10月31日(日) 2010 J2リーグ戦 第32節
熊本 2 - 0 鳥栖 (13:03/水前寺/5,398人)
得点者:71' 宇留野純(熊本)、82' 片山奨典(熊本)

「負けるべくして負けたということだと思います」。試合後の鳥栖・松本監督のコメント。われわれも尊敬してやまない名将が完敗を認めた試合。だから、というわけではないし、異論もあるかも知れませんが、この試合、われわれは今シーズンのここまでのなかでベストのゲームだったと言い切りたいと思っています。それは、守備の構築を第一義に置いた今年の高木ロアッソの、ある意味、完成型を見たような思いがするからです。いうなればゾーンディフェンス。全員が連動してコンパクトな陣形のままボールに対して移動する。90分間、一瞬も途切れることのなかった戦術的な意図の共有、ポジション、運動量…。そして得られた2つのゴールも、その前の守備段階のプレーから生まれたチャンスだった。そんなふうに思えるからでもあります。

曇り空から晴れ間に転じた水前寺競技場。出足が悪かったスタンドも、キックオフ直前には老若男女の赤い姿で埋まっていきました。一方のスカイブルーのレプリカは、ゴール裏から少しはみ出している。この隣町のように一番近いチームとの“バトルオブ九州”という名の戦い。第1クールでは長い長いロスタイムの一瞬に追いつかれた。あの敗戦にも似た苦い、悔しい気持ちをしっかりと覚えています。

松橋を累積警告で欠く熊本は、カレンとファビオの2トップ。そしてボランチには久々に原田が先発。SHの片山との共存はありえないのかと徳島戦のエントリーで書きましたが、われわれの思いもかなって、レフティ同士の競演になりました。

熊本 (先発フォーメーション)
27ファビオ 32カレン
33片山11宇留野
8原田22吉井
19堤24筑城
6福王2ソンジン
 18南 

鳥栖 (先発フォーメーション)
 9豊田 
 7山瀬 
24柳澤25早坂
30黒木14朴
3磯崎11田中
5飯尾2木谷
 21室 

開始早々、キック&ラッシュの熊本。ファビオとカレンが押し込んでいく。前節・柏戦の守備的な戦いのストレスから解き放たれたようなアグレッシブな動きに映りましたが、しかし全体のバランスは崩さない。前線から積極的にプレスを掛けるのにも、2列目、3列目が連動している。両SBを高く上げるのではなく、DFライン自体を押し上げてコンパクトに保ちました。そんななかでファビオの守備。GKへのバックパスを追い込んだファビオ。GKのキックに体当たり。はね返ったボールがあわやとバーをかすめ、鳥栖のゴールに吸い込まれそうになる。場内を沸かせます。

鳥栖は豊田をポストに使う。豊田が受けに下がると、空いたスペースに山瀬あるいは早坂が入ってくる。これには、先刻承知のように福王とソンジンがうまく受け渡し、フリーにさせない。13分、今日のCKのキッカーは原田。グラウンダーでマイナスに出すと、中央から片山がミドルで狙う。惜しくも枠を外れますが、「今日の役割はフィニッシャーだ」とばかりに、片山の積極性を感じさせる最初のシュートでした。

鳥栖の中央突破は決して通させない。早坂が右から切れ込んでPアーク付近からシュートを放つも南がセーブ。豊田のミドルレンジからのシュートにも南。前節の柏戦に比べればこの程度。といった感じなのか南。しかし、“打たせるな!”とでも言っているのか、DF陣に向かって激しい言葉でコーチング。山瀬が左サイドをドリブルで上がり、勢いのままシュート。低い弾道でしたがわずかに枠の上。

熊本は右サイドで詰まったところ、吉井から出されたパスに原田が思い切りよくシュートを放つも枠外。今度はカウンター、原田が前線に送る。宇留野が見事な胸トラップでDFに競り勝ちPエリアに侵入。すばやく撃ちましたがわずかにバーの上を越えていきました。

両者、攻守の切り替えの早い展開。確かに互角の戦いにも見え、どちらにもチャンスがありましたが、ただ一点、熊本のDFの裏は一切使われていない。一方の鳥栖はDFラインの押し上げがきかず中盤との間にスペースが生まれてきている。それが後半の展開への“分水嶺”とも言えたのではないでしょうか。

鳥栖は急造ボランチコンビの連携に難があったのかも知れません。この日、初先発の強化指定選手・黒木は大津高3年時、選手権出場を吉田率いるルーテルに阻まれた世代。そんな後輩とマッチアップした原田が、後ろから削ってイエローを貰う一幕も。しかし、徐々に徐々に、熊本の圧力、出足の速さに、半歩、一歩と遅れをとるようになってきたのは鳥栖の方でした。

後半、宇留野と片山が、鳥栖のバイタルエリアを脅かし始める。特に片山は、左サイドを捨てたかのように思い切り中に絞っている。“何で片山がここにいるの?”というくらい。対峙している鳥栖の右SB田中は、同じように今季途中まで横浜FCでプレーした元同僚。敵としての再会。熟知した相手に対する巧妙な心理的駆け引きもあったのでしょうか。対峙する相手を失ったとき田中が困惑するのを狙ったのか。あるいはリスクを承知で、右サイドに数的優位を作れという指示だったのか。あるいは両SHが実に流動的だった柏の攻撃に触発されたのか。大きなサイドチェンジを宇留野が落としたボール、貰った片山が右サイドから切れ込んで思い切って中央で撃つ。これはわずかにバーの上。それにしても積極的。躍動感すら感じられる。

カレンに代えて西。ファビオのちょっと下に入る。ファビオが落とすボールに西を飛び込ませる、そんな戦術変更かと思われた選手交代の直後でした。鳥栖の丁度バイタルエリアに落とされたボール。勇気を持って一歩早く頭から飛んだ吉井に、アフターぎみに足から入った朴がファールをとられます。運・不運。しかし吉井の球際の闘志が呼び込んだチャンス。Pアーク付近から少し右の位置でのFK。片山と一度ずらして原田が蹴ったボールは、壁に当たってGK側にこぼれる。西が蹴りこむ。GKがはじく。今度は宇留野。これも当たり損ないのキック。逆にこれにはGKも反応できず。宇留野の1週遅れのバースディゴールで、熊本が先制しました。

鳥栖はもうリスクを犯して前に出てくるしかない。山瀬に代えてキム・ホナム。豊田に代えて萬代。しかし一向に熊本の守備を崩せない。決して引いて守っているわけではない、熊本の“システム”を。

そして熊本の追加点。まさしく連動した守備から反転しての得点。ファビオのチェイスに慌てたGKが左サイドへパス。サイドの選手がキープミスしたところを筑城が見逃さず、奪ってすぐに中央片山へ。片山は朴を交わすとゴールを向いて迷わず左足を振り抜いた。今日、ここまで何度も狙い続けたミドル。ゴール左上角に突き刺さった片山の熊本移籍後初ゴールは、実は自身J2初ゴールだったらしい。しかしそれは紛れもなく、チームの勝利を確信させる大きな大きな追加点でした。歓喜に包まれたスタンド。赤いタオルマフラーがぐるぐると回される。チームのみんなにもみくちゃにされる片山。放出されるような形で横浜をあとにした。熊本に、今季一番最後に加入した選手が、もうしっかり溶け込んでいる。欠くべかざる選手になっている。とても嬉しいシーンでした。

さて、そう言えば…、今日はいつもより攻撃参加を控えた感のある筑城と堤。しかし、しっかりとした対人への強さを見せて完封に貢献しました。原田が中盤で落ち着かせたり、ときに急がせたりとタクトを振る。その分、吉井も役割がシンプルになり、敵の攻撃の芽を次々に潰し持ち味を十分に発揮しました。

あの“走る”鳥栖を走らせず、裏のスペースを使わせるどころかPエリアには(裏を取られては)誰一人も入れていないのではないでしょうか。まさしく「システム的守備からの勝利」を見たような気がします。ハーフタイムを挟んで連続した90分間のなかで、守る局面、攻める局面に区切りはなく連続している。2つの得点は決して偶然ではなく必然。攻めとったというより、守った結果、“もたらされた”得点だったと見えました。「我慢し続けたことがよかったと思う」。ヒーローインタビューの宇留野のコメントも、そのあたりのことを言っているように思えました。でも、それは実はこの試合だけのことではなく、これまでの長いシーズン、ひとつの戦術を追い求め、ブレずに戦ってきたことから自然に出てきた言葉かも、などというのはわれわれだけの深読みでしょうか…。

手応えを感じている。試合後の高木監督の笑みにはそう感じるものがありました。「向こうのビルドアップの特徴を伝えて、そこをうまく把握しながら選手達は理解したのかなと思います」。試合後のそのコメントに、この試合へのスカウティングと戦術の全てが込められていました。一方、松本監督は、冒頭の完敗の発言とともに、その原因に選手たちのパスミスを挙げ、嘆いてみせました。しかし、それは決して原因ではなく、熊本の敷いた見事なゾーンプレスにはまってしまった結果だったということを、名将は百も承知なのだと思います。

この勝利で7位を死守したわが熊本。次節は休みとなりますが、8位との勝ち点差を5に広げたため順位の変動を心配せずゆっくり休めそうです。われわれの思うこのベストゲームの余韻も、たっぷり2週間楽しめる。何度もビデオで確かめたいと思います。

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