11月29日(日) 2009 J2リーグ戦 第50節
熊本 2 - 0 富山 (13:04/熊本/16,585人)
得点者:55' 小森田友明(熊本)、89' 山口武士(熊本)


こんなことが本当に起きるのですね。月並みな表現ですが劇的。思い切り振り抜いた右足。ボールはクロスバーに当たってゴールに吸い込まれる。瞬間、「うそ!」と叫ぶと同時に立ち上がり、「ウォー」と何やら声をあげ、そして胸の奥からこみ上げてくるものを抑えるのが精一杯でした。

とうとうこの日がきてしまった。それが戦前の気持ちでした。山口武士の引退。彼のプロフィールについては、昨年の4月に「遅れてきた黄金世代」と題したエントリーで書いているし、ここで改めてくどくどと述べる必要もないかと思います。“帰ってきた熊本のプリンス”。なにより思い出すのは、04年暮れに行われたロッソ熊本初のセレクション。当時JFLソニー仙台でプレーしていた山口が、63人の参加者に混じり、厳しい選抜の目にさらされているのを見て、「本当に帰ってくる決心があるんだ」と実感しました。明けて05年1月、鶴屋サテライトスタジオで行われた入団選手発表。その場に立った彼に向けて、一人のロートルファンから「お前に懸かってるぞ!」という期待と激励の声援が飛んだ。そんな日のことを思い出してしまいます。

Jに戻りたい。そんな彼の思いは、「熊本にJリーグチームを」というわれわれの夢と繋がり、地域リーグから這い上がる険しい道を共に歩んできました。将来を嘱望されたにも関わらず相次ぐ怪我に泣いた山口は、故郷での新たな挑戦でもやはり“ガラスのプリンス”を払拭できませんでした。前日、奇しくも古巣の鹿島は、同期入団の小笠原や本山、中田が、ガンバ大阪とリーグ優勝を争う大一番に臨んでいました。怪我さえなければ、間違いなくあのピッチに立っていたであろう男。その彼が今日、熊本でユニフォームを脱ぎました。熊本にJリーグチームを作るという大仕事を終えて…。

富山 (先発フォーメーション)
11永冨 15石田
17木本7朝日
5長山25野嶋
26中田19西野
3堤6濱野
 1中川 

試合は序盤こそ少し熊本のペースがあったものの、富山のしっかりと閉じられたバイタルを攻めあぐね、奪われては持ち味のオートマティズム溢れる攻撃にさらされる。再三のピンチ。同じく今日が引退試合となったGK小林が、1対1に飛び出すも交わされる危ないシーンもあり、1万6千人のホームのファンにため息をつかせます。「今日は危ない…。」と。

サイドが変わった後半もペースは富山にあったのですが、10分、右から市村のシュートを富山DFがクリアミス。それが小森田の前にこぼれたところをゴールに押し込む。副審のフラッグが上がっていてオフサイドかと思われましたが、主審の再確認で得点が認められます。しかし、先制はしたものの決して安心できない雰囲気が試合を支配していました。富山の激しいプレスに熊本の組み立ては寸断され、思い通りにボールが運べない。縦横無尽な“走り”にゴールを脅かされる。スタンドに幾度も悲鳴がこだまする。ここ一番の富山の決定機を止める小林。「この一点を守りきるのが、今日が最後の俺の仕事だ」と言わんばかり。まさしく守護神の働きを見せます。

後半も35分をまわったところ。先制点の小森田を下げて山口が入る。今期限りで契約満了を告げられた小森田が、山口と抱き合うように交代する。「お疲れさま」と互いの労をねぎらうように。“熊本スピリッツ”の両雄が交錯した瞬間。この熊本が生んだ二人のファンタジスタを共有していた至福のシーズンがもうすぐ終わりを告げます。

実は、山口の引退が公式に発表された後、市内のいきつけのスポーツ整体院で彼の姿を見かけました。それは東京V戦への移動日でもあり、「今回も帯同していないんだ・・」と理解しました。やはり、もう身体はボロボロなのかも知れない。古傷が痛むのかも知れない。でも、残されたあと2試合、その僅かな出場機会をうかがって、そのために入念に(おそらくいつものように)準備をしているのだなと。プロとしての最後までの気概と姿勢を垣間見た思いでした。

試合終盤の激しい展開、なかなかボールに触れない時間帯が続いて、いよいよロスタイム。エリア手前中央で西から丁寧な横パス。それを思い切りよく振り抜いた。何の迷いもなく。12年間のすべてをこのボールに託すように…。サッカーの神様が、小林の背後に立ち、そして今度は山口に舞い降りた・・・。選手皆が押し倒すようにもみくちゃにして祝福する。このドラマに立ち会えた幸運なファン。スタンドは総立ち。不覚にも涙が・・・。武士! 出来すぎだぞ、こんなラストシーン。

冬の曇り空。暮れなずむKKウィング。最終節甲府戦を前に、ホーム最終戦として恒例の引退選手を送るセレモニーが行われました。そこには先週発表されたばかりの、しかし今日もスタメンや途中出場を果たした契約満了の選手たちの姿もありました。この季節の常とはいえ、この寂しさは言いようのない辛いものがあります。特に今回は、“ロッソ”発足からの選手、J昇格に力を尽くしてくれた選手、今年もスタメンを張ってくれた選手の名前が並んでいます。TVで「矛盾していると言われるかもしれないが、世代交代の為に、依存度の高いベテランを中心に契約満了した」と述べていたという池谷GM。それは全て「4年後のJ1昇格」を見据えてのこと・・・。

旧サカくまの頃、リンク集には選手のブログ集はあえて作ってきませんでした。薄情と言われるかも知れませんが、選手はいつか“居なくなる”存在だと思っていたからです。しかし、熊本の名の下に戦った選手のことは、いつまでも忘れない。それを信条としたいと思っています。だから、“青”から“赤”に引き継がれたあのときも、掲示板は大いに荒れましたが、われわれは「青の選手を忘れない」という写真を掲げることで、精一杯のリスペクトを表現したつもりでした。

新生ロッソのセレクションに多くの青の戦士が参加しましたがひとりも採用されず、それはわれわれにとってもショックでしたが、それほどまでに厳しい世界なのだということを再認識した出来事でもありました。そして今回は、あのときセレクションされた“ロッソ”生え抜きの選手、あるいはJ昇格に力を発揮した選手の名前が並んでいます。

チームは次の段階に進もうとしている。そういうことなのでしょう。それは、あの青から赤への転換と同じくらいの変革なのかも知れない。選手獲得市場がいよいよスタートして、まずは「契約満了」というカードを切る。同時に新卒の選手の獲得が徐々に発表される。今はまだ、その時期でしかありません。チーム間の移籍交渉は、弱小チームにとっては後々の順番。契約満了者にめぼしい選手はいないのかという血眼のスカウティング。僅かのタイミングが明暗を分ける交渉。まさに人脈で成り立つネットワーク市場。

実は試合前日、東京出張の帰りの飛行機が富山チームと一緒になりました。羽田の待ち合いで、チームスタッフらしい人(多分副島HCだと思います)が一心不乱に“選手名鑑”に見入っていました。それは熊本戦へのスカウティングでもなく。右手に握られていたのは三色ボールペン。開いているページは、あるJ1チームのページでした。

移籍“市場”はオープンし、すでに戦いは始まっているという実感。この“勝負”のなかで、いかに戦えるのかわが熊本。今ここがまさにクラブの腕の見せ所です。次のチーム編成について明確なメッセージを出した熊本。発表や報道という結果で知るしかないわれわれにとっては、ちょっとした情報、噂にやきもきし、あるいは疑心暗鬼に陥りがちですが、これは同時にわれわれファンの“胆力”が試されているのかも知れません。特にこのリーグ戦終盤は、長年、一緒に戦った選手たちがチームを去っていく時期。引退、契約満了、更新なし。寂しい、本当に寂しい。なぜ? という気持ちもごく自然に湧いてきます。ファンとしたら当たり前ですね。だから今は、その事実をしっかりと受け止め、気持ちを落ち着かせたいと思っているところです。去っていく選手たちに感謝と敬意を。そしてまたチームの歴史が積み重ねられていく・・・。

チーム初の3連勝を達成し、第3クールに限っていえば、五分以上の成績を収めています。51試合。気の遠くなるような長いリーグ戦も来週は最終節。しかし、相手は昇格には勝つしかない甲府。ギリギリの真剣勝負マッチ。おそらく完全アウェー。鳥肌の立つような状況設定です。もちろん熊本も順位をひとつ、ふたつと上げるチャンスでもあります。このチームとしての最後の戦い、このシーズンの到達点をしっかりと見届けたいと思います。

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