11月23日(日) 2014 J2リーグ戦 第42節
福岡 1 - 3 熊本 (14:04/レベスタ/7,799人)
得点者:12' 藏川洋平(熊本)、28' オウンゴール(熊本)、45'+1 金森健志(福岡)、50' 澤田崇(熊本)


2014シーズンを締めくくる最終戦は福岡とのバトルオブ九州。奇しくも開幕戦と同じ対戦相手。「このシーズン、開幕戦から積み上げたものを両者見せたい」といったのはスカパー実況のアナウンサー。そんな集大成のゲーム。熊本は3つのゴールでシーズンの戦いを締めくくりました。

20141123福岡

前半12分。ボックス内の左寄りでキープするアンデルソン、DFを背負いながら壁を作り、大外を追い越した斉藤に出す。フリーの斉藤は、速いグラウンダーのクロスを送る。ゴール前に猛烈なスピードで走り込んだのは何と右SBの藏川。相手DFより一瞬先に触れて先制弾。

前半28分。澤田からのショートコーナー。走り寄る嶋田が受けるとそのままドリブル、中央まで回り込んで養父に預ける。ボールは養父、藏川、養父と回り、相手DFとオフサイドライン上でせめぎ合うアンデルソンに渡る。収めたアンデルソンから追い越す養父にワンツー。完全にフリーの養父はゴールライン付近まで持ち込み、高速のグラウンダーのクロス。相手DF堤のクリアはオウンゴールに。追加点。

後半5分。右サイドでDF2枚を相手に粘るアンデルソン。DFの股間に押し込むように出したボール。走り込んだフリーの嶋田が受け、そのままスピードに乗ってドリブルで持ち込む。ゴールライン近くまで侵入し、中の選手の位置を確かめながらチョーンと折り返す。ニアに走り込んだ澤田。いったんは捕まえ損ねたものの落ち着いて流し込む。3点目。

いずれもエリアに侵入し、アンデルソンが収めて起点になり、追い越した選手がフリーでサイドを深く深くえぐって折り返す。絵にかいたような…。練習通りの…。そんなゴールを3本揃えて追いすがる福岡を突き放し、熊本の2014年のシーズンは終わりました。

「走るロアッソ 集大成魅せた」「攻守圧倒 成長手応え」の見出しが躍る翌日の熊日朝刊。スカパー解説・中払大介氏は試合中、「現代サッカーのあるべき姿をやっているように思う」とまでコメントしました。

最終戦。今日のこのゲームもまたわれわれに素晴らしいものを残してくれたんですが、同時に、2014年のこのチーム、このシーズンの色んなことが思い出されて…。

先制ゴールを決めた藏川が一目散にベンチに走る。真っ先に小野監督へ。そして控え選手、スタッフにもみくちゃに…。
「今年一年、一緒にやってきた仲間が取らせてくれたゴールだったと思う…」 (蔵川洋平)

「かなりチームワークを感じされる熊本ベンチの喜び方ですね…」とスカパーの実況アナウンサーも表現する。ベンチにはこの日ベンチ入りしなかった選手全員のユニフォームが掲げられていました。

「結束力」。試合後、小野監督が強調していたのもその言葉でした。

「プレシーズンの時に感じたのは、チームの結束力では絶対負けないぞという手応えはありました。それを宝として、磨きをかけてもっともっと大きくしていきたいというのが、この1年の自分の戦いだったと思います。」
「今日も実は、試合前に『俺達の最大の武器は何だ』と、結束力だと、ここに来られなかった選手たちの分までしっかり戦おうと。」
「…選手の方から『皆で行く』ということで駆けつけてくれて、試合前のロッカールームでは全員で円陣を組むことができました。1つ1つのことが、今日は自分にとっては非常に印象的で、本当に選手達に感謝したい、そういう1日になりました」
ベンチメンバーに入れなかった選手も全員がこの最終戦の地・福岡に帯同していたのだという。

チーム一丸。行くぞ!

そして。美しくも真っ赤に染まったアウェイゴール裏。スカパーの集音マイクが拾うのは、90分間、途切れることなく響き続けた、熊本サポの堂々たる大コール。軽快にリズムを刻み、時に野太く。うねり、飛び跳ね。選手の、チームの背中を押す。共に闘う。

「アウェイですけどホームの雰囲気やアドバンテージというのをサポーターが出してくれている」(スカパー解説・中払大介氏)

これも結束。

ベンチスタートの藤本主税がピッチに立ったのは、もう後半アディッショナルタイムが告げられようかという時間帯でした。この日で引退する藤本。19年前のデビュー戦と同じピッチでのラストゲーム。プロデビューの地が引退の地。入団したチームが、最後の対戦相手。

左サイドの守備で切り返されて抜けられる。ボックス内のごちゃごちゃをクリアしてCKに逃れる。

そして最後の福岡のCK。GKの神山も上がるが、キックはゴールラインを割り、今季の終了を告げる笛が吹かれました。

選手同士の握手のあと、藤本を囲み、福岡、熊本両チームの選手が敵味方なく胴上げを始める。熊本の「チカラ・チカラ・フジモトチカラ」のコール。なんと福岡サポーターからも「チカラ」コール。スタジアム中からの「チカラ」コールに、藤本の涙腺も決壊。

今日はうまくいかなかった福岡。しかし、教えられることの多い先輩。こうやってみんな繋がっているんだぞ…と。

「福岡の選手が一緒になって胴上げしてくれたのには、びっくりしましたし、素直に嬉しかったですね。涙がぽろっと出てきました。」「『チカラ、チカラ』と声援を送ってくれたことは、サッカー選手をやってきて良かったなぁと素直に思いました。ホント、感謝の気持ちでいっぱいです」(藤本主税)

そしてその偉大な先輩の引退の日に、Jデビューを果たした野田裕喜という逸材。17歳。大津高校2年生。

「…彼(野田)に伝えたことは、同じ土俵の中で18人に残るための、そしてピッチに出るための競争をしてくれと。」「…これは最後にピッチに立った(藤本)主税もそうなんですけれども、全てチャンスを彼らが勝ち取って、野田はトレーニングの中からそういうものをしっかりと見せてポジションを勝ち取ったと思っております。」(小野監督)

激しい競争を超えたところにあった結束。

試合後、藤本を中心にアウェイゴール裏でのカモンロッソ。帯同したスーツ姿の全選手、スタッフも、そして…サポーターからの「小野コール」に促されて、小野監督までもが・・・。

2012年8月12日。ホーム栃木戦の勝利後に初めて踊ったカモンロッソ。「南ひとりでは変えられなかったことがあるのかも知れない。しかし、藤本が来て、さらに北嶋が加わったことで、何かが少しずつですが、変わってきているような気がする。」当時のエントリーではそう書いています。「ファンとチームが共に喜びを分かち合えるものを…」と、南、藤本、北嶋の呼びかけではじまった勝利のパフォーマンス。

北嶋は引退、南の移籍、そして今日、ユニフォームを脱ぐ藤本。彼らがチームに残してくれたものが、今、みんなの胸のなかにしっかりと根をおろしたような、そんな感覚を覚えました。苦しくつらいことのほうが多かったかもしれないこのシーズン。長い長いシーズンを終えたその果てに、こんな気持ちが待ってくれているとは。

しかし…。

終わってみれば、今シーズンの成績は13勝14敗15分。勝ち点54。13位。30日から行われる昇格プレーオフ。その場に身を置くことができなかった結果、事実は厳然としてあります。「(昇格プレーオフ進出の)チーム目標が達成できず、心残りだ」という藏川の言葉は重い。「チームが良い感じだからこのままもっと試合をしたい気持ちもある」という養父のコメントも、その残念さを物語っているのかと。来季こそと思う気持ち。

そんな色んな思いが交錯する最中で知った原田拓の引退の報。チームもまた変わっていく。

これから始まるストーブリーグの行方に身構えながらも、とりあえずここではひとこと言っておきたい。選手、監督、スタッフのみなさん、本当にお疲れさまでした。記憶に残るシーズンをありがとうございました。

2014.11.17 五分。岡山戦
1月15日(土) 2014 J2リーグ戦 第41節
岡山 1 - 1 熊本 (14:04/カンスタ/8,290人)
得点者:68' 押谷祐樹(岡山)、89' 澤田崇(熊本)


モチベーション…。ということを考えていました。

今節開始前の、あくまで計算上ではありますが、プレーオフ圏6位以内の可能性を残していた岡山。それに対して前節、ホーム最終戦を勝利で終え、次節のシーズン最終戦を控えたこの岡山とのアウェイゲームの熊本。われわれファンの側も何とも気持ちの持っていきどころが頼りないシーズン最終盤。選手たちを突き動かすのはいったい何なんだろうと。

試合前日14日の熊日朝刊のプレビューにはこうありました。
「小野監督は『選手たちはトレーニングからフルパワーでやってくれている。今週の紅白戦も気持ちの入った、ものすごい内容だった』と充実ぶりにうなずく。」
「FW斉藤和樹は『岡山はすごい気迫で臨むだろう。だが、自分たちが上回らなければいけない。攻守でハードワークに徹し、ペースを握りたい』と気持ちを高める。」

20141115岡山

ひとたびピッチに出れば、これが闘う本能というのか…。序盤の岡山ペースから主導権を取り戻すと、次々にサイドを破り、ゴールに迫る。

しかし、流れは熊本にある、と思って見ていた前半37分。早々と仲間隼斗→澤田崇の交代カードを切る小野監督。われわれの目には、仲間のプレーも悪くないし、ゲーム自体もコントロールしているように“見えた”んですが。何故?

その答えは試合後に明かされました。「彼(仲間)のプレースタイルと、ファジアーノのやろうとしているサッカーがマッチしてしまったので、それは仲間君に申し訳なかったんですけど、あれは私のミスです。そこから少し動きを作りくて、裏を取るところ、プレッシャーをかけるところを指示して、澤田選手を投入しました」(小野監督)。

代わって入った澤田への指揮官の指示は、「相手の右SBが起点となるので、そこをやらせないように、という感じでした…」(澤田)。監督が自らの選手起用を“ミス”ということばで表現するのは異例でしょう。それも前半37分。ハーフタイムを待つという“緩い”選択肢もあっただろうに。しかし小野監督にとっては、もっとやれる、あるいはこのままではやられる。そんなギリギリの判断を巡らしていたということ。

結果、さらに熊本の勢いは増し、岡山を圧倒。解説者も訝ったこのカード。その意図を大盤解説して欲しいような戦術的交代だったと思うと同時に、その打たれた一手には自らの采配に一点の妥協も許さない小野監督の気迫すら感じられて。モチベーションなどと結び付けて考えていたこと自体、申し訳ない気がしてきました。

しかし、先制したのは岡山。後半26分。ロングスローのどさくさに紛れた、いかにもありがちな失点でした。主導権を握っていてもえてしてやられてしまうのはこんなパターン。エリア内のあんなところでボールが止まってしまうなんて、危険きわまりないもの。逆に言えば、このロングスローというものがそういう性質をもっているということ。スピードがない分、ああいう状況が生まれやすい。攻めるも守るもさらに研究、強化が必要だなと痛感しました。

さあ、相手ホームの最終戦。岡山にとっては“懸ったゲーム”。真紅に染まったスタジアムが沸き返る。失点をきっかけに一気に流れがいってしまうのはこれまたありがち。

しかし、今の熊本。あの時間帯で先制されても落ち着いている。落ち着く術を知っているというべきか。前節、同点に追いつかれた直後、リセットするべくピッチ上で選手たちが円陣に集まった光景が浮かんできます。

「残り20分あったので、まだ全然いける…」(澤田)
「うまく切り替えてやれた…」(篠原)

残り20分。攻め急ぎたい気持ちを抑え、バランスを崩さないように、しっかりと相手の勢いを切りながら、徐々にペースを上げていく熊本。後半33分には養父雄仁→巻誠一郎。そして後半40分あたりから、一気に…。そのスイッチの入り方はまるでひとつの生き物のように感じるほど。

熊本はアンデルソン、巻のツートップへのパワープレーを軸に。岡山は交代カードで3ボランチ、5バックで守りきろうと必死に跳ね返す。しかしこの終盤に至っても、熊本の鋭い出足は全く衰えず、フィフティフィフティか相手有利のボールも、体を当てながらことごとく拾う。置かれた状況や、時間帯も含めて、今シーズンのなかでも出色のプレーが繋がっていった5分間。(何度も何度もビデオを見返すほど。)

後半44分。そんな球際のせめぎあいから一瞬先に触った園田が得たFK。岡山・景山監督が「あの時間帯にあのボールを蹴って来るんだなあという思いがあります」とコメントした中山のキックは低く美しい軌道を描いてDFラインとGKの間へ。この日何度も外した澤田が、相手DFを置き去りにして頭で決める。

アディショナルタイムも4分。引き分けでいいとは誰も思っていない。勝ちに行くことだけしか見えていないような集中。

試合後「両チームプレーオフに進出できなかったが、それを表すようなゲームだった。」とまとめる解説者。勝ちきれない岡山、決めきれない熊本。ということなんでしょうが…。

まあ岡山のことはよくわかりません。ただ、熊本が主導権をとりながら決めきれないのは事実ですが、恐らくはその部分に目が行きがちだということでしょう。しかし、シーズン終盤時点での印象は、やられても押し返す。流れを変える、主導権を取り戻すことのできるチームになってきたということ。

終盤の同点弾、引き分けの結果にがっくりと膝をつく岡山の選手たち。そして岡山サポーター…。(結果的には、この試合での勝敗は関係なく他会場の結果で、その可能性はなくなってしまったのですが)。しかし、ホーム最終戦まで目標を持ち続けられたことは羨ましいし、岡山にとってはまた輝かしい、記憶に残るシーズンだったことでしょう。

シーズン前半戦はスコアレスドロー。そしてこの試合の結果からも言えるように、岡山とは五分(ごぶ)。かつてはミラーゲームとも称された相手。その昇格PO参戦の可能性を、われわれが自力で阻止したわけではありませんが、少しばかりは“壁”として立ちはだかったのかもしれません。あとから来て一気にJ1に駆け上がった松本への嫉妬に似た気持ち。この岡山にも「先を越されてなるものか」、そういう思いが沸々と湧いて。それは、あの地獄のような地域リーグ決勝を戦ったカンスタの地が、今はホームチーム・ファジアーノのために真っ赤に染まっている様を見たせいかも知れませんが。

負けられない…。ちょっと考えてみれば当然のことですが、選手や監督はプロとして最後まで闘うこと、いい仕事をすることがその存在意義なんでしょう。しかしわれわれ一ファンは、こんな実に器の小さい、狭量な対抗心や、勝手なライバル意識。そんなところにモチベーションを見出しているんだなと、改めて気づかされました。でも、まあ、それもまたいいじゃないですか。

いよいよ来週は福岡との最終戦アウェイ。昨シーズンは降格圏に沈み、そこからの脱出にもがき、それがシーズンの焦点になった(なってしまった)。去年のこの時点では、まだやっと終わった安堵感がすべてだったように記憶しています。しかし今は、最終戦へと同時に、われわれでさえすでに来シーズンに気持ちが向いているんじゃないかと。この時期にいささか不謹慎ではありますが、「来シーズンもぜひこの体制での積み上げを見てみたいなあ…」。今日の結果はドローでしたが、その戦いぶりに興奮させられ、ちょっと独り言を呟きたくなりました。


11月9日(日) 2014 J2リーグ戦 第40節
熊本 3 - 1 愛媛 (14:03/水前寺/6,924人)
得点者:8' 嶋田慎太郎(熊本)、40' 西田剛(愛媛)、73' アンデルソン(熊本)、90' アンデルソン(熊本)

試合終了の笛が鳴り、ゲームは熊本の勝利で終わった。もちろん、主役の藤本、吉井のまわりに選手たちが集まる。輪ができる。しかし、そのずっと後ろのほうでは、金井、橋本、園田の3人が。“守り切った…”とばかりに、今日の自分たちの仕事をしばし噛みしめるようにガッチリと抱き合っていました。

今年もまたホーム最終戦は特別なゲームでした。長いシーズンのなかの1試合ではあるものの、今日だけは、何としても結果が欲しい。ユニフォームを脱ぐ二人の、これまでの幾シーズンの物語を締めくくる大事な大事なゲーム。

20141109愛媛

午前中まで雨が残る水前寺開催のゲーム。にもかかわらず、およそ7000人が詰めかけました。ゴール裏はギッシリ。ほぼ満席。すでに開始前から最終戦モードがスタジアム全体に溢れていました。

そんなファンの思いと完全にシンクロしたように、序盤から一気に押し込む熊本。「相手3バックの脇を突く攻撃をうまく使えた」と右サイドの片山。左の藏川とともに、次々にえぐっていく。システムのミスマッチが奏功したのか、愛媛のアプローチが不十分なせいもあって、セカンドも完全に支配。

先制は前半8分。ハーフウェイライン付近から園田。相手DF裏のスペースに浮き球の長いパス。飛び出した嶋田がGKより一瞬早くループ。角度のないところから落ち着いて決めて先制。熊本の下部組織出身のJ初ゴール。最終戦の重圧があったかもしれないスタジアムはこれで一気に弾けます。

その後も、サイドから次々に突破していく。精度の高いクロスを雨あられのごとく浴びせかける。シュートも枠を捉える。延々と続く熊本の時間帯。が、しかし…。

これだけの決定機、シュート数。ここで試合を決めておかないと…。と思いはじめた瞬間、わずかに前がかりになった隙を突かれてショートカウンター。前半40分。同点弾を許してしまいます。

以後、ゲームの様相は一変。出足よくセカンドを拾う愛媛。幸いにも前半の残り時間はわずか。我慢の熊本は守り切り、ハーフタイムの修正を急ぎます。

そのハーフタイム、いつもならピッチに出て体を動かしているはずのリザーブの選手たちの姿も見えず。何やらミステリアス。さて指揮官はどんな策を打ってくるつもりなのか…。

修正の答えはアンデルソンでした。故障明け、7試合ぶりの出場。後半開始から中山に代えてピッチに送り出しました。前半のうちに貰ったカードのこともあったのかも知れませんが、決して悪くなかった中山。いやむしろ前半の多くのチャンスは中山が絡む攻撃でした。相当にキレていた中山。しかし(追加点は)決まらなかった。チームとして結果が出なかった。そこで、その軸になるプレーヤーを交代して、攻撃の組み立て自体を一変させる、そんな大胆な意図があったのではないかと。

とは言っても、ここで使う、この一枚のカードは重い。ゲームの結果を左右する局面で温情起用などあるわけないことはわかっているが。しかし、このゲーム展開のなかで勝利という結果と、ベンチにいる2人の交代枠をどうやって両立させるのか…。

試合後、そのあたりを問われた小野監督は、「自分にとって、そういう意味では難しい試合だったかもしれませんけれども、やはり勝ちに行く、それでポジションは自分でつかむ、その原則をもし崩したら、チームというのは違う方向に行ってしまう。」ときっぱりと答えながらも・・・。

「いくつかの準備はしてました。(藤本)主税を中央で使う、トップとして使うこと、それから(吉井)孝輔をセンターバック、あるいはボランチでと、その辺の準備はしておきました。それは、どういう状況になっても、戦力として彼らにピッチに立って欲しかった。彼らが力を与えてチームが勝つ方向に持っていきたかった」とも。

しかし、実際にこの展開。小野監督。悩みに悩んだに違いない。そしてたどり着いた結論。今シーズン一番の渾身の一手と見立てたい。それは“起用が当たった”などというような軽いことばは失礼で使えないような。試合の流れを読み切り、今日の“特別なゲーム”の舞台を大転換させる交代カードでした。

狙い通り、後半、ゲームはまず拮抗。恐らくは守備重視で入っている熊本。前半、飛ばしに飛ばした疲労もないわけがない。愛媛の決定機も…。

そして後半23分。遂に嶋田に代えて藤本。養父が駆け寄ると藤本の腕にキャプテンマークが巻かれる。スタジアムが沸き立つ、というよりもまったく違う雰囲気が出始める。

当初、ホーム最終戦というのに”箱”が水前寺というのは残念だなと思っていました。しかしその思いは一気に吹き飛びました。ピッチに近い水前寺の臨場感。選手を後押しする歓声がすぐ近くにある。渦巻くように。まさにホーム。これこそホーム。

一変したスタジアムのエネルギーがアンデルソンの勝ち越しゴールを呼びます。藤本交代のわずか5分後。後半28分。左サイド、斎藤からのパス。追い越したアンデルソンが角度のないニアから打ち抜く。

さらにその3分後。後半31分には、負傷した高柳に代わり吉井が。さらに盛り上がるスタジアム。確かに二人を出すための交代なのですが、結果はゲームの流れを引き寄せるための完全な戦術的な交代カードに“なった”。ロッソ戦士としての吉井の初ゴールが、この水前寺の地だったことも脳裏をよぎります。胸が、目頭が熱くなります。

「苦しい時間帯に彼らが入って、サポーターがそれに呼応して、絶対この試合をモノにするんだという思いは、ピッチの中だけではなくスタジアム全体に広がってくれた、それが大きな力になったっていうのは、この試合を振り返ってもその通りだと思いますし、それだけのものをやはり彼ら2人がここまで頑張ってきた、それがあったからこその、スタジアム含めての一体感だと思っております。」(小野監督)

「やっぱりサポーターが大切ということ、ホームっていうのはこういうことなんだなっていうのを今日は思った試合ですし、2人が入ることによって雰囲気がガラッと変わったんで。それは2人が持ってる力だと思いますし、熊本の力だと思う…。」(養父)

残り時間は15分。さあ、主役が登場し、舞台は整った。思う存分を見せてくれ!!

試合終了間際の追加点。左から上がってくる片山へ、藤本からのオートマチズムとも言える”らしい”スルーパス。えぐった片山のクロスのクリアを養父が撃つ。GKが堪らず弾くと、そこに詰めていたアンデルソンが押し込んでネットが揺れる。もうアタマのなかは真っ白に…。

計時システムも老朽化した水前寺。残り時間の感覚もつかめぬまま、ある意味あっという間に終了の笛が鳴ってしまいました。

が、まだまだ終わりではありません。勝った!さあ、カモン!ロッソができる。このホーム最終戦で…。

今日の水前寺。ホームゴール裏は満席のためファンは移動ができず、メインスタンドにもバックスタンドでもカモン!ロッソが…。場内一体となってのカモン!ロッソ。これぞホーム。そして、何とアウェイゴール裏でも愛媛サポがカモン!ロッソを踊りだす状況に…。愛媛ゴール裏へ向けて「ありがとう!」の声が飛ぶ。

サッカーに教えられることは多い。

引退セレモニーでマイクの前に立った二人。
「この熊本で引退することを誇りに思う」と言ってくれた吉井。「必ず監督になって帰ってきます。また会いましょう!」と誓った藤本。ファン冥利に尽きる言葉。

嬉しくもあると同時に。もう二人のこの赤いファーストユニフォーム姿は見納めになるのかと思うと…。この季節の常とはいえ、寂しくて哀しくて、仕様がありませんでした。

帰りのファンの人波に任せながら。みんな心地よい高揚感に浸って足取りも軽い。ふと見上げると、スタジアムに隣接するマンションの上層階の窓。赤地に11、22と書かれたフラッグが掲げられています。もう最高…。「最終戦。福岡。行こうね」の会話があちこちから聞こえてきます。あと2試合で今年のこのチームも見納め。もう二度と来ないこのシーズン。この目でしっかりと見届けたいなあと思いました。

11月1日(土) 2014 J2リーグ戦 第39節
熊本 1 - 3 山形 (19:03/うまスタ/7,751人)
得点者:10' 宮阪政樹(山形)、30' 山崎雅人(山形)、44' 山崎雅人(山形)、68' 園田拓也(熊本)


高校駅伝開催のため、この季節には珍しくナイトゲーム。昼間の試合では、昇格プレーオフ圏の6位大分が勝利を収める。それは熊本のプレーオフ進出の可能性が消えたということでもありました。
そのあたりのメンタリティーについては「…目の前に試合があればそれに対して全力で勝点3を取りに行く、最高の試合をする、それだけです。ネガティブな要素を試合前に言う必要は全く感じておりません」(小野監督)という、ごく自然な受け答え。

しかし、追う7位山形に”火がついた”のは間違いなかったのでしょう。勝ち点3以外は頭になかった。今日の山形からはそういった熊本のモチベーションをさらに上回るアドレナリンが感じられました。

20141101山形

熊本のゲームへの入りも決して悪くなかったと思います。序盤は熊本がいつものようにアグレッシブに行く。しかし、山形はそれを真正面から受けて押し返す力がありました。

「相手はファウル覚悟で厳しくきていたけど、自分たちは前半それが出せていなかったのでああいうゲームになったのかなと思います。」(仲間隼斗)

このあたりの感覚は見ているわれわれも微妙にシンクロしていたところ。“もっと行かなきゃ。もっと潰さなきゃ。”と呟いているうちに、あっと言う間に拮抗状態が崩れ、山形がダイレクトで繋ぎ、ぐんぐんと前への推進力を強めていきます。

失点は前半10分。右からの相手FK。好手・宮阪の右足から放たれたブレ球は、クロスを予想していた畑の伸ばした手をあざ笑うかのように、ゴールネットに突き刺さりました。
「経験のあるゴールキーパーだったら防がなければいけないところだと思うんですけども…」「彼が成長する過程、チャレンジしていくなかのミスは仕方ないと思っています」と指揮官は言う。
われわれも、前に出る動きが格段に良くなった、とその成長ぶりを認めていた畑。厳しいコメントかもしれませんが、この経験をまた糧にして欲しいものです。

しかし、その畑が「気持ちの切り替えができず、ずるずると失点しまった」と振り返るように、前半10分でのこの1失点、本来慌てることも、バタつく必要もないはずなのに、スタジアムにもイレブンの心境がここでもシンクロするようでした。

「残念なのは、1点取られてから相手の勢いが増して、それに対してちょっと受けに入ってしまって、リズムを自分たちで取り戻すことが前半の間にできなかった」(小野監督)。もしかして、1点目の“ミス”ということが、選手の動きに微妙な影響を及ぼしたのか。あの京都や磐田、長崎をゼロに封じてきた守備。しかし、今日の山形の勢いには押されるばかり。抑えられない。2点目、3点目と崩されるように加点されます。

この「自分たちで…」という部分がこのゲームの、この結果を集約しているように思えてなりません。

前半を終え、ロッカールームに向かう選手たちに向けて、久しぶりに送られるゴール裏からの激しいブーイング。「どうしたんだ!いつものお前たちじゃないじゃないか?」とでも言うように。前半の3失点はあまりに重いものでした。

後半、嶋田・中山から、巻・仲間の二枚替え。「裏とかスペースにシンプルにプレーしてもいいんじゃないかなと感じていて」と巻が言えば、「球際だったりセカンドボールだったりっていうのは、うちが負けてはいけないところ」と言う仲間が入って、山形を掻き回す。やっと、”熊本の試合”が始まったという感じに。

後半22分。齊藤がボックス右そばで倒されると、そのFKを高柳が蹴る。園田がそれを頭で叩きつけると1点を返します。湧き上がるスタンド。

われわれは今シーズンの、このチームの成長ぶりを一番に感じるのはその修正力、あるいは復元力ではないかと思っています。ある意味、今日のゲームもその典型的なものということも言えるでしょう。

「後半は選手達は本当に勇敢に戦ってくれたと思ってます。球際のところ、ゴールに向かう意識。で、後半だけでもかなりチャンスを作ったんで、そういうところをしっかり決めていれば、ひっくり返せない試合ではなかったという風に思ってます」(小野監督)

実際に、前半のシュート数は山形9に対して熊本はわずかに1。それが後半は熊本12、山形5。チャンス、決定機も数多く、園田の追撃弾以降は、おそらく追いつけるだろうと、われわれを本気にさせるような展開に持ち込みました。

それでも、繰り返しになりますが、3点は重すぎた。「前半にみっともない試合をしてしまったというのもあるし、後半は気持ちを入れ替えて、しっかりと相手ディフェンスラインにボールを送ることだったり、相手のボール保持者にしっかりプレッシャーをかけるということだったりというのが、前半よりはできたので、ああいう展開にできたと思います」と園田は振り返る。

マスコミの多くの論調は、プレーオフに賭けるチームのモチベーションの差という感じでした。確かにそれもあるかも知れない。上位チームを零封してきた自信からすれば、今日の山形の球際の強さには少なからず驚かされた。

しかし、今日のDFの布陣、片山が負傷のためとはいえ、長崎対策のままの並びで良かったのかという点も気になります。試合途中で篠原と園田の位置を入れ替えたように、そこにまた山形を勢いづかせた要因(ミスマッチ)がありはしなかったかと。齊藤を孤立させた遠因ではなかったかと。記者会見の席上にいるなら、そこを聞いてみたかった。

小野監督は、「私が修正するまでに時間がかかりすぎてしまったこともあると思います。そういう意味では選手は頑張ってくれたんですけれども、もっと早く修正ができればと思っています」と、責任は自分にあることを強調します。が同時に、「前半のなかで選手達が自分たちで対応していくことを期待していた部分もあります」と言う。それが、前半の3失点のなかでも、ベンチに座り微動だにしなかった姿の訳なのでしょう。修正はハーフタイムを待たなければなりませんでした。

小野監督の戦術眼、戦局分析はこのチームの大きな武器のひとつであり、それがゲームのなかでの対応力を生んでいることは言うまでもないでしょう。しかし、実際にプレーするのは選手。

「ゲームはこれからだ、顔をあげよう」と、ハーフタイムで監督が言葉で言わなくても。多分行われたであろうプレーに関する細かい指示がなくても。試合途中で自ら押し返していけるようなチームに。極端に言えば、篠原と園田も自らポジション変更を監督に直訴してもいいわけで・・・。

なかなか大きな課題ですが、逆にまだまだ大きな伸びしろがあると理解したい。

しかし、次節はホーム最終戦。そんなことを言っている時期ではないと揶揄されるむきもあるかも知れません。ただ、PO進出の可能性もなくなったと同時に、降格の可能性もない今の立場。小野監督の目線は、多分もっと遠くにあるのだと思うと、われわれもそれに合わせて、目線を高くしていく必要があるのだと思うのです。

残り3試合で積み上げられることは、順位だけでなく、まだまだあります。