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5月27日(日) 2012 J2リーグ戦 第16節
熊本 2 - 1 山形 (16:03/熊本/3,248人)
得点者:12' 萬代宏樹(山形)、13' 武富孝介(熊本)、45'+1 武富孝介(熊本)


発表された先発陣は、前日の熊日の予想フォーメーションと同じものでした。確かにここ最近は途中出場で前線に投入されていたものの、本来DF登録の高橋の先発FW起用。シャドーには武富に加え、これもMFが本職の西森。いかにも急造感の漂う3トップ。「うーん、ここまできたか」。それはチーム事情もあれば、悩める指揮官の迷いにも感じられ、「さあ戦おう」というようなものとはちょっと遠い気持ちでゲームを待ちました。

山形戦

「山形は大人のチーム」(スカパー!)「例えば斜めのランニングとかクロスという部分で、いいボールを配給されて、いい攻撃のシーンを作られてしまう」(J's goal)と高木監督がスカウティングしていた通り、左サイドを攻め上がった石川が、中央で潰れ役になった中島、山崎を越えてファーにクロスを送ると、走りこんだ萬代にフリーで打たれる。いとも簡単に、シンプルに失点してしまいます。立ち上がりのこの脱力感さえ感じる失点シーン。時間にして12分。スタジアム全体に靄がかかったような、ドロンとした空気。相手は首位の山形。これまたスタジアムの誰もが、前節・千葉戦の悪夢を思い出していたに違いないでしょう。

しかし、そんな空気を一掃させたのは、わずか1分後の武富でした。右サイドから前を向いた高橋の素早いスルーパスに、ニアに飛び込んでわずかなGKとゴールポストの隙間を流し込む。

「正直、入りもあんまり良くなかったし、ちぐはぐな感じで失点してしまったんですけど、今日はタケ(武富)がすぐ取り返してくれたのがデカかった」というのはゲームキャプテンの廣井。0-1のビハインドの状態が続いていれば、選手も、ファンもその空気の重さに押しつぶされていたかもしれない。記念すべきこのホーム100点目のゴールは、おそらくシーズンを振り返ってのベストゴールのひとつ。そして、チームを救ったゴールに数えられることは間違いないでしょう。それほどの価値を感じました。

この同点劇で、落ち着きを取り戻した熊本。しっかりセットして前からの守備が機能し始める。バイタルエリアもきっちり埋めて山形に使わせない。前線でのチェイスから、中盤まで降りてボールに触る回数の多い西森。上下に激しく動いている。山形の要注意選手、ボランチの宮阪のまわりで、彼を自由にさせない。なるほど、どちらかと言うと前目の守備的な意味が、西森に課せられた役割だったのかも知れません。

互いに五分五分かと思われる展開。同点のままで前半も終了かと思われたアディショナルタイム。右サイドで西森とのワンツーで抜け出した高橋が深くえぐりクロスを入れる。そこにたった1枚で走りこんでいたのは、またしても武富。DFとGKに挟まれそうになりながらも、一瞬早く触って、ゴールに押し込みました。

その瞬間、総立ちのスタジアム。タオルマフラーを持っている人は皆、グルグルと回して歓喜を表現する。「武富オーレ!武富オーレ!」のチャントと共に。「先週取れなかった分を取り返そうという気持ちでいっぱいだった」と本人が言うまでもなく、これまでの鬱憤を晴らすかのようにスタンド中のファンがマフラーをいつまでも回し続けました。

コンコースですれ違う皆が、「よし!」という喜びの表情。しかし、もうすでに後半の45分に思いをいたし、その長い時間を“守れるか”、いや“守りきるぞ”と意思を固めたに違いない。それほど、勝利も、得点からさえも遠ざかっていたわがチームでしたから。

本当は、いえ当然後半も、攻めに出てくる相手を堅く守りながら追加点で突き放すという戦略だったでしょう。大事な開始15分をなんとか凌いだ熊本。しかし、この日から急激に暑さを増した天候のせいか、運動量が落ちてきた。カウンターへのサポートが遅れる。跳ね返してブロックをセットしなおすのがやっとという状況に陥ります。

西森から大迫、片山から市村、高橋からクンシクという交代カードは、どれもこれも高木監督の“攻め”の意思表示と見えました。しかし山形の猛攻の前に、押し戻せない。ほとんど熊本陣内での攻防で時間が進む。苦しい。1点差を守りきることが、こんなに苦しかったのか。勝ち点3を奪うということは、こんなに苦しいことだったのか。AT4分という時間は、これほど長いものだったのかと。

「後半はホントに守備練習みたいになってしまいましたけど、そういう状況でも皆が集中してくれて、皆が頑張ってくれたと思います」と言う岩丸。一方的な展開になった後半45分を守りぬいた。その頑張り。少なくとも2点は止めた。

殊勲は武富ですが、この日忘れてはならないもう一人のヒーローは、アシスト2つを記録した高橋だというのは誰しも異論のないところでしょう。試合後は痛々しいような消耗ぶりだった。タテにもワイドにも非常に幅広い動きをしていた。そして、空中戦にも。そのヘディングの強さ。ほぼ制圧していました。

FWとしての初先発。練習はしているといっても、かかる重圧は相当なものだったではないでしょうか。高橋が単に、トップ、ターゲットとしての機能だけでなく動いたこと。前の3人が流動的だったこと。そしてセレッソや神戸時代にSBも経験していたことが、あの絶妙なラストパスを生んだのだと思います。

敵将・奥野監督は「熊本さんがこの1週間、またはこれまでトレーニングを積まれてきた形が表現されていたんじゃないかなと。ですから的確にボールの出どころの芽を摘むのと同時に、コンパクトな守備をされていたんだという印象を持っています」と言う。振り返れば、あまりにあっさりと先制してしまった、という感じが山形に”災い”したのかも知れないなと。逆に、比較的自由にボールを持たせてくれた。これは何なんだろうというくらいにプレッシャーがなかった。後半、なりふり構わないブロック守備を徹底した熊本。この暑さのなか、結果的に最後までなんとか動けたのも、そのおかげがあったかも知れないと感じました。

非常に厳しいと予想していた上位3チームとの対戦で勝ち点4。今節に限って言えば10戦負けなしで首位を走っていた山形にストップをかけた。これまで一方的に分が悪かった山形に初勝利をもぎ取ったのですから、これは金星と表現しても過言ではないのではないかと。

ただ、前節、相当悲観的なことを書きましたが、まだその心境はあまり変わっていません。「今日勝ったことは素直に喜んで、次の横浜FC戦に向けてもしっかりやらないと同じ過ちを繰り返してしまう可能性もあるし、次にしっかり勝ってこそ今日のゲームになると思います」。そう言う吉井の言葉どおり。

折りしも、北嶋秀朗選手の柏からの移籍というビッグニュースが発表され、主将・藤本や南の回復も期待される。もちろん、それはとても待ち遠しい、明るい材料であることに違いありません。ただ一方でわれわれは、今、出場機会を得ているメンバーが、それまでに勝ち点を積み上げてくれることを何より望んでいます。今日のこの布陣が、単なるフロックではないと証明してくれることを。決して先発の座は渡さないぞという覚悟で。そうやって切磋琢磨し、刺激しあってこそ、層の厚いチームになると思うからです。

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