10月24日(土) 2009 J2リーグ戦 第47節
熊本 1 - 0 湘南 (13:03/水前寺/2,835人)
得点者:69' 矢野大輔(熊本)


残念だったのは、この歓喜の瞬間を3千人足らずの人たちにしか共有してもらえなかったことでしょうか。終了のホイッスルの瞬間、溜まっていた緊張感から解き放たれて、まるで雄叫びのような声を上げ、喜びを爆発させるホーム・スタジアムのファン。やはり勝利の歓喜に勝るものはありません。

終盤を迎えたリーグ戦。湘南は前節、鳥栖をロスタイムの劇的な一撃で下し、5試合ぶりにJ1昇格ライン3位に滑り込んでいました。残り試合は5。ひとつも落とせない連戦のなかで、反町監督は“流れ”を重視したのか、前節と全く同じ布陣を選択しました。しかし、湘南イレブンの疲れは隠せなかったですね。あるいは精神的にも、前節の“痺れる”試合。極度の緊張感。その集中力が底をつきかけていたのかも知れませんが…。

湘南 (先発フォーメーション)
 34田原 
11阿部22中村
8坂本7寺川
 21永田 
30島村5臼井
19村松3ジャーン
 32野澤 

開始早々、西が右サイドを抜けてシュート。湘南のゴールマウスを脅かす。湘南は寺川のロブに田原が中央を破り、飛び出した木下の頭越しにヘッド。これは右に外れる。累積で欠場の松岡の穴を埋める左SBの網田が果敢に上がり、前が空いた瞬間を見逃さず思い切りよくシュートする。相変わらず判断が早い。湘南・坂本もお返しのようにミドルを放つ。「もっとしっかり田原にぶつかっていけ」といわんばかりの北野監督のDF陣へのジェスチャー。時計を見たらまだ開始から15分。しかし、この15分までに既に互いのサッカーが凝縮されていて。全ての“役者”が次々に登場し、その存在をアピールし、まるで“顔見世興行”を見るような時間帯でした。

熊本はその後もワンタッチのパス回しでサイドから崩してアタッキング・サードを脅かす。練習でひたすら繰り返したというグラウンダーの早いクロスを、右から左から入れることにより、バイタルエリアを混乱させる。前半終了間際には、湘南・寺川のFKがバーをかすめ、あるいはDFラインをかいくぐった中村に決定的なシュートを撃たれますが、ポスト右に反れてくれました。多少の幸運もありましたが前半、互角の印象。しかし湘南側のオフサイドの多さと、熊本が得たCKの数が、後半の展開を占っているようでもありました。

戦前、スタメンの布陣を見て驚かされたのは、木島、宇留野、中山という本来のFWを全てベンチに休ませ、先発の2トップの一角に小森田を使ってきたこと。もう一方の藤田といい本来MFの選手。2トップにしてゼロトップなのか。2列目から西、西森、あるいは吉井が追い越してゴールに迫るというイメージは理解できないこともありませんでしたが、思い出すのは第2クールでの対戦。藤田のゼロトップが奏功し先行した試合展開のなかで、後半打った交替カードで“自滅”した感のあった試合。それは監督だけの“欲”だったようにも映り、今回の“奇策”にも不安を感じました。

しかし、それは結果的には全くの杞憂でした。前半をスコアレスで凌いだところで、試合は監督のプランにがっちりはまりましたね。セットプレーから1点をもぎ取って、そこから繰り出す交替要員のFW達は、前線でのタメを作るいわば“守備的攻撃要員”とも呼べるカードとして機能しました。

後半開始から湘南は中村に代えて菊池を投入。反町監督の狙いは「左SB(網田)の経験不足を突く」というものでした。しかし奏功しない。網田にも危なかっしさは残るものの、しっかり守備陣としてフィットしている。基本技術がしっかりしている。体が強い。今日の湘南、確かに攻めてはいるものの、どこか消極的。ある意味手堅いとも言えるのかも知れませんが、リスクを極力犯さない“負けない”ための戦いに映りました。これが昇格戦線を戦うチームというものなのか。JFL時代の熊本を思い起こさせます。

もちろん湘南には「リスクを犯さなくても点は取れる」という自信があったのかも知れません。寺川のスローインから波状攻撃。こぼれたところを右から阿部に撃たれますが、シュートコースは枠の外でした。ほっとため息をつくスタジアム。湘南の攻勢をどこまで凌げるか。

さあ、プラン通りに運んだゲームも後半15分。ここで熊本ベンチは、満を持したように木島を呼ぶ。ビブスを脱いで準備する木島。控え選手全員が駆け寄り、まるで“魂”を注入するように肩を叩く、手を握る、声をかける。「頼むぞ!」と。

左からの藤田のシュートなのか、折り返しなのか、何とも言いようのない絶妙なクロス。GK野澤は判断よくパンチで逃れる。そこから続く熊本のCK。1本目、右から原田。ファーにいた矢野にボールがいったん納まるも、対峙したジャーンを突破できずクリアされる。2本目、左からは西森。ニアに走りこんだ矢野、競り合うジャーンの足が僅かに早くクリア。そして3本目も左から西森。ややファーの位置からほぼ中央へ走りこんだ矢野、マーカーのジャーンは木島のブロックする動きに一瞬出遅れ、フリーの矢野は中央からドカンと突き刺す。GK野沢の手を掠めゴールネットを揺らす。「入ったー!うおーッ!」スタジアムは総立ち。ガッツポーズ。タオルマフラーを振る。飛び上がる。3本のCKがすべて矢野とジャーンのマッチアップという印象的な攻防。鉄壁のジャーンが見せた一瞬のスキでした。

時間にして69分。前節とほぼ同じ時間帯の得点劇。前節、ここからの水戸は「連敗を止めたい」という気持ちが焦りに変わり、単調な攻撃に終始しました。今日の湘南は「負けられない」という気持ちが、「負けてはいけない」というプレッシャーに変化していったのではないでしょうか。湘南は切り札的存在のアジエルを入れる。前節の鳥栖戦でも、奏功している交替カード。熊本は今日も中盤で攻撃を作り、相手の起点を潰していた原田が足を攣った様子。しかし宇留野との交替で退いたのは、同時に足を攣った網田。左SBには西が下がります。

残り10分。湘南のゴリゴリと押し込むような攻撃が続く。前回対戦で終盤2点差を追いつかれたシーンが浮かんでくる。アジエルがスルーしたところに右から臼井がゴールに迫る。敢然と飛び出す木下。入れ替わって矢野と福王、市村がカバーに走る。木下を交わした臼井のシュート。絶体絶命のシーン。シュートには福王、ゴールマウスには矢野、こぼれ球には市村。対応する福王を外してやや上を狙った臼井のシュートは、クロスバーに当たって跳ね返る。場内が大きくどよめく、安堵に天を仰ぐ。

直後、左サイド、坂本からのクロスになだれ込む臼井。体を張って守る西森。倒れ込んで動けない。最後のカード・中山と交替。これでもう原田は最後まで引っ張るしかない。木島が相手を倒して与えたFK。もうどの距離からのFKも怖い。田原のヘッドは木下がキャッチ。残り5分。湘南は永田に代えて田村。しかし焦りからか全体にミスが目立つ。ジャーンは上がったままのパワープレー。ゴール前への猛攻。体を張って阻止する熊本。後押しするようにスタジアム全体で響き出す手拍子。徐々に早くなるそのリズム。まるで「時間よ。早く進め」とばかりに。木島がFKで狙う。藤田が時間を使う。中山が前線で守備に走る。もう熊本は6人ぐらいDFラインに並んでいる。その中で福王が「下がるな!」と叫んでいる。ホイッスルが鳴った瞬間、スタジアムDJが思わず大音量で発した「やったーー!」というアナウンスは、ホームの全てのファンの気持ちを代弁していました。

選手のみならずファンの全員が、最後のプレーまで安心できないことを知っている。それはここまで何回も高い代償を払って学んできたことでした。そしてここにきて2戦とも虎の子の1点を守りきれたことには、ただ単純に最終ラインで跳ね返すだけではなく、前線で自信を持ってパスを回せるという今シーズンやり抜いたことの成果でもあるでしょう。最終ラインのブロックで跳ね返したセカンドを、拾ってキープできるもうひとつ前のブロックがある。今日の湘南、引いて守って凌げる相手では決してありませんでした。

前回対戦のときだったでしょうか。勝利監督のインタビューで「湘南には足を攣る選手はいない」と反町氏に言わしめた。今回も最後、熊本は満身創痍といった状況でした。しかし今戦前、「今日は勝負強さが試される」とも言っていた反町監督。皮肉にもそれを発揮したのは熊本の方でした。ベンチも、久しぶりに出場した選手も含めた全員の総力で。

決めるところで決めなければ逆にやられる。サッカーではよくあること。それを今回はまるでプランどおりであったかのように、勝利へと結びつけた熊本の試合運びと交替策。“型”にはまった。その展開は、まるで歌舞伎の形式美とまでは言いませんが、水戸黄門や虎さんのドラマぐらいの“型”のはまりかたでしたね。

第1クール完敗時のエントリーで「この先なんとかひと泡吹かせたい」と書いていました。第2クールでは、収穫も多いと書きながら、今読み返すと実は悔しさが滲み出ています。一矢報いた。それも昨年と同じような状況、昇格戦線を戦うチームを相手に。一戦一戦が痺れるような最終タームなのでしょう。湘南のゴール裏にも、これまでになく多くのサポーターが詰めかけて、チームの昇格を信じ後押しをしていました。どの顔も期するところを感じさせる厳しい表情。まだそんな状況にわが身を置くことなど想像もできないJ2年目の終盤戦。しかし今日の水前寺での逃げ切り勝利は、間違いなく今期一番の痺れる試合に違いありませんでした。

TrackBackURL
→http://sckumamoto.blog79.fc2.com/tb.php/222-fc43c003