7月11日(土) 2009 J2リーグ戦 第27節
札幌 0 - 1 熊本 (14:03/札幌厚別/6,376人)
得点者:70' 吉井孝輔(熊本)


先週のサッカーダイジェストのJ2特集。札幌の石崎監督が今シーズンここまでのワーストゲームとして挙げていたのが、0-4と一方的に敗れた熊本戦でした。そして札幌はその熊本戦から火が着き、現在は9位まで順位を上げている。とはいうものの、前節は愛媛を相手に7試合ぶりの勝利と不安定感は否めず。そんなこんなで、この熊本戦に賭ける意気込みは相当のものがあったはずです。

札幌・厚別競技場。ロアッソが初めて降り立った北の大地は、7月というのに気温17.9度という涼しさ。しかし結果的にはこの気象条件が、熊本の選手達のパフォーマンスに、最後までいい影響を与えたようでした。もちろん河端、市村両選手にとっても。いうまでもなく、ここは二人にとって古巣でもあり、生まれ故郷でもありました。入場前に札幌・砂川と河端が握手。前々から顔が似ていると思っていた両人でした。市村には石井謙伍が。

札幌 (先発フォーメーション)
 19キリノ 
 10クライトン 
8砂川9石井
20上里14ダニエルソン
22西18芳賀
2吉弘15趙
 16荒谷 

さて試合は、開幕戦以来の先発というその石井が右サイドに入り、開始早々から全開で飛ばしてくる。マッチアップする原田の表情を見ても明らかに手を焼いているのがわかります。熊本は、なかなか押し上げられない。選手間の距離が開いている。勢いのある札幌の攻撃のなかで、何度か前線に運ぶシーンも見られますが、ラストパサーに渡る前の段階で詰まってしまう。とてもシュートまで行き着かない。判断が遅れ、ボールを奪われること度々。前節の悪いところを引きずったままのようでした。ただ、札幌もクライトンの“自己主張”が強すぎる。解説の野々村氏が言うように「クライトンを経由すると時間が掛かりすぎる」ために、熊本の守備が助かっている。熊本も前回対戦時のようにクライトンにボールを持たせないというより、むしろ自由にパスを出させないような対応。この試合もまた前節と同じように、前半スコアレスを望むような展開となっていきました。

しかし、この試合のキャストはもうひとり、そしてドラマの伏線は前半のうちにありました。まず34分頃、スローインの遅延行為を取られて原田にイエロー。その5分後にはアフターチャージで2枚目のイエローが出て、原田が退場となってしまいます。この試合が6試合目ということですが、新米審判の練習試合に当たってしまったのか、解説陣の評を待つまでもなく、素人目に見ても判定が安定せず、ムダな笛も多くゲームの流れを寸断。熊本のみならず札幌の選手もストレスの貯まるジャッジだったと言わざるを得ないのですが…。しかし、それもサッカー。何が起こるかわからない。

試合の流れは札幌にある状態で、10人になってしまった熊本。開き直るしかありませんでした。これで逆に、これまで一貫していた「失点は恐れずに、得点を奪いに行く」という持ち前のチーム・コンセプトを、今日のところはひとまず置いておいて、「守り抜く。そしてカウンターで点を奪う」という戦術変更が全員のものとなりました。前半終了間際には、河端がヘッドのバックパスであわやオウンゴールかと思わせましたが、木下がセーブ。木下にも覚悟の表情がありました。

しかし、そんな数的不利の相手が戦術を徹底してきた場合、大いに手を焼くというのはサッカーの場合よくあること。札幌の攻撃も、見る見る緩くなります。ひとり一人の玉離れが遅くなり、ボールだけが回っている状態。熊本は後半開始、山本に代えて西を左サイドバックに配置する。早めの交代。それは諦めずに点を取りに行くぞという意思表示でもあったような。一方、当然のように札幌は3バックにして、前線を厚めにしていきます。さらに札幌は石井に代えて中山元気をトップの位置に。その中山、直後にヘッドで狙いますが枠外。それ以降、札幌はPAの中に仕掛けてこない。エリアの前でボールを回す。クロスを狙うも散発的な攻撃に終始しました。キリノに代わって上原。中山元気と上原という高さが揃っても、河端が負けていない。一列下がることになった熊本の中山も、今はほとんどディフェンスに専念。出て行きたい気持ちを抑えてチーム戦術を徹底している。

66分、藤田に代わって宇留野。宇留野が前線に顔を出すことで、熊本にも前目でタメが出来るようになります。そこにシーソーが熊本側に傾く今日たった1回のチャンスが訪れました。70分、札幌の攻勢を凌いだ木下からのフィードを前線で競り勝った木島、たった一人のキープで援軍を待つ。すかさず追いついた宇留野に預ける。これまた孤軍奮闘、打開をはかるが3人に囲まれては如何ともし難い。それでもキープ。ボールを失わない。さらに後方から押し上げた石井に預ける。石井は右サイドの広大なスペースに猛然と駆け上がる市村へ。市村は中央の陣形を見極めるようにタイミングを測ってクロス。ワンバウンドの低いボール、背後をフリーランニングする宇留野。ゴール前の札幌DFのクリアミスを誘う。ボールは吉井の足元に。吉井は予想していたような見事なトラップでピタリと足元に納め、背中の相手DFのチェックより一瞬早く、落ち着いて振りぬきゴールに突き刺しました。カウンターに専念すると言いながら、得点を決めた攻撃は、押し上げ、追い越し、5本のパスをタメながら繋げた、見事なパスサッカーでした。

虎の子の1点というのは、まさしくこのことを言うのでしょう。札幌は、ルーテル出身の得点源・岡本を入れてきますが、すかざず熊本もソンジンを中盤に配して守備を固めます。木島は既に足を引きずっている。86分の左CKは絶対絶命のピンチ。吉弘のヘッドは、なんとかクロスバーが防いでくれます。熊本の前線にはもう誰もいない。ただただ全員で、パワープレーに転じた札幌の攻撃を必死に跳ね返すのみ。福王の激が飛ぶ。それにしても、今日のDF陣には“跳ね返す”必死さだけでなくクレバーさもありました。やみくもに飛び込まない。しっかり対峙して、タテの侵入、タテのパスを防ぐ。最後のシュートにはコース対して身体ごと投げ出す。何度も何度も。ひたすら、ただひたすらにこれを“続けた”。気力を振り絞って。市村の足も限界に来ている。4分ものアディッショナル・タイム。最後のCKも守り抜く。木下がゴールキックを蹴った瞬間にホイッスル。崩れ落ちる木下。河端…。

福王が何やらつぶやきながら「バッさん」と呼びかけ、思いっ切りその背中を叩き、引き起こしてしっかりと抱きしめる。ユニフォームで涙を拭いているようにも見える河端。後半にもオウンゴールになりそうなボールを、木下の素晴らしい反応が助けてくれた。肝を冷やしたはずです。快心の笑顔でゴール裏に向かうのは市村。

福王、河端、市村。思えばこの3人は、今や数少ない“ロッソ”生え抜きの選手。あの寒い冬の日、KKウィングで行われた初めてのセレクションに参加していた。前のチームの練習着そのままの姿で。そして九州リーグを知っている仲間。あの過酷な地域決勝も共に戦った戦友。JFLの2年間も共にあった…。河端と福王は足にメスを入れ、その後の長いリハビリ生活も乗り越えた。そんな想いがブラウン管越しにも伝わってきて、こちらの胸も熱くなってしまいます。

退場というアクシデントで戦術を根本的に変えざるを得なかった試合でしたが、たった1度の”シュート
チャンス”をモノにし勝利を手にしました。札幌はその10倍以上のチャンスを棒に振った。これもまたサッカー。しかしそれはサッカーの神様の気まぐれな采配でもなく、数的優位な状況である意味“起こりがちなこと”でもあります。今まではその起こりがちなことを“起こせなかった”が、ここに来てそれを起こせる力が熊本にもついてきたと言えるのではないでしょうか。逆に守りに専念することで見えたのは、今日の札幌の遅攻や決定力が、悪いときの熊本を見る“鏡”のようなものだったこと。逆の立場に立ったときもまた、しっかり勝ちきることができるのか。遠い北の大地まで足を伸ばして得た経験は、とても貴重なものになったと思いました。

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