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6月17日(日) 2012 J2リーグ戦 第20節
熊本 2 - 2 北九州 (19:03/熊本/4,572人)
得点者:3' 齊藤和樹(熊本)、23' 端戸仁(北九州)、29' 端戸仁(北九州)、79' 武富孝介(熊本)


「逆転された状況の中でも、自分たちを見失わずにやるべきことをしっかりやっていった。今までだと少し焦っていいものが出ない傾向にあったんですけど、今日の場合は追いつかなきゃいけない状況のなかでもメンタル的に落ち着いてプレーできたのが非常に良かったなと思います。」

指揮官・高木監督の、試合終了後のコメント。今日の試合は、この言葉に集約されるでしょう。

あれだけシュートを打って。本来なら勝てた試合。残念。という言い方もあるかもしれませんが、リーグ戦半ばで到達した”レベル”を実感したという意味では、これは価値あるドローだと・・・。

北九州戦

バトルオブ九州という以前に、北九州は14位に位置する”上位”のチーム。指揮官は「モビリティのあるチーム」と警戒するものの、この試合に向けて「内容より結果」と言いきり、選手には「この一戦に懸けろ!」と発破を掛けていました。5千人を切る観客数ながら、ゴール裏がうまく煽って、スタジアム全体のボルテージも高い。

開始早々の3分、中盤の養父から右の五領へはたく。切り替えして持ち直した五領が左足で柔らかいクロス。ファーに飛び込んだ斉藤。高い打点のヘッドで自身のJリーグ初ゴールを押し込む。湧き上がるスタジアム。「よし!今日はワンサイドゲームになるかも知れないぞ」そう思わせる立ち上がりでした。

しかし、北九州も攻撃のパターンを持っている。人数を掛けて襲ってくる。要警戒のFW池元が、バイタルから狙ってくる。枠内ぎりぎりのところを南が横っ飛びでクリア。その続くCKからでした。木村の弧を描くキックに、南のクリアが小さい。エリア内で端戸が拾う。そこを後ろから武富が引っ掛けてしまいます。

PKを自ら蹴る端戸。守る南が、方向は完全によんでいたものの、ボールはその手をかすめてゴールに吸い込まれてしまって同点。

これで北九州に勢いがついたのか、それとも熊本が守りに下がりすぎたのか、あるいはシステムのミスマッチがそうさせたのか。セカンドが取れずに、ボールを支配される熊本。押し込まれ、前線も守備に翻弄される。斉藤が池元を高い位置で倒してFKを与えると、木村のキックはニアに低く早く。そこにいち早く飛び込まれ、再び端戸にゴールを割られます。逆転。

その後もかなり押された感が残った前半。それを払拭し、後半の猛攻とも呼べる反撃を実現させた要因には、もちろん”焦らず”、”メンタル的に落ち着いてプレーできた”選手たちの奮闘もありますが、藤本主税がブログで「面白いくらいハマってたね」と言うとおり、高木監督が繰り出した後半の交代カードの妙があったと思います。

後半15分までに点が動かないと見るや、五領の位置に市村。これについては、「後半はボールをつなぐよりも、できるだけ前に早く攻めようという指示を出しました。後半に入ってからそういうプレーが続いていたので、そこにもう1枚、元気なイチを入れることによって勢いが大きくなるかなと。そこはよく理解してくれて彼の良さが出たし、彼の良さがチームの良さにもつながっていったと思います」と。確かに、久々に見る市村がアグレッシブに縦に動き、それまでライン際で停滞していた前線に喝を入れ、ボールを引き出し、敵DFの裏を取り始める。

さらに原田に代えて根占。筑城には矢野。藏川を下げて4バックぎみになったDFラインに、根占が中盤の底を支える格好。パワープレーのように矢野が前線に張る。

「大輔に関しては、コーナーキックが非常にあったので高さを使いたいということ。早い時間で使うのは難しかったのであの時間帯になってしまいましたけど、後ろに置くよりも前に置いて、足元も上手い選手なので、それが2点目につながったのもあるし、その辺を期待しました」と言うのは指揮官。

それが実を結んだのが79分。根占から矢野に縦パス。矢野からのパスを市村がスルーでDF陣を引き付ける。受けた武富の素早く鋭いシュートは、GKとゴール右ポストの狭いところを通って同点弾になります。

なんでしょう。この起用法の妙は。ベンチには大迫、西森、そして崔根植もいたわけで。そんな”当たり前”の交代カードには目もくれず、この意外性のあるベンチワーク。そしてそれに応えた選手たちのパフォーマンス。

プレーのシンプルさ? 前向きの姿勢? 身体の強さ? 高橋のFW起用といい、自身の与えられた役割を全うする姿勢は。矢野は「終盤に(交代で)入る時は真ん中で身体を張るのが求められているので、まずはできることをしっかりやろうということは、ベンチにいる間も思ってました」(J's Goal)と言い、市村は「自分が複数のポジションをこなせば、監督の選択肢は増える」(熊日)と言い切る。故障相次ぐチーム事情のなかにあって、前線を支えているのが、古参のDFの選手たちなのです。

一時は圧倒していた北九州の攻勢を押し返した。しかも、時間が経過するにつれて逆にパワーアップしていった。吉井、廣井を中心に、最後まで守備の集中が切れず、システムとして機能していた。まったく運動量もスピードも落ちなかった。横浜FC戦で悔やまれた、最後の失点場面のような、前がかりでの失点をしなかった。

終了の笛が鳴ったあとの、倒れこむ選手たち。何より、倒れ込んだまましばらく動かなかった(動けなかった?)相手GKの佐藤。あれだけギリギリのセーブを繰り返していると、集中力は有限。精も根も尽きた感がありました。

大卒2年目にして初ゴールを飾った斉藤にとっては、きっと忘れられない試合になったのではないでしょうか。それは鮮やかな”初ゴール”の印象だけでなく、その後も幾度と訪れた決定機を外し続けた後悔も含めて…。2点目の失点の要因となった、自らの空回りなファールに関しても。

武富もまた、1点目のPKを与えたミスを、自らのゴールで取り返したものの。プラス、マイナス、ゼロではなく、とりあえず勝ち点1を得たゴールだった…。

「今日21本のシュートを打ってなかなか決められなかったという反省はあるので、いっぺんには問題解消はできないですけど、こういうゲームをやっていけば間違いなく点は取れると思いますし、そのあたりの自信を深めてやっていって欲しいと思います」という指揮官のコメントは全くその通り。もう少し付け加えれば、21本のシュートを打ったなかでも、かなりの部分が枠内にとぶ、際どいものであったと。そしてこの「自信を深めてやっていって欲しい」という部分が、やはり強さの原点かなと。

そういう意味では、「また使ってもらえた時に結果を残したいと思います」(J's Goal)という斉藤のコメントには、全く不満です。”また使ってもらえたとき”というメンタリティーでは先発は奪えない。言葉尻を捕らえているだけかも知れませんが…。地道に練習からやっていることも知っている。しかし、自らがチームの”エース”になる気概があってこそなのではないか。自分を追い詰めるためには、ときにはビッグマウスも必要なのではないか。謙虚さなど捨てる必要があるのではないか。選手全員が、そんな競争心溢れるチームになってほしいと思っているからこそ。熊本を支えるFWの軸になってほしいと思っているからこそ。あえて苦言を呈したい。期待しているが故に、そう思います。