8月26日(日) 2012 J2リーグ戦 第31節
熊本 3 - 0 富山 (19:06/熊本/10,530人)
得点者:30' 養父雄仁(熊本)、33' 片山奨典(熊本)、90'+3 大迫希(熊本)


KKウィングに向かう道の向こうに雨上がりの虹が架かっていて、何かちょっと悪くない兆しを暗示しているようで。夏休み最後の日曜日。久しぶりの動員試合。多分、昨年の富山戦以来となる本格動員。2試合連続の不完全燃焼の引き分け。何よりも”結果”が欲しいところでした。

富山は14試合勝ちから遠ざかり、最下位に沈んでいる。しかし、その変則的なシステムに、これまでもあまり相性はよくなかった。人に対して前から、速く、厳しく来るチーム。この試合もまさにそう。非常にタイトなゲームをしてきました。

富山20120826

試合序盤。これはもう主導権の奪い合い。ボールは落ち着かず、セカンドのつぶし合いに終始。富山のCK。一瞬の隙をついたように中央から福田が叩きつける。決められた!と思いましたが、ここ一番の南のファインセーブ。守護神から「この試合は絶対にゴールを割らせない」という気迫が伝わってくる。

振り返ってみればこの試合、完封したとはいえ危ない場面がなかったわけでは決してありませんでした。しかし最終ラインを割られた後ろには、最後の砦、ゴールに立ちはだかる南の絶対的な存在感がありました。一方、富山を見ると、明らかにDFとGKの連携に難が見られた。その”差”もこの勝敗を分けた要因のひとつではないかと思いました。

とにかく、決定的失点の場面を逃れた熊本は、富山の厳しいプレスをかいくぐり、パスワークでいなし、ずらして徐々に主導権を握っていきました。たとえば以前の富山だったら3-3-3-1の蛇腹のようなシステムで、入れ替わり立ち替わりのプレスが、まるで人数が多いように感じられた。しかし、この日はただの3-4-3にしか見えず、3人目、4人目と加わってワンタッチでボールを動かす熊本の方が、富山より人数が多いように見える不思議。

「『これは連戦でやっているのかな』というぐらいのパフォーマンス」と、高木監督も賞賛するほど。さらに、「選手たちがまだ秘めている力を引き出してもらった」のは、「今日駆けつけてくださった方達」だと、詰め掛けた大勢のファンにも感謝を示しました。

先制点は30分。Pアーク付近で貰った養父が切り返し、利き足ではない左足を振りぬいた。グラウンダーのシュートは、一度DFに当たってしまいますが、角度が変わってゴール隅に突き刺さる。

「やっと取れました(笑)」と本人も言うように、ようやく、ようやく決めてくれた。養父の移籍後、初ゴール。ゲームの重要な先制点を奪取しました。

追加点は片山。デザインされたCKからのサインプレー。これもPAの外から打ち抜くと、一旦DFに当たり、GKが反応できない弾道でゴールを割ります。

先制点、追加点とも相手選手に当たってのゴール。南は、「スタジアムの雰囲気や、サポーターの皆さんの“気”みたいなものが伝わって入ったゴール」(ブログ)と表現します。幸運のようにも思えますが、しかしそれは偶然でもまぐれでもなく。養父が「いつもよりシュートを打つ位置がゴールに近かったからああいう結果になったと思う」と冷静に言うように、十分にゴールに近い位置でゲームができたというところで「勝負あり」と言うべきでしょう。

後半、2点のビハインドを追いかける富山が、猛烈に押し込んできたのを”受ける”時間が長く続いたのは、致し方なかったかも知れません。前線の黒部に、苔口という速さ、さらには西川という高さを加えてきた富山。しかし、それにしても熊本にイージーミスが顔を出す。相手が技術やスピードで上回る、ということではなくての自滅的なミス。それは敵将・安間監督の「3点目を取られる前に1点差にするチャンスが何度もあった」という台詞を待つまでもなく、たまたま失点につながらなかったというだけで。確かにその後、ゲームはどちらに転んでも不思議ではありませんでした。

それまで前線からの守備、そして攻撃での崩しの一角として”汗をかいて”いた西森が、アクシデントで故障退場。その代わりに入った大迫。そして「前でポイントを作って攻めることも含めて」(高木監督)起用した北嶋というカードが良かった。

北嶋の登場に沸くスタジアム。予想以上に早い復帰。誰もがまさかこんなに早く出てくるとは思っていなかったでしょう。これも彼の”強い意志”なのか。これは富山のDFも、細心の注意を傾けざるを得ない。一気にチームは楽になる。みるみる熊本の士気が上げる。北嶋にゴールが生まれたときに発されるチームの雰囲気がどんなものか。そのときスタジアムは、どれぐらい”揺れる”のか。そんな想像さえしてしまいます。早くその瞬間が見たい。

2点差のままアディッショナルタイムに突入。このまま凌いで終わるのだろう。そう考えて家路を急ぐ人も現れた頃でした。最後の交代カードで入った仲間。カウンター攻撃で持ち込んだ。十分に相手DFを引き付けると、右から追いかけてきた大迫に渡す。大迫が冷静にこれをゴールに流し込み、駄目押しの3点目を決めました。

3度振られたタオルマフラー。スタンド中でくるくるとたくさんの赤い風車(かざぐるま)が回っているように振られる。色々なタイミングでタオルを振るほかのJチームのパフォーマンスより、われわれはこのわがチームの「得点シーン」で振られるタオルマフラーが一番好きです。どんなスポーツより難しくて貴重だと言われる1点の喜びを、スタジアム中一丸となって表現していると思うからです。

試合後、南や北嶋、藤本が、ゴール裏を指差し、ファンを誘導します。この勝利を一緒に喜ぼうと、栃木戦から始めた「come on rosso 」のチャントとパフォーマンス。この呼びかけにメインにいたファンも、バックにいた人々も大移動。南がまるで「赤い壁のような」と表現したゴール裏。全員での大合唱。真っ赤な壁が揺れている。

南ひとりでは変えられなかったことがあるのかも知れない。しかし、藤本が来て、さらに北嶋が加わったことで、何かが少しずつですが、変わってきているような気がする。

熊本の10番を背負う男のようやくのゴール。交代で入った仲間のアシスト。大迫のゴールという両若手の活躍。しかし不用意な、する必要のない場所、局面でのファール。パスの出し手へのプレッシャーが、一瞬、緩む時間帯など。少なくない課題。

15試合、勝ちがない状況になった富山・安間監督は、「この勝てない状況の中で本当にリスクを冒して挑んでくれた選手には、続けて欲しい」「今できる作業、やることをやっているならば、胸を張って切り替えて、愛媛戦に挑みたいと思います」とコメントしました。
「残留」と書いた緊急的な弾幕を貼った富山サポーターはしかしそれでも、このどん底のなか、試合後ゴール裏に挨拶に来た選手たちを叱咤激励しようとする。

色々な思いがこのスタジアムの、ほんの2時間ほどの時間のなかで交錯した。たくさんのことがあったこの日のゲーム。サッカーというスポーツにはいつも、多くのことを教えられます。今日の1万人のなかには、次は自前のタオルマフラーを振っている人がきっといるはず。そんな赤一色に染まるスタンドを夢想しながら、KKウィングを後にしました。

8月22日(水) 2012 J2リーグ戦 第30節
熊本 1 - 1 草津 (19:04/熊本/3,809人)
得点者:35' 根占真伍(熊本)、77' 横山翔平(草津)


アデッショナルタイムは3分。もちろん誰もがこのCKがラストプレーだと分かっていました。蹴るのは藤本。弧を描いたボールは、草津のDFが必死にクリアしてエンドラインを割る。しかし、主審は再びコーナーを指差すことなく、”お約束どおり”終了のホイッスルを吹きました。追いつかれてのドロー。何度かあった追加点の機会も決め切れなかった。そんな欲求不満な試合内容を象徴するような終わり方でした。

「勝点3が取れるゲームだった」と言うのは高木監督。もちろん表面的なゲームの経過だけを見ての感想ではないでしょう。内容についても「非常にいい入り方ができて局面においてのプレーも良かった」「選手たちもアグレッシブに動いてくれた」と評価する。

確かに藤本が言った前節の課題、「トライする縦のパス」の意識が、試合序盤から高く、選手たちは前を向いて2列目、3列目の追い越しも随所に見られました。 しかし、草津が決定機を外してくれたとの印象も強い。前半、ポゼッションはやや熊本に分があったように見えましたが、“決定機”ということで言えば、草津に軍配が上がったでしょう。もちろんサッカーでは、こういうことはよく起こるけれど、あの目を覆うような瞬間を普通に決められていれば、0-1あるいは0-2の前半だったわけで。

そういう巡り合わせも含めて、“幸運にも”先制できたゲーム。バイタルから思い切りよく左足を振りぬいたのは根占でした。GKの目の前でバウンドしたブレ球は、脇をすり抜けるようにしてゴールに吸い込まれます。栃木戦時の接触での傷がまだ癒えないのでしょう、この日は赤いフェイスガードを装着して試合に臨んでいました。バットマンならず”仮面の忍者赤影”。そんな昔のヒーローの名前が浮かんでしまうと歳がばれます(笑)。

前半終了間際のいい時間帯であり、草津もここからは前に出てくるしかない。そうなればまたアタッキングサードにもスペースが空くはず。そういう意味でもこの先制点の価値は高く、この試合は絶対に取りに行くぞ。そんな絶好のゲーム展開になるはずでした。課題はまさしく、ゲームが動いた後の、後半の戦い方でした。

草津20120822

当然のように押し込んでくる草津。加えて身長のある前線に対して早めにボールを入れてくると、DFも後ろを向かざるを得ない。さらに自陣でファールを犯すと、松下や熊林のFKという脅威もある。熊本は中二日のコンディションのせいなのか、プレスだけでなく、パスの出し手に対しても厳しくいけていたかどうか。こんなときは、前線の齋藤に厳しく競ってもらうなり、時間を作ってもらって押し上げたいのですが。一度だけ矢野のロングボールにDFの裏を取って走ったシーンがありましたが、シュートは枠を捉えられず。

「2トップの距離が前節は遠かったので、そこを修正したことでコンビネーションが繰り出せた」(熊日)。そう齋藤は言います。しかし一方の武富が「コンビネーションを意識しすぎ、出さなくていいところでもパスを出してしまった」と自戒しているのはなんだか皮肉的です。北嶋の怪我によって回ってきているチャンス。ならばもっとプレーから”貪欲さ”が伝わってきていいはず。これもこの日のファンの欲求不満を誘う一因でした。

再三、機転を効かせた大きなサイドチェンジで好機を演出していた原田が、足を攣ったのか吉井に交代してしまう。齋藤が高橋に交代すると、先制点は”虎の子の1点”のように思えてきました。

しかし77分。2度続いた草津のCKのチャンス。右CKからゴール前の密集のなか、林立する足の間を射抜くようにして押し込んだのは草津の横山。厳しい時間での同点弾。センターサークルに戻る熊本の選手たちの重い足取りから、その精神状態が伝わってきました。

「ザスパの得点の時間帯というのが、前後半の残り15分の時間帯に偏っているというのがあって、それは選手たちにも今日は意図的に伝えたんですけども、本当にそういう状況になってしまった」と高木監督は言います。「相手がそのメンタルで上回ったのか…」と。

「2点目が取れないとこうなりますね」とは武富。根占も「やっぱり早く2点目を取ることだと思います」と言う。

堅守速攻の相手から奪った貴重な先制点。そこから描けるはずだった自分たちが主導する試合展開。フィニッシュに行く手前での“回し過ぎ”。結局は草津のブロックにつかまっている。カウンターのリスクも背負うことになる。ミドルの精度の低さ。相変わらず枠にいかない。

どうもゲーム観がちょっと掛け違っていたのではないかとも思えます。先制点が重要なのは全く異論のないところですが、それで逃げ切れるほど、草津は弱くはないと。草津の後半の強さ。さらに残り15分の執拗さ。淡々と言ってもいいほど、最後まで走りきるパフォーマンス。改めて90分を俯瞰してみれば今日のゲーム、前半を1-0で折り返せたことが、かなりの幸運だったようにも見えます。そのうえでの後半への入り方、戦い方。

ハーフタイムのコメントの「セオリーを崩すプレーをするな」という指示の具体的な意味を問われた草津・副島監督は、「例えば自陣でバウンドさせてしまった小柳のプレー」「気の抜けた凡ミスに近いプレー。公式戦の場で出てしまうのは許せないし、チームにもマイナスに伝染してしまう怖さがあった」「本人に対しても厳しく指摘した」と選手の名前を出して答えました。

「土井がチャレンジする姿勢が欠けていた」とも。これは前半のうちに金への交代カードを切ってしまいました。自らの求めるものに対して明確に要求を出していく姿勢。できるようで、なかなか難しい。「本当にチーム全体がアラートな状態で攻守に関わっていくことが求められる」なかで、ひとつのプレーも見逃さないぞという厳しさを選手に伝えているのでしょう。

前節、数名の選手名を挙げて”叱咤”した反町・松本は、今節6連勝中の京都に土をつけました。松田・栃木は退けたものの、それに続く反町、副島・・・。一癖もふた癖もある勝負師たちとの対戦が続くなか、なかなか勝ちきることができず、欲求不満が募ります。

8月19日(日) 2012 J2リーグ戦 第29節
松本 0 - 0 熊本 (18:03/松本/11,142人)


前節の勝利後の書き込みからブログの更新がなく、熊日の予想スタメンにも名前がない。いつもの南の遠征出発のツイッター写真も何故か飛行機の機体で・・・。なにやら不吉な予感がしていたら、試合当日やっぱりという感じて発表がありました。北嶋秀朗選手(FW/39)、診断名:右第2腰椎横突起骨折、加療期間:約4週間・・・。

前節の勝利の裏に、武富とのあんな逸話があっていただけに、今節こそ北嶋の”番”と誰もが思っていたのに。痛い。本当に痛い欠場。「残念だけど、何か意味があることなんだと思う。」という彼自身のブログの言葉を、われわれも共に心にし、復帰を待ちたいと思います。

そして南が、「戦術やコンディションなどそういった要素は全く関係のない、ただただ闘志のかけらも勝利への執着心も全く感じないような無気力のような試合をしてしまった、そんな悔やんでも悔やみきれないような本当に情けない試合だった」と書いた前回の松本戦。ファンの気持ちを萎えさせ、容赦ないブーイングが飛んだ。その屈辱に対する”リベンジ”を果たすためにだけ、この試合があると言っても過言ではなかったでしょう。

松本20120819

前回、あれだけやられた松本のカウンター。この試合後、藤本も、「あそこまでカウンターを徹底してくるとやはりチャンスを作られる。本当に良いチームだと思った」と表現する。ゲームのあらゆる局面からカウンターを繰り出す。すべて動きがカウンターを意識しているように見えるくらい、相手の体重のかけ方まで意識しているような。

今日の熊本。とにかく不用意にボールを奪われないこと、攻撃あるいはポゼッションしているときにもボールを奪われた際の守備への切り替えを常に想定する“意識”や“バランス”が見て取れました。前節の栃木・松田監督の言葉を借りれば、100%の水も漏らさぬ集中が、どうやら90分間継続できたようなゲームと言えました。気温27度という条件も最後まで選手の足が止まらなかった理由かもしれません。

「熊本は最初の15分の得点がJ2で一番多い。ですから最初の15分がカギだなと思っていました」という松本・反町監督の”注目点”は意外でもありましたが。もちろん松本自身が、その15分で得点できれば勝ち点3につながるゲームだったというつもりなのでしょう。 「幾つチャンスを作って、いかに相手に危険なプレーをしたか。今日はそういう意味では、向こう(熊本)の方が決定機は多かった。我々は単発的で『入ればいいなあ』というところで終わってしまい、ちょっと物足りない」。そう言う反町監督は、さらに数々の選手の名前を挙げて、その”物足りなさ”を嘆いてみせました。

熊本は、松本のカウンター戦術への対策は十分でしたが、いかんせん、ディフェンシブサードにリトリートした相手の”スペースのなさ”に手を焼きました。

「サイドでは回せたけども、中への縦パスがあまり入らなかったように感じましたが?」と記者に問われた高木監督は、「相手もあることでもちろん自分たちの動きやタイミングなどをしっかり合わせる事が、そういったチームを作れることに繋がるのではないかと思う」と(トレーニングの)課題としています。

藤本も、記者と全く同じ問題点を感じていたようで、「ボールを失うのが怖くても、やっぱりトライするところはトライしないといけない。難しいかも知れないけど、例えば縦にパスを入れることでコンビネーションももっと良くなると思う」と言っています。“難しいかも知れないけど”という表現こそ、課題が課題である理由ですが・・・。

相手の強みを消したクローズなゲーム。これで相手がバランスを崩してくれれば、得点のチャンスが出てくるわけで、実際にいくつかの決定機が訪れました。得点には結び付かなかったけれど、我慢して崩されなかった、崩れなかった。これも価値あるドローと言える一戦なのかも知れません。特に画面越しに見ても(聴いても)その人数と声量に驚く、あのアルウィンという完全敵地のなかで。”自力”は優っていたにもかかわらず、松本サポーターの後押しに相殺された。いや、今節に向かう選手たちの”闘志”が、あの一万人の圧力を押し返したと言えるのかも知れません。

勝利は得られなかった。けれど、「内容は濃かった」(高木監督)と言うのに相応しい、本質的なゲームでした。スカパー解説の羽中田さんがぞっこんだったように、養父のパフォーマンスも戻りつつあるような気がしました。しかし、残念ながら、この試合で貰ったカードで累積。次節は欠場。週半ばの変則過密日程。これが幸か不幸か。いずれにせよ、チームの”総力”が問われる事態には違いありません。

8月12日(日) 2012 J2リーグ戦 第28節
熊本 3 - 0 栃木 (19:04/熊本/4,526人)
得点者:15' 武富孝介(熊本)、71' 矢野大輔(熊本)、90'+6 片山奨典(熊本)

千葉戦以来の4-4-2のシステムで臨んだのは、7試合負けなしと好調を続ける栃木へのリスペクトがあってのことだろうと思ったのですが、高木監督はこう言います。

「システムによって何かが変わったということではなくて、何も変わっていない。それは今までやってきたプレーを継続して、本質を変えずにディフェンスもオフェンスもやった。それが今日の中では、勝つということとは別の、一番大きな収穫」。

連敗の中でも決して内容は悪くはないし、続けていくことが重要だと繰り返してきた監督にとって、その点は何よりも確認しておきたいことだったのでしょう。

そして「しっかりとしたプランの中で相手の良さを出させず、相手のウィークを衝きながら攻撃ができた」とも。確かに栃木の強みも弱みも見抜いたうえで徹底された今日のチーム戦術と試合展開は、指揮官やメンバーや点差こそ違え、07年8月、JFL時代、水前寺での同じ栃木との戦いを思い起こさせました。胸がすくような完勝という意味でも。

栃木側からは特に、立ち上がりがすべてだったと言う声が多い。熊本の速い出足に翻弄され守勢一方。守備の運動量と当たりの厳しさ、切り替えの速さ、シュートの意識で上回る熊本。アグレッシブでした。「熊本は守ってカウンターを狙ってくるだろう」とスカウティングしていた敵将・松田監督の表情も冴えない。

そして先制点。このシーンだけ見れば、これはもう偶然以外の何物でもない。しかし、偶然を引き起こす意図が確実にあったことも間違いない。

とにかくシュートを打った根占。打たなければ何も起こらないわけで。それもふかさず、事故の起こりやすいグラウンダーで通した。角度を変えた北嶋。触らなければそのまま抜けていたでしょう。トラップのつもりがパスになったのはこれまた偶然ですが、そんな偶然に相手が反応できるわけもなく。そして、そんな意外な展開にも反応し、角度もなく簡単ではなかったシュートを落ち着いて決めたのは武富でした。

4連敗中ゴールのなかった武富。試合前、スカパー解説の池ノ上さんは「周りとの兼ね合いを気にしすぎているのではないか」と指摘していました。それは暗に柏の“大先輩”のことを示していたに違いありません。鋭い指摘でした。

北嶋が試合後、ブログで明かしています。試合前日に武富にこう語ったと。
「タケは良いヤツだから、気を使っちゃったり、遠慮したりするんだよな。でもそういうの、グランドではナシな。俺もグランドで遠慮なんかされたら悲しいよ。おまえがこのチームのエースなんだよ。もっともっと偉そうにしてていい。俺に要求もガンガンして欲しいし、おまえが走れって言ったら俺は走るから。逆に俺がおまえに要求することだって当然ある。グランド上では常に対等。勝つために要求しあう。そんな関係でいようよ。」

試合前、スカパーの取材に対して「消極的だった。今日から思い切り行く」と応えていた武富。ゴール後、真っ先に抱きつきにいった先は北嶋でした。

栃木20120812

「個人的に慣れているシステムだったので、色々とスムーズだった」と北嶋はブログに書きました。藤本が、「ボールを回す時の配置が楽というか、中盤の人数が増えてまわしやすくなったし、前も2人なので距離も近くて、コンビネーションもあったんで、攻撃の面でいい面が見られたなと思います」と言うように、相手がプレッシャーをかけてきたときのボール回しのリスクが前節あたりと較べてだいぶ低減されていたような印象。結局、ここからボールを入れて攻撃に移っていくところのバタバタで奪われ、ショートカウンターを食らって失点、みたいなことが続いていたわけで。

ボールを引き出せなかったサビアを諦めて、後半から棗を入れてきた栃木。高さを加えます。広瀬のあとには佐々木。2トップの入れ替え。それに対して熊本も北嶋、藤本を高橋、斎藤と2枚替え。 

CKからの矢野の追加点は、このカードを切る直前でしたが、終盤の高橋、齊藤はかなり効いていたなと。この2枚替えで一気に試合の流れを引き戻したし、攻守両面で苦しい状況にあったチームの選択肢を増やしました。

高橋に関しては、この週の木曜日にようやく練習に合流したばかり。しかし、怪我明けの心配をよそに試合にうまく入っていく。“オフェンシブ・ストッパー”という、池ノ上さんからの新たな称号。

アディッショナルタイム5分。その高橋がロングボールを競って落としたところに飛び込んだのは、今日も切れ味のある突進のドリブルで相手を翻弄していた片山。このチャンスにダイレクトで一蹴すると、駄目押しの3点目がゴールに突き刺さりました。

「100%集中が無かった」。松田監督は試合後、立ち上がりの失点がこの試合を決めたと言い、「90%以上の集中はあったと思いますが100%ではなかった」と表現しました。そしてこう説明する。

「サッカーというのは本当にちょっとしたことで点が入ったり入らなかったりするわけで、クリアボールがそのままつながったりすることだってある。そういう部分に対しても、水も漏らさない100%の集中というのが、特に立ち上がりは必要」だと。
「うちのサッカーではそれが生命線なので、それに対して95%であれば、残りの5%が致命傷になるということ」。「もちろんこれまでの試合でも、その5%が点にならなければ持ち直している。点が入るか入らないかというのは一番大事なことで、流れを決めることなので、(これまでは)入れさせずに連勝できていたということだと思います」と。

ややもすれば負け惜しみとして読みすごしてしまいそうな敗戦の将のコメント。しかし松田監督は、勝負としてのサッカーに向かう指揮官の確率論を的確に言い尽しているのではないでしょうか。

武富は、前回対戦で大敗している次節の松本戦に関して問われ、「気持ちを込めて1人1人がしっかり戦えば今日みたいな試合になると思います。そういうちょっとした所の差で先に失点するか取れるかが変わるのかなとも思ったので、強い気持ちで、自分自身もアグレッシブなプレーをしたい」と、これまた同じようなことを言っている。

前節のエントリーでわれわれがうまく言い表せなかった“クローズ”な意識と言うのは、本当にちょっとしたことで点が入ったり、入らなかったりするサッカーというゲームで、松田監督の言う100%の集中ということであり、武富の言う気持ちを込めて戦うということと同義語だったのかなと。それが冒頭の高木監督の「決してシステムを変えたからではない」という言葉や、「続けていくことが重要」ということとも符合するような気がして。4連敗のあとの快勝だったからこそでしょうか。そういうことを考えさせられたゲームでした。

8月5日(日) 2012 J2リーグ戦 第27節
岡山 2 - 0 熊本 (19:03/カンスタ/7,306人)
得点者:39' 植田龍仁朗(岡山)、69' 金民均(岡山)


「決して悪い時間がたくさんあったわけでもないし、いい時間もあった中で、最近多いことで言うと、いい時間があったにも関わらず、うまくゴールを取れなかった」。

試合後の高木監督のコメントは、4連敗という現実を受け止めなければいけないファンの落胆ぶりとはやや違ったニュアンスで、少なからぬギャップが感じられました。選手のコメントも総じて同じ様な印象。皆が冷静に課題を分析できている点でいえば、監督が言うとおり「本当にちょっとのところでやられてしまった」ゲームだったということなのでしょうか。

熊本も3連敗、3試合無得点でしたが、対する岡山も2連敗で7試合勝利から遠ざかり、4試合無得点という、お互いに勝利という結果が何よりも欲しい状況にある両チームでした。同じ3-4-3というシステムで、いつもミラーゲームの様相を呈する岡山との戦い。しかし、それゆえにチーム本来のパフォーマンスの差は観ている人にとっても明らかだったでしょう。

岡山20120805

同じようなゲーム、同じような敗戦が続いている。今日の岡山の2点目などは、最近、何度も見ているような錯覚さえ。それは、ここのところ、随分とオープンなゲームを展開しているように感じることでもあります。それがある意味で“ルーズ”なゲームにつながっているのではないかと。どうもゲームプラン以前の、ゲームイメージみたいなところで掛け違っているのではないか。

6戦負けなし3連勝の勢いの頃は、もっとクローズで、ガチガチに相手のいいところを消して、スペースを消して、そして少ないチャンスをタテに速く、強く攻める…みたいな。そんなゲームをやっていたように思うのです。

北嶋が入り、藤本が復帰し、その二人がまだ十分にフィットしていないというのではなく、彼ら二人の動きの部分(それは彼らの良さを活かすことなのでしょうが)、ある意味彼らに頼る部分で、ちょっとオープンな試合運びになってしまってはいないだろうかと。

そんなゲームのなかで、岡山は1枚も2枚も、勝ちたい意欲、ゲームプランへの集中で熊本を上回った。

J’s Goalの試合レポートによると、敵将・景山監督は、前節千葉との敗戦時、「ここでぶれてしまうと、出来ているものも出来なくなってしまう。そんなもったいないことは出来ない。結果が出ると信じてぶれずに続けて行くことが、今の我々にもっとも必要なことかと思っています」と言っていたそうです。それは、高木監督や熊本の選手たちからも何度か聞かされた言葉と同じでした。

記者は続けます。「それが今節、報われた。熊本に関しても同じことが言えるだろう。今回は岡山が2点を決めて勝つことが出来た。これから熊本は北嶋と武富、藤本を中心にゴールを量産するチームになるかもしれない」と。

目指している到達点(レベル)が“今日の試合”にあるのか、もっと先にあるかの違いとでもいうべきか。この記者が言うとおり「このリーグ戦で我々は信じて続けて行くことの尊さと難しさを感じ続ける」という、“苦行”にも似た日々。

ただ、この連敗でひとつ具体的に感じることは、養父のパフォーマンスが明らかに心配なレベルにあるということ。武富も同じように見えるし、北嶋も疲れているのでは。

夏場の失速はいつものこととは言え、クローズなゲームをやり遂げるには、体力もそうですが、90分間の集中力が絶対的に必要(昨年はロングボールラッシュからセカンドを拾いにいく戦術に体力がついていきませんでしたが…)。

この時期は、頑張りすぎないで、休息とコンディション調整も練習の大事なメニューではないかと。序盤から飛ばしていくゲームプランならなおのこと。試合でこそ最高のパフォーマンスを発揮してほしい。だからこそそう思うのですが、甘いでしょうか。