9月12日(日) 2010 J2リーグ戦 第25節
熊本 0 - 0 水戸 (16:03/熊本/5,607人)

気温は30度を下回ったとはいえ、熊本を横切る秋雨前線が試合直前まで土砂降りを見舞わせ、夕方4時の西日の差すピッチ上は、ムンムンとした湿度の高さを感じさせました。初めての試みとは思えない見事なコレオグラフィーを努めたゴール裏は、そのままの密度状態を保ち、チャントのボルテージも高い。飛び跳ね、手を伸ばすその赤い群像の美しさ。徐々に徐々にゴール裏もその数を増してきていることがわかります。

通算8度目の水戸との戦い。かつて藤田が「今後の具体的でわかりやすい“目標”」とまで評した強豪チーム。けれど今季は下位に低迷し、前回対戦時のエントリーで「一体いままでの水戸はどこへ行ったのか。去年の戦術はどうなったのか」とわれわれでさえ書いています。今回、相まみえた水戸は、再び守備の立て直しから着手したのか、昔呼ばれた“ミトナチオ”ばりの、引いた戦術で臨んできました。ワントップには、シーズン途中から入団を果たした中山の姿が。剃り上げた頭を時折なでる修行僧の様な風貌に変わり、2年間在籍した熊本のファンからも大きな拍手で迎えられました。

熊本の先発2トップはカレンと松橋。怪我をしたのかどうか、ファビオの姿はこの日はベンチにも見あたらず。そういえば前回対戦のときも、せっかく直前の試合で決勝点を挙げたばかりだったのに、欠場を余儀なくされたのが思い出されます。水戸のディフェンス陣の高さが目立っただけに、余計に残念さが募ります。

水戸 (先発フォーメーション)
 26中山 
15島田7小池
11遠藤10大橋
 16下田 
3保崎6中村
32大和田4作田
 1本間 

開始早々、右のCK。平木の低めの早いボールに松橋がジャンプ一番、ニアのへディングでピシャリと合わせますが、ボールはわずかにバーの上。悔しがる松橋の顔。カレンのクロスにファーから平木。水戸のDFに跳ね返されたところを堤のミドル。これはポスト左。幸先良いゲームへの入り方。スタートから熊本が好機を演出します。

水戸は前線であまり無理に追いかけず、入ってきたところでカットする、あるいは高さのあるCBが跳ね返し、そこからサイドを走らせる。ただ前線の中山、果敢に走り回るがなかなか起点は作れない(作らせない)。一方熊本も水戸のDFに捕まり、前線ではなかなか収まらない。じれったい展開のなかでようやく宇留野が右サイドをえぐってエリアに侵入。しかしカレンへのグラウンダーのクロスはGK本間の手中に収まりました。その後もポゼッションは完全に熊本にあり。時折の水戸のカウンターも淡泊なフィニッシュに助けられる展開。お互いに何度かチャンスを作りながらもスコアレスで前半が終了しました。

まぁ、熊本にしてみればいつもどおりの前半の戦い方のようでもあり。当然、後半これから、西、藤田、片山…と言った攻撃カードをどこでどう使っていくのか。というところに興味が向います。その後半、お互いハーフタイムでの指示があったのか、俄然、攻守切り替えの早い展開になります。中央でもらった平木がミドルシュート。GK本間がこぼすものの詰め切れず。反撃は水戸。右から島田がエリアに入ってくるとクロス。中央の中山が先に触ればあわやというピンチ。今度は松橋のスルーパスにカレンが裏をとって左から水戸エリアに侵入。クロスは宇留野に渡る前にまたも本間。右CKのこぼれ球を再びセンタリング。水戸が高さでクリアしたところに平木のシュートは本間がクリア。押し込もうとするが、全員で身体をはった水戸の守備にどうにも、どうしてもゴールなりません。

この間に水戸は中山を諦め、最近好調と言われる常磐を投入。ベンチに退く中山にもスタンドから温かい拍手が送られます。熊本も堤に代えて片山。片山は右SBの筑城となにやら打ち合わせる。互いの上がるタイミングを確認しているのか。その片山が早速上がって右足でクロス。松橋がトラップするもDFに奪われる。中央で得たFKのチャンス。直接狙うにはかなりな距離。平木がボールに口づけをして願を掛ける。無回転ぎみに放たれたボールは、鋭くゴール前で落ちたものの、クロスバーに当たって跳ね返されます。腰を浮かせてまた座り直すスタンドのファン。実に惜しい。

水戸は中村に代えて大塚翔太を入れる。試合前、スタンドに彼の名前のプラカードを持った家族連れの姿を見ました。今きっと大きな声援を上げているに違いない。熊大付属中学、大津高を経て筑波大に進み、主将まで努めた男が、敵チームとはいえ遂にJリーガーとなって故郷にその勇姿を示しました。小柄ながらもたくましい体躯。負けん気の強そうな面構え。カウンターに駆け上がるスピードに鋭さがあります。

試合後、「審判のジャッジに対して久しぶりに不快感をおぼえた」(13日付・熊日夕刊)と高木監督がコメントしたのは、これから以降の展開を指しているのではないでしょうか。後半、中に絞りっぱなしで、ほぼトップ下に位置していた平木。そこから右の宇留野にハタく。宇留野のクロスを松橋がシュート。そこに水戸のDFが腕を使ってトラップしたように見えました。明らかにエリア内。明らかに意図的。しかし笛は鳴らず。騒然とするスタジアム。

さらに熊本はカレンに代えて西のドリブルで突破口を開きにかかる。さらには残り5分になったところで藤田が入り、アタッキングエリアをキラーパスで切り裂く。その前後、西が中央で仕掛けてドリブル。一人交わし、二人交わし、エリアに侵入したところで後ろから引き倒された。そう見えたのですが、これも笛が鳴らない。

今度は西からスルーパス。藤田が右サイド奥からマイナス。エリア内でもらった松橋のシュートは、セットプレイで残っていた左の矢野へ。矢野からまた中央の松橋へ返す。ダイレクトで撃った松橋のシュートは横っ飛びの本間がセーブ。ビッグチャンスでした。

場内の声援はどんどん大きくなっていく。同時にため息もこれまでになく大きい。アディショナルタイム。南からのロングキックに松橋が走る。なんとかDFが足で反らしたボールをGK本間がキープ。高木監督が怒って叫んでいる。多分「バックパスじゃないか!」と怒っているのでしょう。しかしプレーは続行されている。

中央で得たFK。おそらくこれが最後のプレーだし、最後のチャンス。平木のキックは壁に当たるもこぼれ球を藤田がシュート。しかし水戸のDFが立ちはだかる。終了のホイッスルが鳴り響いた瞬間、崩れ落ちるように横たわった選手達の表情には、悔しさがいっぱいでした。

守備重視の両チームの戦いは、後半は切り替えの早い“殴り合い”のようなスリリングな攻防を見せ、蒸し暑さも伴って最後はお互いの体力ギリギリで“死闘”のような様相を見せました。「相手の守備を“崩し切れ”なかった」。そんな藤田のコメントがこの試合の全てを言い表していました。それはもちろん数多くのチャンスを作りながらも、ゴールという結果に結びつかなかった試合全体を言い表しているのですが、と同時に、もうひとつのことをわれわれに教えてくれているように思います。

FWが枠内に決定的なシュートを放つも、相手GKに阻まれ決めきれない。そんな時、敵のGKが当たっていた。ビッグセーブだった。ついついそう思いがちですが、それは実は本当に「崩し切れて」いなかったということではないのかと。もう一発の切り替えしなのか、あるいはちょっとしたタイミングの“ずらし”なのか、はたまた特異なリズムなのか。フィニッシュという究極の瞬間で、相手の読みを上回る動きの質。優れたフィニッシャーとそこまで繋ぐチームメイトのプレーに通じるのは「完璧なまでの崩し」。よく言われるような「ゴールからの逆算」。われわれのチームの攻撃は、まだ、そこまでに至っていないのではないかと。開幕戦、確かに猛攻を受けながらも、何だかゴールされる気がしなかった千葉の攻撃。あの試合を思い起こさせます。

さて、持論の「交通事故1失点論」からすれば、今日はまさしく“逆の事故”が二度、三度と起こってしまったともいえる“ジャッジ”。その不満を抱きながらも、チームはこの気持ちをコントロールし切って、「結果的に0-0という形ですけど、これをネガティブに捉えるかポジティブに捉えるかというだけのゲームだと思う」と整理する高木監督。われわれは「こんな試合もあるさ」と複雑な気持ちでうそぶきながらも、勝ちきれなかった、崩し切れなかった、という悔しさでいっぱいな自分たちの変化にも気がついています。そう、かつては水戸のサッカー自体の速さ、シンプルな強さに驚き、リスペクトにも似た恐れを抱き、ひとつのベンチマークとみなしていた頃からすれば、全く違う“質”の悔しさを抱いていることです。

水戸にとってはゲームプランどおりの試合運びだったでしょう。木山監督いわく「ある程度守備をしっかりして入って、相手が焦れた時に、自分たちの流れに持って行ければいいなと。まさにそういう展開になった」と。しかし、明らかに後半疲れの見える時間帯、“ジャッジ”という交通事故に何度も遭遇し、ストレスフルの状態で、水戸の鋭いカウンターに対応し5人、6人と全速力で自陣に帰る。さらにプレスバックで好機を潰すその反転力の強さ、タフネスぶり。そしてクールささえ感じるそのメンタリティー。まったく地味ではありますが、この試合の最高の見どころであったし、わが熊本の確実な、しかも大きな成長の姿を見た思いでもありました。なんだかチームが“大人”になった。われわれは超ポジティブにそう受け止めています。

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