4月29日(水) 2009 J2リーグ戦 第11節
東京V 2 - 4 熊本 (16:03/味スタ/4,540人)
得点者:29' 大黒将志(東京V)、31' 柴崎晃誠(東京V)、38' 藤田俊哉(熊本)、50' 木島良輔(熊本)、53' 中山悟志(熊本)、65' 福王忠世(熊本)


テストマッチやプレシーズンマッチはともかく、このチームと公式戦でいよいよ戦えることになりました。1993年、Jリーグ元年を知る人にとっては忘れられない。長年の宿敵・横浜マリノスとの開幕戦。派手なパフォーマンス。ブラジル帰りのカズを始めオールスターズとも言うべきタレント達。日本のクラブサッカーの歴史を牽引してきた読売クラブ。今や経営面では苦境に立たされていると言われていますが、熊本としては“名門”クラブとの初顔合わせに違いありませんでした。

東京V (先発フォーメーション)
27林 9大黒
15滝澤10レアンドロ
5河村8柴崎
23藤田18永里
32高橋14富澤
 1土肥 
舞台は味の素スタジアム。名前負け以前に、呑まれなければいいが…。しかし、そんなわれわれの心配は全くの杞憂だったようです。戦前、「今日は点が入りそうな気がする」と語っていたという藤田。それを現実のものとしたこのJ2リーグ初得点は、メモリアルゴールなどという浮ついたものではなく、本当に試合の流れを決定的に左右する貴重なゴールになりました。もちろん、今日の4つのゴール全てが、流れのなかでの重要な得点に違いないとしても、逆転の口火を切った藤田のゴール。この1点の重みは明らかに違っていたと言わざるを得ません。

過酷な日程のこのゴールデンウィーク中の連戦。われわれの頭の中にも、このゲームのスタメン、どこかで藤田は休ませるだろうという先入観がありました。だから、戦前の熊日の予想フォーメーションにも驚くことはなかった。しかし予想に反して、今日のピッチにも藤田の姿がありました。その腕には河端に代わりキャプテンマークまで巻かれていて…。

われわれも彼の実力は認めつつも、この年齢、このキャリア。昨シーズン、名古屋でのリーグ戦出場はわずか8試合。藤田移籍のニュースを聞いたときに、驚きや期待と同時に、正直なところ、抱えている身体的故障もあるだろうし、積年の疲労もあるだろうし、全戦出場は無理ではないか、という思いがあったのは事実です。しかし今シーズンはすでに開幕から全試合スタメン。ほとんど完全なフル先発出場、期待され、現場指揮官としての役割も果たし、それに応えるコンディションを維持している。これだけのパフォーマンスを発揮してくれるとは思っていませんでした。われわれの思いを(いい意味で)完全に裏切る、想像をはるかに超えるものを見せてくれていると思います。

いやそれは、「与えられている」もの、チームから求めているものだけではないのかも知れない。彼自身がコンディションに注意を払い、自らが貧欲に出場を求めていることの結果ではないかと…。それにしても、その湧き上がるようなモチベーションは、何なのかと…。

試合は序盤から熊本がペースを掴みます。先発で中盤に入った吉井から中山へのスルーパス。中山がシュート。これはベテランGK土肥がクリア。「連戦の中でキーマンになる男」と名指しされた吉井。そして山本、石井、藤田の4人で構成するダイヤモンド型の中盤は、決して石井のワンボランチではなく、あるときは3ボランチであり、攻撃に転じたときはサイドに高く張る4-1-3-2に変化します。山本、吉井の汗かきコンビによる攻守に柔軟なフォーメーション。われわれが密かに待ち望んだ形でもあります。サイドで吉井の執拗なプレッシャーを受けてイライラが募るレアンドロ。攻勢の熊本。

しかし29分、一瞬の隙。右サイドからのパスに大黒がDF裏に抜け出しダイレクトシュート。均衡を破ります。ボディバランスに優れる大黒ならではのシュート。さすがに元日本代表と思わせるプレーでした。さらに続く31分には、ソンジンを背にしてPA内でキープ。走り込んできた柴崎に追加点を許します。ソンジンと福王のCBが、大黒ひとりに翻弄されている。

ポゼッションはわが方にあるのに、立て続けの失点。前節・仙台戦の悪夢を思い起こさせる展開に不安がよぎりました。しかし、それを打ち破ったのが藤田のゴール。38分、ゴール前での軽快なパス回しから右サイド市村がPAに入れる。DFのマークからうまくフリーで中に入っていた藤田が、ヘッドでゴールに突き刺す。待ちに待った熊本での初ゴール。しかもそれは「2点ビハインドぐらいで下を向くな。俺たちは勝てるんだ!」というメッセージ。チームキャプテンから発せられた“反撃ののろし”のように見えました。

前半終了間際の危ない場面を凌いでハーフタイム。藤田は一番に元気よく控え室に走っていく。ゴールを得たからこその“気合”なのか。いや「後半の修正点が見えたぞ」という、現場指揮官ならではの責任感に感じられました。おそらく控え室では、監督の指示を補足し、選手を叱咤していたのではないのか…。

後半は、試合後のインタビューで「失点はミスから。ボールを回し続ければ相手は足が止まる」と北野監督が語ったとおりの展開になりました。前節で憂いた3人目、4人目の攻撃参加が、今日の熊本にはありました。5分、DFライン左ギリギリに出たパスを木島がドリブルで切り返しペナルティアーク付近からミドルシュートで同点にする。点を決めながらも自身が一番驚いた表情の木島。しかし、この人一倍シャイな男の心のなかには、他人(ひと)にはわからないこの対戦への特別の想いがあったはずでした。戦力外通告のあと、ヴェルディユースやベレーザに練習の場を求めたこともあった。そのどこにもぶつけ様のない苦しかった頃の思い、そしてお世話になったという思いが、この“一蹴”に結集していました。試合後のインタビューで「どことやるよりも、ここに点を取れたことが嬉しい。」と語った言葉が、全ての思いを言い表していました。

動揺が隠せないヴェルディ。ミスが目立ち始め、思うように持ち上がれない。続く8分には、中盤で熊本が奪うと素早くカウンター。藤田から出されたボール、右サイドを駆け上がった山本がファーサイド奥深くに上げたクロス、中山がスライディングしながら厳しい角度のボールを左足に当ててゴールに押し込み逆転弾とします。流れは完全に熊本。

21分には、再びゴール前でボールを回すと、PA内に木島が縦に入る。クロスを放つと、上がっていた福王がダイレクトボレー。自身Jリーグ初ゴールとなる貴重な駄目押し点を決めました。ケガに泣いて今日が今シーズン初出場、初先発の福王。セットプレーのあとも、執拗に前線に残り、相手DFとガチンコで決めたボレー。何かが乗り移ったような気迫のプレー。胸のエンブレムを何度もこぶしで叩きながら、沸きあがる関東サポの待つゴール裏に駆け寄ります。4得点。FW二人、MF,DFの4人がそれぞれ記録した4点。誰が出ても、同じようにやれる。どこからでも点がとれる。コンパクトな全員の運動量で勝ち取ったいかにも熊本らしいものだと思います。

ヴェルディは、林に代えてベテラン船越を投入。さすがにこの男の高さのあるポストプレーには福王とソンジンが手を焼きます。立て続けに決定的に危ない場面。しかし、最後は怪我から復帰したGK稲田のスーパーセーブで守り抜く。今日は、サッカーの神様は熊本に味方しているのでは…。残り15分を切り、殊勲の藤田を下げて小森田、吉井には宮崎、木島には西森と、交代のカードをフルに使いきり、耐える時間を凌ぎきって、実に貴重な勝ち点3を手に入れたのでした。

それにしても、今日は前半での1点奪取、藤田の初得点に尽きました。この1点がチームを鼓舞した意味は計り知れないでしょう。ファンとしても待ちに待った藤田の初ゴールが、こんな重要な得点になったことが何よりも嬉しい。そして、熊本のゴールの記録、あるいはJリーグの得点記録のなかで、「藤田俊哉(ロアッソ熊本)」と刻まれることが何よりも誇らしい。この男と今、われわれ熊本は共にあることが誇らしいのです。

37歳、競技生活の終盤を迎えていることは事実でしょう。しかし、あくまで現役にこだわり、縁もゆかりもない、遠い熊本の地を選んだ(選んでくれた)。しかし、われわれは、藤田がいるから強くなった、良くなった。あるいは藤田がいなければどうなっていたか、というような、藤田礼賛をするつもりはありません。

昨年9月のリーマンショック、そしてその後の世界恐慌とも言える状況。多くのプロスポーツでスポンサードが深刻な影響を受ける中、Jリーグでも昨シーズンオフには、これまでに例のない規模で、多くのベテラン選手が放出されました。もちろんある意味で世代交代の節目のような時期とも言えますが、そんななかで藤田俊哉という、日本サッカー界の“宝”ともいうべきプレーヤーが名古屋を去ることになった。

「自分が名古屋を去る事になった時に、一番に、『このチームに必要だ』と言ってもらえた。『ロアッソ熊本のために力を貸してくれ、思い切りサッカーをしてくれ』と、まあ、この思いが全てです。細かい事はいろいろありますけど、大きなひとつと言ったら、『君が必要だ』と強く言ってもらえた。ここに僕は感動して、ここでプレーすると決めました」(J‘sGOAL)。移籍会見でのコメントがすべてでしょう。彼自身も指摘しているように、練習場などこれほどに乏しい環境に身を置いたことはかつてなかったでしょう。しかし51試合というレギュレーションも含めて、彼はチャレンジした。

今の藤田の心境、思い。もちろん、本人に聞いてみないとわかりません。しかし、彼の試合中の表情やコメントを見る限りでの印象ですが、われわれは、ここに至って、彼自身、もうひとつの黄金時代を迎えているのではないか、などと勝手な想像をしています。トッププレーヤーとしての全盛期とはまたひとつ違う意味で。

彼は今、プレーヤーとしてチームの勝利に貢献することはもちろん、あらゆる場面を通じて自らの経験を伝え、また自らの取り組む姿勢を範として示し、若いプレーヤーの成長を促し、チームの成長に力を尽くしている。何よりチームに自信をもたらした。J2のどのチームと対戦しても、少なくともわれわれファンのレベルでは全く気後れすることがなくなったなあというのが率直な実感ではないでしょうか。

また、もうひとつ、おそらく彼はこれからの日本サッカー界で、プレーヤーとしてのこれまでのキャリアとはまた違った重要な役割を担っていく人物だとも思っています。彼自身も、J2のこの環境に身を置くことで、かけがえのない経験を積んでいるのではないかと。日本サッカーの末端であると同時にベースを形作っている部分。J1のビッグクラブでは決して感じられない何かを、彼なりに吸収しているのではないかと。

さてさて、しかし、今日の結果に沸き立ち、すぐに基本的なことを忘れてしまいがちなわれわれファンに対して、やっぱり藤田は、藤田らしい落ち着いたコメントで明日からの戦いに気持ちを切り替えさせてくれています。

「最初に2点をとられると、ほとんどのゲームは終わるのが普通。失点にはいろいろな原因があるけれど、あまりにもフリーにしすぎない、集中力を切らさずマークにつく、などまだまだ問題は多い。ゲームを支配していたからといって勝てるというものではないということは、一番良く知っている。ここからが課題だと思います」(J‘sGOAL)

それはまるで、次節、今季新加入の岡山との初対戦に対する謙虚な心構えを伝えているようにも聞こえて。ファンとしても気を引き締めて応援しようと思わせるのでした。

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