磐田を契約満了になり、日本中からその去就が注目されていたゴン中山。早々とオファーを出していたわが熊本は、最後の最後まで選択肢に残っていたようでしたが、最終的に彼が選んだのは札幌でした。残念といえば残念。しかし、彼も本気で悩んだうえで、決め手となったのは、42歳の中山が必要とした医療体制など、健康管理面の環境の差だったようで。熊本の「いろんなものが変わると思っていた」(24日付・熊日)。池谷GMの落胆も大きいようです。

さて、先だっては高木新監督の就任記者会見が行われ、また柏の元日本代表GKだった南雄太の加入も電撃的に発表されました。このストーブリーグ、開始早々からのゴンへのオファーも含め“ビッグネーム”登場の連続に、(まだまだ途中のようですが…)移籍市場で大いに話題を提供している観もあるわが熊本です。おりしも、お隣の大分はクラブの存続自体が危ぶまれるほど大変な状況に陥っています。ファンのなかには、こういった相次ぐ“ビッグネーム”のニュースに対して、歓迎の気持ちと同時に、「あと3年でJ1昇格を目指す」ために「財政的には無理をしているのではないか?」という懸念が広がっているのも感じられます。

身の丈経営を標榜するわがクラブ。確かに公表されている財務状況をみると、J2のなかでも下から数えていいくらいのレベル。08年のリーグ開示資料を見ればすぐにわかることですが、“普通”の民間企業であれば、金融機関が取引を躊躇するような財務状況であることは間違いありません。単年度でギリギリですが黒字を保っていることは、その身の丈経営が強く感じられるところですが、数字を見る限り、大分の今の状況が、決して対岸の火事でないことはファンとしても常に意識しておくべきでしょう。

そんな厳しい台所事情ですが、どうしても気になるのは「入場料収入」。これがJ参入以降、なかなか目標どおりには伸びていないというのが実情ではないでしょうか。いつぞやのエントリーで「シーズンチケットを買いましょう」と呼びかけたとおり、しっかりとした基盤のチームは、この収入だけで選手補強費が賄えるともいえる。それが“理想のクラブ”の姿でもあります。

今シーズンを見ても、入場者数は目標の平均6000人に到達したそうですが、それもいくつかの「動員試合」があっての結果。平日のナイトゲームのスタンドを見れば、常に平均3000人位のコアなファンが足を運んでいるという実感。ホームゲームはそれに支えられているというのが現状ではないかと思っています。“青の時代”を経て、ロッソとしてJを目指し、地域リーグとしては破格の予算、破格の観客動員を誇った。JFL時代にはさらにその枠を拡大し、いよいよ夢かなったJ参入でもあったのですが。実際は、そのファン層が思った以上には伸びてきていないのではないかと思うのです。(もちろん広がりとは別に、コアなファンはどんどん深く“ハマッテ”いるという現象がありますが…。)

この未曾有の不況下。どの業界・業態を見廻しても右肩上がりの成長戦略は描けなくなって、とりあえず“身を小さくする”緊縮財政を余儀なくされています。それはスポンサー収入に多くを依存するJリーグ・クラブも同じであり、どのチームもマイナス予算で来季に臨んでいるように見られます。このストーブリーグで想像以上に大量に契約満了者が出ていることも、それを裏付けているようで。

翻ってわがクラブ。ありがたいことにスポンサーは来季もある程度、固まっていると聞きます(不穏な話も一時ありましたが…)。そのなかでどんなチーム作りを行っていくか。景気低迷のなかで、逆に拡大していくという難しい課題に挑戦しなければならない。それにはまず、3000人のコアから次の“層”にブレイクスルーする必要がある。もっと裾野を広げる必要がある。ロアッソのことは知っている。新聞やテレビで試合結果は知っているが、スタジアムに足を運んだことはない。そんな人たちがまわりにもたくさんいる。熊本の都市圏、地域の潜在的なポテンシャルから言えば、まだまだその層を獲得できていない。クラブの外の立場から見ているわれわれでも、そういう現実を感じています。

J参入時に掲げた「5年でJ1」という目標。時間的には「残り3年で」ということになります。それが現実的な目標なのかということは、色々な意見があり、われわれもいつかそのことについては自分達の思いを書きたいと思っています。ただ、今言えることは、一般の企業もそうですか、組織には確固とした中長期的のビジョンがなければいけないということ。「10位以内を目指す」という短期的(年度)目標もしかり。組織が“目標”を持たなかったらおしまいだということ。迷走したあげく失速するということ。そうでなければ人もお金もそこに集まらないし、集まった人のモチベーションも上がらない、ということだと思うのです。もちろんそれは、反面教師とすべき大分の路線とは全く異なるものです。あくまでも“実態”の身の丈を伸ばしながら、目標に向かっていこうとすることに違いありません。おそらくクラブはそれをよくわかっていると思います。池谷GMが常々言う「KKウィングが真っ赤なサポーターでいっぱいになったときが、J1に昇格できるとき」という言葉に通じるのだと思います。

同時にプロサッカーはスポーツビジネスです、そしてそれは、ファンに夢を売る“興業”という側面をもっています。緊縮財政を敷いて、身の丈にあったクラブ運営をしていくということは当然ではありますが、それだけでは“ブレイクスルー”という課題は超えられないのも事実です。やはりそこには、ファンがワクワクするような、“華”のある役者、才能が必要だということも確かです。

以前、池谷GMと話す機会があったきのこと。サッカー界は意外に狭く、情報は密に流通するとも言っていました。ガンバの西野監督との繋がりは知られていますが、名古屋の久米GMとも柏時代の知己の間柄。そのほかにもネットワークが各チームに散らばっているようです。先手必勝の勝負よろしく、冒頭に書いたようにこの冬はいつにも増してスタートダッシュが早いようです。それもこれも、各チームが大量に契約満了者を出しているこの状況が、逆にチャンスなのだと感じているのかも知れません。そういった市場環境のなかで、ビッグネームといえどもわが熊本が示せる(示している)金額は、想像以上に低いのも事実のようです。

ただ、だからといって中山へのオファーが、単なる“客寄せパンダ”を意味していたと言っているのでは決してありません。JFL2年目、J昇格を掛けた最後の年といってもいいあのシーズンに賭けざるを得なかったベテラン達への“依存”。それを今、次の目標のために苦渋の判断とともに、大きく若返りを図るという舵を切った。第2の黎明期とも言えるチームの構造改革を行っている、そのとき。ゴンの存在は、高木新監督の言葉を借りれば「いろんな経験、しかもすごく重要な経験をしてきている選手」「そういう選手が一緒にピッチにいてくれると、いろいろな意味で選手を助けてくれるし、クラブを助けてくれる存在になる」。まさしく「トータル的に考えると、やはり必要な選手」だったのだと思うのです。それは今季、まさかの藤田俊哉の獲得とその“有形無形”の活躍で実感したとおりでもあります。

池谷GMの落胆ぶりからも伺えるように、中山の獲得は、若いクラブにとって必要な経験値、あるいは取り組み姿勢など、会社で言えば“社風”といったものを形作っていくために、とても大事な要素。クラブの成長を急ぎたい熊本にとってはどうしても欲しかったものだったのでしょう。それは、今シーズン、チームが直面し、GM自身が痛感しただろう“ピッチの上だけではない”部分も埋める必要不可欠の戦力だったのではと想像します。

件の池谷GMとの話しのなかで、将来的なチームの選手構成について、仮に選手数が30人だとしたら、ユースからの育成枠が10、熊本県出身者が10、熊本“愛”が10というビジョンを語っていました。熊本“愛”という表現が何を意味するかよくわからなくて、かといって具体的に尋ねる時間はそのときなかったのですが、今思えば、昨年の藤田俊哉の獲得や、今回、柏の南に退団発表10分後にオファーしたこと、中山に真っ先にオファーを出したこと、それに通じることなのかも知れないなと。「熊本には何もない」「お金は十分に出せない」「でも熊本は君を必要としている」「熊本にサッカー文化を根付かせることに君の力を発揮してほしい」。想像するに、そういうアプローチ、口説き文句しかないのではないかと。熊本はいい条件など何も示せない。あるのは誠意だけ。熱意だけ。GMが熊本に招かれる際に口説かれたことに似ているような。そして、それに応えて、今度はGM自身が選手を口説く「熊本愛」枠とでも言うものでしょうか。

オファーを出しただけで、これだけの反響を巻き起こした中山。今日の熊日朝刊を見て感じるのは、彼が指摘したクラブの総合的な環境面。医療体制どころか練習環境もままならない状況は何ら変わっていません。獲得への思いは叶いませんでしたが、あらためて現状を浮き彫りにしてくれたということですね。おそらくは、クラブ関係者はもとより、ファンや一般市民にもある程度の影響力を持って急ぐべき課題を明らかにしてくれたのではないでしょうか。

来季も変わらぬ支援を決めていただいた多くのスポンサーの皆さま。常に理解と協力を示してくれる行政各位とマスコミ各社の方々。まさしく県民運動に支えられたわがクラブのこの有りようは、やはり他のクラブとの大きな違いを実感せざるを得ません。あとはもっともっと県民自体に広がりを進めること。それが不況下のなかでの唯一の拡大戦略なのかと。それはクラブ・フロントだけでなく、今、われわれファンにも課せられていることなのかも知れないと思いました。

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