4月16日(日)
【J2第8節】(えがおS)
熊本 2-0(前半1-0)松本
<得点者>
[熊]グスタボ(7分)、上里一将(81分)
<警告>
[熊]園田拓也(53分)、齋藤恵太(85分)
[松]石原崇兆(23分)
観衆:13,990人
主審:佐藤隆治

「特別な日だけれども松本を倒さなければ特別な日に何もならない」。

この試合を迎えるにあたって、清川監督はそう選手たちに話したそうです(熊本蹴球通信)。
熊本地震・本震からちょうど1年を迎えたこの日、熊本はホームえがお健康スタジアムで「復興支援マッチ」と銘打ち、5位に位置する松本山雅と戦いました。熊本は4連敗中で20位。

前週のなでしこジャパンのコスタリカ戦からえがおスタがバックスタンドも含めて全面利用可能に。「バックスタンド側のサイドを駆け上がるときに力がでない」と言っていたのは巻。この日、解放されたバックスタンドをサポーターたちが美しい赤で染め上げ、ようやく震災前のスタジアムの景色が戻ってきたのです。

しかし最初に断っておかなければいけません。この大事な試合の時間に、われわれは別の場所での復興イベントに狩り出されていて、スタジアムに行けていません。だから楽しみにしていたOB戦も、数々のイベントも、松本サポが掲げてくれたメッセージ横断幕も、先制点の喜びも、勝利のカモン!ロッソも、感動的な全ての事柄が、ネットらやDAZNでの後追い、追体験でした。なんとも悔しい思いですが、もうひとつの“特別な場所”でこの1年に想いをいたしながら、暇をみてはtwitterで試合の展開をハラハラしながら追いかけていたのでした。

20170416松本

システムを4-4-2に戻して2トップの一角にグスタボを初先発させた清川監督。その選択が早々に奏功しましたね。まだ互いに様子見の様相を呈していた開始7分。DFラインからのロングパスをジャンプして胸トラップした安が、キープしながら誰も寄せてこないとみると、挨拶代わりのようなミドルシュートを試みる。松本DF飯田が遮りますが、こぼれ球をすぐグスタボが拾って縦に侵入。「相手のGKが準備する前にできるだけ早く打つ」(熊日)ことだけ考えたグスタボの強烈シュートがゴールネットに突き刺さります。自身Jリーグ初ゴール。

そのときのスタジアムはどれほどの歓声だったのでしょう。われわれだったら、もう既に涙目になっていたかも知れない。

「難しい試合。われわれの力を100%発揮してゲームプランどおりの試合がしたい」(DAZN)と戦前語っていた反町監督。そのゲームプランはこれで少し修正が必要になっただろうが、しかし、智将率いる松本相手に1得点だけでは、全く心もとない。

バイタルでダイレクトパス。一発でDF裏に松本FW高崎が抜け出しますが、GK佐藤の頭を越える狙いのシュートはバーを越えて、胸を撫で下ろす。

安が痛んで前半のうちに交代を余儀なくされる。代わって入った巻が自陣深くでボールを奪うと前線のグスタボへ。グスタボのドリブルでのエリア侵入に、松本DFが5人も取り囲む。続いてもトラップして前を向いたら素早く右45度から打つ。得点をとって明らかに“乗って”きたグスタボ。松本はこのデータの少ないブラジル人FWに手を焼いているように見えました。

そのグスタボも後半足を攣ると71分齊藤に交代。松本はその少し前、セルジーニョに代えて三島。後藤に代えて岡本。

75分頃、この試合終始、厄介だった石原が左サイドを崩してのクロス。三島のヘッドはバーに嫌われ、こぼれを高崎が更にヘディングで襲いますが枠の上。この試合の最大のピンチだったかも知れません。

熊本は疲れの見えた林に代えて光永を入れ、嶋田と左右を入れ替えた。「守備の部分で光永の運動量を期待して、守備から出て行くこともできる選手なので、守備から攻撃というバランスを崩さないようにということで投入し」たという指揮官(熊本蹴球通信)。その期待どおり、光永は何度も左サイド奥で粘ってCKのチャンスを取る。ユーティリティ性もさることながら、このスキルの高さが監督の信頼を掴んでいるように思えます。

そして81分。齋藤が倒されて得たFK。上里の左足から放たれたボールは、ゴール前に飛び込んだ巻、園田の頭をかすめて、前に出られなかったGKの手も届かないゴール左隅に転がり込みます。大きな大きな2点目。ようやく突き放す追加点。

そして気の遠くなるように長い長いアディッショナルタイム5分を凌ぎきると、1万3千人以上のファンが、この特別な日の勝利をもぎ取ったのでした。

「やはり、たくさんのお客さんによる熱がスタジアムに降り注いだという感じですね」。敗戦の将・反町監督はそう言う。「主導してボールを動かせている時に何が出来たのかということに尽きる」と反省する。DAZNによれば試合を通じてのボール支配率は熊本の41%に対して、松本の59%。ただ、確かに松本にボールを持たれている時間は長くも感じましたが、今日は”持たせている”感じもした。それは「プレッシャーをかける場面と引き込む場面のメリハリを付けて、後半も良い形で得点を奪えました」(熊本蹴球通信)という清川監督の言葉にも通じるところでした。

この日の嶋田の表情もまた違っていましたね。鬼気迫るとも言えるような。何度チャンスに絡み、何度ゴールを目指したでしょうか。得点こそなりませんでしたが、「ファンや家族のことを思い、感謝をプレーで表現したかった」(熊日)という言葉は、その言葉以上に益城町出身ならではの重さがありました。

前震から1年、14日付の熊日に、この人の取材が大きく報じられていました。このブログの古くからの読者なら覚えていただいている名前かも知れません。床屋のイサムちゃん、その人でした。

「解体も、建て替えも、仮設商店への入居も、計画は全てキャンセル。やることなすこと裏目に出てしまった」と悔やむ。「将来を考えると酒量が増える」とうめくように言う(熊日)。

サッカー好きのイサムちゃん。ロアッソのことも大好きなイサムちゃん。この試合をどこかで観ていたのだろうか…。

この”特別な日”で掴み取った勝利。それは「4連敗を脱して、流れに乗るにはもってこいの相手」(安)でもあった強豪・松本から奪った勝ち点3。しかも今季初の完封勝利が花を添えました。

それは”特別な力”だったのかも知れません。この日を迎えるに当たっての選手たちの思いと、1万人以上のファンの思いが結集したホームの力だったのかも知れない。けれどそれが特別なアドレナリンの力だけで勝ったわけではないとも思いたい。

震災からちょうど1年。記念の日の試合。この勝利をもちろん深く心に刻みたい。しかし、それと同時に、復興の過程もまだ道半ばならば、ロアッソ熊本の”躍進”もまた道半ば。イサムちゃんだって、われわれだって同じ。道半ばなのではないでしょうか。

今日の勝利にとりあえずホッとして、大いに歓喜して。そして次に進む通過点のひとつにすればいい。さあ前を向きましょう。