4月3日(土) 2010 J2リーグ戦 第5節
草津 1 - 2 熊本 (13:04/正田スタ/5,372人)
得点者:18' 氏原良二(草津)、43' 矢野大輔(熊本)、51' 福王忠世(熊本)


開幕から4連敗中の草津。しかし、いや、だからこそ油断できない相手だと選手もファンも理解していました。「前半に先制し、相手に『今日も駄目か』と思わせたい」(2日付・熊日)と戦前言っていたのは筑城。プレイヤーでなければわからない、連敗中の選手心理をよく表しているコメント。ところが、その草津に先制点を許してしまった熊本。ただ、前半のうちに同点に追いついたことが、十分にそれと同等のダメージを相手に与えたことは間違いありませんでした。草津イレブンは明らかに前節千葉戦の記憶をよみがえり、動揺したのではないかと。J2・100試合出場の矢野の記念すべきCKからの同点弾は、それほどの“価値”がありました。

正田醤油スタジアムのピッチ状態の悪さは、われわれですらイメージにあるくらいですから、選手はもちろん、J2をよく知る高木監督も十分頭にあったでしょう。そして、今日はそのうえに関東平野に吹き荒れた春の強風が、試合を難しいものにしました。熊本は二日前に加入発表があったばかりのブラジル人FWターレスを早速ベンチに、怪我で戦列を離れた宇留野に代わって好調の西森を先発に起用しました。

草津 (先発フォーメーション)
11氏原 27杉本
9高田10広山
2戸田30松下
15御厨7佐田
24梅井4田中
 21常澤 

序盤から熊本がラインを高く上げて敵陣に迫ります。左SBの筑城も果敢に攻撃に参加。開幕から連続出場の筑城ですが、移籍した熊本で大いに“活きて”いる。もはや欠かせない選手になりつつあります。ゲームは蹴りあい、中盤での激しい奪い合い。潰し合い。草津の中盤には松下、戸田、広山と巧者が揃い、ちょっとしたミスがピンチにつながりかねない。細心の注意が必要でした。

前半18分、ちょっと風が強くなってきた頃だったかも知れません。GK南からのキックが押し戻されたようにハーフウェイライン近くに落ちてくるのを、草津の選手がヘッドで跳ね返す。それを市村が後ろに反らしたところに高田が走りこみます。ゴールラインぎりぎりから上げられたクロスに、氏原が飛び込みどんぴしゃのヘッドで草津が先制点を挙げる。「オフサイドではないのか?」。唖然とする熊本イレブン。指揮官も抗議したようですが、心のどこかではすでに切り替えているような。選手ももう走り出している。「サッカーでは“事故”のような失点1は必ずつきもの」という高木イズムが選手にも浸透しているようでした。

先制した草津、この時点で「前半をこのままで終わりたい」という気持ちが強くなったのは無理もないでしょう。草津のDFラインが徐々に下がり始めました。バイタルエリアが広くなった分、熊本の攻め込むスペースと時間が増える。右サイドから運びあがって吉井が中央に入れる。井畑がDF二人に挟まれながらもトラップ一発、左足で押し込む。これは草津GKのファインプレーで阻まれます。井畑は前節のヘッドもそうですが、いわゆるセンターFWらしい動き、そしてある意味泥臭いシュートが撃てている。実に惜しいシーンでした。早く2点目を取らせたい。

スカパー解説の戸塚氏の言うとおり、GKのファインプレーで“流れ”を取り戻すことが往々にしてあるのですが、前半も最後の時間まで諦めないのが今年の熊本。草津側からすれば、いわゆる“クローズ”の時間帯。43分、ゴールキックを前線で競り、収めた井畑。筑城に返したボールは左・タッチライン際の原田に折り返し、ダイレクトで西へ。受けた西は向き直り、相手DF3人に対峙すると、果敢に仕掛けてエリアに入っていく。敵4人目のDFがなんとかクリア。これで得たCKを蹴るのは西森。ゴールに向かって弧を描くボールは、さらにドライブが掛かったように中央で落ちてくる。目測を誤ったGKの前に入り込んだのが矢野。少し頭を低くして身体ごと飛込み、冒頭に書いたように前半のうちに熊本が追いつきます。

サイドが替わった後半、風は益々勢いを増し、向かい風の草津はGKのキックがハーフウェイラインを越えないほどになります。追加点は51分、中盤付近で熊本が回していたボール。最後列の福王が前目に出ていた敵GKの位置を見越して放り込む。あわてて下がりジャンプするキーパー。しかしうまく風に乗ったそのロングシュートは、その伸ばした手をあざ笑うかのように、ゴールマウスに吸い込まれました。

後半勝負をかけなければならない草津にとって、あまりにも早い時間帯で痛恨の逆転弾。勝ちたい、今日こそ勝たなければならない草津。早めのカードで動かざるを得ない状況に。広山を下げてラフィーニャを投入。確かにこのラフィーニャの強引さと変則的なリズムに惑わされる感じで、熊本のピンチが増えていく。なんだかバタバタした感じ。一連の草津の攻撃から最後は佐田がミドル。このシュートは枠を反れる。

草津は更に足の速い山田を投入。山田が左サイドを抜いていく。しかし、今日の熊本ベンチ、まだ動かない。79分、草津の左CK。GK南のパンチングがエリア内に高く上がったところに191センチのDF梅井の頭が合う。「やられた!」と思いましたが、ボールはゴール左に反れていき事なきを得ました。

それでも、熊本ベンチは動かない。リードしているこの状況で、変にバランスを崩したくないのか。まだまだ熊本の守備ブロックは実効性を失っていませんでしたし、運動量もあまり落ちていません。確かに攻守の切り替えの早さは、熊本が圧倒的に草津を上回っている。強風と荒れたピッチが、もう一点をとりにいくことも想定させたのかもしれません。80分、松橋のスローインは上がってきた筑城に「撃て!」と言わんばかりの慎重で優しいボール。ダイレクトで捕らえたシュートはドライブが掛かり枠を捕らえていましたが、これはGKにクリアされました。

熊本が山田のサイドを押し返すために山内を入れたのは、後半も38分を回ったところでした。さすがに昨年ハットトリックを決めたこの男の名前は嫌なイメージで草津に知れ渡っているのか。さらに井畑に代えて渡辺を入れたのはもはやアディショナルタイムが迫った頃。時間を使うとともに、前線で落ち着かせる。本来守備的なこの渡辺が、再三この時間帯、前目で使われているのは、彼の経験値を買ってのことか。

そうなると最後の“クローザー”は藤田というのがこれまでの定石だったのですが、アディショナルタイム、投入されたのは何と山下でした。それはパワープレーで前線に上がった草津のタワー・梅井にマンマークで対応させるため。なるほど納得の選手交代でした。その山下のファーストタッチ。ルーズボールを梅井と競り合い、フィジカルで押さえ込んで、ボールをキープ。「役割を果たしましたね」と解説・戸塚氏。このクローズの時間帯のワンプレーの価値を知っているのでしょう。ある意味、この投入で流れが変わったのか、後は前線でのキープ、パス回しで、試合はそのまま終了。逆転で今季初の連勝という結果を得たイレブンの顔には、達成感が溢れていました。

市村、松橋、井畑、西、ときて今日の得点者は矢野と福王という二人のCB。総得点数自体がまだ少ないこともありますが、チーム内の各人が試合毎に1点ずつ取っているという状況も珍しい。誰かに依存しているのではなく、まさしく“チーム”で点を取っているということでしょう。

この試合はクローザー藤田の出番はありませんでした。しかし、これではっきりしたことは、高木監督は、もちろん事前の試合プランは持ちつつも、その状況、変化を見極め臨機応変に7人のベンチ要員を使い分けていく、ということ。そのことは「ゲーム前に選手に伝えていたやり方とは大きく違う内容になりました」という試合後のコメントからもうかがい知れます。そしてそれは、いつか池谷GMが高木評として言っていた「与えられた現状のなかでの対応力がある」ということにも通じるような気がします。 

「次節からは上位が予想されるチームとの対戦となるが」とJ’sGOALのインタビュアーに問われていわく「相手に関してはあまり考えていない。次は甲府戦だなというくらいで、明日はテストマッチもありますし、1つ1つやっていくだけです」という姿勢。変に気負っているのはわれわれファンの方だけなのかも知れない。解説の戸塚氏がいみじくも言っていた「昨年は“いい”サッカーを目指していた“せい”か、失点も多かった」という熊本評が妙に心に残ります。では、高木監督が目指すサッカーとは何なのか…。逆説的な言い方ですが、きっとこの現実主義者の監督の“目指す”サッカーは常に変わる。今は“昇格を目指すサッカー”、次には“昇格後も戦えるサッカー”ではないのかと…。

この試合の後、浦和と湘南の中継を見ていました。いつもながら赤く染まった埼玉スタジアムです。昨年まで同じピッチで戦っていた湘南。つい先々週は中村俊輔の横浜と対戦していた湘南。J2最後の対戦ではその湘南に勝利した熊本です。しかし、まだまだ、われわれには、熊本がそのピッチに立つことのリアリティーが正直なところありません。ところがわれらが指揮官には、何のことはなく自分の“ミッション”として、ごく当たり前のように現実的な想定をしているのではないかと。われらが指揮官にとって、J2の現時点というのは、結果ではなくプロセス。この人の目線のそう遠くない先には、「J1でやっていく」ということがあり、「そのためには何をすべきか」「どんなチーム作りをすべきか」ということしかないのではと。対戦チームに対しても上位だ、下位だと先入観を持つような雑念とは違う場所にいるような。それほどこのリーグ戦の戦いだけに集中しているのではないかと。あくまで空想ではありますが、そんなことを思わせた試合でした。

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