6月12日(土) 2010 J2リーグ戦 第17節
熊本 2 - 1 徳島 (13:04/水前寺/3,357人)
得点者:32' オウンゴ-ル(熊本)、48' 島田裕介(徳島)、90'+1 藤田俊哉(熊本)

前日(11日)に開幕したW杯南アフリカ大会。切り替えの早い南アフリカとメキシコの戦いを堪能したのも束の間、今日はホームチームのW杯中断前の最後の公式戦。サッカーファンにとっては至福の1ヵ月ではあるものの、逆にホームチームの勇姿はしばらく見納めになるという複雑な気持ち。何だか“観戦モード”の切り替えに戸惑うような今週末の試合日程。しかしわれわれにとっては重要な意味を持つゲーム。相手は、昨シーズンの3戦ともに全く勝てなかった、というよりほぼ完敗の印象だけが残っている徳島。今、7位、8位という直近上下に位置する同士の対戦ということもあり、身を引き締めて臨んだ戦いでした。

スタジアムグルメゾーン(屋台村ですね)では、関東サポリーダーの“ときやん”と遭遇して必勝を誓う。いつもどおり熱い男。今年はこれで何度目の帰省なのでしょうか。スタンドでは風戸さんにレプリカユニのナンバーを指差され、「○○選手のファンだったのですね」と知られてしまう。今日はピッチレポーターもお休みらしい。いつもの席に座り込み、選手入場にタオルマフラーを掲げて、さぁキックオフ。水前寺で指定席にしていたこのシートも今日でしばらくはさようならです。

梅雨入りが宣言された熊本。しかしスタジアムの空は、この試合の行方をしっかり見届けようとしているかのように、まだまだ降り出さない。けれども風は雨雲を呼んでいるかのように強く吹きぬけ、また、ピッチ上はその水分をたっぷり含んだ風で湿度がとても高そうに感じられる。この変な天気、選手たちにとっては大変なコンディションだったでしょう。

熊本の布陣。累積警告の市村の代わりに西森が入り、ボランチ吉井の相方に渡辺。さらに左サイドに平木が初先発。対する徳島は、2トップの一角に平繁がいて、右SHに柿谷、左に島田。さらにベンチには噂の津田やら、羽地、徳重、輪湖などそうそうたるメンバーが名を連ねていて、それだけでも“名前負け”しそうな…、いや身構える陣容。高木監督は戦前、徳島の攻撃の起点となる柿谷、島田、濱田を名指しで警戒していました。そして前節の反省から「戦える選手を選ぶ」とスタメンの変更を予言していました。スカウティングに定評のある美濃部監督の裏をかく必要があったし、そのためのメンバー変更という意味も多少はあったのかも知れません。

徳島 (先発フォーメーション)
19平繁 31佐藤
10島田13柿谷
8倉貫14濱田
4三田25平島
2三木20ペ・スンジン
 23日野 

試合は全体を通して言えばいわゆる“神経戦”、集中力が途切れた方が負けという展開になりました。序盤は互いに相手を探りあうような構えでしたが、熊本にはいつも以上に「先制点を取りにいく」という意志のようなものが感じられます。右サイドラインからPAの井畑にロングスロー。ペ・スンジンがクリアしたボールを松橋が躊躇なくダイレクトボレー。惜しくも枠を外れます。対して徳島は、柿谷がワンタッチでDFラインを切り裂く。佐藤のシュートは南がなんとかクリアしますが、ヒヤリとさせられました。

互いに守備のバランスを崩さない。中盤でボールを奪い合ういくらか膠着した時間帯が続きました。渡辺が右サイドにスルーパス。西森がえぐって上げたクロスはスンジンがクリア。CKを得ます。時間は32分。左CKの西森の右足から放たれたボールは大きく弧を描くとニアの密集を越え、さらにGK日野が伸ばした手もわずかに越える。ファーサイドにいた佐藤がヘッドでの処理を誤りボールはゴールに吸い込まれました。読みきれないこの日の風の影響もあったのか、幸運なオウンゴール。久しぶりに熊本が先制しました。

しかし、徳島。少しも慌てる様子はありませんでした。柿谷の右サイドでのドリブルでDFラインを下げると平繁へパス。このシュートは平繁がふかしてくれます。さらにカウンターから柿谷、濱田と繋いでPA左の平繁へ。このシュートは福王がカバーします。とにかく今日の熊本、フィニッシャーの平繁をきっちりマークして決定的な仕事はさせないようにしている。

前半のシュート数は熊本の3に対して徳島の4。しかし後半は少し一方的になってきます。徳島はこのままでも十分に行けるという判断だったのだろうと想像します。これだけやれていれば、いつか点は取れると…。柿谷が斜めに入ってくるシーンが増える。アウトでポスト役の平繁にパス。ここで福王が倒してしまいます。ゴール前中央でのFK。キッカーは左足のテクニシャン島田。狙ったゴール右角にきっちりと蹴りこむ技術。名手・南の手もわずかに及びませんでした。同点。

ここからじわりじわりと徳島がペースを掴み始めます。柿谷が相変わらずしぼって中でプレーしている。最後のところでなんとか通させない熊本の守備。西森も慣れないポジションながらしっかり守っています。

疲れの見える井畑に代えて、藤田を早めに投入。前線にタメを作って押し上げたい熊本でしたが、なかなか連携がうまくいきません。試合後、高木監督が「攻撃陣のアイデア不足」を嘆いた時間帯でした。徳島は平繁に代えて徳重。こちらもわれわれにとっては天敵のような嫌な名前。徳島のCK。真ん中を開けてしまっていてヒヤリとします。惜しかったのは70分のFK。西森のキックにPA左に入り込んだ松橋が無理な体勢ながらダイレクトボレー。ゴール右に飛んだシュートは、弾道の途中にGKのクリアの手が伸びました。

島田に代えて津田。熊本は宇留野に代えて西。互いにカードの切り合い。西がドリブルで仕掛けるが潰される。85分、柿谷から津田へのスルーパス。津田がPAで切り返すと南と1対1。絶対絶命のピンチ。われらが守護神はここを守り抜いてくれました。

今日の熊本の“スゥィッチャー”は最後に投入されたファビオでした。1ヵ月の怪我からようやく復帰。水前寺の赤いファンたち皆の脳裏には、愛媛戦で見せたあの決勝ゴールが鮮明に刻まれています。このヒーローの復帰を誰よりも待ち望んでいたかのように大きな歓声と手拍子が後押し。190センチの体躯が中盤から前線を駆け回る。長い脚を伸ばして玉際に挑む。今回の徳島のスカウティング情報にはなかったのか、慌てているのがわかる。起点が前線に移っていきます。

ファビオの代わりに退くのは当初、平木の予定でしたが、その直前に傷んでしまった渡辺との交代になりました。これは結果的に(今後のチームにとって)幸いしたのではないでしょうか。初スタメンの平木にとって90分間走り抜くことになった。試合後の監督コメントで明らかにされたように、足を攣るまで走りぬいた。「本人の殻を破るというか、彼は今まで“中心”としたプレーヤーでやっていたので、その辺で今日は中心ではなくて汗かき役になるというのができたのが、彼の成長と進歩じゃないか」(高木監督談)。

ファビオ、平木、そして左サイドからは筑城が攻撃に参加してくる。アタッキングサードを次々に脅かすことで混乱した徳島からファールを得る。右サイドから平木のキック、左からは西森。もう時間はアディショナルタイムに入ったころだったでしょうか、西森のFKのクリアを右サイドで繋いで、平木がゴール前に入れると、そのクリアがやや小さく藤田の前にこぼれる。迷うことなく左足を振りぬいた藤田。しっかりミートされたグラウンダーのシュートが、ゴール左角に突き刺さりました。

怒涛のように湧き上がる歓声。客席から立ち上がりガッツポーズ。目の前のベンチに、藤田も駆け寄る。祝福しようと“追いすがる”チームメイトを、フェイントよろしく交わしながら。満面の笑みのなかにも、(彼にとっては)当然のプレーだ、と言わんばかりの勝負師の厳しい表情を隠しながら。

守りきったAT3分間。主審の吹く長い長い笛。再び立ち上がりガッツポーズを重ね、スタジアムを回る選手達にいつもより力を込めた拍手を送っていました。スタンドの誰も彼もに、自然と笑みがこぼれる。指揮官が言うように、決して内容は褒められたものではなかったものの、W杯での一ヵ月にも及ぶ中断期に入る前、このホームチームの勝利は、何ものにも代えがたい“一か月分の喜び”をわれわれにもたらしてくれました。

徳島にとっては、(おそらく)90分間を通して負ける不安は微塵もなかったでしょう。われわれにしても、島田や柿谷が持つたびに、津田や徳重にボールが渡るたびに、肝を冷やし、思わず体を硬直させていました。まずは辛抱強く、全員が集中力を途切れさせず守り抜いたことが勝因でしょう。神城文化の森サンクスマッチ恒例の選手表彰で選ばれた福王、西森、決勝点の藤田、この3人の活躍に全く異論はありませんが、この試合に関して言えば、これは選手全員の頑張りを代表して貰ったものだと思いました。個人対組織。スカパー解説の池ノ上さんが言うように、この試合の総括、あるいはキーワードを語るとすればポイントはそこにあったでしょう。徳島のタレント性溢れるサッカーを(こんな言い方があるのかどうか“名前でやった”ようなサッカー)、熊本の組織力(皆が黒子に徹したようなサッカー)が封じたのだと。

若い駿馬たちの活躍のうえに、最後は“いぶし銀”のベテラン藤田がきっちりとフィニッシュ役を果たし勝ち点3を奪いとってくれました。あの時間帯であそこにいて、そして何も迷うことなく振りぬく判断、それが狭いコースを縫うようにゴールマウスを捉える技術。そこまでの全員の頑張りに魂を込め、勝利へ導く決勝点という価値ある“仕事”。ゲームの帳尻を締める役割。それはまるでわがチームにおける、W杯日本代表第3キーパー川口のような存在感か。いやいや、それどころか藤田こそが、今の日本代表のあの川口の役割を実際に努めてもよかったのかも知れない。それもチームの“まとめ役”にとどまらず、ピッチを駆けめぐるプレーヤーとしても…。なんて言っていると、熊本ファンの身びいきと笑われてしまうかもしれません。しかし、そんな妄想さえも描きたくなるような心躍る結末。これで一気にW杯“本格”モードに突入できそうですね。

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