このオフシーズンのJリーグ。特にJ1の契約満了者が例年になく多いせいか、移籍市場が落ち着かず、わがクラブの発表も契約更新を含めて遅れがちのような気がします。そんななか、早々とオファーを出していた元日本代表FW・柳沢については断念し、横浜FCからGK岩丸の獲得、柏から武富の期限付き移籍、そして昨日今日、南を始めてとして多くの契約更新が発表されました。南については、誰もが認める今年の躍進の立役者だっただけに、また、一方で今オフも他チームからのオファーの話があったやに聞いていただけに、まずはホッと胸を撫で下ろした次第です。

さて、年の瀬も押し迫ったこの時期。例年、表題のように「わがクラブが今季積み上げたもの」を振り返るというのが恒例行事ではありますが。これもすでに熊日を始め各媒体で繰り返し企画されており、また、その内容にも多くの人が異論のないところだろうと思われ、改めてテーマにすべきか迷ったところです。しかし、結果的には同じようなことを書くことになりますが、後々われわれ自身が見返すときの2010年シーズンの備忘録になればとも思い、書き留めておこうと思います。

まずはチームとして今年積み上げたものから。“積み上げたもの”、ということでいくとやはり“昨シーズンと比べて”の視点ということでしょうが、長いシーズンを戦い終えた今では、昨シーズンというのが、とても遠いものになっていて…。さて昨年のオフシーズン、われわれを驚かせたのは、高木琢也氏の新監督就任人事。この横浜FCをJ1昇格に導いたこともあるこの若き指揮官が、最初に着手したのは守備の再構築でした。攻撃に偏重し、まるで二人のCBとGK任せともいえた昨年の守備を、高木監督は組織的に連動して守ることでその三人にかかる負担を減らしました。福王、矢野の成長ももちろんありましたが、新加入の筑城が執拗なまでに1対1の強さを示し、市村が怪我で長期離脱の穴はレッズからレンタルの堤とともにサイドを埋めました。シーズン序盤は、どうしても後ろに意識がいきがちでしたが、終盤は積極的な攻撃参加が目立ち始め、リーグ初得点もマークしました。

しかし、その守備の再構築に最も貢献した、軸となったといえるのは、新守護神・南の存在だったでしょう。最後列からの的確な指示は守備ラインに安心感を与え、最後の最後はビッグセーブでゴールマウスを死守する。南が危ないところを防いで勝ちを拾った試合が何度もありました。また、南はピッチ内外でも選手たちの精神的リーダーのようでした。「ここの選手たちは“昇格”という言葉を使わない」と南が嘆いたように、これまでの歩みのなかでごく自然に身についてしまった“下位の潜在意識”“弱小のメンタル”。これを粘り強く一枚、一枚剥がしていってくれたのも南の功績ではなかったでしょうか。「勝つことの喜びを感じた一年」。シーズンを振り返った福王の言葉が如実に物語っているように思います。

もうひとつ高木監督が目指していた「攻守の切り替えの速さ」も、シーズン終盤になってチーム全体が機能するようになりました。一概に高木熊本は引いて守ると言われがちですが、実はそうではないとわれわれは思っています。監督が常々言っているようにサッカーには攻める局面と守る局面、そして当然、攻めから守りに切り替わる局面、守りから攻めに転じる局面がある。その切り替えの局面をいかに速くできるかというのが高木監督の考え方であり、現代サッカーがすべからく目指すところです。まず、攻から守への切り替えの速さは、シーズン当初の段階から目を見張るものがありました。ただ、守から攻への切り替えに関しては、例えば福岡との第2戦での松橋の2点目、あるいはホーム最終・北九州戦でのカレンの2点目などに現れてはいますが、まだ攻撃に転じる際のパスミスや関与する人数の厚みに関して不満が残ります。特に両ボランチに関しては今季得点ゼロが表しているように、守備に比重を置くあまり、攻撃への関与が少なかった気がします。

いずれにしても勝敗を分けたのは、ハードワークが出来るかどうかという基本的なことではなかったでしょうか。それに関してはまだまだチームとして試合ごとに波がありましたね。そしてシーズン中のレポートでも書いたとおり、追いつかれて残念ながら引き分けとした試合が多かったし、先制されても必ず逆転する“凄み”のような強さにはまだ至らなかった。そういう意味でまだまだ“強者のメンタリティー”は身についていないし、高木監督が当初標榜した「残り15分に走り勝つ力」という目標は、さらに来季に持ち越されたと言ってもいいかも知れません。オフが明けたらさらに厳しい“走る”トレーニングが待っていることでしょう。

ただJ昇格後、クラブとして初めて明確に示した「10位以内」という順位目標に対して、最終的には7位という地位を確保しました。それも一度も10位を下回ることなく。連敗が一度だけという、安定した(崩れなかった)戦いぶりだったということでしょう。これはシーズン前の準備、シーズン中のマネジメント、そして、相当に厚くなった選手層がもたらしたものでしょう。一時は3位という高い位置からリーグを眺め、終盤に至るまで昇格圏内を覗いていた。この事実、この経験は、わがクラブ、われわれファンにとってもかけがえのないものになりました。J1昇格が“夢物語”ではなく、十分に可能性のあるもの、手が届くものとして現実的に考えられる。言葉として言える。多くのファンもそんな意識の変化を感じた節目のような年でした。

堤、片山、カレン(それにファビオも)など、シーズン途中から加入した選手が、それぞれスタメンに名を連ね、力を発揮し、選手層を厚くしたのも今季の特筆すべき点ではなかったでしょうか。獲得までの経緯はそれぞれに違うものの、プレースタイルに特徴を持った彼らが、起用のオプションを増やし、戦術の幅を広げ、またチームの息切れを防いだことは間違いありません。これまでは他チームが途中補強を行うのをただ見ているしかなかった熊本。そしてこれは資金的な問題で実行できたと言うより、新しく招いた飯田氏、清川ヘッドを始めとした新スタッフの、池谷GMや高木監督を補佐する働きが寄与していたのではないかと。表立っては見えませんが、昨年までとは大きく違う展開ではないだろうかと見ています。現場、フロント全体が組織として機能し始めたような印象を受けたところですね。

さらにクラブとしては、県が県民運動公園の優先的使用と交流施設(クラブハウス)建設のプランを示してくれたことも大きな前進でした。それは今季のこの好成績によるところばかりでなく、日ごろから地道に続けているサッカー教室や施設慰問などの地域貢献も評価されてのことだと思われます。そういう意味では選手たちだけでなく、スタッフを含めたクラブ全員の労苦に拍手を送りたいと思うのです。

シーズン半ば、リーグ当局は昇格圏を伺うJ2の数チームに対して財政調査と指導を行ったと聞きます。J1昇格のためには、成績面だけでなくクラブ財政に関しても一定の条件があります。そして、福岡とともにわが熊本も可能性としてその対象に選ばれた。その後直ちに、クラブは債務超過解消のための増資を呼びかけました。6000万円という額はまだ目標には至っていないものの、そうして一歩一歩、環境を整え、基礎体力を蓄えるという作業も進んでいる。こんな厳しい経済環境下、増資に応じていただいた企業の篤志にも大いに感謝の拍手を送りたいものです。

チームとしてもクラブとしても、そんな多くの前進があったこの1年でした。以前、「薄紙を一枚一枚重ねるような」と表現した頃からすれば、今年積み上げたものはまた格別の厚みを感じます。ただ同時に、もし「南を始めとした主力選手が移籍してしまったら…」「成長してきた若い選手が引き抜かれたら…」という不安が胸をよぎるのも確かでした。どちらかと言えば足し算ばかりだったこれまでと違って、これからは引き算もあるかも知れない。それはわれわれにとっても全く新しい感覚でした。「毎年毎年、波がさらっていく海辺に作り続ける砂の城だ」と、J2の中位からなかなか抜け出せないどこかのサポーターが嘆いてみせたシニカルな例え話に似て。それもリーグの上位を臨めばこその意識変化なのでしょうが、そんな悪循環、負のスパイラルは構造的でもあり、逃れようのない一面も持っています。まだまだと足踏みをしているとわれわれもハマってしまいかねない。夢の扉に手が掛ったら、一気に突き破る。そんな勢いやチームを取り囲む全体の意識の“切り替えの速さ”も必要なのかもしれませんね。


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