4月29日(木) 2010 J2リーグ戦 第9節
鳥栖 1 - 1 熊本 (13:03/ベアスタ/8,697人)
得点者:48' 井畑翔太郎(熊本)、90'+3 豊田陽平(鳥栖)


Q:これまで8試合の会見でも、これほど気持ちをこらえながらも話されているのは初めてだと思うのですが、今の気持ちというか、心の内を教えていただければと思います。
「(再び沈黙)正直、ゲームが終わったという印象がなくて、まだ余韻が残っていますし、選手たちの残像が残っていて、彼らと一緒にやれて、非常に良かったなと、今感じています」

Q:それは悔しさや選手たちの逞しさ、いろんな思いが混在している感じでしょうか?
「J2の9節という位置づけですが、僕は選手たちを見るにあたって勝敗はともかく、彼らの強さを再認識できたので、これから鍛えて行けばもっともっといいチームになると思います。いい選手たちになっていくということを証明してくれた、そして私自身もそう感じたゲームでした」
(「J’sゴール」試合後のインタビューから)

当日、RKK夕方のニュースで放映されたそうなのですが、あいにく見損なった試合後の高木監督インタビュー。しかし、J‘sゴールのこれを読むだけでも、いつもの監督とは違う感情の起伏が感じ取れました。

ゴールデンウィーク中の連戦に突入。鳥栖戦をこういう結果で終え、中二日でやってくる次の札幌戦に向け、すでに選手・監督、多くのファンも気持ちを切り替えているところ。もちろんわれわれだって、今はそういう気分なんですが、やはりこのブログの努めとして、このゲーム、振り返っておかなければなりません。一人少なくなった相手に対して同点に追いつくことがやっとだった鳥栖も相当悔しいでしょうが、勝ち試合を引き分けにしてしまった熊本にとっては心底、悔やまれる試合となりました。

スタジアムに着くなりはっきりと確認できたのは、真っ赤に染まった熊本ゴール裏。それに加えてメインはもちろん、バックスタンドにまで赤のサポーターがはみ出しているのはアウェーゲームでは初めての光景。この時点で5位と7位の対決。勝ち点差は1。この試合の結果次第では順位が入れ替わるという状況で迎えた、熊本としては今季初めての九州ダービーでした。

鳥栖 (先発フォーメーション)
9豊田 22池田
9山瀬25早坂
8衛藤6藤田
10キム・ミヌ15丹羽
2木谷20ヨ・ソンヘ
 1赤星 

前節、福岡に対して虎の子の1点を守り切り、“走り勝った”ともいえる鳥栖。今日も開始早々から出てきます。中盤で奪うとFW池田がスルーパスでDFの裏をとる。矢野と接触して倒れますがファールは取られませんでした。一方の熊本は井畑がエリアに進入。DFと争って出たボールを松橋がワントラップしてボレー。惜しくも枠を外れます。

熊本は主に右サイドから攻撃を作る。左SBの要注意人物キム・ミヌが上がったあとに出来るスペースが狙い目でした。中盤での球際も、なんだかいつもより強く激しく行っているような。この点は柏戦の“経験値”が活きているように感じました。ただ、21分に左サイドを破られ、追いかけた原田のボディコンタクトがイエローを招きます。開始から厳しく相手の攻撃の芽を潰していた原田だけに、「今日は用心が必要だぞ」と思ったのはわれわれだけではなかったでしょう。

鳥栖は前線の豊田に合わせてきますが、それは当然、織り込み済み。矢野と福王が自由にさせません。鳥栖は前半のうちに山瀬を引っ込め、磯崎を入れることでキムを一列上げてきます。警戒すべき布陣になりましたが、市村が攻守の切り替えよくディフェンスしていました。

手口の探り合いのような展開。互いにシュートまで行かせない。前半アディショナルタイム、鳥栖のFK。ファーに飛んだ木谷のヘッドがゴールネットを揺らしますが、井畑へのファールがあったとして得点は認められず。沸き返る鳥栖ファンを一瞬にして沈めます。スコアレスドローで前半終了。アウェーでのゲームプランからはまずまずの折り返しでした。

そして後半。開始早々からセカンドボールや、イージーなボールが熊本に収まり始めます。48分、右サイドから松橋がクロスを入れると、井畑がトラップ一発、反転し、GK赤星のタイミングを外して泥臭く押し込む。鳥栖側とすれば唖然としか言いようのない、後半開始まもない熊本の先制点に、アウェーとはいえ遠慮無く立ち上がってガッツポーズを取りました。

こうなれば鳥栖も反撃に出るしかない。池田に代えて萬代を入れ“高さ”を増やします。ところが前掛かりになったところで熊本のカウンターのチャンスも増える。更に宇留野に代えて西を入れると、西と松橋のパス交換から攻め込む。DFのクリアを拾うのも熊本。次々に2列目、3列目からも上がってきて分厚い攻撃を見せ始めました。

そんな、追加点の臭いがプンプンしている時間帯でした。鳥栖のロングボールを跳ね返し繋ごうとしたボールが豊田の足元にこぼれてカウンターになりかける。慌てて身体を入れた原田が豊田を倒してしまい再びイエローが示される。そして次に示されたのは赤いカードでした。

一人少なくなり、この1点を守り抜くことに急遽プランの変更を余儀なくされた熊本。西森に代えて渡辺を入れ、守りを固めます。鳥栖の右からのグラウンダーなクロス。キムがダイレクトで正確に合わせた強いシュートは僅かに右に外れてくれて事なきを得ます。右コーナーからのCK。クリアボールを拾われて入れられるがなんとか蹴り出す。今度は左からクロスが上がり萬代に飛び込まれますが、枠を反れてくれます。

一方的な守勢。鳥栖の波状攻撃に対し、身体を張って跳ね返す。キムはといえば今度は右サイドにシフトして、嫌なクロスを上げてくる。萬代のヘッドは南がキャッチする。ハイボールはパンチングで掃き出す。時計を見る。残りはあと10分。「守り切れ!」。さらに鳥栖は磯崎に代えて長谷川を入れ、より攻撃的に。熊本のゴール前での攻防。人数をかけて襲いかかる。雨嵐といったような状態。しかしゴールを割れない。クロスを跳ね返す。エリア内に入られてもボールにしっかり足を出す。最後は南が反応する。

スタジアムではロスタイムに入ったことは分かりましたが、それが何分と表示されたのか、確認できませんでした。とにかくあともう残り少し。絶対にこのまま逃げ切れる。いや、逃げ切らなければいけない、と誰もが祈るように声援を送っていたその時。南が遅延行為でイエローを貰った直後だったでしょうか、終盤、サイドから何度も繰り返されていた鳥栖・藤田のロングスロー。ニアの豊田がDF福王を背負うようにしながら頭を右に振ると、ボールは南の手を逃れてゴールに入ってしまいます。その瞬間は現地ではよくわかりませんでしたが、とにかくゴールネットが揺れた。鳥栖サポーター全員が立ち上がり、ピッチもよく見えない。主審が得点を示す手を挙げているのだけはしっかりと確認できました。

しかしそれでもまだ試合は終わらない。スタジアムの試合時間計測時計は、45分のところで止まったまま。それから何分が経過したのか。隣の現在時計はもう3時近くになっている。井畑もとうとう足を攣ってしまって倒れている。鳥栖サポーターの激しいブーイング。ピッチ外に出される。セットプレーに2人も足りない状態の熊本。押せ押せの鳥栖。南が豊田との交錯で蹴られながらも、こぼれ球を拾ったキムのシュートもセーブ。南はこの豊田のラフプレーに対して激しく怒っている。これに対しても鳥栖サポーターのブーイング。豊田も傷んで運ばれる。それでもホイッスルは鳴らない。ドロップボールで再開。鳥栖が熊本側に返球したロングボールに走り込む萬代。この行為に猛烈に怒る高木監督。逆転弾が奪えない鳥栖のストレス。見えない“時間”と戦っているかのような熊本。その両者をなだめるように、ようやくようやく長い笛が吹かれました。

最後は騒然といった雰囲気に包まれたスタジアム。いずれにとっても後味の悪いものとなりました。冒頭のインタビューはそれから間もないタイミングだったのかも知れません。高木監督はこの時、涙で目を潤ませていたそうです。就任からこのかた、数多くのメディアでの語り口、あるいは実際に間近で接したときの印象からも、常に冷静でクールなのかと思っていましたが、実際の内面はとても熱い男なのでしょう。

そして、このときの感情は恐らくは自分自身に向けられていたのではないかと思います。後半のあの場面、西に代えて下げるべきは原田ではなかったのか、最後に切ったカードは山内が正解だったのか、井畑に代えて藤田だったのではないか、などと。今となっては全て結果論でしかないものの、試合終了後、まだ激戦の余韻が残るスタジアムで、高木監督はきっと自問していたはずです。真っ赤に染まったゴール裏。それでも精一杯の拍手で選手の奮闘を讃えるサポーターを目にし、自責の念にも囚われたのではないでしょうか。冒頭の記者会見、おそらくはそんな思いが、熱いものになってこみ上げてきたのでは、と。選手時代はアジアの大砲と呼ばれ、指導者としては横浜、東京を率いた長崎出身の高木監督。それが今“熊本”の気持になって泣いている。

そして加えて、「ただ、自分自身が非常に熱くなってしまって、鳥栖のサポーターの皆さんやレフリーに不愉快な思いをさせてしまったという点に関しては反省しています。申し訳ありませんでした」(「J’sゴール」試合後のインタビューから)。こんなことも言ってくれる監督。誰のせいでもなく、きちんと自分で引き受ける姿勢。それだけの覚悟をもって仕事に臨んでいるということでしょう。

今日の熊日朝刊、植山記者は「不可解な判定」「相手の反則まがいのプレー」と言ったある意味これまでなかったような表現も使いながら、熱い記事を書いてくれています。新聞紙面であっても、そう言わずにいられない気持ち。これもまた本気で戦っていくんだという意思表示と受け取りました

そんな熊本対鳥栖戦。鳥栖にとっては、この対戦、ホームではまだ勝ちがないという因縁もあるようです。九州ダービー。今年はバトル・オブ・九州と呼ぶそうですが、ファンならずとも、チームに関わるすべての者とって、それだけ懸命にさせる何かを、この対戦(カード)が持っているのは確かです。

さあ、もう日曜日は札幌戦。切り替え、切り替え。水前寺を赤でいっぱいにして、選手たちを精一杯後押ししましょう。

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