11月28日(日) 2010 J2リーグ戦 第37節
熊本 3 - 0 北九州 (13:04/熊本/11,048人)
得点者:50' カレンロバート(熊本)、53' カレンロバート(熊本)、85' 西弘則(熊本)


開場してもなかなか前に進まない入場を待つ長蛇の列を見ながら、「隔世の感があるね」とつぶやいたのは、AC熊本の前社長・前田さんでした。「前田さんには特別な席が用意されてるんじゃないんですか?」と尋ねると、「あんなところでサッカーを観るのはまっぴら御免」と笑っていました。多くのファンがこんなに早く足を運んだのは、ロッソ時代からの選手OBとユースとの前座試合見たさでもあり、ホーム最終戦ということでもあり、そして何よりも藤田俊哉の赤いユニフォーム姿は今日が見納めという、どうしようもない突き動かされるものがあったからでした。こうして、今日のコンセプト「絆DAY~過去と今、そして未来へ~」という言葉どおりの一日がはじまりました。

熊 本
27ファビオ 10松橋
23西13大迫
8原田22吉井
19堤24筑城
6福王16矢野
 18南 

北九州
25大島 17中嶋
27多田11宮川
10佐野8日高
7冨士6佐藤
4長野26小森田
 31船津 

北九州のGK。見慣れないなと思ったらロッソ初年度に数ヶ月間だけ在籍した船津でした。北九州に移籍して5年。しかしながら出場機会には恵まれないまま、つい先日、契約満了が発表されたばかり。そしてこれもまた皮肉なめぐり合わせなのか、今日が彼のJリーグデビュー戦になってしまいました。当然、この試合に期するところがあったのでしょう、その意地が爆発します。開始早々、熊本が得たFK。原田のキックはファーポスト付近に落ちる絶妙のボール。この難しいワンバウンドの処理を無難にこなしたプレーが船津に落ち着きをもたらしたのでしょうか。バイタル付近に落ちるルーズボールを西が奪ってDF裏に放り込むと、松橋がダイレクトにシュート。これにも好反応し片手でクリア。このプレーで完全に今日の“当たり”を得た船津、前半の終盤には、吉井のグラウンダーの強烈なミドルも横っ飛びでセーブします。

今日も序盤からファビオの豊富な運動量とキープ力で、小森田をCBに置いた北九州の急造DFラインをジリジリと下げさせるものの、なかなか決定機を決めきれない熊本、徐々にアタッキングサードで手こずり始めます。途中、ファビオが痛んでカレンと交代。終了間際には宮川のクロスに、ゴール前中央に入り込んだ大島に低いヘッドをフリーで撃たれるも、幸いなことにポストの左。南も反応できず見送るしかなかった危ない場面でした。

この危うい膠着状態を打ち破ったのは、アクシデントによる早めの交代で時間を得たカレンでした。後半開始早々の50分、原田のミドルがこぼれるところ、しつこくセカンドボールを拾った熊本は、筑城がPエリア右に回り込んでエンドラインギリギリから上げると、カレンが中央ややファー寄りから頭できっちり捉えて先制点を上げました。「カレンがそこに入っていると思っていた」「きっと和さんが上げると思っていた」。カレンと周りの選手の呼吸が、ようやく“阿吽”で合ってきた、そんな連携を感じさせるプレーでした。

さらに先制点の興奮も冷めない53分、北九州のCKをセーブした南が中盤の大迫に低く早く出してカウンター。カレンから原田へ、さらに左を駆け上がった堤に渡ると、堤は中央を猛然とダッシュしてきたカレンに折り返す。これを右足で狙いダイレクトにゴール右角に突き刺す。カレンの連続弾で2点先行。スタジアムは、待ち侘びたエースの爆発に大歓声。タオルマフラーがぐるぐると回されます。

「点を取ったら選手みんなが喜んでくれた。心配してくれていたんだなと…。」(29日付・熊日)と言うカレン。それはチームメイトやファンが待望していた“結果”だったのはもちろんですが、磐田時代から可愛がってもらった藤田のラストゲーム、勝利で花を添えたい、絶対に負けるわけにはいかない、そんな思いがこもったゴールのようでもあり、われわれも感極まります。さぁ、あとは藤田。藤田からのパスでカレンのハットトリックが見たい。スタジアムに詰め掛けた誰もがそんな気持ちで藤田の登場を待っていました。

2点を取った熊本に、ややルーズさが見え始め、北九州がタチコや長谷川の投入で、しぶとく熊本陣内に攻め込み、好機をつくりはじめます。そして後半も30分を過ぎた頃。まさにその時間帯。藤田が投入されました。今年の高木サッカーが標榜した“残り15分から戦えるチーム”。それを自ら体現し、その使命を全うしてきた男。カレンをワントップで残し、トップ下に入った藤田。バイタルエリアでのボール回しからPエリア内に入るも、上がってきた堤を使う。やはりチームプレーに徹している。最後までこの男はそんな奴なんだなと…。

今のこの時間、その一瞬を、プレーのひとつひとつを目に焼き付けておこうと思いました。この男が赤いユニフォームで走る姿を。状況を落ち着かせ、あるときはタメを作り、あるときはワンタッチで切り裂くプレーを。昨シーズン、名門ヴェルディとの初対戦。2点先行されたあとの前半終了間際に決めたヘディングでのゴール。「下を向くのはまだ早い」とばかりに、その後の大逆転劇の口火となった。あるいは昨年第二クールのアウェイ湘南戦。藤田のゼロトップで見せた西とのパス交換。解説の三浦俊也氏を唸らせ、ピッチサイドの名波を喜ばせ、敵将・反町監督の心胆を寒からしめた。昨季は51試合のうちの50試合出場して鉄人ぶりを見せた。今季も途中投入ながら、ピッチ上の指揮官としてチームを鼓舞し、指示を飛ばし、敵の前に立ちはだかった。今、目の前を走りまわる藤田俊哉に、そんなこれまでの姿が次々と重なり、甦ってくる。ゴールを決めたときも控えめにガッツポーズし、どんな惨めな負け試合のあとも、最後までファンに手を振ることを忘れなかった姿を。われわれは決して忘れることができない。こんなすごい選手が熊本の一員としてわれわれの前にいたことを。残された時間はたった15分足らず。この日ばかりはロスタイムが何分あってもいい。試合が終わらなければいい。何とも言い難い名残惜しい時間でした。

85分には再びカウンター。藤田を起点に左のカレンにボールが渡る。単身で切り込むカレン。Pエリア内で一人交わすと中に折り返す。中央に走り込んだ西のシュートはGK船津が触るもののこぼれてゴールマウスを割る。試合を決定づける3点目。後は、ただただ時計だけが進んでいく。そして長い長い笛が吹かれる。あとで見たスカパー!!の録画で、山崎アナが「藤田は札幌には帯同しない」と言っていたのを聞き、あの笛が、藤田俊哉との別れの笛だったことを知りました。

初冬の冷たい風に震えながらも、スタンドには別れを惜しむたくさんのファンがセレモニーを待ちました。昨年以上に、このセレモニーにも残る人が増えてきたようです。自ら入場者の列の整理に汗をかいていたという岡社長が、今は社長本来の仕事として挨拶に立つ。ほんとにこのクラブは、一体となったファミリーのようなクラブだ。

山下、松岡、井畑、山内、渡辺。契約満了を告げられた選手達のそれぞれの想いのこもった挨拶のあと、藤田がマイクの前に立つ。それはいつものように回りに気を使った言葉に終始し、この決断にどんな葛藤があったのかは伺い知れませんでした。ただ前週に放送されたRKKのインタビューでは「もう少し若ければ高木さんのもとで、ポジションを掴む戦いに臨んだのだが」「これから可能性のあるクラブなだけに」思い悩んだということを吐露しました。

クラブは藤田に来年もオファーを出しました。年俸などの条件とは別に、今後指導者としての道を歩むためのバックアップ体制も提示したのだと聞きます。それは藤田俊哉が選手としてだけでなく、ひとりのサッカー人としてこのクラブにもたらしたものの大きさ、また日本のサッカー界にとっても大切な人材であることを示すものでしょう。今後もこの新興クラブを引っ張る先導者であり続けてほしいと。しかし現役にもこだわる藤田の今現在の気持ちとは少しギャップがあったのかもしれない。また、熊本へ来るときにも相当の葛藤材料になった「家族と離れての単身赴任」ということも、この機会に再び浮かび上がったに違いない。われわれはそう推察しています。ただ、一度たどり着いた決心が揺らぐことはなかったでしょう。そして岡山戦後のオフの日、球磨の藤田社長を自ら訪ねて、きちんと決意を伝えたそうです。そんな律儀さもなんとも彼らしい。だからこそ誰からも愛され、尊敬されるのでしょう。

思えば熊本という田舎の新参クラブが藤田俊哉に巡り会えたことは、今でも“奇跡”という他に言いようのないようなものだったのかも知れません。ほんの短いわずか2年間の出来事、でもそれはわれわれにとって夢のような歳月でした。この男がわれわれのチーム、われわれのクラブにもたらしたものは計り知れない。われわれのクラブの歴史に刻み込まれた至福の2年。何よりわれわれファンの記憶に深く深く刻み込まれました。

当たり前のことながら出会いがあれば、別れがある。多くのものを貰ったわれわれですが、願わくば、もしこの熊本での経験が、サッカー人・藤田俊哉の人生に少なからぬ何かをもたらしたとするなら、それこそわれわれにとって大きな喜びと言えるものです。ありがとうございました、藤田選手。あなたのこれからのサッカー人生と、われわれのクラブの未来と、またいつか出会い、重なるときが必ずくるでしょう。それはピッチの上での敵味方なのか、あるいはもっと別の立場なのか。その日を楽しみに、ひとまず今日は心からのお別れを言いたいと思います。

11月23日(火) 2010 J2リーグ戦 第36節
大分 1 - 1 熊本 (14:34/大銀ド/14,176人)
得点者:54' 井上裕大(大分)、56' 片山奨典(熊本)


この大分戦に前後して、退団する選手あるいは契約満了選手が公式に発表されました。毎年のことながら、心の中にぽっかり穴が空いたような、色んな思いが交錯するそんな季節です。しかし、その発表の一番最初が藤田選手だったのは、驚きとともに非常に残念でした。藤田俊哉選手に関しては気持ちを落ち着けて、いずれまとまった文章を書きたいと思っています。とにかく今回は、久しぶりに行ってきたアウェー大分戦をレポートします。

熊本から阿蘇を越えて車を走らせること3時間。今は大分銀行ドームと呼ばれる大分スポーツ公園総合競技場に到着しました。半オープンのドーム型スタジアム。アウェーゴール裏は半分だけに制限されていましたが、バス8台プラス自家用車組多数と伝えられた熊本からのファンが、逆に密集している分、ロアッソレッド一色。“声の束”もまとまって太く響きわたる。大分の青と、熊本の赤のコントラストが美しい。スタジアムは試合開始前からヒートアップ。バトルオブ九州。互いに勝利への意地がかき立てられます。そう、数日前に熊日夕刊に載った広告のコピー「決着をつける。プライドを賭けて。」という気持ちに。

試合前にアップする選手たちに向けられるゴール裏サポーターからの選手名コール。藤田選手にだけは2度繰り返されて。それに気づいて手を振る藤田選手。その姿を見ただけで、われわれロートルファンは胸を熱くしてしまいます。

熊本は前節と同じ先発陣。ただしベンチにはようやく怪我が癒えた市村の姿が。今シーズンに間に合ってよかった。チームが不調に陥るたびに、正直なところ、どれだけこの男の復帰を待ち望んだことか…。対する大分は3-4-3というシステム。東、キムボギョンという攻撃の2枚看板をアジア大会招集で欠くものの、昨年栃木にいた河原は運動量の多い嫌な選手。またワントップにはユースの為田をスタメンで起用してきました。スタメンの平均年齢も22歳前後という、ある意味で次を見据えたような布陣でもありました。

大 分
 28為田 
6土岐田19河原
21刀根4益山
32宮沢14井上
26池田36菊地
 33藤田 
 16清水 

熊 本
27ファビオ 10松橋
33片山13大迫
8原田22吉井
19堤24筑城
6福王16矢野
 18南 

開始早々、熊本にビッグチャンス。片山が左サイドからグラウンダーで入れたセンタリング。松橋がダイレクトで撃つとディフェンダーに当たったボールがこぼれて再び松橋の足元へ。ゴール前真正面だったのですが、シュートは左に反れて先制を逃します。この日、熊本は非常にアグレッシブに試合に入りました。セカンドをよく拾い、大分陣内に押し込んでいきます。とにかくまず“入り方”を意識したというような戦いぶり。

ただ12分頃から大分も徐々にペースを掴み始める。捕まえきれていなかった熊本の前線のマークが落ち着くと、DFラインを上げられるようになる。中盤4人が網を張ってボールを奪うと、前線3人が流動的に攻撃に転じる。19分頃、為田が右サイドを突破してPエリア侵入。そのまま撃たれるかと思ったのですが、ファーに走り込んだ土岐田へのクロスを選択してくれました。このボールに土岐田の頭が届かない。熊本としては難を逃れます。36分には左サイドから為田がファーにクロスを送る。河原がフリーでダイレクトボレーを撃ちますが、間一髪、クロスバーが跳ね返してくれて胸をなで下ろします。続いても大分のカウンターから益山のシュートが、福王に当たり南が逆を突かれるも好反応で抑える。危ない場面が続きます。

熊本もビルドアップはしていくものの、大分の3-4-3のシステムが前後左右でサンドしてボールを奪われる。アタッキングサードで何度もセカンドを拾い、最終ラインを崩そうと試みますが、最後の壁に阻まれる。一進一退にも似た攻防は、守備重視スタイルの両チームを象徴している様でもありました。前半のシュート数は公式記録では大分2、熊本1というものでしたが、後半俄然攻守の切り替えが激しくなって展開がガラっと変わります。

まず押し込んできたのは大分。運動量のギアをシフトアップすると、2列目3列目から次々と前線に顔を出すようになる。54分、大分右サイドから入ったボールを井上がPエリアに縦に入れる。福王のクリアが再び井上にはじき返したようにこぼれてくると、それに足を合わせたような井上のシュートはコースを突いてゴール左角に。南にもタイミングのとれなかった局面。福王のクリアも井上のシュートも、まるでピンボールではね返る玉のように、高木監督が試合後「イレギュラーなケース」と表現したゴールで大分が先制します。

どうだ見たか。とでもいわんばかりの大銀ドーム中の青いサポーターの歓喜。しかしそのわずか2分後には、その勢いは冷水を浴びせられ、沈黙させられます。56分、片山が中盤で貰うと一騎ドリブルで仕掛ける。キックフェイントでファーストディフェンダーを抜いたあと、スピードを緩めずもうひとり抜くと、角度のないところから左足を一閃。ゴールに突き刺し、熊本が同点に追いつく。今度は赤いサポーターが「どうだ見たか」とマフラーをぐるぐる回す番。今節のスカパー!アフターゲームショウのベストゴールに輝く、誰もが認める”技”でした。

ここからしばらくは勢いづいた熊本の時間帯でした。右CKからニアのファビオが反らして中の松橋。ヒールで触るが枠の左に反れる。ファビオが切り込んでシュートを放つも松橋に当たってしまう。こぼれ球を拾った原田の鋭いシュートはポストの左。しかし、この一連の流れ流れでミドルを放った片山が足を痛め退くと、それまで大分陣内を脅かしていた熊本の勢いが、みるみるしぼんでいきます。

矢野のパスミスを為田が奪うとPエリアに侵入。強烈なシュートは南がなんとか防ぐ。河原が何度もアタッキングサードを襲う。果敢にシュートを撃つ。熊本はこの日、古巣との対決で気合いが感じられる原田のプレースキックからカレンが頭で繋ぎ、ゴール前の福王がバックヘッドで流し込もうとしましたがキーパーの手中に収まる。両者決定機を棒に振って、さすがに中二日の疲れが見え始めます。

時間は残り10分を切る。ここで松橋を諦めて投入されたのが市村でした。右SBは筑城をそのままに。市村は一枚前の右SHに入ります。これは奏功しました。というより、ピッチの右半分に太く逞しい柱が立ったような感覚。右サイドを上がると、左足に持ち替える得意のパターン。クロスはファビオが頭で捉えますが惜しくもゴールマウスの右に外れる。続いても右奥に流れた西からマイナスのパスを得意の角度からシュート。枠をとらえた強烈なボールに慌てたGKがパンチング。ボールは詰めていたカレンの足元にはね返りますが、カレンがタイミングを合わせられず枠を外してしまう…。しかし、わずか10分でしたが、市村が帰ってきたことを思い知るには十分な存在感を示しました。

終了間際までカウンターの応酬。両者一歩も譲らない。残り時間数秒でも点は取れる。その1点こそ、この戦いに決着をつけ、勝ち点2を積み上げる重要な追加点でした。しかし、2度目となる大分との戦いも、また90分では決着つかず。痛み分けのドローという結果に、青も赤も違いなくため息をつきました。

ただ、後半、特に終盤にかけてのハードパンチの応酬のようなカウンター合戦は、見る者を飽きさせませんでした。終わってみればシュート数は大分9に対して熊本が12。そのうちゴールマウスを割ったのは確かに互いに1本づつとはいえ、シュートの度に歓声を上げたり悲鳴を上げたり。前回対戦時も感じた、まさにサッカーの醍醐味。それを堪能できたゲームではなかったかと思います。その戦いに決着はつきませんでしたが、確かに「プライドを賭けた」姿は存分に感じることができましたし、われわれ自身もその一員として“参戦”した。そんな気持ちを味わうことができました。

夕暮れ迫る大銀ドームをあとに、青いサポーターに囲まれながら駐車場まで歩く。何も臆することなく歩く。W杯開催スタジアムに圧倒されることも、J1経験のサポーター数に臆することもなく。そんな自信も、今季のロアッソがもたらしてくらたもののひとつではないだろうかと思いました。

前回対戦時にご紹介した奥さんが大分ファンで、旦那は熊本ファンといううちの会社の新婚夫婦も参戦。帰りの車のなかでも気まずくなくて助かったとか。あなたたちにとっては、最良の結果だったかも知れません…。しかし、来シーズンに持ち越されましたが、今度こそは決着をつけさせてもらいますよ。

さて、次節はいよいよホーム最終戦。ロアッソOB対ユースチームというお楽しみもありますが、退団セレモニーでは、間違いなくタオルマフラーをハンカチ代わりに、涙腺が全開になることをもう覚悟しています。その前に、北九州との勝負事にはきっちりカタをつけましょう。

11月20日(土) 2010 J2リーグ戦 第35節
熊本 2 - 1 岡山 (17:03/熊本/5,193人)
得点者:12' 片山奨典(熊本)、67' ファビオ(熊本)、90'+3 李東明(岡山)


良い面と悪い面の両方が出た、いわば今季を象徴するような試合でしたね。良い面は、試合の入り方もよく、連動したゾーンディフェンスで守備からリズムを作って、まるで蛇が獲物を捕らえるように時間をかけて敵を追い詰めていったこと。悪い面は、相手のミスに付け入ることなくその“程度”に合わせてしまったこと。そして、いわずもがな、試合をうまくクローズできなかったこと。しかし、結果的には逃げ切り勝利で、7位の順位を死守しました。

岡山との戦いは“ミラーゲーム”。それはがっちりとマッチアップする同じシステムや、攻守の切り替えの早さを重要視する同じようなチームスタイルから、高木監督が前回対戦でも使っていた言葉でしたが、われわれも昨年の対戦も含めて、まるで自分達と“擬似対戦”しているようだと書いてきました。(どうでもいいことですが、おまけに松橋と岸田という元神戸の同僚だった両チームのFWは、顔が似ていると前々から思っていたのは余談です。)

熊 本
10松橋 27ファビオ
33片山13大迫
8原田22吉井
19堤24筑城
6福王16矢野
 18南 

岡 山
50白谷 9岸田
14小林10川原
38千明8キム・テヨン
30野田2澤口
4近藤3後藤
 21真子 

前節の反省から、厳しくそして慎重なスタートの熊本。初先発で右SHに入った大迫も、いい感じのプレースキックを見せる。前線ではファビオがターゲットマンになって競り、落としたところに松橋が走りこむ。あるいは連動したプレスのための最初の起点として走り回る。エジソン氏が世界バレーから帰ってきてチームに帯同していることで、ファビオを先発で使える。そんなデリケートな背景も前節思い知らされました。

前線からのプレスに苦しみパスミスの目立つ岡山。中盤での熊本の潰しも早い。12分、中央で片山から受けた松橋が前を向こうとしてDF二人に捕まりますが、DFのクリアミスが走りこんだ片山の前にこぼれます。ゴール正面でのGKとの1対1を落ち着いて決め、早々と熊本が先制しました。

今季2点目の片山。攻守に懸命に走り回るからこそ、そこにこぼれてきたボールと言えました。左サイドでの堤とのコンビネーションも熟成されてきて、片山を追い越して堤が上がる。あるいは堤に自分を使わせる。

ただ岡山も黙ってはいない。19分頃、素早いカウンターから数的有利を作ると下がりきれない熊本DFの裏に白谷が抜ける。右45度から撃たれたシュートは、左ポストが阻み事なきを得ます。続く28分にはスローインを奪われ、またも白谷に右サイドを突破される。南との1対1になりましたが、勇気ある飛び出しでシュートを撃たせませんでした。

粘り強く守って次のチャンスを焦らず待つ。そんな姿が、冒頭言ったように大蛇が獲物にとぐろを巻いて、時間を掛けて息の根を止める様子にも映ったのは思い込み過ぎでしょうか。しかし、じれることなく自分達のサッカーをやり続ける熊本の姿に、そんな“おぞましい”までの凄みと、頼もしいさ、そんな安心感があったのは事実です。

後半開始早々、左サイドを片山が突破して切り返し。利き足の左に持ち変えるとシュート。これは惜しくもポストに嫌われる。今度は中で繋いでファビオが浮き球で松橋に裏を取らせると、松橋がダイレクトで狙いましたがキーパー正面。

そんな惜しい場面が続いたあとの67分、吉井の思い切ったロングシュートでCKを得ると、右CKからの原田のボールはファーの福王のもとに。完全にフリーの福王。瞬間、そのままゴールマウスに突き刺すものと思いましたが、丁寧に中に折り返し流す。そこをファビオが右足アウトサイドで押し込む。ボールはゴール前に何人も林立していた岡山の選手の間を抜けて、熊本の追加点になりました。

岡山は小林を諦め李を入れると、岸田を右サイドに配置。終盤で岡山がゴール前の絶妙な位置でFKのチャンスを得たとき、この小林がピッチに居なかったことに安堵しました。Jでの初対戦となった昨シーズンの第12節。いきなりこの小林にFKを直接決められたことが脳裏をよぎったからです。

残り15分を切って大迫に代えて西を投入。西は、カウンターからファビオと作ろうとした場面がありましたが、ラストパスをカットされました。岡山に押し込まれる時間帯が続き、熊本は自陣に釘付けにされる。残り10分、岡山には難敵・喜山が入る。熊本は松橋に代えてカレン。吉井に代えて渡辺。これによって少しは押し返し、あとは時間をうまく使っていくだけ。そう思っていたロスタイムでした。右サイドを使われ縦に入れられると、そこからパス交換。サイドから李に入り込まれるとシュートを許す。オフサイドをアピールしましたが、1点を献上してしまいます。

あとで見返したスカパー!解説の池ノ上さんが言うとおり、「あとはきっちりと終わらせられるか」ということだけが重要な展開になりました。しかし、残り15分頃からは、岡山の猛烈な圧力を単純に跳ね返すことだけに終始してしまった。そこまでの時間帯で相手を焦らし続けただけに、なんとも悔やまれる失点であり、今季何度も課題としてあったことがここで繰り返されたことがなにより残念。勝利の喜びに水を差し、後味の悪い結果になりました。

余韻が覚めやらぬ試合直後のテレビのインタビューでの高木監督は、まだ目の前で終わったばかりのゲームに対して整理ができていないように映りました。しかし少し時間を置いて迎えた記者会見では、「結果的に勝つ事ができたので良かった」「残り少なくなっていく中で、内容を重視する部分も必要だと思いますけども、プライオリティとしてまず結果を出すということ」と、落ち着いて試合結果を評価しました。

試合前に福岡が勝利して、J1昇格の芽がなくなったことに対する心境をことさら質問する記者たちに対しては、「我々は、いろんな情報を得て“今日のゲームをどうしよう、こうしよう”というチームではないと思っています」「選手達にも特に何も言うこともなく、とにかく岡山を倒すことだけに集中しました」と。そんな指揮官の言葉のなかに、まだ波の多いこのチームが前節の課題は克服したものの、今節もまた新たな課題を残したことなど、リーグ終盤にかけての複雑な心境を垣間見た思いがするのはわれわれだけでしょうか。
「可能性がなくなったとしても相手と戦えないようでは困るし、残り3試合を自分たちのモノにできるかということで、我々の課題や足りないものが見えてくる。そういう意味でも、ラスト3試合は重要なものになると思ってます」。執拗な質問者を諌めるようなこのコメントにこそ、今われわれが置かれている状況の全てが言い表されているように思えます。

“数学上”ともいえた昇格の可能性が、完全に消え去った今節。われわれがこれから期待すべきは、今季積み上げたものをはっきりと確信すること。そして、それを示してくれるのは何より終盤、“有終の美”とも言える勝利を重ねていくことではないでしょうか。実に今節の岡山も含めて、これから残る3試合、大分、北九州、札幌は全て前回引き分けている相手。また順位からしても勝ち点3差の47に11位まで4チームが並びひしめき合う展開。勝ち続けて今シーズンをしっかりと“クローズ”すること。まさしく「勝負に決着をつけ」今季に決着をつける重要な3連戦だと言えます。

11月14日(日) 2010 J2リーグ戦 第34節
熊本 1 - 1 富山 (13:04/熊本/5,086人)
得点者:3' 関原凌河(富山)、61' 宇留野純(熊本)


前の試合で「今季のベストゲームだった」とベタ褒めした途端に、こんなゲームをやらかしてしまって…。この波の激しさ、安定感のなさではとても昇格戦線を窺うなどとは言っていられない。そう思いました。

開始早々の失点。右からのアーリークロスに矢野のクリアは高く跳ね上がりファーサイドへ飛ぶ。競った堤の上からヘッドで折り返されると、中に全くのフリーで入ってきていたのはブレイズ出身の関原。名手・南も一歩も動けない近距離からのシュートは、関原の凱旋ゴールになりました。

熊 本
32カレン 10松橋
33片山11宇留野
8原田22吉井
19堤24筑城
6福王16矢野
 18南 

富 山
11永冨
23平野28関原
7朝日
16谷田27舩津
5長山
3堤2足助
6濱野
31橋田

スカウティングはしていたはずです。2週間空いた試合勘についても念頭にあり、「入りは全員で声をかけていた」と福王は言います。しかし、安間監督が就任して敷き始めた3-3-3-1という富山の珍しいシステムは、想像以上に攻撃的で、また苔口と思っていただろうワントップには永富が初先発し、サイドと思っていた朝日はトップ下にいるなど…。明らかに開始から熊本守備陣は、次々と飛び出してくる富山の選手達を捕まえきれず、混乱しているように見えました。

3-3-3-1。68メートルのピッチの横幅のスペースを埋めるのに最適な人数は、試行錯誤が繰り返された結果、4人が最適であると言われています。単純に考えれば、その広さを3人で守るわけですから、当然横のスペースには無理が生まれる。しかし、富山は前後の列が助けあうことで、その不利を埋めていました。それはまるで蛇腹構造のようにコンパクトに移動し、球際は早く強くくる。大小たくさんの3角形が成立することで、局面局面で数的優位を作れている。久しぶりに、敵のほうが人数が多いのではないかという錯角に陥りそうな富山の超コンパクトな布陣でした。

対する熊本は、いつもどおりの4-4-2で、いつもどおりに守りを固めていく戦術のようでした。ボランチで中盤の底に蓋をして、両サイドを上がらせていく。次々に2列目、3列目から飛び出してくる富山の布陣を凸型とするなら、あくまで熊本は凹型。だからこそ、サイドでの勝負は重要。先々週の初ゴールで気をよくしている片山、恩師・安間監督の前で活躍を見せたい宇留野が、縦に横に、あるいは途中ポジションをチェンジして揺さぶりますが、どうしても前線に収まらない。ときに5人とも6人ともなる富山のDFラインを崩せず、焦ったようなミドルシュートばかりが目立ちました。

前半も終わりごろ、正面やや右で得たFK。堤が浮かせて矢野が繋いだボールはPA左に入っていたカレンのもとへ。しかしこれを撃たずにパス。瞬間、DFにクリアされる。PA内で撃たないストライカー。なぜチャレンジしない? 失望感が募りました。

これほどまでに劣勢感の漂う前半を見たのはいつ以来かという感じでした。守備から入るチームとして、守備が“はまらない”とこういったゲームになってしまうのかとも思いました。当然、後半からなにがしかの選手交代、特に前線にターゲットにもなり溜めも作れるファビオの投入が期待されたのですが、それはいつものように後半12分過ぎまで待たされました。その間、左サイドで原田がボールを奪われ、PAに入れられ永富に押し込まれるもオフサイドの判定に助けられる場面もありました。

交代で入るファビオにボードを使い指示をしている高木監督と加藤コーチを見て、今日は通訳のエジソン氏がいないことに気づきました。試合後の監督コメントで、「本来はファビオを先発する選択肢を持っていましたが、富山のシステムが少し複雑で、言葉の問題が少しあってうまくコーチングができない」という問題があったのだと知りました。おそらくエジソン氏は世界バレーの方に行っているのでしょう。専属通訳がいないチーム事情が、ベンチワーク、いやチーム戦略にも大きく影響していました。

ファビオが入って落ち着いて前線に人数を掛け始められた熊本。61分、アタッキングサードで右に回すと、上がってきていた筑城が狙いすましたようにクロスを上げる。ゴール前に富山も人数はいましたが、宇留野が中央で競り勝ってねじ込むようにヘッドを振ると、同点弾としました。そう、中央に人数はいるが、サイドはフリーでクロスを上げさせてくれる。前節富山に2点を先取されながらも逆転に成功した東京Vの得点シーンにもこういう局面があったことを思い出しました。

「彼には数多くゲームでも助けられました。人間的にも素晴らしく、病を患ったときも本当に前向きに、プロでやりたいからと飛び込んできました。いろんなものを背負っているから目も澄んでいるし、動じないところはすごいなと思います。いろんなものに気を遣える人間で、こちらも尊敬する人物だと思います」。試合後に宇留野について聞かれた安間監督の言葉には、Honda時代から甲府と、(苦楽なんていう安直な言葉では表現しきれない)“人生”そのものを共にした間柄だからこその重さがありました。「いろんなものを背負っているから目も澄んでいる」。ここまでの表現はわれわれも目にしたことがありません。その師弟関係の深さに、思わず目頭が熱くなりました。

富山は平野に代えて苔口、永富に代えて黒部の2枚代え。後半ガクンと運動量が落ちるのもこの凸型システムの弱点。そこを突かれて逆転劇を許したのが前節でしたが、今日はスピードのある苔口を温存し、その時間帯に備えていました。熊本は吉井を下げて西を珍しく中盤に投入。徐々に富山サイドで展開ができるようになります。スローインからカレンが右サイドにパスを送ると、走り込んだ筑城が完全に裏を取る。キーパーとの1対1でしたが、(はじかれて)枠の左に反れていきます。そう、そのスペースをもっと早い時間帯で使えていれば…。

宇留野に代えて藤田を投入したのは残り15分を切ってから。西をサイドに、原田を中盤の底に、自身はトップ下と、中盤をダイヤモンドにしたのではないでしょうか。ようやくここで富山の布陣に対するシステム的対応ができたように見えました。しかし、なんとも遅きに失した感がありました。富山は、奮闘する苔口が右サイド奥ギリギリ残して折り返すと、中央で倒れ込むように朝日が押し込む。しかしこれはわずかボールひとつ右に外れて事なきを得る。誰もが目を覆った瞬間でした。

熊本は矢野も上がってパワープレー。欲しいのは勝ち点3でしかありませんでした。敵陣左で得たFKが残された時間から言っても最後のプレーに思われましたが、原田のキックはGKのパンチングでサイドラインを割ると虚しく終了のホイッスルが吹かれました。その瞬間、手拍子が止み、チャントが終わり、異様なほどの沈黙がスタジアムを支配しました。この試合結果、今、目の前に繰り広げられた試合内容をまだ“整理”できないでいるサポーターたち。われわれを含めスタジアム中の皆がそうでした。誰もが口数少なく、家路を急ごうとする。

この日、他会場では甲府が昇格を決め、千葉はなんとか東京Vに競り勝って、福岡は足踏み。残り4試合で3位福岡との勝ち点差は12と、数字上は決して可能性がなくなったわけではありません。しかし、ただこの日、目の前で見たホームチームの“力”(それはスカウティングに始まり、ベンチワークを含め、選手の能力、対応力、修正力、判断力など総合的な意味で)を思うと、数字以上に足りないものが思われて。まだまだ足りないものがいっぱいありすぎて。それを整理できないもどかしさを抱え、とてもモヤモヤした気分でスタジアムをあとにするわれわれに追い打ちを掛けるように、季節はずれの黄砂がまた舞ってきました。

わがホームチームだけ試合がない今節。せっかくのフットボール・ウィークエンドを、他チームの試合ばかり“客観的立場”でテレビ観戦して過ごしていると、“J”がなかったちょっと昔の感覚を思い出したりしています。しかし、J‘sゴールのサイトで試合結果を確認するとき、そこにはちゃんと今節では順位は不動のままのホームチームの名前がある。こんな風に逆説的に“ホームチームのあることの喜び”を感じる週末でもありました。

さて、このサカくま、ブログ形式に衣替えしたのが2007年の初め。その時からの方針で、オープンに書き込んでいただくコメント欄は設けていないのですが、「拍手」していただいた方々が、その後で書き込める「コメント欄」がありまして、常々そこにたくさんの激励の言葉をいただいております。ひとつひとつにご返事できないのですが、この場を借りてお礼申し上げます。

そこについ最近いただいたコメントで「ひとつ提案、というかお願いなのですが、敵のスタメンだけを載せるのではなく、熊本側のスタメンも載せてはいただけないでしょうか?その方が記憶も呼び出し易いし、監督の思惑なども見えてくると思います。」というのがありました。


写真はもとよりyoutubeなども貼り込むマルチメディアなブログが多い中、相変わらずテキスト(それも相当長くてスイマセン)主体でやっているわれわれのブログ。ちょっと変化が欲しくて何か絵的なものは入れこめないか、ということでこの対戦相手の先発フォーメーション図の掲載を始めました。ただ、その時点では、熊本側を載せるのはどうしたものか…。その当時、われわれのなかでも色々と議論し、結局は掲載しないことにしていました。気にしていたのは、情報戦の世の中で、こんな小さなブログといえども「敵チームの情報収集を容易にすることになる」「結果的にチームを邪魔することにならないか」ということでした。

ただ、今となっては終わった試合のフォーメーションなど、翌日のエルゴラッソに止まらずどこでも手に入る。それどころかプロフェッショナルなスカウティングともなれば、実際には3試合前までの映像を丹念に分析するといわれます。こんなちっぽけなブログでそんな心配をしていても、それはもはや詮ない話だなという結論に至りました。というか、チームの置かれた状況も、情報環境も、あの頃とはまたさらに変わってしまっていたのに、この件だけを置き忘れていたという感じでしょうか。それを改めて気づかせてくれたご提案に感謝したいと思います。

というわけで、次回からは熊本側のフォーメーション図も掲載していきます。暇をみつけては手元のノートを元に、過去の試合分も遡って掲載したいと思います。出来うれば両者のマッチアップの状況がわかりやすいように、片方は逆さまに表示できればもっといいのですが・・・。(開発者の皆さん、よろしくお願いいたします。)

10月31日(日) 2010 J2リーグ戦 第32節
熊本 2 - 0 鳥栖 (13:03/水前寺/5,398人)
得点者:71' 宇留野純(熊本)、82' 片山奨典(熊本)

「負けるべくして負けたということだと思います」。試合後の鳥栖・松本監督のコメント。われわれも尊敬してやまない名将が完敗を認めた試合。だから、というわけではないし、異論もあるかも知れませんが、この試合、われわれは今シーズンのここまでのなかでベストのゲームだったと言い切りたいと思っています。それは、守備の構築を第一義に置いた今年の高木ロアッソの、ある意味、完成型を見たような思いがするからです。いうなればゾーンディフェンス。全員が連動してコンパクトな陣形のままボールに対して移動する。90分間、一瞬も途切れることのなかった戦術的な意図の共有、ポジション、運動量…。そして得られた2つのゴールも、その前の守備段階のプレーから生まれたチャンスだった。そんなふうに思えるからでもあります。

曇り空から晴れ間に転じた水前寺競技場。出足が悪かったスタンドも、キックオフ直前には老若男女の赤い姿で埋まっていきました。一方のスカイブルーのレプリカは、ゴール裏から少しはみ出している。この隣町のように一番近いチームとの“バトルオブ九州”という名の戦い。第1クールでは長い長いロスタイムの一瞬に追いつかれた。あの敗戦にも似た苦い、悔しい気持ちをしっかりと覚えています。

松橋を累積警告で欠く熊本は、カレンとファビオの2トップ。そしてボランチには久々に原田が先発。SHの片山との共存はありえないのかと徳島戦のエントリーで書きましたが、われわれの思いもかなって、レフティ同士の競演になりました。

熊本 (先発フォーメーション)
27ファビオ 32カレン
33片山11宇留野
8原田22吉井
19堤24筑城
6福王2ソンジン
 18南 

鳥栖 (先発フォーメーション)
 9豊田 
 7山瀬 
24柳澤25早坂
30黒木14朴
3磯崎11田中
5飯尾2木谷
 21室 

開始早々、キック&ラッシュの熊本。ファビオとカレンが押し込んでいく。前節・柏戦の守備的な戦いのストレスから解き放たれたようなアグレッシブな動きに映りましたが、しかし全体のバランスは崩さない。前線から積極的にプレスを掛けるのにも、2列目、3列目が連動している。両SBを高く上げるのではなく、DFライン自体を押し上げてコンパクトに保ちました。そんななかでファビオの守備。GKへのバックパスを追い込んだファビオ。GKのキックに体当たり。はね返ったボールがあわやとバーをかすめ、鳥栖のゴールに吸い込まれそうになる。場内を沸かせます。

鳥栖は豊田をポストに使う。豊田が受けに下がると、空いたスペースに山瀬あるいは早坂が入ってくる。これには、先刻承知のように福王とソンジンがうまく受け渡し、フリーにさせない。13分、今日のCKのキッカーは原田。グラウンダーでマイナスに出すと、中央から片山がミドルで狙う。惜しくも枠を外れますが、「今日の役割はフィニッシャーだ」とばかりに、片山の積極性を感じさせる最初のシュートでした。

鳥栖の中央突破は決して通させない。早坂が右から切れ込んでPアーク付近からシュートを放つも南がセーブ。豊田のミドルレンジからのシュートにも南。前節の柏戦に比べればこの程度。といった感じなのか南。しかし、“打たせるな!”とでも言っているのか、DF陣に向かって激しい言葉でコーチング。山瀬が左サイドをドリブルで上がり、勢いのままシュート。低い弾道でしたがわずかに枠の上。

熊本は右サイドで詰まったところ、吉井から出されたパスに原田が思い切りよくシュートを放つも枠外。今度はカウンター、原田が前線に送る。宇留野が見事な胸トラップでDFに競り勝ちPエリアに侵入。すばやく撃ちましたがわずかにバーの上を越えていきました。

両者、攻守の切り替えの早い展開。確かに互角の戦いにも見え、どちらにもチャンスがありましたが、ただ一点、熊本のDFの裏は一切使われていない。一方の鳥栖はDFラインの押し上げがきかず中盤との間にスペースが生まれてきている。それが後半の展開への“分水嶺”とも言えたのではないでしょうか。

鳥栖は急造ボランチコンビの連携に難があったのかも知れません。この日、初先発の強化指定選手・黒木は大津高3年時、選手権出場を吉田率いるルーテルに阻まれた世代。そんな後輩とマッチアップした原田が、後ろから削ってイエローを貰う一幕も。しかし、徐々に徐々に、熊本の圧力、出足の速さに、半歩、一歩と遅れをとるようになってきたのは鳥栖の方でした。

後半、宇留野と片山が、鳥栖のバイタルエリアを脅かし始める。特に片山は、左サイドを捨てたかのように思い切り中に絞っている。“何で片山がここにいるの?”というくらい。対峙している鳥栖の右SB田中は、同じように今季途中まで横浜FCでプレーした元同僚。敵としての再会。熟知した相手に対する巧妙な心理的駆け引きもあったのでしょうか。対峙する相手を失ったとき田中が困惑するのを狙ったのか。あるいはリスクを承知で、右サイドに数的優位を作れという指示だったのか。あるいは両SHが実に流動的だった柏の攻撃に触発されたのか。大きなサイドチェンジを宇留野が落としたボール、貰った片山が右サイドから切れ込んで思い切って中央で撃つ。これはわずかにバーの上。それにしても積極的。躍動感すら感じられる。

カレンに代えて西。ファビオのちょっと下に入る。ファビオが落とすボールに西を飛び込ませる、そんな戦術変更かと思われた選手交代の直後でした。鳥栖の丁度バイタルエリアに落とされたボール。勇気を持って一歩早く頭から飛んだ吉井に、アフターぎみに足から入った朴がファールをとられます。運・不運。しかし吉井の球際の闘志が呼び込んだチャンス。Pアーク付近から少し右の位置でのFK。片山と一度ずらして原田が蹴ったボールは、壁に当たってGK側にこぼれる。西が蹴りこむ。GKがはじく。今度は宇留野。これも当たり損ないのキック。逆にこれにはGKも反応できず。宇留野の1週遅れのバースディゴールで、熊本が先制しました。

鳥栖はもうリスクを犯して前に出てくるしかない。山瀬に代えてキム・ホナム。豊田に代えて萬代。しかし一向に熊本の守備を崩せない。決して引いて守っているわけではない、熊本の“システム”を。

そして熊本の追加点。まさしく連動した守備から反転しての得点。ファビオのチェイスに慌てたGKが左サイドへパス。サイドの選手がキープミスしたところを筑城が見逃さず、奪ってすぐに中央片山へ。片山は朴を交わすとゴールを向いて迷わず左足を振り抜いた。今日、ここまで何度も狙い続けたミドル。ゴール左上角に突き刺さった片山の熊本移籍後初ゴールは、実は自身J2初ゴールだったらしい。しかしそれは紛れもなく、チームの勝利を確信させる大きな大きな追加点でした。歓喜に包まれたスタンド。赤いタオルマフラーがぐるぐると回される。チームのみんなにもみくちゃにされる片山。放出されるような形で横浜をあとにした。熊本に、今季一番最後に加入した選手が、もうしっかり溶け込んでいる。欠くべかざる選手になっている。とても嬉しいシーンでした。

さて、そう言えば…、今日はいつもより攻撃参加を控えた感のある筑城と堤。しかし、しっかりとした対人への強さを見せて完封に貢献しました。原田が中盤で落ち着かせたり、ときに急がせたりとタクトを振る。その分、吉井も役割がシンプルになり、敵の攻撃の芽を次々に潰し持ち味を十分に発揮しました。

あの“走る”鳥栖を走らせず、裏のスペースを使わせるどころかPエリアには(裏を取られては)誰一人も入れていないのではないでしょうか。まさしく「システム的守備からの勝利」を見たような気がします。ハーフタイムを挟んで連続した90分間のなかで、守る局面、攻める局面に区切りはなく連続している。2つの得点は決して偶然ではなく必然。攻めとったというより、守った結果、“もたらされた”得点だったと見えました。「我慢し続けたことがよかったと思う」。ヒーローインタビューの宇留野のコメントも、そのあたりのことを言っているように思えました。でも、それは実はこの試合だけのことではなく、これまでの長いシーズン、ひとつの戦術を追い求め、ブレずに戦ってきたことから自然に出てきた言葉かも、などというのはわれわれだけの深読みでしょうか…。

手応えを感じている。試合後の高木監督の笑みにはそう感じるものがありました。「向こうのビルドアップの特徴を伝えて、そこをうまく把握しながら選手達は理解したのかなと思います」。試合後のそのコメントに、この試合へのスカウティングと戦術の全てが込められていました。一方、松本監督は、冒頭の完敗の発言とともに、その原因に選手たちのパスミスを挙げ、嘆いてみせました。しかし、それは決して原因ではなく、熊本の敷いた見事なゾーンプレスにはまってしまった結果だったということを、名将は百も承知なのだと思います。

この勝利で7位を死守したわが熊本。次節は休みとなりますが、8位との勝ち点差を5に広げたため順位の変動を心配せずゆっくり休めそうです。われわれの思うこのベストゲームの余韻も、たっぷり2週間楽しめる。何度もビデオで確かめたいと思います。