5月2日(日) 2010 J2リーグ戦 第10節
熊本 0 - 0 札幌 (13:04/水前寺/6,806人)


3日前に鳥栖スタジアムでもお会いしたクラブ前社長の前田さんと、続々と繋がる入場者の列を見ながら、「こりゃあ、柏戦よりも入りそうですね」と話していました。「水前寺も専用球技場にすればいいのにね」とおっしゃる前田さん。お互い先日の真っ赤に染まった鳥栖スタを見たすぐあとだけに、商業施設の併設にすればいいだの、駐車場はなくてもいいだの、大いに“夢”を語りあいました。KKウィングを作った人は、まだまだ夢を追いかけるいつまでも熱い人でした。そして、とうとう今日の水前寺競技場のスタンドは立錐の余地もないほどの埋まり具合になりましたが、それでも発表された入場者数は7千人弱。いったい収容人員の一万五千人というのはどんな状態なんでしょうか。

中2日のスケジュールで迎えた今日のホームゲーム。相手は連敗もあって現在15位に低迷する札幌。そしてストーブリーグの最中、熊本のラブコールを振り切って中山雅史が選んだ札幌でした。熊本は前節の退場で原田拓が欠場。代わりの位置には渡辺匠が入ったものの、左のプレースキッカーは不在という陣容になりました。キャプテンマークを腕に巻くのは吉井。今日は全くもってこの吉井の奮闘の日になりました。そして指揮官・高木監督の試合前の札幌のスカウティングは「攻撃はカウンター。後半疲れる。後半の後半が勝負どころ」というもの。しかし、意外なまでの札幌の頑張りが監督のプランを果たせないものにしました。

札幌 (先発フォーメーション)
 19キリノ 
20上里11近藤
10宮澤7藤田
 18芳賀 
23岩沼6西嶋
4石川3藤山
 21高原 

札幌のボールでキックオフ。渡辺が守備で頑張り、その効果で吉井が攻撃に絡める。札幌はやはり上里が起点になる。FWのキリノには矢野、福王がぴったりマークに付き、近藤は筑城のチェックゾーンに居ました。芳賀がワンボランチぎみでボールを叩く。宮澤、上里のポジションは高い。札幌が前線のキリノに当ててくるボールに対しては細心のケア。きっちり詰めて落ちたセカンドボールも落ち着いて掃き出す熊本。近藤の右サイドからの突破をゴールラインにクリアすると、続くCKはGK南がパンチングで逃れます。

33分、松橋が右から中央の宇留野に入れる。宇留野がダイレクトでDFの裏を突くと、そこになんと吉井が上がっている。ダイレクトでシュート。決まったかと思った角度でしたが、ボールはゴールの左を抜けていきます。続く40分も左サイドを破った西森が、ヒールで筑城に繋ぐ。筑城のクロスはファーの市村へ。折り返しを吉井が中央でミドル。これはバーを越えていく。44分にも右からの市村のクロス。松橋のヘッドはオーバー。ポゼッションは完全に熊本にあり、惜しい場面が続きます。前半アディッショナルタイム。なんとなく“もう終わらせよう”としていた時間帯。札幌のスローインから近藤のシュート性のクロスにファーから撃たれ、そのクリアを再び近藤に押し込まれそうになりますが、南がきっちりキープして事なきを得ました。

「しっかり守備から入って」という点では似たようなコンセプトのチーム。しかし、攻撃に転じたとき掛ける人数では熊本の方に分があり、熊本の方が“作れて”いる。後半もこのままならまだまだ決定機はあるだろうという期待感で前半を終えました。

後半開始早々、手に入れたFKのチャンスはPアークのすぐ手前。ボールの傍では西森、宇留野がゴールに背を向け、吉井がキックに立つ。トリックプレーは西森と宇留野がボールの位置をずらして西森が撃つ。これはGKがクリアするものの、左足キッカー原田不在のなか、敵をなんとか翻弄しようとする工夫が見られました。

しかし、札幌の前への推進力も強まってきます。3-5-2にスウィッチしたのか、中盤のプレスも厚く、そのためか熊本は攻撃に転じたときの繋ぎも雑になってくる。徐々にカウンター頼みになってくる熊本。そんななかでも決定機。筑城から中の吉井へ。吉井が思い切って撃ったミドルをGKが弾く。こぼれを拾った宇留野が角度のない左からシュート。そのボールは詰めた松橋の足には届かずゴールの枠を反れていきました。

対する札幌は中央Pアーク前で得たFKを上里が蹴る。壁に当たるものの、こぼれたところに近藤が詰める。あわやと思われましたが、ボールはゴールラインを割ってくれました。今度は中盤で吉井が上里からインターセプトしてカウンター。右の宇留野に渡して早めのクロス。井畑のヘッドはオーバー。切り替えの早い展開。しかし流れは決して悪くない。高木監督はそこにアクセントとしてまず西を入れることを選択します。筑城を下げて西森をSBに。左サイドを攻撃的に保つこと。そして今日唯一のプレースキッカーを引っ込めたくないという事情もありました。

札幌はキリノに代えて中山。その直後、吉井が高い位置で奪って松橋へつなぐ。松橋はDFをかわしてキーパーと1対1の決定機。コースを消されたのか、シュートはGKの手のうちに。ロングキックに中山が詰めますが南がキープ。札幌は岩沼に代えて砂川を繰り出す。宮澤に代えてはルーテル出身の岡本。嫌なカードを次々に切ってくることで、流れを引き寄せにかかります。岡本が左からエリアに侵入。更に左から上がってきた砂川にもどす。砂川のクロスはファーの中山の頭へ。ヘッドはサイドネット。「危ない!」。

残り15分。熊本が切ったカードは宇留野に代えて藤田。そして井畑を下げてファビオを投入。しかし、なんとも息を吹き返したような札幌の動き。札幌の流れでもないが、どうしてもこちらに引き戻せない。この日の陽気に、必ず足が止まるはずと思っていた相手でしたが、要所の交代カードが士気を高めるように引っ張り、連敗脱出の強いモチベーションも手伝ってなかなか運動量が落ちない。前半のうちから汗を拭いていた近藤も、相当疲れているはずなのに走り抜く。高木監督にとっては誤算。信じられないような札幌の奮闘でした。

膠着状態のまま後半もアディッショナルタイムに突入。3分の間にも“決勝点”のチャンスは必ずあると信じました。右位置で得たFK。これがラストプレー。西森のキックがファーに飛んでファビオに届きましたが、落としたところをDFに蹴りだされ、終了のホイッスルを聞きました。

無念の表情は両者にありました。連敗を止めたものの勝ち点3は得られなかった札幌も無念。ホームのファンの後押しを得ながら勝てなかった熊本も無念。流れを引き戻すように次々に繰り出した石崎監督の交代カードも敵ながら感心するほど嫌らしかったし、呼応するように“走り抜いた”札幌の選手たちにも脱帽です。

何度もあった決定機に決めきれなかったことは悔やまれるばかりです。しかし、決定力不足と嘆くより、さらにプレーの精度を上げて、決定機の数を増やしていくことだと思います。基本的なプランに沿ってゲームは進められたし、それでもゴールを割れなかった。まあ今日はそんな日だったのだと思うしかありません。何より原田不在の中盤において、吉井が守備から攻撃に転じる一人舞台のような大活躍。チームとしても、上里、キリノ、近藤という札幌のキーマンを最後のところでしっかり押さえ、課題のセットプレーも対応できていた。相手の決定機は中山のヘッドぐらいだったでしょうか。南が飛ぶシーンはほとんどなかった。まずはこの組織的な守備がその意図通りに構築できていることを証明したのは、勝ち点1以上の収穫だと思います。

多くのメディアは、この日のゴン中山とわがチームの藤田の対決にスポットを当てるのかも知れませんが、今日の試合を手に汗握って見入っていたわれわれに、そんな“感傷的な余裕”は全くありませんでした。事実、中山が交代で入ったこともよく分からなかったほどです。どんなスーパースターも、チームの勝利の前にはなんの意味もありませんでした。

ゴンこと中山雅史が、4試合連続ハットトリックの世界記録を達成したのは98年。その第3試合目は、ここ水前寺競技場での対アビスパ戦でした。そのときのボール供給者の一人には藤田もいた。その12年後、敵味方に分かれて合間見えた二人のサッカー選手。送られた多くの拍手。そう。きっと水前寺のサッカーの神様が、そんなゴンと藤田に“勝ち負け”を付けたくなかったのだと。さすが熊本のサッカーの聖地“水前寺”の神様。今日はそう思っておくことにしましょう。

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