5月14日(土) 2011 J2リーグ戦 第12節
水戸 0 - 0 熊本 (13:05/Ksスタ/2,694人)


引き分けドローの試合は、往々にして評価が分かれるものですが、今日の試合に限って言えば「勝てなかった」というより「負けなくてよかった」という気持ちのほうが強いようです。「見た目は我々の方が押しているけど、実際にゲームをコントロールしているのは水戸さんだった」と言う試合後の高木監督には、若い頃から苦楽を共にした敵将・柱谷へのリスペクトと多少のリップサービスが含まれているのかも知れませんが…。しかし、今日のような展開、昨年までの熊本だったら、最後の時間帯に(攻めるにしても、守るにしても)こらえきれず失点してしまっていた。そんな試合をドローに持ち込んだことに関しては、一定の評価が出来ると思いました。しかし同時に、昇格戦線を覗くリーグ戦のなかで、勝ち点1しか奪えなかった結果に関しては悔しくて、残念で仕方がない。この結果は結果として呑み込んでしまわなければならない。今はそんな心境です。

試合前、熊本のファンやサポーターに代わってアルデラス代表から、5月4日と8日の熊本のホームゲームにおいて実施した東日本大震災復興支援の募金活動「水戸のホームゲームに茨城、水戸の地域の皆さんを招待するための募金活動」で集まった募金の贈呈セレモニーが行われたようです。この日のケーズデンキスタジアムも、危険性のあるメインスタンドは封鎖され、まだゴール裏の一部には陥没箇所があるようでした。まさに“被災地”でることを感じさせます。感謝の気持ちを込めた水戸サポーターからの「ロアッソ熊本」コール。そしてそれに応えるように熊本ゴール裏からも「FC水戸」コール。わがクラブが標榜する「絆」がチームの垣根を越えて結ばれた瞬間のようで、胸が熱くなりました。しかし同時に、あの等々力競技場での川崎の「煽りビデオ」にあったように、懸命に勝ち点3を取りに行くことが、対戦チームとして最も大事なミッションなんだとも思いました。

財政難もあってか、水戸は昨年以上に若返りを図っている。大卒1、2年目を中心としたスタメン構成。最後尾にベテランGK本間がどっしりと控える。なんだか、JFL時代に大学チームを相手にしたときのやり難さを思い出させる。

水 戸
13岡本 11常盤
22小幡7小池
8村田6西岡
3保崎2岡田
20塩谷5加藤
 1本間 

熊 本
9長沢 30仲間
23根占14武富
8原田5エジミウソン
2チョ・ソンジン15市村
16矢野4廣井
 18南 

この日、日本中の各会場を襲った強風。それを追い風にして、前半は熊本がやや優位に試合を進めます。開始早々、右サイドで何度も拾いなおすとクロスを入れる。近距離からの武富のシュートをGK本間が横っ飛びで防ぎますが、反対サイドにこぼれたボールに今度は長沢が詰めてダイレクトで打つ。決定的でしたが、DFにブロックされてしまいます。

熊本は市村が何度も上がって攻撃を形づくる。水戸も左SBの保崎を使う。同サイドで崩しあうような展開が続きます。保崎が奥まで抉って上げたクロスには、熊本のDFラインがきっちり跳ね返しますが、熊本の攻撃もバイタルで長沢のポストプレーまでは行くものの、裏をとる局面では堅くブロックされてしまう。エリア内ではうまく足元に収まらず、フィニッシュに至る前に詰められる。そんなもどかしさのあった30分頃、左から右に回して市村が打つ。DFに当たったこぼれ球を拾った武富がループ気味にコントロールしたシュートは、惜しくもバーを越えていきました。

後半の15分、あるいは仲間に代えてファビオを入れてからの25分まで。前半を含めたこの時間帯までに先制点が取れなかったことが、今日の試合を難しいものにしてしまいました。もちろんこの時間帯にも、武富の絶妙のクロスにファーの根占が合っていれば。あるいは、右サイドでファビオ、根占と作り直して、市村のクロスに長沢のヘッディングシュートと、惜しい場面があったのですが、水戸もFKから長身DF加藤の頭が触れば1点ものという場面を作ります。とにかくスカパー解説の加藤久さんが言うように「水戸もやられたら、必ずやり返すことが出来ている」。易々と主導権は渡さないぞというしぶとさを見せます。

後半、熊本に向かい風となるはずだった強風が、ピタリと止んでしまったことは幸いでしたが、その代わり照り返すピッチ上の気温がどんどん上がっていったように見えました。試合後の水戸の選手たちが口々に匂わせているように、水戸は後半熊本の足が止まり始めるのを見越して走り勝つ、一発撃ち込んでノックアウトするという戦略だったのでしょう。ハーフタイムでの柱谷監督の「どこかでスプリントをかけるタイミング」という言葉が表すように。熊本はこの罠にまんまと嵌ってしまうところでした。プレッシングが甘くなり、中盤にスペースが出来始める。テレビ画面越しに聞こえる「ここから!ここから!」と選手を鼓舞するピッチサイドの声は、高木監督のものだと思われました。

2枚代えで入った遠藤と小澤がかき回す。熊本も片山、宇留野と入れて活性化を図ります。もはや1点を争う展開に。徐々に水戸のチャンスの数が上回ってくる。決定的なピンチだったのは84分頃。南からのキックを、水戸が中盤ヘッドで跳ね返すと、岡本が頭で反らして前掛かりだった熊本DFの裏を取る。途中投入の島田が右サイドをドリブルで持ち込むと、ブロックに入った矢野を交わしてクロス。島田の対応にGK南もつり出され、無人になったゴールにFW岡田が打ち込むだけ。絶体絶命のこのシーンに立ちはだかったのはソンジン。ヘッドでなんとかクリアします。胸を撫で下ろした瞬間でした。

残り5分は、まるで最終ラウンドを戦うボクサーのように必死の“打ち合い”になりました。最後の力を振って攻め、さらにそれを上回る力を振り絞ったディフェンス。アディショナルタイムには熊本が連続してCKのチャンス。しかし、遂に押し込むことができないまま、無念のホイッスルが鳴り響きました。

試合の結果とデータだけを見て、熊本の決定力を嘆く向きも多いかも知れません。しかし決定力を確率論の結果として見るわれわれは、この日作った好機の数が、それほど多くはなかったことを課題としてとらえたいと思います。それも“崩し切った”という質的にみた好機という意味で。むしろ高木監督から目からは、柱谷監督の術中に嵌ったと言えるような展開でもありました。現役選手の頃から闘将と呼ばれた柱谷氏。われわれはどちらかと言うと、その頃から、まるでマムシのような狡猾な恐ろしさを感じていましたが…。

試合が終わるなり、人目をはばからず号泣するFW岡田。ソンジンに阻まれ、幻となった決勝点に対する自責の念からなのでしょう。途中負傷して、頭には包帯を巻いている。それでなくても泥臭いプレーを連発していました。熱いものを持っている男なのだなと。熱い想いがこの試合に向わせていたのだと。

加藤久さんは「柱谷監督が引き継いだときの状況からすれば、よくここまで作ってきたなと思う」と述べました。いい監督とは、戦術家であると同時に、モチベーターでなければならないとは、いつかこのブログでも書いたような気がします。高木監督も稀代のモチベーターだと言われていますが、この柱谷監督も相当なものです。

まんまと柱谷監督の戦術に嵌るところだった試合。それを跳ね返すだけの“力”と、そしてなによりも“熱さ”。そんな底力がいつの間にかわれわれのチームにも備わっていたことを、「一定の評価」と表現しました。また、勝ちきれなかったと表現してしまえば同じですが、同じドローでも今日は選手たちに拍手を送れる引き分けでした。たくさんの“変数”のなかで戦っていくリーグ戦のなかで、昨シーズンとりこぼした引き分けの内容とは、全く違った印象を持ちました。それに、スコアレスといえどもこんな手に汗握る熱い試合、ナイスゲームであったと。「柱谷、侮るなかれ」。試合後にがっちり握手し、健闘を称えあった高木監督も、次の対戦での決着に期するものがあるはずです。


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