11月30日(日) 2008 J2リーグ戦 第44節
熊本 1 - 2 広島 (13:06/熊本/20,635人)
得点者:38' 佐藤寿人(広島)、57' 木島良輔(熊本)、87' 佐藤寿人(広島)


日本中のあちこちで、それぞれのホームチームにとって非常に重要な意味を持つ試合が行われたこの週末。われわれのホーム・KKウィングでは、熊本にとってまたひとつ“記憶”に残る大事な試合が行われました。

8戦負けなしで迎えるリーグ王者・広島との最終戦。終盤尻上がりに調子を上げた熊本にとって、このシーズンに蓄えた力を最後に試す相手として不足はない。鉄壁のDFストヤノフが欠場とはいえ、綺羅星のごときタレントがスタメンに名を連ね、勝ち点100を目指し、J1での躍進も期す広島のモチベーションは、優勝決定後もまったく落ちていません。
熊本はしかし、この1週間で引退の4選手の発表。前日には「契約満了」の6選手の発表もあり…。いずれも“ロッソ”発足からのメンバーや、JFL昇格、あるいはJリーグ昇格に貢献した選手たち。言い表せない複雑な心境でスタジアムまでのハンドルを握りました。

試合前のキッズ・サッカーにも、サイン会にも元気な笑顔で参加している契約満了の選手たち。コンコースでは、ファンにせがまれて写真に納まる小林陽介選手の笑顔が…。人気ものでした。試合前、大型ビジョンでは、今シーズンの試合のダイジェストが放映。ホーム開幕・草津戦での勝利、九州ダービー福岡戦での戦い、C大阪戦での逆転劇…。走馬灯のように駆け巡る今シーズン。すでに年寄りの涙腺はゆるゆるになっていました。

先発には久しぶりの、そしてこの日キャプテンマークを巻くのも最後になる、熊谷の姿が。控えにも上村、有村、北川。熊本のベンチには試合に出ない全ての選手のユニフォームが飾られて…。今年のメンバー、このチームの全員で臨む最終戦。

熊谷は攻撃的な中盤の位置に入りました。この人が、“ロッソ”九州リーグ時代の途中、佐川急便東京の主将の座を投げ打って熊本に移籍してきたときは、正直驚きました。JFLのベストイレブンに何度も輝いた佐川急便の主力。大学、そして柏と、池谷監督が直々の後輩を口説き落としたことは、想像に難くありませんでした。そして、その後の熊本の中盤を、安定したプレーで落ち着かせただけでなく、大事な場面、得意のミドルで決めてくれました。精悍な容姿とクレバーな物腰。JFLに昇格した年の壮行会で、「Jに上がっても1年ぐらいでしょう…」と言って笑っていた。あの頃、もう決意は胸のなかにあったのでしょうか。

試合開始から少し硬さの見える今日の熊本。チームの誰もが、このゲームの意味がわかっているからこそでしょうか。しかし、この強豪・広島相手に臆病に引いてしまうのではなく、一年間やり抜き通した「前線からのプレス」を貫くことに変わりはありませんでした。いやむしろ、これまでにないような激しさで試合に入っていきます。試していたことが今、確固たる自信に繋がっている。ゴール裏のアルデラスのチャントも、今日は最初から飛ばしているようで…。

そこはしかし、さすがに広島。徐々にもきっちりと押し返してくる。中盤から最終ラインのバランスを保ち、隙を与えない。逆に熊本のミスを見逃さない。高萩と柏木のシャドーが、前線でのチェックを怠らない。この完成された広島サッカーと戦えているという喜び。相手は“巧い”“正確”“速い”。しかし熊本も負けてはいない。奪われそうになるペースを全員で奪い返す。高いレベルのゲームを目の当たりにしていると実感しました。

均衡が崩れたのは前半38分。右サイドを破られ、上がったクロスに佐藤寿人のドンピシャのヘッド。スコアレスに持ち込みたかった前半。痛い失点でした。

後半早々、チャに代えて上村を投入。矢野をSBにスライドしCBに入りました。熊本が初めて迎えた元日本代表選手。昇格を逃したJFL2年目に、彼は“現場指揮官”として乞われて熊本にやってきました。幾度も受けた手術。満身創痍。しかし、百戦錬磨の経験からくる、どんな逆境も跳ね除けるその姿勢で、若い選手たちをフィールドで鼓舞し続けた。むき出しの闘志はピッチを支配し、その存在はどれだけ心強かったことか。

後半12分、その上村からのロングフィード。相手陣地に残っていた木島にボールが収まる。DFをひとり交わす。ふたり交わす。エリア内に侵入。左の角度のないところからニアサイドに迷いなく突き刺す。同点!!そのとき、すでに2万人に膨れあがっていたKKのスタンドは騒然。木島!木島!この男のゴールに今期何度励まされたことか。

広島は高萩に代えて桑田。楽山に代えて橋内。一方、熊本は熊谷を下げて北川を入れ4-4-2にシフト。ピッチに向かって深々と一礼する熊谷。惜しみない拍手。代わって最後の20分のプレーに飛び出して行く北川。その容貌から熊本のルーニーとあだ名した北川。佐川大阪、水戸、アローズ北陸と渡り歩き、JFL得点ランキング4位の実績を買われて熊本にやってきてくれました。しかし、「強い」「巧い」という特徴において、どうしても高橋の影に隠れてしまった。その北川、前線でしつこく相手ボールを追いまわし、足の止まりかけたチームにエネルギーを注入。自らの仕事を完遂しました。

30分には満を持してSBに有村を投入。木島との交代の際、サイドラインでがっしりと抱擁。「やることはやったから」と、大分時代からの僚友のラストゲームにはなむけの言葉を添えました(J‘sゴール)。

上村はボランチに上がり、前線は高橋、中山、北川という攻撃的布陣のまま。有村がサイドをかけ上がる。下がっては身体ごと投げ出す懸命のディフェンスを見せる。怪我に泣いた今期。身体はボロボロのはずなのに、気持ちが勝っている。それはこの日出場を果たしたほかの3選手も同じ。コンディションをいえば他のメンバーに分があるのか知れないが、この日はこの4人の“特別”なモチベーションに賭けた。その波動が、間違いなくチーム全体にも伝播している。この日、通産100試合出場のGK小林がファイン・セーブで、危険な場面を防ぐ。当たりまくる小林。上村を兄とも慕うこの男にとっても、この日は特別な何かが宿っていたようでした。中山が、高橋が、相手ゴール前で果敢にボールを追う。DFやGKを慌てさせる。今、あの広島を攻め立て、焦らせているのは、われわれのチームなのだ。

しかし、試合を決めたのは、やはり現日本代表FW佐藤寿人の一撃でした。後ろから入るボールに合わせる技術の高さ。そして、入っては消える位置取りの巧みさ。なぜあそこでフリーになってしまうのか…。広島の選手個々の技術、そしてチームとしての連携の高さ。追い詰めた感がしたのもつかの間。やはりまだまだ相手は上手だった。最後のゲームで大きな宿題をもらったようにも思います。

そのまま終了のホイッスル。熊本の初めてのJリーグ挑戦のシーズンが終わりました。10勝19敗13分勝ち点43。最終節を待たずしてリーグ12位を確保しました。J昇格に際し大幅な(無理な)補強などせず、ほぼJFLの陣容で臨んだ1年。最下位という予想が多くを占めた前評判を覆す、1年生としては堂々と胸をはれる結果と言えるでしょう。

今シーズンの分析・評価はまた別の機会にゆずることとして、まずは選手、監督、コーチ、チームスタッフに感謝の気持ちを伝えなければならないでしょう。われわれをJリーグに連れてきてくれて、本当にありがとう。ホームチームの勝敗に一喜一憂して過ごした1年。いつも“ロアッソ”が側にありました。

そして今日のラストゲーム。敵将ペトロヴィッチの試合後コメント「熊本のこの素晴らしいスタジアムで、これだけのお客さんが集まってくれたことは、本当に素晴らしい。スタジアムのムードも、本当によかった」(J‘sゴール)。かなりのリップサービスもあるでしょうが、実はわれわれも同じような気持ちでこのゲームを楽しんでいました。シーズン最後の試合にシーズン最多の観客が来てくれたこと。4人の引退選手が、決して“引退試合”でなく、激しい闘志で、それぞれの思いを込めたプレーを見せてくれたこと。多分、そのことが王者・広島に対して一歩も引かないぞという、チーム全体の気持ちが通い合う瞬間が感じられたこと。そしてスタジアム全体に、冬の午後の少しオレンジがかった光の中で、実に幸せな時間が流れていたこと。みんながサッカーを楽しんでいたこと。

すっかり日が傾いたスタジアム。セレモニーに臨む4名の引退選手たち。自らの選手生活の最後の地に熊本を選んでくれて、本当にありがとう。広島サポーターからの「上村」コールに感極まる闘将。熊本サポーターのコールを待って、場をわきまえてくれた広島サポーターの皆さんありがとう。有村には大分からも大勢が駆けつけてくれていた。何度も振り向き、手を振っていた。本当に愛された選手たち。

そして、去って行く6人の選手たち…。鈴木、斉藤、町田、河野、関、小林。われわれは、あなたたちが、熊本の戦士だったことを決して忘れない。現役を続けていくなら、きっとどこかでまためぐり合えるでしょう。そう、この前、武蔵野で目にした遠藤のように。だから高橋風に「またね。」と別れるのが適当なのでしょう。次は敵として相まみえる日を夢見て。そのときはみんなで思いっきりの拍手と最大の敬意を込めたブーイングで迎えることにしましょう。

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