4月18日(日) 2010 J2リーグ戦 第7節
横浜FC 1 - 2 熊本 (16:03/ニッパ球/3,553人)
得点者:56' 西弘則(熊本)、64' 西田剛(横浜FC)、68' オウンゴ-ル(熊本)


「連敗は絶対したくない」。チーム全員の気持ちがこの一点に集中して、敵地で貴重な貴重な勝ち点3を手に入れました。後々、熊本の今シーズンを振り返ることがあるとすれば、大きな流れを手放さなかったという点で、重要な意味を持つゲームだったと言えるかもしれません。

横浜FCは開幕から3連勝(すべて完封)のあと3連敗中とやや失速ぎみで現在9位。前節千葉戦では、前掛かりになっていたところを千葉の鋭いカウンター攻撃に切り裂かれた、といった感じで、前節の先発メンバーを5人も入れ替えて臨んできました。しかし、それでも熱血漢・岸野監督は攻撃的スタイルを変えないだろうと見ていました。

対する熊本は前節、甲府相手に初黒星を喫したものの、内容は決して悲観するものではなかった。ただ連敗して負のスパイラルにだけは陥りたくない。予想したとおり、高木監督はほとんどスタメンをいじってきませんでした。

横浜FC (先発フォーメーション)
37サーレス 9大黒
36寺田28武岡
8小野10シルビーニョ
6高地33柳沢
4戸川15キム・ユジン
 1大久保 

キックオフ直後の熊本ボール、福王からのロングフィードに松橋が走り込む。敵CBのクリアミスを“かっさらって”間髪を置かずシュート。しかしボールはポスト左に。悔しがる松橋。見慣れた黄色のシューズを今日は心機一転、紫色に履き替えて。“期するもの”を感じさせます。

横浜はサーレスがくさびになってシルビーニョから大黒を走らせる形。それに右の武岡や左SBの高地が参加して攻撃の厚みを増す。中盤でもらった大黒が大きくサイドチェンジ。武岡が右サイドゴールライン際からクロス。ファーに走り込んできた大黒がボレーで叩きつけ、いやなバウンド。幸いゴール右に反れて事なきを得ます。やはり大黒の動きの“質と量”は群を抜いている。横浜のほとんどのボールは大黒に合わせてくる。また神出鬼没なプレーは、ある意味狡猾で、矢野、福王が一時も目が離せない。熊本は西が左サイドで持つとバイタルエリアを横断するようにドリブルで中に入っていく。ただこの“仕掛け”に呼応して動き出す選手が欲しい。西はラストパスも出せる選手だから…。

サーレスから今度は左にスウィッチした武岡に。武岡が市村を交わしてシュート。これはクリア。その後のCK。長身のキムのヘッドは頭ひとつ抜けてボールを捉えますが、DFが下からしっかり身体を寄せて、上半身を振りきらせない。ボールは枠外へ。

膠着ぎみの前半終盤。横浜もボール支配はしているものの、攻撃に変化がなくパスコースが手詰まりの状態。中盤で奪った熊本。松橋のミドルシュートはGKがキャッチ。「先制点を取れば勝てる」。戦前そう語っていた岸野監督でしたが、どこかしら試合運びに慎重さも感じられました。スタッツが示すとおり激しい綱引き合いのような互角の内容の前半。しかしこのままで終わるはずもなく、後半試合は大きく動き始めます。

開始早々、一気に出てきたのは横浜。寺田が右に流れてクロスを上げる。左からは高地がアーリーでクロスを入れる。「サイドの高い位置を取ること」というハーフタイムの岸野監督の指示を忠実に実行してきました。しかし、ゴール前の空中戦には守護神・南が立ちはだかります。50分の横浜FKにキムの頭がかすりましたが、これも南が反応よくクリア。大黒得意のCBから消える動きで、クロスに対して必ず競い勝つものの、またしてもボールは南の手中に収まります。

凌いではいるものの、自陣に釘付けにされる一方的な展開に、「怖いな…」と感じていた頃でした。井畑が中盤で頑張って奪う。転がったボールにすかさず飛び出したのは松橋。その俊足を活かして右サイドを駆け上がる。前掛かりの横浜はDF2人が反転するも追いつけない。左から追走してきた西にクロス。飛び出してきたGKを西が交わすと、DF2人の間のスペースにねじ込むように蹴り入れました。先制点は熊本。「ダイレクトで撃とうか迷った」という西の切り返しの判断も正解でしたが、その前の松橋の早めのクロスの判断も褒めるべきでしょう。一瞬でも躊躇していたら詰められていた。あっという間の守から攻への切り替えでした。

先制されても2点目を取られない様にすることが、横浜の課題でした。岸野監督はサーレスに代えて西田、小野の代わりに片山と一気に二枚替えを敢行。これが絵に描いたように奏功します。片山が左からアーリークロス。ファーの西田がトップスピードで走りながらこれを収めて、筑城を交わすと左足で蹴り込む。さすがの南も至近距離から撃たれてはたまらない。片山、西田、互いにファーストタッチのプレーではなかったでしょうか。

横浜イレブンは、この同点弾で勢いづくゴール裏に向かって“ゆりかごダンス”。それは数日前に子供が生まれたばかりのシルビーニョに送られたものでした。しかし、この喜びのパフォーマンスの数分後に、当の本人にとって、悔やんでも悔やみきれない魔の瞬間が襲います。

右サイド奥で得たFK。左足の原田が構える。「直接ゴールを狙ってくると思っていた」と語った横浜のGK大久保は、壁を2枚しか立てませんでした。原田の左足から放たれたボールは、ニアサイドに速く低く巻いていく。飛び込もうとする井畑が目に入ったのかもしれません、慌ててシルビーニョがゴールラインにクリアしようと頭を出す。しかし、ほんの一瞬、タイミングが遅れたのか、鋭く曲がったその軌道を跳ね返すことができず、かすったようにキーパーとニアポストの間に吸い込まれます。何が起こったかもわからないような一瞬の出来事でしたが、ボールはゴールネットを揺らしている。間違いなく熊本の追加点でした。

そのプレーの前の段階から、藤田が用意されていました。井畑に代わって入るとすぐ絶妙のスルーパスで市村の上がりを誘います。

不可解な判定が起こったのはそのあと。横浜のFKのチャンス。キックの前からキムと矢野とのスペースの取り合いに主審の注意が入る。以前も書いたように、今年から手の使い方に厳しくなっていて、今日のこの審判も非常にナーバスになっているのが分かります。横浜のキックの瞬間に、もう笛が吹かれます。主審が指さす先はペナルティ・マーク。「PK?嘘!」何が起こったのか、誰にも分からない。明らかにキムと競っていたのは矢野。接触シーンのない(ようにわれわれには見えた)市村にイエローが示されます。

キッカーに立ったのは大黒。絶体絶命、いや万事休す、といった心境でした。あとは守護神・南に祈るばかり。しかし、大黒がゴールの上を狙ったキックは、大きくバーを越えていった。不運の中の幸運。サッカーの神様が、ちょっと意地悪しながらも、今日の熊本の勝利への執着心を試しているようでした。

さあ、残り時間も15分を切ってきます。熊本は西森に代えて宇留野。吉井に代えて渡辺で逃げ切りを図る。しかし今日はいつもと違って、藤田のところでボールが収まるといったものとは言い難い展開。一方的な横浜の攻撃。「集中を切らすな!」「大黒を離すな!」。そう画面の向こうに叫んでいる。アディショナルタイムは4分。そのときテレビの右スピーカーから確かに聞こえてきました。「アレ・アレ・アレ・熊本」。熊本のゴール裏からのチャントが、確かに力強く聞こえます。ホームの横浜側とは圧倒的に数的に不利なはずだけれど。聞こえます。跳ね返せ。跳ね返せ。もう跳ね返すだけでいい。終了の笛には歓喜の声がかぶさっていたのではないでしょうか。

「内容は置いておいても、結果として競り勝てたのは今後選手達の財産になっていくし、チームの財産になってくれるようなゲームをしたと思っている」。高木監督は試合後そう言って、同時に選手のメンタル面の成長を賞賛しました。藤田を入れても試合のペースを握り返せなかったことは課題ですが、それについては「どちらも1点勝負ということで時間を掛けるのではなく長いボールを入れていくようになってしまった」結果だと評しました。いつものような熊本の長短・緩急織り交ぜた攻撃に持ち込めないほどに、勝利に飢えた横浜FCの猛攻は凄まじいものだったと言うことでしょう。それをなんとか凌ぎ切った。それも“強さ”。ある意味これも“残り15分”の強さと言えるのではないでしょうか。

今節の結果で再び3位に浮上。多くのメディアや当の横浜サポーターすらも、この高木・熊本の好調を06年の横浜FCになぞらえます。もちろん、当時の様子を良く知らないわれわれにしてみれば、そう言われても全然、実感がないし、まだまだ序盤戦、試練はこれから幾たびも待ちかまえているだろうし、監督自身が「ギリギリで勝っているだけ」と言うのも実感通りだしと。浮かれるような気持ちが全くないのがちょっと意外なくらいですが…。そんな周囲の雑音をよそに、監督はまだまだ強くなる過程だとも言っています。試合後のコメントでも「次の段階では相手のプレッシャーをうまくかわすことが出来るようなチームになるといいなと思いますし、やっていきたいと思います」などと、非常に具体的なイメージを口にしています。われわれとしては、今は、ただただそれを見守っていくことでしょう(こんなにワクワクすることも他にないですが)。

さて、次節、水前寺。いよいよ首位の柏を迎えます。楽しみです。黄色のサポーターがどれほどやってくるのだろうかとか。レアンドロや大津を止められるのだろうかとか。あの堅い守りをこじ開けられるのかとか。そして、わが監督の「首位の柏とやる時にビビる選手はいないと思うし、ビビる監督もいない」というコメントにも痺れています。懐古趣味的な自己満足は封印したつもりですが、やはりチーム創設以来の縁浅からぬ柏との初めての対戦…。そんな特別な感慨も含めての今週末のホームゲーム。とにかく待ち遠しい。そんな心境です。

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