9月19日(日) 2010 J2リーグ戦 第26節
甲府 3 - 3 熊本 (16:03/小瀬/12,750人)
得点者:33' 筑城和人(熊本)、35' パウリーニョ(甲府)、38' 秋本倫孝(甲府)、39' 宇留野純(熊本)、61' パウリーニョ(甲府)、77' ファビオ(熊本)


3連休の中日。秋晴れの小瀬スポーツ公園陸上競技場。背後に見える美しい稜線は南アルプスなのでしょうか。相変わらずわれわれはテレビ画面のこちら側で、ホームチームの勝利を願います。試合前の高木監督へのインタビュー。甲府に対するスカウティングを「このところ追いついたり、追いつかれたり。不安定な印象を受ける」と言っていた高木監督。まさにこの試合もそのとおりの展開になりました。

甲府 (先発フォーメーション)
 14ハーフナーマイク 
15パウリーニョ27柏
10藤田8養父
 2秋本 
13内山6吉田
5ダニエル4山本
 1荻 

序盤は慎重な入り方の熊本。しっかりとブロックを作って甲府の出方を見ているような。リスクを冒さないその姿勢は、まるで前節・水戸戦を彷彿とさせるような。次第次第に甲府のポゼッションが際立ってくる。原田がパウリーニョを倒して与えたFKは、Pアークの少し左。そのパウリーニョが放ったキックは、大きく左に反れてくれて事なきを得ます。対して熊本は西がパスカット。平木に繋いで再び西。西が中央から突破しようとした松橋へ。渡ればビッグチャンスといったところでした。

やはり狭いところは通してくれない甲府。裏を狙ったロングボールが跳ね返され、そのセカンドもなかなか拾えない。養父が放ったミドルシュートは枠を外れますがちょっとヒヤリ。前回対戦の決勝点が頭をよぎります。ただ、甲府のタワー、ハーフナーマイクには、CBの矢野、福王、そして今節は右SBに入った長身のソンジンが、挟み込むようにカバーしあって自由にはさせていない。一度だけ、PA内中央でマイクがDFを背にしながら反転してシュート。これは南の手中に収まりました。

甲府の攻勢をじっと凌いでいるような熊本。一方的な守勢のように見えて、しかしこれもゲームプランどおり。根底には強い自信と戦術への信念が感じられるようでした。それが実を結んだのは33分。右サイドの狭いところをシュートパスで繋いでいくと、松橋は左から全速力で上がってきた筑城に出す。筑城がDF二人を切り返して右足に持ち直すと振り切った。熊本のこの試合ファーストシュートが、ゴールとなって突き刺さる。そしてそれは筑城にとってもプロ入り初ゴールでした。

もちろんこれで気落ちするほど甲府も“若く”はありません。ここから試合は一気に動きだしました。右サイドで得たFK。熊本がクリアしますが、ハーフウェイラインぐらいから再び入れる。ダニエルと競りながら福王が反らしたボールは、あいにくゴールに正対したパウリーニョの丁度足元へ。一蹴したキックはゴール右角に突き刺さり同点とします。

さらに38分、甲府はCKからニアに走りこんだ秋本が右足で角度を変える。妙なバウンドになったそのボールは、詰めていたパウリーニョにも、手を伸ばした南にも触れられない軌道でゴール左角に転がり込みました。

一気に逆転の甲府。しかし湧き上がる甲府サポーターを一瞬にして沈黙させたのは、古巣との対戦も数度目になった宇留野でした。左サイドから筑城のクロス。ニアで平木が反らすとPアーク付近から松橋がシュート。DFのクリアを今度は右から西。西から最後は中央で宇留野が落ち着いて押し込む。今度は熊本が波状攻撃で甲府DFを切り裂き、試合を再び振り出しに戻します。わずか5分あまりに4点が入る目まぐるしいシーソーゲーム。宇留野のことをよく知っている甲府のゴール裏が静かになる。「好調の宇留野は止められない。」そんなことを思わせたのではないでしょうか。

点の取り合いはやや意外でしたが、前半を終えて同点というのはプランどおりにも思えました。しかし試合後のコメントを見ると熊本の指揮官は「もう少しボールを繋ぐことに積極的に関わってほしかった」と、前半の内容的に不満を感じていました。ハーフタイムに叱咤されたのかも知れません。それが通じたのか、後半熊本はポゼッション重視に転換していきます。甲府もこのまま終われるわけがない。試合は俄然、攻守切り替えの早い“撃ち合い”の様相を帯びてきました。

甲府は右から吉田、左から内山が突破を図り、あるいはアーリーでクロスを上げてくる。落ち着いて跳ね返していたように見えた熊本のDFラインでしたが、思えばそのプレッシャーにじりじりと後退を余儀なくされていたのかも知れません。左から作っていく甲府にバイタルエリアが広げられる。パウリーニョがPA内のマイクに入れる。マイクをポストに使うプレー。福王がぴったりとマイクに張り付いていたのですが、思わずひっぱり倒してしまう。PK。そのPKをパウリーニョがきっちりと決めると、再び甲府が突き放しにかかります。

すかさず熊本は平木を下げてファビオ。それは「こんなくらいで下を向くな」という指揮官からの強いメッセージでした。さすがにこの長身のブラジル人が入ると警戒する甲府DF。ダニエルがぴったりとマークする。山本が狡猾なプレーで潰す。イライラ感の見えるファビオ。カウンターの芽を潰され、更に主審の度重なる笛、そして示されたイエローカードに、丹精な顔が歪んでいく。途中出場ながらカード2枚を貰って退場し、「猛省を」と試合後の指揮官に言わしめたあの岐阜戦のときのように、今日は“若さ”だけが前面に出てしまうのか。

袖をめくったファビオ。それと同時にちょっと気持ちを切り替えたのかも知れません。スローインにDFを背負いながら反転するとシュート。これはGKがキープ。しかし続く77分、松橋の左からのシュートが枠を大きく反れて右サイドへ。相手DFも追うのをやめたルーズボール。宇留野が猛烈にダッシュしてそれに追いつき拾う。一度中盤とパス交換すると、グラウンダーで中へ入れる。それは甲府のDFがパスにも球際にも詰め切れなかった、足が止まった瞬間でした。Pアーク付近でDFを背にしていたファビオが貰う。回りこむようにDFを交わすと、速いタイミングと小さな振り幅でシュート。意表を突かれたGKの手をかすめてゴール左角に転がりこんだ。同点!「どうだ!」とばかりに選手たちが喜ぶなか、当のファビオが真っ先に走り寄ったのは、ベンチスタッフの通訳エジソン氏でした。いの一番にエジソンと抱き合う。そのまわりから選手たちが抱きつく。エジソンはファビオの背中を叩く。ユニを揺さぶって嬉しそうに何か叫んでいる。

「この短い期間の中、波があったのですが、それでも本人は日本のサッカーに対し理解を深め、監督やチームメイトとのコミュニケーションを精一杯とりながらチームがやろうとしているサッカーを彼なりにやっていこうと努力しているのだと思います」。

早川エジソン正吉氏は自身のブログで、直近のファビオの様子をそう語ってくれていました。ようやく手に入れた出場機会。それを活かして活躍したが、すぐに大きな怪我に見舞われた。言葉のわからない孤独な異国の生活のなかで、必死にリハビリに向った日々を支えた陰には、きっとこの人の力添えもあったのではないでしょうか。自身も若き日、単身ブラジルから日本へやってきて、日本のサッカー界で想像以上の苦労を重ねたことでしょう。縁あってブレイズ熊本でプレーし、その後は今年解雇されるまで福岡で選手通訳を努め、多くの選手を物心両面にわたり面倒をみた。自ら経験したからこそ、あとから続いてくる若いブラジルの選手たちの気持ちが痛いほどわかるのだろう。“親代わり”といった月並みな表現では表せないほど、この人の選手を思う愛情がそのブログから伝わってきます。
外国籍選手に限らず“メンタル面”管理が重視される現代のチームマネジメントにおいて、いわずもがな何もないのがわがクラブ。この非常勤職ともいえるエジソン氏の存在が、きっと多くのことを救っているに違いない。ファビオと彼の抱擁シーン。いつもなら神にささげる、お得意の指を天にかざすポーズより何より、真っ先に彼に感謝の意を示したこのシーンは、われわれにそんなことを思わせました。

甲府はもちろん負けられない。熊本も勝利しか望んでいませんでした。ソンジンを下げて片山を左SBに投入。さらに攻撃的なクロスの供給を期待する。甲府はパウリーニョと柏を諦め、マラニョンとキムシンヨンの2枚代え。どちらも熊本にとっては、非常に嫌な印象を残しているプレーヤー。これに対して熊本も藤田という最終カードで対抗する。残り時間はわずかに10分。

ところが今度はキムの試合への入り方が悪いことが熊本に幸いしました。やる気が空回りしてファールが多い。キムの顔が歪んでいる分、甲府の攻撃が繋がらない。マラニョンに至っては、どこにいるのか、存在自体がまったく消えていました。

甲府は養父に代えて最後のカードは松橋。兄弟対決。アディショナルタイムは4分。互いに疲れが見え始め、ミスが目立つ。しかし最後まで走りきったチームが勝つ。甲府・吉田のアーリークロス。ファーでジャンプするのは2人の甲府選手。そこに届く前に南がなんとかパンチング。再びアーリークロス。今度は南がきっちりキャッチする。と終了のホイッスルが鳴りました。

試合終了後、腕組みし静まり返る甲府のゴール裏が映し出されました。アナウンサーは「(熊本が)互角以上の展開を演じた」と評し、解説者も「(熊本にとって)次の試合、果ては来季にも繋がる試合だった。これから伸び率のあるチームだ」と賞賛しました。思えば08年の甲府との初アウェー試合。小森田の得点で一矢報いたものの、結果3-1で圧勝された。あのときの解説者は、まるでわれわれのチームに“お説教”のような指摘を嫌というほど繰り返しました。J1を経験してきたばかりの降格チームが、昇格したばかりのチームを見下すようなおせっかいな言及。あの日の屈辱。もしかしたらあの日のあの解説者と同じ人ではなかったろうかとも思うのです。

何度も挑み、何度も跳ね返された続けた“甲府”という壁。それはアルプスにそびえ立つ難壁のようであり。その強さにおののき、自らとの力の差を少しでも縮めようと目標にしてきたチームとも言えるでしょう。初めての対戦では、幸運が味方して“金星”を得た。しかしその後は、圧倒的な力で捻じ伏せられ、対戦ごとに力の差が身に沁みた。対戦するごとに一歩、また一歩とにじり寄ったつもりでも、跳ね返され続けた。今日、あと一歩というところまで追い詰め、肝胆寒からしめた。けれども勝ちきることは叶わなかった。

あの日のエントリーで書いたのは「しかし、こんな“悔しさ”もホームチームがあればこそ。」という(その頃のお決まりの)台詞でした。しかし今日は、前節も書いたとおり「悔しさの“質”が違う。」その言葉がまた浮かんできました。難壁。いつか必ずこの手で征服してやると。

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