【J2第34節】(石川西部)
金沢 1-1(前半0-0)熊本
<得点者>
[金]作田裕次(66分)
[熊]清武功暉(90分+2)
<警告>
[熊]嶋田慎太郎(81分)
観衆:3,163人
主審:吉田哲朗
副審:大友一平、藤沢達也


前節に続き相手の術中にはまってしまったようなゲーム展開。しかしアディショナルタイムの清武の殊勲弾でなんとか連敗だけは免れることができました。とりあえずよかった。

開幕から気を吐き、一時は昇格圏内にもいた金沢でしたが、ここまで14試合勝ちがなく、現在9位と苦しんでいます。前期うまスタでの対戦も黄金週間の過密日程のなか。0ー2で敗れてどん底の4連敗を喫した相手でした。同じ轍は踏まない。負けたとはいえ前節の戦いも悪くはない。内容では優っていた。過密日程の3連戦を勝利で終えたい。熊本も意気込んで乗り込んでいたはずです。

対する金沢もホームで勝利を飾り、なんとか再浮上のきっかけをつかみたい。

20150927金沢

そんな金沢が立ち上がりから押し込んできました。ロングフィードを右サイド奥まで秋葉が追いかけて茂木にパス。茂木のマイナスパスに中央、佐藤が走り込んでのシュートはダニエルがクリア。続いても中盤で奪うと斜め左。上がってきた大槻につながるとグラウンダーで狙ったシュートは枠の右外。事なきを得ました。

しかしその後は熊本がボールを保持する。嶋田が右サイドから狙ったミドルはGKがジャンプ一番、クリアされる。黒木が左から入れたクロスを常盤がつないで、嶋田が落としたところに齋藤がシュート。しかしこれはGK正面。養父の右からのクロスがファーまで抜けるも齋藤がグラウンダーで入れ直し、中央岡本のシュートはブロックされる。しかしこれを拾った養父が角度のないところから打ったがGK。波状攻撃。

金沢のリトリートぎみの最終ラインを考えて、今日は裏への飛び出し要員として常盤を入れてある。そして前節も調子の良かった岡本が色々なところに顔を出し、起点になる。積極的にシュートを打つ熊本。シュートで終ったプレーにうなずく小野監督。金沢のカウンターを警戒しての戦術だったのでしょう。小野監督が試合後言った「お互いに予想どおりの展開だったと思う」(熊日)というコメントは、前半をスコアレスで終えた金沢にも言える。プランどおりだと。終了間際のFKのチャンス。嶋田が山なりのボールでゴール右隅を狙いますが、キーパーがギリギリ弾き返しゴールを死守しました。

ピッチを大きく使って揺さぶる熊本でしたが、サイドからのクロスも金沢の真ん中は厚い。へたに中央に入っていっても金沢の守備ブロックに捕まってカウンターを仕掛けられそう。熊本は後半、早い時間帯で前線に巻を投入します。

直後の熊本のカウンター。嶋田が右足でアーリークロス。上村のシュートはブロックされるが、それを拾って波状攻撃。しかし実らず。攻める熊本。しかししぶとく守る金沢という構図は続く。

そんななかでの金沢のCKでした。この日、ダニエルの高さを警戒してか、前半にあった3回のCKのチャンスをショートコーナーでつないできた金沢。しかし山藤の左足から放たれたボールに、いつものとおりゾーンで守る熊本のニアサイド、ハンジンの頭の上から打ち込んできたのは作田。ゴールに突き刺します。

警戒し、また恐れていたワンチャンスでの失点。まるで前節の福岡戦を思い起こさせる。熊本はこれで下を向いてしまうのか。焦るのか。

先制した金沢に余裕が生まれたのか、かえって攻撃に厚みが出てくる。熊本はテンポが崩れる。繋げられない。

局面打開をはかる熊本は高柳に代えて中山をボランチに投入。これが奏功。アンカーに位置どった中山が、その運動量に任せて大きなサイドチェンジを多用して攻撃を組み立てる。76分に迎えたCKのチャンス。ここぞとばかりに養父が早いリスタートで入れますがクリア。それを再び拾った養父からのクロス。中央の園田がフリーで合わせますがふかしてしまう。思わずテレビの前で崩れ落ちました(笑)。

残り時間も10分を切ったところで岡本を諦め、清武を入れる。眼光鋭い清武がまたキープ力を生かしてかき回し始める。金沢は高さのあるDFメンデスを入れて守備固め。時間がない。

そしてアディショナルタイム4分が告げられた直後、ダニエルからのロングフィード。巻と競った作田にファールが示される。Pアーク左外の絶好の位置。ボールの前には当然、嶋田と清武。どちらにとってもいい位置と言えました。

GKは嶋田と読んでいたのでしょうか、ボールが見えていなかったような動き。清武の右足から放たれたボールは綺麗な弧を描いてゴール右隅に収まりました。

金沢の手中から15試合ぶりの勝ち点3がスルリと抜け落ちた瞬間でした。丁度自分たちが前節、長崎をそうさせたように。

金沢のゲームプラン、堅守速攻の術中にまんまとはまるところでした。2列に敷いた守備ブロックに攻めあぐねた熊本でしたが、1本のFKが連敗から救いました。

しかし「清武は『流れの中から点を決めないといけない』と課題を挙げる」(熊日)。

なんとか勝ち点1を得たものの、この3連戦で積み上げた勝ち点は2に止まり、順位を15位まで下げました。シーズンも残り試合は8試合。プレイオフ圏内までの勝ち点差は11に広がりました。ただ、中位から下位まで混戦状態といえる今シーズン。これから対戦するどのチームも、勝ち点という結果だけを意識したがむしゃらなゲームプランで臨んでくることが、この連戦でよくわかりました。最終コーナーを曲がって、ゴールまで一直線に入って鞭が入った。最後は鼻差の勝負になってきたような気がします。

【J2第33節】(うまスタ)
熊本 0-1(前半0-0)福岡
<得点者>
[福]ウェリントン(83分)
<警告>
[熊]シュミット・ダニエル(82分)
[福]三島勇太(12分)、ウェリントン(52分)、末吉隼也(88分)
観衆:10,142人
主審:井上知大
副審:山村将弘、櫻井大輔


悔しい敗戦でした。全体的に熊本が押しに押していたんですが、まるで蜂の一刺しのようなワンプレー。PKでの失点の前に膝をつきました。

「最終ラインと最前線に力を持っているんで、そこの撃ち合いになると苦しくなる」(九州J-PARK)と福岡を警戒していた小野監督。前回対戦はまだリーグ序盤戦の3月。開幕から連敗中の福岡が、ロングボールを仕掛けてきてそれにお付き合い。自分たちのサッカーができなかった試合。そしてその勝利から福岡は連勝街道に乗り、現在4位に位置している。

今日も福岡は守備の際は3バックに両サイドを加えスペースを消す。前線には186センチのウェリントンという高さも加わっています。それに対して熊本は過密日程の3連戦のなか「戦術的な面とコンディション面のローテーション」(小野監督)を考慮して、トップ下に岡本、サイドに藏川、CBに前節同様園田を入れて、鈴木をSBに回します。ちょっと守備的な布陣なのかなと戦前は思いましたが、「間をしっかり取って行ってこちら側がゲームを支配していく」“地上戦”を展開するためのものでした。

20150923福岡

「前節うまくいかなかった」と反省しきりだったボランチの上村が、今日はセカンドボールをよく回収し、チームプレスから敵ボールを奪っては前を向き、散らす。アンカーよろしく動き回る上村のおかげで高柳が高い位置をとれる。齋藤のポストプレーが光り、その高柳と岡本がアタッキングサードを脅かす。

ただ、ゴールネットが揺らせない。

30分には齊藤が落として高柳から嶋田。嶋田が返したところを高柳のダイレクトボレーは枠の上。続いても嶋田がドリブルで右サイドを上がってエリアに侵入すると、中央の岡本にパス。これを更に左の藏川に渡したパスがカットされる。

前半、終わりごろからでしょうか。ちょっと“攻め疲れ”といった印象も受けた熊本。GKダニエルに言わせると「ボールは回っていたというより、回させられてたという感じもしました」と。福岡はこの最終ライン3バックで凌げるという相当の自信があるのでしょう。

熊本としてはこの攻勢のバランスを崩すのが怖かったでしょうね。交代カードは難しい判断でした。岡本が足を攣ってしまったのは予想外だったでしょうが、中山に代えると、待ってましたとばかりに城後を入れてきた福岡。「前半は守備から、後半に攻めるというプラン」(福岡・金森)。これが反撃の狼煙だったのかも知れません。そして続いて平井。いずれもFWのカードを切ってくる。

それでも足を止めず拮抗した展開に収めていた熊本だったのですが、福岡GK中村からの一瞬の素早いロングフィード。前線で競ったウェリントンに「本来カバーに行く選手が競ってしまって、後ろが誰もいなくなり」(ダニエル)、ボールが金森に収まるとエリアに侵入。これを倒したダニエルにイエローが示され、PKをウェリントンにきっちり沈められてしまいました。

熊本はその前に藏川に代えて清武、失点後も前線に巻を投入したのですが、今の福岡には1点もあれば十分。終了間際にもFW中原を入れて牽制すると、3度あった熊本のCKのチャンスにGKダニエルも上がって参戦しましたが、それも凌ぎ切り、敵地で勝ち点3をもぎ取ることに成功しました。

ちょっと唖然として終了のホイッスルを聞きました。これが井原監督の作り上げた今の福岡。凌いで凌いで、後半攻撃的カードを切って仕留める。こちらは全く崩されたという実感がない。

しかし結果は結果。凌いで凌いで、凌がれてしまった。およそ戦術的とは言えないような福岡のゲーム運び。この結果は福岡という対戦相手より、むしろ自らに敗因があるような。今の熊本、戦術的にはっきりとした形が見えていて、そこから先は、良くも悪くも齊藤という攻守の中心選手がいて、そのパフォーマンスが勝敗のカギを(少なくとも半分くらいは)握っているというのが現状ではないでしょうか。しかし、心なしか、その動きが冴えない、ように見えました。それは齊藤個人のプレーと同時に、チーム全体にも波及してしまっているような。
しかし、その斉藤のコンディション問題を補える可能性を持っている嶋田のプレーぶりも、やや壁に当たっているような印象がありました。あれだけの視野、技術を持っているのに、もっともっとタテに、速い判断があっていいのではないかと。失礼な言い方かもしれませんが、昔の悪いときの中村俊輔、みたいな。

ちょっと心配性過ぎますか。

いつにも増してゴール裏を青く染めた福岡サポーターの勝利のチャントが鳴り響く。それも相当な声量で。最後は「井原!井原!」という監督のチャントまで。試合前からその福岡サポーターのゴール裏から繰り出される力強いチャント。メインにもバックスタンドにも、青いレプリカユニフォームの人数を見るにつけ、否が応でもわれわれのボルテージも上がっていたところでした。それは同じ九州のチームでも、大分でもない、北九州でもない、長崎でもない。どことも違った感覚。

九州初のJリーグチームとして発足した「福岡」。長いこと憧れの存在であり、追いつけ追い越せと強く意識してきたチーム。その背中に手が届きそうで届かない。いつまでも鳴り続ける福岡のチャントが、この敗戦を一層悔しいものに感じさせたのは、そんなせいかも知れません。

【J2第32節】(うまスタ)
熊本 0-0(前半0-0)京都
<警告>
[熊]中山雄登(16分)、高柳一誠(76分)
[京]有田光希(89分)
観衆:7,051人
主審:上村篤史
副審:関谷宣貴、津野洋平


シルバーウィークの3連戦の初戦はまさかの19位に沈む京都。しかし小野監督は「京都の今の順位は力を反映していない」(スカパー!)と警戒を怠らない。

この試合の見所はなんと言っても大黒。昨年このうまスタでハットトリックを喫したエースをどう抑えるか。それともうひとつ。熊本にとってかなり切実な問題。累積警告で出場停止のハンジンに代わってCBを務めるのは誰かということでした。そして、小野監督が出した答えは園田。実に13試合ぶりにCBの一角に入りました。その代わりのボランチは、天皇杯で実戦を積んだ上村を入れてきた。「試合に出る11人だけを強化してきたわけではない」。それが指揮官の言葉でした。

20150920京都

ここ数試合は途中出場ながら、しっかり得点している大黒でしたが、この試合は有田のコンディションもあったのか、先発で入ってきた。相変わらず神出鬼没な位置取りと、厳しいマークを厭わないワンタッチプレーで、最終ラインを脅かします。

これに対して「しっかりリーダーシップをとってチームを鼓舞したり、ラインを上げ下げすることを意識しました」(九州J-PARK)と言う主将・園田と、鈴木の両CBが大黒の動きを常に意識のなかに置き、また周りはボールの出所を抑えて仕事をさせない。対大黒に対しては、90分間押さえ込めたと言っても過言ではないでしょう。われわれでさえ、試合途中で今日の大黒はもう交代したほうがいいのでは?と思ったくらいです。

但し、その代わりに2列目の伊藤や駒井を起点にされました。が、それもコースを消した最終ラインの働き、最後はダニエルの好セーブで凌いでいる。前節、大分に押し込まれて耐え続けた”自信”が活きているような。試合ぶりに落ち着きさえ感じました。

ポゼッションは五分と五分。互いに拮抗した前半。シュートまで持って行く展開力でやや京都が押しているような…。しかし、後半は一転してオープンというか、縦に早い、カウンターの打ち合いのような様相に。

嶋田がグラウンダーで左からクロス。中で齊藤ダイレクトで角度を変えますが、惜しくも枠の右外。スローインから上村が落として清武。これはDFにクリアさせる。対する京都は、右からのアーリークロス。宮吉に繋がりPAに侵入するもダニエルがブロック。

それでも少しずつですが、熊本のペースに傾いてきているような。前節・大分戦のイメージが重なる。“いけるぞ!”のムードが溢れるスタジアム。それにプラスするようにベンチが動き出す。中山に代えて藏川を投入。しかし、そうはさせじと京都は宮吉を諦め有田を入れてきた。息を吹き返す京都。どうしても勝ち点3が欲しい。

養父に代えて岡本。駒井に代えて佐々木。これはまた同じようなコンセプトの交代。

熊本、最後のカードは清武から巻。京都は197センチの長身フェホを投入。これはもう互いにがっぷり四つ。「どっちに転んでもおかしくないゲームだった」と、試合後敵将・石丸監督が言ったように、アディッショナルタイム4分の間にも京都・原川のPアーク付近からの強烈なシュートをダニエルが片手一本で防ぎ、今度はダニエルからのロングフィードに嶋田が走ってドリブル、ラストパスを中に送るも惜しくも合わず。

互いにチャンスありピンチが交互に訪れる息もつかせぬ展開。最終的に引き分けに終わったのは、実に”妥当”な結果だったと言えるでしょう。

これで通算成績は1勝2分7敗。まだまだ、分が悪いのは変わりありませんが、この試合の内容と結果が、京都に対する苦手意識を少しは払拭できた、そんな一戦ではなかったかなと思いました。

【J2第31節】(大銀ド)
大分 0-1(前半0-0)熊本
<得点者>
[熊]田中達也(90分+1)
<警告>
[大]伊佐耕平(56分)
[熊]園田拓也(22分)、クォン・ハンジン(59分)、齊藤和樹(72分)
観衆:6,890人
主審:荒木友輔
副審:中井恒、勝又弘樹


20150913大分

ヤバイ試合でしたね。

終わってみればシュート数は大分の14に対して熊本はわずかに3。90分間を通して一方的に攻められたようにも感じた。ヤバイ!と感じた大分の決定機が少なくとも3、4度ありました。それをスーパーセーブで防ぎ続けたのがGKのダニエル。シュートに対する反応は半端なくヤバイ。そして後半アディショナルタイムで田中の劇的な決勝点。このアシストの嶋田のパスもヤバイほど凄かった。

現在リーグ最下位に甘んじる大分との九州ダービー。天皇杯の中断を明けてリーグ再開戦。この試合に賭けるホーム大分の意気込みは相当のものがあるはず。そんな予感そのままの序盤でした。

スカウティングどおりにロングボールで押し込んでくる大分。分かってはいたものの、熊本はなかなかDFラインを高く保てない。押し上げようと試みるロングフィードは、大分のCBダニエルにことごとく跳ね返され、セカンドボールもうまく収められない。

拮抗した展開も、前半30分過ぎからは完全に大分のペースに。左サイドから為田。養父をドリブルで抜き去って放った強烈なシュートは、間一髪GKダニエルが片手ではじいて外に出す。その為田、さらに続けて左から突破。伊坂のヒールパスを貰いなおして三平に送る。しかし三平のシュートはアウトに掛かって枠の右に反れてくれる。すぐそのあとも左サイドで為田が溜めたあとのクロス。ファーサイドに走り込んだのはSBの西。至近距離からのダイレクトシュートは、GKダニエルが、大きな体躯で立ちはだかってブロック。神がかっている。まさに守護神。

前半、熊本のシュートは巻が放ったミドル1本のみ。そして後半もこの一方的な流れは続きます。

伊佐のスパイクが額に入って、園田が止血のためにピッチの外にいる間、大分の波状攻撃にさらされた熊本はクリアにつぐクリアで精一杯。大分の右からのクロスをエリア内でバウンドさせてしまい、マイナスに折り返されたところに走り込んだのは兵働。しかし、このグランダーの決定的なシュートもスーパーセーブで防いだGKダニエルでした。

いっこうに熊本にペースが来る気配がない。大分のDFダニエルに自由を奪われている斎藤が珍しくイラついているように見える。熊本は巻に代えて清武、中山に代えて田中を投入。ただし田中をトップに、清武をサイドに。

「田中達也はサイドで使うことが多いんですけれど、トップで使ってサイドに流れるような形、相手がラインを上げてくるタイミングでその裏を衝くということを徹底しようと」(九州J-PARK)とそのポジショニングの意図を語る小野監督。この指揮官のちょっとした閃きが、今日の勝機を呼び込んだ伏線だったと言えるかも知れません。

この二人の投入もあり、終了間際になって少し熊本のペースかなと思われ始めましたが、時間も時間。拮抗状態のまま、今日は引き分けが御の字かとも思ったアディショナルタイムでした。右CKの流れから作りなおして嶋田が右サイドから入れる。左足のアウトに掛けた低いボールに大分のDFもGKも一瞬躊躇したところに飛び出したのは田中。左足で押し込み、土壇場で熊本が得点します。

まさかのような失点に、天を仰ぎ、うなだれる大分の選手たち。残ったわずかな時間、高松のシュートも枠を外れると、大分にとっては勝ち点1さえも奪えない、痛恨の、そして残酷な敗戦となりました。ホームでは決して目にしたくない結末。

「相手は細かくラインを上げ下げすると言われていたので、絶対オフサイドにならないようにと思っていました」と言う殊勲の田中。天皇杯に続き、リーグ戦初ゴールを飾りました。

それにしてもです。圧巻だったのはそれをアシストした嶋田のクロス。いやこれはラストパスとも言うべきか。何と言えばいいのか。通常あの右サイドから入れる左足のクロスならインフロントでゴールマウスに向かって弧を描くボールを送るはず。しかしそれならばDFもGKも対処はし易い。けれど、嶋田が選んだカットを掛けるようにアウトサイドで蹴った低いストレート系の軌道は、前述したように意外性がありすぎて、瞬間、DFもGKもその意図が量りかねたのか、反応できず触れなかった。

「あのパスは自分の得意なキックで、少しアウト気味に入れました。中に3枚くらいいたので、誰か触るだろうというイメージで」(井芹記者@takash_i のtwitterから)という嶋田のコメント。あの瞬間、瞬時にそれを判断した嶋田。そしてそのイメージ通りのボールを出した。今週のベストゴールならぬベストアシストに選ばれそうな。ちょっと”変態”的な雰囲気さえ漂います。そしてそれに呼応したのはFWに入った田中。「ボールが来ると信じてゴール前に飛び込んだ」(熊日)、「慎太郎がいいボールをくれた」(九州J-PARK)と言う。若きホットラインの完成でした。

劇的な決勝弾を目の前で目撃したゴール裏の赤いサポーターたちも嬉しかったでしょうね。羨ましい。あの苦しい90分間の劣勢に、叫び飛び跳ね続け後押ししたご褒美が、この歓喜の瞬間だったのではないでしょうか。

劣勢のアウェー戦。最後は「引き分けでも良し」としようとしていたわれわれですが、この試合を勝ち試合にした意味は相当大きい。なんとかして勝つ。”勝ち切る”という強さが備わった。そういった”経験値”が増えてくれば、何よりチームの実力に”加算”されることは間違いありませんから。

【天皇杯2回戦】(うまスタ)
熊本 1-0(前半0-0)鳥取
<得点者>
[熊]嶋田慎太郎(88分)
<警告>
[熊]嶋田慎太郎(80分)
観衆:1,520人
主審:吉田哲朗
副審:作本貴典、権田智久


このブログでは「値千金」などというあまりに常套句すぎる表現は気恥ずかしくて使ってこなかったつもり。そう思っていたのですが、遡ってみると過去12試合のエントリーで使っていました(汗)。しかも1-0の試合ばかりか、打ち合いや同点弾についても使ってる使ってる(笑)。

しかし、この試合、嶋田の決勝の1点は易きに流れたわけではなく、心底「値千金」と思った次第です。

鳥取との公式戦は、実に2013年の8月以来でした。あの年熊本は初めてシーズン途中で監督を解任、池谷体制で降格圏脱出にもがいていた。思えばあのシーズンは、鳥取とのホーム開幕戦、後半43分に痛恨の逆転弾を喫して敗戦。波乱の一年を暗示するような不安なスタートだったことを思い出します。結果的にはその年、J3に降格したのがその鳥取だったのですが。

もちろんあの頃からはお互いにメンバーも大きく入れ替わって、当時のことを知る選手も少なくなっているでしょうが。現在は松波監督が指揮し、この時点でJ3リーグ7位。どんなサッカーをするものやら。以前から決して相性のいい相手だったという印象はなく、少し不気味な気持ちで試合開始のホイッスルを待ちました。

熊本は1回戦からメンバーをいじってきました。GKはシュミット・ダニエル、CBにクォン・ハンジン、2列目左には中山、2トップの一角に平繁を投入してきました。上村とユース米原の若いボランチコンビは今回もそのまま使ってきます。

20150909鳥取

決して引いて守るわけではない鳥取。サイドを起点にしたい熊本の狙いは、サイドハーフが下がって5バックになることによってスペースを潰される。あるいは出足のよいディフェンスで蓋をされる。短いパス回しを封じられた熊本は、勢いロングボールが主体になる。試合後、「序盤は練習よりもロングボールが多かった」(熊日)と平繁が振り返るように、これでは彼も活きてこない。

「プラン通りには入れた」(九州J-PARK)という松波監督。攻守の切り替えも早く、攻めては縦にシンプルに走らせる。守りとなるやきっちり5バックをセットする。攻撃のスピードを封じられた熊本は、ミスから奪われると30分以降は防戦一方。クリア一辺倒になります。

これは後半、相当のテコ入れが必要だぞと思わせたハーフタイムでした。鳥取のちょっと変則的とも言えるシステムにどう対処するのか。相手守備の数的優位に対してどう対処するのか…。小野監督著の「サッカー・スカウティングレポート」の一文が思い出されました。

「1人を余らせる、つまりプラス1にするためには、どこかをマイナス1にしなければなりません。こここはフリーにしても構わないという選手なり、ポジションなり、あるいはエリアなりを決めるのです。当然、弱みのマイナス1の部分を相手に気づかれるとまずい。だから、いかに相手をだますか。私たちはその工夫のことを『砂をまぶす』と言います。」(サッカー・スカウティングレポートから)

対戦相手のその”まぶした砂”を払いのける。ハーフタイムで指揮官は、「ボランチが顔を出した時に相手がどういう状況になっているかというのを少し話しました」。「相手が勢いよく来ると、空いている部分がピッチレベルで簡単に見つけられない場合もあるので、こうなった場合は必ずここが空いているというのを少し整理して伝えました」(九州J-PARK)。ここらあたりの指示に、”スカウティングの小野”の真骨頂があったのではないでしょうか。

迎えた後半。「平繁が決して悪かったわけではない」と言いながらも、58分に指揮官が齊藤を送り出すと、熊本へ少しずつ流れが傾いてくる。鳥取DFも、このFWはハイボールに競る、ボディコンタクトを厭わない、ちょっと面倒だ。嫌だな。と感じているようで。

大きなサイドチェンジに嶋田が追いついてバックパス。上原がエリア内で切り替えして撃ったシュートは枠の右外。ダニエルからのロングフィードに中山から黒木。右サイドえぐってクロス。ダイナミックな攻撃で、鳥取を少し慌てさせ始め、後ろに走らせるシーンが増えてきます。

一歩ずつ。少しずつ。熊本が手繰り寄せているような気もする勝機。しかし、最後のところのパスが甘く、単純なクロスでは中は厚い。膠着状態は続く。このまま延長戦に突入かとも思わせました。

中山に代えて岡本。清武を2列目に下げて岡本をトップ下に。さらにかき回すと…。

黒木が右から入れたアーリークロス。鳥取DFが処理できずPA内でバウンドさせてしまう。詰める熊本の選手たち。競ったDFがゴールライン際にクリアしようとヘディング。しかしそれが小さい。その着地点を狙っていたのは嶋田。ゴールライン際、角度のないところでしたが、それでも得意の左足を一閃。われわれの席からは、サイドネットだと見えました。しかしボールは「強い球を蹴られたら、相手に当たって入るはず」(熊日)という嶋田の狙いどおり、ゴールネットを揺らします。

時間にして試合終了間際の88分でした。アディッショナルタイム3分を加えても、あと5分しか残っていなかった。がっくりと膝を折ったのは鳥取の選手たち。そして松波監督。崩れたゲームプラン。

「天皇杯に関しては(延長を含めた)120分を想定しなければいけない」と言ったのは小野監督。鳥取は、想定通り、相変わらのしぶとい相手でした。だから齊藤を温存し、ぎりぎりまで投入を待った。中3日で次のリーグ戦を迎える日程のなかで、選手たちの消耗を最低限に抑えたかった。

嶋田の試合終了間際での得点は、その勝敗を決する”決勝点”という意味だけでなく、90分で決着をつけたという意味で、チームの”体力”に与えた価値も”値千金”でした。そして、1回戦では田中、この試合では嶋田。若いアタッカー陣が貴重な得点を決めて、熊本が天皇杯の駒を進めた意味もまた大きなものとなりました。

次は3回戦。対する相手は小野監督含め、多くの選手と因縁深い広島。「個人的には一緒にやっていた選手がまだいますし、非常に楽しみな対戦であることは間違いないです」。静かな指揮官にしては珍しく、次戦への意欲をコメントしました。この天皇杯というレギュレーションをよく知る監督は、おそらく一泡拭かせるどころか、ジャイアントキリングをきっと狙っているはず。抑えた口調ですがそんな隠れた闘志を感じるのはわれわれだけではないでしょう。

同じ2013年の天皇杯3回戦。あの時は点差以上の完敗でしたが、今どこまで詰められたのか。ファンにとっても非常に楽しみな対戦といえます。しかし残念ながら、10月14日平日の水曜日の夜。しがないサラリーマンのわれわれは、現地観戦が叶わないことも、予めお断りしておきます。遠く広島に念を送ります。勝利を!