10月11日(日) 第89回天皇杯2回戦
熊本 2 - 2(PK 2 - 4)横浜FC (19:00/熊本/3,109人)
得点者:49' 吉井孝輔(熊本)、72' 八田康介(横浜FC)、115' 西森正明(熊本)、119' 難波宏明(横浜FC)


結果が全てとはいうものの、こうも相手にとってドラマチックなラストシーンを演じてもらうと(しかも同じ相手に2度も)、さすがに帰り道が辛いですね。延長戦にPK戦。トーナメントというレギュレーションの違いを堪能するような、90分間プラス30分もの死闘を見せられて、最後に勝利という喜びを選手達とわかち合えなかった…。勝負事の常とはわかっているものの、この悲劇的な敗戦を受け入れる辛さ。今年は本当にサッカーの神様から相当の“耐性”が試されているような気がします。

結果から言えば前半、後半を通じて五分五分の展開とも言えるのでしょうが、サッカーの“質”という意味では、明らかにわが熊本に分があったと思います。中盤での厳しい奪い合いからアタッキングサードへの展開力。ここ最近のバランスのよい守備から、両サイドバックがタイミングよく攻撃に参加する。木島が左に流れて、松岡が追い越す。右の市村もサイドをえぐるだけでなく、バイタルで中に入ってくる。練習中の怪我で、遂に連続出場記録を途絶えた石井の穴は、山本と吉井が遜色なく埋めていました。(試合前、これからのリーグ戦をどう闘っていくんだろうと、まずわれわれはそこに関心がいっていたのも事実でした…)ただ、何度も崩しているものの、ラストパスが合わなかったり、フィニッシュが優しすぎたり…。一方の横浜も、カウンターから鋭く突く場面が何回かありましたが、枠を捕らえられません。緊張を解く大きな深いため息をついたハーフタイムでした。

後半開始早々、猛烈に押し込んできた横浜。対する熊本はまったく慌てたり怯んだりする様子はない。そこには確実にJ2年目の経験値がありました。そして49分、中盤でのせめぎ合いから、木島がボールを預かると、十分に溜めている間に左から追い越して行った西にスルーパス。西がエリア内深く持ち込むとDFに詰め寄られながらもゴールに迫る。木島も入ってくる。吉井も。満を持した西のパスは、木島、吉井の足を経由してゴールに突き刺さりました。均衡を破る熊本の先制点。

しかし横浜も黙ってはいませんでした。次々に選手交代の手を打ってくる。それに動じることなく、熊本はこの時間帯をしっかりと耐えている。ただ一瞬、緊張の糸を切らしたのは、ベンチから交代要員の中山が準備されているときでした。木島がプレスバックでファールすると、ハーフウェイライン付近から横浜のFK。大きく弧を描いたロングキックは、最終ラインを下げさせる。GKも飛び出さざるを得ない絶妙なボールに、先に横浜の八田の頭が触れると、ゴールに吸い込まれました。「やはり横浜。簡単には勝たせてくれない」そのときの落胆は、まだまだその程度のものでした。

木島に代わって入った中山が前線で走り回る。まるでこれまでの故障の“借り”を返そうとばかりに。再三、チャンスにも決定力を欠く熊本。しかしそれでも美しいワンタッチパスで横浜のDFを置き去りにする熊本の攻撃に、期せずして場内からも自然に手拍子がおき始めます。互いに高い位置で奪い合って、カウンター合戦の様相。まるで両者互角なボクサー同士の、最終ラウンドの激しい撃ち合いのようでした。遂にロスタイムの3分も使い切って試合は延長戦に突入。10月のKKウィングは、風も強く、しんしんと冷え込んで、じっとしていると震える“寒さ”でした。

このコンディション、まだまだ足の止まらない熊本でしたが、Vゴール方式ではない延長前後半30分。時間の活用法も重要な戦術。すでに交代のカードを使いきってしまっていた横浜はさすがに疲れが見えていました。これに対して、あと二枚を“残した”熊本は、ここぞとばかりに西森を投入。そして最後の最後に山内を入れてかき回す。ベンチワークとしては完全に思い描いたように試合を運びます。延長後半も残り5分になった絶妙の時間帯で、左45度からいい位置でのファールを得た熊本。このFKに立った西森のキックはグラウンダー。横浜ディフェンスの意表を突くと、押し込むようになだれ込んだ熊本の選手たちにも触れることなくゴール右角に吸い込まれました。総立ちのスタンド。勝ちを確信した瞬間。あとは時間を使うボールキープのプレー。

しかし、その確信が慢心だと知らされたのは、ロスタイム1分に合わせて自分のGショックをストップウォッチ・モードに切り替えたときでした。吉井のトラップに副審からハンドのアピール。猛烈に抗議する北野監督を尻目に、すかさず横浜がFK。全く後半の得点と同じような軌道を描いたFKは、今度は難波の頭を捕らえ、稲田の伸ばした手をあざ笑うかのように越えゴールとなりました。

誰も帰ろうとしない。いや帰るわけにはいかない試合になりました。PK戦への突入。熊本のゴール裏にどんどん人が集まってきます。念じるように、祈るように見守るしかないPK戦。しかし、トーナメント制において勝敗の決着を決める意味しかないこの残酷な“ゲーム”は、サッカーにおいてほんの一部の意味しかなく、往々にして“追いついた”側に勝利が転がりこむものでした。熊本はまたしてもホームで横浜の選手が歓喜する姿を見ることになりました。

「天皇杯が面白くなくなった。」そんな気持ちについては、過去のエントリーでも書いたことがあります。ホームチームを猛烈に応援し始めて、日本代表から興味が薄れていく気持ちにも似て。それはチームがJリーグ入りを果たしてから、確かになってきたように思います。

カテゴリーの違うチームが一発トーナメントを争う下克上の大会。それは下のカテゴリーのチームにとっては大きなモチベーションでしょう。われわれが当時そうであったように。しかし、J2というこの世界一過酷なリーグを戦っている今、この大会に向かう意味が以前より薄れてきてしまったのは確かです。例えば湘南、C大阪が下のカテゴリーのチームや学生相手に敗れ、甲府が苦戦したように、決して昇格を争うリーグを優先したと邪推はしませんが、明らかに「モチベーションの持って行き所」には苦労をしたはずです。ベストメンバー規定があるとはいえ、リーグ戦とは多少異なる選手を使ってみるのも、今後の戦いを見据えての休養ではなく選手補強と前向きに捕らえられますが、それでもそう簡単にはいかない。それが、それほどチーム力を左右する「モチベーション」だと思うのです。

過去の大会では、消滅が決まっていた横浜フリューゲルスが、最後の勇姿とばかりに猛烈な強さで優勝を飾ったことがある。昨年は、ほぼ昇格を手中にしていた広島が、J1リーグ戦の腕試しとばかりに準々決勝まで駒を進めた。そんなモチベーションがありました。今はACLへの挑戦権が高いモチベーションになっているチームもある。

今年のわれわれにあったものはといえば。格下からの果敢な挑戦を受ける難しい戦いではなかったものの、対戦相手は2週間前に戦ったばかりの横浜FCで、あまり新鮮な感じはしないのが正直なところ。今シーズンの対戦成績は熊本の1勝2分で終了。しかし、熊本としては直前の結果が、なんとも悔やまれる同点劇だっただけに、カップ戦という違いはあるにしても、その思いを晴らし、叩いておきたい。それが「天皇杯ですがリーグ戦の延長という気持ちで戦いました。」(北野監督)という言葉に表れているのでしょう。そして次にJ1新潟という、久しぶりに格上チームと対戦する挑戦権を得たい。今の自分達のサッカーがJ1チームにどれだけ通用するのか試したい。そういうところではなかったのかと。「今日はミーティングから試合に入るところも、今シーズン一番良かったというか、僕が熊本に来てからも一番というくらいに盛り上がって、チームがひとつになったというのを感じました。」とまで言わしめるほどモチベーションが高かった。選手達がリーグ戦とは違った意味で“上”を目指して一丸となっていたのだと。


自責の念からか疲れからなのか、試合後、歩くこともままならない福王。あるいはブログで正直な感想を語っている藤田からも、この敗戦という結果を受け入れるのに、選手達の誰もがたじろいでいるのが伝わってきます。今日も、試合の“閉じ方”のまずさ、セットプレーの守備、と相変わらずの課題が克服できていない事実を突きつけられました。しかし同時に、選手達の新たな高いモチベーションを感じとることもできました。2点目のゴールを全員がベンチに駆け寄って喜ぶ姿は、なんと言うか、久しく忘れていたものを思い出したような、そんな感じでもありました。

実を言えばわれわれは、「天皇杯」「横浜FC」ということで、あの2001年、青の時代の惨敗に対するリベンジを密かに想い、そのドラマを願っていたのですが、その思いはまた封印されることになりました。こうして歴史が積み重なっていく。そう思うと、敗戦の苦痛を次の喜びまでの糧として受け入れるこの暮らしも、まんざら捨てたもんじゃないなと。残りわずかになったリーグ戦に心を切り替えて。リーグ戦の“閉じ方”だけは失敗してほしくないから。また次節、精一杯声援を送ります。

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