、63' 宇留野純(熊本)

戦前の敵将・松田監督の熊本に関するスカウティング。「守備的な感じがする。6‐2‐2に見える」という言葉、これまでの対戦相手からも似たような表現をされてきました。が、そのニュアンスにわれわれは少々違和感がありました。前節のエントリーで書いたように、あくまで熊本のサッカーは「走る。守る。作る。撃つ」という“順序”の問題なのだと。それが原点なのだと。今日の試合は、それをはっきりと確信させてくれるものでした。

気温は30度を下回った夕方からの試合とはいえ、とても湿度が高そうな栃木グリーンスタジアム。順位を争う5位、6位の戦いは、今節の注目カードと言われ、栃木側にも高いモチベーションがあったでしょうが、前回対戦でいいところなく零封で敗れている熊本側こそ「絶対に負けない」という気持ちが選手にもわれわれファンにも強くありました。

栃木 (先発フォーメーション)
14林 9リカルド・ロボ
19高木16杉本
13本橋11パウリーニョ
6入江19赤井
3大久保5落合
 21武田 

開始早々、栃木の林がバイタルエリアでシュート。枠は外れますがヒヤリとさせられます。続いてもCKから林のヘッドがゴールに突き刺さりますが、これは密集のなかでのファールが認められノーゴール。胸をなでおろしました。しかし熊本も、お返しとばかりにFKやCKからこぼれ球を拾って波状攻撃。序盤から見ごたえのある勝負になりました。

左サイドへのボールに追いついた栃木・入江が粘って折り返すと、中央のロボがトラップ一発、バイシクルシュート。これも枠外。大きな身体に似つかわずアクロバティック。32分の栃木のCK。マークに付いていた吉井を剥がすような動きでフリーになったロボのヘディングシュート。今度は間違いなく先制点となりました。再三、CKからゴール前のマークが甘く、フリーにさせ続けたツケが出てしまいました。

スカパー!解説の田中氏が「カギだ」と言っていた両チームともに欲しかった「先制点」は、栃木側に。しかし、GK南が試合後の自身のブログで書いているように、1点を追う熊本は、それほど慌てない。「全く負ける気がしなかった」「なんか点がはいるような気がして…」という彼らなりの確信がありました。

おそらく敵将・松田監督は、追いかける熊本は前掛かりになるに違いないと思っていたでしょう。そうすればますます、チャンスが増えるとも…。しかし、熊本はまったく“体勢”を崩さない。しっかりとしたブロックを形成すると、相変わらず奪ってからの切り替えが早い。右サイドから吉井がアーリー気味にクロスを上げるとファーのカレンはドフリー。絶好の同点チャンスでしたが、これはGK武田がファインセーブ。今度は左サイドからのクロス。下がりながらの難しい体勢、体幹の強さを活かしたカレンのヘッドは枠をとらえゴール左を襲いましたが、ポストに嫌われます。しかし解説者もこのとき指摘していたように、徐々に徐々に、熊本の切り替えの早さに栃木DFが後手に回り始めていたのは確かでした。

そんな前半を松田監督は「3点ぐらい取りたかった」(熊日)と、好機を活かせなかった側面だけを悔やんでいました。しかし「ポゼッションする時間が多くなるのが、きちっと技術がないと回せるか、引っかけられてカウンターを受けるか」(J‘sゴール)とも言っているように、捕らえどころのはっきりしている熊本に奪われると、ピンチを招く展開に陥り始めます。前節の東京Vからも言われた、「(熊本の)罠にはまった」ような感じだったのではないでしょうか。

前半の流れを肯定的に評価した高木監督。その熊本。まずは後半3分。右サイド奥で得たFKを片山が左足で上げると、ファーに飛び込んだファビオが高い打点からヘッドで押し込み同点に。これで栃木は一気に浮き足立ってしまったように見えました。「後ろで繋ぐ時間が短かった。ゆっくりとした時間が時には欲しかった」(J‘sゴール)と林が試合後に言うように、高さのある林とロボは、確かにこの日わかりやすい前線のターゲットでしたが、逆にそのためロングボール頼みの展開一辺倒になる栃木。熊本は最終ラインで跳ね返すと、中盤がしつこく拾って作りなおす。渡辺に代わって入った原田がブレ球のFKで直接ゴールを脅かし、更に守備の動揺を誘うと、後半18分、直前の交代でまだ試合に入り切れていなかった栃木DF宮本が、出しどころに困り、GKにバックパスしようかと、一瞬躊躇するところを宇留野が奪ってGKと1対1。この日当たっていたGK武田を絶妙のフェイントで寝転ばせると、逆転のゴールを決めました。

前節2アシスト、今日は逆転弾。キレキレの宇留野を下げてまでも同ポジションに松橋を入れたのは、これで間違いなく前掛かりになってくるであろう栃木の体勢変化を見越してのことでしょう。薄く高くなってくる栃木の最終ラインに対して、ファビオとカレンでかき乱し、松橋に裏を突かせる。3トップの意識で当然、熊本は追加点を狙っていました。最後のカードは攻守に渡って走り回った片山を休ませるように、さらに攻撃的な西に交代。

栃木は水沼を入れて反撃を企てる。最後は大久保を上げてパワープレー。南が遅延行為のイエローカードと引き換えに、それでもなかなかプレースキックを蹴らない。ここまでこの男に時間を使わせたのは、この試合の意味、勝利の価値を一番よく知っていたからに違いありません。

ロボから赤井のクロスは南がセーブ。そしてアディショナルタイムも最後の最後、もう何度も泣いたロングスローという展開。こぼれ球を大久保に繋がれると走りこんできた水沼が強烈シュート。またか、万事休したか。と思われましたが、ボールはポストの右に反れ、ほどなく終了のホイッスルが吹かれました。

前節の東京V、今節は栃木と、負ければ順位が入れ替わる、いや10位内すら危うくなってしまう戦いに、きっちりと2連勝をあげられたことはとてつもなく大きな成果でした。1点差を追いすがる両方の戦いを凌ぎきるように制し、勝ち点3ずつ積み重ねた結果、同じ5位とはいえども少しだけ勝ち点差を広げることに成功し、昇格圏内3位の千葉との差もなんとか離されずに付いていっています。5位、6位の直接対決という位置づけで、スカパー解説も例によって“昇格”を連発していました。栃木と熊本の対戦でJ1昇格が話題になるということ自体に、正直なところリアリティが持てないわれわれがいます。しかし、いつか訪れるであろう絶対に“負けられない戦い”に向けて、この2試合の戦いぶりは大きな経験値になったことは間違いないでしょう。

試合が終わって、選手のメンタル面の成長を高く評価するコメントを残した高木監督。それは、1点のビハインドに焦らず、自分たちを信じて、いわば淡々ともいえるほど自分たちのサッカーをやり通した面々への賞賛だと思うのです。もはやセットプレーの1失点は完全に織り込み済みとでもいうようなメンタリティー。きっちりとした守りから走り勝って、一転奪ってからは敵陣に入っての早い展開力。それを単に「守備的でカウンター主体」と表現するのは、どうも違うのではないかと。それは昨年、水戸の木山監督が「もはやカウンターサッカーなどない」とも言い切ったように…。

同じく強力な守備力からチームを構築することで定評のあった松田監督、そしてその鋭い速攻が売り物だった栃木が、ポゼッションを“持たされた”。あるいはあえて持とうとしなかった熊本。そのとき、数々のチャンスを作りつつも追加点を奪えない展開を、松田氏は「決定力がなかった」と結論づけました。確かに熊本にはJ2では出色の守護神・南という存在があるにしても、これが前回対戦を糧にした高木監督の敷いた罠だとしたら、相当の策士なのではないか。結果論なのかも知れませんが、そう思うと恐ろしいくらいです。

そういえば、われわれもエントリーのなかで、最近、「決定力がない」などという言葉を使わなくなっていることに気がつきました。確かに熊本もカレンが外し、松橋も外し…。熊本こそあと3点ぐらい入っていてもとも思えます。しかし、それを決定力不足と済ませてしまう気持ちにはなれません。“決定”しなかったのは、そのタイミングで、そのポジションにいて、枠内にシュートを打てたから“惜しい”わけで…。そこに至るまでの“技術”には全く目も向けず、結果だけを問うても意味がない。
ちょうど、スカパーのカメラが前半終了で引き上げていくカレンの表情をとらえていました。これ以上ないくらい、悔しさに顔を歪めて。われわれの単純なタラ・レバを言うのは憚られる世界を見たような気がしました。

終了のホイッスルの後、倒れるようにピッチに寝転び天を仰いだファビオ。2試合連続のヒーローは、この試合では初めて90分間走り抜くことができることを証明してくれました。一日遅れで彼のための「ハッピーバースディ」を歌うゴール裏の赤いサポーター達。みんな一人残らずいい笑顔に満ち溢れていました。

8月22日(日) 2010 J2リーグ戦 第23節
熊本 3 - 2 東京V (19:05/熊本/7,574人)
得点者:6' 松橋章太(熊本)、75' ファビオ(熊本)、80' 矢野大輔(熊本)、81' 南秀仁(東京V)、86' 高橋祥平(東京V)

終盤は、正直なところ肝を冷やしましたが、なんとか逃げ切っての勝利。この試合で2アシストの宇留野が試合後、「上に行くか下にいくかの分岐点の試合だった」と振り返る試合。7500人のファンが久々のホーム勝利の歓喜に酔いしれた試合でした。

千葉戦敗戦のショックのなか、迂闊にも東京ヴェルディに追い抜かれていたとは気づいていませんでした。東京Vは経営体制が入れ替わって以降、プラスの効果があったのか直近の3連勝を含めて8試合負け無し。そのなかでも後半戦に入って甲府、柏に土をつけるなど、今最も勢いのあるチーム。一方、熊本は後半に入っていまだに勝利なし。前節千葉戦の内容もあって、ファンの気持ちのなかには不安の方が大きかったことは否めないでしょう。

今シーズン2度目の古巣との対戦となる高木監督は、この一週間は、相当に苦慮していたのではないでしょうか。それはもちろん、よく知るヴェルディのチーム力とその勢いを更にスカウティングしたうえで、今のわがチーム状況のなかで、どう戦うべきなのかと。直前の練習で試した色々なコンビネーションから、この日先発に選んだのはカレンと松橋の2トップ。そして左SH・片山でした。さらに週中日でのオフ。遂に練習場が見つからなかったのか、とまでファンに心配させましたが、これはどうもこの猛暑のなかでのコンディションを考慮しての初めての試みだったようで…。こんなところにも、“何かを変えたい”という監督の意図が読み取れました。

東京V (先発フォーメーション)
 25平本 
 33高木 
10飯尾10菊岡
5佐伯8柴崎
3吉田2福田
14富澤17土屋
 1土肥 

やはり好調の東京V。試合開始から果敢に攻め込んできました。開幕のころは左SBで試されたりもした平本が、今は堂々のワントップ。そのサイドに若手の高木。このチームで要注意なのは、テクニックのある菊岡と柴崎か。しかし先制は熊本。中盤で受けた宇留野が右サイドを一人ドリブルで突破。DFをかわすと更にサイドをえぐってクロスを上げる。中央の松橋が、一度DFの視野から消えて遠ざかる。ボールはDFの頭を越えて松橋は完全なフリー。しっかり捕らえたヘディングはGK土肥の手をかすめるとゴール右に突き刺さりました。早々にして先制。開始からわずか6分でした。

その後の熊本は“深追いはしない”という戦い。しっかりブロックを形成すると、中へのくさびのパスを確実にチェック。左サイドでは、ようやく福王と堤のコンビネーションが合ってきた。中盤では確かにまだミスがあって潰されるものの、千葉戦の反省からかダイレクトプレーが多用されている。東京Vは、平本から中央に走る高木へ。通ればビッグチャンスと思われたがCBが潰す。中へ中へと通そうとするヴェルディのパスをしっかりブロックして守りきった、そんな前半でした。

後半の入り方がいつもながら気になる熊本でしたが、それ以上に、高木監督がハーフタイムに発した「後半はメンタル勝負になる」という発言。まさしくその言葉どおりの展開になりました。

まずは熊本。1点先取の強みを活かし、慌てず、じっくり“作る”ことに専念したボール回し。じらされた東京Vは、故障もあったのか曲者・菊岡を阿部にスウィッチ。熊本は先制点の松橋が傷んだところでファビオ。疲れた片山に代えて西を投入してかき回す。その西が入った直後。FKからのこぼれ球を宇留野が拾うと、左足で上げる。中央のファビオがそれをしっかり頭でミートしてゴールネットを揺さぶります。反撃に来るヴェルディの攻勢を凌ぎ、じらしにじらした熊本の後半最初のシュート。それが追加点になりました。

続いてもFKから。堤のキックがゴール左に流れると、福王が拾ってグランダーで入れる。中央に残っていた矢野がDFより一瞬早く足を出す。これが決まって3点目。勝利を確信した瞬間でした。

ところがヴェルディの反撃は、そのゴールの場内アナウンスをDJコバが得意の絶叫で報じている瞬間でした。熊本の左サイドから入ったボール。中央でオーバーヘッド気味にパスされると、迷わず走り込んだのは東京V・南。思い切りよく豪快にゴールに突き刺します。続いてもFKから、柴崎のボールが熊本のゴール前の壁を越えると、飛び込んだのは高橋。ヘッドで決めて1点差に詰め寄りました。いずれも熊本の3点目の直前に2枚代えで投入された新進気鋭の選手。してやられました。

2種登録の南は、この試合直前に登録されたばかりだとか。高橋にしても18歳。東京Vの伏兵は、意外なことに新顔のルーキーたち。それもユースあがり。苦境に立たされている名門クラブを支えているのは、他でもないこの伝統ある下部組織の力なのではないのでしょうか。平本しかり。飯尾にしても、富所、高木にしても。もう、以前のように有力な外国人プレーヤーに頼るすべもないところで、チームの力を支えているのは、下部組織から次々に輩出されるタレントたち。その底力、その歴史は恐るべしです。

KKウィングに駆けつけた、わずか数十人の緑色のサポーターが叩く太鼓の音量が増し、その勢いにこれほど“恐ろしい”と思ったことはありませんでした。試合時間は、残り5分しか残されていませんでしたが、前夜甲府が、首位柏に演じた大同点劇も頭をよぎり、東京Vの凄みを感じさせました。

さて1点差に詰め寄られて、改めて若き熊本のイレブンの“終息力”が試されます。奇しくも高木監督が言ったとおり「メンタル勝負」の状況になりました。最後に予定されていた攻撃的カード西森は、急遽ソンジンに変更され、ソンジンは筑城に代えて右SBに入ります。足が攣りそうになる最後の最後の時間帯、自然と落ちていくのは高さへの競い合い。堤、福王、矢野、ソンジンと並べた4枚のDFは、ロスタイム4分の最後まで“あがく”ヴェルディの攻撃を、なんとかうまく跳ね返しました。

終わってみれば熊本はシュート数5のなかで3得点。まさに要所で確実に点を取ったゲーム運びは、数字だけみれば“省エネ”と言われそうですが、その根底には、相手よりも球際に早く詰める、相手よりも走りに勝る。まさしく走って、守り抜いて、作って、撃ったというサッカーの“原点”に立ち戻った、ともいえる姿でした。

いや、形や内容はもはやどうでもよく、この試合で欲しかったのはホームでの勝利でした。長らく続くホームでの勝利なしという状況と、後半戦の苦境に対して、高木監督は「ホームで勝たないと、次のステップには行けないんだ」と言って、この試合に臨む選手を鼓舞していました。勢いのある東京Vを迎え「3点が安全圏とは言えなかった」と率直な心境を述べ、しかし「手ごたえのある試合だった」と言わしめたのは、監督自身苦悩したこの一週間のスカウティングが結果を出したことへの安堵感があったのではないでしょうか。

「次のステップ」。その言葉の意味は、冒頭の宇留野の言葉を借りるまでもなく、この一戦で再び5位に浮上し、3位までとの勝ち点差を5とした結果を意味するのだと。昇格へのチャレンジャーとしてのポジションを、まだ保持している。そのことを。

“連敗しない”熊本の神話は続く。「J1。目指しちゃいましょう!」。今日の熊本のヒーロー、日ごろシャイな宇留野が、試合後のゴール裏で発したマイクパフォーマンス。こんな言葉を臆せず口に出していくことも、夢をつかむための大事なことなんだと、われわれも思い始めています。厳しい道程だとは思いながらも、ともに戦う。もちろん、次の栃木戦もとても重要な試合になってきましたね。

8月14日(土) 2010 J2リーグ戦 第22節
千葉 2 - 0 熊本 (19:03/フクアリ/10,435人)
得点者:52' ネット(千葉)、88' オウンゴ-ル(千葉)


「サッカーに事故的な失点はつきもの」というのは、これまで何度も引用してきた高木監督のゲームに向かう基本的姿勢。しかし…、またしてもというのか、こう“事故”が続いてしまうと…。そもそも千葉との“力”の差は、織り込み済みだっただけに、なんともやるせなさが残る結果となりました。

劇的なロスタイム同点弾で引き分けに持ち込み、今シーズンの序盤戦の流れを方向付けたともいえる開幕戦の相手・千葉。まだ昨日のようにも思えれば、遠い昔のようでもある不思議な感覚。そして二度目の戦い、熊本が初めて乗り込んだ敵地・フクダ電子アリーナは、テレビ画面で見る限りびっしりと黄色いファンやサポーターで埋め尽くされ、聴こえてくるチャントも地響きのようで、さすがにJ1時代の数々の試合を思い起こさせる。そこには必ず巻の勇姿があったものでしたが、彼は・・・遠いロシアの地に旅立ったばかりでした。

去年までのわれわれなら、もうこの雰囲気、このスタジアムでこの相手と戦えることだけで満足してしまっていましたが、今は違う。この試合は、昇格圏内3位の千葉にわずか勝ち点差5で追いかける6位のわがチームの、ヤマ場ともいえる大事な試合でした。

千葉 (先発フォーメーション)
 20ネット 
9深井10工藤
 16矢澤 
7佐藤6山口
3アレックス31青木
33茶野15福元
 17櫛野 

「個の力では千葉の方が勝る。われわれは組織で粘り強く戦いたい。」戦前、高木監督はそう言っていたそうです。その“粘り強く”という戦術どおりの前半でしたね。ポゼッションは完全に千葉。山口と佐藤という両巧者のダブルボランチは、球際の寄せも早く、そこに深井、工藤、矢澤、ネットというタレントが、入り乱れるように走り回る。熊本は渡辺、吉井だけでなく、両SBの筑城、西森が守備に忙殺され、自陣に釘付けにされてしまいます。前線のカレンや松橋との距離は遠く、収まらず、くさびのパスは佐藤やDF陣が狙っている。しかし、前半11本のシュートを放たれたものの、千葉のフィニッシュはどこかしら“怖さ”を感じさせない。別に飛ぶこともなく、枠に来たボールだけを、淡々と南がパンチングではねかえしている。さすがに28分のネットが壁になってアレックス、最後は矢澤のシュートは危ない場面でしたが、ゴールラインで福王が身体を張りました。

熊本は30分過ぎ、初めてバイタルエリアで作る。2列目、3列目も攻撃参加。短くボールを回すと、最後は左サイドからの高いセンタリングに右から筑城が飛び込みますが、クリアされます。凌ぎながらも、この一瞬と決めたところではズバッと前に行く。この日の戦術がはっきりと見えた瞬間でした。そのまま凌ぎつづけて前半スコアレスで折り返す。ゲームプラン通りでした。

後半、千葉はちょっとミスが多かった深井に代えて倉田を入れてきます。熊本は慎重に入って、しばらくはまだ相手にペースを持たせて。7分、さぁ、攻撃的カードの西を投入してスウィッチを入れようかと準備していた頃でした。くさびに入ったボールに福王がチェックに入ってDFの人数が足りないところに矢澤が入ってくると裏にパス。ネットの猛烈な突破。そこに南が飛び出して。もんどりうつネット…。何度スローを観てもボールに先に触っているのは南の方でした。しかし、主審が示したイエローカードの先は南。スカパー解説の田中氏も、さすがにこの判定にははっきりと疑問を呈しました。また、珍しく高木監督も試合後のコメントで言及していました。唯一、ピッチ上の南も福王も、そして他の選手も、どのチームでもPK判定時に見せるような激しく執拗な異議や食い下がり方を示しません。“判定は覆らない”。それよりもその後の異議で、不要なカードを貰ったり、主審の心証を悪くしてはいけない。選手としてなすべきは次のプレーに集中することだけ。そんな指導が徹底されているのかも知れません。潔ささえ感じる振る舞いでした。

それにしても、さあ、これからというときの“事故”でしたが、この1点のビハインドが重く重くのしかかりました。西が入ったものの、全体が押しあがりません。マイボールに動き出す選手がいない。サイドが上がれない。上がったときは使われない。パスミス。悪循環。この日、何回か攻撃の起点を自分で潰してしまっていた松橋を下げ、藤田を投入してからは、さすがにチャンスが増える。右サイド筑城からのクロスをカレンが落として、西がダイレクト。惜しくもDFに当たります。しかし、今度はカウンターに戦法を変えた千葉の反転力に、自陣の戻るのもやっとの熊本。試合から遠ざかっていたからか、渡辺の反応、判断が遅く、何度も奪われる。遂には足を痙攣させて片山と交代。やむなく藤田をボランチに下げる。残り10分。最後のカード。それは、せっかくの藤田を敵ゴールから遠ざけてしまう結果になりました。

そして、最後の最後に、さらにオウンゴールという事故が熊本を襲いました。アレックスのFKをゴール前で競り勝った福王のクリアが、なんと直前にいたカレンの頭に当たり、自陣にゴールインしてしまい2点差に。あとはしっかりと千葉に時間を使われて万事休しました。

今日のゲームプラン。事故によって大きく修正を余儀なくされましたが、同点にできる時間は十分にあったし、同点を狙っていました。しかし、誤魔化しようのない個の力の差が、時間とともに熊本から組織力までも奪っていった感じがします。「控えの選手層が厚く、個性的で充実してきた」と前節のエントリーで書いたものの、まだまだビッククラブ千葉との差は歴然としていました。活躍しては何がしかのアクシデントで次の試合を棒に振ってしまうファビオの不運。そのために熊本はまた試合の流れを変えられる藤田という支柱を、ベンチスタートさせざるを得ませんでした。最後に足をつった渡辺もしかり。コンディション面も含めた“層”の厚さの問題。「やはり誤魔化しは効かない。」昇格戦線に生き残るか否かの戦いのなかで、そんな言葉が脳裏をよぎりました。

その思いにはもうひとつの意味があります。問題になっている練習場確保の件。先々週でしたか、やっと見つけた県北の練習場では、予定されていた二部練習の午後の部が急遽中止されました。それは天候のせいではなく、あまりにピッチ状態が悪かったためと聞きます。選手に怪我をさせるより、休ませたほうが無難。そこまでチームは追い詰められているのだと思います。

チームは7月に新戦力を迎えました。これまでリーグ中盤で他のチームが次々と補強を行うのを傍目に見るだけだった熊本にとっては初めての経験。クラブの本気度が伝わるし、だから第3者からも“本気”だと噂される。しかし、その新戦力がなかなかフィットしてこないのも事実ではないでしょうか。もちろんシーズン前のように、しっかり連携を図りチーム作りをする時間がないことはわかっています。しかし、今のような練習場ジプシーの状態では、それはさらに厳しいことだろうし、もはやフィジカルだけでなく選手のメンタル面への影響も心配される状況ではないかと思うのです。

これはもう、希望的な観測をこねくり回している場合ではない。看過できない深刻な問題ではないでしょうか。まずわれわれのチームの最優先の課題は、専用(あるいは優先的に使用できる)練習場の確保に集約されたと言っていいでしょう。それも中長期的な目標ではなく、喫緊の課題として…。それは行政を動かすのか、民間の篤志家を口説くのか。そのとき芝の種を持って集まる人たちはいるのか。ローラーを曳いて汗をかく覚悟はあるのか。水を撒き、芝を刈る者は集まれ。知恵を持っている人は知恵を。人を知っている人は人を。汗をかいていい人は汗を。みんなが何かを出し合い、何かを始めないと…。この課題の“重さ”はそこまで来ていると思います。

8月8日(日) 2010 J2リーグ戦 第21節
岐阜 1 - 1 熊本 (18:04/長良川球/2,506人)
得点者:59' 嶋田正吾(岐阜)、60' 藤田俊哉(熊本)


前半と後半ではまるで別のチームになったような変貌ぶり。逆転はならなかったものの、相対的なチーム力の向上を感じ取れた試合ではなかったでしょうか。

8度目となったJ昇格同期対決は、長良川球技場メドウという場所。これまでホームとなっていた同競技場が改修工事中のための応急措置とはいえ、テレビ画面に飛び込んできたのは、大津球技場とも較べるべくもないとてもこぢんまりとしたスタジアム。住宅地のなかにあるらしく、鳴り物を禁止されたサポーターの声は、まるでJFLや地域リーグ時代を彷彿とさせます。われわれにとってもまだ埋めきれないでいるKKウィングという前節の大きな器からは、随分とギャップがありました。それにしてもスタンドが近い。試合中の画像の背景に同じぐらいの大きさで観客が映り込んで、なかなかゲームに集中できない。芝の緑は濃いものの、土台となるグラウンドはかなりデコボコしているようで、熊本の選手たちの動きからもボールコントロールに難儀しているのが伝わって来ました。

前節の“完敗”から、どう修正してきたのか。注目はその一点にありました。しかし、前半だけを見れば、まだ前節をそのまま引きずっている感じでしたね。熊本はリーグ戦再開後一貫して敷いていた4-4-2というシステムから、今節は4-2-3-1に変えてきました。カレンのワントップに、藤田のトップ下。「ちょっと雰囲気を変えたい面もあった」と高木監督は言っているそうですが、そういえばいつものアウェーでのカチッとしたスーツ姿ではなく、今日はプーマのチーム公式ポロシャツ一枚。そういったところにも、ちょっとした変化を求めていたのかも知れませんね。

岐阜 (先発フォーメーション)
14嶋田 16西川
15永芳27押谷
23橋本29池上
24村上33新井
6秋田3吉本
 1野田 

藤田の起用は岐阜の要注意人物・橋本への“牽制”もあったようですが、いかんせんもうひとりのキーマン・嶋田を自由にさせすぎました。押谷のスルーパスに嶋田が南と1対1になるも南の好セーブで防ぐ。熊本は、岐阜のチェックの罠にまんまとはまったようで、なかなかボールを前に運べない。グラウンドコンディションによるものなのか、サイドチェンジのパスもミスが目立つ。PA前から永芳がふわりとパスを出すと、ファーに飛び込んでいたのは長身の西川。この至近距離からのヘッドも、なんとか南が防いでくれる。全くいいところなく前半終了。押し込まれているというより、ウチ、どうかしたんじゃないか…、というような展開。「このままだとまずいな」という感じがヒシヒシとしました。

後半に入っても熊本のピンチが続きました。押谷との1対1の場面。西川のエリア内での強烈シュート。本当にこの日、守護神・南が何点防いだことでしょう。しかし59分、中盤で奪った岐阜は、右サイドを嶋田に駆け上がらせる。福王を交わすと、わずかに開いたシュートコースに迷わず一蹴。ポストに当たったもののゴールに吸い込まれてしまいました。佐川急便時代から何度も見たような気がする「嶋田の角度」でした。

ところが岐阜の喜びも束の間。熊本も次のリスタートから左サイド深くにカレンが走り込み、納めたボールを迷わずスペースに返す。そこにスピードに乗った藤田が走り込んでシュート。一瞬で同点にしてしまいます。戦前「藤田のアシストからカレンの得点」というシーンを想像していたのに、いい意味で裏切られる。磐田じこみの“無言の”連係を垣間見せました。ここから一気に攻守が逆転。熊本が息を吹き返します。後半から、堤に代わって入っていた左SBの西が、得意のドリブルでアクセントを付ける。藤田に代わって入ったファビオは、入っていきなり宇留野からもらってシュート。岐阜のDF陣を脅かす。ファールからの早いリスタートでリズムを作っていく。縦にパスが通り、縦に次々と人が絡み、入り込む。CKからファビオが高い打点でヘッドするも右に反れる。平木の枠を捉えた無回転ミドルシュートはGKがなんとかクリア。この勢いに対して岐阜はとにかくなんとか跳ね返し、やっと凌いでいるといった状態。ファビオのパス&ゴーの動きに混乱している。それはまるで、チェスの盤面上を縦横無尽に行き来する馬の形のナイトの駒のように見えて…。西が突っかける。平木がさばく。カレンが流れてためを作る。これはこのまま追加点が取れる。時間の問題。必ず逆転できる。久しぶりにそんな匂いがプンプンしていたのですが…。

昔よく見ていたJ1の試合。90分間のなかで時間帯によって主導権は行ったり来たり。繰り出した交代カードが奏功しての大逆転劇、といったドラマをよく見た覚えがあります。そんな試合を彷彿とさせる。切るカード、切るカードで、これほどまでに流れを変え、勢いづいた熊本を見たことがあったでしょうか。昨シーズンのエントリーで、「まるでギアをシフトダウンするように」と例えた選手交代とは雲泥の差でした。それほど控えの選手層が厚く、個性的で充実してきた証なのでしょう。今シーズン当初からの選手起用の根底には、そんな「試合の流れを変えられる選手」は“藤田だけ”ということがあったと思います。だからあえてベンチに温存していた。今、試合の流れを変えるカードが複数枚ある。だから藤田のスタメンが実現した。そんな後付けのような推測までしてしまいます。

ただ、しかしこの試合、圧倒的な勢いはあったけれど逆転はなりませんでした。それもまた今の熊本の実力なんだということでしょう。なんとか勝ち点1を分け合って、順位はかろうじて6位のまま。次節、3位千葉への挑戦権はまだ失っていない。そんな変な理由付けをして次の試合へのモチベーションをつないでいるわれわれです。

今日のスカパーの解説も「熊本にとって、J1昇格を考えると、絶対に勝利が欲しい試合」といったことを何度か口にしていましたね。第三者から見れば特に、そう言わしめるようなものがあるのでしょう。今日の前半にしても、“よく研究されている”感じがしています。少しづつですが、これまでと微妙にリーグ内でのバランスが変わってきている。自分達が意図していないうちに、「一泡吹かせてあげよう」という対象になっているような。相当スカウティングされているような…。高木監督も、それは感じているのでしょう。だから裏をかくようなことも意図して、色々なことを試しているのではないでしょうか。
われわれは、まだまだJ1の扉のその“隙間”から覗き見している、そんな意識であることには変わりありません。昨年の水戸が感じたように、一昨年の鳥栖がそうだったように、本気で開けようとして、それでも簡単には開かないJ1への扉。われわれファンも心して、まず、扉に手をかけ、力を込めて挑んでみること。その扉の重さを本当に実感するのはそれからなのでしょう。

8月1日(日) 2010 J2リーグ戦 第20節
熊本 0 - 1 草津 (19:03/熊本/8,887人)
得点者:50' 後藤涼(草津)


草津 (先発フォーメーション)
 8ラフィーニャ 
 10後藤 
14熊林9高田
6櫻田30松下
7佐田4田中
18御厨13有薗
 21常澤 

長い中断期が開けて、待ちに待ったホームゲーム。そして舞台は久々のKKウィング。ところが最初に断っておかなければならないのですが、前エントリーであれだけ煽っておいて、われわれ自身は仕事やらなにやらで、スタジアムならずスカパー!観戦(しかも録画)となってしまいました。臨場感もへったくれもないレポートですので、短めにまとめます。

がっぷり四つの序盤から20分を過ぎたころに徐々にポゼッションを奪っていくのは、ここ最近の熊本の見慣れた展開でした。ただそれまでは高いラインを敷いていた草津が、しっかりと自陣で守備隊形を整えて、ここはひとつ守りに徹したという感じ。松橋から西に。西が縦に勝負。シュートを放つも枠の上。カレンは強引にミドルレンジからシュート。キーパーの手中に収まります。とにかく草津は、この夜の湿度のようにべっとりとまつわりつくようなディフェンスで前半を守り切りました。

前半、ミスも見受けられた草津でしたが、後半は見違えるように修正してきましたね。一方、何度も言われていることですが、熊本の入り方は悪かった。50分、中盤で奪われるとすばやく右に展開。高田が右サイド奥まで走り込むと絶妙のクロス。ゴール前に走り込んだラフィーニャに福王、ソンジンが釣られると、ファーに位置していたのは後藤。確かにフリーではあったものの、アクロバティックなジャンピングボレーシュートにはさすがの南も反応できませんでした。あれだけのシュートを打たれてはどうしようもありません。フリーにしてしまったことが悔やまれます。

その後も熊本は防戦一方。宇留野、藤田、ファビオと次々に繰り出したカードも草津の攻勢を止めきれない。この中断期に「球際の厳しさ」を再確認したという草津は、持ち前の激しいプレスで熊本の攻撃を遮断すると、攻めに転じるや全体が押し上げ、二の矢、三の矢とばかりに攻撃参加してくる。熊本の守備の受け渡しがうまくいかないのか、最終ラインはラインとして機能せず、ズタズタに寸断されていたように見えました。

カードを使い果たした熊本は、ソンジンを上げてパワープレーを挑みますが、ダニエルを投入して守りきることに転じた草津のゴールを最後までこじ開けることができませんでした。

確かにサッカーは相手のあるスポーツ。前節、あれほどまで試合をうまくマネジメントできた熊本が、この試合では全くと言っていいほどいいところなく敗れました。しかし、そこは草津に褒めるべきところが多かったのではと思います。ひとつわれわれが思うのは、ひょっとしたら“スカウティングの失敗”ではないだろうかと。見るからに運動量も向こうの方がまさっていましたが、それにしてもポシショニング、スペースの使われ方、全てにおいて後手、後手に回っていた。出場停止のラフィーニャが戻ってくることはわかっていたし、おおかたの布陣は予想されたはずですが、どうも何か決められた“約束事”が食い違ったような慌て方に見えて…。「今日のゲームに関しては僕自身のいろんなミスがあったなと感じて反省しています。」という高木監督の試合後のコメントには、そんな部分も含まれているような気がして。熊本はよく研究されていた、それも同時に感じたことでした。

あと、カレン加入後2試合目。前節もそうでしたがまだ連携がおぼつかない部分、互いの特徴を活かしきれていない部分が目に付きましたね。前半だったでしょうか、一本、原田からのパスでカレンが一気にDFの裏を取る場面がありました。こんな「あうん」のような連携がこれからもっと増えてくれると信じています。ただ一方で、前線のカレンを“意識”するあまり、自分で撃てるところをカレンに預ける、あるいはカレンに“集める”傾向が出てきていないかと。まだ、たった二試合なのに考えすぎかも知れませんが、ちょっとその気配を感じたシーンもありました。

それにしても草津のコンディションは良かった。運動量自体の差も歴然としたものがありましたね。富山戦への出発日の早朝練習といい、その後の日々の練習もまともな練習場でできていないのではないかと思われるわがチーム。そんなことも頭をよぎり、どうにかならないものか、という想いがまた募ってきました。

この試合の前後では、GKの稲田が電撃的に柏に移籍。向こうのお家事情もあったのでしょうが、今節早速ベンチ入りしました。南が移籍してきて出場機会を奪われた稲田。その南が座っていたベンチに今度は稲田が座るのもなんだか運命のいたずらのような感じです。また、横浜FCからは片山が完全移籍。今季、前回対戦時に途中出場のファーストタッチで絶妙のアーリークロスを供給し、得点をアシストした姿は目に焼き付いています。それでなくても昨年もこの男には何度もサイドを破られた印象が。昨日の友は今日の敵?昨日の敵が今日の友?即戦力として期待大といったところでしょう。

さて、敗戦のあとはいつものお約束どおり、引きずらずに「さぁ、つぎ! つぎ!」。次節の岐阜もあまり相性のいいとはいえない相手。もちろん油断は大敵。なんとしても連敗だけは避けたい。しかしその前に、辛いけれどもこの試合のビデオをもう一度、見直してみようと思っています。