【J2第15節】(ノエスタ)
熊本 0-2(前半0-1)町田
<得点者>
[町]鈴木孝司2(29分、76分)
<警告>
[町]重松健太郎(20分)
観衆:2,509人
主審:井上知大
副審:川崎秋仁、村田裕介


「震災を言い訳にはしない」と常々選手たちは言っていました。そのとおり、リーグ戦復帰3戦目となる今日の試合は、選手たちのコンディションはほぼ以前どおりと見受けられたし、失点の部分はGK佐藤が試合後、「厳しさが足りない」(熊日)と言うように、一瞬の甘さがもたらしたもの。しいて言うなら、無得点が続く攻撃の部分で、まだ本来の連携が築き上げられていないという点でしょうか。

神戸ノエビアスタジアムのゴール裏は、真っ赤に染められていました。それはしかし、いつもこのスタジアムを埋め尽くすクリムゾンレッドではなく、この日一日だけの(正確に言えば2013年11月の神戸との対戦以来の)プーマレッドでした。

リーグ戦復帰からのホーム第2戦開催に、スタジアムの提供を申し出てくれたのはこの神戸。1995年に阪神・淡路大震災で大きな打撃を受け、そして長い年月を経て復興を果たした地。あの頃のヴィッセル神戸は、まさに今の熊本に投影できるでしょう。色々な苦難があったことを聞いています。

熊本が今日この”ホーム”に迎えるのはJ3から今季J2復帰なった町田。ここ2試合は連敗してはいるものの、現在3位に付ける難敵。対する熊本には、インフルエンザから清武が戻り、右サイドハーフには中山、ボランチの一角にはキム・テヨン。右SBには黒木が入りました。

20160528町田

入りはいい。黒木のダイレクトの低いクロス。クリアを清武拾ってボレーシュートは枠の左にそれたものの、実に積極的。キム・テヨンが常にサイドチェンジを意識してボールを散らす。対する町田はブロックを敷いてカウンターのチャンスを伺う。そんな互角以上の戦いが出来ていたんですが…。

29分、右サイドを”なんとなく、アレ?という感じで持ち運ばれると、サイドチェンジ気味のクロス。ファーサイドの鈴木崇文に渡ると、そこからPA内にいた鈴木孝司に柔らかく入れた。鈴木孝司がそれを点で捉えてバックヘッドでゴール左隅に流し込む。町田が先制点。

このシーン。鈴木崇文をフリーにし、鈴木孝司への植田の”当たり”も緩慢と言えましたが、その前にするすると左サイドの侵入を許した。井芹さんが熊本蹴球通信に書くところによると、ラインを割ったとアピールしてセルフジャッジで足が止まり、リアクションが遅れたのだという。いただけない緩みと言うのは厳しい指摘でしょうか。

1点ビハインドの後半。途中から中山に代えて嶋田。徐々に熊本の好機が訪れます。64分、嶋田から左の清武にパス。オフサイドを掻い潜った清武が角度を作ってシュートはわずかに枠の右に反れる。

69分には左の片山からのクロス。途中から入った巻にDF2人が競る。落ちてきたボールをテヨンがシュート。DFのブロックに当たり、ゴール近くに高く上がった。フリーの嶋田がヘディング。しかしボールはわずかにバーの上。73分にも大きなサイドチェンジから右サイドの黒木。DFに一度奪われそうになるが再び拾ってエンドラインぎりぎりからのクロス。中央清武のヘディングはしかしGK正面。

しかしそんな熊本の好機の連続のあと。76分、これも途中投入の町田の戸島が、大きな体躯を生かして黒木を制し左サイドを突破するとクロスを上げる。スライディングした黒木に当たって高く上がったボール。園田が躊躇するとバウンドしたところに町田の井上が頭で繋ぐ。それをエリア内にいた鈴木孝司、ダイレクトで反転してシュート。GK佐藤も一歩も動けない。ゴールに突き刺さります。

重い2点目。地面を蹴って悔しがる清武の姿。

熊本はアンデルソンを入れる。85分、そのアンデルソンが右サイド奥で粘って奪うと、すかさず低いセンタリング。ニアにいた巻のヘディングはしかし枠の右。

アディッショナルタイム4分も使い切り、熊本は一矢報いることもできず、敗戦の笛を聞きました。リーグ戦復帰後3連敗。

「今日、俺たちは全力で戦いにきた。それが盟友熊本への最大のリスペクト」。試合前の町田のゴール裏に掲げられた横断幕には、そう書いてありました。その言葉どおり、2連敗で見えた課題を修正するように、町田は全力で向かってきた。それはリーグ3位(この試合結果により2位に浮上)に値する力でした。前節の水戸もまた西ケ谷監督は「熊本に対して失礼」と選手を鼓舞して戦ってきた。

もちろん勝負ごとに同情や容赦はいらない。熊本も今出せる全ての力を出し切って戦っていますが、対戦相手もまた、このある意味難しくやりにくい熊本戦に全力を出し切って向かっている。だからこそ勝利への壁はいっそう厚いものになる。

ただ、前節でも言いましたが、熊本はもう十分に“戦える”だけの状態に戻っていると感じています。変な表現ですが、普通に試合をして、普通の負け方をした。勝敗を分けたのは、単に彼我の力の差であったかと。

「被災地に勝利を持って帰りたい」という気持ちを持つ選手たちは敗戦を前にして悔しい。その悔しがる姿を見るにつけ、われわれも胸が締め付けられるような気持ちになります。

「復興のシンボル」のような重責を背負わせてはいけない。そう何度も書いてきました。チームはある意味、“復旧”を果たしました。やっと普通に戻ったのです。そうであるならば、今節の課題の修正を練習に落とし込み、さらにコンディションを上げ、戦術を練り、次の試合に臨む。その”通常”の繰り返しの先に必ず勝利をつかみとることができる。

さらに言えば、熊本のチーム力では、他のチーム並みにコンディションが回復して、ゲームができる状態に戻っただけではなかなか勝つのは難しいんだと。そこからさらに、相手を圧倒する球際と、圧倒する切り替えと、圧倒する運動量があって初めて勝機が見いだせるんだと。アグレッシブさとハードワークが信条。それがチームコンセプト。そのなかで勝ち点を拾ってきた。だからこそまだまだ。厳しいけれど、そうなのだと思いました。


最後に、今節の会場を提供し、運営を支援していただいたヴィッセル神戸と多くのサポーターの皆さんに心からの感謝を伝えたいと思います。また、そのほか確認できただけでもガンバ、セレッソ、京都、鳥栖、名古屋、広島、徳島、磐田、清水、横浜FC、柏、奈良クラブ、鹿児島などなど多くのJリーグサポーターが応援に駆けつけてくれたそうです。本当にありがとう。

【J2第14節】(柏)
熊本 0-1(前半0-0)水戸
<得点者>
[水]三島康平(81分)
<警告>
[水]田向泰輝(68分)、細川淳矢(89分)
観衆:8,201人
主審:柿沼亨
副審:亀川哲弘、藤沢達也


それは遠い関東にありながら、まぎれもないホームスタジアムでした。

黄色いマフラーを巻いているにしても、家にある一番赤い服を身にまとってきてくれた。募金の代わりに配られた赤いポンチョの下には、青や紫のレプユニが見えた。あるいは赤黒のユニフォームで以前在籍した選手の応援に駆けつけてくれた人の姿も・・・。この特別な場所に居合わせられないわれわれも、代わって東京にいる息子に参戦を頼みました。

そうやって彩られた柏・日立台の熊本ゴール裏は、まさに真っ赤に染まり、この試合が熊本のホームゲームであることを実感させました。

水前寺清子さんが試合前の「HIKARI」の列に加わり、スピードワゴンの小沢一敬さんが若手を引き連れて応援に駆けつけ、高橋陽一さん、ツジモトさんといった人気サッカー漫画家がサイン会を開き、柏のスタッフだけでなくサポーターや流経大サッカー部員もボランティアとして手伝い、関東のロアッソサポーターもグッズ販売ブースの中に居ました。

そうやって、たくさんの人たちの手助けがあって、柏レイソルのホームスタジアム日立台での、”異例”で、それは“歴史的”でもある熊本ホームゲームが運営されました。

水戸のゴール裏からは「ロアッソ熊本!」のエール。これに応えて熊本からは「サンキュー!水戸」のやりとり。水戸はここ3試合勝利から遠ざかっているものの、千葉やヴェルディを下している難敵。対する熊本は、佐藤や黒木、中山といった選手が復帰してきたものの、代わって清武、高柳が体調不良を訴え、齋藤は前節の接触で骨折し8週間の離脱。満身創痍のチーム状態に変わりはない。

そんななかで指揮官・清川監督が選んだ布陣は3-4-2-1。薗田がCBの真ん中で初先発、片山と藏川をサイドハーフに上げますが、実質守備の際には5人で守ることによって「最低でも勝ち点1を」(熊日)という”現実的”な策を取って来ました。

20160522水戸

そしてプレスに行くところと行かないところをチームとして意思統一。前節、断ち切られた”組織的に連動した守備”を再構築してきました。攻撃は主に大きなサイドチェンジで片山を走らせる。しかし、どうしてもチームの重心は後ろにあるためか、単発な攻撃に終始します。どちらも先に失点したくないというような、”堅い”前半でした。

ある意味今日のスタジアムの”異様”な雰囲気に、水戸の選手たちにも気後れがあったのかも知れません。そんなイレブンにハーフタイム、敵将・西ケ谷監督は「熊本に対して失礼」と一喝したのだという(熊日)。後半、水戸の球際が厳しくなり、熊本のピンチが増え始めます。

前節、後半に入って誰の目から見ても明らかにガタッと運動量が落ちた熊本でしたが、今日は随分違いました。「一試合やったことでコンディションは大分上がってきたのでは」と、スカパー解説者の水沼氏が言うように、水戸の攻勢にも粘り強く対応し続けている。

ただ、マイボールになっても攻守の速い切り替えどころか、攻撃の糸口を探せず後ろで回してしまう。68分には誰より試合から遠ざかっていた薗田が痛んで、鈴木と交代。アクシデントとも言えるカードを切ってしまった。

75分を過ぎるころから、少しずつ、少しずつ足が止まりはじめ、守りのチェーン(鎖)が断ち切られていくと、81分、右サイドでチェイスに行った藏川が交わされ、空いたスペースを船谷に使われると着ききれない。グラウンダーのクロスをニアで三島に合わされ、失点してしまいます。

熊本にも惜しいチャンスはありました。シュート数の記録には残らなくても、あと一歩という好機が。ただ、終盤の片山からのアーリークロス。ファーサイドで巻が落としたボールに、ゴール前飛び込める選手が誰もいない。嶋田も足を攣っていた。このゲームを象徴するシーンだったかも知れません。

熊本・新市街に設けられたパブリックビューイングの会場で、彼の地の”ホーム戦”の終了ホイッスルを聞いた700人あまりのサポーターたちは、「ロアッソ熊本!ロアッソ熊本!」と連呼し、選手たちを労いました。その大きなビジョンでは、これまた異例にも敗戦チームから巻のインタビューが映し出されていた。

インタビュアーの質問に感情を抑えるようにして言葉を選びながら。「僕らは・・・勝利というものを熊本に持ち帰って・・・みんなで笑いたい・・・。そのためには・・・歯をくいしばって・・・もう一回・・・何度でも、何度でもチャレンジして・・・勝ちに繋がるまで・・・這い上がっていきたい」(スカパー)。そう搾り出すように言った巻の頬に、最後こらえきれずに一筋の涙が流れました。

早く熊本に勝利を届けたい。リーグ戦復帰はなったものの、巻を始めとした選手たちの思いはそこにありました。だからこそ歯がゆい。だからこそ負けたことが悔しい・・・。

しかし、熊本蹴球通信で井芹さんが、「少なくとも前節からはコンディションも上がり、離脱者もいるためまだ万全とは言えないまでも、戦える状況に戻ってきた点では1歩前進したと捉えたい」と書くように、今日の試合は大きな収穫を得たような気がわれわれもします。

インフルエンザの蔓延や怪我人は、リーグ戦のなかで普通に起こりうるピンチだし、これまでもあったこと。後半の試合運びの難は、開幕からのそもそもこのチームの課題。そんななかで最良のコンディションの選手たちを選び、そして現実的な戦い方で、1点でもいいから勝ち点を奪う。そんなフェーズに移ってきたのだということ。ただ、熊本も必死だが、相手チームも必死に闘っているわけで、そう簡単にいかないことはわかっています。

最後に、スタジアムの供用だけでなくあらゆる面で支援いただいた柏レイソルと、そのサポーターの皆さんに感謝の気持ちを伝えたいと思います。そしてわれわれはと言えば、今日までの感傷的な涙は拭い去って、さらに強い気持ちをもって次に向かっていきたいと思いました。「何度でも、何度でも…」。巻の決意に応え、支援いただいた皆さんに報いるためにも。

【J2第13節】(フクアリ)
千葉 2-0(前半0-0)熊本
<得点者>
[千]町田也真人2(56分、74分)
<警告>
[千]近藤直也(34分)、長澤和輝(71分)
[熊]園田拓也(48分)、上村周平(85分)
観衆:14,163人


5月15日(日)。熊本の歴史にまたひとつ刻まれるであろう試合。16時きっかり。その開始を告げる笛が千葉のホーム・フクアリで高らかに鳴り響きました。それは、平成28年熊本地震によって、ちょうど一か月間、5試合を戦うことができなかった熊本にとってのリーグ復帰戦。“リスタート”を告げる笛でもありました。

サッカー専門紙のエルゴラッソは、この日のために一面から「おかえり熊本」と題した特集を組みました。それに応えるように熊本ゴール裏には「ただいま Jリーグ」という横断幕が掲げられ。試合前のサポーターはインタビューで、「ようやく日常が戻ってきた」(スカパー!)と答えた。そう。ロアッソの試合再開は、徐々に取り戻してきた“日常”のなかのひとつに違いない。ホームチームの試合を毎週末応援するという日常。

思いがけず千葉のサポーターからの野太い「熊本!」コール。それに応えて赤い一角からは「サンキュー!千葉」コールのお返し。もう、涙腺の弱くなったわれわれは既にウルウルです。

インフルエンザ罹患の影響もあったのかも知れませんが、今日熊本のリスタートのメンバーには、昨シーズンの怪我から1年ぶりに復帰した片山の姿も。GKは、益城町で自宅倒壊にみまわれた畑。そして、前線にはやはりこの人が。震災後、避難所への物資配給や子供たちとのサッカー教室などでチームの、いやクラブの”フラッグシップ”ともいえた巻。不思議なめぐりあわせで古巣との対戦となりました。

20160515千葉

「前半は0-0で凌いで、後半勝負」というのが清川監督の描いたゲームプランだったらしい。しかし、ピッチ上の選手たちはスタートからアグレッシブに入ります。一ヵ月ぶりにJリーグの舞台で公式戦を出来る喜びと、被災地への思いが、選手たちの闘争心をかき立てたのでしょう。

巻が前線の空中戦で身を投げ出すように相手と競ると、セカンドボールの回収に平繁が、清武が、岡本が走り、高柳が、上村が相手からボールを奪う。

4分には清武がバイタルで一人交わすとシュート。ディフェンスに入った千葉の近藤に当たり、コースが変わってGKの逆を突きますが、これを千葉GK・佐藤が片手一本残して弾き出す。ファインプレー。惜しい。

熊本のここ5試合のブランクの間、千葉は不調をきたし3引き分け2敗。勝ち点3しか獲得しておらず、この試合ぜひとも勝利が欲しい。徐々にペースを取り戻しますが、フィニッシュに精度を欠き得点まではいきません。熊本・清川監督のプランどおりのスコアレスで前半を終えます。

ただ、「後半勝負」。しかしそれは今の熊本にとって、厳しいゲームプランでもありました。1ヵ月に及ぶブランク。わずか2週間での調整。その間90分間の練習試合は一度だけ。その試合も一人45分だけの出場で、あとは紅白戦だけという状態には清川監督も「シーズン前のキャンプを見ているような」(スカパー!)と言っていた。

しかし、決してそれを「言い訳にはしたくない」と誓った選手たちですが、前エントリーで手倉森氏の「今回は彼ら(熊本)しか中断していない」という言葉を借りて心配したとおり、フィジカルコンディションの差は歴然でした。これほどまでのものなのか。いやもはや、コンディションという言葉が適切でもないような。彼らを突き動かしているのは、ただただ被災地・熊本の人たちに応えたいという気持ちだけだったような。そんな悲痛な感じさえしました。

組織的な守備が後手後手に回ると、選手間のスペースが空いて、千葉に思い通りに崩される。大きなサイドチェンジにスライドが追いつかない。

56分、前線で潰され奪われると、すぐさま千葉に右サイドを持ち込まれる。サイドチェンジぎみのアーリークロス。左サイドで拾った船山がシュート。ブロックするものの、そのこぼれ球に抜け出したのは町田。シュートはゴールに突き刺さります。失点。

熊本は平繁を下げて齋藤。岡本に代えて嶋田。なんとか攻勢を試みる。しかし、ボディコンタクトの度に体力が奪われる。追いつけないパスが送られる度に息が上がる。連携にも難がありました。

74分のゴールキック。畑が味方の上がりを待ち、的確なフィードを狙ってキックに時間を掛けようとしていた一瞬でした。千葉の町田が、そのほんの瞬間を見逃さずきびすを返して畑に襲い掛かる。畑のキックを身体でカットすると、そのままねじ込むようにゴールにします。追加点で突き放した千葉。町田ひとりの2得点。差は広がった。GK畑、痛恨のミスでした。

もう誰にぶつけることもできないような。”絶望感”さえ漂うそのとき。真っ先に畑に駆け寄ったのは巻でした。畑に言った。

「下を向くな。前を向いて行こう。俺たちが助ける」。

ほかの選手たちも駆け寄る。もう一度、やり直せる。
それはまるで、巻が避難所に物資を届けながら被災者に寄せていた思いと同じ。熊本の被災地へのメッセージと同じ。

79分、中盤でインターセプトした高柳からのカウンター。左サイドのスペースに絶妙のパス。好機。しかし清武がそのボールに追いつけない。既にその足は痙攣していました。

熊本は巻に代えてアンデルソンを2列目に入れ、清武と齋藤の2トップ。必死の戦いに、千葉も攻撃を終えて猛烈にダッシュして守備に戻らなければならない体力戦の様相。

アディッショナルタイムは5分。千葉は時間を使い始め、熊本には奪う力が残されていない。右サイド嶋田が、SB藏川を追い越させ、エンドラインぎりぎりからのクロス。中央でクリアされるこぼれ球を嶋田が左足で撃ちましたが枠の右に反れる。そして終了の笛を聞きました。

熊本のリーグ復帰戦は勝利では飾れませんでした。ゴール裏は「バモ!ロッソ男ならば、見せてくれ」とチャントを歌い続けた。それは、昨シーズンのあの最下位にもがいていた頃に、ただただ試合中ひとつだけ歌い続けたチャントでした。

熊本イレブンが熊本ゴール裏に挨拶に集まった後ろに、なんと千葉のイレブンの姿もありました。被災地から来たサポーターへのリスペクトを表して、挨拶に来てくれました。

熊本の選手たちはそのあとも、被災地熊本への支援を感謝するメッセージの書いた横断幕を掲げて場内を一周しました。それに対して、在籍当時の背番号18の巻のユニフォームを掲げて、「がんばれ熊本」コールを送る古参の千葉サポーターの姿も多数あり。そして、そのシーンを見て、熊本のゴール裏もまた泣いていた。

被災地・熊本のリーグ復帰戦という、ある意味難しい試合の相手として向き合ってくれた千葉。1万4千人という今シーズン最高の動員数で迎えてくれ、この環境を演出し、そして温かく激励してくれたことに感謝です。

もちろんチーム自身も、決して手加減などなく、ナイスゲームを創出してくれました。ありがとう千葉。あなた方が復帰戦の相手で、本当によかった。

巻は試合後のインタビューでこう答えました。
「熊本の人たちのために勝ち点1でも届けたかったのだが、結果は思い通りに行かなかった。けれど誰一人として諦めずにボールを追いかけたし、ひたむきに走っていたし、ゴールを目指していた。そういう思いは少なくとも(被災地の人々に)届けられたのではないかなと思います」と。

前節のエントリーで、「決して選手たちに、『復興のシンボル』のような”重責”を背負わせるわけにはいかない」と書きました。

今回、それを補足するとするなら、冒頭書いたように、ロアッソの試合の復活が日常の復旧のひとつという広い意味では「復興のシンボル」ともいえるかも知れない。物指しというような意味では。

しかし、ゴール裏のサポーターがインタビューに答えていたように、「選手たちは同じ被災者のはずなのに、ボランティアとして被災地を回り、自分たちに勇気を与えてくれた。今度はわれわれがサポーターとして後押しすることで彼らに少しでも元気を与えたい」。それが、われわれが、言いたかった気持ち全くそのままでした。

次節は柏でのホーム戦。リーグ戦復帰は叶ったものの、ホームスタジアムうまスタは使えず、しばらくは遠征が続きます。更には中断の間の試合の再設定による過密日程。

いずれにしても厳しい戦いが待っています。しかしそれを後押しすることが、震災と戦うことと同義なのだと思う今日の戦いでした。

お元気にしていらっしゃいますか、皆さん。

熊本市内ではなんとか徐々にインフラも復旧し始め、生活の質を取り戻しつつありますが、益城、南阿蘇では倒壊した家々はまだそのままで、ここにきて局地的な復旧には大きな差が出てき始めたような気がします。前震と呼ばれる4月14日の第一震からもうすぐ一カ月を迎えます。もう一カ月と言えるのか、それともまだ一カ月というべきなのか。

われわれ自身は、身内を失ったわけではなく、住む所を失ったわけでもなく、仕事も失ったわけではありません。しかしあの日から時折フッと襲ってくる“喪失感”のようなもの。熊本の色々なところが“壊れ”、それらを元通りに(あるいは全く新しく)するために費やすであろう膨大な時間と労力を思うと、頭がクラクラしてしまう。それも喪失感のひとつと呼べるのかも知れません。そしてその中に、あれから5試合のホームチームの試合中止。毎週末にあるべき試合がない、観られないという喪失感も加わっていることは間違いありません。

ようやく今週末のアウェー千葉戦からリーグ戦に復帰します。ファンにとっては待ち望んだ試合。しかし、やはりというべきか翌週22日のホーム水戸戦は、うまスタの利用に見通しが立たず、なんと柏のホーム日立台を借りて、熊本のホームゲームとして開催するということが発表されました。過去、県外で熊本のホーム戦開催は、鹿児島・鴨池競技場での徳島戦がありましたが、あのときの事情とは全く異なる。柏はもとより、この試合実現の調整にあたっていただいた多くの関係者に感謝の言葉もありません。

そしてもし、出来うるならば。日立台という彼方の地で。この日の「ホーム」スタジアムを他チームのサポーターにも協力いただいて、何とか埋め尽くすことはできないだろうかと。もちろん柏のサポーターの助けも借りたい。でも出来ればJの色々なチームのサポーターに応援に来ていただけないだろうか。こんな時に年寄りのわがままなのはわかっています。

目をつぶってイメージしてみると、そのときのゴール裏は決して真っ赤ではなくて、黄色や青や緑や紫も混ざった万国旗のようなカラフルな色で。それが温かく、そして力強く、とてもありがたいもので、素晴らしく誇らしい姿なのではと思うわけで。

被災地に県外から数千という支援の人々が入り、県外ナンバーの工事車両が行き来した。岐阜県警の若い警察官が近所を見回ってくれ、奈良のNTTからひかり回線の復旧工事に、宮崎市水道局の若手が水道を開通してくれ、大阪弁の老技師が危険度判定の赤紙を貼ってくれ…。そして、そんな遠来の男たちは黙って自分の仕事をし、帰り際に「大変だったですね」と心に沁みいるような言葉を残してくれる。こちらもクタクタだったけど、あんたたちこそ寝てなかったでしょうに。

そんな彼らのとりどりのユニフォームが行き交う当地の景色に重なるようなゴール裏。そんな日本各地の人たちが「熊本!熊本!」と、シンプルなチャントを一緒に歌ってくれたなら。それはこの上ない応援のような気がするのです。

もちろん待ち望んだリーグ戦復帰とはいえ、不安は拭いきれません。全体練習が再開されたのは今月2日。わずかこの2週間で選手たちのコンディションは調整できたのか。選手たちはサッカーが出来る喜びを各種の報道で語っていますが、余震が続く生活のなかでフィジカルはもとよりメンタル面は果たしてどうなのか。

被災地の激励に訪れたリオオリンピック日本代表監督の手倉森氏は、東日本大震災の際、仙台を指揮していましたが、「あのときはリーグ全体が中断した。しかし今回は彼ら(熊本)しか中断していない。彼らだけの試練。それはかなり苦しいこと」(RKKラジオ・ビバロアッソRadio)とインタビューで指摘しました。そして、「被災地で苦しんでいる人たちの救いにならなければいけない」だろうと言う。その”使命感”をやりがいに代えて頑張ってほしいという、経験値から言える重い言葉でした。

しかし、復興への熱い思いが、「勝って欲しい」という気持ちに集約されて選手たちを後押しすることはあっても、決して選手たちに、「復興のシンボル」のような”重責”を背負わせるわけにはいかないなとわれわれは思っています。

そんな、まだまだ整理しきれない思いのままのエントリーです。15日のリーグ復帰戦までもうすぐ。残念ながらまたテレビ画面越しでの応援となりますが。このゲームに向かうチーム、サポーターと心はひとつにあります。