8月26日(日) 2012 J2リーグ戦 第31節
熊本 3 - 0 富山 (19:06/熊本/10,530人)
得点者:30' 養父雄仁(熊本)、33' 片山奨典(熊本)、90'+3 大迫希(熊本)


KKウィングに向かう道の向こうに雨上がりの虹が架かっていて、何かちょっと悪くない兆しを暗示しているようで。夏休み最後の日曜日。久しぶりの動員試合。多分、昨年の富山戦以来となる本格動員。2試合連続の不完全燃焼の引き分け。何よりも”結果”が欲しいところでした。

富山は14試合勝ちから遠ざかり、最下位に沈んでいる。しかし、その変則的なシステムに、これまでもあまり相性はよくなかった。人に対して前から、速く、厳しく来るチーム。この試合もまさにそう。非常にタイトなゲームをしてきました。

富山20120826

試合序盤。これはもう主導権の奪い合い。ボールは落ち着かず、セカンドのつぶし合いに終始。富山のCK。一瞬の隙をついたように中央から福田が叩きつける。決められた!と思いましたが、ここ一番の南のファインセーブ。守護神から「この試合は絶対にゴールを割らせない」という気迫が伝わってくる。

振り返ってみればこの試合、完封したとはいえ危ない場面がなかったわけでは決してありませんでした。しかし最終ラインを割られた後ろには、最後の砦、ゴールに立ちはだかる南の絶対的な存在感がありました。一方、富山を見ると、明らかにDFとGKの連携に難が見られた。その”差”もこの勝敗を分けた要因のひとつではないかと思いました。

とにかく、決定的失点の場面を逃れた熊本は、富山の厳しいプレスをかいくぐり、パスワークでいなし、ずらして徐々に主導権を握っていきました。たとえば以前の富山だったら3-3-3-1の蛇腹のようなシステムで、入れ替わり立ち替わりのプレスが、まるで人数が多いように感じられた。しかし、この日はただの3-4-3にしか見えず、3人目、4人目と加わってワンタッチでボールを動かす熊本の方が、富山より人数が多いように見える不思議。

「『これは連戦でやっているのかな』というぐらいのパフォーマンス」と、高木監督も賞賛するほど。さらに、「選手たちがまだ秘めている力を引き出してもらった」のは、「今日駆けつけてくださった方達」だと、詰め掛けた大勢のファンにも感謝を示しました。

先制点は30分。Pアーク付近で貰った養父が切り返し、利き足ではない左足を振りぬいた。グラウンダーのシュートは、一度DFに当たってしまいますが、角度が変わってゴール隅に突き刺さる。

「やっと取れました(笑)」と本人も言うように、ようやく、ようやく決めてくれた。養父の移籍後、初ゴール。ゲームの重要な先制点を奪取しました。

追加点は片山。デザインされたCKからのサインプレー。これもPAの外から打ち抜くと、一旦DFに当たり、GKが反応できない弾道でゴールを割ります。

先制点、追加点とも相手選手に当たってのゴール。南は、「スタジアムの雰囲気や、サポーターの皆さんの“気”みたいなものが伝わって入ったゴール」(ブログ)と表現します。幸運のようにも思えますが、しかしそれは偶然でもまぐれでもなく。養父が「いつもよりシュートを打つ位置がゴールに近かったからああいう結果になったと思う」と冷静に言うように、十分にゴールに近い位置でゲームができたというところで「勝負あり」と言うべきでしょう。

後半、2点のビハインドを追いかける富山が、猛烈に押し込んできたのを”受ける”時間が長く続いたのは、致し方なかったかも知れません。前線の黒部に、苔口という速さ、さらには西川という高さを加えてきた富山。しかし、それにしても熊本にイージーミスが顔を出す。相手が技術やスピードで上回る、ということではなくての自滅的なミス。それは敵将・安間監督の「3点目を取られる前に1点差にするチャンスが何度もあった」という台詞を待つまでもなく、たまたま失点につながらなかったというだけで。確かにその後、ゲームはどちらに転んでも不思議ではありませんでした。

それまで前線からの守備、そして攻撃での崩しの一角として”汗をかいて”いた西森が、アクシデントで故障退場。その代わりに入った大迫。そして「前でポイントを作って攻めることも含めて」(高木監督)起用した北嶋というカードが良かった。

北嶋の登場に沸くスタジアム。予想以上に早い復帰。誰もがまさかこんなに早く出てくるとは思っていなかったでしょう。これも彼の”強い意志”なのか。これは富山のDFも、細心の注意を傾けざるを得ない。一気にチームは楽になる。みるみる熊本の士気が上げる。北嶋にゴールが生まれたときに発されるチームの雰囲気がどんなものか。そのときスタジアムは、どれぐらい”揺れる”のか。そんな想像さえしてしまいます。早くその瞬間が見たい。

2点差のままアディッショナルタイムに突入。このまま凌いで終わるのだろう。そう考えて家路を急ぐ人も現れた頃でした。最後の交代カードで入った仲間。カウンター攻撃で持ち込んだ。十分に相手DFを引き付けると、右から追いかけてきた大迫に渡す。大迫が冷静にこれをゴールに流し込み、駄目押しの3点目を決めました。

3度振られたタオルマフラー。スタンド中でくるくるとたくさんの赤い風車(かざぐるま)が回っているように振られる。色々なタイミングでタオルを振るほかのJチームのパフォーマンスより、われわれはこのわがチームの「得点シーン」で振られるタオルマフラーが一番好きです。どんなスポーツより難しくて貴重だと言われる1点の喜びを、スタジアム中一丸となって表現していると思うからです。

試合後、南や北嶋、藤本が、ゴール裏を指差し、ファンを誘導します。この勝利を一緒に喜ぼうと、栃木戦から始めた「come on rosso 」のチャントとパフォーマンス。この呼びかけにメインにいたファンも、バックにいた人々も大移動。南がまるで「赤い壁のような」と表現したゴール裏。全員での大合唱。真っ赤な壁が揺れている。

南ひとりでは変えられなかったことがあるのかも知れない。しかし、藤本が来て、さらに北嶋が加わったことで、何かが少しずつですが、変わってきているような気がする。

熊本の10番を背負う男のようやくのゴール。交代で入った仲間のアシスト。大迫のゴールという両若手の活躍。しかし不用意な、する必要のない場所、局面でのファール。パスの出し手へのプレッシャーが、一瞬、緩む時間帯など。少なくない課題。

15試合、勝ちがない状況になった富山・安間監督は、「この勝てない状況の中で本当にリスクを冒して挑んでくれた選手には、続けて欲しい」「今できる作業、やることをやっているならば、胸を張って切り替えて、愛媛戦に挑みたいと思います」とコメントしました。
「残留」と書いた緊急的な弾幕を貼った富山サポーターはしかしそれでも、このどん底のなか、試合後ゴール裏に挨拶に来た選手たちを叱咤激励しようとする。

色々な思いがこのスタジアムの、ほんの2時間ほどの時間のなかで交錯した。たくさんのことがあったこの日のゲーム。サッカーというスポーツにはいつも、多くのことを教えられます。今日の1万人のなかには、次は自前のタオルマフラーを振っている人がきっといるはず。そんな赤一色に染まるスタンドを夢想しながら、KKウィングを後にしました。