10月23日(土) 2010 J2リーグ戦 第31節
柏 0 - 0 熊本 (16:04/柏/8,141人)


「人間として、アスリートとして俺がリスペクトする南雄太だから。だからこそおまえから絶対ゴールを奪う。俺の全戦闘力を持って、倒しにいく」。戦前、自身のブログでそう書いていた北嶋秀朗。その「南雄太へ」と題するエントリーが、逆にフラグになったのでしょうか。開始直後に迎えた、この試合最大のチャンス。一本のパスでDFの裏を取った北嶋でしたが、「飛び出してくるタイミングも身体を置く場所も距離もキーパーのベストポジションだった」という南の前に、ボール一個分、右に外してしまう。そしてその後も何度もあったシュートチャンスに、最後まで旧友・南の守るゴールマウスを割ることができませんでした。

深まる秋を感じさせる柏の空の下、スタンド一面黄色に染まる日立台。この歴史ある専用球技場のピッチに再び立つ南雄太。今はアウェーチームの守護神として。

コイントスでエンドの交換を求めた熊本。南が柏の選手たちのなかを、なにやら言葉を交わし、あるいはタッチしながらゴールに向うと、びっしりと埋まった柏ゴール裏からも盛大な拍手の渦。これに手を上げて応える南。「“いつも前半こんな感じでプレーしてたなぁ”って感じて、ロアッソでは自分だけだと思いますが正直、全くアウェイな感じがしなくて変な感じでした(笑)」(ブログ)と。皮肉なことに、この黄色に染まったスタジアムが南にいつもより以上の、神懸ったような力を与えてくれる結果になりました。

柏 (先発フォーメーション)
17林 9北嶋
18田中14大津
7大谷20茨田
22橋本25村上
3近藤6パク ドンヒョク
 21菅野 

熊本 (先発フォーメーション)
32カレン10松橋
 27ファビオ 
33片山11宇留野
30渡辺22吉井
6福王2ソンジン
 19堤 
 18南 

前回対戦のときは、まるで自分達の今の力を試すようにガチンコ勝負を挑んだ熊本・高木監督でしたが、今回は「守備に徹してカウンターで点を取ること、もしくはセットプレーで点を取る」というプランを選択しました。そこには天皇杯での鹿島との戦い、あるいは前節守りきられた徳島の戦い方が脳裏にイメージとしてあったのではないでしょうか。そして、矢野を欠くDFラインは、中央に堤、右ソンジン、左福王という3バック。それは前回対戦時の後半に奏功したシステムであり、前節、柏に土をつけた大分も敷いていたフォーメーション。勝機を狙っていました。

柏は、レアンドロ・ドミンゲスを出場停止で欠く反面、大津が怪我から復帰という好材料もありました。その大津を起点にして攻め込む柏。セカンドも拾われ波状攻撃を受けますが、跳ね返し続ける。北嶋と林の2トップに対しては3人のDFがスペースを与えず、玉際厳しく執拗に競り続ける。

ようやく18分頃から熊本にもチャンスが巡ってくるようになります。今日はトップ下に入ったファビオがボールを奪うと、渡辺から右に上がってくる松橋に。松橋45度のシュートは惜しくも枠の左。23分には右奥、松橋がクロスを入れると市立船橋高で北嶋の5年後輩のカレンのダイレクトボレー。抑えの効いたシュートはしかしキーパー正面でセーブされました。

さらに、柏は大谷から縦にパス。受けた大津がエリア内で切り替えて打つ。近距離からのシュートは南が弾き飛ばす。「シュート練習に付き合ってくれた南さんに恩を返したい」と語っていた大津に、「まだまだ」とでも言っているかのような南の反射的なセーブ。36分にはクリアボールを拾った田中が右に回りなおしてグラウンダーで入れる。ゴール前、林のシュートは、これも南が片手で弾き出しました。

サイドではSHとボランチが挟んで潰す、中は3バックが通させない。最後は南が立ちはだかる。奪っては鋭くカウンター。ある意味、熊本の狙い通りの形ができつつありました。これに対して後半、敵将・ネルシーニョ監督が策を打ってきます。田中と大津をやや中に絞らせることで熊本のサイドのスペースを柏SBに使わせる。FWは出入りを繰り返しつつ、ときに落ちてクサビになる。さらに大津がダイアゴナルな動きを加えることで、3バックのマークを絞らせない。知将が仕掛けた巧妙な戦術的“罠”は、熊本の体力を消耗させると同時に、その知力をも試そうというものでした。もちろん、これまでも単に跳ね返していただけではない熊本でしたが、さらに考えながら守り、攻める必要がありました。その局面は、まさに“我慢くらべ”といった様相を帯びてきます。

ただ、崩れそうになる瀬戸際も、柏のここぞというところでのパスミスに救われる。あるいはクロスボールの質がいまひとつ。度重なるアーリークロスにもソンジンが身体を寄せて自由にヘッドを打たせない。51分にはカレンが宇留野のパスに右サイドを抜けてエリアに侵入。角度のないところから打ちましたが、枠の左に抜けていきました。

柏は田中を下げて、U-21のFW工藤を投入。さらには林を諦めホジェル。それに対して熊本は運動量の落ちた宇留野に代えて西。代わったばかりのホジェルが、左でもらうと強引にミドルを放つ。これは間一髪か、あるいは予測の範囲だったのか、南が横っ飛びでクリア。81分にはロングボールをホジェルが落として、走りこんだ北嶋。左足で撃ったシュートはサイドネット。熊本もカレンが右へ流れて、上がってきた吉井に出す。吉井のグラウンダーのミドルは左に反れる。

後半途中に南が攣った足をケアする時間があったことで、アディッショナルタイムは6分という長めのものになりました。それは柏にとっても熊本にとっても、勝ち点3をとるための得点1を奪うには十分な時間だと言えました。

柏の攻撃を潰した福王が、ここぞとばかりにロングフィード。西が一騎で左サイドを粘り中央に入れる。しかし走り込んだカレンには一歩追いつけないタイミングの早いパスでした。今度は柏が北嶋から途中出場の小林にはたくとダイレクトでクロスを入れる。ゴール前の大津のシュートは決定的でしたがまたもや南がセーブします。激しい攻防。奪い奪われ、最後の力を振り絞るように反転する両軍。ホイッスルが鳴った瞬間、柏の選手の多くがピッチに倒れ込みました。勝ち点3を奪えなかった悔しさなのか、攻め続け消耗しきったためなのか…。

終わってみれば柏のシュート数は21本。しかし堅固な守備システムで戦った熊本。最後までゴールを割らせませんでした。ただそこには、圧倒的にポゼッションされてはいるものの、完全に引いて篭るという戦術イメージではなく、潰したら、どこからでも一気にカウンターに持っていくんだという明確で強い意志、戦略がありました。ゴールまで一直線で持っていくイメージを常に全員が共有しながら網を張っているような。だからこそ最後まで、その戦術的“意志”が揺らぐことも緩むこともなかった。そして実際に幾度も相手ゴールを脅かしました。柏と同様、熊本にも、あれが入っていれば、というシーンがいくつもありました。勝てはしなかったものの、勝ち点1をもぎ取った。そして、「最短なら次節で優勝」という柏の計算をみごとに狂わせた。試合後の高木監督が、どこかしら満足気な笑みに見えたのはわれわれの思い過ごしでしょうか。ゴール裏が繰り返した「ロアッソ熊本!ロアッソ熊本!」というチャントは、「よく頑張った!」という声に聴こえました。

試合後、わざわざ柏のゴール裏まで行ってお辞儀をする南に、再び大きな拍手が送られました。そして帰り際、シジマールを始め多くの柏スタッフとも互いの健闘を称えあう。クールダウンする姿に、いつまでも柏の子ども達から「ユータ!ユータ!」と声が飛ぶ。試合前にはゴール裏のコールリーダーが、南の応援歌だった「太陽に吠えろ」のテーマをアカペラで歌い、相変わらずのユーモアで煽る。この試合、柏の攻撃を完封に抑えた熊本のヒーローは、このピッチで12年間という長い長い時を過ごした、柏というチームそのものだった男でした。ほんとに愛された選手だったんだなぁと実感する。われわれが知らないその長い時間を、なんだか“嫉妬”してしまいそうです。

後半途中で珍しく足を攣ったことをブログで「アドレナリンが出すぎちゃって」と恥ずかしがった南。「また来年?再来年?かわかりませんが、いつかまた日立台でプレーするのを心の底から楽しみにしています」と書きました。北嶋は先制のチャンスを棒に振ったことを悔やみつつ、「相手のGKが改めて良いGKだと思った」とコメントしました。そんな北嶋に南は「この2、3年お互い紆余曲折、色んな状況があったけど、またこうして同じピッチで敵としてだけど戦えた事を誇りに思う」と。「また必ず試合しようなっ!」と。「次も絶対0に抑えるから」と。そうエールを贈りました。

ブログの最後を「ロアッソ熊本 南雄太」と締めくくった南。絶対J1に上がろう。この南と一緒に。われわれに改めてそう強く感じさせてくれた、そんな男の在り様を見た思いです。


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