10月23日(土) 2010 J2リーグ戦 第31節
柏 0 - 0 熊本 (16:04/柏/8,141人)


「人間として、アスリートとして俺がリスペクトする南雄太だから。だからこそおまえから絶対ゴールを奪う。俺の全戦闘力を持って、倒しにいく」。戦前、自身のブログでそう書いていた北嶋秀朗。その「南雄太へ」と題するエントリーが、逆にフラグになったのでしょうか。開始直後に迎えた、この試合最大のチャンス。一本のパスでDFの裏を取った北嶋でしたが、「飛び出してくるタイミングも身体を置く場所も距離もキーパーのベストポジションだった」という南の前に、ボール一個分、右に外してしまう。そしてその後も何度もあったシュートチャンスに、最後まで旧友・南の守るゴールマウスを割ることができませんでした。

深まる秋を感じさせる柏の空の下、スタンド一面黄色に染まる日立台。この歴史ある専用球技場のピッチに再び立つ南雄太。今はアウェーチームの守護神として。

コイントスでエンドの交換を求めた熊本。南が柏の選手たちのなかを、なにやら言葉を交わし、あるいはタッチしながらゴールに向うと、びっしりと埋まった柏ゴール裏からも盛大な拍手の渦。これに手を上げて応える南。「“いつも前半こんな感じでプレーしてたなぁ”って感じて、ロアッソでは自分だけだと思いますが正直、全くアウェイな感じがしなくて変な感じでした(笑)」(ブログ)と。皮肉なことに、この黄色に染まったスタジアムが南にいつもより以上の、神懸ったような力を与えてくれる結果になりました。

柏 (先発フォーメーション)
17林 9北嶋
18田中14大津
7大谷20茨田
22橋本25村上
3近藤6パク ドンヒョク
 21菅野 

熊本 (先発フォーメーション)
32カレン10松橋
 27ファビオ 
33片山11宇留野
30渡辺22吉井
6福王2ソンジン
 19堤 
 18南 

前回対戦のときは、まるで自分達の今の力を試すようにガチンコ勝負を挑んだ熊本・高木監督でしたが、今回は「守備に徹してカウンターで点を取ること、もしくはセットプレーで点を取る」というプランを選択しました。そこには天皇杯での鹿島との戦い、あるいは前節守りきられた徳島の戦い方が脳裏にイメージとしてあったのではないでしょうか。そして、矢野を欠くDFラインは、中央に堤、右ソンジン、左福王という3バック。それは前回対戦時の後半に奏功したシステムであり、前節、柏に土をつけた大分も敷いていたフォーメーション。勝機を狙っていました。

柏は、レアンドロ・ドミンゲスを出場停止で欠く反面、大津が怪我から復帰という好材料もありました。その大津を起点にして攻め込む柏。セカンドも拾われ波状攻撃を受けますが、跳ね返し続ける。北嶋と林の2トップに対しては3人のDFがスペースを与えず、玉際厳しく執拗に競り続ける。

ようやく18分頃から熊本にもチャンスが巡ってくるようになります。今日はトップ下に入ったファビオがボールを奪うと、渡辺から右に上がってくる松橋に。松橋45度のシュートは惜しくも枠の左。23分には右奥、松橋がクロスを入れると市立船橋高で北嶋の5年後輩のカレンのダイレクトボレー。抑えの効いたシュートはしかしキーパー正面でセーブされました。

さらに、柏は大谷から縦にパス。受けた大津がエリア内で切り替えて打つ。近距離からのシュートは南が弾き飛ばす。「シュート練習に付き合ってくれた南さんに恩を返したい」と語っていた大津に、「まだまだ」とでも言っているかのような南の反射的なセーブ。36分にはクリアボールを拾った田中が右に回りなおしてグラウンダーで入れる。ゴール前、林のシュートは、これも南が片手で弾き出しました。

サイドではSHとボランチが挟んで潰す、中は3バックが通させない。最後は南が立ちはだかる。奪っては鋭くカウンター。ある意味、熊本の狙い通りの形ができつつありました。これに対して後半、敵将・ネルシーニョ監督が策を打ってきます。田中と大津をやや中に絞らせることで熊本のサイドのスペースを柏SBに使わせる。FWは出入りを繰り返しつつ、ときに落ちてクサビになる。さらに大津がダイアゴナルな動きを加えることで、3バックのマークを絞らせない。知将が仕掛けた巧妙な戦術的“罠”は、熊本の体力を消耗させると同時に、その知力をも試そうというものでした。もちろん、これまでも単に跳ね返していただけではない熊本でしたが、さらに考えながら守り、攻める必要がありました。その局面は、まさに“我慢くらべ”といった様相を帯びてきます。

ただ、崩れそうになる瀬戸際も、柏のここぞというところでのパスミスに救われる。あるいはクロスボールの質がいまひとつ。度重なるアーリークロスにもソンジンが身体を寄せて自由にヘッドを打たせない。51分にはカレンが宇留野のパスに右サイドを抜けてエリアに侵入。角度のないところから打ちましたが、枠の左に抜けていきました。

柏は田中を下げて、U-21のFW工藤を投入。さらには林を諦めホジェル。それに対して熊本は運動量の落ちた宇留野に代えて西。代わったばかりのホジェルが、左でもらうと強引にミドルを放つ。これは間一髪か、あるいは予測の範囲だったのか、南が横っ飛びでクリア。81分にはロングボールをホジェルが落として、走りこんだ北嶋。左足で撃ったシュートはサイドネット。熊本もカレンが右へ流れて、上がってきた吉井に出す。吉井のグラウンダーのミドルは左に反れる。

後半途中に南が攣った足をケアする時間があったことで、アディッショナルタイムは6分という長めのものになりました。それは柏にとっても熊本にとっても、勝ち点3をとるための得点1を奪うには十分な時間だと言えました。

柏の攻撃を潰した福王が、ここぞとばかりにロングフィード。西が一騎で左サイドを粘り中央に入れる。しかし走り込んだカレンには一歩追いつけないタイミングの早いパスでした。今度は柏が北嶋から途中出場の小林にはたくとダイレクトでクロスを入れる。ゴール前の大津のシュートは決定的でしたがまたもや南がセーブします。激しい攻防。奪い奪われ、最後の力を振り絞るように反転する両軍。ホイッスルが鳴った瞬間、柏の選手の多くがピッチに倒れ込みました。勝ち点3を奪えなかった悔しさなのか、攻め続け消耗しきったためなのか…。

終わってみれば柏のシュート数は21本。しかし堅固な守備システムで戦った熊本。最後までゴールを割らせませんでした。ただそこには、圧倒的にポゼッションされてはいるものの、完全に引いて篭るという戦術イメージではなく、潰したら、どこからでも一気にカウンターに持っていくんだという明確で強い意志、戦略がありました。ゴールまで一直線で持っていくイメージを常に全員が共有しながら網を張っているような。だからこそ最後まで、その戦術的“意志”が揺らぐことも緩むこともなかった。そして実際に幾度も相手ゴールを脅かしました。柏と同様、熊本にも、あれが入っていれば、というシーンがいくつもありました。勝てはしなかったものの、勝ち点1をもぎ取った。そして、「最短なら次節で優勝」という柏の計算をみごとに狂わせた。試合後の高木監督が、どこかしら満足気な笑みに見えたのはわれわれの思い過ごしでしょうか。ゴール裏が繰り返した「ロアッソ熊本!ロアッソ熊本!」というチャントは、「よく頑張った!」という声に聴こえました。

試合後、わざわざ柏のゴール裏まで行ってお辞儀をする南に、再び大きな拍手が送られました。そして帰り際、シジマールを始め多くの柏スタッフとも互いの健闘を称えあう。クールダウンする姿に、いつまでも柏の子ども達から「ユータ!ユータ!」と声が飛ぶ。試合前にはゴール裏のコールリーダーが、南の応援歌だった「太陽に吠えろ」のテーマをアカペラで歌い、相変わらずのユーモアで煽る。この試合、柏の攻撃を完封に抑えた熊本のヒーローは、このピッチで12年間という長い長い時を過ごした、柏というチームそのものだった男でした。ほんとに愛された選手だったんだなぁと実感する。われわれが知らないその長い時間を、なんだか“嫉妬”してしまいそうです。

後半途中で珍しく足を攣ったことをブログで「アドレナリンが出すぎちゃって」と恥ずかしがった南。「また来年?再来年?かわかりませんが、いつかまた日立台でプレーするのを心の底から楽しみにしています」と書きました。北嶋は先制のチャンスを棒に振ったことを悔やみつつ、「相手のGKが改めて良いGKだと思った」とコメントしました。そんな北嶋に南は「この2、3年お互い紆余曲折、色んな状況があったけど、またこうして同じピッチで敵としてだけど戦えた事を誇りに思う」と。「また必ず試合しようなっ!」と。「次も絶対0に抑えるから」と。そうエールを贈りました。

ブログの最後を「ロアッソ熊本 南雄太」と締めくくった南。絶対J1に上がろう。この南と一緒に。われわれに改めてそう強く感じさせてくれた、そんな男の在り様を見た思いです。


10月17日(日) 2010 J2リーグ戦 第30節
徳島 1 - 0 熊本 (19:04/鳴門大塚/3,322人)
得点者:5' 津田知宏(徳島)


時間は開始からわずか5分というところでした。バイタルが少し緩くなったところで曲者・柿谷が収めたあと、中央に小さく軟らかいパスを送る。そこに走りこんだスピードという“力”をボールに伝えるように津田が鋭く振りぬくと、グラウンダーのシュートは南の手をすり抜けてゴール右角に突き刺さりました。J2得点王を争う津田の、見事という他にないようなシュート。いつもなら早い時間帯でのこの事故にも似た1失点は、すぐに切り替えて臨むのに十分な時間が残されていたわけですが…。しかし今日のこの失点は、「守備から入る」ことを信条としているチームにとって、ゲームプランの変更を余儀なくされるだけでない、予想以上の大きな“ビハインド”になりました。

天皇杯を挟んで再開されたリーグ戦。相手は3連敗中の徳島とはいえ、アウェー鳴門では過去、勝ち点どころか、まだひとつのゴールも取れていない熊本。まさに鬼門の地と言えました。

徳島 (先発フォーメーション)
19平繁 11津田
13柿谷7徳重
8倉貫14濱田
24井上25平島
2三木20ペ・スンジン
 23日野 

熊本 (先発フォーメーション)
32カレン 10松橋
33片山11宇留野
30渡辺22吉井
19堤24筑城
6福王16矢野
 18南 

熊本も決して入り方は悪くはなかったのです。特に今日は徳島の弱点を左サイドとスカウティングしたうえで、右の宇留野を起点に次々とチャンスを作る。そんなジャブの撃ち合いのような時間帯での早い失点に、昨年の0-6の展開が頭をよぎる。一方で、今季のサッカーなら必ず勝機が訪れる。そんな相反する緊張感とともに試合を見つめます。

吉井が右サイドで作って、中の松橋にパスを送る。松橋のシュートは惜しくもDFに当たって枠の左。続くCKにファーの福王がヘッドで中に入れる。ゴール前の松橋が頭で押し込みますが、ゴールライン上にいた倉貫が跳ね返す。なんとも惜しい場面。相次ぐCK。片山のキックに再び福王のヘッド。これはゴール前でバウンドしてピンボールのようにポスト、バーに跳ね返される。そこに松橋が反応して蹴りこむが決まらず。続いて福王が、片山がこぼれ球を蹴り込むがそれでも徳島ゴール前の厚い壁に跳ね返されて、決めきれない。

熊本の猛攻に対して、「もう一点取らないと、この試合勝てないぞ」と敵将・美濃部監督はハーフタイムに檄を飛ばしたそうです。自陣に押し込まれていた徳島でしたが、徳重や平繁がときおり鋭いカウンターで好機を作ります。しかし南を中心とした守りで熊本ががっちりブロックするという展開。

宇留野に代えてファビオを投入。一気に圧を掛ける熊本。ファビオが溜めて、吉井も上がれるようになります。中央で奪うと速攻。左から入れたパスをカレンがスルー。ファビオが繋いで右に走り込んだ松橋が奥深くからクロス。これはDFがクリア。続く左CKからファビオの高い打点のヘッドは惜しくも右に反れる。筑城が右サイド抜けてグラウンダーのクロス。クリアボールに詰めた吉井のミドルは跳ね返されます。

自陣に釘付けにされている徳島は、打開策として平繁に代えてドゥグラスを投入。早速そのドゥグラスがカウンターで抜け出しますが、シュートは南がセーブ。熊本は堤を下げて西森を右SB。筑城を左にスウィッチして更に攻撃的に。これに対して徳島は完全に引いてしまう。西森が右サイドドリブルから左足に持ち替えてクロス。飛び込んだ吉井、フリーのヘッドは狙いすぎたのか枠の左。ほとんど1点。状況は悪くない。悪くはないが時間もどんどん過ぎていく。

残り10分になって、徳島は柿谷に代えてさらに六車で守備固め。熊本は松橋から西に交代。西森のCKをGKがパンチング。これを拾った福王がシュート。跳ね返りを左から矢野が押し込むが決まらない。

残り5分。もう徳島は出てこない。西の一騎のドリブルが潰される。味方に何か要求している西。このシャイな男も熱くなっている。徳島は津田に代えて羽地を投入。担架を要求した津田のあからさまな時間稼ぎに、アディショナルタイムが3分から4分に修正される。点差がわずかに1だからこその徳島の狡猾さ。同時に熊本にとっては1点取るには十分な時間。しかし、片山が入れたクロスも跳ね返されると、ドゥグラスにカウンター攻撃をくらう。強烈なシュートを南がなんとか防いだところで終了のホイッスルが鳴ってしまいました。

1点を先取したあと、時間を追う毎に自陣深くに引いていった徳島。ゴール前で身体を投げ出すようにシュートをブロックし、泥臭いまでの守りのサッカーを実践した。内容を問わず勝利に執着した姿は、とにかくこの3連敗という悪い流れから抜け出したい。そんな気持ちの表れだったのでしょう。熊本はいわばその気持ちを上回ることができなかった。12本のシュートを打ちながら、この1点を覆すことが最後までできませんでした。

テレビカメラは試合中、時間とともに歪んでいく高木監督の表情を映し出していました。彼は果たして何を思っていたのか。

試合後には「内容的には悲観するようなシーンはなかった」とコメントしました。立ち上がりの失点に関しても、徳島に関するスカウティングの「誤算ではない」と。ある意味、あのゴールは相手を褒めるしかない。そんな意味にも受け取れます。結局は「こういうゲームをひっくり返すこともこれからの我々の課題」であり、ひっくり返す意図を持った攻撃を組み立てることはできていましたが、結果としてひっくり返すことができなかった。その力が今の熊本には無かったということなのかでしょうか?

先発の選手起用に問題はなかったのか。繰り出したカードは奏功したのか。あの終盤の何とも言えない歪んだ表情。この試合について、監督は相当考え込んでいるのではないでしょうか。試合後のスタッツを見るまでもなく、相手とはほぼ互角。そのなかで1-0という最小点差で敗れた事実には、選手起用を含め今持てるだけのチームの総力を出し切れたのか、引き出せたのか、指揮官自身の能力が浮き彫りにされたゲームだったからです。

もうひとつ、この試合の結果論、善し悪しとは別の次元で、今われわれが注視している点がいくつかあります。片山の先発出場とともに原田がベンチを温め、渡辺が起用され始めたこと。ほぼプレースキッカーは片山が努め、同じく左足の平木も呼ばれなくなったこと。片山に試合中アクシデントがあったときに備えて、左足キッカーとして原田を温存しているのか。堤を下げての西森投入も、攻撃的意味合いより、右足キッカーの交代に見えます。もちろん、相手が完全に引いてしまったこの試合展開のなかで、セットプレーは大きな得点機であることに違いありませんが。

さらに言えば、カレンがやりたいことと周りの選手から見た彼のプレーへの理解が未だにかみ合っていないことのジレンマ。それでも使い続けるのは、ここをブレークスルーしなければ意味がないということなのか。では、松橋との相性はどうなのか。ファビオはやはり後半途中のカンフル剤なのか。FW3人を選ぶとすれば、やはりこの3人になり、この順番になってしまうのか…。相手が引いているからこそ、打開策の引き出しを持っているのは藤田ではなかったのか。また藤田こそ、カレンを活かせる選手ではないのか、などと。しょせん、素人ファンの、結果論的堂々巡りに過ぎませんが。

「内容はよかった」「惜敗だった」という声もある。もちろん監督も言うように悲観する必要は全くない。確かに、このカテゴリーでこれだけ引かれて、守られてしまったことはほとんど初めて。しかし、こんな相手、こんな試合こそ力づくでも逆転で勝ちきれるチームにならなければ、J1の扉を口にするのは、まだまだおこがましいというのも実感でした。1-0という試合を自分のサッカーの美学だとも言う高木監督が、その典型的ゲームを相手に演じられて何を思うのか。考えろ、考えろ。次節は柏戦。決して勝てない相手ではないと監督も選手たちも思っているだろうし、われわれファンもそう思っているのだから。


前日まで年甲斐もなく自家用車交代運転での弾丸ツアーを決行しようかと迷っていましたが、最終的には断念しました。初めて熊本がJ1勢それも王者・鹿島と戦うその試合をこの目で確かめたかったのももちろんですが、試合レポートに穴が空いてしまうのが不本意で。ただ、振り返ってみれば2年前の天皇杯・栃木戦のときも、散々NHKに毒づきながら試合自体はレポートできていないことに気づきました。(しかし、皮肉にもそのとき書いたエントリーが、今でも越えられない記録的な拍手をいただいているんですが。)

まぁ、NHKがこの日、ソニー仙台×C大阪、新潟×町田というカードを中継に選んだのは仕方がない。アップセットが醍醐味のこの大会において、JFLのチームがJ1チームに挑むのですから…。それに滅多に電波に乗ることのないJFLのチームですから、ファンとしても大喜びだったでしょう。われわれがそうであったように…。ただ、あれだけ放送帯を持っているのに、生放送もなし。生と録画を駆使すれば、倍以上のカードが放送できたはずです。もはやここまで試合放送が少なくなってくると、この天皇杯というコンテンツを、放送局NHKが独占していること自体が罪のような気がします。

ところがそこに救いの手が差しのべられました。なんと鹿島の公式ウェブサイトで、インターネットラジオでのライブ中継があったのです。ラジオだから独占的なNHKからも許されるのか、クラブの公式サービスだからなのか…。ま、細かいことはどうでもいい。とにかくありがたくPCの前に座りました。

この実況自体傑作でしたね。鹿島公式ゆえに、完全に向こう寄りなのはあたり前として、主審のジャッジに対してあからさまに不満を示す。しかも、場内アナウンスと兼務しているために、点が入ったとたんスウィッチを変えて「ただいまの得点は…」と場内へアナウンスする声も入る。両チームのチャントも聞こえるし、目の前にあの鹿島スタジアムが浮かんでくるようでした。いやぁ、ラジオでサッカーを聴いたのも何年ぶりかわかりませんが、手作り感満載なのに実況自体は的確で、なんというか鹿島の懐の深さというのか、重ねた年輪というのか、妙なところでJ1を実感してしまいました。そして同時に、われわれが掲示板にケータイから稚拙な試合速報をしていたあの頃のことも思い出す。

マーケットのニーズには逆らえない。メディアが多様化した今、どんなにコンテンツを独占しようとしても無理なのではないか。特にJリーグを頂点としたサッカークラブは、地域コミュニティを土台としたもの。これからもどんどん細分化、深化されたニーズに適応した新たなメディアが現れてくるような気がするし、そのキャスティングボートはコミュニティ側、われわれファンの側が持っているような気がします。天皇杯に関してNHKに感じる違和感も、きっとそんな過渡期の状況を表しているのかも知れない。なんてことも思ったりしました。

試合のほうは、やはり鹿島に支配されている時間が長く続いたようですね。早々にマルキーニョスにゴールを割られる。しかし熊本もセットプレーのこぼれ球を繋いで、福王が中央からミドルで同点。その後しばらくは熊本も攻勢だったようですが、前半のアディショナルタイムのCKで岩政の頭にやられました。ここを守り切れていればまた後半の展開も違っていたのかも知れません。

松橋もファビオも藤田をも欠いた熊本は、カレンをトップに置いた4-5-1という布陣だったようです。鹿島の選手の多くが言及し、先の実況アナも「引きっぱなしで出てこない熊本」みたいな言い方をしていましたが、J1王者・鹿島相手に守備的な戦略で臨むのはあたり前のこと。「持たされるより持たせているような状況を自分たちからつくっていって、カウンターもしくはセットプレーでなんとか点を取るということが目的」だったと高木監督も試合後はっきり明言しています。支配しながら崩せない鹿島側のイライラが、そんな言葉や主審への不満に表れていたのだと感じました。

高木監督は、とにかく鹿島という“力の差のある”チームに勝つために、勝機をうかがうためのシステム、戦術を駆使し、選手はこれを十分に理解し、応えた。愛媛との二回戦で“ますます複雑なモチベーション”と書いたような空気はなかったようです。まだまだ続くリーグ戦に向けても、また昇格への長い戦いに対しても、確かなものを持ち帰ったのではないか。そんな戦いだったような気がします。

最後に、敵将オリベイラが、熊本についての印象を尋ねられたコメントを全文書き留めておきます。この王者・鹿島との対戦を“記念”とするのではなく、近い将来、同じカテゴリー、もちろんJ1で戦う日のための“記録”として…。
そして来るべき日にこの初対戦をしっかり思い出すために、この観戦記ともつかないエントリーを「対戦レポート鹿島」の第1回目としておきたいと思います。

10月9日(土) 第90回天皇杯3回戦
鹿島 2 - 1 熊本 (13:00/カシマ/3,834人)
得点者:14' マルキーニョス(鹿島)、26' 福王 忠世(熊本)、45'+2 岩政 大樹(鹿島)

Q=熊本についてどういう印象を持ちましたでしょうか?
「おもしろいチームです。今日はトーナメント方式ということでやり方を変えているということが明確にわかっていました。J2の前節の試合も見ましたし、その他の試合も見ました。まったく違うやり方であって、もっと攻めの部分でもいろいろな方策を取っていて、組織的なプレーやポジションチェンジといういろいろな狙いを持っていました。今日は、この大会方式も影響してやり方を変えているのだと思います。選手個人でもおもしろい選手が存在しますし、将来的にはおもしろみのあるチームではないかと思います。リーグ戦とは全く違うやり方を取っていることは把握しています」(J‘sゴール)



10月9日(土) 第90回天皇杯3回戦
鹿島 2 - 1 熊本 (13:00/カシマ/3,834人)
得点者:14' マルキーニョス(鹿島)、26' 福王 忠世(熊本)、45'+2 岩政 大樹(鹿島)

10月3日(日) 2010 J2リーグ戦 第29節
熊本 2 - 1 福岡 (16:03/熊本/16,098人)
得点者:27' 松橋章太(熊本)、51' 松橋章太(熊本)、82' 高橋泰(福岡)


秋雨前線の通過で、激しい雨に見舞われたKKウィング。試合開始時には曇り空になってきたものの、ピッチは非常にスリッピーに見えました。蒲島知事が試合前、「わたしが観戦する試合は負け無し」と豪語し、そしてそのとおりの結果になり、今季最高の入場者数となった1万6千人とともに勝利に歓喜しました。

熊本は前節まで2連敗、4試合勝利から遠ざかっていました。累積カードで欠場していたDFの要、福王が3試合ぶりに復帰。守備の立て直しに期待がかかりました。一方の福岡は昇格圏内の3位に位置するものの、前節、首位柏相手に何もさせてもらえず敗戦。ここで連敗してつまずくわけにはいきませんでした。

福岡 (先発フォーメーション)
 16岡本 
 10城後 
14永里7久藤
22末吉15中町
17中島3山形
5田中6丹羽
 1神山 

序盤、そんな福岡の貯まっていたフラストレーションを吐き出すかのような攻勢に見舞われます。CKを南がパンチングで逃れますが、岡本に転がり強烈なシュート。これは枠を大きく外れてくれます。あるいは永里の早いクロスに、右から虚を突いたように入ってきた久藤に合わされますが、南の正面に収まる。続いては左位置からFK。中島のキックはゴール前に飛び込んだ中町が右足に当て、南がなんとか触れるもののボールはポストに当たってゴールイン。しかしこれもオフサイドの判定に胸をなで下ろします。

そんな福岡の時間帯。押し込まれているものの、しっかり凌いでいる熊本。今日は球際に強く、厳しく、前線からのプレスを忠実に行っている。渡辺と吉井のチェックも厳しい。福王がよく“しゃべり”、よく指示を出している。そんな27分。

今日は中に絞りぎみの片山。十分DFを引きつけたあと、上がってきた堤にはたく。堤が狙いすましてクロスを上げると、中央でカレンが競りながらすらして、ファーの松橋にこぼれたボール。うまくトラップして前を向いた松橋がすかさず振り抜くと、ゴール右上に突き刺さりました。劣勢に見えた熊本の先制点に、地響きのような歓声が沸く。「してやったり。」「どうだ!福岡」とばかりに。

その後は、熊本の厳しいプレスに前に運べなくなる福岡。なんとかこじあけようと中盤での激しい攻防が続きます。縦に入る福岡のボールをカット。特に福岡のキーマン・中町には渡辺、吉井がきっちりマークして自由にさせていない。守備がうまくいっていると両ボランチも攻撃に参加できる。筑城は相手のカウンターの芽を潰している。1点先取のまま前半終了。

後半の入り方は熊本に分がありました。左から右から3人目、4人目が上がってきての波状攻撃。追加点を狙います。右サイドでカレンが落としたボールに筑城が走り込んで右足シュート。これは惜しくも左に抜ける。しかし積極的、そして連動している。

追加点はまた福岡の攻勢を凌いでからでした。自陣でがっちり守り切ると、宇留野がロングフィード。前掛かりになっていた福岡のDFは2人。その間をうまく抜け出した松橋。飛び出してきたGK神山の動きを見極めるようにトラップ一発で交わすと、まだ距離は残されていましたがゴールに向かってうまく流し込みました。

2点のビハインドを追いかけることになった福岡は、久藤に代えて田中を入れる。予想された交代。この田中のスピードを抑えられるかが、この試合の鍵とも言えました。左SBの堤とボランチで必死に抑えに掛かる。再び、前掛かりの福岡の裏を突くように渡辺からカレンにスルーパス。完全に抜け出し、GKとの1対1でしたが、これは神山に防がれる。惜しい。

福岡が大久保を入れたところで、熊本はファビオ。宇留野を下げて松橋を右サイド、ファビオとカレンを2トップとします。

このすぐあと、福岡にビッグチャンス。中町、岡本、大久保、再び岡本が貰って放ったシュートは南の手をかすめ、バーに当たり事無きを得ますが、今度はこぼれ球を永里が左からシュート。ここは矢野が身体を投げ出して防ぎます。続いても左からクロス。ファーで折り返して中央に上がっていた丹羽がシュート。これもバーに当たり跳ね返りました。絶体絶命のピンチでした。

岡本を諦め高橋が登場。こうして福岡が最後のカード切ってくると、試合は俄然、攻守切り替えの早い終盤の局面を迎えました。大久保のミドルはポストに嫌われ、ファビオが入れたパスにカレンのシュートは弱い。それにしてもボールを失わないファビオ。福岡のDFも数人がかりで囲み、手こずっている。ロングボールにDFの裏を取ったファビオが、飛び出したGK神山と交錯する。もんどり打って倒れたファビオに、真っ先に駆け寄るのはエジソン氏。目を開き、ようやく起きあがったファビオの勇気あるプレーに、ゴール裏からは盛大な「ファビオ」コールが起こりました。

ラスト15分、熊本も疲れの見える松橋に代えて西を投入。しかしすぐその後のことでした。ロングスローにPA内で永里と競った筑城の肘が入ったと笛が鳴る。異議を唱える熊本イレブン。その騒動の間に真っ先にボールを拾いに行ってしっかり抱いているのは、誰あろう高橋泰でした。怪我から復帰したばかり。試合からもかなり遠ざかっていた。このPKを決めるのは俺。誰にも譲らない。熊本のファンから送られる盛大なブーイングなか、古巣のゴールマウスにきっちりたたき込みます。

1点差に迫られる。残り時間は10分。勝ちたい。今日はどうしても。吉井が奪って右サイドにファビオを走らせる。再び飛び出したGK神山を交わして角度のないところからゴール左に流し込むようなシュートを放ちますが、ファーサイドのポストに当たり運悪くはね返る。ミドルレンジからの西のシュートは左にそれる。

残り5分。右から高橋が運ぶ。永里の早いクロスは大久保に合わず抜けてくれる。田中のクロスを跳ね返す。西のカウンター。ドリブルで仕掛けPA前で倒されるがファールなし。遂にアディショナル・タイム。時間は4分。片山に代えて山内で時間を稼ぐ。そして隙あらばカウンター狙い。福岡のFKに大久保がフリーで飛び出すが、スリッピーな芝に足をとられて救われる。福岡のロングスロー。こぼれ球を飛び出してキャッチした南が“吠える”。チームを鼓舞している。勝つぞ。今日は絶対勝つぞ。福岡はもう前線に長いボールを入れてくる。跳ね返す。西のチェックがファールを取られる。ゴール前で与えたFK。すでに時計は4分を回っている。どう考えても最後のプレー。そう知ってじっくりと時間を掛ける福岡。ボールの前には中町、中島、高橋。スタジアム中の熊本ファンが一体となって手拍子している。このFKは絶対跳ね返す。神様、今日ばかりは勝たせてください。そう祈るように…。中島が蹴ったボールは枠を捉えていましたが、がっちりと南がキャッチする。それと同時に終了のホイッスルが吹かれました。

熊本には、連敗脱出というテーマと同時に、前回なすすべもなく6-1で大敗した相手に雪辱を果たすという“意地”がありました。昇格圏内の福岡は、ここで連敗できない。しかも九州の新参クラブに足元をすくわれるわけにはいかないという“意地”もあったことでしょう。そんな意地と意地が激しくぶつかり合い、火花を散らした試合は、僅かに気持ちで上回った熊本に軍配が上がりました。

走りで上回り、球際で上回った熊本のプレーからは、選手達の強い気持ちが伝わってくるようでした。試合後の高木監督のインタビューを読めば、もちろん福岡をかなり研究していたことがわかります。しかしその戦術をベースにしながらも、結局勝負を決めたのは、この日の選手たちの“気持ち”ではなかったのでしょうか。そのモチベーションを問われて指揮官は「それは選手に聞いてください」と答えるにとどめています。

愛媛戦の直後のロッカルームだけに止まらず、この1週間、選手たちは自発的に話し合いを何度も行ったそうです。試合後、スカパー!のアフターゲームショーで司会の平畠氏から「話し合ったことは福岡対策だったのか」と問われた松橋は、「いや、自分たちのやり方をはっきり(見直)して、それをやっただけ」と答えました。

思えば、記録的な猛暑のなかでの連戦中、「行くところ、行かないところ」という緩急の付け方がうまくなったといつかの試合レポートで書きました。しかし、それが次第に選手の間で戦術的なズレを生じさせてきていたのではないでしょうか。「前と後ろでの守備の時の意識というか、感覚のズレについてたくさん話をして、それがいい方向に働いたと思う」と言うのは、復帰いきなり頼もしい闘将ぶりを発揮した福王でした。そして、気温が30度を下回ったこの試合、指揮官は、「今日は行けるところまで前から行く」と指示したのだと言います。一番分かりやすい戦術意思統一の表現ですね。そして結果、最後まで行った。

動員の掛かっていた先のサッカーフェスタの敗戦時、「初めて訪れたかも知れない人たちに、“ロアッソのサッカー”を見せられなかったのが非常に残念」とエントリーに書きました。しかし今節こそ間違いなく、「1万人以上のファンやサポーターが、翌日『昨日のロアッソの試合は面白かった!』と職場や、学校や家庭で口々に話題」にしているに違いありません。今日の試合こそまさしく今季のロアッソのサッカーを象徴するものでした。一度は迷い、方向を見失ったかに見えましたが、チームは、選手たちはしっかり自分たちで原点を見つめ、立ち戻ってくれた。昇格圏・福岡というチームを迎えて、攻守の切り替えの速さ、惜しみない運動量、スタンドにも伝わる闘志。そして、一点を巡る痺れるような時間感覚。どんなに初めての観客にとっても、今日はサッカーの面白さすべてが詰まった、そんな試合だったのではなかったでしょうか。そしてこの試合を観た初めての来場者の多くが、きっとロアッソが好きになったに違いありません。