11月28日(日) 2010 J2リーグ戦 第37節
熊本 3 - 0 北九州 (13:04/熊本/11,048人)
得点者:50' カレンロバート(熊本)、53' カレンロバート(熊本)、85' 西弘則(熊本)


開場してもなかなか前に進まない入場を待つ長蛇の列を見ながら、「隔世の感があるね」とつぶやいたのは、AC熊本の前社長・前田さんでした。「前田さんには特別な席が用意されてるんじゃないんですか?」と尋ねると、「あんなところでサッカーを観るのはまっぴら御免」と笑っていました。多くのファンがこんなに早く足を運んだのは、ロッソ時代からの選手OBとユースとの前座試合見たさでもあり、ホーム最終戦ということでもあり、そして何よりも藤田俊哉の赤いユニフォーム姿は今日が見納めという、どうしようもない突き動かされるものがあったからでした。こうして、今日のコンセプト「絆DAY~過去と今、そして未来へ~」という言葉どおりの一日がはじまりました。

熊 本
27ファビオ 10松橋
23西13大迫
8原田22吉井
19堤24筑城
6福王16矢野
 18南 

北九州
25大島 17中嶋
27多田11宮川
10佐野8日高
7冨士6佐藤
4長野26小森田
 31船津 

北九州のGK。見慣れないなと思ったらロッソ初年度に数ヶ月間だけ在籍した船津でした。北九州に移籍して5年。しかしながら出場機会には恵まれないまま、つい先日、契約満了が発表されたばかり。そしてこれもまた皮肉なめぐり合わせなのか、今日が彼のJリーグデビュー戦になってしまいました。当然、この試合に期するところがあったのでしょう、その意地が爆発します。開始早々、熊本が得たFK。原田のキックはファーポスト付近に落ちる絶妙のボール。この難しいワンバウンドの処理を無難にこなしたプレーが船津に落ち着きをもたらしたのでしょうか。バイタル付近に落ちるルーズボールを西が奪ってDF裏に放り込むと、松橋がダイレクトにシュート。これにも好反応し片手でクリア。このプレーで完全に今日の“当たり”を得た船津、前半の終盤には、吉井のグラウンダーの強烈なミドルも横っ飛びでセーブします。

今日も序盤からファビオの豊富な運動量とキープ力で、小森田をCBに置いた北九州の急造DFラインをジリジリと下げさせるものの、なかなか決定機を決めきれない熊本、徐々にアタッキングサードで手こずり始めます。途中、ファビオが痛んでカレンと交代。終了間際には宮川のクロスに、ゴール前中央に入り込んだ大島に低いヘッドをフリーで撃たれるも、幸いなことにポストの左。南も反応できず見送るしかなかった危ない場面でした。

この危うい膠着状態を打ち破ったのは、アクシデントによる早めの交代で時間を得たカレンでした。後半開始早々の50分、原田のミドルがこぼれるところ、しつこくセカンドボールを拾った熊本は、筑城がPエリア右に回り込んでエンドラインギリギリから上げると、カレンが中央ややファー寄りから頭できっちり捉えて先制点を上げました。「カレンがそこに入っていると思っていた」「きっと和さんが上げると思っていた」。カレンと周りの選手の呼吸が、ようやく“阿吽”で合ってきた、そんな連携を感じさせるプレーでした。

さらに先制点の興奮も冷めない53分、北九州のCKをセーブした南が中盤の大迫に低く早く出してカウンター。カレンから原田へ、さらに左を駆け上がった堤に渡ると、堤は中央を猛然とダッシュしてきたカレンに折り返す。これを右足で狙いダイレクトにゴール右角に突き刺す。カレンの連続弾で2点先行。スタジアムは、待ち侘びたエースの爆発に大歓声。タオルマフラーがぐるぐると回されます。

「点を取ったら選手みんなが喜んでくれた。心配してくれていたんだなと…。」(29日付・熊日)と言うカレン。それはチームメイトやファンが待望していた“結果”だったのはもちろんですが、磐田時代から可愛がってもらった藤田のラストゲーム、勝利で花を添えたい、絶対に負けるわけにはいかない、そんな思いがこもったゴールのようでもあり、われわれも感極まります。さぁ、あとは藤田。藤田からのパスでカレンのハットトリックが見たい。スタジアムに詰め掛けた誰もがそんな気持ちで藤田の登場を待っていました。

2点を取った熊本に、ややルーズさが見え始め、北九州がタチコや長谷川の投入で、しぶとく熊本陣内に攻め込み、好機をつくりはじめます。そして後半も30分を過ぎた頃。まさにその時間帯。藤田が投入されました。今年の高木サッカーが標榜した“残り15分から戦えるチーム”。それを自ら体現し、その使命を全うしてきた男。カレンをワントップで残し、トップ下に入った藤田。バイタルエリアでのボール回しからPエリア内に入るも、上がってきた堤を使う。やはりチームプレーに徹している。最後までこの男はそんな奴なんだなと…。

今のこの時間、その一瞬を、プレーのひとつひとつを目に焼き付けておこうと思いました。この男が赤いユニフォームで走る姿を。状況を落ち着かせ、あるときはタメを作り、あるときはワンタッチで切り裂くプレーを。昨シーズン、名門ヴェルディとの初対戦。2点先行されたあとの前半終了間際に決めたヘディングでのゴール。「下を向くのはまだ早い」とばかりに、その後の大逆転劇の口火となった。あるいは昨年第二クールのアウェイ湘南戦。藤田のゼロトップで見せた西とのパス交換。解説の三浦俊也氏を唸らせ、ピッチサイドの名波を喜ばせ、敵将・反町監督の心胆を寒からしめた。昨季は51試合のうちの50試合出場して鉄人ぶりを見せた。今季も途中投入ながら、ピッチ上の指揮官としてチームを鼓舞し、指示を飛ばし、敵の前に立ちはだかった。今、目の前を走りまわる藤田俊哉に、そんなこれまでの姿が次々と重なり、甦ってくる。ゴールを決めたときも控えめにガッツポーズし、どんな惨めな負け試合のあとも、最後までファンに手を振ることを忘れなかった姿を。われわれは決して忘れることができない。こんなすごい選手が熊本の一員としてわれわれの前にいたことを。残された時間はたった15分足らず。この日ばかりはロスタイムが何分あってもいい。試合が終わらなければいい。何とも言い難い名残惜しい時間でした。

85分には再びカウンター。藤田を起点に左のカレンにボールが渡る。単身で切り込むカレン。Pエリア内で一人交わすと中に折り返す。中央に走り込んだ西のシュートはGK船津が触るもののこぼれてゴールマウスを割る。試合を決定づける3点目。後は、ただただ時計だけが進んでいく。そして長い長い笛が吹かれる。あとで見たスカパー!!の録画で、山崎アナが「藤田は札幌には帯同しない」と言っていたのを聞き、あの笛が、藤田俊哉との別れの笛だったことを知りました。

初冬の冷たい風に震えながらも、スタンドには別れを惜しむたくさんのファンがセレモニーを待ちました。昨年以上に、このセレモニーにも残る人が増えてきたようです。自ら入場者の列の整理に汗をかいていたという岡社長が、今は社長本来の仕事として挨拶に立つ。ほんとにこのクラブは、一体となったファミリーのようなクラブだ。

山下、松岡、井畑、山内、渡辺。契約満了を告げられた選手達のそれぞれの想いのこもった挨拶のあと、藤田がマイクの前に立つ。それはいつものように回りに気を使った言葉に終始し、この決断にどんな葛藤があったのかは伺い知れませんでした。ただ前週に放送されたRKKのインタビューでは「もう少し若ければ高木さんのもとで、ポジションを掴む戦いに臨んだのだが」「これから可能性のあるクラブなだけに」思い悩んだということを吐露しました。

クラブは藤田に来年もオファーを出しました。年俸などの条件とは別に、今後指導者としての道を歩むためのバックアップ体制も提示したのだと聞きます。それは藤田俊哉が選手としてだけでなく、ひとりのサッカー人としてこのクラブにもたらしたものの大きさ、また日本のサッカー界にとっても大切な人材であることを示すものでしょう。今後もこの新興クラブを引っ張る先導者であり続けてほしいと。しかし現役にもこだわる藤田の今現在の気持ちとは少しギャップがあったのかもしれない。また、熊本へ来るときにも相当の葛藤材料になった「家族と離れての単身赴任」ということも、この機会に再び浮かび上がったに違いない。われわれはそう推察しています。ただ、一度たどり着いた決心が揺らぐことはなかったでしょう。そして岡山戦後のオフの日、球磨の藤田社長を自ら訪ねて、きちんと決意を伝えたそうです。そんな律儀さもなんとも彼らしい。だからこそ誰からも愛され、尊敬されるのでしょう。

思えば熊本という田舎の新参クラブが藤田俊哉に巡り会えたことは、今でも“奇跡”という他に言いようのないようなものだったのかも知れません。ほんの短いわずか2年間の出来事、でもそれはわれわれにとって夢のような歳月でした。この男がわれわれのチーム、われわれのクラブにもたらしたものは計り知れない。われわれのクラブの歴史に刻み込まれた至福の2年。何よりわれわれファンの記憶に深く深く刻み込まれました。

当たり前のことながら出会いがあれば、別れがある。多くのものを貰ったわれわれですが、願わくば、もしこの熊本での経験が、サッカー人・藤田俊哉の人生に少なからぬ何かをもたらしたとするなら、それこそわれわれにとって大きな喜びと言えるものです。ありがとうございました、藤田選手。あなたのこれからのサッカー人生と、われわれのクラブの未来と、またいつか出会い、重なるときが必ずくるでしょう。それはピッチの上での敵味方なのか、あるいはもっと別の立場なのか。その日を楽しみに、ひとまず今日は心からのお別れを言いたいと思います。

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