ロアッソ(ロッソ)と同じくらい永年にわたって“中村俊輔”をウォッチングしているわれわれの一人は、この初戦の直前まで、「中村俊輔が外れるわけがない。このチームは俊輔と遠藤のチーム。岡田監督にそんなことはできない」と確信めいた発言をしていました。まあこの予想は見事に外れてしまったのですが…。

中村俊輔で思い出すのは、前回ドイツ大会でのコンディショ二ングの“歴史的な”失敗です。これは彼個人だけでなくチームとしても明らかにミスがあったことで、当時の大きな反省材料のひとつだったと記憶しています。さて今大会、事前の“練習試合”での連敗をマスコミは大きく取り上げ、岡田監督の戦術批判、進退論まで飛び出す始末。前回大会の直前の練習試合でドイツに引き分け、自分たちが“強い”のでは、と見誤った経験はどこに…と。

どこにチームとしてのピークを、あるいはコンディションの上昇カーブをもってくるのか、偶然の要素も含めて言うなら、“ピークがくるのか”。W杯という大舞台に向かうにあたって、この段階で最も重要なのは、スカウティングとこのコンディショニングではないかと。そういう意味からは、練習試合、テレビ中継される国際親善試合なので誤解しがちですが、あくまで練習試合です。サッカーは90分を通した戦いと良くいわれますが、W杯は長丁場のJ2リーグ戦とも違う。わずか中四日の予選3試合、決勝トーナメントに残れば…という、長いようで短い、短いようで長い、非常にデリケートな時間軸での戦いでもあります。もちろん、そういったピークよりかなり手前のコンディションでも勝ち点をものにできる実力、選手層を持ったチームだけが、決勝トーナメントに進み、さらに勝ち進んでいくんでしょうが…。

中村俊輔の今季開幕後のJリーグ移籍。相変わらず“ファンタジスタ”ではありましたが、そのコンディションはここ数年のパフォーマンスからは、残念ながら最悪というくらいの状態ではなかったかと。欧州での厳しい経験で“水も運ぶ”選手に生まれ変わっていたプレースタイルのその片鱗も見えず…。さて現時点ではどんな状態なのか。心配でもあり、最大の関心事でもあります。逆に言えば、上昇カーブさえ描いていれば、予選リーグのどのあたりかでピークがくれば…。それは、水準を超えた者しか通用しないゲームで、それもおそらく90分で一回巡ってくるかどうか、のチャンスをものにするという戦いのための準備。まさに四年間の集大成の一瞬なのでしょう。

そういう意味でいえば、直前のスイスキャンプでの気温に関して、チーム関係者に「思ったよりも寒い」といわしめた事実。大会の地の南アフリカの環境を想定していたのではなかったのか。そのコンディション作りに関してドイツの反省は活かされていないのか。戦術うんぬんを語るはるか以前に、そういった面に関してのわが国のサッカー・ジャーナリズムの分析の甘さには、非常に不満が残りました。

さて、そのおおかたのメディアは直前の練習試合で試された本田圭佑のワントップを予想し、岡田監督も実際そのとおりの布陣を引いてきました。そして結果的にその本田のゴールが決勝点になって、日本は日韓大会以来のW杯での勝利を手にしました。左足に持ち替えた松井からの右クロス。その瞬間、中央の大久保に何故カメルーンのDFが2人も3人も引き寄せられているのか?と思いましたが、直前に中央から消えた本田が見事な動きでファーに入り直していたからでした。
その後、もちろん追加点は狙っていたものの、最後は必死に掻き出すだけの防戦一方。この先制点死守の日本代表の戦い、虎の子の1点を守るATも含めた緊張の時間感覚に、仲間内でもネット上でも、わがホームチーム・ロアッソのこれまでの試合になぞらえる人が多くいました。翻ってこの本田起用の核心も、「そのときコンディションのいい選手を使う」という意味では、わが指揮官・高木監督の考え方と全く同じ。いや、どの監督もそうであろうし、システムに選手を合わせるのではなく、コンディションのいい選手に合わせてシステムを組むという考え方も同様だと思います。

現地で取材しているサッカージャーナリストの宇都宮徹壱氏は、そのコラムで、本田のワントップに関して「ペナルティーエリア付近で効果的な仕事をする選手ではあるが、ポストプレーが得意なわけでも、裏に抜けるスピードに長けているわけでもない。むしろこの布陣は『ゼロトップ』と見るべきであろう」と書いていますが、まるでこれはわがチームにおける藤田俊哉の使われ方とも言えます。

イビチャ・オシム氏は試合後のインタビューで、「本田の今日の役割は非常にデリケートな難しいものだった」として高い評価を与えています。「本田の位置やポジションによって、どんなボールが必要なのかをチーム全体に示した。それを堅実に実行したということだ」と加え、彼の働きを「港における水先案内人のような役割」と表現しました。

「本田が得点を挙げたから褒めているわけではない。彼がチームの中で機能したということだ。」「カメルーンは個人プレーのメンタリティーにとらわれていたと思う。個人的に良いプレーをしようと個人プレーをし、それが結果として悪い展開を繰り返すことになった。サッカーは団体競技だからコレクティブ(組織的)なプレーが必要だが、カメルーンの場合は個人だった。」「もし明日の一面がすべて本田ということになれば、日本の未来は危ない。ヒーローは1人ではなく全員だ。」

実は、12日徳島戦のエントリーの最後の部分で、われわれは全員の頑張りだと言いながらも、劇的な決勝点の興奮からか、藤田個人のプレーをそれこそ手放しの“一面トップ級で”高く評価していました。ところが一方では「徳島のタレント性溢れるサッカーを(こんな言い方があるのかどうか“名前でやった”ようなサッカー)、熊本の組織力(皆が黒子に徹したようなサッカー)が封じた」と書いてみたりと、どうもうまく表現できなかったと反省をしていたところでした。そこでこのオシムのコメントです。本田を藤田に、カメルーンを徳島あるいはエトーに置き換えてみれば…。オシムらしい選手のメンタルの基本的な部分に踏み込んだ深い分析でしたね。

さて、わが日本代表は初戦を白星で飾り、決勝トーナメント進出に大きな希望を抱かせました。あんなに前評判(主にマスコミの酷評からきていますが)の悪かった今代表チームでしたが、ようやくいつものW杯らしく日本中の注目が集まり始めた感じ。第2戦のオランダ相手にも同じ布陣でいくのか。われわれのもうひとつの興味、中村俊輔の出番は訪れるのかどうか…。今日は、本田圭佑を藤田になぞらえてみましたが、本来名古屋時代の“師弟関係”とも言える二人の間柄。もしかしたら藤田にとっては心外な例えなのかも知れません。それは、われらが藤田の持つ、比べるべくもない“経験値”。今大会でも、アルゼンチンのベロンや、ドイツのクローゼが、試合の流れを読み、チームのなかで重要でしかも決定的な仕事をすることでそれを示しています。

さて、日本代表チーム。そのこれからの試合。サッカーの神様に選ばれた、本当に幸運な者しか立つことを許されない夢幻のピッチ。重く、熱く、鳥肌の立つような濃密な時間が流れる試合。オランダ、デンマーク…。サッカージャーナリスト湯浅健二氏がしばしば使うところの表現“肉を切らせて骨を断つ戦い”。そんな時、他の誰でもない、俊輔を、稲本を必要とするときが必ず来るのではないか。そして彼らは自らが歩んできたこれまでのすべてを懸けて、われわれの“代表”としてきっとこたえてくれる。そう確信しています。

初戦後のコメント、オシム氏はこうも言っています。「舞い上がるなということ。まず、頭を冷やして冷静になれと。そして、今日の試合を振り返って分析してほしい。良い部分と同時に悪い部分もしっかりと分析して、良い部分は次の試合で繰り返せるように」。まるでいつものわれわれのリーグ戦にも通用する指摘。いえ、しごく当たり前のことを言っているのですが、やはりこの人が言葉にすると、実に素直に、染み入るように心に響いてくるから不思議です。

試合解説や関連番組での、わが高木監督や藤田選手の出演も楽しみながら。各国を代表する名プレーヤーの活躍を注視しながら、このサッカーの祭典、至福の期間を堪能していきたいと思います。

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