5月21日(土) 2011 J2リーグ戦 第13節
熊本 1 - 1 千葉 (13:04/水前寺/4,349人)
得点者:3' 竹内彬(千葉)、24' 長沢駿(熊本)


最近、というか高木監督が就任してから特に、試合後の監督コメントを読んで、この戦術家がその試合に臨んだスカウティングやゲームプランを、素人分析ながらもあれこれと推測することが、われわれの楽しみのひとつになってきていますが…。今節は特に「ほぼパーフェクトなゲームができた」とまで言わしめた。とびっきりのビッグワードです。これはもう当然、その言葉の真意を測らざるを得ませんよね。

もちろん勝ち点差4で迎えた首位チームとの直接対決は、序盤戦での大一番といえました。その重要性のなかで、相当のモチベーションで準備したのだろうし、結果引き分けで終わったものの、あの千葉の本来のスピード、オートマティズムをほぼ完璧に封じた。高木監督としてはよほど会心の戦術的ゲームだったのでしょう。

熊 本
9長沢30仲間
 27ファビオ 
7片山23根占
 5エジミウソン 
8原田15市村
16矢野4廣井
 18南 

千 葉
 8オーロイ 
 11米倉 
9深井14太田
20伊藤7佐藤
2坂本13山口
5ミリガン3竹内
 1岡本 

立ち上がりの失点は、まだなにも熊本の攻撃の形がつくれていない時間でした。FC東京戦で見せたミリガンのロングスローには十分警戒していたはずなのですが。一度は跳ね返すも、二度目のスローイン。204センチのオーロイにはぴったり身体を寄せていたものの、ファーに入り込んだ竹内への対応に甘さがあって。ダイレクトボレーがゴールに突き刺さります。これがロングスローの脅威。もはやハンドボールやバスケットボールのような感覚。異種競技のような空中戦でした。

しかし、千葉の脅威は、このサイドスローからの失点と、後半佐藤が放ったループがバーに嫌われて事なきを得た場面ぐらいではなかったでしょうか。千葉にフィニッシュまで持ち込まれるシーンは数少なく、それほど戦術が“はまった”ということなのでしょう。逆に「立ち上がりに早く失点した」ことが、「後の時間のほうが重要ということで、そういう意味ではメンタル的にもそんなにダメージなく続けられた」と言う指揮官。千葉のこの先制点が、得意の(しかも監督いわく“規格外の”)セットプレーからだったこともあるのでしょう。きっぱりと切り替えると、“流れ”のなかでの守りに関して、集中力を切らすことはありませんでした。スタンドのわれわれですら、はっきりと感じられた熊本の勢い。徐々に主導権を握り、攻撃の形を増やしていく。

前日の熊日の予想フォーメーションに驚いていたとおり、原田が左SBに入りました。大きなサイドチェンジで、右サイドから市村の攻撃性を生かす意味があったのは、誰の目にも明らかですが、福王を失ってからこのかた、最後列からの長いボールを入れる選手がいなくなっていたこともあるのでは。ソンジンが努めていた左SBのころから、根占が中に絞ることによって上がる市村の位置はもはや一列前といってもいいくらいで、変則的な3バックともとれました。原田には上下動の動きを求めるのではなく、あくまで左奥からの攻撃の起点、配球の役割を求めているような。熊本に加入直後もこのポジションを努めていた時期がありましたが、あの頃は“そこしか使うところがない(でも使いたい)”といういわば“消去法的”なポジションではなかったかと。今回は“そこで(あえて)使いたい”という戦術的な掛け算がありました。

一方で片山には、これまで以上に積極的に仕掛けていくことを指示してあったと思います。左の奥から斜め、また斜めにサイドを大きく使った攻撃。特に右SBが一方的に攻撃に参加する右サイド偏重の攻撃パターンは、完全に左右非対称型といえましたが、片山の動きもあって、千葉の守備陣を揺さぶり続けるのに十分でした。

その市村が起点になっての同点弾。一度跳ね返された攻撃を作りなおして、市村が早めにクロスを入れる。エリアに押し込まれたミリガンのクリアが小さい。長沢の足元にこぼれたところを一閃。ゴールの左角に蹴り込みました。トラップからシュートまで一連の動作の速さ。長沢の“巧さ”が光りました。

オーロイには、矢野と廣井が身体を寄せて、ほとんど仕事をさせませんでしたね。確かにその高さは異次元の脅威でした。さらに問題は、その高さで反らされたボールに2列目、3列目が飛び込んで来る攻撃にある。それを指揮官も要注意としていました。しかし、高さで反らすボールには、なかなか確実性が伴わないのも事実。(どちらかと言うとわれわれは、前半にオーロイが見せた胸トラップが、まるでラグビーのモールを作るような形になって、2列目の選手が飛び出してきたシーンを脅威に感じましたが。)かえって、千葉の攻撃をオーロイの頭狙いの単調なものに絞り込む(もちろん、そこにはCB二人のどちらかが身体をきっちり寄せる)という戦術だったのだとしたら、そこはさすがなのかなと。北欧の巨人は、この日の30度を越す暑さのなかで、後半から“溶けて”いくように存在感が薄れていきました。

スカパー解説の池ノ上氏も言っていましたが、今日の千葉は4-2-3-1というフォーメーションを、頑なとも見える律儀さで崩そうとしない。右の人間は右、左は左のまま。後ろからサイドを追い越す動きもあまり見られません。バランスを崩さないともいえますが、ある意味昨年まであった流動性やオートマチックな速攻の脅威は感じられませんでしたね。

その律儀なバランスに対してがっぷり四つでは力負けしかねない。そこを揺さぶるために、その圧力をかわすような非対称型のサイドを大きく使った攻撃。守っては連動した前線からの守備で、ワントップのオーロイ頼みのロングボールに絞らせる。そのあたり、敵の攻撃をオーロイの頭だけに絞らせたところあたりが、高木監督に「ほぼパーフェクト」と言わしめた自身のスカウティングと選手たちのパフォーマンスだったのではないでしょうか。

一方のドワイト監督は、「ファビオ選手への対応がうまくできていなくて」後半ファンゲッセルを入れたあたり、事前のスカウティング不足は否めませんでしたね。もちろん、その的確な修正から(熊本の足が止まり始めたこともありますが)攻勢に転じてきたのは、さすがに千葉の底力という感じもしましたが。

今季のファビオ選手のパフォーマンスには、色々な声がありますが、ドワイトに限らず敵将からの評価は高い(嫌がられている)。今日のような空中戦も交えた現代サッカーを見ていて、ふと思いました。彼の1.5列目の起用は、旧来型のタイプのプレーを求めているのではないのだと。シャドーストライカーという言葉がありますが、いわば“高さのシャドー”とでも言うような…。長身を2トップに置いたツインタワーという戦術のチームは、他にもありますが、ファビオの使われ方はちょっと違う。それは、長沢がいわば仲間と同じように、裏に飛び出すこともできるし、もちろんファビオも出来るから。要するに二人とも速さもあって足技もうまいということ。そこがワントップ、オーロイの使われ方、中盤への降りてき方とは完全に違うところ。だから1.5列目なのだろうし、試合中はほぼ流動的なのだと。ときは“エジミウソンのシャドー”としても効いている。うまく表現できないわれわれのこの仮説ですが、確信が持てるまでもう少しこの布陣を見守っていきたいと思いました。

さて、昨年と同じような状況で、同じような時期に迎えた首位チームとの直接対戦。昨年の柏戦のときも「今の自分たちの実力を測るうえで格好の物差しになる」とわれわれは書きました。しかし、昨年の柏とは互いの物差しの目盛り自体に大きな差があったのも事実です。精度の高い柏の物差しに対して、こちらのものは小学生が使う30センチ物差しのようなというとあんまりでしょうか。しかし、今日のこの千葉との戦いでは、互いの物差しの単位は全く違わなかった。われわれの物差しの精度も、ミリ単位以上に精密になってきたような。

千葉との第一戦は、偶然ですが昨年(開幕戦)と同じように1対1の引き分けとなりました。その昨シーズン、後半戦では0-2での完封負けでした。しかし、今シーズンはそうはさせない。もちろんドワイト監督も今度はしっかりとスカウティングしてくるでしょうし、われわれにはまた“決勝点となる追加点”という宿題が残されたままですが。さて決着をつける次の戦い。互いの順位関係はどうなっているのか。昇格を争う立場でのしびれる状況になっているかも知れない。いやそうであってほしい。そう思うとワクワクします。

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