11月11日(日) 2012 J2リーグ戦 第42節
熊本 0 - 1 愛媛 (13:04/熊本/9,688人)
得点者:90'+3 藤直也(愛媛)


怪我人だけで1チームが作れそうなチーム状況。加えて藤本、福王も出場停止。多くの選手がインフルエンザに襲われた3年前のシーズンの甲府との最終戦、あの危機的状況を思い出さずにはおれませんでした。

「人がいない状況の中で4枚でやると、今の愛媛だとボールを動かされてしょうがない。だから個人的な能力差は出るかもしれないけれど、マッチアップさせた方がハッキリしていい」。

そんな、ある意味でギリギリの判断から、高木監督は8月5日第27節岡山戦以来の3バック、3-4-3のシステムを先発陣に敷きました。

「相手も同じシステムで、1対1の個人の勝負になると思っていた。熊本はホーム最終戦だし、監督も最後ということで、前に出て来る気持ちが強かった」と試合後、愛媛の有田も言う。

両者、マッチアップになる、マッチアップしようという、このシステムで戦う動機は微妙に違っていても、1対1の勝負を意識して臨んだ、しかしどちらかと言えば、その点では熊本側の意識の方が強いゲームという状況だったのでしょう。

愛媛20121111

バルバリッチ監督が家族の病気を理由に帰国。代わって指揮をとっていたのは青野コーチ。終盤に来て7戦負けなし。しかし順位は16位という微妙な位置にいる愛媛。彼がこの最終戦に際して煽った選手へのモチベーションは、「今まで得失点差でプラスになったことがなかった」「そこの歴史を変えよう」ということでした。

ただ、そういう割には、「前半に関してはミラーゲームになってしまって、お互いに良い所を潰す我慢の展開になった。選手がよく我慢してくれて…」(青野コーチ)と言うように、非常にクローズなゲーム展開。試合を通じて熊本のCKの時、愛媛は前線にひとりも残さず、全選手が戻っていたのも象徴的でした。

多くの選手をケガ、出場停止で欠く熊本としては、精一杯の戦い。しかし、熊本は前節の敗戦もあって連敗では終わりたくない。何よりホームで迎える最終戦。しかも、退任する高木監督のリーグ最終戦。雨のなか、ほぼ1万人のファンが駆けつけたスタジアムを目の当たりにすれば…。

しかし、それゆえに…。最後の最後に、微妙な心理的なバランスを失ってしまったのかも。

時間の経過とともに、このクローズなミラーゲーム、どちらかが我慢しきれなくなったところでゲームは動くし、多分、オープンに動いたほうが負ける、そんな気持ちで見ていました。

どちらかと言えば、“動いた”のは熊本・高木監督。攻撃的な選手を次々と投入。それぞれ攻撃的な選手との交代で試合を動かしたい。しかし、本当に動いたのは選手、あるいはファンであるわれわれ、そしてスタジアムの雰囲気ではなかったかと。それも、この日笛を吹いた主審によるところが大きかったのは否めない。

日ごろから審判も人間、そのジャッジ自体もコントロールの利かない”変数”のひとつと捕らえているわれわれではありますが、今日のこの日は、「それはないだろ!」と思わないわけでもなかった。ゲーム終盤にかけて、続けざまに出されるカード。やや不可解なジャッジ。抜け出した仲間を止めて示されたイエロー。脚を払われたクンシクに与えられなかったPK。これが、それまでの90分間、勝ちたい、行きたい、という気持ちを、耐えに耐えて押さえ、クローズしていた熊本のムードを、そしてスタジアム全体のムードも一緒に、一気にオープンにしてしまったのではないかと。迎えたアディショナルタイム。左サイドから振って、右サイドの大外の養父に通る。1対1で撃った絶好のシュートがGKに阻まれる。その落胆。

そして、最後の最後に。返す刀で前野のドリブルから縦にラストパス。ギャップを突いたのは途中交代で入ったルーキーの藤。エリアの左から打ち抜く。熊本のその崩れた一瞬のバランスを見逃さず決めた愛媛を褒めるしかない。天を仰ぎ、自身を悔やむしかない。

試合後のスタッツ。愛媛のシュート数は6本、熊本も9本。攻撃面ではほぼ抑え切っていました。それは多分、高木監督の読み通り。今の壊滅状態のチームのコンディションからずれば、狙い通りのゲームだったに違いない。しかし、マッチアップと言っても、養父、蔵川の両ボランチはDFラインに吸収される場面も多く、特に、養父の位置はかなり低めで、数的優位ができるような、厚みのある中盤、というイメージには程遠いものでした。感覚的には、中盤が一枚足りない感じ。あるいは、5mづつそれぞれが低い位置に降りてきている感じ。前線との距離はいたしかたなく。そこは急造の3-4-3。攻撃の連携にはミスが目立つ。そのなかで、本当に、互角によくやったと言うべきなのかも知れません。

こうして。なんだかものすごい”フラストレーション”を感じるまま、高木監督が指揮するリーグ最終戦は終わりを告げたのでした。

試合終了後のセレモニー。この3年間を託された指揮官が、退任に際した挨拶で発した心境は「自責の念」と「感謝の気持ち」という言葉でした。ずばり”J1昇格”を託された監督。それは熊本にとって、こういうと語弊があるかも知れませんが、初めての”プロの監督らしい”監督でした。

大きく変わったのは、メンタリティー。それは選手だけでなく、ファンも同じ。3年前と今とを比べれば。以前を思えばよくあった、「勝てそうにない」「負けても無理はない」というゲーム前の感覚は今、ほぼなくなっている不思議。いつでも勝ちにいく、そんなメンタリティーを根気よく植え付けてくれた。それが高木監督が率いたこの3年間だったのではないかと。これだけ限られた戦力、この環境で、最大の力を尽くしてもらった。なによりもクレバーだった。高木が指揮しているということ自体が、熊本の評価を底上げしてもらったような。

そのなかでの終盤の”結実”。条件が合えば、続けてもらいたい。正直そんな気持ちがしていましたが、これもまた人生の巡り合わせ。最後に、今後熊本が昇格するために何が必要かと記者に問われた高木氏は彼らしい言葉でこう答えてくれました。

「我々指導者もそうですし、ファンやサポーターの方もそうですし、これは熊本だけのことではないと思いますが、やっぱりJ2というリーグをしっかり知らなきゃいけない。ともすれば、J1よりもアップダウン、ボックスtoボックスという動きが非常に多い。そこで何が必要か、本当にJ2のサッカーをしっかり見ていくことがまずは大事なのかなと。J2だから簡単だということでは全くないということ。もう1つ付け加えると、3年前と今ではリーグのレベルが全然違っているということです。それは実直に感じます。なので、そこからもう1回理解をすることで、何が足りないかというのは出てくるものだと思います」。

一緒に闘ってくれた監督を見送る。とても寂しい。当然だけど、またどこかで出会うだろうし、もしかしたら来シーズンにはすぐにも敵味方になるかもしれない。それもまた、この世界の常ではあるのですが。

「最初で最後だ!俺について来い!」。そう叫んで、ゴール裏の真ん中で高木監督も踊った“カモン・ロッソ”。きっと熊本の歴史のなかで語り継がれていくだろう最終節のセレモニーになりました。

精一杯の感謝の気持ちを込めて。3年間、本当にありがとうございました。

11月4日(日) 2012 J2リーグ戦 第41節
甲府 2 - 0 熊本 (13:04/中銀スタ/13,050人)
得点者:56' オウンゴ-ル(甲府)、74' 井澤惇(甲府)


前回対戦は5月。その時点での甲府はまだ城福サッカーが試行錯誤の状態だったのか。あるいはダヴィも山本も欠く布陣だったからか。スコアレスドローに終わったその試合のエントリーでは「勝てた試合だった」、そう悔しがって書いています。しかし、最終節を前にして再びの対戦となった甲府は、すでにリーグ優勝を決め、しかも22試合負けなしというJ2記録を更新中。そして、前線には32という突出したゴール数を積み上げたダヴィが。

甲府20121104

「今日は思いっきりやるだけだった。守備のポイントとして、ダヴィはある程度抑えることができたと思う」と、試合後高木監督は振り返りました。「ある程度抑えることができた」というように、センターバックとボランチでダヴィを抑えにかかった熊本。ある程度、支配され、攻め込まれることを見越していたようで、スカパー解説者も試合途中、攻めている甲府よりも、決定機を与えない熊本に、実は主導権があるのではないか、と言うような展開。

しかし、その攻守のカナメとして踏ん張っていた原田が、前半のうちに、ダヴィのアフター気味のバックチャージによるダメージから交代してしまった。代わって吉井が入る。しかし、見ている側からは、この予期しないアクシデントが、今日のゲームの流れを決定づけてしまったように思われました。

そして福王。2枚のカードであえなく退場。これもダヴィ。スピードで振り切られまいと手がでてしまうのか、うまく、体を入れてファールせざるを得ない状況を作り出しているのか。

後半に入った11分。持ちこたえていた守備がとうとう決壊します。フェルナンジーニョが右サイドで持つと、ダヴィが入るまでの”時間”を作る。低いクロスが送られると、ダヴィを背にした矢野が痛恨のクリアミス。オウンゴールで先制点を献上してしまいました。

29分にはフェルナンジーニョが縦に入れる。井沢がそれをダヴィに当て、ワンツーで熊本DFラインを切り裂きました。至近距離から打たれたシュートはさすがの南も防ぎようがなかった。

いずれにせよ、「ダヴィはある程度抑えることができた」が、結局、別の意味でダヴィにやられてしまったとも言えましょう。あれだけひとりのプレーヤーにエネルギーを割いてしまうと、全体のバランスを欠いてしまうのも致し方ないのか。「J2レベルではない」(熊日)と福王は悔しがりますが、しかし、このクラスを普通に止めきれないと、やはり勝てないし、J1に昇格することは難しいということでしょう。

ただ甲府はダヴィが中心ではあるにせよ、彼だけのチームではありませんでした。城福監督は、その著書で、自らの戦術を「裏」「時間」「幅」の3つだと書いています。「裏」はもちろん敵DFの裏を狙う選手。「時間」はボールを溜めて時間を作り、味方の上がりを待てる選手。「幅」はもちろんピッチを大きく使ったサイドチェンジやサイド攻撃のことを指す。永里や柏が裏を突く。フェルナンジーニョは時間を作る。福田や佐々木が幅を使う。そのうえで、傑出した存在のダヴィが躍動する。

熊本もリーグ戦終盤に至ってチームが成熟した。しかし城福監督は、それ以上に甲府というチームを”作り上げた”。5月以来の対戦でまさしく実感した変化でした。

「攻撃ではミスでできないことがあった」と高木監督が言う。敵陣に入ってからのそれは、後半から顕著になりましたが、前半は自陣からのロングパスが多用され、どうもチームの”重心”が後ろにあるような感じがこの試合を通してしていました。それはピッチの外でこの試合を観ていた主将・藤本のブログの分析にもあるように。養父の言葉を借りればそれは「相手をリスペクトしすぎた」ということなのかも知れません。

優勝チームであり、22試合不敗という記録を更新しているチーム。1万3千人以上のファンをスタジアムに集め、試合終了後には優勝セレモニーで”シャーレ”を掲げた。海野会長は挨拶で、あの苦境時代、初めて観客3000人を越したときの喜びを感慨深げに思い出していた。勝つということ、優勝するということの意味。チームのメンタリティを、その肌で実感できた。選手も、ファンも。熊本に足りないものも、課題もともに感じることができた。

しかし負け惜しみでもなんでもなく。これまで、圧倒的な強さで昇格していったチーム、広島、柏、FC東京。仰ぎ見るような存在。そんな距離感もだいぶ縮まってきたような印象もあります。プロビンチャのお手本という意味でも、少しでも近づきたい。そしていつかは、圧倒的でなくてもいいから、僅差でもいいから膝を着かせたい。

「チームは6位以内の可能性はないが、いいチームを作ろうとみんな気持ちが入っている。ホーム最終戦と天皇杯は頑張りたい。もっといいチーム、クラブにしていきたい」。養父の言葉からは、希望を持って前を向いている力強さがすでに感じられます。ただ、これまで培った(本来の熊本の)力を、この試合で出し切れなかったことは、相当無念だったに違いない。

試合終了後、ダヴィを始めとした甲府の選手たちが、養父に対して当然厚く(見ようによっては手荒く)挨拶を交わす姿をテレビ画面越しに見ながら、ああ甲府の選手たちは”養父の“熊本と戦ったんだという思いがしました。養父が10番を背負い、タクトを振る熊本。だからこそこの終盤に来て好調なのだろうという思い。そんな古巣の盟友たちの”期待”に応えられなかったことが、養父は相当悔しかったのではないでしょうか。フェルナンジーニョに再三振り切られ、スライディングから起き上がったときの養父のため息に似た苦笑い。それは、そんな彼の気持ちを垣間見たようで仕様がありません。

次節、今季最終節。ホームでの見納め。最後の戦い。片山は帰ってくるものの、原田は状態次第。福王は出場停止。満身創痍のチーム事情。すでに力を出しきり、最後の力を振り絞るわがホームチーム。そして熊本の明日につながる戦いともいえる。

いろんな思いを胸に。リーグ最終戦。一緒に戦いましょう。