5月8日(土) 2010 J2リーグ戦 第12節
熊本 1 - 0 愛媛 (13:03/水前寺/3,036人)


前エントリーで期待を込めて先発予想したファビオ。高木監督の起用に応える活躍で、閉塞感のあった今のわがチームの状況を一気に打開してくれました。

ゴールデンウィークの過密日程の最終日ともいえるホーム愛媛戦。順位など気にしていない間に、5位から10位までのチームが勝ち点15、16の間にひしめくという混戦になっていました。愛媛との勝ち点差はわずかに1。負ければ順位が入れ替わるという状況での対戦。そして今シーズンスタートからここまで失点5と堅守を誇るチーム。その愛媛から点を奪えるのかということと、何より大敗した前節の心理的ダメージを払拭できるのかが注目される試合でした。

今週のサッカーダイジェストに、タイミングよく掲載されていた愛媛FCのクラブ特集のタイトルは「バルバリッチ革命でオレンジの逆襲が始まる!」というもの。昨年9月に就任したバルバリッチ監督、その戦術の基本を「ボールをつないでキープする、つまりポゼッションすることは、私の思い描くスタイルのなかで最も重要な部分」と述べています。そして、サカダイが分析した愛媛の戦術キーワードは、4バックと中盤の連携で空いたスペースを埋めること、そして福田健二を軸にした攻守における前線の連動性、というものでした。福田をいかにして止められるか。それもまたこの試合のポイントでした。

愛媛 (先発フォーメーション)
23杉浦 24福田
16赤井17大山
4渡邊19越智
28高杉13関根
22小原5アライール
 21山本 

ある意味、似たようなコンセプト。守備から入るチーム同士の戦いは、手堅いジャブの応酬で互いの様子を探るような序盤になりました。愛媛は右サイドの大山を起点に、そこからFW福田に入れてくるホットライン。あるいはその後ろの関根が大山を追い越して攻撃に絡む。筑城の代わりに左SBに入った西森と、その前の西の「マークのズレが生じて(高木監督)」同サイドは防戦一方になります。さらに南からのパスを矢野が原田に預けようとしたところでミス。中央で奪われて杉浦に撃たれますが、これは枠を大きく越えてくれました。最終ラインにも、どこか堅さが残る…。

熊本の期待はファビオ。右サイドで市村とのパス交換からミドルで思いっきり放つ。これは枠を捕らえきれませんでしたが、それにしてもファビオが前線で身体を張るプレー、特有の足の長さもあってボールの収めどころが広く、なんとも柔らかいタッチと予測の難しい動きのアイデア。奪われない。巡ってきた先発の重みを100%理解しているのか、とにかくボールに触る、追いかける。愛媛の守備の要アライールに対しても、決して引けをとらない攻防を繰り広げます。20分過ぎから徐々に熊本がボールを支配し始めるのですが、ただ、回せてはいるもののフィニッシュまで至らない。どこかでスピードアップなり仕掛けなりのアクセントが必要でした。

逆に愛媛はチェックゾーンを前目にすることで流れを挽回する。熊本左サイドからのアーリークロスに福田が飛び込みソンジン、南と交錯。こぼれたところに赤井が詰めますがボールは枠の外にこぼれます。さらに中盤で奪って再び福田にスルーパス。これはオフサイド。今度は名手・藤田のパスミスを大山が奪って同じように福田にパス。福田の強烈なシュートを間一髪、南がクリア。これは決定的なピンチでした。前半終了間際にも、ロングボールに走った福田をソンジンがファールで止めてしまう。嫌な時間帯での嫌な位置からのFKでしたが、キックは壁に当たり、こぼれ球の大山のシュートも枠を反れてくれました。

どちらも先取点を取りたい。お互いに疲労感の漂うチーム状態。相手に先に取られれば、それを跳ね返すエネルギーは心許ない。そんな互いの気持ちがヒシヒシと伝わってくるような前半。シュート数4対4。その他のスタッツを確認するまでもなく全くの五分五分の内容と言えました。

「愛媛はバイタルを早く閉めてくる。その前に攻められるかどうかがポイント」というのが戦前の高木監督のスカウティングでした。後半、右サイドから市村が上がる。渡辺も加わり右サイドで作る。宇留野がクロスを上げる。GKクリア。右CKから中央の矢野のヘッド。当たりが薄くて左に反れる。

愛媛の福田はソンジンの執拗なまでのチェックに“我慢”の表情。ソンジンも福田の運動量に“我慢”するといったマッチアップが続きます。54分頃の愛媛のCK.ニアに飛んだボールに小原のヘッド。南の好反応で先制チャンスを阻止。ビッグプレーでした。対して熊本は左から攻め上がった西森のクロス。ファーから西がニアに入れる。ファビオが反転してシュートしますがクリアされます。

ここで愛媛が大山を下げて持留を投入。これまで攻撃の起点となって、悩ましい選手だっただけに何故?と訝るより、ホッとする気持ちのほうが上回りました。まさに決勝点は、その機を逃さなかったような時間帯でした。ハーフウェイライン付近でもらった宇留野が、ドリブルで持ち込み、アーリークロス。「ルックアップした時にファビオが見えた。五分のボールなら勝ってくれると思って入れた」という宇留野。それに応えてファーサイドに走りこんだファビオ。付いていたDFの死角に入ると距離を離す。宇留野のクロスはDFの頭を越えてファビオの頭にドンピシャ。ゴールネットに突き刺さりました。

ファビオ・エンリケ・ペナ。自らのストロングポイントをスピードとドリブル突破と語る19歳。与えられたチャンス。そして自らの努力と幸運で呼び寄せたチャンス。両手の人差し指を天に向けて、神への感謝を表しました。愛媛が「バイタルを閉める」間を与えなかった宇留野の“天性”の機転。彼の今日の目を見張るような運動量に対しても、終盤大迫と交代する際は、満場から大きな拍手が送られました。

さすがにその後の時間帯は、愛媛の攻勢に晒されました。福田を下げて札幌から移籍した石井が登場。熊本は中央で得たFK。原田のキックは惜しくもポストを叩き、追加点ならず。その原田の疲れも計って、吉井を投入。残り15分を守りきりにかかる。渡辺が痛むものの、なんとかフィールドに戻る。今度はファビオが痛んで担架で運ばれる。交代で入る井畑に担架の上からハイタッチ。「任せた」「よくやった」と。

諦めるわけにはいかない愛媛は攻勢一方ですが、どうしてもフィニッシュの精度に欠ける。しかし、さすがにこの時間帯、熊本のボールへの“集散”も少し遅い。もはや前節・福岡戦のイメージはないものの、誰もが鳥栖戦の同点劇を思い出してしまう。ロスタイム。嫌な時間帯。早く終われと皆が願う。全力で走り続け、駆け回る藤田。危険なロングフィードを絶つべく、何度も何度も相手の足許に飛び込みパスをカットする。観衆からも感嘆のどよめき。先発しながら、今日もクローザーの役割を果たしている。カウンターから井畑が右にはたく。宇留野と代わって入った大迫へ。大迫がPアーク付近からシュート。しかし枠は外れる…。そして、やっと聞こえた長い長い笛。公式には気温26度ということでしたが、それ以上の体感温度、強い日差し。連戦の最後の試合、高木監督が戦前言っていたように、そのコンディションだけでなく内容そのものも、まさに「我慢くらべ」のような試合になりました。

前節のスタメンから6枚を入れ替えてきた熊本。出場停止の松橋、福王のほかにも、連戦の疲労を考慮し「動けて戦える選手を選んだ」(高木監督)結果でした。奇しくも19歳の2人のプレーヤーが、チームを救うことになりました。それはもちろん先発初出場で決勝点のファビオ。そして福田を徹底的に押さえたソンジン。(大迫が最後に決めていれば3人だったのですが…)。

前エントリーで「“大事な節目”」と書いた今節。これまでかなり固定されたメンバーで戦ってきた感のあるチームが、今日、新たなスタメン、戦力が機能したことで、チーム内の競争もいっそう激しくなるでしょう。今後は、また違ったチームの姿が見えてくるかもしれませんね。ソンジンとファビオの起用理由を問われて、監督は「とにかくトレーニングしかないので、そこからの判断です」と語っています。それはチャンスの扉が誰にも開かれているということを示しているわけで…。

失点後の愛媛の猛攻も、結局は、ある程度、引いている熊本に対して、変化に乏しいクロスの放り込みを繰り返してくれました。対処できる攻撃だったということでしょう。敵将バルバリッチ監督が敗因のひとつとして「ゴール前の攻撃性、“血の気”というのか、あるいは俊敏性、爆発力、そういったものが不足している」と語っていますが、実は、前節・栃木戦の後でも全く同じコメントをしている。繰り返し強調しています。

今節を迎える前に、わが指揮官はミーティングで、前節・福岡戦の映像を90分間まるまる全員で見る機会を与えたといいます。普通はいくつかのシーンに編集して時間を短くするのかもしれませんが、あの試合をキックオフから試合終了までまるまる2時間近く。中2日の貴重な時間のなかでそれに費やした。敗戦の結果を受け入れ、、そしてその原因と徹底して向き合った。

ああいった大敗のあとで、われわれが一番心配したのはこれまでの自分達に“疑心暗鬼”になることでした。「失敗した後は、なにがなんだかわからなくなる」と言ってもいいような気持ち…。しかし、何故“失敗”したのか、それはこういう原因があるからだと、きちんと理性的に振り返って“分析”することで、「なにがなんだかわからない」という気持ちは消える。失敗の原因を、細部に渡ってもう他には何もないというくらい分析・整理する作業は、次のためにはとても重要で。それは、大敗のゲームの当事者を“さらし者”のようにして、敗者の精神論に訴えるような暴力的手法とは全く違うのだと。「前節の映像を皆でまるまる見て、1人1人ができることをしっかりやろうと思えたことが大きかったと思う」。そう宇留野も語っています。監督の手法に感心した次第でした。

多くの重要な意味があって連敗が出来ない大切な試合でした。ファンの信託。選手の自信。これまで積み重ねてきたもの…。もしここで、不甲斐ない結果となれば、その積み重ねてきたものがそれこそ白紙に戻ってしまうような張り詰めた状況。今日の“我慢くらべ”の勝負、正直なところ、われわれは勝った嬉しさというより、大切なものが守られた、失わなくて済んだ安堵感のほうが大きかった。そんな気持ちでした。でも一番ホッとしたのはなにより高木監督自身ではなかったのでしょうか。

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