8月28日(土) 2010 J2リーグ戦 第24節
栃木 1 - 2 熊本 (18:03/栃木グ/3,504人)
得点者:32' リカルドロボ(栃木)、48' ファビオ(熊本)、63' 宇留野純(熊本)

戦前の敵将・松田監督の熊本に関するスカウティング。「守備的な感じがする。6‐2‐2に見える」という言葉、これまでの対戦相手からも似たような表現をされてきました。が、そのニュアンスにわれわれは少々違和感がありました。前節のエントリーで書いたように、あくまで熊本のサッカーは「走る。守る。作る。撃つ」という“順序”の問題なのだと。それが原点なのだと。今日の試合は、それをはっきりと確信させてくれるものでした。

気温は30度を下回った夕方からの試合とはいえ、とても湿度が高そうな栃木グリーンスタジアム。順位を争う5位、6位の戦いは、今節の注目カードと言われ、栃木側にも高いモチベーションがあったでしょうが、前回対戦でいいところなく零封で敗れている熊本側こそ「絶対に負けない」という気持ちが選手にもわれわれファンにも強くありました。

栃木 (先発フォーメーション)
14林 9リカルド・ロボ
19高木16杉本
13本橋11パウリーニョ
6入江19赤井
3大久保5落合
 21武田 

開始早々、栃木の林がバイタルエリアでシュート。枠は外れますがヒヤリとさせられます。続いてもCKから林のヘッドがゴールに突き刺さりますが、これは密集のなかでのファールが認められノーゴール。胸をなでおろしました。しかし熊本も、お返しとばかりにFKやCKからこぼれ球を拾って波状攻撃。序盤から見ごたえのある勝負になりました。

左サイドへのボールに追いついた栃木・入江が粘って折り返すと、中央のロボがトラップ一発、バイシクルシュート。これも枠外。大きな身体に似つかわずアクロバティック。32分の栃木のCK。マークに付いていた吉井を剥がすような動きでフリーになったロボのヘディングシュート。今度は間違いなく先制点となりました。再三、CKからゴール前のマークが甘く、フリーにさせ続けたツケが出てしまいました。

スカパー!解説の田中氏が「カギだ」と言っていた両チームともに欲しかった「先制点」は、栃木側に。しかし、GK南が試合後の自身のブログで書いているように、1点を追う熊本は、それほど慌てない。「全く負ける気がしなかった」「なんか点がはいるような気がして…」という彼らなりの確信がありました。

おそらく敵将・松田監督は、追いかける熊本は前掛かりになるに違いないと思っていたでしょう。そうすればますます、チャンスが増えるとも…。しかし、熊本はまったく“体勢”を崩さない。しっかりとしたブロックを形成すると、相変わらず奪ってからの切り替えが早い。右サイドから吉井がアーリー気味にクロスを上げるとファーのカレンはドフリー。絶好の同点チャンスでしたが、これはGK武田がファインセーブ。今度は左サイドからのクロス。下がりながらの難しい体勢、体幹の強さを活かしたカレンのヘッドは枠をとらえゴール左を襲いましたが、ポストに嫌われます。しかし解説者もこのとき指摘していたように、徐々に徐々に、熊本の切り替えの早さに栃木DFが後手に回り始めていたのは確かでした。

そんな前半を松田監督は「3点ぐらい取りたかった」(熊日)と、好機を活かせなかった側面だけを悔やんでいました。しかし「ポゼッションする時間が多くなるのが、きちっと技術がないと回せるか、引っかけられてカウンターを受けるか」(J‘sゴール)とも言っているように、捕らえどころのはっきりしている熊本に奪われると、ピンチを招く展開に陥り始めます。前節の東京Vからも言われた、「(熊本の)罠にはまった」ような感じだったのではないでしょうか。

前半の流れを肯定的に評価した高木監督。その熊本。まずは後半3分。右サイド奥で得たFKを片山が左足で上げると、ファーに飛び込んだファビオが高い打点からヘッドで押し込み同点に。これで栃木は一気に浮き足立ってしまったように見えました。「後ろで繋ぐ時間が短かった。ゆっくりとした時間が時には欲しかった」(J‘sゴール)と林が試合後に言うように、高さのある林とロボは、確かにこの日わかりやすい前線のターゲットでしたが、逆にそのためロングボール頼みの展開一辺倒になる栃木。熊本は最終ラインで跳ね返すと、中盤がしつこく拾って作りなおす。渡辺に代わって入った原田がブレ球のFKで直接ゴールを脅かし、更に守備の動揺を誘うと、後半18分、直前の交代でまだ試合に入り切れていなかった栃木DF宮本が、出しどころに困り、GKにバックパスしようかと、一瞬躊躇するところを宇留野が奪ってGKと1対1。この日当たっていたGK武田を絶妙のフェイントで寝転ばせると、逆転のゴールを決めました。

前節2アシスト、今日は逆転弾。キレキレの宇留野を下げてまでも同ポジションに松橋を入れたのは、これで間違いなく前掛かりになってくるであろう栃木の体勢変化を見越してのことでしょう。薄く高くなってくる栃木の最終ラインに対して、ファビオとカレンでかき乱し、松橋に裏を突かせる。3トップの意識で当然、熊本は追加点を狙っていました。最後のカードは攻守に渡って走り回った片山を休ませるように、さらに攻撃的な西に交代。

栃木は水沼を入れて反撃を企てる。最後は大久保を上げてパワープレー。南が遅延行為のイエローカードと引き換えに、それでもなかなかプレースキックを蹴らない。ここまでこの男に時間を使わせたのは、この試合の意味、勝利の価値を一番よく知っていたからに違いありません。

ロボから赤井のクロスは南がセーブ。そしてアディショナルタイムも最後の最後、もう何度も泣いたロングスローという展開。こぼれ球を大久保に繋がれると走りこんできた水沼が強烈シュート。またか、万事休したか。と思われましたが、ボールはポストの右に反れ、ほどなく終了のホイッスルが吹かれました。

前節の東京V、今節は栃木と、負ければ順位が入れ替わる、いや10位内すら危うくなってしまう戦いに、きっちりと2連勝をあげられたことはとてつもなく大きな成果でした。1点差を追いすがる両方の戦いを凌ぎきるように制し、勝ち点3ずつ積み重ねた結果、同じ5位とはいえども少しだけ勝ち点差を広げることに成功し、昇格圏内3位の千葉との差もなんとか離されずに付いていっています。5位、6位の直接対決という位置づけで、スカパー解説も例によって“昇格”を連発していました。栃木と熊本の対戦でJ1昇格が話題になるということ自体に、正直なところリアリティが持てないわれわれがいます。しかし、いつか訪れるであろう絶対に“負けられない戦い”に向けて、この2試合の戦いぶりは大きな経験値になったことは間違いないでしょう。

試合が終わって、選手のメンタル面の成長を高く評価するコメントを残した高木監督。それは、1点のビハインドに焦らず、自分たちを信じて、いわば淡々ともいえるほど自分たちのサッカーをやり通した面々への賞賛だと思うのです。もはやセットプレーの1失点は完全に織り込み済みとでもいうようなメンタリティー。きっちりとした守りから走り勝って、一転奪ってからは敵陣に入っての早い展開力。それを単に「守備的でカウンター主体」と表現するのは、どうも違うのではないかと。それは昨年、水戸の木山監督が「もはやカウンターサッカーなどない」とも言い切ったように…。

同じく強力な守備力からチームを構築することで定評のあった松田監督、そしてその鋭い速攻が売り物だった栃木が、ポゼッションを“持たされた”。あるいはあえて持とうとしなかった熊本。そのとき、数々のチャンスを作りつつも追加点を奪えない展開を、松田氏は「決定力がなかった」と結論づけました。確かに熊本にはJ2では出色の守護神・南という存在があるにしても、これが前回対戦を糧にした高木監督の敷いた罠だとしたら、相当の策士なのではないか。結果論なのかも知れませんが、そう思うと恐ろしいくらいです。

そういえば、われわれもエントリーのなかで、最近、「決定力がない」などという言葉を使わなくなっていることに気がつきました。確かに熊本もカレンが外し、松橋も外し…。熊本こそあと3点ぐらい入っていてもとも思えます。しかし、それを決定力不足と済ませてしまう気持ちにはなれません。“決定”しなかったのは、そのタイミングで、そのポジションにいて、枠内にシュートを打てたから“惜しい”わけで…。そこに至るまでの“技術”には全く目も向けず、結果だけを問うても意味がない。
ちょうど、スカパーのカメラが前半終了で引き上げていくカレンの表情をとらえていました。これ以上ないくらい、悔しさに顔を歪めて。われわれの単純なタラ・レバを言うのは憚られる世界を見たような気がしました。

終了のホイッスルの後、倒れるようにピッチに寝転び天を仰いだファビオ。2試合連続のヒーローは、この試合では初めて90分間走り抜くことができることを証明してくれました。一日遅れで彼のための「ハッピーバースディ」を歌うゴール裏の赤いサポーター達。みんな一人残らずいい笑顔に満ち溢れていました。

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