9月26日(日) 2010 J2リーグ戦 第28節
愛媛 2 - 0 熊本 (19:03/ニンスタ/3,215人)
得点者:47' 大木勉(愛媛)、67' 杉浦恭平(愛媛)


「どうにも向かい合いたくない、そんな試合がたまにある」と書いた前節のレポート。この試合も「以下同文」という感じでコピー&ペーストでもしたい気分ですが頑張って書きます。

前節から中二日の第28節。午後からずっと他会場の試合をザッピングし、いよいよ19時キックオフの愛媛戦の画面に大きく映し出されたのは、愛媛サポーターが掲げる「同じ相手に何度も負けられるか」という即席横断幕の文字。確かにちょうど3週間前の天皇杯で追いすがる愛媛を退けたばかり。しかしそれだけでなくこのフレーズは、J昇格の2年前の開幕戦に勝利して以来、熊本に対して勝っていないことを差しているのだと実況のアナウンサーが言います。そういえば、なんとなく愛媛には苦手意識がなかった気がするのも、そんな戦歴のせいでしょうか。前節の横浜サポの「定期戦」表現といい、色んな因縁が積み重なり、色んなことを第3者からも意識されるようになったんだなと実感するJ3年目。そして、その横断幕が選手を鼓舞したのか、今日の愛媛は強かった。

愛媛 (先発フォーメーション)
20大木 9ジョジマール
23杉浦16赤井
6田森19越智
14三上13関根
22小原5アライール
 1川北 

前節の反省から、慎重に入りながらも、次第に仕掛けていく熊本。右SBの筑城を走らせる。左SB片山のミドルシュート。今日も両SBを高くポジショニングしています。一方の愛媛も最初から飛ばしてくる。右サイドからのクロスに飛び込んだ杉浦のヘディングは、誰かわかりませんでしたが投げ出すように身体に当ててクリア。事なきを得ます。ひときわ球際に厳しい愛媛。なかなかボールが繋げない熊本。特にジョジマールと大木の両FWにはボールがよく収まり、そこに2列目が攻撃参加してくる。なんとか急造CBの堤と矢野のコンビが跳ね返しているものの自分達のリズムは作れない。両者攻めあぐねているとも言えましたが、熊本にとっては全くチャンスなしというのが実際でした。なんとかスコアレスでそんな前半を折り返します。

愛媛の厳しいプレスを嫌い、高さのあるファビオとカレンの2トップに、どうしてもロングボールを放り込んでしまっていた前半。ハーフタイムに高木監督は「取ったボールを2~3本つないでいくことを意識しよう」(J‘sゴール)と言って選手たちを送りだしました。しかしそんな後半開始早々。

自陣ゴール前で渡されたボールを堤が、後方からジョジマールに奪われてしまう。ジョジマールは反転してエリアに侵入。堤ともうひとりが対応するも、粘ったジョジマールの長い足がパスを入れる。そこに大木が走り込んでゴールにねじ込みます。連携のミス。いや、正確に言えばプレーの甘さ、軽率なプレーに起因する失点。これは決して“事故”とは呼べないものでした。

熊本も反撃すべく藤田を入れましたが、足に付かないといった場面が多い。愛媛はポゼッションを獲得すると攻撃に厚みを見せ、67分、右から関根が強烈シュート。南がパンチングで凌いだものの、左から杉浦に拾われ、ワンフェイント掛けたシュートで2点目にします。

熊本はカレンを下げて松橋。宇留野に代えて西森。最後は矢野を前線に上げてパワープレーで挑みましたが、チャンスらしいチャンスも作れず、完封でニンジニアスタジアムのピッチに膝を着きました。

愛媛のバルバリッチ監督は、「ボールよりポジション」と言うくらい試合中の選手のポジショニングを重要視する人です。確かに今日の愛媛には、スペースという“隙”がなく、さらに運動量豊富で球際にも厳しかった。それを熊本はこじ開けることができないばかりか、怖気づいたようにミスを連発し、何もできずに自滅した。そんな印象の試合でした。

ひとつには高木監督の“見立て違い”もあったと思います。それは選手起用の部分で。前節のエントリーの最後にも書いた「使える選手をしっかり使っていきたい」というコメント。そこにわれわれは密かに注目していました。緊急事態ともいえる状況のなか「使える選手」とは。もちろん一番の注目点は、福王、ソンジンを欠くCBですけど…。

堤は本来CBの選手だと思っていたので、熊本で初のCB先発に当然期待もしていたのですが…・。失点のシーンももちろんですが、その他、ジョジマールや大木によくボールが収まったのも、矢野を含めCB二人の当たりが軽かったからのように思います。そこからサイドに展開されて、全員が後手後手に走り回されました。それと前節「パサーが必要だ」と感じたのは、実は中盤だけのことではなかったのかも知れません。「ここで上がっている筑城にロングパス。」「ここでボランチを飛び越してグラウンダーのスルーパス。」そう試合中にイメージする。しかしそれが叶わない瞬間、それは福王のプレーだったんだと実感しました。福王のロングフィードがどれだけ攻撃を形作っていたのかを…。

ファビオとカレンの2トップは一見魅力的だったのですが、きっちり愛媛に押さえ込まれました。ファビオには、まさしくこの日のジョジマールのような働きが期待されたのですが。デビュー戦で鮮烈な印象を与えているから、愛媛も相当警戒していました。カレンは相変わらず自分がしたいことと、周りとの考えが合っていないのでしょうか。平木の探しているプレーにも、それと同じようなもどかしさを感じます。

それにしても。無尽蔵のような運動量で攻守に顔を出す吉井、相手の起点を潰したあとに視野広く展開する原田、相手を翻弄するようにサイド奥深く切り裂いていく宇留野…。他にも名前を挙げなかった選手も含めて全ての選手たちが、誰ひとりとして自分のいいところを出していない。100%どころか50%も出せていないこの2戦。

関東リーダーのときやんのブログによると、試合後悔し涙を流す選手もたくさんいたといいます。
「今までの戦いを夢物語で終わらせないように、これからしっかりと自分たちのチームを見つめ直して次の準備をしたい」。それが試合後の指揮官の公式コメントでした。しかしロッカールームでは、「腹を割って話せ。言い合え。」と選手たちにうながしたそうです(RKK・VIVA roasso RADIOより)。「このままでは終われないぞ。オレもこのままでは終わらない。」とも。

今、ロアッソはとても大きな壁に直面している。どこかで狂いだした歯車。コンディション? 選手層? 起用法? メンタリティ? 連携? 運動量? スカウティング? 始めての連敗…。しかし、それだけでは片付けられない、得体の知れない魔物に取り付かれたような感覚。何かこれまで経験したことのない領域に差し掛かっているのか…。

一方でクラブは、熊日夕刊に池谷GMが書いていたとおり、J1昇格の条件として、2年連続の単年度黒字と債務超過解消の2つをクリアしなければならないという課題に対して、まず債務超過解消のために、地域の企業からの増資協力を始めたようです。

越えなければいけない大きな壁。チームとしても、クラブとしても。そしてわれわれファンも。それは、やはり想像以上に分厚く重い、J1への扉なのかも知れません。

9月23日(木) 2010 J2リーグ戦 第27節
熊本 0 - 2 横浜FC (15:02/熊本/12,036人)
得点者:3' 難波宏明(横浜FC)、34' カイオ(横浜FC)


毎試合なんとか欠かさずレポートという名の駄文をしたためているわれわれにとっても、どうにも向かい合いたくない、そんな試合がたまにあります。しかし、そこを逃げないで、向き合ってこそ前に進んでいけるんだと信じるしかありません。きっと選手たちも、あの大敗の福岡戦のあとと同じように、ビデオを見せられて「どこが、何故悪かったのか。何故負けるに至ったのか」を“整理”させられるでしょう。ならばわれわれも、“整理”するプロの視点はもたないまでも、しっかりと目を見開いて録画ビデオを見直そう。それも同じように戦っているつもりのファンとしての役目だろう。そう自らを奮い立たたせて、パソコンの前に座りました。そんなエネルギーが必要になるような試合でした。

前節、引き分けという結果にもかかわらず5位に上がった熊本。対して横浜FCは福岡に逆転負けを喫し、10位に甘んじていました。午前中の雨が上がって陽が差し始めたKKウィング。サッカーフェスと銘打たれたこの日、1万2千人が詰めかけました。また、この秋分の日の祝日は、3年連続この横浜とのカードらしく、向こうのサポーターのブログでは「定期戦」とまで謳われているようでした。

横浜FC (先発フォーメーション)
19難波 10カイオ
7エデル28武岡
6高地5八角
26阿部33柳沢
20渡邉2早川
 31関 

横浜が最初から飛ばしてくることは誰もがわかっていました。あの監督の戦術、そして個性から言っても。それに対して高木監督も「立ち上がり10分から20分は前に出てくるだろうから、警戒が必要」とスカウティングし、そう指示していたはずでした。しかし結果論でもなんでもなく、熊本イレブンの入り方はいかにも中途半端で、行くのかどうか、がっちりガードを固めて受け止めて、守りから入るのかどうか…。同じく指揮官の言葉を借りれば「浮き足」だっていたのかも知れません。また、大きく選手を入れ替えてきた横浜に対して、相対する選手のイメージが少しに予想外だったという戸惑いがあったのかも知れません。

試合開始のホイッスルが鳴ったばかりでした。左サイドからクロスを入れられ、一度跳ね返すも再びSBの柳沢が狙いすましたようにクロスを入れる。カイオがニアでつぶれ役になると、ファーから飛び込んだ難波が左足に当てるように蹴りこんだ。開始3分で先制点を許します。開始15分までの失点はゼロという、熊本の今シーズンの記録が破れてしまった瞬間でした。しかし、前節のシーソーゲームを見ているわれわれは、そんな早い(早すぎる)時間帯の失点にもあまり動じない。点はとれるだろうという根拠のない自信が身に付いていました。

20分には左サイドで得たFKに宇留野、松橋、堤の3人が立つ。宇留野がすらして松橋シュートは、DFに当たってCKを得る。左からのCKにファビオの高い打点からのヘディング。しかしポストの右に反れました。26分にはカウンター。右の宇留野から左に流れたファビオへのパスが通り、GKと1対1。しかしこのシュートも枠を外れる。続く27分にも松橋がエリア侵入。放ったシュートはGKが押さえました。

チャンスは作れている。という気持ちが、どこかで一歩の足を止めさせていることを気づかせなかったのかも知れません。34分、左サイドでの攻防を横浜が制すると、素早いモーションで高地がゴール前に上げる。今度はカイオがファーサイドにいて、ひとっ跳び。DFは2枚付いていたものの、ピンポイントで捉えたヘッドが、この日初めてお披露目されたばかりのロアッソカラーのゴールネットを再び揺らしました。

2点差を追っての後半、宇留野を下げて藤田が投入されました。宇留野のコンディションを考えて、そしてボールを落ち着かせるための交代だったと高木監督は述べています。確かにわれわれも“パサー”が必要だと感じていました。原田を出場停止で欠いた守備的中盤は、吉井と渡辺。ここからの主にサイドへ展開する長いパスが今日は一向に見られず、せっかく上がっているサイドの選手を見殺しにするシーンが何度もありました。見えていないのか、通すのに不安があるのか。あるいは出足の早い横浜のプレスに、そういった余裕を失っていたのかも知れません。確かに今日の横浜の球際の強さは後半も衰えませんでした。さらに2点のリードをいいことに、しっかりとブロックを作って次々に熊本を罠にはめていきます。藤田がときにボランチの位置にまで戻って、なんとか攻勢を得ようと汗をかく。

後半右サイドに下がっていた松橋を下げ、カレンとファビオの2トップにしたあたりから、熊本にもチャンス。西からカレンに出る。カレンが左サイドを大きくえぐると早いクロス。これはクリアされる。中央で得たFKを堤が直接狙うが、惜しくも枠の左。筑城に代えて、古巣に闘志を燃やす片山を投入してからは、更に攻撃的に。藤田から片山。片山のダイレクトで上げたクロスがファビオの足元。振り抜いたシュートはクリアされる。惜しい。残り時間は15分。熊本が猛攻を仕掛ける。そんな時間帯でした。

左位置からのFKを片山が蹴りこむやいなや主審の笛。副審の指摘でソンジンに一発レッドが示される。それはその前のプレーでエリア内での位置取りでやりあっていた相手選手とのいざこざの延長だったのでしょう。精神的な幼さを見せて“報復行動”に出たソンジンのこのプレーは、一気に熊本の攻勢力を沈めてしまう。もう反撃するエネルギーは残されていませんでした。

「次節の戦いに繋がる」と前節、甲府戦の解説者にいわしめ、そして選手たちの多くも、「この勝ち点1を無駄にしないためにも」と思って臨んだ重要な一戦は、なんだか横浜の勢いに押され、自分たちのいいところが全く出せずに終わってしまいました。初めて訪れたかも知れない人たちに、“ロアッソのサッカー”を見せられなかったのも非常に残念ですが、何より、1万人以上のファンやサポーターが、翌日「昨日のロアッソの試合は面白かった!」と職場や、学校や家庭で口々に話題にするチャンスを棒に振ってしまいました。われわれとすれば、福王、原田の二人を欠いた“程度”で、こうもチグハグになってしまう選手層に、まだまだだなと感じるのは正直なところです。

そんなしょぼくれているわれわれの耳に飛び込んできたのは、「ロアッソの練習場を県が支援する」というビッグニュース。24日の県議会。代表質問に答えるかたちで蒲島知事が表明した支援内容は、「県民総合運動公園の陸上競技場(KKウィング)、サッカー場、ラグビー場、補助競技場、スポーツ広場の5施設のいずれかを優先的に貸し出す」ことと、「(ロアッソが取り組んでいるジュニア向けサッカー教室など地域貢献活動を支援するための)着替えやマッサージ、ミーティングに使用できる拠点施設の設置」(熊日・24日付夕刊)。毎年繰り返され、この夏場にもチーム強化のネックとなった練習場確保の問題。これで大きく解決に向かうのではないかと思われます。拠点施設は正式なクラブハウスとは呼べないものなのかも知れませんが、これまでの環境からすれば格段の進歩ではないのかと。これこそ、これまで地道ながらも続けてきた地域貢献活動を評価され、また今後も期待されてのことではないでしょうか。われわれファンも喜んでばかりではなく、気を引き締めなおして、ひとり一人ができることを続けて考えていかなければならないなと。その前に、10月3日の福岡戦を観戦される蒲島知事には、お礼を言わなきゃいけませんね。

いやいや、まだその手間で目前の愛媛戦に勝利しなくては。3位福岡との勝ち点差は広がってしまい、10位鳥栖までの差が1試合分となりました。やはり指揮官は「しっかり映像を見て、選手達にフィードバックしたい」「中2日で次の愛媛戦が控えているので、できるだけ早く、そして使える選手をしっかり使っていきたい」と、既に次の愛媛戦に気持ちが向かっています。先々週勝ったばかりの相手とはいっても、この横浜戦のように、どこかに“油断”が潜まないように。われわれも心して向かいましょう。

9月19日(日) 2010 J2リーグ戦 第26節
甲府 3 - 3 熊本 (16:03/小瀬/12,750人)
得点者:33' 筑城和人(熊本)、35' パウリーニョ(甲府)、38' 秋本倫孝(甲府)、39' 宇留野純(熊本)、61' パウリーニョ(甲府)、77' ファビオ(熊本)


3連休の中日。秋晴れの小瀬スポーツ公園陸上競技場。背後に見える美しい稜線は南アルプスなのでしょうか。相変わらずわれわれはテレビ画面のこちら側で、ホームチームの勝利を願います。試合前の高木監督へのインタビュー。甲府に対するスカウティングを「このところ追いついたり、追いつかれたり。不安定な印象を受ける」と言っていた高木監督。まさにこの試合もそのとおりの展開になりました。

甲府 (先発フォーメーション)
 14ハーフナーマイク 
15パウリーニョ27柏
10藤田8養父
 2秋本 
13内山6吉田
5ダニエル4山本
 1荻 

序盤は慎重な入り方の熊本。しっかりとブロックを作って甲府の出方を見ているような。リスクを冒さないその姿勢は、まるで前節・水戸戦を彷彿とさせるような。次第次第に甲府のポゼッションが際立ってくる。原田がパウリーニョを倒して与えたFKは、Pアークの少し左。そのパウリーニョが放ったキックは、大きく左に反れてくれて事なきを得ます。対して熊本は西がパスカット。平木に繋いで再び西。西が中央から突破しようとした松橋へ。渡ればビッグチャンスといったところでした。

やはり狭いところは通してくれない甲府。裏を狙ったロングボールが跳ね返され、そのセカンドもなかなか拾えない。養父が放ったミドルシュートは枠を外れますがちょっとヒヤリ。前回対戦の決勝点が頭をよぎります。ただ、甲府のタワー、ハーフナーマイクには、CBの矢野、福王、そして今節は右SBに入った長身のソンジンが、挟み込むようにカバーしあって自由にはさせていない。一度だけ、PA内中央でマイクがDFを背にしながら反転してシュート。これは南の手中に収まりました。

甲府の攻勢をじっと凌いでいるような熊本。一方的な守勢のように見えて、しかしこれもゲームプランどおり。根底には強い自信と戦術への信念が感じられるようでした。それが実を結んだのは33分。右サイドの狭いところをシュートパスで繋いでいくと、松橋は左から全速力で上がってきた筑城に出す。筑城がDF二人を切り返して右足に持ち直すと振り切った。熊本のこの試合ファーストシュートが、ゴールとなって突き刺さる。そしてそれは筑城にとってもプロ入り初ゴールでした。

もちろんこれで気落ちするほど甲府も“若く”はありません。ここから試合は一気に動きだしました。右サイドで得たFK。熊本がクリアしますが、ハーフウェイラインぐらいから再び入れる。ダニエルと競りながら福王が反らしたボールは、あいにくゴールに正対したパウリーニョの丁度足元へ。一蹴したキックはゴール右角に突き刺さり同点とします。

さらに38分、甲府はCKからニアに走りこんだ秋本が右足で角度を変える。妙なバウンドになったそのボールは、詰めていたパウリーニョにも、手を伸ばした南にも触れられない軌道でゴール左角に転がり込みました。

一気に逆転の甲府。しかし湧き上がる甲府サポーターを一瞬にして沈黙させたのは、古巣との対戦も数度目になった宇留野でした。左サイドから筑城のクロス。ニアで平木が反らすとPアーク付近から松橋がシュート。DFのクリアを今度は右から西。西から最後は中央で宇留野が落ち着いて押し込む。今度は熊本が波状攻撃で甲府DFを切り裂き、試合を再び振り出しに戻します。わずか5分あまりに4点が入る目まぐるしいシーソーゲーム。宇留野のことをよく知っている甲府のゴール裏が静かになる。「好調の宇留野は止められない。」そんなことを思わせたのではないでしょうか。

点の取り合いはやや意外でしたが、前半を終えて同点というのはプランどおりにも思えました。しかし試合後のコメントを見ると熊本の指揮官は「もう少しボールを繋ぐことに積極的に関わってほしかった」と、前半の内容的に不満を感じていました。ハーフタイムに叱咤されたのかも知れません。それが通じたのか、後半熊本はポゼッション重視に転換していきます。甲府もこのまま終われるわけがない。試合は俄然、攻守切り替えの早い“撃ち合い”の様相を帯びてきました。

甲府は右から吉田、左から内山が突破を図り、あるいはアーリーでクロスを上げてくる。落ち着いて跳ね返していたように見えた熊本のDFラインでしたが、思えばそのプレッシャーにじりじりと後退を余儀なくされていたのかも知れません。左から作っていく甲府にバイタルエリアが広げられる。パウリーニョがPA内のマイクに入れる。マイクをポストに使うプレー。福王がぴったりとマイクに張り付いていたのですが、思わずひっぱり倒してしまう。PK。そのPKをパウリーニョがきっちりと決めると、再び甲府が突き放しにかかります。

すかさず熊本は平木を下げてファビオ。それは「こんなくらいで下を向くな」という指揮官からの強いメッセージでした。さすがにこの長身のブラジル人が入ると警戒する甲府DF。ダニエルがぴったりとマークする。山本が狡猾なプレーで潰す。イライラ感の見えるファビオ。カウンターの芽を潰され、更に主審の度重なる笛、そして示されたイエローカードに、丹精な顔が歪んでいく。途中出場ながらカード2枚を貰って退場し、「猛省を」と試合後の指揮官に言わしめたあの岐阜戦のときのように、今日は“若さ”だけが前面に出てしまうのか。

袖をめくったファビオ。それと同時にちょっと気持ちを切り替えたのかも知れません。スローインにDFを背負いながら反転するとシュート。これはGKがキープ。しかし続く77分、松橋の左からのシュートが枠を大きく反れて右サイドへ。相手DFも追うのをやめたルーズボール。宇留野が猛烈にダッシュしてそれに追いつき拾う。一度中盤とパス交換すると、グラウンダーで中へ入れる。それは甲府のDFがパスにも球際にも詰め切れなかった、足が止まった瞬間でした。Pアーク付近でDFを背にしていたファビオが貰う。回りこむようにDFを交わすと、速いタイミングと小さな振り幅でシュート。意表を突かれたGKの手をかすめてゴール左角に転がりこんだ。同点!「どうだ!」とばかりに選手たちが喜ぶなか、当のファビオが真っ先に走り寄ったのは、ベンチスタッフの通訳エジソン氏でした。いの一番にエジソンと抱き合う。そのまわりから選手たちが抱きつく。エジソンはファビオの背中を叩く。ユニを揺さぶって嬉しそうに何か叫んでいる。

「この短い期間の中、波があったのですが、それでも本人は日本のサッカーに対し理解を深め、監督やチームメイトとのコミュニケーションを精一杯とりながらチームがやろうとしているサッカーを彼なりにやっていこうと努力しているのだと思います」。

早川エジソン正吉氏は自身のブログで、直近のファビオの様子をそう語ってくれていました。ようやく手に入れた出場機会。それを活かして活躍したが、すぐに大きな怪我に見舞われた。言葉のわからない孤独な異国の生活のなかで、必死にリハビリに向った日々を支えた陰には、きっとこの人の力添えもあったのではないでしょうか。自身も若き日、単身ブラジルから日本へやってきて、日本のサッカー界で想像以上の苦労を重ねたことでしょう。縁あってブレイズ熊本でプレーし、その後は今年解雇されるまで福岡で選手通訳を努め、多くの選手を物心両面にわたり面倒をみた。自ら経験したからこそ、あとから続いてくる若いブラジルの選手たちの気持ちが痛いほどわかるのだろう。“親代わり”といった月並みな表現では表せないほど、この人の選手を思う愛情がそのブログから伝わってきます。
外国籍選手に限らず“メンタル面”管理が重視される現代のチームマネジメントにおいて、いわずもがな何もないのがわがクラブ。この非常勤職ともいえるエジソン氏の存在が、きっと多くのことを救っているに違いない。ファビオと彼の抱擁シーン。いつもなら神にささげる、お得意の指を天にかざすポーズより何より、真っ先に彼に感謝の意を示したこのシーンは、われわれにそんなことを思わせました。

甲府はもちろん負けられない。熊本も勝利しか望んでいませんでした。ソンジンを下げて片山を左SBに投入。さらに攻撃的なクロスの供給を期待する。甲府はパウリーニョと柏を諦め、マラニョンとキムシンヨンの2枚代え。どちらも熊本にとっては、非常に嫌な印象を残しているプレーヤー。これに対して熊本も藤田という最終カードで対抗する。残り時間はわずかに10分。

ところが今度はキムの試合への入り方が悪いことが熊本に幸いしました。やる気が空回りしてファールが多い。キムの顔が歪んでいる分、甲府の攻撃が繋がらない。マラニョンに至っては、どこにいるのか、存在自体がまったく消えていました。

甲府は養父に代えて最後のカードは松橋。兄弟対決。アディショナルタイムは4分。互いに疲れが見え始め、ミスが目立つ。しかし最後まで走りきったチームが勝つ。甲府・吉田のアーリークロス。ファーでジャンプするのは2人の甲府選手。そこに届く前に南がなんとかパンチング。再びアーリークロス。今度は南がきっちりキャッチする。と終了のホイッスルが鳴りました。

試合終了後、腕組みし静まり返る甲府のゴール裏が映し出されました。アナウンサーは「(熊本が)互角以上の展開を演じた」と評し、解説者も「(熊本にとって)次の試合、果ては来季にも繋がる試合だった。これから伸び率のあるチームだ」と賞賛しました。思えば08年の甲府との初アウェー試合。小森田の得点で一矢報いたものの、結果3-1で圧勝された。あのときの解説者は、まるでわれわれのチームに“お説教”のような指摘を嫌というほど繰り返しました。J1を経験してきたばかりの降格チームが、昇格したばかりのチームを見下すようなおせっかいな言及。あの日の屈辱。もしかしたらあの日のあの解説者と同じ人ではなかったろうかとも思うのです。

何度も挑み、何度も跳ね返された続けた“甲府”という壁。それはアルプスにそびえ立つ難壁のようであり。その強さにおののき、自らとの力の差を少しでも縮めようと目標にしてきたチームとも言えるでしょう。初めての対戦では、幸運が味方して“金星”を得た。しかしその後は、圧倒的な力で捻じ伏せられ、対戦ごとに力の差が身に沁みた。対戦するごとに一歩、また一歩とにじり寄ったつもりでも、跳ね返され続けた。今日、あと一歩というところまで追い詰め、肝胆寒からしめた。けれども勝ちきることは叶わなかった。

あの日のエントリーで書いたのは「しかし、こんな“悔しさ”もホームチームがあればこそ。」という(その頃のお決まりの)台詞でした。しかし今日は、前節も書いたとおり「悔しさの“質”が違う。」その言葉がまた浮かんできました。難壁。いつか必ずこの手で征服してやると。

9月12日(日) 2010 J2リーグ戦 第25節
熊本 0 - 0 水戸 (16:03/熊本/5,607人)

気温は30度を下回ったとはいえ、熊本を横切る秋雨前線が試合直前まで土砂降りを見舞わせ、夕方4時の西日の差すピッチ上は、ムンムンとした湿度の高さを感じさせました。初めての試みとは思えない見事なコレオグラフィーを努めたゴール裏は、そのままの密度状態を保ち、チャントのボルテージも高い。飛び跳ね、手を伸ばすその赤い群像の美しさ。徐々に徐々にゴール裏もその数を増してきていることがわかります。

通算8度目の水戸との戦い。かつて藤田が「今後の具体的でわかりやすい“目標”」とまで評した強豪チーム。けれど今季は下位に低迷し、前回対戦時のエントリーで「一体いままでの水戸はどこへ行ったのか。去年の戦術はどうなったのか」とわれわれでさえ書いています。今回、相まみえた水戸は、再び守備の立て直しから着手したのか、昔呼ばれた“ミトナチオ”ばりの、引いた戦術で臨んできました。ワントップには、シーズン途中から入団を果たした中山の姿が。剃り上げた頭を時折なでる修行僧の様な風貌に変わり、2年間在籍した熊本のファンからも大きな拍手で迎えられました。

熊本の先発2トップはカレンと松橋。怪我をしたのかどうか、ファビオの姿はこの日はベンチにも見あたらず。そういえば前回対戦のときも、せっかく直前の試合で決勝点を挙げたばかりだったのに、欠場を余儀なくされたのが思い出されます。水戸のディフェンス陣の高さが目立っただけに、余計に残念さが募ります。

水戸 (先発フォーメーション)
 26中山 
15島田7小池
11遠藤10大橋
 16下田 
3保崎6中村
32大和田4作田
 1本間 

開始早々、右のCK。平木の低めの早いボールに松橋がジャンプ一番、ニアのへディングでピシャリと合わせますが、ボールはわずかにバーの上。悔しがる松橋の顔。カレンのクロスにファーから平木。水戸のDFに跳ね返されたところを堤のミドル。これはポスト左。幸先良いゲームへの入り方。スタートから熊本が好機を演出します。

水戸は前線であまり無理に追いかけず、入ってきたところでカットする、あるいは高さのあるCBが跳ね返し、そこからサイドを走らせる。ただ前線の中山、果敢に走り回るがなかなか起点は作れない(作らせない)。一方熊本も水戸のDFに捕まり、前線ではなかなか収まらない。じれったい展開のなかでようやく宇留野が右サイドをえぐってエリアに侵入。しかしカレンへのグラウンダーのクロスはGK本間の手中に収まりました。その後もポゼッションは完全に熊本にあり。時折の水戸のカウンターも淡泊なフィニッシュに助けられる展開。お互いに何度かチャンスを作りながらもスコアレスで前半が終了しました。

まぁ、熊本にしてみればいつもどおりの前半の戦い方のようでもあり。当然、後半これから、西、藤田、片山…と言った攻撃カードをどこでどう使っていくのか。というところに興味が向います。その後半、お互いハーフタイムでの指示があったのか、俄然、攻守切り替えの早い展開になります。中央でもらった平木がミドルシュート。GK本間がこぼすものの詰め切れず。反撃は水戸。右から島田がエリアに入ってくるとクロス。中央の中山が先に触ればあわやというピンチ。今度は松橋のスルーパスにカレンが裏をとって左から水戸エリアに侵入。クロスは宇留野に渡る前にまたも本間。右CKのこぼれ球を再びセンタリング。水戸が高さでクリアしたところに平木のシュートは本間がクリア。押し込もうとするが、全員で身体をはった水戸の守備にどうにも、どうしてもゴールなりません。

この間に水戸は中山を諦め、最近好調と言われる常磐を投入。ベンチに退く中山にもスタンドから温かい拍手が送られます。熊本も堤に代えて片山。片山は右SBの筑城となにやら打ち合わせる。互いの上がるタイミングを確認しているのか。その片山が早速上がって右足でクロス。松橋がトラップするもDFに奪われる。中央で得たFKのチャンス。直接狙うにはかなりな距離。平木がボールに口づけをして願を掛ける。無回転ぎみに放たれたボールは、鋭くゴール前で落ちたものの、クロスバーに当たって跳ね返されます。腰を浮かせてまた座り直すスタンドのファン。実に惜しい。

水戸は中村に代えて大塚翔太を入れる。試合前、スタンドに彼の名前のプラカードを持った家族連れの姿を見ました。今きっと大きな声援を上げているに違いない。熊大付属中学、大津高を経て筑波大に進み、主将まで努めた男が、敵チームとはいえ遂にJリーガーとなって故郷にその勇姿を示しました。小柄ながらもたくましい体躯。負けん気の強そうな面構え。カウンターに駆け上がるスピードに鋭さがあります。

試合後、「審判のジャッジに対して久しぶりに不快感をおぼえた」(13日付・熊日夕刊)と高木監督がコメントしたのは、これから以降の展開を指しているのではないでしょうか。後半、中に絞りっぱなしで、ほぼトップ下に位置していた平木。そこから右の宇留野にハタく。宇留野のクロスを松橋がシュート。そこに水戸のDFが腕を使ってトラップしたように見えました。明らかにエリア内。明らかに意図的。しかし笛は鳴らず。騒然とするスタジアム。

さらに熊本はカレンに代えて西のドリブルで突破口を開きにかかる。さらには残り5分になったところで藤田が入り、アタッキングエリアをキラーパスで切り裂く。その前後、西が中央で仕掛けてドリブル。一人交わし、二人交わし、エリアに侵入したところで後ろから引き倒された。そう見えたのですが、これも笛が鳴らない。

今度は西からスルーパス。藤田が右サイド奥からマイナス。エリア内でもらった松橋のシュートは、セットプレイで残っていた左の矢野へ。矢野からまた中央の松橋へ返す。ダイレクトで撃った松橋のシュートは横っ飛びの本間がセーブ。ビッグチャンスでした。

場内の声援はどんどん大きくなっていく。同時にため息もこれまでになく大きい。アディショナルタイム。南からのロングキックに松橋が走る。なんとかDFが足で反らしたボールをGK本間がキープ。高木監督が怒って叫んでいる。多分「バックパスじゃないか!」と怒っているのでしょう。しかしプレーは続行されている。

中央で得たFK。おそらくこれが最後のプレーだし、最後のチャンス。平木のキックは壁に当たるもこぼれ球を藤田がシュート。しかし水戸のDFが立ちはだかる。終了のホイッスルが鳴り響いた瞬間、崩れ落ちるように横たわった選手達の表情には、悔しさがいっぱいでした。

守備重視の両チームの戦いは、後半は切り替えの早い“殴り合い”のようなスリリングな攻防を見せ、蒸し暑さも伴って最後はお互いの体力ギリギリで“死闘”のような様相を見せました。「相手の守備を“崩し切れ”なかった」。そんな藤田のコメントがこの試合の全てを言い表していました。それはもちろん数多くのチャンスを作りながらも、ゴールという結果に結びつかなかった試合全体を言い表しているのですが、と同時に、もうひとつのことをわれわれに教えてくれているように思います。

FWが枠内に決定的なシュートを放つも、相手GKに阻まれ決めきれない。そんな時、敵のGKが当たっていた。ビッグセーブだった。ついついそう思いがちですが、それは実は本当に「崩し切れて」いなかったということではないのかと。もう一発の切り替えしなのか、あるいはちょっとしたタイミングの“ずらし”なのか、はたまた特異なリズムなのか。フィニッシュという究極の瞬間で、相手の読みを上回る動きの質。優れたフィニッシャーとそこまで繋ぐチームメイトのプレーに通じるのは「完璧なまでの崩し」。よく言われるような「ゴールからの逆算」。われわれのチームの攻撃は、まだ、そこまでに至っていないのではないかと。開幕戦、確かに猛攻を受けながらも、何だかゴールされる気がしなかった千葉の攻撃。あの試合を思い起こさせます。

さて、持論の「交通事故1失点論」からすれば、今日はまさしく“逆の事故”が二度、三度と起こってしまったともいえる“ジャッジ”。その不満を抱きながらも、チームはこの気持ちをコントロールし切って、「結果的に0-0という形ですけど、これをネガティブに捉えるかポジティブに捉えるかというだけのゲームだと思う」と整理する高木監督。われわれは「こんな試合もあるさ」と複雑な気持ちでうそぶきながらも、勝ちきれなかった、崩し切れなかった、という悔しさでいっぱいな自分たちの変化にも気がついています。そう、かつては水戸のサッカー自体の速さ、シンプルな強さに驚き、リスペクトにも似た恐れを抱き、ひとつのベンチマークとみなしていた頃からすれば、全く違う“質”の悔しさを抱いていることです。

水戸にとってはゲームプランどおりの試合運びだったでしょう。木山監督いわく「ある程度守備をしっかりして入って、相手が焦れた時に、自分たちの流れに持って行ければいいなと。まさにそういう展開になった」と。しかし、明らかに後半疲れの見える時間帯、“ジャッジ”という交通事故に何度も遭遇し、ストレスフルの状態で、水戸の鋭いカウンターに対応し5人、6人と全速力で自陣に帰る。さらにプレスバックで好機を潰すその反転力の強さ、タフネスぶり。そしてクールささえ感じるそのメンタリティー。まったく地味ではありますが、この試合の最高の見どころであったし、わが熊本の確実な、しかも大きな成長の姿を見た思いでもありました。なんだかチームが“大人”になった。われわれは超ポジティブにそう受け止めています。

9月5日(日) 第90回天皇杯2回戦
熊本 2 - 1 愛媛 (17:00/熊本/2,727人)
得点者:23' 松橋 章太(熊本)、30' 松橋 章太(熊本)、71' 杉浦 恭平(愛媛)


「天皇杯が面白くなくなった。」これは昨年の大会でも、それ以前にも何度か書いたことです。それはアップセットが醍醐味のこの大会において、われわれのチームがJ昇格以降は、そのモチベーションの持って行き方が難しい―などとこれまで書いてきましたが、今年は更に大会全体、トーナメント表自体に面白みがないように感じました。スケジュールにも無理がありありで…。この歴史と伝統を誇るカップ戦を、主催者は今後どうしようと思っているのか。同一リーグ同士で戦うロアッソにとっての天皇杯初戦。少しだけ秋の気配が感じられる夕刻のKKウィング全体にも、そんな何となく焦点のぼやけた戦いの雰囲気が漂っているように感じられたのはわれわれだけでしょうか。

愛媛のDFラインとGKとの連携は、明らかに最初からもたついていました。開始早々、熊本のロングボールにGKがかぶって、詰めていた松橋が先にさわれば“あわや”という場面。会場を沸かせます。さらに平木がループで狙って動揺を誘う。先制点は23分、ソンジンからのロングボールをDFがクリアしますが、これが小さすぎて松橋の前に。松橋が思いっきりダイレクトで放ったグラウンダーぎみのシュートは、前に出ようとしていたGKの伸ばした手をあざ笑うかのように、ゴール左に突き刺さりました。

続いてもカウンター。右サイドを上がった宇留野からのクロスに中央で松橋がヘッド。これは惜しくもバーの上。とにかく今日の松橋はシュートの意識が高い。愛媛の左SBが詰められて思わずバックパス。これに反応したのも松橋。GKより先に奪うと、切り返してゴールにねじ込み追加点とします。

愛媛はプレッシングサッカー。前線の内田と石井、そして中盤が執拗にボールを追い回す。熊本は両SBを高く上げ、ソンジンと福王の二人のCB、それにボランチの渡辺が加わってそのチェイシングをかいくぐるようにボールを回す。右SBの筑城は2列目の宇留野よりもさらに高い位置をとって、いいサイドチェンジのボールを待っては攻撃の起点になる。あるいはピンチとなるやゴール前まで帰陣してクロスを潰す。目を見張る運動量。まるで夕べみた日本代表戦、長友のようだと表現したら褒めすぎでしょうか。しかしそれほど頼もしい。

前半で2点のリードはいつ以来でしょうか。しかし、あまりに一方的な戦況に喜ぶというより、2-0というサッカーでは最も危険で難しい点差であることにも心しました。案の定、後半開始から猛烈に押し込んでくる愛媛。石井に持ち込まれますがシュートはバーを越えてくれる。右からは内田に打たれますが、これは南が防ぐ。ジョジマールが内田に代わって入ると、さらに防戦一方。堤に代えて片山を、移籍後初の左SBに起用したその直後の時間帯でした。左サイドを抜かれて早いクロスを上げられる。中央の選手には詰めていましたが、ファーから入った杉浦には完全にフリーでヘッドを撃たれる。1点差に詰め寄られました。

熊本は原田を下げて西を投入。左サイドにいた平木をボランチに。ファビオが落として松橋が走り込む久しぶりのチャンスも、シュートは右サイドネット。残り10分、見事に流れから崩されて、またしてもゴールネットを揺らされ、「同点か」と天を仰ぎましたが、直前のファールで事なきを得ます。

愛媛はベテラン福田を前線に入れてすべてを託します。アライールも上がってパワープレー。熊本がクローザーとして選んだのは、今日がJデビューとなる新鋭ボランチの加藤。ゴール前に早めに入れてくる愛媛。ソンジンの高さが活きる。加藤もしっかりバイタルエリアを埋めている。しかし、攻撃は一方的に愛媛。熊本は作れない。繋がらない。前線のファビオはどこか痛めたのか、もう走れていない。アディショナルタイムも最後のプレー、こぼれ球がジョジマールの前にまた転がる。鋭く振り抜いたシュートはポストをかすめて右に反れていってくれる。終了のホイッスルを聞いた瞬間、多くの選手がピッチに倒れ込み、足を攣っていたのか、それでも守り抜いたんだということを教えてくれました。

手に汗握る終盤の頃。あれは延長戦のさらにロスタイムでしたが、終了間際で同点に追いつかれた昨年の天皇杯・横浜FC戦をどうしても思い出さずにはいられませんでした。「結論から言えば粘り勝ち」と高木監督は試合後チームを讃えましたが、南はブログで「運が少しだけこっちにあったなっていうだけ」と表現しました。そもそもわがチームの持っている後半の入り方の課題、終盤のクローズの仕方の課題と同時に、今日は2-0というスコアの持つ危険度、メンタル維持の難しさ、ゲームコントロールの難しさが加わりました。しかし、とにかく何とか凌ぎきった、逃げ切ったんだというまぎれもない“結果”は、若いチームの大きな自信になったのではないでしょうか。そして、何にしても「勝った」ということが一発勝負のトーナメント戦では“結果”であることに違いありません。

昇格を争うリーグ戦のさなか、同一カテゴリーの相手と戦うカップ戦。この組み合わせ自体への疑問と、冒頭書いたようなモヤモヤ複雑な心境にいたわれわれは、とにかく「(勝っても負けても)変な試合をして流れを変えたくない。リーグ戦の戦い方に影響してほしくない」などといささか消極的なことまで思っていました。J2に昇格して初めての天皇杯での勝利。そして「熊本」が初めてJ1勢と相まみえる。しかもJ1王者のあの鹿島と戦うことは、相手にとって不足なし。あの鹿島スタジアムに立つロアッソ・イレブンを想像して…などなど、確かに少しはワクワクもしてくるのですが。しかし、それは「Jリーグチームと戦える」とワクワクしていた昔のような、まるで“記念受験”のような気分とはだいぶ違っています。ジャイアントキリングは起こしたいという気持ちの一方で、本当はそれよりはるかに次節の水戸戦のほうが今は気になって仕方がない。そんな複雑感。

結果的に敗れた愛媛にしても、前半のような、あんなミスを立て続けにしていたら、もしあれがリーグ戦であればきっと、バルバリッチ監督は鬼のような形相で、ピッチ横から選手たちを叱咤し続けたことでしょう。しかし、彼は、前半はほとんどベンチから立つこともなく、静かに見守っていたようにも見えてしまいました。

もはや、「J1チームと戦いたい」という気持ちより「昇格戦線に踏みとどまりたい」「J1昇格を現実のものとして戦い続けたい」そんな気持ちのほうがまさってしまった。きっとそういうことなのかも知れません。

9月5日(日) 第90回天皇杯2回戦
熊本 2 - 1 愛媛 (17:00/熊本/2,727人)
得点者:23' 松橋 章太(熊本)、30' 松橋 章太(熊本)、71' 杉浦 恭平(愛媛)
※この試合はのちほどレポートします。

9月5日(日) 第90回天皇杯2回戦
鳥栖 10 - 0 熊学高 (18:00/ベアスタ/1,809人)
得点者:16' 池田 圭(鳥栖)、26' 衛藤 裕(鳥栖)、28' 藤田 直之(鳥栖)、33' 萬代 宏樹(鳥栖)、45' 池田 圭(鳥栖)、66' 山瀬 幸宏(鳥栖)、67' 豊田 陽平(鳥栖)、75' 豊田 陽平(鳥栖)、89' 山瀬 幸宏(鳥栖)、90'+2 豊田 陽平(鳥栖)

9月3日(金)第90回天皇杯1回戦
熊本学園大付属高 2-2(PK7-6) 佐賀大 (佐賀陸)
得点者 :OG、溝口(熊本)、小坪、串間(佐賀)