【J2第38節】(うまスタ)
熊本 0-2(前半0-1)磐田
<得点者>
[磐]ジェイ(5分)、太田吉彰(71分)
<警告>
[熊]鈴木翔登(49分)
[磐]太田吉彰(32分)
観衆:12,404人
主審:吉田寿光
副審:中野卓、勝又弘樹


0-2の敗戦。点差は2点ですが、彼我の力の差はそれ以上を感じた試合でしたね。敵将・名波監督が「相手ゴールキーパーが非常に良かったので、彼でなければもう少し点差が開いたゲームだったんじゃないか」(九州J-PARK)と言うように、ダニエルがいなかったらと思うと…。

PO圏内まで勝ち点差4に迫ったわれわれにとって重要な試合だったように、磐田にとっても、背後に迫る3位福岡の足音に、絶対に負けられない状況。だからこそ、スカウティングを徹底し、試合の2日前には熊本に入るなど、万全の準備をしてきました。

スカウティングの点で言えば、例えば熊本のクイックリスタートを警戒しての素早い集合。ダニエルの攻撃的パントキックに対して徹底して前線のジェイがチェッキング。そしてなにより熊本に複数人でプレスをさせないための速いパス回し。それも足元ではなく、スペースへの動き出しが速い。つまり次のプレーの判断が速い。

九州リーグからずっと観てきましたが、まずJ2に上がって何が違うかといえば、テクニックよりもなにより、このプレー判断の速さでした。しかし、今日の磐田に見せつけられたのは更に上をいく速さ。これが“カテゴリー1”のレベルなのでしょう。熊本に守備の数的優位を決して作らせません。

20151025磐田

開始早々、磐田のスローインから左サイド宮崎がクロスを上げるとジェイの高い打点のヘディングが決まり失点。鈴木が競ってはいたものの、それをものともしない強さ。そしてポストプレーでは、その足元のうまさと懐の深さ。これは二人がかりでも奪えない。このカテゴリーでは反則級の選手です。

「(試合の)入り方は、ラインをかなり意識して上げて、良かったんじゃないかと思ってます」(九州J-PARK)と小野監督は言いますが、磐田は熊本のオフサイドトラップをかいくぐる。逆に熊本の2トップにはオフサイドが多い。今日の両副審、どうかしてるのか?と疑ったぐらい。

ただ、熊本も前半30分頃は波状攻撃。齊藤が落として平繁のシュートはバーに嫌われる。“たら・れば”を良しとしないわれわれも、今日だけは言わせて欲しい。このシュートが決まっていれば…。

右SBの養父が再三アーリークロスでファーサイドの岡本を狙いますが合わない。なんとか前半のうちに同点に追いついておきたい熊本だったのですが、ビハインドのまま後半を迎えてしまいます。

後半、熊本は出ていくしかない。磐田は徹底した守りから鋭くカウンターを狙う。磐田の敷いたブロックと、貼りつくようなプレスに、熊本はなかなか前に運べなくなった。

岡本に代えて嶋田をトップ下の位置に持ってきますが、何もさせてもらえない。逆に71分、その嶋田が川辺にボールを奪われるとカウンター。小林、川辺と繋いで、最後は右から太田が上がり、前に出たダニエルの頭を越えるループシュートで追加点としました。

その後も上原、巻と一気に2枚替えを行いましたが奏功せず。2点目の起点になった殊勲の川辺が、「マッチアップした相手が、左利きでドリブラーということはわかっていたので、左に来るかなと思い、ちょっと左に体を寄せることを意識しました」(磐田公式HP)と言ったとおり、磐田は熊本の選手一人一人の特徴と対策をスカウティングしていました。

昨季のリーグ開幕前、「J2の優勝シャーレなどオークションで売り飛ばそう」と豪語し顰蹙を買った名波監督。優勝どころか、自動昇格圏内もままならず、4位でPOを戦った。そしてあの山形戦での劇的ともいえる敗戦。決勝戦にも進めませんでした。

これほど2位と、その下の差を知っている監督はいないでしょうね(笑)。ひょっとしたら名波にとって、3位以下はもはやJ2残留と同じ意味を持つのかも知れない。だからこそこの男が、プライドをかなぐり捨てるように、徹底して格下ともいえる熊本をスカウティングし、その戦力の無力化を図った。2日前に敵地に入り、コンディションに気を配った。ゲーム中は90分間一度もベンチに座ることなくピッチサイドで指揮し続けたのではなかったでしょうか。

スカウティングの名将、わが小野監督が更に上を行かれましたかね。われわれが磐田を無力化する姿を想像していたのに…。

いやいや。ちょっと悲観的に過ぎる感想になってしまいました。ではこのゲーム、何も得るものがなかったのか?というと、決してそうではなかったなと。

昨年の10月19日、ホーム磐田戦のエントリーにわれわれはこう書いています。
「…われわれにとっては藤田俊哉の磐田であり、名波浩の磐田であって。チームそのものが仰ぎ見るレジェンドです。そんな磐田を初めてホームに迎える。1-3で敗れた今季の前半戦の残像も鮮明で、無意識のうちに居住まいを正してキックオフの笛を待ちました…」

また次のような小野監督のコメントも引用しています。
「あの相手に全く臆することなく勇敢にラインを上げて最後までプレッシャーをかけて、裏を取りに行って、つなぐところはつないで、最後の最後まで勇敢に戦ってくれたと思っています。選手達は力を出し切ってくれて、今季の試合の中でも最高の試合の1つじゃないかと思います。」

溢れ出るような磐田への“特別感”ですね。そして較べれば今日のゲーム、少なくともわれわれのこのゲームへの磐田に対する意識は全くある意味”普通”なものでした(多分、チームも)。普通に戦い、当然のように勝ちに行って、そして負けてしまった。そんな感じ。

奇しくも一年後の今日。舞台も同じ9回目のサッカーフェスタ。1万人のホーム観衆が見たものは、力の差以上に、昇格への凄まじい執念のようなものだったのかも知れません。まだまだ、わがチームも発展途上。しかし、ちょっと引いてみると、そんなけして小さくない成長も感じられる。

6位までの勝ち点差は7。二馬身以上開いてしまいましたが、まだまだ諦めるのは早い。次のC大阪戦も真正面から堂々と勝ちに行くわがチームの雄姿を期待しています。

【J2第37節】(ピカスタ)
讃岐 0-2(前半0-1)熊本
<得点者>
[熊]岡本賢明(11分)、清武功暉(90分+1)
<警告>
[熊]岡本賢明(16分)、清武功暉(89分)
観衆:2,380人
主審:野田祐樹
副審:大西保、西村幹也


幸先のよい岡本の得点。そして4試合連続となる清武のダメ押し点(PK)により3連勝。順位も9位に上がりました。それにしても、こういう勝ち方、勝ち点を拾うようなゲーム運びができるようになった。シーズン前半であれば、こんなゲームで足をすくわれていたかもと思われた向きも少なくなかったのではないでしょうか。

この試合、心配されたのは中3日という過密日程による選手たちの疲労でした。ミッドウィークに行われた天皇杯・広島戦。古巣との対戦となる小野監督は、ターンオーバーなど頭の片隅にもなく、この試合もその時点でのベストのメンバーを送り出した。残念ながら力及びませんでしたが、いつものようにハードワークした選手たちの疲労は相当のものがあったと思います。

指揮官の頭の中には、これまでも幾度かあったリーグ戦での過密日程3連戦となんら変わらないチームマネジメントのイメージがあったのでしょう。現在、FC今治を率いる岡田元日本代表監督の協力もあったのかも知れません。広島から直接愛媛県今治市に入り「ショートキャンプを行なえたことが一つ大きかった」(公式HP・小野監督コメント)。そして「疲労を含めて、何人かの選手をローテション」して、この大事な讃岐戦に臨みました。今はベンチメンバーを含めて誰が試合に出ても一貫した力が発揮できる。誰が出ても同じ戦いができるほど選手の層が厚くなってきている。

20151018讃岐

「セカンドボールの争いの部分で手薄にならないように中を厚く」(小野監督)したという意図の4ー3ー3の布陣。序盤から熊本が讃岐のゴールを脅かす。先制点は11分の右CKからでした。いつもようにクイックにリスタートした養父に対して、「ショートコーナーに間に合わなかったので、セカンドボールを拾おうと思って」(公式HP)というファーサイドの岡本の足元にちょうど転がり込んだ。右足を一閃したシュートは、クリアしようとしたエブソンの頭をかすめると、そのままゴールに突き刺さりました。堅守で知られた讃岐のゴールを早い時間でこじ開けたのは実に大きい。

その後も熊本のポゼッションが続く。時折の讃岐のカウンターは、DFのところでしっかり潰す。あるいは木島、我那覇の両FWをオフサイドに仕留めます。

讃岐はサイドからの長いボールを多用し始める。それに対して後半、熊本は平繁に代えて清武、岡本に代えて中山とカードを切っていき、それに応じてシステムも変化させます。

「後半は引くような形になってしまった」(公式HP)と言うCBの鈴木。やはり後半30分頃のきつい時間帯は、チーム全体の運動量が落ちてきた。最後の巻とハンジンの交代は、ハッキリとした逃げ切りの意思表示。このまま逃げ切れるかとハラハラして観ていたのですが、終了間際になんとなんと…。

熊本の左CK。上原からシュートコーナーで清武が持つと、エンドラインぎりぎりでDFと勝負。これを交わしてエリアに突進すると、讃岐のDFもたまらない。清武をひっかけてPK。これを清武自身がきっちりとゴールに沈めました。

プレースキックが蹴れて、ロングスローが投げれて、パスやドリブルだけでなくシュート力もあり。大宮戦のスカパー実況で、解説の松岡康暢氏が付けた「サイボーグ」というあだ名も大いに頷けるところです。日本代表の兄・弘嗣も逸材ですが、弟には体の強さ、そして相手をのんでかかるような気持ちの強さがあるように思います。

さて、その大宮戦のわれわれのエントリーに対して、spirits of roassoさんから拍手コメントでいただいた言葉。「リーグ戦6試合後に振り返ったとき、この試合でさえ発展途上と思えることを期待したい」というコメントは、首位大宮に完勝して諸手を上げて大喜びし、はしゃいでいたわれわれを大いに諌めてくれました。

6位までの勝ち点差は4に迫った。残り5試合。次は磐田、セレッソ、水戸、徳島、岡山といずれも難敵との戦いが続きます。金沢戦のとき「最後は鼻差の勝負」と表現したように、どの戦いも負けられない。

しかしspirits of roassoさんが言うとおり、わがチームは“発展途上”のチャレンジャー。難敵相手にどんな戦いを挑んでいくのか、それが今ものすごく楽しみです。

熊本が過去最高順位7位で終わった高木監督初年度2010年には、まだこのJ1昇格プレーオフ制度がありませんでしたから、こういう気持ちでリーグ終盤を迎えるのは初めてですね。

事が成るときというのは、得てしてあれよあれよと言う間に運ぶときともいいます。一事は最下位に沈んだ熊本。しかも最終盤は上位、強豪との対戦が続く。そんななかで、あわよくば鼻差で…。

現時点で13勝13敗11分、得失点差0。最後の5試合を前にして数字の上ではもう一度スタートラインに戻ったともいえる。内容的には2015年シーズンの成長も見届けられそうな状況ですが、もしかしたら、本当にもしかしたら、その先にプレーオフ出場が叶えばいうことなしです。

【天皇杯3回戦】(Eスタ)
広島 1-0(前半0-0)熊本
<得点者>
[広]皆川佑介(46分)
<警告>
[広]皆川佑介(35分)
[熊]齊藤和樹(38分)、嶋田慎太郎(76分)
観衆:3,179人
主審:家本政明
副審:武田光晴、三原純


2015.10.12 大宮に完勝。
【J2第36節】(水前寺)
熊本 3-0(前半1-0)大宮
<得点者>
[熊]清武功暉2(22分、47分)、養父雄仁(62分)
<警告>
[熊]上原拓郎(25分)
[大]横山知伸(27分)、泉澤仁(50分)
観衆:4,002人
主審:飯田淳平
副審:和角敏之、鈴木規志


20151010大宮

いやぁ、これは”金星”と言ってはいけませんか?

同じカテゴリーとはいえJ1からの降格組、さらに言えばダントツで首位を突き進む大宮。かつての広島、柏…そんな偉大なチームが思い出されます。その大宮に対して、3得点完封で勝利。逆転サヨナラみたいな劇的な勝利でもなんでもない。完勝。これはただの白星とはちょっと重みが違うような気がするのですが。

しかも、「臆することなく強気で戦おう」(J-PARK)と指揮官が送りだしたように、これまで培ってきた”自分たちのスタイル”を貫いての勝利。あの大宮が、成すすべもなく膝をついた。そんな試合でした。

もちろんヒーローは2得点の清武。そしてまたまた相手の隙を突きCKをヘッドで追加点とした養父なんでしょうが。それをアシストした中山、久々の先発で燃えていたそうですが、彼の守備もかなり効いていました。しかし、なんと言ってもここのところ成長著しい上村。上原とともに相手ボランチを無力化したのが大きかった。いやいや、「チーム全員がハードワークして、つないでくれた結果」(11日付・熊日)と清武が言うように、全員の名前を挙げていちいちそれぞれの活躍を褒めちぎりたいくらいです。

同日開幕したNBL。熊本ヴォルターズは初戦を勝利では飾れませんでしたが、元バスケ部の友人とたまに観にいったりします。そのとき友人に色々と解説してもらうなかで知った「オールコートプレス」と言うバスケットの戦術を聞いて、ああ小野監督のやりたいことはそれなんだ、と思いました。調べてみると、既にサッカーでも応用されている戦術なのですね。マルセイユのこんな記事を読むと、通じるところを感じます。(昨年のものですが)

そのオールコートプレスよろしく、とにかく今日は選手たちがよく走った。2人、3人と中盤で挟み込むと、相手は奪われるか、あるいは下げざるを得ない。もちろん、これだけ数的優位を作るということは、小野監督が「砂をまぶして隠す」と自著で書いたように、「奪いに行けば行くほど、今度は逆サイドのポジションにリスクがありますが、逆サイドの選手までが連動してくれたので、それほど危ない場面を作らせずに済んだ」(九州J-PARK)。

22分、養父が右アウトにかけて縦にスルーパス。そこに齊藤が斜めに入って、右サイド奥からのグラウンダーのクロス。マイナスに入り過ぎて合わないなと思いましたが、中の清武が拾うようにバックすると、丁度DFを交わす形になった。無理な体勢でしたが清武が体をねじって右足一閃。これがゴールの右上隅に決まります。清武は3試合連続ゴール。

まず、王者・大宮から先制点を奪ったことで、われわれは飛び上がって喜んだ!

その後も養父が上村とパス交換から、上村が養父のスペースを埋めると、養父は中に入って前に上がり、左の黒木にパス。黒木のクロス。次々に追い越していくような流動性。

大宮は全く攻撃が作れない。35分頃のカルリーニョスのミドルも苦し紛れ。これが大宮のこの試合のファーストシュート。左サイド突破を防いだ中山を蹴ってしまい注意を受ける泉澤。焦りが見えます。

危なかったのは前半アディッショナルタイム。終了間際に一瞬、エアポケットのような緩んだ時間ができてしまった。ムルジャの至近距離からのシュートをダニエルがクリア。拾われて右からグラウンダーで入れなおされ、そこに家長が入る。その前で上原が間一髪クリアします。

前半のうちに同点にしておきたかった大宮。後半開始早々から、上村にいいように潰されていた金澤を諦め、大屋に交代。大宮の修正力に対して、後半15分はしっかり凌いで、そこからがまた勝負の時間帯になるなどと、われわれなりの予想を立てていたのですが、いきなり”いい意味で”裏切られます。

中山に上村が加わって右サイドを養父に破らせると、養父は右サイドマイナスに中山にパス。今度は中山、中央で構える清武に”気持ちのこもった”ロブを送る。

中央でDFを背にした清武。トラップ一発足元に置くと、再び右足を一閃。ゴールに叩き込みました。この日2点目。「清武オーレ!清武オーレ!」。チャントとともにマフラーが振られる赤一色の水前寺。

54分には、齊藤から大きなサイドチェンジ。それを左の清武がダイレクトで折り返すと、ボックス内には平繁。ダイレクトシュートで狙いますが、これは左のポストに嫌われた。ため息のスタジアム。頭を抱えてもんどりうつ平繁。今日の攻守に渡る平繁の存在感を感じて、スタンドの誰しもが、今日こそ平繁に点を取らせたいと願う。

62分、右CK中山。養父がニアに走りこんでDFより早くヘッドでゴールに押し込む。大きな価値ある3点目。前節と同じように、相手の隙をつく養父の動きはもはや”ステルス”と呼ぶに相応しい。

3点差は普通だったら安全圏ですが、しかし、相手は大宮。そして時間は後半25分を過ぎると、さすがに熊本もきつくなってくる。大宮のポゼッションとなってきました。

熊本は平繁を下げて藏川でバランスを取る。ベンチに下がる平繁に対してスタンドから大きな拍手。点こそ取れなかったが、今日の平繁の前線での献身的な働きは誰もが認めていました。

大宮がバイタルを脅かす。左CKから作るとカルリーニョスの左45度からのシュートはサイドネット。

熊本はカウンター。ハンジンがくさびのパスをカットすると、清武が繋いでそのままハンジンが持ち上がってシュートは、GKに収まりますが、万雷の拍手。

熊本は清武に代えて岡本。大宮はついにカルリーニョスを諦めて播戸を投入します。

大宮が短いパス回しでバイタルを襲う。家長を押さえ込めない。「絶対させるな!」。セットプレーの度、仲間を鼓舞するダニエルの声が枯れているのがわかります。

上村が足を攣ったのはこの日の働きならしょうがない。高柳との交代で中盤を締める。

終了間際、大宮の左CKから。家長から柔らかいボール。右からクロスを折り返してヘディングはバーに嫌われる。アディッショナルタイム4分。右サイドからのクロスにムルジャがシュートも、枠の左。そして主審が腕時計を見て、早く終われ、終われと祈るわれわれ。ダニエルが大きくキックを送ると、終了の笛が吹かれ、その瞬間、水前寺のスタンドの誰しもが叫び、ガッツポーズし、知らない同士でハイタッチし合い、喜びを分かち合いました。

首位・大宮に勝った!

「我々のボランチのところで潰されていたのが非常に大きかった」「ボランチ2人が交代するという、あってはならない状況があったということは、我々のリズムでできなかったということ」。敵将・渋谷監督は、そう反省します。逆にそこから、熊本・小野監督の狙いがはっきりと見えてくる。そのキーマンを演じたのは間違いなく上村でした。

もうひとつ。後半30分頃のキツイ時間帯。それを支えたのは小野監督が言うように「スタンドからサポーターが力を与えてくれて」ということもあったのは間違いありません。止まりそうな選手の足を動かしました。

「やっぱりボールへの厳しさとか、ボールを引き出すとか、フットボールをするというか、そういうものをしっかりやらないと勝ちは絶対にたぐり寄せられないので、もう1度そういう原点のところをやっていきたいと思います」と言うのは、この試合後の大宮・渋谷監督のコメント。J1昇格に向けて足踏みさせられました。「ただ、熊本さんの勝利に値する動きというか、出足の部分は私たちも見習わなきゃいけない」と言う。

今、振り返って思えば、大宮との前回対戦では、前半45分こそ”自分たちのサッカー”で押し込んだが、後半に修正されて苦杯を飲んだ。われわれは、「気後れはありませんでしたが、しかし、さすがに一日の長がむこうにありました。」と刻みました。ところが、そのときのスカパー解説者の山口素弘氏は、「熊本の向かっている方向性は間違っていない」と言い切っています。

このリーグ戦終盤に差し掛かって、決して順調とは言えない足取りながらも、ブレることなく積み上げてきた成長を鮮やかな形で見せてくれた。この完璧なゲームを支えたのは、やはりチーム全員が走りぬいたこと。先のマルセイユの記事にもこうあります。

「この戦術は相当な体力を擁するが、鬼監督ビエルサはそれをあえて選手達に強いて、結果をつかませる。結果を手にした選手達は、自分たちのプレーが間違っていないことに確信を得て、自信とモチベーションを持ってこの戦略に挑むのだ」。

今季のベストゲームのひとつ。いやいや、この対戦相手にして、この戦術、攻守にわたる90分間のパフォーマンス。完勝。われわれはチーム発足以来のベストゲームと言ってみたい気分です。

【J2第35節】(長崎県立)
長崎 1-2(前半1-0)熊本
<得点者>
[長]イ・ヨンジェ(23分)
[熊]養父雄仁(65分)、清武功暉(83分)
<警告>
[熊]鈴木翔登(42分)、齊藤和樹(90分)
観衆:5,554人
主審:塚田健太
副審:竹田明弘、佐藤貴之


「いろんな選手が復調してきたが、ピッチに出せるのは11人。うれしい悩みが出てきた」。試合前日3日付の熊日による小野監督の言葉どおり、前線には平繁、ボランチの一角には上原。そしてベンチには巻、清武、岡本と頼もしいメンバーが控える。終わってみればその厚くなった選手層を活かした熊本が、今季初の逆転劇を演じてみせました。

スタートの布陣は3-4-3。長崎の3バックに前線の3人をマッチアップするシステムを選んだ指揮官。しかし結果的にはこれはあまり機能しなかった。何となく借り物のようなぎこちなさ。長崎の強い球際に押されるように、バイタルを脅かされます。

20151004長崎

開始早々、上村がPA前で拾って嶋田にパス。嶋田がエリア内に侵入するもDFに対応されてチャンスなく下げる。それを養父が遠目から打つが枠を越える。一方の長崎はスローインからPA内で落としたところをイ・ヨンジェがトラップ一発、反転からのシュートはDFがブロック。この互いのファーストシュートを放ったプレーヤーが、この後の得点者になる。その予兆でした。

「どちらにしろ1点差のゲームになる」(スカパー)。敵将・高木監督は戦前そう予想していたそうです。ここのところの対戦結果も相変わらず1-0の勝利が多い長崎(笑)。一方、養父は最近の試合を「先制点が取れていない。流れの中で取れていない」と振り返る。過去の戦績からも一点差と読むゲーム。なおのこと先制点が欲しい。

帰陣の早い長崎のブロックに手を焼く熊本。なかなか縦に入れられず、なんとなく後ろで回させられている感。徐々に焦りも感じられる。左の鈴木が前に預けて攻め上がろうとした時、そのパスが奪われる。長崎は右サイド奥からそれを前線にロングフィード。ハンジンがそれをヘッドでダニエルにバックパスするのではなく、足元に置こうとした。ちょっと欲が出ましたね。

そこにヨンジェが猛然とアタック。後ろから押したようにも見えたのですが、主審は笛を吹かない。倒れたハンジンからボールを奪うと、前に出てきたダニエルより一瞬早くゴールに流し込みました。

熊本が今季「先制点を奪われた試合に勝利したことがない」ということを、データを使ってしつこくあげつらうスカパーのアナウンサー。もちろんホーム側の解説者も熊本の悪いところばかりを指摘します。まあ、そんなものかもしれませんが…。

なんとか前半のうちに同点にできないものかと思っていましたが、多分、長崎はこのまま前半を終わらせればいい。あわよくば90分間そのままでも。ただ、その前半の終わり頃、「長崎は複数得点が課題」。そう言ったアナウンサーのコメントどおりになったのも皮肉でしたね。

後半、長崎が先に動きます。前線の木村に代えて佐藤。「1点のリードで勝てるとは思っていなかったので、2点目を狙いました」(九州J-PARK)と高木監督は言うものの、しかし選手は「でも正直チーム全体で点を取りに行けてはなかった」(梶川)と言う。

後半も10分が過ぎると、ここでも時間帯別の得点失点データを持ち出して、ここからの熊本の失点数の多さを指摘するアナウンサーがなんともしつこい。

しかし逆に今日の熊本はここからでした。鈴木を下げていつもの4バックに戻すと前線には巻。これで雰囲気がガラリと変わりましたね。選手が生き生きと躍動し始めます。同じ前線のターゲットでも、佐藤より何枚も上手。張っているだけで存在感が違う。

その巻が倒されて得た65分のPA左からのFKのチャンス。養父と目が合ったという上原が素早くリスタート。キーパーが出そうで出れない絶妙のクロス。中央で巻が潰れてくれて、ファーサイドから入った養父が落ち着いて合わせた。同点弾とします。

さすがに目が覚めた長崎と、その後は緊迫した攻防戦。熊本は岡本、清武と攻撃的カードをテンポよく投入し、残り時間も10分を切ったところ。いい時間帯でもありました。右サイドからのスローイン。園田から縦に齋藤、そして岡本、巻、再び岡本と全てワンタッチで繋ぐ。岡本が侵入すると見せかけてDFを引きつけると、左から上がった黒木へ出す。黒木がダイレクトで打つかと思いましたが、DFの股を抜いてグラウンダーでクロスを入れると、中には清武が背後からドンピシャで入り押し込みます。全編、岡本がデザインした攻撃だったとも言えるでしょう。流れの中どころか、完璧なまでに崩し切っての得点でした。

長崎は最後、DF高橋を上げて“大砲”得意のパワープレー。それを凌いで熊本が記念すべきアウエー50勝目を挙げました。

試合後、「ゲームのプランとしては、長崎のゲームを見ていたなかで、どういう立ち上がりをして、最後はパワープレーも含めてどう変化を加えてくるのか、それに対してある程度こちらも耐えうる、ゲームの流れに応じて、攻撃に出るにしてもしっかりと守りきるにしても、いくつかの変化を持つカードはありました」と言う小野監督。

「巻を途中からというのも1つですし、そういう意味ではスタートからやってもらう選手、それから途中で流れを変えてもらう、あるいはゲームを閉めてもらう、そういったところは考えて、清武もそのうちの1人です」と言う。

戦前の“うれしい悩み”を、対長崎のゲームプランに落とし込んだ指揮官。そしてそれに応えるように、キッチリとそれぞれの役割をこなした選手たち。それと「最後の最後までサポーターがゴールの後ろから応援してくれて」(小野監督)と言うように、敵地に駆けつけた450人の赤いサポーターたち。九州ダービー、アウェーの地で一体となった熊本が“逆転する力”を発揮しました。

われわれはスカパーの実況内容にちょっと辟易、イライラしていただけに、画面に映る「カモン!ロッソ」が、いつにも増して嬉しかったことを付け加えておきます(笑)。